イリスに対応する余裕はあるのか⁉
俺はつくづく公的な席という奴が苦手なのだと、ぼんやりと思い知らされた気分だ。
俺自身の思惑とか、お屋敷を使用するのはお嬢様の――
その他の細かい部分のアレコレとか、まあ
ホント、リリスとタイラーくんが居てくれて良かった。
「俺とて交渉事など苦手だ。だがまあ、お前は
いつもの仏頂面で頼もしい事を言ってのけるウチの幹部に、
「お前に任せるよりはマシだからな」
即座に飛び出る余計な一言に、がっかりするのは最早様式美だろうか。
そんな
色々と細かい契約なんかはこれから詰めていく事になるし、何よりこの街で初の試みという事で、不都合が出たらその都度協議すると言う事になりました。
まあ、不都合とか予想外のことが起きない訳が無いので、そういう事が起きても慌てない様に、まあ、各方面との連絡やらを怠らないようにしようと思う。
と言う訳で、お嬢様も案外乗り気なので、お屋敷の1階及び2階の改装が早速始まる。
3階は一部廊下に壁とドアを取り付けるのが大きな工事だが、それ以外のエリアの部屋からは備え付けの家具を運び出す事に。
メアリーちゃん自身が選別した、思い入れの有りそうな家具については、閉鎖エリアの一室に保管して、時々お嬢様が思い出に浸りたいんだそうだ。
例のお父様の部屋の内装と言うか、家具については一切躊躇なく全処分に決まった。
まあ、そりゃそうだよね。
お嬢様も良い笑顔で、
「二束三文で叩き売りますわ」
とか言ってたし。
アンデッドだけど、凄く人間らしい反応だと思うし、良いんじゃないのかな?
どうでも良い事だけど、俺、リッチってもっとこう、骸骨チックな見た目を想像してたんだが、お嬢様はまるで違う。
フワフワと浮かぶというか、場合によっては飛ぶ、「ハッキリ見える幽霊」と言う感じだ。
そう思って歩くウィ○なんとかこと、リリスに聞いてみたんだが。
馬鹿を見るような目で見られた。
霊体なんだから、本人の望む姿で出るものなんだと。
ゾンビやスケルトンとは存在そのものが違うんだと。
ほう、なんて答えた俺だけど、今ひとつ理解は追いついていない。
「……ホントに馬鹿ね。考えて無いだけじゃない。まあ良いわ、とてつもなく強い幽霊だと思えば良いわよ。まあ、
溜息まで添えて、リリスは俺にも判りやすく教えてくれた。
まあ、リッチって言うのが強力なアンデッドっていう認識そのものは間違いじゃないらしい。
あと、でかい声じゃ言えないけど、俺が注意すべき脅威でもない、って事も判った。
まあ、だからって油断出来る程、俺は強い
んで、そのお嬢様だけど、俺、というかウチのメンツを気に入ったらしく、度々
それも、日中に。
本人曰く、夜は出来れば寝ていたいんだそうで。
う、うん、良いんじゃないかな?
ただ、出来れば日中の移動は飛ばずに、出来れば徒歩で来て欲しいかな?
すっかり慣れたヘレネちゃんが、それでも多少青い顔で淹れてくれたお茶を美味しそうに味わうお嬢様は、俺の苦言に笑顔を向けただけだった。
え? 何、お嬢様も、俺の扱いそんな感じ?
俺の溜息はどうでも良いとばかりに、状況は動き始める。
レイニーちゃんと俺、そしてリリスとメアリーお嬢様が、ヘンリー不動産提携のリフォーム業者さん? と共に、先ずは1階の浴場の配置やデザインを詰める。
デザイン関係はもっぱらリリスとお嬢様、それとリフォームの専門家に任せるとして、俺とレイニーちゃんは給湯システムと、
給湯システムそのものは既存の物が有るので、それを元に、操作の簡易化と高出力化を目指す。
と言うか、実はその辺の仕込みは既に終わっていて……。
この世界の技術と、前世界の技術とのハイブリッドと言うか、メンテナンスに支障を来さないような設計を事前にリリスが行っており、それを円滑に説明するために、俺の脳内にその設計図と、そういった図面の引き方の講習動画を脳内に
有難うリリスさん、図面が有るお陰で説明もスムーズだったよ。
……じゃねぇんだよ!
