ハクスラ世界よりお届けするお話、と見えなくもないタイトルですが。
ハクスラ世界から普通(?)の異世界に来ちゃったヒトのお話です。
簡単な
そう、街の外で、ポーションの材料となる、ありふれた野草をかき集めて納品する。
それだけの、ありふれた
駆け出し冒険者の自分達には、手頃で安全、簡単に実績を積める、そういうモノだと。
だから、いくら4人居るとは言え、油断していた。
街のすぐ近くに魔獣が現れるなんて、考えもしていなかったのだ。
遠い。ダルい。
何なんだよ徒歩移動!
異世界って
空飛ばせるか、最低でも自転車、道が悪いからMTBかシクロクロスくらい
シクロとか、乗ったこと無いし超興味有る!
のっけから愚痴だかなんだか、そんなスタートで恐縮です、俺です。
いやもう、思ったより近いかもとか思った1時間前の俺を殴りたいね。
ちょっと高いところまで行っただけで、情けないくらいに足ガクガクになったクセに、ねぇ。
いやそれ俺の事だよ。
自分で考えても凹むわ。
脳内で気分転換に、スキル……魔法関係の構成を弄りながらダラダラと歩く。
こうして眺めると、今まで殆ど使ってなかった魔法ってのも、意外と有るもんだと気付かされる。
勿論、全く使っていないものは無い筈だ。
軽く使用して、使用感の確認程度はしているのだが、自分の使用用途に合わないものはどうしても使用頻度が減る、或いは使わなくなる。
使わないから印象に残らず、記憶から薄れていき、こうしてたまに思い出してなんだか新鮮な気分になり、そしてまた使わないから……。
なんだか急に、今見ているこの魔法が
南無。
それはそれとして、歩きがダルい。
気分転換しようが、ダメだ。
夢なんだから、ここは脈絡のない場面転換で街の中にいるとか、やりようは幾らでも有るだろうに。
融通の効かない夢である。
もっと柔軟にいかんと、夢なんだからさぁ。
脳内で理不尽に不満を並べる俺だが、その夢を統合してるのは他ならぬ俺なのだという事は無視だ。
柔軟、柔軟ねぇ。
ぽっかりと空に浮かぶ雲を眺めていて、俺は急に思い付いた。
いや、それ以前に。
試したいことが出来た。
俺は徐に、両手に武器を持たずに魔法を使ってみる。
まずは、何も考えず、普通に「素手」で使うイメージ。
一応、さっき確認した街とは反対方向に向かって
1秒以上発動させたが、特に威力が上がったような手応えはない。
というか、反動が軽い。
さっきの空に浮かび上がった時のような
一度解除し、今度は武器をイメージする。
本来両手に装備するそれぞれの武器、クライングオーガと宝飾の宝珠を脳内で明確にイメージしながら、同じ様に同じ魔法を放つ。
結果は、明らかに違った。
まるでさっき、武器を持って使用したのと同じ様に、油断すれば
体幹に力を入れて耐えるが、実際にはカウンター・マスの様なものを射出しているのかも知れない。
そうでなければ、簡単に耐えられる気がしない。
さっきのセルフ打ち上げは、そのカウンター・マスを目的に応じて解除した結果なのだろう。
この魔法が、ゲーム内で使用するには完全に足を止め、せいぜいが旋回できる程度になる理由が
そして、少なくともこの夢の中だったら、そのカウンター・マスを解除出来る事も
次は、手ではなく、任意の場所……じゃないな、部位? から発動できるかの実験だ。
具体的に言えば、背面。
背中で発動して、それを動力に前方に移動出来るかどうか?
