技量とセンスと集中力とその他色々全部欲しいです。
「クラン名、思いついたんだけど――」
俺の声に、みんなの視線が俺に集まった。
そんな馬鹿騒ぎの夜明けの、当然の様に
「取り敢えず、普通の石鹸を、水分大目にしてみたんですが」
レイニーちゃん歓迎会の翌朝。
何故かズキズキする頭を抱えて、俺は同じく体調悪そうなリリスとレイニーちゃんと、3人で顔を突き合わせていた。
「……石鹸が溶けた水……だなあ」
試しに手のひらに伸ばし、両手で擦り合わせて見るが、泡立ちは悪い。
下手すると、水分が増えた分だけ悪くなってる感すらある。
「これはダメだねえ……基本の考え方から変えないとダメかもねぇ」
リリスが溜息混じりに言う。
レイニーちゃんは石鹸を作れるとはいえ、石鹸のプロフェッショナルではない。
石鹸の材料を揃えて作ることは出来ても、アレンジとなるとどうしたって勝手は変わる。
「リリスさんよ、ネット知識的なアドバイスは無いのかい?」
こそりと、リリスに尋ねる。
ネット空間を気ままに遊んでいたリリスは、もしかしてその程度の事は知っているのではないのか、と思ったのだ。
「有るわよ、ご家庭で出来る方法から、企業的な奴まで、レシピは頭に有るんだけどね」
あっさり応えて、リリスはレイニーちゃんの方に目を向ける。
「……錬金術って言う奴が、どうも曲者なのよ。材料が有っても、それをどういう状態で混ぜ合わせるとか、経験しないまでも頭の中である程度は再現できないと、
予想外、と言う
俺も驚きである。
なにそれ、なんか魔法的なモノっぽいというか。
俺は錬金術は、もうちょっとこう、科学技術的な物だと思っていたのだ。
「それは地球で発生した錬金術と、それを元に発展した技術の行く先の話でしょう? この世界の錬金術は、もっと魔法的な何かよ」
目の前でやって見せれば早いのだが、リリスは錬金術は出来ないらしい。
その辺は能力の発露の、方向性の違いだそうだ。
この世界の魔法は一部例外を除いて使えるが、錬金術は基本となる技術から異なるので、使えないという事らしい。
異世界チートってもっとこう、万能なもんじゃないの? と思って口に出してみれば、
「あなた、聖騎士の技とかネクロマンサーの死霊術、使える? 同じ世界の中ですらそういう制限があるんだから、こっちでも制限があって当たり前でしょ?」
こう言われてすごく納得した。
聖騎士の真似事をしろと言われたって無理だぜ、そもそも操作したことすら無い。
ウィザード以外のキャラクターの、スキルやら何やら、知っていることは1つも無いのだ。
「なるほど超了解。でもさあ、ノーヒントは厳しくないか。もしかしたらいつか閃きがあるかもだけど、逆に
スキルが使えるクラスでも、レベルが足りなきゃ使えない。
何かこう、レベルアップかそれに匹敵する様な事が起きれば或いは……。
レベルアップに匹敵する何かって、何だよ?
「閃きなんて、それこそ映像でも見せりゃ一発だけど、スマホなんかが有る訳でも無いしなぁ……」
見知らぬ技術を映像として見れるのは、それはそれで衝撃じゃ無いだろうか。
そのものズバリの作り方だし。
しかし、見せる方法が無いからどうしようもない。
「映像……」
ん?
呟き声に視線を向ければ、何やら邪悪に微笑むリリスさんが。
なんだろう。すっごく嫌な予感がするんだよね?