俺の脳が不具合起こすから、気軽にほいほい映像流し込んでくるんじゃないよ!
あと、結構怖いんだよ、脳がバチンとか言うの!
次は泣くぞ! 泣くからな!
俺の泣き言は兎も角、実際に説明は実にスムーズで、給湯システムの設計から実際の製造までが問題無く進んでいる。
どうやら色々と画期的らしく、業者さん達がいつの間にか「レイニー式」とか「フランセスカ・システム」とか言ってて、レイニーちゃんを慌てさせてた。
「良いんじゃないの? レイニー式ボイラー、面白いじゃん」
俺が
「だって、設計したの、イリスでしょ? ダウンサイジングもそうだけど、操作の簡略化なんて、私、思いつけた自信が無いんだけど」
そもそもの設計はホントはリリスなんだけど、まあ、あんまり気にしない方向で行こう。
「今回は時間がないからしょうがない。でも俺、この設計くらいなら、時間さえ有ればレイニーちゃんなら届くと思うんだよね」
そう言って肩を叩くけど、納得しては居ない表情。
こういう性格だから、前に出てチャレンジして、時には失敗して、そして成長して行けるんだろうね。
失敗する時は派手にやるというか、仕事を取れる宛もないのに事務所構えて即座に逼迫するとかやらかしてるけど、若いしリカバリーも利くし、良いんじゃないの?
そんな事を考えたりしたけど、俺は別の事を続けて言葉にする。
「それにほら。
俺の声に、レイニーちゃんは顔を上げる。
そう、それはこの銭湯の秘密、給湯器の
無理に開けたら壊れるよ、っていう徹底した秘密主義仕様の、ウチの、と言うよりこの街の秘密兵器だ。
コレばかりは、開発はおろか製造もウチで行い、アイテムボックスを使ってわざわざ運んだものだ。
その正体は、
堅苦しい名前だが、要するにただの地下水に薬効を加えるモノ、魔法仕掛けで半永久的に作動する、設置型の「温泉の素」だ。
因みに、魔石板の接続スロットは6つ。
充分だと思うけど、これ以上の枚数をセットするとなると、装置そのものを増設するか、設計を見直すしか無い。
現状は大浴場は6室に別けられているので、男女別に1種類づつ楽しんでもらえる筈だが、ゆくゆくは花の
「うん、あれは頑張った!」
自信の漲る目。
そりゃそうだ、コレに関しては、俺が軽くアイディア出したけど、リリスの映像流しも無しに、レイニーちゃんがかなり早い段階で上げてくれたものだ。
簡単に、薬効の切り替えが出来るようになれば良いな、くらいの軽いアイディアを、魔石を砕いて板状に再錬成し、錬金術の起動陣を刻んだ上から更に魔石板でコーティング。
それを
大昔に流行った、多連装CDプレイヤーみたいなもんかな。
若い子は知らないだろうなー。
HDとかに、買ったCDのデータを取り込んでプレイリスト作って、とか、そんな事はとても一般的じゃあ無い時代も有ったんだよ。
まあ、オッサンの子供時代の思い出は置いといて。
あ、魔石ってのはアレだよ、良く読んだりしたこと有るでしょ、アレ。
魔物の体内に有ったり、
そいつの確保は俺が担当した。
ちょっと足を伸ばせば、ダンジョンとかあるもんだね。
え? その辺の話を聞かせろ?
あー、初めてのダンジョン奮闘記なんか、誰が喜ぶの。
気が向いたら、そのうちね?
「な? あー言うアイディアが出せる子が、俺やらが思いつく程度の事、出来無い訳が無いんだからさ」
装置を完成させた功労者にそう言ってニカッと笑って見せると、レイニーちゃんは顔を赤くして視線を逸らす。
おうん? どしたの?
「可愛い顔して、なんでそういう事をサラッと言えるかな、もうっ……!」
何やら真っ赤な顔で理不尽なことを言われた気がする。
俺、なんか悪いこと言ったかな?
