拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

29 / 50
あけましておめでとうございます。

おそくなりました(てへっ



ほんとスミマセンでした(土下座


名物が出来たので、名物を重ねよう

 銭湯のオープンから1ヶ月も過ぎました。

 その結果何が起きたかと言えば、商業ギルドと冒険者ギルドの熾烈な招致合戦でした。

 

 ……何してんだアンタら。

 

 まあ、経緯を物凄く平たく言うと、銭湯人気が出すぎたのだ。

 挙げ句「風呂入るってレベルじゃねえ」なんてクレームまで出る始末なのである。

 最初は珍しいモノ見たさのお客さんで賑わっているのかと思ったが、開業から1週間過ぎ2週間経ち、客足が落ち着きはしたものの、それでも連日、特に夕方からは大盛況の有様である。

 

 そんなに風呂の需要あったの?

 なのに何で、今まで誰も思いつかなかったの?

 俺が思いつく前に誰か始めてても良さそうなもんだと思うんだけど、どうなのそこんトコロ?

 

 そんな俺だけど皆さんいかがお過ごしですか?

 

 

 

 それにしても、分からないものである。

 最初から貴族様向け、決して安くはないけど高すぎないラインを目指した料金設定だったから、週末とか特定の日はある程度賑わうかも、くらいのボンヤリした皮算用はしてたけども。

 妙な裏切られ方をしたものである。

 俺的に最も意外だったのは、お屋敷にお風呂のある貴族様も割と御来場される御様子である事。

 なんでそんな方々に人気なのかと思えば、どうやら「コンボ」が炸裂しているらしい。

 

 ちょっと前から話題になっていたボディソープと、シャンプーやらコンディショナーやら、これが意外なことに女性のみならず男性にも人気が出た。

 悪乗りして「違いのわかる男シリーズ」なんて煽り文句を付けた男性向けのシリーズも人気になり、更にはウチの女性陣(主にリリスとジェシカさん)が中心となって作り上げた「極・美」シリーズとオトナな女性向けの「艶」シリーズも甲乙つけがたい売上を叩き出している。

「艶」シリーズは特に、洗い上がりの肌や髪が見違える程だそうで――試したけど俺にはイマイチわからなかった――購入数量制限付きだと言うのに店頭に出せばあっという間に売り切れるのだという。

 売れすぎてウチのみならず、協力を頼んでいた工房でも手が足りず、已む無く商業ギルド監修の元専門の商会を立ち上げ、今まで石鹸しか作れないとうらぶれていた錬金術師見習い達を大量雇用し、増産体制を整えた程だ。

 ウチだけじゃあ当然捌ききれない発注量だったし、レイニーちゃん筆頭に協力してくれてた工房の連中も限界を超えつつあったので、本当に助かった。

 

 んで、その人気の石鹸類を買ってその場で試せる、って流れで大浴場に足を運び、森林をイメージした香りだったり花の香り、柑橘の香りという今までこの世界にはあんまりなかった香りの湯に衝撃を受け、更には打たせ湯や風魔法を応用したジャグジーバスなど、物珍しいモノまで取り揃えた空間で心ゆく迄入浴を楽しんでしまうと、結構癖になってしまうらしい。

 あ、石鹸類にはちゃんと肌や髪に優しい成分を配合しているので、安心してご使用いただけます。

 

 そうしてお風呂を堪能して頂いて、風呂上がりに興味本位で2階に足を伸ばせば、其処にはレストランや酒場(バー)が。

 思い思いに仲間で酒を楽しんでも良し、料理に舌鼓を打って頂いても良し。

 流石に貴族様が食べるにはちょいとチープかも知れないけど、まあ、本格貴族様は少ないだろうし(願望)、風呂上がりに1杯くらいの感覚で足を運ぶ客で酒場は予想通りに賑わい、奥様お嬢様方には意外なことにケーキ類が当たったらしい。

 持ち帰り出来ないので、代わりにレシピをせがむ貴族様もいらっしゃるとか。

 んー、無茶を仰る。

 これ、商業ギルドのアランさんとか、絶対持ち帰りの方法を模索し始めてるでしょ。

 近場だったら、とか思うけど……。

 変に持ち帰りさせて食中毒でも起こされたらシャレにならないので、簡単にはいかない部分だなあ。

 生クリームがなぁ。

 