「イリス。私、ちょっとやることが出来たから出掛けてくるわ。今日はレイニーちゃんと、適当に過ごしてて」
言いざま立ち上がり、何故かウィンクまで残して歩き去るリリス。
うん、
「何か、思いついたのかしら?」
レイニーちゃんが不思議そうに首を傾げるが、俺も同様の気分だ。
ただ、すっごく嫌な予感がする。
人体構造と人間の構成物質を知る為にリリスがやった事。
それを聞いた時と、同じ感覚がしたんだけど……気の所為だと思いたいよね。
嫌な予感はなにかに熱中して忘れよう、という事で、思いついて俺はレイニーちゃんに相談し、ウォルターくんの城に来ていた。
まあ、キッチンだけど。
「うん? 蜂蜜と果汁のミードの、配合率を知りたいだ?」
何言い出してんだこいつら、と言う顔をするのは
「いや、急に押し掛けて何
どうやら昼のメニューを考えているらしい。
「おうん? 昼飯の仕込みかい?」
さり気なく邪魔にならない位置に立ちながら、何やら考え込むウォルターくんを眺める。
「……パスタで良くね?」
メニューに悩んでる時は、何か適当なメニューを投げて貰うと考えというか、自分の今の「気分」がハッキリしてくる。
気分というのは、「今日は麺の気分だな」とか「ピザを受け入れる
「パスタか……いや、パスタも悪く無いんだが、もっとこう、生野菜も食いたいんだよ」
ウォルターくんが乗ってきた。
人によっては「気が散る!」と怒り出す恐れも有るのでおっかなびっくりだった訳だが、ウォルターくんの懐が広くてよかった。
皆は、
「サラダが欲しいとか、そういうのも違うんだ?」
俺の声に、腕組みで天井を見上げる。
「うーん、パスタとサラダとか、そういう組み合わせで行けば食いすぎそうでなあ。だからってサラダだけで済ませたくねぇし」
サラダだけだと、物足りなさがなぁ……。
そう言う呟きが聞こえた。
そういう事なら。
「サンドイッチは? サラダにしっかり味付けて、ハムとかベーコンと一緒に挟むとか、ポテトサラダを挟むとか。スクランブルエッグとかも良いよね」
俺の思いつきに、動きを止めて考え込むウォルターくん。
色々頭の中で組み立てている様子だ。
「ふむ、そのアイディア頂いたぜ。それにしよう。今、屋敷にいるのは何人だ?」
おや、思ったよりすんなり。
こう見えて意外と柔軟なのよね、ウォルターくん。
「えっと、リリスが出掛けて、他は全員居るんじゃないか? 呼んでくる?」
「なるほど、じゃあ30分くれ。出来合いもあるから、それでぱぱっと作っちまう。出来上がる頃に、全員呼んでくれ」
この辺のやり取りをしている頃には、ウォルターくんはもう作業を始めていた。
手伝える事は有るかと聞けば、簡単に済ますから大丈夫だと追い出される。
ホントに、料理が好きなんだねぇ。
レイニーちゃんと顔を見合わせ、苦笑する。
「目的が果たせませんでしたねえ」
タハハと笑うレイニーちゃん。
「いやまあ、この際だから試しに作って、飲んでもらって意見聞こうか」
言って、2人で頷きあう。
俺とレイニーちゃんが息抜きで造ろうとしているのは、ミード用のポーション。
ポーションと言っても、回復効果が有るとか、
単純に、ミードに混ぜると冒険者ギルドで流行りの蜂蜜果汁ミードが気軽に楽しめる、そういうアイテムだ。
蜂蜜が意外と高級品なので、蜂蜜の使用量を減らし、砂糖で調整――何故か上白糖が普通に流通してるんだよな……そんなモンなのかな、いや助かるんだけど――して風味と甘さを出し、そのままだと混ざり
それを小瓶に封入するか、普通に瓶に入れて、お好みの分量をミードに混ぜれば、ご家庭で気軽に楽しめちゃうのでは?
というアイテムを思いつき、割と乗り気のレイニーちゃんと配合についてあれこれ相談していたのだ。
作るために、最適な配合という物について意見を聞きに行った結果がさっきのサンドイッチだった訳だ。
30分だったら酒屋さんに行って帰ってくれば丁度っぽいし、レイニーちゃんは蜂蜜と砂糖は有るという。
んじゃあ、酒とレモン買ってくる、と言い置いて、俺は買い物に出掛けるのだった。
ひょいと出掛けた買い物先で問題に遭遇するなんてそうそう有るものじゃない。
酒とレモンを抱えて屋敷に戻り、キッチン前で出会ったウォルターくんに「この呑兵衛が」って言う目で見られたくらいだ。
俺、そんな頻繁に呑んでる? と軽めのショックと共に思い返せば……あ、毎日飲んでるし、毎日
しばらく酒は控えよう、と思うものの、酒瓶を抱えていては説得力も無いというものだ。
ちょっと泣きそうな気分でレイニーちゃんに酒を持っていったら凄く心配された。
レイニーちゃん良い子。
そんなほっこりイベントを交えつつ、屋敷に残っている全員に声を掛けて食堂へ。
今日のお昼はサンドイッチ。
食事の準備を手伝い、お茶の用意をするヘレネちゃんに凄く癒やされる。
戦うのが嫌いな優しい
……あざとくね? え、なに、実はこの子が主人公?
