拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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恒例の嘘タイトルです。
でも、こういう話を書くのが好きです。


死闘! 夜の大邸宅!

 商業ギルドからの相談を受けて、銭湯を作りたくなったのでむやみに張り切ってヘンリー不動産に。

 しかし、曰く付き物件には攻撃を仕掛けてくる幽霊がいるとか。

 

 流石にそれは聞いてないよ、そう思うのも束の間、仲間の思いつきで幽霊の説得に当たることに成りました。

 

 絶対、説得(攻撃魔法)になる予感しかしないんだけど。

 失敗したらお屋敷お買い上げだけど、リリスさんはその辺理解(わか)ってるのかな?

 

 除霊(じょれい)じゃなくて説得って所に妙な引っ掛かりを覚える、そんな俺です。

 

 

 

 一度おうちに帰って仮眠を取ってから、ウォルターくんの手作り晩ごはんを食べて、お夜食にサンドイッチを作って貰ってから、俺とリリス、タイラーくんとヘレネちゃん、そしてヘンリー不動産前で待ちあわせたエドモンドさんと共に、都合5名で曰く付きのお屋敷へ。

 時刻はざっくり言うと21時くらい。

 

 エドモントさんは管理会社の立ち会いということで、鍵を持ってきてくれている。

 ウチのメンツはなんで居るのかって?

 俺が1人で行きたくないってゴネたからだよ。

 心霊スポット凸の1人検証みたいな真似、誰が好き好んでやりたいと思うんだって話ですよ。

 ジェシカさんはお肌に悪いからパスだそうで、ヘレネちゃんに「代わりにお願い」と軽く一言(ひとこと)

 断れない系メイドさんのヘレネちゃんは泣きそうな顔で一緒に来てくれている。

 

 タイラーくんが謎に付き合い良いのよな。

 さては俺に惚れてる? ンなワケないな。

 あ、アレか、やらかしの監視。

 ……身に覚えが有るから何も言えねぇ……。

 

 リリスは強制連行枠です。

 俺だけにやらせようとか、甘いんだよお嬢さん?

 

 という訳で、管理会社の人と押し付けられたメイドさんには同情しつつ、俺は張り切って屋敷へと向かう。

 

 世の中には、空元気とかハッタリとかが重要な場面というのも有るのだ。

 

 

 

 

 メイド服ってさ?

 こう、種類こそ有るものの、やっぱこう、押し()べて良いもんだよね?

 例の面接後の服選びで、まさかのメイドスタイル、それに近い服を選んできたへレネちゃん。

 もしや才能持ちか? と思い、後日、バーテンスタイルっぽい服を選んできたウォルターくんの物と合わせて、商業区の防具屋兼仕立て屋(テーラー)にデザインを持ち込み――リリスによるデザイン起こしで――作って貰ったメイド服は、無事にヘレネちゃんのハートを直撃してくれたらしい。

 ちょっと値が張ったものの、リリスのデザインに感動した店主の計らいでお値段はお勉強して貰いつつ、魔法処理に依る防御機能を拡張しており、戦闘にも耐えられる素敵な代物へと昇華している。

 

 え? ウォルターくん?

 

 ああ、なんか喜んでた気がするね?

 あと、多少髪伸ばしても良いよとは伝えといたので、これから伸びるんじゃないかな、髪が。

 そんな事よりヘレネちゃんなんだよ、今は!

 なにせ俺の敬愛する英国式メイドスタイルだぞ⁉

 あの長いスカートが良いんだよ!

 ヘッドドレスも――当然リリスデザインで――喜んでくれたし、調子に乗って10セット注文したよ。

 ちなみに、ウォルターくんのバーテンスタイルセットは5セット注文でした。

 今はヘレネちゃんしか着る人居ないし、サイズもヘレネちゃんに合わせてるけど、後悔は全く無い。

 

 俺がこの世界に来たのは、ヘレネちゃんのあの姿を見るためだったのかも知れない……!

 

「馬鹿エロドスケベイリス、妙な事考えてないで集中なさい」

 俺の名前、また変わったね?

 いい加減にしないとアレだぞ? 泣くぞ?