 とまあこんな風に、石鹸で身体(からだ)を洗ってさっぱりして湯に浸かって、そして呑む、あるいは食べる、って流れで楽しむコンボが割と早い段階で確立。

 かと思えば、開業1週間でもう、レストラン目当ての奥様お嬢様がやってくるようになったとか。

 んで、早速喫茶店を作る事が決定したんだとか。

 

 早すぎませんかね? 急ぎすぎてコケても困るけど、アランさんのゴーサインだし、信じちゃって良いのかな。

 一方でおみやげコーナーはまだそんなに充実してないので、これからに期待かな。

 地元のお店に営業かけるトコからだろうけど、それは勿論商業ギルドの皆さんに一任である。

 

 そんなこんなで人気が出過ぎたのは良いが、意外な事に「貴族様」あるいは「貴族さん」が多すぎて、一般庶民にはちょっと居づらい雰囲気になってしまい、急遽一般向けの銭湯を開業しようという流れになったという所で、冒頭の話になる。

 一般市民と庶民派貴族向けに、商業ギルドと北側商店街の中間地点辺りに開業したい商業ギルドと、一般市民と冒険者向けに商売したい冒険者ギルド。

 互いに譲らない各ギルド代表に挟まれ、なんでそんな場に呼び出されているのか皆目見当もつかない俺はおざなりに吐き捨てる。

 

「両方作れば良いじゃんよ」

 

 事も無げに俺が言えば、予算がどうの、立地的に近いだの、云々言い始める両者。

「予算って、まさか本館レベルのを作る心算(つもり)なん? 庶民向けなら、もっとシンプルで良いと思うよ。美術品がなくて白い壁が寂しいってんなら、壁に名峰でも描けば良いじゃない」

 湯船だって男湯1に女湯1、香りは日替わりで変えれば良いじゃん、と。

 販売や飲食の売上は、と言い出す両者に、俺は溜息混じりにヒラヒラと手を振る。

「石鹸類は在庫おいて、最悪は番台で売りゃ良いよ。そうでないなら、小さな売店でも作ればそれで良いだろうし。あ、タオルなんかも売ると良いかもね」

 タオル類なんかは、本館でも販売しても良いかも、と今更思いつく俺。

「で、酒や料理は、何も同じ建物でやんなくても良いじゃない。近所の店と協力しなよ」

 これには冒険者ギルド側がほくそ笑む。

 ギルドの酒場(バー)へ誘導する事を思い付いたらしい。

 あんなムサいとこに、一般人連れ込もうとするんじゃないよ。

 一方で、なるほどと考え込む商業ギルド。

「そんな感じで、一般向けに作るんなら、入浴料は安くして、その代わりハコが安っぽいのは我慢して貰えば良いのさ。あくまでも風呂メインで、食事やら酒は近所にありますよ、ってね。んで、たまの贅沢がしたいなら、本館に行ってもらえば良いんだし。逆に一般向けを同じ料金やらにしちゃうと、貴族様方が気を悪くするんじゃない?」

 ちょい早口になりそうなのを頑張って抑えつつ言えば、両代表は腕組みして考え込む。

「あとは、それぞれに小さくても特色付けるとかね。商業ギルドの方にはジャグジーバスも付けたり、冒険者ギルドの方は……湯治用の薬湯とか?」

 そんな風に思いつくまま適当に、無責任にアイディアを放り投げる。

 どれを拾ってどう収集付けるのか、その辺はそれぞれにお任せだ。

 斯くして、アルバレインから異例の、建物3軒の新規建設嘆願がモンテリアの領主様に提出される事になった。

 1つは冒険者ギルドに併設させる銭湯用の建物だけど、もう2つは本館の庭の一角に、衛兵詰所と喫茶店を。

 詰所と喫茶店は敷地内だし、他よりはちょっと許可を得やすいだろうって話だけど、銭湯の方はどうかなあ。

 あ、喫茶店は最悪、規模を縮小して最初のプラン――本館2階――での営業も視野に入ってるそうです。

 ダメ元で申請出すの、どうかと思うんだけどなあ……。

 