勝手に混乱する俺にもお茶を淹れて、優しい微笑みをくれる。
そっか、天使って実在したのか。
「どうした、気持ち
言葉選ぶんだったら最後まで頑張れ、タイラーくん。
結局罵声じゃねえかこの野郎。
奇妙ってなんだ奇妙って。
「うるせぇ、ベーコンサラダサンドぶつけんぞこの野郎」
ぷんすか怒って見せるが、タイラーくんは揺らぐこと無くサンドイッチを頬張る。
そんな
「食いもんで遊ぶな馬鹿」
ウォルターくんに怒られてしまった。
所でこのベーコンサラダサンド、ホント旨いね。
知能指数の深刻な低下が見られる?
いやだって平和だし、あとはボディソープとかの開発が出来たら色々楽になりそうだし。
各ご家庭の入浴施設の普及が進むんじゃないかな?
それは俺の関与する所じゃないけど、まあそんな塩梅で話が進んでくれると、割とのんびり過ごせそうな予感じゃない?
たまーになんか適当な
そんなのんびり生活にちょっぴり差す不穏の影、ウチのリリスちゃんは、夕食も終わり、ウチのメンバーが適当にそれぞれが寛ぐ時間になっても帰ってこなかった。
あんまり帰りが遅いとまた別の心配も湧いてくるが、まあ、あの悪魔が遅れをとる相手がそうそう居るとも思えない。
とは言え、出来ればなるべく早く帰ってきて欲しいモンだ。
昨夜はリリスの帰宅を待っていたので、俺は珍しく飲みに行かずに屋敷に居た。
夕食後少しレイニーちゃんと
俺とレイニーちゃんが残っているので、ヘレネちゃんも出掛けておらず、折角なので誘って試飲会。
子供達にはまだお酒は早かろうという事で、秘蔵のお菓子(いつもの)で我慢して貰う。
あ。今度、酒のつまみにも出来る気軽な軽食って事で、ウォルターくんにポテチでも吹き込んでみよう。
バーのメニューで見掛けなかったし、それなり流行るんじゃないかな? どうかな?
そんな事を思いながら、ミードを飲む。
感想としては、中々イイ感じ。
蜂蜜を減らしている筈なのに、言うほど蜂蜜感が薄まった気がしない……いや、そりゃ「蜂蜜酒」って言うくらいだし当たり前か。
いやでも、このポーションを混ぜて軽くステアするだけで良いんだから、非常にお手軽ではなかろうか。
現状、小娘3人? の判断は、これは「売れる」だ。
ただ、売り方が問題なのだよなぁ。
製法を非公開にしてレイニーちゃんが作り続けるとか論外だし、製法を公開すると儲けが……。
なんというか、著作権というか、考案者特権が有っても良いと思うんだよ。
「じゃあ、明日にでも、商業ギルドで相談してくるよ?」
俺が悩んでいると、レイニーちゃんが事も無げに言う。
え? 商業ギルドなんてもん、有るの?
完全に盲点だった。
ていうか、俺、この世界を侮りすぎ。
全世帯とは言わないけど上下水道が普及しつつあり、ガラスも普通に有るし瓶も量産されてる。
そういう事は商売が関わってくるし、それを取り仕切るギルドが有ってもおかしく無いんだよな。
「お願いしたいけど、大丈夫? 俺はそういう、海千山千ってな感じの世界は苦手でなぁ」
元販売店勤務者が何を言うって?
だから俺、入社からずっと裏方なんだって。
とはいえ現在はクラマス張ってる訳だし、一緒に顔だして、
「私も不安だけど、でもこの先も有る事でしょ? それ考えたら、早いうちに良い感じの担当さん捕まえたいトコでも有るし」
と、意外と考えているレイニーちゃん。
うーん、そういう事なら、明日は俺も一緒に、なんならタイラーくんとジェシカさんにも付添頼もう。
なんか俺、あの2人に依存し過ぎな気がする。
と言うような事が有ったり考え込んだりしつつ就寝し、目を覚ますといつ戻ったのかリリスが俺のベッドの中へ。
……可愛いよ? 可愛いけどさ?