 俺は抗議を込めて視線を鋭くする。

 (はた)から見たら、多分ただのジト目ってやつだと思うけど。

「集中って、全然なんの気配も無いじゃんよ。お前らこそなんで呑気に遊んでんだよ」

 呑気にトランプ――大富豪とか、お前らタイラーくん相手になんて不利な勝負を――に興じる愉快な仲間達に苦情を投げつける。

 っていうかトランプとか有ったのかよ。

 小金稼ごうと思ってたのに、誰だよ先に持ち込んだ奴。

 いや、独自にたどり着いたのかも知れないけどさ。

 

 持ち込んだ者が居るのなら、それは俺やリリスと同じ転移者の可能性は考えた(ほう)が良さそうだ。

 ()()()が俺と同じ巻き込まれた者(プレイヤー)なのか、リリスと同じ自ら世界を超えた者(キャラクター)なのか、どちらなのかで結構話が変わってくると思う。

 

「ちょっと! このタイミングで革命って!」

「これは……プランが変わりますね……」

 トランプを引き金に割と真面目に考え込む俺の耳に、リリスの悲鳴とエドモンドさんの呟きが飛び込む。

 

 なんでエドモンドさんも普通に遊んでるんですかね?

 

「あ、あの、革命返しです」

「なんだと……⁉」

 そんな呆れモードに変化した俺の耳に、今度はヘレネちゃんの躊躇(ためら)いがちな声と、タイラーくんの驚愕の声が滑り込む。

 

 端的に言って、ザマ見よ。

 

 それにしても緊張感が無いメンバーを背に、俺は1階の大ホールで仁王立ちである。

 ……幽霊(ゴースト)かあ。

 割とゲームでは見かける敵だし、当然俺のプレイしていたゲームでも居た……よな。

 あれ、見た目は幽霊(ゴースト)っぽかったけど、違ったらどうしよう。

 当然のように照明の無い館内で、魔法による、熱の発生しないランタンが今の仲間たちの光源。

 正直、遊んでるんなら帰れと言いたいが、言ったら間違いなく全員帰るので黙っているしか無い。

 クランマスターの威厳? そんなもん何処で買えるんですかね?

 そんな事を考えながら、ホールど真ん中の大階段を見上げる。

 ウチの螺旋階段もお気に入りだが、こういう幅広の大階段って奴もスゴいもんだね。

 迫力が違う。

 正面の大階段を上って、2階で左右に折り返し、2本? の階段――()っても、これもかなりの幅広だ――を上ると3階へ。

 惨劇の現場はこの建物全体。

 酷かったのは、この大階段を上った突き当り、2階の大広間らしい。

 家族と、使用人の大部分がそこで、って話だ。

 ……つか、大広間が2階? 不思議な作りというか、プライベート空間が3階だから、2階も社交的な用途に使ってたんだろうかね?

 

 そんな考えを脈絡もなく頭の中で走らせ、ついでに改装案を練りながら、ホールから左右に拡がる通路の奥を見やる。

 特に夜目が効く訳でも無い俺では、最奥までは見通せないけれど。

 入浴施設を増設するなら、1階しか無いけど、このホールならおみやげコーナーの出張版みたいな、小さい店舗を幾つか置けそうだ。

 本店? は2階にして、1階はお土産コーナーとお風呂用品販売ブースを置くのが良いだろう。

 

「フルハウス、だ」

 タイラーくんのドヤ声が後頭部を叩く。

 続く悲鳴と嘆息。

 ……いつの間に、ポーカーに変わってるんですかね?

「うーん、やっぱり何か賭けないと面白くないわねえ」

 そんな事言いながら、どうやらリリスは伸びをしているらしい。

 ほほう?

 随分熱中してたように見受けますがね、姫様よぅ。

「賭けか。それも良いな、何を賭ける?」

 タイラーくんが乗る。

 つーかお前ら、遊びに熱中しすぎじゃないかしら?

「そうね……勝ったら、イリスを好きに出来るとか?」

 おい待て。

 なんだその年齢制限掛かりそうな提案は。

「なるほど、面白いですね。ウチで働いて貰うのもアリですね」

 (なん)で乗るの、エドモンドさんよ?

 つーか、労働力としてかよ。

「ふむ、確かに色んな意味で魅力には欠けるからな……そうすると、炭鉱に売るのもアリか」

 魅力に欠けるとかお前、ボディ以外は魅力のカタマリだろうがアァン?