 待ちかねてる一般人もいるだろうし、俺なんかはいきなり新築じゃなくて良いのでは、と思うんだけども。

 ギルドハウスに併設して酒場(バー)の売上上昇をも目論む冒険者ギルドの代表……態々出張ってきたブランドンさんが譲らないのだ。

 っていうか何やってんだギルドマスター、あんた忙しいんじゃないのか。

 まあ、商業ギルドの代表もアランさんが出張って来てる訳で、どっちも本気すぎて、俺。引いちゃう。

 ブランドンさんはまた近々報告でモンテリアに行くとかで、その時に領主様にお願いしてくるんだそうだ。

 まあ、怒られない範囲で頑張って欲しいけど、本館の、特に衛兵詰所は絶対必用だからそっちは疎かにすんじゃねぇよ? と念を押す。

 

 念を押したけど不安が拭えないのは、何でだろうね?

 

 

 

 クラング・オーガを構え、俺は目を閉じる。

 脳裏に思い描くのは、あの黒い獣。

 化け物じみた殺気を抱えたあの獣は、動きが見えていたにも関わらず、終始俺を圧倒していた。

 妙な所で覚悟の足りていない俺は挙げ句取り逃がし、結果奴に復讐を遂げさせてしまった。

 

 剣を握る手に、不必要な力が籠もる。

 

 ベルモンドとか言う街は衛兵隊も大きな被害を出し、貴族様お抱えの私兵隊に至っては半壊したのだとか。

 そんな事を、「プレイヤー」でも「キャラクター」でもないあの男が実行してのけたのだという。

 流石、国を跨いで手配される「仇成(あだな)す者」の一角だけある、と言うべきなんだろうか。

 そんな危険人物だという認識も甘く、相手するにも覚悟が足りず、その先にあったのが大災害とも言うべき被害というのが心に刺さる。

 

 脳内に踊る黒い獣相手に、俺は一心に剣を振り続けた。

 

 

 

 誰も居ない北の草原で剣術の素人真似事を日課にして3日ばかり後、屋敷に戻った筈の俺はグイくんとギイちゃんに両手を取られ、北門へと向かっていた。

 一緒に歩いているのは他にリリスとタイラー・ジェシカ組という、まあ、いつものメンツに、グスタフさんを引っ張って来ている。

 今日は子供組の4人は薬草採りに。

 グイくんギイちゃんは久々の同胞への顔出しだが、変に気負ってる風でもなく、暗い記憶に俯く様子もない。

「んで、リリスさんよ。ウォッカが出来たってホントかい?」

 仮面に陽光を反射させながら、俺は姉ことリリスに振り向きながら言う。

「任せてよ。って言うか、ここまで引っ張って来て出来てません、とか。そんなのネタとしては高度すぎるでしょ」

 もう、ドヤ顔が想像できるくらいに仮面から覗く口元がニヤけてるけど、それは高度というか、笑えないって奴だ。

「おう、なんか判らんが、なんで俺までお前らに付き合わされてるんだ?」

 そんなやり取りの俺たちに、酒樽の妖精さんが不思議そうに声を放り投げてくる。

 この世界に酒精の強い酒は存在していないか、少なくとも近隣にはないため、ウォッカなんて言ってもピンと来ないのだ。

 ドワーフの火酒なんてファンタジー界隈だと有名だと思うんだが、ちょっと前に聞いた所によると「そんな良いモン、ドワーフが表に流すわけ無いだろうが」とのこと。

「あん? そんなモン、これから行くゴブリン村が、今後の重要防衛目標になるから、代表連れて行くに決まってんじゃねぇか」

 俺は仮面メットをずらし、イタズラに微笑んで見せる。

 どうせやんちゃなツラにしかならんだろうけど、色仕掛けの心算(つもり)も無いし、かえって丁度いい。

 そんな顔を見せられたグスタフさんは、タイラーくんと顔を見合わせて不思議そうだ。

「お前んトコのお嬢さん、変なモンでも食ったのか?」

「いや、ウォルターの食事くらいの筈だが……いや、拾い食いまでは管理出来んから、なんとも言えんが」

 この野郎ども……。

 本人を前に好き放題言いやがる2人に素直に(いら)つく俺だが、非常な努力を持ってその(いら)だちを飲み込む。

「うっせーな、行きゃわかるよ」

 グスタフさんとタイラーくんの試飲は1杯だけにしようか、そんな事を考えながら、楽しそうに俺に纏わり付く子供ゴブリンと共に歩く。

 ゴブリン村の様子は外からは眺めてたけど、踏み入るのは初めてだ。

 そう考えたら、なんだか年甲斐もなくワクワクしてしまう。

 

 そういや、今更だけど、俺は「イリス」として、肉体年齢は何歳なんだろうか?