夢の中だから、せめてそれくらいは自由に出来てくれなければ困……りはしないが、面白くはないだろう。
発動位置を背中、何となく両肩甲骨辺りに設定。
浮き上がってしまっては困るから、発射方向はやや
取り敢えずの実験感覚で、まずはこれくらいから。
この時の俺は世界が驚く程度には軽率だっただろう。
普通は、低出力からテストするだろう。
だが、俺は何を考えることもなく。
迷いなく、いつも通りのイメージ、かつ、カウンター・マス無効を追加でイメージに加え、
1秒後、俺は僅かな射出で空中に打ち上げられるその威力に背中を押され、激しく転倒した挙げ句、その衝撃で魔法が解除されたにも関わらず結構な距離を転がされ、
だが、そんな程度ではへこたれない。
俺は、楽するための努力を惜しみはしないのだ。
イメージで発射位置も威力も制御出来ると判明したので、今度は武器無しで発動させた。
今度は予め負荷を予想できていたので、走り出しに成功。
というか、走りながら発動させた。
威力上昇効果が発動しないので急に押し出されることも無く、威力が低いと言ってもそれは飽くまで俺基準……というか、ゲーム内基準であって。
走行のサポートとしては
というか、これでも走り出すと、ともすれば足が着いてこないまである。
というか、多少楽になった程度で疲労はするので、走らない方向でどうにかならないか、と考えれば。
俺は思いつきのまま、魔法を発動させた状態で、まるで両足を突っ張るように固定させる。
あくまでも、動きそのものを、だ。
地面に停止するためではないし、この状態でそんな事したらさっきと同じ様にスッ転ぶだけだ。
同時に、靴底に魔法の板すらイメージして、滑りやすいようにと祈る。
確かこの見た目装備、ヒールの高いブーツだからだ。
そのままだと、結局踵が地面に引っかかってスッ転ぶ。
正直、思いつきにしても咄嗟過ぎて、自分でもなんで実行出来たのか
思うに、なんにも考えていないからだろう。
イメージとしては、地面の上を滑るように。
引き続き爪先を上げ、足下の魔力版が途切れないように注意しつつ、地面に対しての抵抗を極力減らす。
ところでこの魔力版、なんの魔法の応用なんだろうか?
兎も角、さっきのも、その前の落下も、怪我らしい怪我をしていないがすっげえ痛かったから、慎重に。
石かなにかに躓いたら確実に吹っ飛ぶので、足元の注意は数メートル先まで怠れない。
なにこれ、すっごい早いけどすっげえ疲れる! 爽快感皆無!
そうは思うものの、走るのもダルいし歩くのも飽きたので、俺は街道を滑走するに任せるのだった。
人間、慣れるもんだ。
ひょんな――滑走中に地面の傾斜の関係で跳ねた――事から、俺は低空を「飛んで」居た。
慌てて姿勢制御を失い掛けた時に、咄嗟に魔法の射出方向を調整し、空中での姿勢制御に成功した……らしい。
全くの無自覚、無意識である。
らしいというのは、自分で制御しようとして見事に失敗、一瞬で上昇を開始したのにビビった俺は慌てて方向調整、地面に斜めから押さえつけられ、その状態で暫く街道を滑った。
摩り下ろされるかと思った。
正直怖すぎて、もう二度と挑戦するかと思いはしたものの、結局飛んだのは、やはり事故だった。
反省とはどうやら、縁が薄いらしい。
その2度めの事故で、無意識に任せた
こういうのを、力に振り回されていると言う。
もう色々と諦めたし、目が醒めたらもう見ることもない夢だろう。
切り替えて、状況を楽しむ事にする。
俺の耳に、微かな、しかし切迫した悲鳴が飛び込んだのは、呑気に構えた俺が、もうじきさっき見えた城壁辺りだな、などと考えていた時だった。
見たこともない様な体躯の、赤い体毛の狼の様な魔獣が3頭。
気がついた時には囲まれて、彼らは逃げ場を失っていた。
街の外で狼を見た事は有るし、数匹程度なら追い払うくらいは出来る自信が有った。
だが、
初めてなのに、
理解させられる程に、その獣は異質だった。
確かに、そのシルエットは狼。
だが、まずサイズが違う。
