昔、銭湯帰りの姉さんの石鹸の香りに気を取られ、チャリンコですっ転んだ思い出。
魔法道具製作者を仲間に入れたい俺と、錬金術師と共に美容業界に革命を起こしたいリリス。
ウチのクラン加入の1つの枠を巡り、激戦を繰り返す仲良し双子ウィザード。
実はクランに加入するのは別にあと2人でも3人でも構わないんだけど、当然俺達はそんな事に気づいていない。
そんな俺達の前に現れたのは、家賃滞納で(恐らく)住居兼店舗から追い出され路上で(恐らく)不動産屋さんに取り縋る、期待の大型新人だった。
なんかもう、此処までの時点でダメな感じしかしないんだけど、通りかかったし目的の人物があの有様だし、つーか見ちゃったし。
見なかった事にするには、ちょっと同情しすぎちゃってるんだよなぁ……あのオジサンに。
オッサンの哀愁を見過ごすのはツラい、そんな俺です。
あれ? ちょっと今思い出したんだけど、俺、パルマーさんに相談して無くね?
まあ、良いか。
困りきった顔のヒョロヒゲさん(仮)は近づく俺に気づいて腕組みを解く。
まあ、仮面
「
……なんて?
俺の後ろでなんか3人程吹き出した気配が有るんだけど?
てか、狂犬ってなぁに? 前も若い衛兵にそんな呼ばれ方したなぁ、そう言えば。
「悪いけど、狂犬なんて名乗った事、無いんだけども……リリスクランのクランマスター、イリスだよ」
「えっ、あっ、これは失礼しました、てっきり
すっごい素直に謝るヒョロヒゲさん。
すっごい素直な人なんだろうなあ。
でもね、狂犬なんての、ただの陰口とか悪口の
「いや、まあ、それは良いんだけど……その、
取り敢えず、すぐ切れそうな人だとか思われてそうなのがツラい。
なに狂犬って。
ていうか誰? そんな変な仇名で呼び始めた奴。
「はあ、それはその、申し訳ないとは思うのですが……」
ホントに悪い事してる自覚故か、縮こまってしまうヒョロヒゲさん。
……俺に萎縮してるとか無いよね?
大丈夫だよね? まだ狂犬扱いしてるのかな?
いい加減しつこい?
いやだって、狂犬だよ? よりによって。
言われてみ? 結構
「いや、まあ仕事なのは判るから、なんかごめんなさい」
こっちはこっちでどんどん元気が無くなる。
もうね、すごい勢いでテンション下がるよこれ……甘いお菓子食べたい……。
気持ちを何とか持ち直して、会話再会。
取り敢えず、3人で落ち着いて、荷物も往来の邪魔にならないように、お店……「元」レイニー・フランセスカちゃんのお店だったその店先に纏めて置く。
「あー、えーっと、改めまして、リリスクランのマスター、イリスです」
2回も同じ自己紹介って、なんか間抜けだなあ。
そう思っていると、ヒョロヒゲさんがこちらに頭を下げる。
「ヘンリー不動産の、エドモンドと申します。……あの、失礼ですが、イリス様というと、最近まで『リリス』様であった、あの……?」
エドモンド⁉ そのヒョロいガタイでエドモンド⁉
っていうか、なに、
……って今、ヘンリー不動産って言った⁉
怒涛のツッコミポイント3連発に溺れそうになりながら、何とか衝動を押さえて答える。
頑張ってるよ俺!
「ええ、まあ、
そう言って、ちらりと視線を、というか仮面を向ける先には、
……今思ったけどさ? 俺、仮面つけてたら、リリスって名乗ってもバレないんじゃないの?
「社長の娘さんの事、聞いています。本当に、有難うございます」
深々と頭を下げられる。
ヘンリーさんの薫陶厚い、っていうのかなあ。
この人もまた、誠実そうで、むしろ心苦しくなる。
「いや、やめてくれ……うん、それよりも」
その話はどうしても俺が暗くなっちゃうの。
話題を変えようと、俺は一度咳払いを挟んで口を開く。
「なんで家賃滞納なんて事になったの……?」
俺が視線を向けると、レイニーちゃんはしゅんとして小さくなる。
「その……仕事がなくって……」
……気まずいなぁ。
何がどうして仕事が無いのか、とか、聞かないと不味いよなあ。
このままだとただ追い出されただけ、エドモンドさんも家賃の回収出来ずに終わり、誰も幸せにならない。
「んー。仕事、宛ては有ったの?」
俺の質問に、レイニーちゃんは俯いてしまって答えられない。
まあ、仕事の宛てと言うか、少なくともこんな事になるとは思って無かった、ってトコじゃないかな。
「錬金術を習って、魔法工学も習って、画期的な魔道具造ろうって……がんばって仕事して、有名になって、って」
小さくぶつぶつと呟くのは、見ていた甘い夢の跡。
俺はエドモンドさんに顔を向ける。
「……魔道具制作とか、錬金術師とかって、一般的に店を持ってるとか、そういう物なんです?」
俺の疑問を受けて、エドモンドさんは顎に手を添えて考え込む。
「個人で店を持つとなると、普通はパトロンを掴んでから、だと思います。そうでなければ有名な製作者なり術士に弟子入りして、勉強しながら実力をつけて、師匠の推薦で店を出すとか、そういう方法ですかね」
ふむ。
では、レイニーちゃんはどうなのか?
