拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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がんばったけど、頑張った程度じゃあ文章が湧いてくれない!

そして例によって、書き出しの時のストーリー運びが出来てません。
なんでああなったんだろう。


ぐーたら日常、時々仕事

 ウォッカが出来てキレイに酔いつぶれて数日で、まずやった事は商業区でバニラビーンズの買い占めでした。

 ……俺じゃなくて、リリスがね?

 

 ウォッカの飲み方について、ストレート派とカクテル派が熾烈なバトルを繰り広げるのは勝手だが、いちいちこっちに意見を求められるのに閉口してしまう。

 そんなの、好きに飲めば良いじゃんよ、と言えば。

「製造者の責任ってモンが有るだろうが」

 だとさ。

 クレーマーかよ。

 製造者は俺じゃねえし、よしんば製造者だった所で人の好みになんざ、口出し出来る(わき)ゃねえだろがい。

 っ()ーかあれだな、コイツら、喧嘩してるんじゃなくて、呑む言い訳にしてるだけだな。

 

 仲が良いのは判ったから、巻き込むのだけはホントに勘弁して欲しい俺です。

 

 

 

 リリスが言っていた「酒造りの秘密兵器」は、時間操作系の魔導書だった。

 スクロールじゃないの? と聞いたら、時間操作系の魔法は扱いが難しいらしく、スクロール化出来る魔法使いとかが非常に少ないんだそうで。

 パルマーさんトコでも、なかなか手が出ないし、そもそも流通に乗ってこないんだそうで。

 それに、よしんば手に入れた所で、大概が1回使い捨ての使用型スクロールで、学習型? では無いらしい。

 そんな訳で、リリスさんはコツコツとお勉強していたり。

 取得出来れば、ウイスキーやブランデーの完成までの時間が大幅に短縮出来るんだとか。

 へぇ、魔法って凄いね、ぜひ頑張って欲しいね。

 

 俺?

 

 あっはっはっ、よせやい。

 自分が今使える魔法すら理屈が理解(わか)らんのに、更に小難しそうな時間系の魔導書なんて、読んだ処で理解なんて出来る訳ないでしょ。

 分を弁えてるんですよ、これでも。

 

 そんな俺は何をしているかと言えば、せっかく材料も有るし、リリスへの差し入れにパウンドケーキなんかを作っております。

 バニラエッセンスは、流石にウォッカの製造からまだ2週間そこそこなので全然なのだが、代わりにと言うか贅沢にというか、バニラビーンズを加えて有る。

 あんまりこういう使い方はしたくないのでこっそり作業してた訳だが、そこは我が屋敷のキッチン。

 あっという間にレイニーちゃんやらヘレネちゃん、更に子供たちにまで見つかり、ニヤニヤ笑うウォルターくんの協力も得て、大量のパウンドケーキを作ることになってしまった。

 

 みんなどんだけ鼻が良いの。

 

 懸案だったウォッカの市場への流通についてだけど、コレがなんだか大事になりつつ有る。

 まず、小さいトコで言えば商業ギルドの人に怒られた。

 商売に関する事なんだから、ウチを通してくれと。

 そりゃそうだけど、俺はてっきりリリスがその辺上手いことやってるもんだとばかり思ってたので、完全にスルーしていた。

 勿論そんなモン言い訳になる筈もなく、まあ、その辺の小難しい話はリリスと醸造所の責任者さんに任せちゃって、と言う辺りで一旦話が停止。

 はて何事かと思っていたら、俺の思いもよらぬところから話はリスタートする事に。

 領都から銭湯とかの各種新築許可をもぎ取ってきたブランドンさんが帰還早々にウォッカにぶったまげ、ここアルバレインで造った酒だと知るや、ハンスさんに銭湯の新築の件を丸投げして領都に即トンボ返り。

 いや、トンボ返りで有ってるのか? むしろ帰ってきて即また出張、って感じなんだろうけど……まあ、良いか。

 え? 移動して直ぐに移動元に戻るんだから、それで有ってる?