見上げるほどの体格は威容と言うに相応しく、3頭に睥睨されただけで萎縮してしまい、
1頭は右前足で仲間の1人を押さえつけている。
ダメだ、あれは助けられない。
恐怖に震えながら藻掻く仲間を見ても、彼らは救助に動けない。
押さえている魔物が動かずとも、フリーな魔物がまだ2頭もいる。
戦える相手ではない。
駆け出しの、普段は薬草採取がメインの冒険者が出会って良い相手では無い。
押さえつけられている仲間――少女はもう、恐怖に喉が貼り付き声も出ない。
弱々しく暴れるが脱出どころか身を
殺される。
全員の脳裏に浮かぶのは、恐怖を伴う諦念。
冒険者に憧れ、育ての親の反対を押し切り、冒険者ギルドで登録し、雑用の様な仕事を続けて半年。
正直、腐っても居た。
いつかは魔物と戦い、打倒して有名になりたい。
そう思っていた。
だけどそれは今じゃない。今じゃないんだ。
魔獣が、少し押さえつける力を強めたらしい。
押さえつけられていた仲間の口からくぐもった悲鳴と鮮血が溢れ出し、少年の意識を現実に引き戻す。
「やめ……ッ!」
激昂し、走り出そうとしたその足だが、1歩踏み出しただけで萎縮して動きを止めてしまう。
彼の前には、一瞬で間合いを詰めたもう1頭が見下ろしていたのだ。
殺される。
みんな殺される。
街に戻れば、他の冒険者も大勢居る。
高ランクの冒険者も居るだろう。
だが、助けを呼びに行けない。
街に向かって走った所で、たちまち追いつかれ、殺されるだけだろう。
悔しい。怖い。助けたい。死にたくない。嫌だ。
ぐるぐると絶望が頭の中を回るが、起死回生の妙手など浮かび来る事もない。
腰砕けになることすら忘れ、目の前に立ちふさがる絶望から目を逸らす事も出来ずに立ち尽くす少年の耳は、その時、確かに捉えた。
「俺より若い奴を……! 殺してんじゃ無ェよ!!」
見知らぬ、少女と思しき咆哮と。
仲間を押さえつけていた
随分遠くの音が聞こえたもんだ。
漸く視えたシルエットに、俺は素直に感嘆しつつ、進行方向をそちらに定める。
恐らく、たまたま風に乗って聞こえたのだろう。
どうせ夢なのだし、派手にやってやろう。
そう思った俺は何気なく目を凝らし……判別できる距離とも思えないのに、そこにいるのが3体の獣だと理解した。
でかい犬……狼って奴なのかな。
少なくとも、愛玩犬が巨大化したようには見えない。
随分と精悍な面持ちである。
距離を詰めるに従って、人が3人、絡まれているのが
サイズ差がエグい。
なんだよ、いくらあの人間が子供みたいだとは言え、それが見上げて尚余りある巨体って。
普通の大人でも見上げるサイズだぞ、あれ。
高さでそう感じるんだ、全長で言ったらもう、あんなん間近で見たらおっかねえよな。
何処か呑気に考えていた俺だったが。
それに気付いた時には冷静で居ることを辞めていた。
子供は、もうひとり居た。
魔物の足に踏まれて。
まだ動いていたその子供は、急に血を吹き出し、動きを止めた。
子供が死ぬ? 死んだ? まだ間に合うか? 離れすぎているか?
脳内に取り留めない言葉が散らばる。
視界が赤く染まった気がした。
「俺より若い奴を……!」
考えは纏まっていないのに、目は狼を見据え、
「殺してんじゃ無ェよ!!」
落ち着け!
自分を叱咤する。
まだ、死んだとは限らない。
一応、ゲーム仕様のポーションなら有る。
他人に使えるか不明だが、試す価値はある。
ウダウダ考えてる間に、距離は充分に詰まった。
子供を押さえつけている狼がコチラに気付いたが、もう遅い。
俺は
属性により感電効果を持つ雷の刃が数十、狼の無駄にでかい胴体を
反動で
正直
残りの狼どもは既にこちらに注意を移し、1頭は飛びかかって来ていた。
あらら、随分と果断な事で。
もう一度
残った1頭が俺の行動にどうするか悩んでいる一瞬に、さっきの剣閃と同時に放っていた
弱い。
なんだあの脆さ。
クライングオーガも宝飾の宝珠も構えてないどころか、イメージすらしていない。
だと言うのに、
頭に血が昇ったとはいえ、勇ましく吠えちゃった俺が恥ずかしいじゃんよ?