キミ、自分の部屋が有るじゃん? なんで此処に居るのん?
と思ったけど、なんか凄く良く寝ているので、起こすのも可哀想に思え、俺は静かにベッドから抜け出す。
無理にとか、強引に叩き起こすとか、そんな事する理由も無いしな。
キッチンでばったり出会ったタイラーくんに事情を説明し、一緒に商業ギルドに行って貰える事に。
やー、キミのそういう付き合いの良いトコ、キライじゃないよー?
「まあ、レイニーの為にも、な。お前は単じゅ……
んー、キミのそういう一言多いトコ、キライだよー?
そんな感じでギスギスじゃれ合っていると、ウチのメンバーが次々キッチンへ。
フレッドくん、マシューくん、君達はまず顔を洗っておいで。
ぼちぼちリリスも起こしてくるかな、そう思っていると、ものすごく浮かない顔のレイニーちゃんがキッチンへ。
えっ、なにそれどうしたの?
「あー、おはよう、いや、ちょっと頭痛いと言うか」
釈然としない面持ちで挨拶を返してくれるレイニーちゃんに、俺とタイラーくんは顔を見合わせる。
「ん?
タイラーくんが呆れた様な調子で声を掛ける。
「やー、そんな呑んでないです。ていうか、夢見が悪くて」
答えるレイニーちゃんはちょっと青い顔を無理に笑わせて、顔の前で手を振る。
健気可愛いが、ホント大丈夫なのかな。
っていうか、夢……か。
「何の夢見たん? 怖い夢?」
問いかけるが、頭の中で考えるのは別の事。
昨日、不穏な気配を発しつつ、急に用事を思いついて1人で出掛け、夜更けに帰宅したらしいリリス。
その翌朝、夢見が悪いと青い顔で起きてきたレイニーちゃん。
「いえ、別に夢自体は普通というか、うーん……単に、石鹸の作り方を見た、というか」
見た夢の内容を聞けば、ボディソープの作り方と思しき作業を眺めている夢。
顔色が悪くなるような理由が見当たらないんだけど……?
「ただ、夢を見る前に、なんて言うか……バチンっ! って言う感じで、頭の中を何かに叩かれた、みたいな感じがあって。その余韻が今も残ってる感じで気持ち悪いんですよー」
……。
取り敢えずその場は「大丈夫? 今日は休んで、明日にする?」とか話しつつ適当に抜け出し、部屋へダッシュ。
やりやがったなリリス!
何をしたかは判らないけど、何かしたのは判る!
「リリス! 起きろおい! あちこち触っちゃうぞこの野郎⁉」
ちょっぴり錯乱気味の俺がリリスを見た感想を交えつつ揺すり起こそうと奮闘する。
「んー……けんすけ……」
あざとい寝言とか何処で習ってきてんだよ、つーかお前起きてるだろ、ホントは!
一瞬けんすけって誰だか判んなかったよ! 俺だよ!
「い・い・か・ら、起きろってんだよリリスぅ!」
ちょっと迷ってから、耳を引っ張る。
ほっぺた引っ張ってやろうかと思ったけど、ちょっと可哀相でつい。
「
流石に
「おう、おはようリリス」
「おはようじゃないわよ何なのよ痛いじゃないのよ⁉」
起き抜けに元気だねこの野郎、結構結構。
「お前、レイニーちゃんに何したん? ん?」
分かりやすく動きを止めて、すいっと俺から目をそらすリリス。
「リーリースー?」
誤魔化せるつもりなのかコイツ。
耳を引っ張り上げる。
まずは何を仕出かしたか聞き出してやる。
「痛いってば! 耳引っ張らないで! もげるもげるっ!」
……。
これ、ちょっと楽しいな?
可哀相なのでベッドの上で正座させつつ、話を聞くと。
「……ボディソープの手作り映像を、直接脳に流したぁ?」
聞くだけでヤバいと
とか、そんな生易しい筈無いんだよなあ、コイツの場合。
「……お前さんの事だから、変な悪影響とか、後遺症が出たりとかは無いんだろ?」
俺の言葉に、驚いたように見上げてくるリリス。
「そこ、私を信用しちゃうの?」
ちょっと嬉しそうに見えなくもないけど、あのな?