 つーか炭鉱とか、アリじゃねぇよ、()しだ()し。

 そもそもクラマス売り飛ばそうとしてんじゃねぇよ。

 号泣すんぞコラ。

「こらこら、ウチの()を勝手に販売しないで。儲けは6:4ね」

 お前はなんで売上の権利主張してるんだ。

 そうじゃないだろ、()めろよ。

「仕方ないな。じゃあ、俺が4と言う事か」

 何が仕方ないんだ馬鹿野郎。

「あ、あの、私が勝ったら、イリスさんと1日一緒に居ても良いんですか?」

 天使は希望すら天使だった。

 もう、1日と言わず、ずっと一緒に居て良いよ。

 良し、クランマスター命令だ。ヘレネちゃん、勝って。

 ホントにもう、なにこの可愛い生き物。

 ヘレネちゃんは明日から公認クランマスコットで良いね、うん。

「じゃあ、私も参加しようかしらー。自由に動き回るのに、身体(からだ)が有ると便利そうだからー」

 なんだよもう、身体(からだ)目当てとか理解(わか)り易いと思いきや、憑依目的とか。

 憑いてるね、じゃねぇんだよ。

 俺が困るわ!

 

 一通り突っ込んでから、初めて俺は違和感に気付く。

 振り返るが、ランタンに照らされた5人は特に何かに気づいた様子もなく、呑気にカードとにらめっこだ。

 大階段を振り仰ぎ、ホールの隅々を見渡し、通路の奥にも再度視線を送るが、異常無し。

 気の……せいかな?

 どうも気を張りすぎてたらしい、と言うか、自分で思ってたよりもビビってたのかな。

 溜息と一緒に肩の力を吐き出して、気分転換代わりに、後ろにいる5人に馬鹿話でも振ろうと考えた時に、俺は違和感の正体に気付く。

 

 此処に居るのは、俺、イリス、ヘレネちゃん、タイラーくんとエドモンドさん、以上5名だ。

 そして、さっき振り向いて皆を確認した時、そこに居たのは5人。

 

 ……なんで()()()()()()()()()んだ?

 

 えー……なにその……えー?

 俺は意を決して振り返り、スゴい楽しそうにポーカーを楽しむ()()を見回し、ためらいがちに言葉を掛ける。

「……おい、リリスさん、タイラーくんよ。俺だけ真面目に働かされてるのをとやかく言う気は無いんだけどさ?」

 俺が声を掛けると、面倒臭そうに顔を上げた2人は俺の方に顔を向けて、声を発しようとして気付いたらしい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()の声が、思わぬ方向から聞こえた事に。

 

 俺に向けていた視線を外し、一度お互いに顔を見合わせてから、視線をカードを楽しむ輪の中へ。

「そちらのヒトは、どなた様?」

 俺の言葉の意味を考え、漸く視線を動かしたヘレネちゃんとエドモントさんも、すぐにその姿を視界に捉える。

 

 俺たち5人の視線の中で、()()()はにっこりと微笑んだ。

 

「あ、すみません、ドローしますー」

 とても柔和な表情で指を2本()て、2枚ドローの要求をしているが、気付いて下さい。

 貴女(あなた)以外、みな()が止まってます。

 

 

 

 確か、此処に出るのはちょっとはっちゃけちゃったご当主様だと聞いてたんですが。

 失礼を承知で年齢の話題を挙げるなら、結婚前とお見受けするお若いご婦人、というよりお嬢さんが半透明でお出ましである。

 お出ましどころか、自然に輪に混じってカードに興じるとか、レベル高くないですか?

 タイラーくんは無言で彼女に目を向け、少し考えたように動きを止めると、彼女が2枚手札を捨てたことを確認し、ストックから2枚、ちょっと遠いようなので引いて手渡してやる。

 ……いや、なんで普通に進めてるんだよキミタチ。

 

「あー、お父さまは、暴れるだけ暴れて、満足してしまったようですー」

 錯乱貴族の三女、丁寧に名乗ってから、メアリーちゃんはにこにこと教えてくれる。

 あー、そっか、成程。

 好き放題暴れて気が済んだのね。

 そう言う意味なら確かに、もうこの世に執着を無くしたかも知れないなあ、と、無責任に思う。

 

 でもそれ、暴れた(ほう)は、って話だよね?

 ……殺された(ほう)は……?

 

「あー。それはまあ、殺された直後は何処に向けたら良いか判らない憎しみとか、恨みとかー。それなりに酷かったですけどー」

 おっとりしたご様子で、ヘレネちゃんの淹れたお茶を味わうお嬢様。

 そんなメアリーちゃんに対し、ヘレネちゃんは真っ青な顔でだいぶ引き気味である。

 って言うか、のんびりした口調だから流しちゃったけど、結構凄惨な告白だよね?