 そのうち、リリスにこっそり教えて貰おう。

 

 

 

 アルバレイン北門外、ゴブリン村。

 国喰らいだったか、魔女の災厄に襲われた、4つの村の生き残り……正確には「3つ」なんだけど。

 残る一つの村は、グイくん、ギイちゃんを残して滅んだ。

「おお、仮面の魔女。妹連れは初めてじゃないか」

 門の外、防壁に張り付くように広がる小ぢんまりとした村に足を踏み入れると、青年ゴブリンが出迎えてくれた。

「まあね。改めて紹介するわ、これが妹のイリス。それと……」

 順番に、メンバーを紹介するリリス。

 俺は礼儀に習って、仮面を外して一礼する。

「俺はカイ。この村で、村長なんて任されている」

 気さくな笑顔で右手を伸ばしてくる若い村長に、俺は迷わずその手を取る。

「あんた達のお陰で、小さいとは言えみんな平和に暮らしている。その上、仕事まで貰えるなんて、礼の言いようが無いくらいだ」

 すごく良い笑顔で真正面に言われると、なんだか気恥ずかしい。

 鼻先を掻きながら、俺は何もしてないとか、ゴニョゴニョと誤魔化す。

 そんな俺に輝かんばかりの笑顔を向けながら、カイくんが言う。

「そんな事はないさ。さあ、今日はウォッカを見に来たんだろう? 完成してるから、早速行こう」

 カイくんの言葉に、俺もニヤリと返す。

 そう、今日の目的。

 それの出来次第で、この村はアルバレインに欠かせない重要な存在になる――かも知れないのだ。

 

 正直に言えば、俺はウォッカに限らず、酒造の仕組みなんか何一つ全然さっぱり判らない。

 こればかりは俺の脳に映像を流してもどうしようもないと思ったらしいリリスは、かなり早い段階でゴブリン村に酒造りを持ちかけ、実験を始めていた。

「なあリリス、ブランド名はどうすんだ? リリスウォッカ? ゴブリンズウォッカか?」

 俺が軽口のノリで問うと、リリスは思いがけず考え込む。

「んー。うん、ゴブリンズの方が良いかもね。なんだか楽しそうだし」

 ちょっと考えてからの答えは、俺にはさっぱり理解(わか)らないが、まあ、リリスが楽しそうならそれで良いと思う。

「まあ、今日の出来を確かめて、場合によってはそのままギルドに持って行くわよ。商業ギルドの方は、纏まった数が出来てから、かしらね」

 珍しくリリスが先走ってる。

 それくらい楽しみなんだろう、なにせ、待ちに待ったウォッカ。

 待ちに待ったバニラエッセンスへの道が、ようやく開くのだから。

 ただ、それだけの為に造るのは勿体無いので、せっかくだし冒険者ギルドに売りつけよう、その為に、まずは呑兵衛代表に味わってもらおう、という事で、グスタフさんを引っ張ってきた訳だ。

「なあ、イリス。この匂い……酒か?」

 目的の建物に近づいた所で、グスタフさんが鼻をひく付かせて周囲を見回し、疑問を口に乗せる。

 微かに香るとは言え、反応早すぎだろう、酒樽の妖精さんよ。

 タイラーくんとジェシカさんは、言われて漸く気がついた様子だってのに。

「流石はグスタフさんだぜ。この村では、強い酒を造らせてるんだ」

 俺が答え終わるか終わらないかのタイミングで、グスタフさんが俺の肩を掴む。

 振り向くと、思いの外真顔のグスタフさんが。

 え? なに?

 ……まさか、コッチでも、資格無しでの酒造はご法度なの?