あっ。
ンな事言ってる場合じゃねえや!
「おい! そいつは大丈夫か!?」
俺は何処からともなくポーションを取り出すと、倒れている子供へと駆け出した。
魔獣の1頭の胴体がぶつ切れの肉塊に変わった時には、何が起きたのか判らなかった。
ただ夢中で、押さえつけられている仲間を助けたくて、強張る
他の魔獣の事など、頭に浮かぶ事もなく、ただ仲間の事だけを。
「おい! おい! しっかりしろよォ!」
駆け寄ったが、仲間は小さく呻くものの、呼びかけに応える事はない。
「おい! そいつは大丈夫か!?」
鋭い女の声にハッとして顔を向けて、初めて魔獣が討ち果たされている事に気がついた。
バラバラに切り刻まれた魔獣の破片と、頭部を失った魔獣の胴体の間を、その人は走ってきた。
凛とした声のその人は、くすんだライトグリーンの、見慣れない服を纏い。
左腕にだけガントレットを付けているが、それより目立つのはその顔、いや頭。
口元だけが見える仮面のような物を付けているが、目が覗くような隙間も何もない。
のっぺりとしたそれはまるで前が見えるようには見えないが、こちらへと真っ直ぐに走ってくる。
「あ、ああ、へ、返事が無くて……」
質問に対して遅れて返事を返すも、声は上擦り震えている。
このままでは、仲間が死んでしまう。
街まで運ぼうにも、間に合いそうにない。
助けてくれた人に答えようとして状況を考えた途端、涙が溢れる。
どうして。なんで。
いつもと
危険なんか無かった筈だ。
なのにどうして。
後悔しようにも無理をした訳でも無く、いつもより遠出した訳でも無い。
いつもと
「落ち着け」
静かなはずのその声は、少年の絶望を叩き割るように響いた。
肩に置かれた手は思いの外力強く、自分の横を通り過ぎるその横顔――仮面ではあるが――は、不思議な安心感を与えてくれていた。
返事が無いとか、ヤバいか?
意識が無いなら、ポーションを飲ませるのも簡単では無い。
内心がザワつくが、俺が慌てても仕方がない。
涙と鼻水でえらい事になってるガキの肩に手をかけ、出来るだけ優しくその横を通り、倒れている少女の傍らにしゃがみ込むと、その顔を覗き込む。
目は開いている。こちらを見ているのか、目が小さく動く。
辛うじて意識は有るのか。
酷い状態だが、しかし、これなら助かる。
今なら、助けられる。
俺は座り込み、なるべくゆっくりと少女の上体を起こすと、片手でポーションをその口元に運ぶ。
「飲め。ゆっくりで良い」
優しく言葉を選んでも、伝わるか判らない。
短く、分かりやすく伝えてやりながら、その口にポーションを流し込む。
一気に流し込んで咳き込んでもまずいので、あくまでも少しづつ、ゆっくりと。
一口でいい、まずは一口飲んでくれれば。
祈るような気分の俺の視界で、少女の喉が小さく上下する。
飲んだ……!
少し間を置いて、また一度、そして続けてもう一度。
確実に、ポーションを飲んでくれている。
ゲームのポーションは、数種類有るものの、基本効果はほぼ同じだ。
体力回復効果は、最大HPの60%。
俺のポーションは副次効果として、操作障害を7秒無効化する効果がある。
経験から言えば、操作障害を受けている時にはその効果を思い出すことはない。
当然、有効活用したことはないが、それは今はどうでも良い。
今気になることは2つ。
まず、ポーションは効くのか?
自分でも笑えるほど慌てている俺は、考えるより先にポーションを飲ませたが、本当に効くのか否か、今更不安になる。
そして効いたとして。
使用したポーションは、ちゃんと補充されるのか?