「この建物を管理してくれる方々にはとても感謝しておりますがー、()()()()の頃は、割と見境無かったので、屋敷に来た方々には……ねぇ?」

 ねぇ? ってお嬢さん、何したの?

「あー、殺しては居ませんよー?」

 最近、俺の心の声と会話する人が増えた気がするんだけど、そんなに顔に出てるの? 俺?

 

 え? 実は声に出てる?

 そう言うのはもっと早く教えてよ。

 

 そんな思いとは別に、俺はエドモンドさんに顔を向ける。

「あ、はい、20年前、事件発生直後は(やかた)には立ち入れず、無理に入ろうとした領主様の使いの(かた)が大怪我をして、怒った領主様の御子息(ごしそく)が兵を突入させましたが、全員追い返されたという記録は有ります」

 俺の視線を受けて、エドモンドさんは説明しながら懐から取り出した帳面を捲る。

 何となく光源(ライト)を追加で唱え、エドモンドさんの補助をしてみる。

「ただ、お嬢様の仰るとおり、重傷者は出ておりますが、死者が出た記録は有りません」

 ほうほう。

 中々やるのね、このお嬢さん。

「元々、魔法はそれなりに使えましたがー、この身体(からだ)になってからは、一層魔法が得意になりましてー」

 なるほどねぇ。

 ふと思いついて、俺はこのお嬢さんの種族だけでも確認出来るかも知れない、そう気付く。

 

 実は鑑定スキルを持っていた?

 

 まさか、そんな訳はない。

 アイテムに関しては謎の力で「フレーバーテキスト」を見ることが出来るだけで、あれは所謂鑑定とは違うだろう。

 意味不明な力の作用という点は一緒か。

 元々ゲーム内で、なんでそんな事が出来るかなんて説明、されていないからなあ、あのゲーム世界。

 まあ、ゲームなんて往々にしてそんなもんな訳だけど。

 で、そういったゲーム内の謎仕様は、この世界でも適用出来ている。

 同種アイテムの自動取得とか、自動(かね)拾いとか、確認出来ているのは幾つか有る。

 そんな能力の中、今まで意識もしてなかった能力? を思い出したのだ。

 まあ、大げさなものでも何でも無く、単にターゲッティングした対象の名前が判る、っていうモノだ。

 ゲームでは、名前持ちのエリートかボス以外は、種族名しか判らない、レベルすらも不明だったが、実生活で使う以上、せめて「レベル」と「名前」を知りたいものである。

 その程度でも知れれば大きいし、出来ないなら、今後は使用頻度は下がるというだけだ。

 用がない時、意識していない時は発動しないというのは非常に助かる。

 常に視界の端になんかの名前とかが出続けるとか、気が散って仕方ない。

 

 で、その能力によると……?

 

 名前:男爵の狂った娘メアリー

 Lv:72

 種族:リッチ

 

 おぉん?

 簡易情報というか、人によっては「それだけ?」と言われ兼ねないシンプル情報。

 しかし俺は思いがけない情報量に驚く。

 知りたい情報が知りたいまま知れるって、スゴいね。

 都合が良すぎてこれもう絶対、俺、夢見てるか危篤かどっちかだよね。

 俺の状態はもうこの際置いとこう。

 名前、これ、ゲームなんかでよく見る(ふう)な二つ名っぽい名前だけど、変だよね?

 

 一家虐殺とかやらかしたのは、エドモンドさんの話とかでも、男爵さんだよね?

 

 だったらさ、表現するなら「狂った男爵の娘」じゃない?

 この書き方だと、まるで……。

 うん、今普通に話せてるっぽいし、良いんじゃないかな、掘り返したりしなくても。

「あー、それはアレですねー。殺された恨み(てき)な感情の発露ですねー」

 折角ぼかそうと思ったのに、また声に出してたのか表情を読まれたのか、メアリーちゃんがあっけらかんと言ってのける。

 殺された恨み(てき)なって、もうそこまでハッキリ言ってたら恨みでしか無いよね?

 まあ、本人が割り切れてる(ふう)なんだったら良いんだけどさ?

「10年位前まではそこそこ暴れてましたねー。やっぱり愛着の有る建物なので、あんまりヒトに踏み込んで欲しくないですしー」

 ほーう?

 そっかぁ、愛着有るよねぇ。

 一気に話し(にく)い雰囲気に、俺は気弱な視線をリリスに向ける。

 此処に愛着の有る、狂った娘さんに……銭湯に作り変えて良いですかって、話すんの?

 

 俺が?