そんな感じで給湯装置とかは(自宅での)テストも含めて出来たけど、実はまだ浴場用に地下水を引き上げていない。
まあ、工事そのものも1ヶ月程度の工期だし、寧ろ突貫だ! とか言って怪我人出されたり、逆に急ぐ余りに変な手抜きをされても困る。
焦らず慎重に進めて欲しいもんだ。
各給湯室はレイアウトも浴場も、形になりつつ有る所で、残りはアランさんに監督を任せる事に。
銭湯というものに懐疑的だったアランさんだけど、出来上がりつつある現場に色々とテンション上がってきたようで、特におみやげコーナーと食堂の
特に食堂の
何故かウチとこのウォルターくんが商業ギルドの一角で、この食堂で働く予定の料理人予備軍に料理を教えているとか。
ウォルターくんのとっておきを幾つか売るとか話してたから、頑張って貰いたい。
そう言えば、おみやげコーナーは地元に声掛けしてるけど、流石にすぐに反応できるようなトコは無いらしい。
フットワーク軽い店なんかも有りそうなもんだけど、流石に様子見なんだろうな。
そんな訳で、取り敢えず入ってすぐの目立つ位置を開けとく訳にもいかんので、1階2階共に、実に目立つ位置にウチこと「ノスタルジア」ブランドのボディソープやシャンプー、コンディショナーと、バラやラベンダーの香りの石鹸等を展開。
ゆくゆくは入浴剤(粉末状)も販売する予定。
後は、ミード用のポーションも置いてみよう。
石鹸類と間違えられないように注意しつつ。
そんな準備の最中、ウォルターくんが気になる事を口にしていた。
なんでも、料理人クランに話を通すかどうかで商業ギルドが割れているとか。
料理の腕は確か、っていう人間が揃っているが、揃いも揃って
ウォルターくんも気に食わないと言って憚らないので、そんなトコに荒らして欲しくない俺はすぐに商業ギルドに乗り込み、
なんか1人熱心に俺を説得しようとするハゲがいたが、俺のひと睨みで気絶。
商業ギルドの人間は鍛錬が足らん。
料理人クランの方は料理人クランで、何処からか話を漏れ聞いたらしいが「商業ギルドが絡んでる案件に興味はない」とか強気なご様子。
そういう事ならと、
興味無いんなら構わんでしょう?
一応、料理人クランの人間が上記のセリフを言っていた所にたまたま居合わせたので、きっちり音声は押さえて、その上できちんと指差し付きで宣告済みである。
……録音したのは俺じゃなくてリリスだけど。
後から旨味を感じた所で、入り込む余地なぞやらん。
地元の商店街の人は商業ギルドに加盟しているから、おみやげコーナーに限りが有るとは言え参加は自由だ。
賑わってくれたら良いなあ。
一応貴族の
此処が当たれば、次は庶民向け、つまりは俺向けなシンプルな銭湯を庶民のエリアに作るのだ。
そっちは単純に風呂メインで、店は石鹸類くらいのものを考えている。
欲を言えばコーヒー牛乳とかフルーツ牛乳を販売したいのだが、無いものは仕方がない。
今後の商品開発に期待しよう。
代わりに、周辺に商業ギルドと提携してる料理人の店とか、そういうのが有れば良いよな、ってな感じ。
夢は拡がるけど、先ずはこの第一歩からだ。
すぐに結果に繋がる訳じゃないし、次の季節のバザーは2ヶ月後だとか。
今は空いてるテナントも、客入り次第で埋まっていくだろう。
商業ギルドも工事なんかの資金を投下してる以上、ポシャっては困る訳で、宣伝は任せても良いだろう。
そちらのお手並みは拝見させて貰うとしよう。
完全に冒険者らしい活動を停止させているウチことノスタルジア・クラン。
及び、俺。