効果の
ゆっくりとだが、少女の目に光が戻る。
「……聞こえるか? 聞こえるなら、自分で持って飲んでみてくれ」
俺が少しゆっくりと声を掛けると、少女は直ぐに理解し、両手でポーションの瓶を持つとゆっくりと飲み始めた。
うん、問題ないようだ。
あと、今ので言葉が通じると判断して良いだろう。
見守る先でポーションを飲み干した少女が、おずおずと瓶を差し出してくる。
……かわえぇ……。
緊張の反動か、気が緩みに緩む。
って言うか、その可愛らしさでその動作は反則でしょうがよ。
夢だからって、抱きしめちゃうぞ。
夢だし、良いよな? 俺も今は、見た目女な筈だし。
筈だよな?
「あの、有難うございます」
葛藤しながら瓶を受け取った俺に、少女は
……惜しいことしたとか、全然思ってないよ、ウン。
泣いてねぇよ?
ちらりとポーションの瓶に目を向ければ、瓶の中には徐々にポーションが貯まりつつ有る。
使用制限は無い代わりに、再使用までに存在する30秒のクールタイム。
その正体は、ポーションが瓶いっぱいにまで戻る時間だった、と言うことか。
貯まってる最中に試しに蓋を外そうとしたが、固定されて外せなかった。
貯まりきるまでは使用できないらしい。
まあ、惜しいと思ったところで、どうせ夢なんだけど。
立ち上がって砂を払い、振り向けば、仲間と抱き合って泣いている少女。
まあ、間にあって良かった良かった。
「あまり無理はしないでくれよ? このポーションは
何となく微笑ましく思いながら、声を掛ける。
「怪我は消えると思うが、体力の
そう言うと、泣いていた少女がこちらに振り返る。
こうして見ると、12~3歳ってところか。
保護欲を掻き立てるね!
女性的魅力まではまだ数年かかりそうだけどな!
割とロクでも無いこと考える俺に、少女は改めて頭を下げる。
「危ないところを、本当にありがとうございました」
礼儀も弁えているとか、もうね。
俺よりしっかりしてないか、この子。
「ありがとうございました!」
周りの子供達も、一斉に頭を下げる。
何だよ何だよ、おいちゃん照れるぞぅ?
「あー、気にしないでくれ。たまたま通りかかって、運良く間に合っただけだから」
照れ隠しに指先で頬を掻こうとして、仮面で突き指しそうになる。
うーん、慣れないねぇ。
「あの……」
忌々しげに指先を眺める俺に(表情はわかるまいが)、先程俺が肩を叩いたガキ……少年が声を掛けてくる。
「ん? どうした?」
此処ぞとばかりに、俺は照れ隠しに気のいいオッサン全開で応える。
耳に入る自分の声の違和感が凄いが、どうせこの夢の間だけだ。
というか、目を覚ましたらこんな夢を見ていた事を、覚えているかどうかも怪しい。
病院に行こうと思ってた事だけは、しっかり覚えておかなくては。
「仲間を、助けてくれて本当にありがとう! あの……お姉さんは冒険者ですか?」
少年の瞳が、心無し輝いて見える。
冒険者?
いや、冒険者とは何か、というのは、それなりに知っているつもりだよ?
だがしかし、俺は何かと問われたら。
物流業者? いや、それは現実の俺の仕事か。
んじゃあ、この夢の中では?
あのゲームでは、単にウィザードだった。
自分の職業が何かとかいう問答する余裕があったら、敵を殺せ! っていう世界だからなあ、あれ。
さて。どう答えた物か。
「ああ、冒険者……では無いな。俺はウィザードで、旅人だ」
これ以外、答えようが無い。
ウィザードなんて単語が通じるかは不明だが、まずは冒険者であることは否定しておく。
つまらない嘘は、大体面倒事しか呼んでこない。
素直が一番だ。
「旅人……! じゃあ、街へ行くの!?」
少年の問に視線を巡らせれば、青空の下、少し遠くに城壁が見える。
「あそこが、街か?」
期せずして、質問に対して質問で返してしまった。
「ああ! 俺達の街だ!」
答える少年はそんな事を気にした様子もなく、輝かんばかりの笑顔で言う。
後ろでは他の少年少女がやはり笑顔で、少年の言葉に頷いている。
キミタチ、ちょっと人を信用し過ぎでは無いかね?