 

 さりげに種族名が「リッチ」ってなってるけど、コレも確か、上位アンデッドよね?

 色々合わさって、フツーに超(こえ)ぇんだけど?

 優しいリリスは全然目を合わせてくれないので、もう無かった事にして帰ろうかと本気で思う。

 闘ったら勝てるとか、ステータスがどうとかレベルが云々とか、そういうコトじゃ無いよね?

「それで、皆さんはなんだか楽しげだったので私も興じてしまいましたがー? 此方(こちら)にはどういったご用件だったんですかー?」

 わあん。

 なんか色々考えて撤退しようか悩んでる所に、のんびりと斬り込んで()られたよ。

 しかも、なんかこっちが勝手なことを提案しようとしているのを察したのか、周囲の空気が徐々に温度を下げていく。

 怨霊化しているのか、これからなろうとしているのか、いずれにせよ良い傾向なんかじゃないよね、絶対。

 そんな(ふう)にビビる俺を置いて、頼れる姉貴分、リリスが颯爽と口を開く。

「えっとね、イリスが、此処を銭湯にしたいんだって」

 

 ってちょっと待ってリリスさんよ、お前(なに)意気揚々と俺を売ってるんだこの野郎!

 

 更に下がる気温に加え、室内だと言うのに風まで吹き始める。

「ちょ、カードが!」

 もうお前黙ってろよリリスさん!

 て言うかもう、トランプ(それ)しまえ!

「セントー? 此処をです?」

 ほーら、お嬢さんにロックオンされたじゃんか、俺が!

 身体(からだ)ごと俺の方を向いて、そしてゆっくりと宙に……ホールの宙空(ちゅうくう)に浮かび、俺を、俺たちを睥睨するお嬢様。

「セントーとは……」

 うーん、思い入れの有るお屋敷を改装するどころか、商業施設にしたいです、なんて、ほぼ第一声でいう事じゃない。

 リリスさんには、ホント、後で色々と話すことがいっぱい有るな、コンチキショウ!

「……一体何なのですー?」

 

 見つめ合う、俺とお嬢様。

 交差する、視線(好奇心)視線(怯え)

 

 んんんー?

 お怒りなの……だよな、コレ?

 お嬢様は中空で俺を見下ろし気味、程度の位置まで降りてきて、そしてじっと俺の目を見ると。

 徐に、小首を傾げる。

 あっ。

 これ、この子、もしかして。

 俺の身の回りの、「変な奴」枠と同じじゃないのか?

 ちらりと視線を向けた先の変な奴枠の方々は、流石にトランプは片付けつつも何とも緊張感のない様子で俺とお嬢さんとを見守っている。

 約1名は真っ青な顔で軽く震えてるけど。

 (なん)でお前らは他人事ポジションなの?

 ポジション的には、エドモンドさん以外は俺と一蓮托生だろうが。

 

 エドモンドさんについてはホントにゴメン、管理会社責任って事で諦めて下さい。

 

「そう、それです! 私も、そのセントーとやらが判りません、是非お教えいただきたいのです!」

 そんな、俺の中で無害枠に入り掛けてたエドモンドさんが突然猛る。

 えっ、なに、どうしたの突然。

 っていうか銭湯の概要は説明した筈……って、そっか、あの会議に、エドモンドさんは居なかったわ。

「あー……銭湯っていうのは……」

 良いんだろうか、コレ。

 説明したら、いやむしろ説明途中でお嬢さん大暴れって展開になり兼ねないんだけど?

 俺はエドモンドさんの熱い視線を受けつつ、お嬢さんにフワフワと纏わり付かれながら考え込む。

 

 なんだコレ、どういう状況だ?

 

 キレやすそうな相手を怒らせないようにしたいのに、なんか良く判らん状況にどんどん追い込まれているようで、俺は知恵熱というものを知覚し始める有様だった。

 

 

 

 悩みは深かったものの、悩んだ時間は短い。

 怒らせるかも知れないが、素直に言うしか無いのだ。

 嘘ついても余計怒らせるだけだし。

 そんな(ふう)に腹を決め、怒り始めたら撤退、そう考えつつ、事情を手短に纏めつつ織り交ぜて、銭湯と言う物についての説明を行う。

「まあ……! そんなに大きなお風呂なのですかー?」

 その結果、すっごく好感触(こうかんしょく)なのはどういう訳なんだ?

 

 お嬢さんや、この屋敷に愛着が有ったのでは無いのかね?