「強い酒ってのは……火酒か?」

 すっごい真顔に色々考えてしまった俺の耳に飛び込んできたのは、そんな一言。

 だけど超真顔。

 このオッサン……そんなに興味シンシンなのかよ……。

「あー、まあ、うん、種別としては火酒で間違いないよ。火酒にも色々あって、此処で今造ってるのは、さっきから話してる『ウォッカ』だな」

 少々気圧されつつも、説明する。

 って言うか俺だって、リリスに概要しか聞いてないから訳知り顔で説明しようにも、これ以上のモンは持ってないんだけどな。

「強いけど、変な癖も無いから割と飲みやすいと思うわよ? ただ、慣れないうちにカパカパ開けたら、大変なことになるとは思うけど」

 という訳で、酒造部門統括のリリスさんがさらりと説明してくれる。

 っていうか、ちょっと待てキミ。

「え、なに? リリスさん、キミもう呑んでたの?」

 客観的な報告風で、しかし実感の籠もった言い方に俺はつい反応してしまう。

 別にズルいなんて思った訳じゃないよ?

 うん、思ってない。

「あのね。試飲も無しに、出来たなんて判断出来るわけ無いでしょうが」

 ちょっぴりの嫉妬心をいじらしく隠す俺だったが、あー、言われてみりゃそうだわな。

 頬を膨らませて見せるリリスにちょっと悪いと思いつつも、こういう時には何も言わない俺。

 でも、なんか拗ねてるリリスが可愛くて、なんだかにこにこしちゃう。

「ヘラヘラしてんじゃ無いわよ、全く……」

 にこにこしてたら、怒られた。

 小娘心は理解(わか)らんなぁ。

 

 

 

 ショットグラスに注がれた透明な液体を、各々が思い思いの顔で覗き込む。

 因みに、グイくんとギイちゃんは果実飲料(ジュース)だ。

 こんな強い酒を飲ませるには、まだ早いんじゃないかと思うし、うん。

 テーブルに並ぶ瓶入りの果実飲料(ジュース)自体、この先まだ出番があるし、ね。

「こんなに透明で、これでお酒……なの?」

 ジェシカさんがグラス越しに反対の景色を透かして見るような仕草と共に感想を漏らす。

 水と疑っているのかも知れない。

「だが、香りは強烈だ。これだけで酔えそうだぞ」

 嬉しそうに言うのはグスタフさんだ。

 気が逸ってしょうがないらしいが、意外な事にいきなり口を付けるような真似はしないらしい。

「さっきリリスも言ってたが、ホントに強いから気をつけてくれよ? ミードやエールの比じゃないからな?」

 そう言う俺だが、当然最近完成したばかりの酒なんて呑んだ事はない。

 じゃあなぜ、そんな注意喚起が出来るのかと言えば、そんなモン決まってる。

 

 元の世界(むこう)で酒を覚えたばかりの頃の、痛い記憶だ。

 罰ゲームでウォッカ一気とか、ホント、絶対にやっちゃ駄目だぜ?

 悪酔いするとかどころでなく、ホントに人死が出る。

 運の良いことに俺の周囲では居なかったが、急性アルコール中毒とか、ホントにヤバいからな。

 