少年少女組もたまに銭湯の内装の手伝いに来てくれたり、ヘレネちゃんと家の掃除をしてくれたりと色々活躍してくれている。
タイラーくんとジェシカさんが謎に商業ギルドに顔だしてたり、冒険者ギルドでハンスさんやブランドンさんと何やら話してるのが不気味なんだけど、きっと気にしちゃいけないんだろう。
合間に、ヘンリー不動産に挨拶に行ったり、パルマーさんトコでアイテムボックスの入荷が有ったってんですぐに買い占めに行ったり、色々有りつつ、工事開始から1週間が過ぎようとしていた。
その目つきの悪い男が冒険者ギルドに顔を出した時、それが誰かを知るものは殆ど居なかった。
殆ど居ない、と言うことは僅かに存在した、という事だ。
たまたまいつもの様に、仕事中に酒を呷りに来た所で、ハンスはその男に気がついた。
平然と顔色を変えずにエールを喉の奥に流し込むと、グスタフとのバカ話もそこそこに事務所に戻る。
じっとりと汗ばむ背中を意識しつつ、ハンスは退屈そうに欠伸を隠しもしないブランドンに近付いた。
「悪食が来ているぞ」
ハンスの言葉に顔を向け、少し思案げな表情を浮かべた顔は、言葉の意味を飲み込むにつれ、みるみる青褪める。
「おいおいおいおい、冗談じゃねぇぞ。今ホールに居る冒険者はどうなってる」
頭を抱えるブランドンに、
「A級はグスタフ、他はC級以下だ。今日はノスタルジアの連中は居ない」
頭を抱えていたブランドンは、椅子に腰掛けたままで上体を
「はぁ、タイミングが良いのか悪いのか。で、悪食はすぐにでも暴れそうなのか?」
どうにか溜息は
すぐにも手を打ちたいが、正直ハンスの話では、今の冒険者ギルド内の
それ程多くも無かったA級冒険者の大部分は東の街の活気に惹かれ、拠点をそちらに移した。
近年、明らかに冒険者の質が低下しているのだ。
こんな状況で、国を跨いでの凶悪な手配犯の相手をさせるのは、少々
「いや、物色してる
ハンスの言葉に、それ以上考える事は無いとばかりに、ブランドンは立ち上がる。
「ハンス、衛兵隊に連絡だ。今のウチの戦力じゃ心許ない。それと」
言葉を区切ったブランドンの顔に、非常に嫌そうな色が差す。
「商業ギルドの、建築部門に、修理見積もりでも出すか。取り敢えず、俺も
予算の事を思って我慢しきれず溜息を漏らし、ハンスの巨体を伴ってホールへと向かったブランドンは、リリスやイリスの厄介さとは異質な、凶悪な厄介事がそこに居る事を認識する。
事を荒立てる雰囲気がある訳ではない。
だと言うのに、
あの男が何者か、知らない者でも警戒しているのだろう。
「おい、ハンスよ」
ブランドンは、声が掠れるのを自覚しつつ、やや後ろに居るはずのハンスに声を向ける。
そのハンスは、返事も無く、ブランドンと同じ方向を見ている。
「厄介事とは聞いていたがよ? 流石にアレは、聞いて無いぞ……」
厄介事。
自分の言葉に、自分で納得しながら視線は外せない。
ノスタルジアの、イリスの、まだしも笑える厄介事とはレベルが違う。
1国のみならず、複数の国家の「敵」と認定されている者が当たり前のようにジョッキを傾け、更には。
「……なんで、
ハンスが、言葉もなく首を横に振ったのが判る。
ひどく静まり返ったホールで、視界に収めた彼らの声はよく響く。
その内容は、ひどくどうでも良いものだった。
だが、そんな会話の内容よりも。
悪食と獣追い。
そんな危険人物が何をしに来たのか?
考えるまでも無く、ブランドンの脳裏にイリスの、リリスの顔が浮かぶ。
「国喰らいの……
聞こえない様に慎重に、口の中で呟く。
国喰らいの最期は、ブランドンも見届けた。
その
あの仇討ちに、来たのか?