単純に信頼してるって話じゃないんだわ。
脳に何かしら手を出すとか、想像するだけでヤバいと思える事をする以上、リリスは必ず下調べをする筈。
なにせ、レイニーちゃんに出会うまでに、さんざん苦労したのだ。
その苦労をふいにする様な真似、しようとは思わないだろう。
じゃあ、何が問題になるのか?
「リリス、お前さん、昨日何処で何してたん? 夜遅くまで?」
性懲りもなく、目を逸らす。
ほほぅん? 誤魔化す気なの?
「……耳」
俺がつぶやくと、反射的に耳を押さえて飛び上がる。
俺、そんな強く引っ張ってない……筈?
あー、楽しくなった時かな。
まあ、効いてるなら何でも良いか。
まず、リリスの目的、と言うかやったことを語ろうと思う。
これもまた原因は俺の不用意な一言なのだが、そう、映像を見せたらっていうアレだ。
あの一言で思いついたリリスは、色んな実験を経て、レイニーちゃんの脳にボディソープの作成動画を流した。
サラッと言ってしまったが、生きている人間の脳に映像を直接流す。
当然魔法なのだが、問題はそんな魔法を持っていたのか? という事だ。
答えで言えば、そんな物は手持ちに無い。
念の為パルマーさんトコに立ち寄ったらしいが、「現在は在庫がない」と言う回答だったそうだ。
あ、本来は有る訳ね。すごいな魔法世界。
しかし手に入らなきゃどうしようも無く、だからと言って諦めるには惜しいアイディア。
ボディソープは早急に欲しい。
じゃあ類似の魔法を造っちゃおう、という事で、無駄に蓄積していたオカルト関係の知識や「脳」に関する様々なデータなどを元に、魔法を仮組み。
その魔法を実際に使えるようにする為に、なんとリリスは。
付近で活動する
何してるの? ねぇ?
色々、というかスタートの発想からヤバい。
脳に直接とか、
んで、その精度を上げると言うか、安全性を確認するために人体実験しようっていう発想も怖い。
その為の情報を得る為に、衛兵隊の詰め所に忍び込むとか、思いついても素人が実行するかね?
話聞こう! 教えて貰おう! 程度じゃない? 普通。
んで、手近な20人前後の
どういう状態にしたかって?
俺は詳しく知らないけど、「あの魔女と同じ状態」って言ってた。
両手両足をどうこう言ってたアレだろう。
俺は考えるのを辞めた。
しかしそこからも地獄絵図。
脳の構造を確認するために頭を割られる仲間、脳が露出してるのにまだ生きてる仲間を見せられて、すっげー怖かっただろうな。
ニューロンがどうのシナプスがどうしたの、俺にはサッパリだけど、リリスはその辺の知識も元々持ってたんだろう。
んで、こっちの「人間」にその知識が適用出来るかの「確認」をした訳だ。
魔法が使える世界の人間の脳が、俺が居た世界の人間と同じとは限らない、くらいは俺も思うし。
思っても、実際に開いて確認しようなんて思わんけどな。
でまあ、そういう血みどろの確認作業を経て、映像を電気信号化したものを直接脳に送り込む実験を行う。
寧ろこの実験で脳がダメになった、っていう奴のが多かったらしい。
難しかったよー、なんて笑顔で言われても、可愛くないわ。
映像を見せられても廃人化しない、そんな
念の為に数度実験を繰り返し、最終的には幸せな夢を見ている
そこまでですっかり夜も更けたため、まっすぐ
「何でそこで俺のトコなんだよ」
呆れるべきポイントが多すぎて、まずその事に呆れる俺。
「えー? だって、
的な? じゃないよ。
いらんわそんなモン。
兎も角、リリスが何をしてきたかは判ったし、洒落にならん事だというのは
だけど今は、確認すべきはたったひとつ。
「しつこいようだけど、レイニーちゃんの健康に、害はないんだな?」
朝の様子を見るに、害がないとは思えないんだが、一応念押しで確認する。
「勿論! 急に映像差し込まれて脳には負担がかかったと思うけど、立て続けに幾つも送ったりしなきゃ、壊れはしないって判ったよ!」
すごく元気に良いお返事です。
でもそれお前、少なくとも1名には「立て続けに幾つも送って、壊した」って事だよね?
あとサラッと流したけど、脳に負担は掛かるんだね?