 そうなのね、勉強になったわ。

 そんな具合で、何をそんなに慌てているのかと訝しむ俺を他所に、あっという間に準備を――具体的に言えばリリスに用意させたウォッカを何本か持って――整えて、領都モンテリアへと慌ただしく旅立った。

 後々聞けば、個人で楽しむレベルの酒の製造には許可は要らないが、流通に乗せるとなると話が代わってくるし、この酒はアルバレインどころかこの領全体の財産になる、そう考えたんだとか。

 商業ギルドに話を通さなければならないのは当然判っているが、その前に領主様に報告して、この酒と、そしてその酒造元であると言う事を印象付け、しっかりとした酒造設備の建設許可を取りたいと考えたんだそうだ。

 この時点で、ブランドンさんはゴブリン村の酒造所の事も、商業ギルドが噛んで其処を増改築する案が進んでいることも知らない。

 ともあれ、そんなブランドンさんが大慌てで持ち込んだウォッカを領主様は大層気に入られたとの事で、アルバレインでの大々的な製造及び販売が許可された。

 ……間抜けな事に全然考えてなかったけど、そっか、領主様に無届けで販売やらなにやら、流石に出来んわな。

 だから、商業ギルドの方の話も急に止まったのか。

 多分、商業ギルドは商業ギルドで動こうとしてたんじゃないかな?

 その辺の話はブランドンさんが商業ギルドに持っていって、街の問題として纏めたらしい。

 

 そして許可が出たもんだから、当然話は大きく動き出す。

 今のままでは出荷量が少なすぎる、ってんで、いよいよ商業ギルドが本腰入れて資金拠出。

 その資金と職人連合の力技で、ゴブリン村に巨大な酒造所の建設が開始される。

 因みに、ウイスキーやブランデーの話もリリス経由で聞いたらしく、そちらにも対応可能なんだとか。

 具体的に言うと、スペース的な意味で。

 ……ホントに大丈夫なんだろうか?

 本気すぎる大人のはしゃぎっぷりに、俺はすごく素直に引いちゃう。

 

 更に、なんとモンテリアから衛兵の一団が移動してきた。

 希望者のみ、って事らしいが、それでも家族抜きで150名位いるらしく、こりゃ何事? と思いきや、銭湯とゴブリン村の警備のために増員してくれたらしい。

 なんでそんなに本気なん? と思えば、例の東の交易の街はウチとは違う領で、やっぱ向こうには負けたくないと思うのは仕方がない感情で。

 そんな所に、液体石鹸やら銭湯やら火酒やら、短期間で急に湧いて出た目玉商品群を目にし耳にした領主様はあのおっとりとした表情でお命じになられたそうだ。

 アルバレインの宝は我が領の宝、真似は兎も角秘密の流出は防げ、保護せよ、と。

 

 まあ、ご禁制とかじゃなくて、ソレくらいの気持ちで守りなさいよ、って訓辞らしいけど、領主様がそんな事言ったら割と洒落にならないと思うんです。

 で、領主さま経由でどうやら王都に届く事になるらしく、そっち方面からも早急に量産体制を整えるように、とのお言葉と、商業ギルドへ資金がどーんと届いたらしい。

 良かったね、とか思ってたら、なんとその資金で更に酒造所を増築するとかなんとか。

 

 流石にそれはやりすぎでは? とは思うものの、なんか商業ギルドの担当さんが燃えてて口出ししづらい。

 ま、まあ、頑張ってね?

 

 そんな事を考えたり思い返してる間に、パウンドケーキは無事に完成。

 お茶と一緒に、リリスへの差し入れとして運ぶ。

 ヘレネちゃんが付き添ってくれて、俺は運ぶだけで良くなったので大変有り難い。

 部屋ではリリスが何やら小難しい顔して魔導書と首っ引きだったけど、まあちょっと休憩しろやとケーキと紅茶を振る舞う。

 リリスが手こずる辺り、時間操作系の魔法ってのはやっぱり一筋縄では行かないんだなと実感。

 

 当然そんなモン、俺が使える訳がないと早々に他人事モードに。

 

 バニラビーンズ入りのパウンドケーキに大層お喜び頂き、素直に可愛いなあとほっこりさせて頂きました。

 勿論、ヘレネちゃんも美味しそうに食べてくれました。

 