ブランドンは口元を引き結ぶと、受付役の1人に近寄り、トーンを落とした声を流す。
「アマンダ。お前、イリスの屋敷の場所は知ってるな?」
声を掛けられた
「え? ああ、はい。勿論、知ってますよ?」
答えながら、イリスの住む屋敷を思い出す。
冒険者が住むには大きい、クランハウスとしても中々に立派な屋敷を。
「良し。お前さん、ちょいと行って、今日はギルドに顔を出すなって伝えて来てくれねぇかな? ちょいと厄介な連中が居るもんでな」
アマンダに答えるブランドンも、その後ろのハンスも、冗談めかすことも笑みを浮かべることもしない。
どう答えたものか逡巡するアマンダの目を見て、ブランドンは更に声を落として囁くように言う。
「例の国喰らいの仲間が……悪食と獣追いが其処に居る。仇討ちかも知れん、準備も
そこまで言うとブランドンは
領主様は人的被害を嫌うからな、そう口の中で呟くと、ギルドマスターは別の受付役に別の指示を出していた。
僅かな時間、呆気にとられたアマンダだが、気を取り直すと自分の受け持つ受付台に「休止中」の立て札を置くと、数人の訝しむ冒険者に愛想笑いを向け、制服姿で建物の外へと駆け出した。
それこそ領主様への報告案件だと思うが、これからモンテリアのギルド経由で報告をするのだろう。
イリスと言えば、冒険者歴で言えば新人だが、今やクランの1つを預かるマスターと言う立場であり、Cランク冒険者である。
どちらも冒険者登録から1ヶ月そこそこで手に出来る物ではない。
その冒険者ランクの急上昇の原因が、重要手配犯である「国喰らい」の捕縛だった。
その時にギルド内の和を乱した、という部分でそれこそ領主様より叱責を受け、本来ならBランク昇格のところをCランクに落とされたとも聞いている。
その有り様は、規格外。
アマンダは、道すがら考える。
規格外の新人冒険者と、規格外の手配犯。
どっちが強いんだろう、と。
まさかの来訪者、ギルド受付中ナンバーワン(俺比)のアマンダさんの登場に、テンション
何事かと話を聞いた俺達は、各々腕組み等思い思いのポーズで物思いに耽る。
「……やっぱこれ、俺の蒔いた
天井を見上げて唸ってみるが、だからと言ってやらかした事は無かった事にはならない。
「阿呆。アレは降りかかる火の粉を払っただけだろう。やり方は兎も角としてな」
そんな俺の独り言に、タイラーくんが溜息を
「……そう言えば、あの国喰らいとか言う女、王都とやらに復讐するんだって言ってたけど」
仮面越しに、リリスが言葉を放つ。
来客と聞いた段階で付けたらしい。
俺も付けてたけど、来客がアマンダさんと知って外してしまっていた。
面倒な腹芸とか出来ない
我ながらとんだ人見知り具合である。
「今ギルドに顔出してる、えーっと……『あの女』の仲間も、狙う先は王都って所なの?」
あの女こと、国喰らい。
俺は途中でリリスと入れ替わったからあの女の目的だったりとかは、後からリリスに教えて貰って知っている程度だ。
入れ替わらなくても勝てただろうと俺は思ってるし、リリスもそこは否定しないが、ただ
反発心が湧かなくもないが、でも、リリスの言う通りだろうと素直に思う。
俺には余裕が無さ過ぎる。
ホント、なんでクランマスターなんてやらされているのか、理解に苦しむ程度には器が小さいんだけどなぁ。
「今来てるのは、『悪食』と『獣追い』って聞いてるから、2人とも王都には用は無い筈よ? 『悪食』は東の、『獣追い』は北の、それぞれそんなに大きくも無い国が復讐の対象だった筈」
ミードを口に運んでから、アマンダさんが答えてくれる。
「正直、手配で回ってる人相書きと違い過ぎてて、サブマスとギルマスがなんで気付けたのか、というか本当に
アマンダさんが事も無げに言うけど、え?
なにそれ。
詳しく聞くと、魔法を使用した似姿――写真の様なもんかな――は有るが、それが出来る術者が少ないので、どうしても手配書は似顔絵が主になるんだとか。
んで、手配犯をのんびりスケッチする余裕なんて現場に有る訳も無く、大体は伝聞を元に作られるから、場合に依っては正確性に難が有る、とか。
……場合に依ってっ
……カメラ的な物を作れたら、随分儲けられそうな気がするね?