 心配する俺を他所に、特にグスタフさんが辛抱堪らん様子なので、思わず笑ってしまいながら音頭を取る。

「んじゃあ、いただきますか」

 小ぶりのグラスに注がれたウォッカの威力は見た目では測れない。

 初めて飲むそのアルコール度数に、こいつらはどんな反応を返すのか。

 そう思った矢先、タイラーくんが咽る。

「だぁから、ミードやエールの比じゃねぇから気ぃつけろって言ったろ?」

 エールを呑む要領で呷ったのを見てたから、まあ、こうなるだろうとは思ってた。

「なんだこの……喉が焼ける……!」

 水のような見た目に騙されたな馬鹿め。

 横目でそんなタイラーくんを眺めつつ、ウォッカを舐めるように口に含み、そのクラクラするようなアルコールの奔流の中の、微かな甘さを楽しむ。

 いや俺、ホントはウォッカ苦手なんだけど、ちびちび呑む程度ならなんとかなるんですよ。

 俺の飲み方を見たジェシカさんが真似して口に含み、それでもその強烈なアルコール度数に驚いたようだ。

「これはキツいわねえ……私にはちょっと強すぎるかも?」

 なんて可愛らしいことを言いながら、グラスを少しづつ傾ける。

 諦めるとか、そういう事はしないんですね。

「これは……なるほど、これはクセになるか」

 一方でタイラーくんはさっき程ではないが、俺やジェシカさんなんかに比べると遥かに良い呑みっぷりでグラスを傾けていく。

 お前なあ、そんな呑み方して、俺は知らんぞ。

 つまみにチーズでも用意しておけば良かった。

 あ、この世界、チーズ有ります。

 俺の夢の可能性は勿論高まるんだけど、先駆者というか、先輩というべき方が来てる可能性も勿論ある訳で。

 会いたいような、そうでもないような。

「なるほど、こいつは美味いと思うが、しかしこれっぽっちでは判断が難しいな」

 そんな事を言いながら、空のグラスをもの寂しそうにひっくり返したり覗き込んだりしている行儀の悪いおっさん。

 酒樽の妖精は、まるで水のようにウォッカを飲み干していた。

 アルコールに対する順応性が高すぎやしませんかね?

「グスタフさんよ、あんま呑みすぎると明日やべぇぞ? 今日は試飲だから、手加減してくれ」

 言いながら、俺はウォッカのボトルを手にすると、グスタフさんのグラスに注いでやる。

「他におかわりは……」

 言いながら見回すと、当たり前のようにグラスを掲げるタイラーくん。

 こいつ、ホントに大丈夫なのか?

 今は平気そうだけど、ウォッカ(コレ)、後から効いてくるんだよな……。

「私は、このままじゃちょっとキツいわぁ」

 そう言って苦笑いするジェシカさんだけど、その手元のグラスはきっちり空だ。

 俺はまあ、ある程度慣れてるけど、ジェシカさんは初めてのウォッカだってのに。

 やっぱ順応性が高いんじゃなかろうか。

「んじゃあ、ジェシカさんとリリス、あと俺は、もうちっと飲みやすくしてみるか」

 不思議そうな顔で、俺の行動を予想できないジェシカさんと、待ってました顔のリリス。

 それぞれのグラスの、3分の1程度までウォッカを注ぎ、柑橘系の果実飲料(ジュース)を加えて、バースプーン……は無いから、小さめのスプーンで軽くステア。

 これだけで飲みやすさも、ウォッカに対する印象も大きく変わる。

 しかも、コレでもまだエールなんかよりアルコール度数高いんだよね。

果実飲料(ジュース)を混ぜたの?」

 興味津々のジェシカさんが、早速グラスを手にする。

「うん、こういう場合は『割った』って言うんだけどね」

 答えるが、考えてみたらなんで「割る」なのかは不明。

 突っ込まれたら素直にそう言うしか無いが、ジェシカさんは「ふうん」と割とどうでも良いご様子。

 まだ先程の衝撃が残っているので、おっかなびっくりのご様子のジェシカさんだが、一口飲んで一度俺を見て、そしてあれよと言う間にグラスを傾ける。

 あーあーあー、急に飲みやすくなったからって、そんな飲み方しちゃって……。

 興味を惹かれたらしいタイラーくんも、見様見真似で果実飲料(ジュース)割りを作っている。

 ていうか、良いとこ1:1の割合で作ってるけど、まあ他人事だし、良いか。

 そんな豪快な自作カクテルを口に含み、やおら考え込むような表情のタイラーくん。

 そんなタイラーくんの隣で、飲んでは注ぎ注いでは飲み、を繰り返すグスタフさん。

 グスタフさんには、試飲の意味をもうちょっとお考え頂きたい。

 まあ、多分あの様子だと、冒険者ギルドに戻るくらいのタイミングでダウンするんじゃないかな。

「こういう風に、果実飲料(ジュース)なんかで割ればかなり飲みやすくなるし、グスタフさんみたいにストレートで呑むのも有りだし……オッサン、いい加減にしねぇと、ひっくり返っても知らんぞ?」

 俺の説明に頷くジェシカさんと、やっぱりなんか考え込んじゃってるタイラーくんと、人の忠告を笑いながら聞き流すグスタフさんと。

 まあ、手応えとしては、悪くないんじゃなかろうか。

「こいつは、いつ頃から売りに出せるんだ?」

 グスタフさんが、もはや上機嫌でテーブルの上に身を乗り出してくる。

「一般販売は、まだ数が揃ってないよな……どうすんの? リリス」

 グスタフさんの圧に押された俺が、鬱陶しそうな顔でリリスに問うと、何やら考え込んでいるご様子。

「そうねえ……まあ、冒険者ギルドの酒場(バー)に卸して、様子見るつもりだったから、普通に売るのはまだちょっと先ね。それと」

 みんなを見回すように説明したリリスが、俺の方に視線を向ける。

「パルマーさんのツテで、秘密兵器が手に入ったから。出来るわよ、ウイスキーとブランデーが」

 耳慣れた俺は信じられない、という顔をしてしまったと思う。

 どっちも、一朝一夕で出来るもんじゃない。

 ウォッカだってそんな簡単なモンじゃないけど、それよりももっと、時間がかかるんじゃ無かったっけか?