こんな怪しい仮面
全く、眩しい子供達だ。
「そうか……。急ぐ旅じゃなし、立ち寄るのも悪くないか」
急ぐ旅どころか、ハッキリ言えば行く宛など無い。
というか夢だしな。
「じゃあ、一緒に行こう! お礼もしたいんだ!」
元気を取り戻したらしい少年と仲間たちの笑顔を踏みにじるとか、これ無理だろ。
せっかくだし、感謝されていい気分で目をさますのも悪くないかもな。
俺は特に深く考えもせず、少年の提案に頷いていた。
所で、こう、異世界っぽい所に居るとさ?
よく有る、アイテムボックスとか、便利アイテムって付き物じゃない?
そんな便利アイテム、そうそう無いだろ
なぁんて考えてた俺だけど、冷静に考えてみた結果。
あるわ。
あのゲーム、そんな説明なんぞ
よくあるラノベみたいに、無闇に容量が多いわけじゃないが、無くはないのだ。
というか、俺が思ってるよりは大きい可能性すら有る。
なぜかって?
君は、約50億枚の金貨ってのがどれくらいの量なのか、
俺はワカンネ。
何も考えずに出そうもんなら、どれくらい広がるのか分からないが、そこそこの量だろうというのは想像できなくもなくもない。
そんな物まで持ち歩いてて、かつ、この状態で保管箱にもアクセス出来るため、合わせればかなりの容量が入る。
流石は「
それが何の自慢かって?
倒した狼……魔獣らしいが、この死体を持って帰りたいって子供達がな?
ギルドに報告すれば、良い小遣いになるんだと。
生活も色々大変なんだろう。
袖触れ合うも他生の縁、っていうしな。
ギルドとやらまで、運ぶのを手伝うことにしたのだ。
胴体を斬り飛ばした
そういう拾うに値しない部分は、通常火力の
頭を吹き飛ばした
飛び散った脳漿やら頭部パーツ類も、念の為焼却。
目ン玉は売れるかもってんで、回収してある。
……俺の装備類に、変な匂いとか着きやしないだろうな?
今更心配になってきた。
そんな感じでデカ
初めてアイテムボックスを見た(見えないだろうに)少年少女の尊敬の眼差しにこそばゆい思いを味わいながら、彼らの案内で街へと向かうのだった。
街の入口、まんま砦門なそこで衛兵に魔獣の出現を報告する少年冒険者。
訝しむ衛兵たちの前に、少年に請われて俺は魔獣の死体を出し、検分してもらう。
結果、確かに魔獣だと言うことで、防壁の外の警戒を強くする事を決定してくれた。
一方で、俺たちはそのまま冒険者ギルドとやらにも報告しに行く事に。
そうする事で、各冒険者達に注意喚起と、優先討伐依頼とやらが出されるらしい。
その辺の事は1個も判らないので、少年少女にお任せである。
俺はと言えば、初めて訪れる異国情緒と、冒険者ギルトとやらの活気に当てられ、お上りさんよろしくあちこちを見回している。
「あの、お姉さんは、冒険者にはならないんですか?」
ポーションを飲ませてあげた子がすっかり元気になった様子で、目をキラキラさせながら問いかけてくる。
冒険者ねぇ……。
出来ればおいちゃん、危険な事はしたくないけどねぇ。
あんなバイオレンスなゲームのプレイヤーが今更何を、だって?
あのな。
ゲームはゲームだし、あれは
FPS視点でハクスラ世界とか……いや、意外と有りかも知れないが、俺は泣く自信がある。
とか言いつつ、興味は無くもないのでちょっと想像してみる。
……やっぱ泣くわ。
想像しただけで怖すぎだろうが。
おっといかん、目の前の天使を無視し過ぎだ。
「冒険者か……」
とは言え、どう答えたものか。
というか、この少年少女は何を期待しているのか。
……うーん。
一緒にパーティ組んでとか、そういう事なのかなあ。
どうせこの夢だけの話だし、うーん。
登録するだけして見せても、良いかもな。
「悪くはないな。登録は、此処で出来るのか?」
少年少女の顔が一層輝く。
そんなにか。
というかおいちゃん、こんなに子供にモテた事、今まで一度も無いからどう接したもんか判らん。
少年に手を引かれ、俺はさっき少年たちが魔獣について報告し、魔獣の死体の買取を申請したカウンターへと再び着いたのだった。
「はい、ご記入はそれで大丈夫です」
書類の記入とか、こんなに手こずると思わなかった。
文字が読めるのは助かるが、これ、アルファベットだよな?