「それは
色々と実感の湧かない俺が何となく空想を遊ばせている傍ら、リリスがクッキーを手にしたままで問う。
……確保しなくても、俺とお前以外は……あ、ウチのメンツは普通に食いそうだな。
ごめん、リリス、ちゃんと食べたいやつは確保しといてね。
「困りものなのよねぇ、実際のトコ。
リリスの質問に、アマンダさんが深い溜息と共に答えてくれる。
それを聞いて、顔を見合わせる俺とイリス。
うん?
あの、国喰らい、あいつも
あれは、
「あー……アマンダさん、あの、国喰らい? あれの戦力評価はどうなの?」
嫌な予感が渦巻く。
俺が控えめに差し出した疑問に対する答えは、予想の手をすり抜けてくれた。
「国喰らいについては……あのね、本来なら現状のこの街のギルド戦力でギリギリ、っていう判定だと思うんだけど」
えっ。
俺は変な声が出そうになるのを何とか抑える。
つまりは、今来ている
いや……言っちゃなんだけど……。
ちょっと、相手の実力を高めに評価し過ぎでは?
不明な戦力を過小に見積もるのは危険だけど、過大に見積もるのもどうかと思うんだけどなぁ。
或いは、俺があの国喰らいの実力を実際に目にして、戦ったからこその感想なんだろうか?
そう思う俺の耳に、アマンダさんの言葉の続きが滑り込む。
「例の魔獣、あれはどうも『獣追い』の能力が関係してたらしくて。あの魔獣が何匹居たか不明だけど、あの獣追いの獣と国喰らいのゴーレムを同時に相手にとなると、この街の戦力全部出してどうにかなるか、って程度には厄介だったみたいね」
俺は口元に手を添え、椅子の背もたれに背を預けて押し黙る。
今、この街の「戦力全部」って言った?
冒険者ギルドだけじゃなく、衛兵も掻き集めて、それで互角かどうか?
口にしかけた俺の脳裏に、ゲーム画面に踊る気の狂った様な
そうか、俺の感覚のほうがおかしいのだ。
あの狂ったダメージでなければ対抗出来ないイカれた世界のモンスター達は、此処には居ない。
アレは此処の普通ではない、それを忘れたら、俺がこの世界の化け物と化してしまう。
そう思うが、一方で。
消極に過ぎてギルドに、この街に何か被害が出てしまったら、俺はその時自分を許せるだろうか?
アマンダさんの話を総合するに、大人しくして居てどうにかなるとも思えない。
戦って負ける予感もしない。
……これは、俺が出てふん
俺が下手打っても、リリスもいる訳だし。
そう思ってリリスに目を向けると、
多分、似たような事を考えてるんだろう。
想定している役どころは逆かも知れないけど。
俺も1つ頷くと、アマンダさんに視線を向け直す。
「まあ、そうなったら俺が出るよ。取り敢えず話を聞いてみて、あんまりにも物騒な感じだったらやっちゃえば良いんだろ?」
アマンダさんは、言葉を受けて何を答えたものか、ただ立ち上がる俺を見て口をパクパクさせている。
「この短絡馬鹿が。
一息に忠言と
「馬鹿だからでしょ? まあ、私も今回に関しては、イリスにどうこう言えないけど」
随分辛口じゃないのさリリスさんよ。
「ほら、行くわよイリス。向こうが2人だったら、私が出ても卑怯とは言わないでしょ、向こうさんも」
どこか楽しそうに、という程隠すつもりも無いようで、リリスは露骨に楽しそうに椅子から立ち上がる。
まあ、知らないから卑怯とは言わないだろうなあ。
でも、俺はやっぱり、二人がかりだとズルいと言うか、可哀相な気がするよ?
と言うかリリスさんや、お前さんはなんでいきなり戦う前提なん?
フリでも良いから、話し合う姿勢は見せとこうぜ?
先ずは話し合うところから、ただし拗れようが縺れようが知ったこっちゃない。
暴れる場合は街の外で。
それだけを話し合った俺とリリスは、口々に慎重論を唱えるクランメンバーとギルドの受付嬢を引き連れて冒険者ギルドへと足を向けるのだった。
自称日常系ファンタジー作品、久々に戦闘なるか?