「安全性の確認には、何処までやったら危険かを把握しないとね」
と、これまたいい笑顔。
ホントは此処でゲンコ落として、お説教が正しいんだけど。
俺はため息交じりにリリスの頭を撫でて、「危ない事はしないように、もし次が有るなら、俺に
倫理観が違うから怒っても無駄だから?
違うよ、そんな事じゃなくてね。
結局何を言った所で、俺だって同類だからだよ。
たまたま今回は、俺にはその手段を取れない、やった所で俺には意味が無かった、ってだけで。
自分の利益や仲間の為に「
俺が
結局、同族というか、仲間には甘いのよ、俺は。
「ちゃんとレイニーちゃんには、何らかの形で謝意を伝えるように」
俺が頭をごしごしと撫でると、ちょっと痛そうにしながらもリリスは頷く。
「よし、んじゃー
そう言うとリリスを部屋まで送り、着替えたリリスと一緒に
食事を終えた俺とリリスは、レイニーちゃんに「もしかしたら、作れるかも知れない」という言葉を受けてレイニーちゃんの工房へ。
そこで俺は、錬金術師の妙技というものを体感したように思う。
それなのに、レイニーちゃんはあっさりとやってのけた。
香油や香水などを使用して香り付けする事も可能という事を、初回で実証しているのは実にポイントが高い。
難度の高い工程の幾つか、例えば本来は高めの温度で「寝かせる」必要の有る工程も、錬金術の
つまり、術式を完全にモノにしていると言う事。
なにそれ? 魔法よりよっぽどアレじゃね?
そう思ったけど、口にするのは我慢。
出来上がりを少量手に取り、水を少々加えつつ、泡立てると……。
「わっ、わっ! こんなに泡立つ石鹸、初めて見た……!」
作った本人が大騒ぎだ。
俺は急いで他の女性陣を呼び出す。
「え、これ、
ヘレネちゃんが、泡立ちすぎる手元に引いている。
ちょっと面白い。
「あら、ホントにいい香りね……あら、ホントに流しても、香りが残るのね?」
昨日リリスと話していたことを覚えていたジェシカさんが、石鹸の残り香を早速確認している。
「……これ、匂いがもっと薄いか無ければ、キッチンで使えるな。魔法使えなくても、手を綺麗にするのに便利かも知れん」
と、早速ハンドソープを思いつく生粋の料理人、ウォルターくん。
タイラーくんもこの商品の応用の広さと商売の気配に、口元が歪む。
お前、ちょくちょくキャラ変わるのやめろ。
子供達は泡立ちが楽しいらしい、洗っては流し、洗っては流しを繰り返す。
気持ちは
全員の反応に、手応えを感じたらしいレイニーちゃん。
魔法が使えなくても、手軽に洗浄効果を体感できる、「魔法の」液体石鹸。
これも商業ギルドで登録しましょう、と息巻くレイニーちゃんに、反対するものは1人も居ない。
まずはレイニーちゃんの専売で、手が足りなくなったら商業ギルドに、高値で製法を売りつけつつ、マージンも頂こう。
美を求める? リリスとジェシカさんがほくそ笑み、利益を追求する俺とタイラーくんが悪い笑みを浮かべ、俺達はその足で商業ギルドへ。
多少改良の余地が有るとは言え、人気の酒を自宅でも手軽に味わえるポーションと、画期的な液体石鹸は商業ギルドで早速注目を集め、すんなりと商品の独占販売の権利を獲得。
反響が大きくなるようであれば、商業ギルドを通して製法を開示、商業ギルドとウチこと「ノスタルジア・クラン」、そしてレイニーちゃん個人に、生産数に応じてそれぞれ数%づつの使用料を収めることを条件に他所での作成も認める、と言う契約書を作成した。
レイニーちゃんの初仕事が、本人の考えていたよりも地味な仕事で大きな結果に。
同時にシャンプーとコンディショナーについてもアイディアを出し、その場で仮契約。
完成したら、ボディソープと同じ契約となる予定である。
うっかり忘れたが、シャンプーとか持ち込む時に、ついででハンドソープも登録してしまえば良いだろう。
直接石鹸を作るのとは関係ない所で行われた人体実験については俺とリリスは口を固く閉ざす。
巷には謎の
……うん。
終わり良ければ、きっとそれで良いのだ。
リリスの日常には、近づかないように注意しよう。