 

「勿論、お屋敷は大事ですよー? 具体的に言えば、私のお部屋がとても大事ですー」

 あ、自分のプライベートな空間を守りたいとか、そんな感じ?

 屋敷全体じゃないの?

「お屋敷全体だと、私1人だとお掃除大変なんですー。なので、たまにお掃除に来てくださるのは凄く助かるんですよ―」

 あー。

 10年くらい前に、それに気付いちゃったのかな?

 んで、それ以降は、ヘンリー不動産の管理の人には特に危害は加えず、と?

「はいー。たまに()る、此処を買いたいっぽい人は様子を見て、私の部屋に入ろうとしたり、後はなんか嫌な感じの人には帰ってもらってましたー」

 あ、そ、そうなのね?

 あれ、でもそうすると。

「あの、メアリーお嬢さん、俺も割と好き勝手する系の、嫌な奴じゃないの?」

 俺が疑問を口にすると、お嬢さんは俺の眼の前まで飛んできて、俺の眼をじっと見つめる。

「私の部屋、どうにかするんですー?」

 真っ直ぐに見つめられながら、俺は考え込む。

 

 勿論、お嬢さんのお部屋が大事なのは判るし、守りたいのも理解出来る。

 だが、お嬢さんの部屋が改装エリアに入っていたら……。

 

 そこまで考えて、はたと気がつく。

「お嬢さんの部屋って、もしかして3階の何処かかな?」

 普通こういうお屋敷は、というか一般家庭も割と同じだと思うが、上階(じょうかい)というのは家人のプライベート空間、というのが普通だ。

 そうなると、お嬢さんのプライベート空間は3階って事にならないか?

 俺の改装計画では、1階が各種銭湯とお土産コーナー、2階が本格? お土産コーナーとお食事処、酒場的な施設。

 そして、3階には事務所を幾つか、と言うプランだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はいー、3階の、南の端っこのお部屋ですー」

 ふむ。

 位置的に、人気の出そうな部屋であるな。

 しかし、これだけ広い屋敷だったら、3階の1部屋どころか一区画くらい()かずの(スペース)にしても問題ない気がする。

 ふむう。

「じゃあ、3階のその部屋に手を出さなきゃ、この建物の1階2階を改装しても大丈夫?」

 前置きにはちょっと過激なそんな言葉を皮切りに、俺はお嬢さんに、ついでにエドモンドさんにも、俺の構想をちょっと踏み込んで話す。

 現段階では半分妄想の領域の話も含めて、だ。

 説明を受けるメアリーちゃんとエドモンドさんが熱心なのは解るけど、なんでかタイラーくんがちょっと悪い顔してるのか気になる。

「まあ! それじゃあ、私は営業終了後とか、好きに使っても良いんですねー?」

 構想と妄想、それらをきちんと分けて説明した結果、お嬢さんが瞳を輝かせる。

 ……自分の部屋が無事なら、ホントに他はどうでも良さそうである。

 そうなると、ちょっとコレは、俺も考えを変えたほうが良さそうだ。

 屋敷の3階の一角、具体的にはお嬢さんのお部屋を保護出来れば、お嬢様から不満が出ることは無さそうだ。

 そうなると、お嬢さんの部屋を確実に守るための手を打たなければならない。

 

 俺はお嬢さんに、日中の活動は出来るのかを確認し、翌々日、改めて訪問する事を告げて、屋敷を後にする。

 これから帰って寝て、起きてすぐに仕事とか、わざわざ異世界でまでしたくない。

 それに、明日は明日で、ウチの連中に許可を得なきゃならない事が出来たしな。

 

 あー、我が事ながら面倒臭い。

 

 (なん)にでも首突っ込みたがるような、面白おかしい性格だったかな、俺。

 盛大に溜息を()きながら、どこか天真爛漫っぽさを感じさせるお嬢様の笑顔を思い出し、その顔に、カレンちゃんやティアちゃん、ギイちゃんに、リリス。

 見知った子供の笑顔を重ね、そして頭を抱える。

 自分の考えで確実に面倒事を背負い込む事になる。

 そんな予感を覚えながら、それでもお嬢様の部屋を守ると約束したのだから、出来る手は打とうと心に決める。

 

 ああ、またタイラーくん辺りに、ボッコボコに凹まされるんだろうなぁ。

 ウチのメンバーに相談する事を考えるだけで、溜息は飽きること無く湧いて出るのであった。




イリスはまた余計な事を思いついた様子。
人の良さと言うか、その甘さは吉と出るか凶と出るか。
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