 耳慣れない他のメンバーは、だが、この場で出たということは、つまりはそれも酒なんだろうと当たりは付いたようだ。

「なんだそれは! それも火酒か⁉」

「あーもー、そうだよ、今出したウォッカとはまた違う性格の、な」

 テーブルごと突進してきそうな暑苦しさに、ホントに今日は隣じゃなくて良かったと思いながら応える。

 考え事のタイラーくんはそんなグスタフさんを止めるとか宥めるとかする気は全く無いようだが、顔を上げると俺をまっすぐに見据える。

「その新しい方はともかく、この……ウォッカか? こいつは、いつから酒場(バー)に出せるんだ?」

 タイラーくんの疑問は尤もだ。

 試飲会まで開いて、酒場(バー)に出すのは未定です、なんて言う気は無い。

 無いんだけど。

「まだ量が出せないけど、それよりもまずはブランドンさんの了解を得ないと、なのよね」

 俺に代わって、酒造に直接関わってきたリリスが答える。

 現状でどれくらいの量が作れるのかは、タッチしていない俺には答えられない。

「……ギルドマスターは、また領都(モンテリア)に行ってるだろう、今。戻ってくるまでお預けか?」

 ちょっと不機嫌そうなタイラーくんと、がっかり顔のグスタフさんが揃って肩を落とす。

 珍しいタッグで笑わせに来るんじゃないよ。

「まあ、お預けはしゃあないわな。いや、いっそダメ元でハンスさんに飲ませてみようか。リリス、今日持っていけるボトル、有る?」

 苦笑と言うには苦労して笑いを堪えながら、俺はリリスに向き直る。

 リリスはリリスで俺の言いたいことを予想していたのか、部屋の入口あたりで待機していたらしいおっとり顔のゴブリンさんを呼び寄せながら口を開く。

「取り敢えず、5本は出せるわ。果実飲料(ジュース)も用意して、持って行きましょ」

 俺とリリスのやり取りに、先程までのがっかり不満顔はどこへやら。

 俄然やる気のグスタフさんと、表情を引き締め直したタイラーくん。

 お前らわかり易すぎるだろう、なんて思いながら、俺は運ばれてきたボトル類をアイテムボックスに仕舞い込むのだった。

 

 

 

 カイ村長や案内してくれたゴブリンさんに礼と別れを告げ、珍しく急かすグスタフさんに引き摺られる様に、俺たちは冒険者ギルド、その併設の酒場(バー)へと雪崩込む。

 早速ハンスさんを呼び出し、熱く流れるように説明を始めるグスタフさんと、そんな情熱プレゼンをロクに聞きもせずにウォッカを煽り始めるハンスさん。

 だから、なんでソレを水みたいに呑めるんだよ熊さんよ。

 興味津々で手を伸ばし、やっぱり咽るグスタフ組の若いのとか、果実飲料(ジュース)割に挑戦する奴とか、色んな連中の感想を聞いたりしながら、時間は更けていく。

 聞き流したけど、リリスがパルマーさんから入手した秘密兵器ってなんなのか、確認しなきゃなあ。

 そんな事を考えてられたのは、いつもよりも短い時間だった気がする。

 

 気が付いた時には、俺は自室のベッドの上で、半裸でリリスと引っ絡まるような有様になっていた。

 何が有ったか覚えていないが、何かが起きたのは理解できる。

 2人揃って泥酔して帰宅、そしてそのまま寝たってトコだろう。

 

 あー、うん。

 

 えー、お客様の中に、どなたか記録映像、記録映像をお持ちの方はいらっしゃいませんでしょうか?




双子が持ち込んだ最初のお酒は、ウォッカになりました。
グスタフさんとかに似合うかなって……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。