というか、もっと言えば……これ、英語だよね?
英語なんか
というか、言語は英語なのか?
俺、英語出来ない人ですけど……。
なんで意思の疎通ができて……あ、そっか、夢か。
うん、確かに俺、英語に憧れてるけどさ。
みんな使ってるの、日本語にしか聞こえない。
こんなに都合よく英語を習得したと思い込みたいのか、俺は……。
1人で恥ずかしく、情けなく思えて来て赤面してしまう。
仮面っぽい頭部装備で、本当に良かった。
「それでは、登録料は銀貨3枚になります」
1人で勝手に恥ずかしくなっていた俺の耳に、ご請求の声が滑り込む。
銀貨3枚っすね。
先程買い取ってもらった狼の代金(5人で山分け)の中から、3枚を渡して無事終了。
狼を持って帰ってよかったぜ、危うく少年に金を借りなきゃいけなくなるところだった。
この夢だけの来訪だろうし、改めて返しに、なんて来れなくなるからな。
踏み倒しはイカン。
はしゃぐ子供達の輪の中で1人頷いていた俺は、背後に立つ気配と子供達が静かになった事に気がついて振り返る。
「なんだぁ? またガキどもが寄り付いてんのか。それになんだ、この怪しい風体の女は」
わかり易い程に人相の悪い巨漢が、俺達を見下ろしていた。
「おい、返事くらいしろよ。お前は何だと聞いてんだ、女」
さっきまで騒がしかったギルド内が静まり返り、子供達は顔を青くしている。
こいつはそれほどにヤバい奴なのか?
しかし、俺は知ったこっちゃない。
と言うか、ハッキリ言ってこいつの態度が気に食わない。
「返事して欲しかったらそれらしく
気に食わないから全力でケンカを売る。
別にハゲてないのは見れば判るが、大抵はハゲと言われると怒る。
俺だって怒る。
「なんだと……?」
おー、分かりやすく怒ったなハゲ。
周囲は凍りついた様に動かない。
俺はさり気なく進み出ると、子供達に被害が及ばない位置へと移動する。
ホントにあの子供達に被害が及ばないか、自信は欠片も有りはしないが、こういうのは気分だ。
「なんだ、バカなのか? 耳が悪いのか? もう1回だけ教えてやる」
俺は殊更にバカにしたように溜息を
「人様に返事して欲しかったら、立場を弁えてそれらしく
「テメェ……!」
おーおー、分かりやすくキレてやがるな。
バカが、お前の事なんざお見通しなんだよ。
こういう場面で絡んでくる奴は、
顔を真赤にしたゴリラを挑発する俺の右手の袖を、誰かが引っ張る。
振り向けば、真っ青な顔の少年が震えて立っていた。
あー。なんか、コイツになんかされたことが有るのか。
余計に頭にくるな。
そんな事を考える俺に、少年は震える声で呟いた。
「お姉さん、ヤバいって、そいつ、いやその人」
まあまあ落ち着き給えよ。
そう思う俺の耳に、少年は言葉の続きを放り込む。
「その人、Aランク冒険者で……ここいらじゃ有名なんだよ……」
……はい?
Aランク?
まって? ちょっと待って?
こういう場面の新人イビリは、低ランクのクズって相場が決まってるんじゃないのかよ!
俺の内心の叫びは誰にも届かないし、振り向いた先ではAランクゴリラが剣まで抜いて、やる気満々なのであった。
状況確認はしっかりしよう。
相手を見た目で判断するのは止めよう。
無闇に汚い言葉を使うのは控えよう。