「私は、独学です。でも、ちゃんと実力は有るんです!」
俺の視線の先で、地面を見ながら、
「うん、でも、その実力をどうやって証明してきたの?」
この質問には、黙り込んでしまう。
何でも出来る、そういう自信はあったんだろう。
だけど、その自信は誰かの目に触れさせなければ意味がない。
結果が出なければ、誰も信じてくれないのだ。
「じゃあ、別の質問なんだけどさ。レイニーちゃん、石鹸作れる?」
じゃあ、自信を持てる結果を作れば、問題ないね?
俺の質問に反応して顔を上げるが、その顔は不貞腐れているかのような
「馬鹿にしてます? 石鹸なんて、材料さえ有れば目を瞑ってても」
うん、だろうねえ、そんな反応だと思ったんだ。
でもね?
「石鹸を液状化する事は?」
俺の質問に、レイニーちゃんは動きを止める。
「それも、泡立ちは今の石鹸の比にならないレベルで」
どれだけ
「その石鹸に、甘い、花のような香りを付ける事は? 香水ほど強くなく、洗い流してから仄かに香るような」
想像が追いついていない所に畳み掛ける。
横で聞いていたエドモンドさんも、いつの間にか
「……そんなの……作れないわ。見たことも聞いたこともないもの」
レイニーちゃんは唇を噛む。
己の非力さを突きつけられた、と思っているのかも知れないけど、ちょっと違うぞ?
俺は、最初から作れるなんて思っちゃ居ない。
気になるのは、いずれ作れるかどうか、それだけだ。
「でも、石鹸自体は有るし、そこまで
顔が上がり、俺に向けられる。
悔しさやこの先をまだ見通せない暗さは有るが、その目に興味の灯が灯っている。
「ふうん? 根拠は?」
ちょっと意地悪く、突き放すような態度で質問する。
これで突き崩されるような子なら、そんな目は出来ないだろう?
「無いわ! でも、受け売りだけど私の信念よ! 人の想像するものは、必ず実現できる!」
根拠無し、そんな言葉に説得力なんて無い。
だけど、良いじゃないの。
勢いだけで突っ走る、そんなモン若くなきゃ出来ないからね。
我武者羅大いに結構、頑張れ若人。
俺も見た目は変わらないって?
俺の後ろで、タイラーくんが頭を振っているのが判る。
はっはっはっ、俺の
俺は楽しげに笑いながら、仮面を外す。
女の子を口説くなら、仮面は着けてちゃイカンよな。
「レイニーちゃん。ウチのクランに来ないかい? 作って欲しいのは、石鹸だけじゃない。ちょいと洒落にならん程忙しくなる予定だけど、どうだい?」
今度はぽかんとして、レイニーちゃんは俺の素顔を見上げる。
「給料は出来高制、住む場所と工房は用意出来る。食事も大丈夫。なんなら俺達と同行すればだけど、酒だって飲める」
至れり
良いことばかりじゃ無いんだぜ?