 

 

 そんな楽しい時間の傍ら、今日も俺は日課としている棒振り剣術の時間である。

 実際には発動させていないだけで、魔踊舞刀(まようぶとう)の使用シミュレーションだ。

 目を閉じ、頭にあの凶獣(けもの)を思い浮かべ、その姿を、動きを追い、剣を振る。

 

 正直に言えば、幾ら振り回しても捕まえられない。

 相手をちょいとばかり過大に評価しているのかもだが、むしろコレくらいで丁度良い。

 

 一心不乱に、捕まえられない影に向かって剣を振り回し続けた。

 

 

 

 そんな風に家事を手伝ったり冒険者ギルドに顔だして呑んだり呑まされたりと自堕落冒険者ライフな俺ですが、今日は珍しくクエストを受けてお出かけです。

 身内からの依頼だけどね。

 

 ウチのレイニーちゃんから、魔石板を作りたいので魔石を大量に欲しいとの事。

 製品化も視野に入れた開発だから、魔石の質はそれほど高くなくて良いらしい。

 魔石の質が高くなると、コスト増からの売値の高騰につながるから、出来れば低く抑えたいのだそうだ。

 レイニーちゃんが気にしてるのはレイニーちゃんがしている製品の開発コストじゃなくて、他所が真似する時にコストが掛かりすぎて良くないだろう、という事だ。

 ウチで作る分には、取ってこれる材料なら俺とかが取りに行くからね。

 

 んで、何を作るかと言えば、氷とか、あるいは低温を発生させる魔石板だそうで。

 冷蔵庫を作るのはどうするのかと思ってたら、そういう方向で作るらしい。

 異世界って凄いね。

 冷却媒体とかどうすんだろうとか思ってたけど、魔法で解決できるんだもんなあ。

「んじゃあ、氷属性とか熱を操る系の魔物を倒してもぎ取ってくればいいの?」

 なんて問えば、魔石で有れば何でも良いんだそうだ。

 どうせ砕いて魔石版にするし、そんなコストの掛かりそうな魔石は却下、とのことで。

 コストだけじゃなく、俺にも優しい仕事になった訳です。

 リリスは時間系魔法の研究中、子供組は流石に危ないから連れてけない、んじゃあ声掛けるとなると……。

 

 いや、まあ、たまにはソロで良いか。

 

 俺は仮面を付け直して大きく伸びをすると、レイニーちゃんに軽く手を振って部屋を出た。

 ダンジョン攻略、て程大げさじゃないけど、魔石をそこそこ確保しなきゃいけないんだったら少しダンジョンに籠もる必要が有る。

 俺は出かける準備の為、ウォルターくんへ弁当の発注をするためにキッチンへと滑り込み、その足で食材以外に必要な物の準備の為に商業区へと足を運ぶのだった。

 うん、油断し過ぎなきらいは有るけども、こういうキャンプの準備っぽいのって、ワクワクするよね。

 

 

 

 ウチとこの、タイラーくんとジェシカさんってさ?

 なんていうか、ホント……。

「小粒の魔石狙いなら、やはり此処だな。それほど狭くもない、故に小型の魔獣の数が多い」

 付き合い良いよなあ。

 ていうか、俺、今回は声掛けてないんだけども。

 どこで聞きつけたのか、ちゃっかり二人共ウォルターくん弁当まで発注してたらしい。

 仕事増やしてごめんよ、ウォルターくん。

「でも、冷気を放つ魔石版を作るんでしょう? だったら、やっぱりそれなりの魔物とか、倒したほうが良いんじゃないのかしら?」

 ダンジョン内ですらおっとり美人、そんなジェシカさんが、ちょっと不思議そうに口元に人差し指を添える。

「あー、そこはほら、『魔石板』の作成はレイニーちゃんにお任せ、ってレベルじゃん? 属性はどうせ後から付与するから、別になくても良い、というか」

 俺はこの世界で覚えた魔法、浮遊灯火(フローティングトーチ)を唱え、その明かりで照らされた周囲を見回しつつ口を開く。

 目視で警戒、って訳でもなく、単にキョロキョロしているだけだ。

 警戒って事なら、ゲーム由来の簡易マップ兼周囲警戒モニターが仕事してくれているので、それを気にしていれば済む。

 