「エドモンドさん、レイニーちゃんの家賃の滞納額は、幾らだい?」
咄嗟に返事が出来ないレイニーちゃんを一旦放置して、エドモンドさんに話を振る。
「えっ、ああ、ええと、銀貨で月80枚で、3ヶ月分ですので、金貨2枚と銀貨40枚ですね」
ふむ。月16万くらいか……思い切ったね……。
ホントはこういうのは良くない、判ってるんだけど。
ウチの将来の収入源として、かつ、リリスをちょっとでも元気に出来るなら。
うん、どこまでも自分本位。
決して善行なんかじゃないね。
「エドモントさん。この子の滞納分、俺が払うよ。その上でウチで引き取らせて貰う。……まぁ、本人が嫌がるなら諦めるけどね」
言いながら、俺は金貨を5枚取り出し、エドモンドさんに手渡す。
「え? あの、えっ⁉ これは多すぎます、幾ら何でも」
言いかけるエドモンドさんの顔の前に手を翳し言葉を遮る。
失礼でごめん。
「ヘンリーさんには恩が有るんだ、それにこの子を引き取るのはウチのクランの為でね。単純に俺のわがままなんだ、付き合って貰えないかな?」
照れくさくて思わず笑ってしまうが、本心だからしょうがない。
エドモンドさんが俺の顔見てぽかんとしてるのは、単純に呆れてるんだろうなぁ。
結果的にはエドモンドさんには寧ろお礼を言われ、レイニーちゃんにはその場でアイテムボックスを渡して荷物を仕舞わせる。
自分の店、というのに執着はアリアリの様子だったが、追い出されて見知らぬ他人に
うーん、このまま屋敷に戻って話でも良いけど、まず間違いなく身構えられるし、変に追い込んで
経営者とかには、俺はなれんなぁ。
なんでクラマスなんてやらされてんだ、俺?
そんな事を思いつつ、俺達は冒険者ギルドのバーへ。
賑やかだけどあの雰囲気で、酒でも飲めば嫌も応も言い易かろうと、そんな魂胆だ。
それでもしも、断られたらどうするのかって?
そりゃもう仕方がない、縁がなかったと諦めるさ。
ん?
損するのが俺だけなら、まあ良いんじゃないのかな?
幸い、今ならまだ余裕有る訳だし。
そんな事言ってる間に本日2度めのバーで御座います。
今更だけど、此処、こんなテーブル並べて
バーって酒だけ出すイメージだったけど、うん、まあ良いか。
酒樽の妖精さんはホント、いつ仕事してるんだろう。
お互い様とは言え、不思議である。
早速同じテーブルに誘われたが、商談だって事で今回だけは遠慮してもらう。
遠慮しろっ
ベテラン冒険者の余裕でヘラヘラ笑いながら、なんか俺の話なぞ聞きゃしねえ。
そうこうしてるうちに熊さんまで寄って来たよ、なんだよ、
そんなつもりは無かったのに、
ウチの簡単な説明からの流れで、俺が今作って欲しい物、先にも話した液体石鹸の話を改めてする。
無論、作って欲しいのはこれだけでは無いのだが、何処に将来の同業者が紛れているか判らない。
こんなオープン過ぎるスペースでそんな話をするつもりはないよ。
え? さっきは道端で詳しく話してたろう、って?
聞こえんなぁ?
「とりあえず、そんな感じの新しい石鹸を、開発して欲しいのさ」
ちなみに、俺は此処では「さっき話した液体石鹸を作ってくれ」と、大まかな事しか言ってない。
それがどんな物か、具体的には想像が難しいんじゃないかな、そもそもそんな石鹸の実物が、現状無いんだし。
「で、作れたら、そこから販路とか色々考える訳だけどね。まずは商品を作ってから、何なら商業区に店用の建物借りても良いし」
従業員とか色々考えるの面倒だけど、変な商会を通したりしたくないのよねぇ。
まあ、商売出来そうだと判断したら、まずは領主様のとこに相談に行って、商会通さずに売れる方法を模索してくるけどさ。
使えるコネは使って行かないとね。
「……正直……出来るとは、思うんです」
答える内容の割に、口調が重いなぁ。
どしたの?
「何か、気になる事でも?」
俺が不思議そうな顔で問い掛けると、レイニーちゃんは内心の不安そのまま、と言う表情を俺に向ける。
「なんで、こんなに世話を焼いてくれるんです? 現状で言えば、悔しいけど、私は実績も無くて、家賃も払えずに追い出されるような女ですよ?」
不安で不審。
そりゃまあ、そんな気分にもなるよ。
「本当に、私の能力を必要としてるんですか? 別の目的が有るとか、そういう事は無いんですか?」
まあ、普通に考えて。
身請けの
だけどね?
「そんなつもりなら、俺、此処につれて
俺はカラカラと笑って、何故か俺の隣に座っているハンスさんを指差す。
それでも不審げで不思議そうな視線を向けてくるレイニーちゃんに、俺ではなくハンスさんが口を開く。
「此処は冒険者ギルドで、俺は此処の
言いながら、ハンスさんは自分のギルドカードをレイニーちゃんに向けて提示する。
ギルドカードは偽造禁止、記載情報は虚偽出来ない。
……魔法らしいので、例によって理屈は知らぬ。
魔法って便利よね!
「そういう事なんだ。俺は誰もが指差して笑う程度の
そういう訳で、俺ではなくハンスさんは信用出来ると判断したらしいレイニーちゃん。
それは問題無いし、寧ろ良いんだけど。
ちょっとでも緊張を和らげようと
何でだよ、俺、嘘言ってないよな?
「この子が喋るとどんどん胡散臭くなるから、私からもお願いするわ」
見兼ねたらしいリリスが口を開く。
待って?
胡散臭いとか酷いよね?
「ウチのクランとしては、資金源を確保して置きたいの。冒険者としての
仮面を外し、にっこりと微笑む。
リリスさん、そんな流れるように話せるんなら、もっと
「レイニーちゃんは錬金術師で、魔道具制作もしてるんだよね? さっき言った石鹸の他に、商品のネタは幾つか有って、それにはどっちの技術者も必要なんだ」
リリスの後を受ける形で、俺も同じ様に仮面を外し、再び口を開く。
俺の言葉に混じった「技術者」という単語に、レイニーちゃんが少し強めの反応を見せる。
ふむ?
「だから、俺達を利用して、君の知識と技術者としての手腕を好き勝手に発揮して欲しい。ついでに、俺達の依頼に応えてくれれば良いよ」
技術者とか、こっちではあんまり聞かない単語だったけど、その響きがプライドを擽ったんだろうか?
新しい何かを始める、この世界では耳慣れない職種?
ちょっとさっきの反応が嬉しそうに見えたので、もう一回台詞に織り交ぜてみよう。
そんな事を考えてドヤる俺の顔には、レイニーちゃんだけでなく、テーブルに着いている全員の不審げな視線が刺さる刺さる。
やめて、顔無くなっちゃう。
「あー、判った、判りました! お金出して貰ったし、此処最近ちゃんと食べてないからお
レイニーちゃんは色々考えていた様子だが、
ちょっと
「そこは任せといてよ。此処も最近は
俺が言ってる
それに乗っかって、グスタフさんやタイラーくんもなんか頼んでるし。
良いけどお前らはちゃんと払えよ?
さり気なくウチの料理人すげえアピールのタイミングを逃し、なんとも釈然としない俺の視界では、レイニーちゃんがウェイトレスさんにオーダーしている。
吹っ切れたのかどうか微妙だけど、今はそれなり楽しむと開き直ったらしい。
良いねぇ、なにはともあれ、まずは食わなきゃ生きられないからね。
常々疑問なんだけど、ハンスさんは昼からあんなに呑んで、なんで
そりゃまあ、見た目酔ってるようには見えないけどさ、絶対マズいと思うんだよなぁ。
そんな事を考えつつ、俺とリリスはレイニーちゃんを連れて屋敷へ。
多分予想してた建物よりちょっぴり大きかったらしく、しばらく屋敷を見上げて居た所へ、ウチの子供達6人が玄関から転がり出てくる。
「イリス姉ちゃん、おかえり!」
「お土産は⁉」
「ちょっとフレッド、その前におかえりなさいでしょ!」
わいわいと騒がしい子供に囲まれ困り切る俺が、レイニーちゃんには面白かったらしい。
クスクス笑うレイニーちゃんが子供達に挨拶し、子供達も次々と自己紹介。
子供が元気で笑っているのは大きな安心材料になってくれたのかね。
屋敷に入った所で静かに待っててくれたヘレネちゃんに、休憩してお菓子を子供達と食べる様に、ただし食べすぎないように言い含めて手渡す。
ちょっとソワソワしているので、ヘレネちゃんも楽しみにしているらしい。
うんうん、かわいいねぇ、雇って良かったねぇ。
「子供達、みんな元気だね……」
ヘレネちゃんに着いてリビングの方へ去っていく子供達を見送るレイニーちゃんの顔は、さっきまでより穏やかになっていた。
俺の信用云々は兎も角、レイニーちゃんをどう元気づけるか悩んでいたんだけど、その辺の仕事は全部子供達が片付けてくれたらしいね。
そんなレイニーちゃんの希望を聞きながら屋敷の中を案内し、やっぱり部屋は2階が良いと言う事で、本人に適当に選ばせる。
現在、ウチで生活しているのは12名。
ヘレネちゃんとウォルターくん、グイくんギイちゃんの4名は1階を希望している。
2階はレイニーちゃんが一部屋押さえて都合9部屋が埋まり、それでもまだ部屋数には余裕が。
これ、埋まることは有るんだろうか?
まあ、余裕が有るくらいで良いか、客間にも使えるし。
むしろ、今のうちに2~3部屋くらいは客室として手入れしといた
うーん、タイラーくん辺りに相談しとこう。
そのタイラーくんはバーに残っている。
ハンスさんやグスタフさんと難しい話、なんて事はなく、単に呑んでいるだけだ。
今日は新しい仲間も居る事だし、食事くらいはウチで済ませたい。
なんせウォルターくんが張り切っているからね。
タイラーくんとジェシカさんは、早めに迎えに行くとしよう。
そんな事を考えていたら部屋から飛び出してきたレイニーちゃんに飛びつかれる。
幽霊でも出たのかとワクワクしたがそうではなく、工房が欲しいという相談。
確かにそういう話はしてたけど、急に飛びつかれるとびっくりするから、ちょっと落ち着いて行動しようね?
自室の近くが良いか聞いてみたが、資材の搬入とかの兼ね合いで、1階が良いらしい。
1階だと奥、表向きの角部屋が空いている。
ヘンリーさんトコに相談して、その部屋に玄関扉を設置できないか聞いてみよう、と思い付きのまま言えば、レイニーちゃんに拝まれる始末。
やめて、まだ話は終わってないってば。
じゃあってんで、搬入もそうだけど、軌道に乗ったらレイニーちゃんの工房を本格的に運用しようって事で、塀の
昼のどん底感から一転、俄然やる気に満ちた顔になっている。
やる気すぎて、開発計画として軽くボディソープからシャンプー、コンディショナーなどの美容関係で顧客を掴んで、冷蔵庫の開発をしたいと言う話をさらっと話しただけで超食いつかれる。
待って、落ち着いて、ちゃんと順を追って話すから。
がくんがくん揺れる視界に気分が悪くなるが、レイニーちゃんは開放してくれなかった。
夕日もだいぶ傾き、夜の帳が街に影を差し始めた時刻。
ウォルターくんが腕に縒りを掛け、豪快な肉料理と山盛りのサラダがテーブルの上に咲き誇る。
俺とリリスとヘレネちゃんで予め買ってきて居た
無事に仲間も増えたし、せっかくだ、今此処で懸案のひとつにケリをつけたい。
「あー、みんな聞いてくれ」
そんなに声を張ったつもりはなかったが、俺の声を合図に室内の喧騒が収まり、視線が俺に集まる。
えぇ。
もうちょっとワイワイしてて、オレの話なんか誰も聞かない、その方向で想定してたので正直戸惑う。
「えーっと、みんなにも相談してたクラン名の変更についてだけど、レイニーちゃんも加わった事だし、良い機会だから今決めたいと思う」
オレの言葉に、各々がそれぞれに顔を見合わせる。
「みんなにも考えてて欲しいって頼んでたけど、今、意見を出し合って決めよう」
言いながらも、妙な気配にすこーし嫌な予感が脳裏を掠める。
オレの言葉に何やらざわつき始める一同。
お前ら? まさかですよね?
嫌な予感が
「すまん。任せる気満々で何も考えてない」
堂々とし過ぎでは⁉
なにその、いやそれ、少しも悪いとか思ってないよね? なあおいコラ?
「あれだ、クランマスターの仕事を奪うのは流石に気が引けてな」
殊勝な台詞だねぇ?
なんで目ぇ逸らすん?
保護者のジェシカさんに目を向ければ、笑顔で手を振られる始末。
この人も考えて無いね、うん。
まあ、こうなるんだろうなって思ってたよ、うん。
「あー、じゃあ俺が色々挙げるから、そん
まあ、それっぽいの考えよう。俺の隣でリリスが、取皿に肉を山盛りに。
野菜も食べなさい、野菜も。
そんな事をうっかり口走った手前、俺も野菜を多目に取る。
タイラーくんが意外と野菜多めが好みなんだよな、とか、ヘレネちゃんは寧ろもっと肉食べなさいとか、子供達はウォルターくんのおかげで好き嫌い無く食べてるとか。
そんな事を考えてみんなを眺めている自分に気がついて、ちょっと笑ってしまったり。
そんな
これは、どうだろう? 俺としては、悪くないと思う……けど。
「クラン名、思いついたんだけど――」
俺の声に、みんなの視線が再び俺に集まった。
俺の告げた名前には、誰もが一瞬ピンと来ない様子だったが、タイラーくんが他の誰より早く口を開く。
「お前の名付けに、文句など無いさ。自信を持って名乗れよ、クランマスター」
このメガネ、此処ぞってトコでキッチリ支えてくれる。
普段はホントに、俺をおちょくって遊んでるだけにしか思えないが、時々、そう、時々は頼りになる。
「元よりセンスに期待していないから、恥ずかしがることは無いぞ」
ちょっとでも見直した俺が馬鹿だったよこの野郎!
今後とも、期待してるから支えやがれよコンチクショウ!
クラン名は次回に、クラン名の意味は次回のサブタイトルに。