 大概便利だよなあ、ゲームのユーザーインターフェース。以下UIとか? そんなに日常で使う単語じゃない気がするけども。

 

「属性付きの魔石が基本になったらコストが掛かり過ぎるから、ソコから抑えたいんだってさ」

 俺が答えると、タイラーくんがふむ、と呟く。

「なるほどな。レイニーの事だ、お前に似て、甘い事を考えているんだろうな」

 続く言葉はなかなかに辛辣。

 だけど、なんでかほんのり笑顔。

 お前、無愛想キャラはどうした。

「あら、私は好きよ、そういう優しい子」

 そんなタイラーくんに答えるのは、相方のジェシカさんだ。

「そうだな、ああいうのがクランに1人か2人は居ても良いな」

 苦笑気味の溜息なんて言う器用な事をしながら、タイラーくんは周囲を見渡す。

 うん?

 そういう意味の甘っちょろい奴なら、ウチは俺含めて3人居るんですけど?

 子供達は抜きで。

 お前さん(タイラーくん)の理屈で言えば、1人多いんですが、良いんですかね?

 そんな事を考える俺の脳内簡易マップ――冷静に考えると、ただの妄想みたいなネーミングだな――に、早速チョロチョロと蠢く光点が。

 実際の大きさや種別なんかは不明だけど、赤く光ってる以上は敵性存在な訳でして。

「細かいのがわんさか来やがるぞ。(わり)ぃけど、まずは俺にやらせてくれ」

 囲まれてる訳でもなく、敵さんは前方からご来場だ。

 俺は気負う事も無く進み出ると、最近すっかりお気に入りのナイトウォーカー(ワンド)を右手に、左手には宝飾(いつも)の宝珠を構える。

 

 ダンジョンとは、一つの生命体、それ自体が魔物である。

 

 単なる洞窟と違い、ダンジョン内に生息する魔物やら魔獣やらは、ダンジョンによって産み出されたモノ。

 それは餌となる人間や自然発生の魔獣・魔物をおびき寄せ、糧とするための罠の一部。

 出来るだけダンジョンの本体――いわゆるコアとか言われる奴だろうな――の近くで餌を仕留めたほうが取り込みやすくなるので、入口付近は雑魚(ザコ)い敵を配し、奥になるほど敵が強く、罠が凶悪になるのだそうな。

 うん、色んな異世界転生モノで読んだね、そういう話。

 

 ただね?

 

 この数、ちょっと多すぎて、普通の駆け出し冒険者だと厳しいんじゃない? って思っちゃうよね。

 マップの奥から、次から次に湧いてくる感じ、これ、視覚的にも鬱陶しいけど、一体何が居るんだろうね?

 虫か、蝙蝠ってとこかなあ?

 駆け出し程度は入り口で追い返しちゃう感じ? ツワモノだけお越し下さいって事?

 

 んじゃまあ、俺は駆け出しだから、素直に入り口付近で適当に遊んで帰らせてもらおうかな?

 

 ゆるく曲がった通路の、岩壁の影から現れた大量の蝙蝠の群れに俺は冷めた視線を向け、あんまりやる気のないフォームでワンドを掲げる。

 大小様々、でかい奴は俺が両腕を広げた位の奴も居るが、そんな蝙蝠達をそれなりに引き寄せて、俺はワンドに魔力を乗せる。

 

 連鎖雷縛。

 

 ワンドから放たれた雷が、蝙蝠を捉え、次々と連鎖して撃ち落としていく。

 名前の割に縛るとか捕まえるとかそんな優しさは皆無で、多分ローカライズ班が捻り過ぎただけだと思う。

 

 普通にチェイン・ライトニングとか、そんな無難な名前で良かろうに、なんで変に捻るかなあ?

 

 まあ、名前に関しては兎も角、雑魚(ザコ)相手には過分な威力で次々と消し炭に変えていく雷は、獲物を求めて宙を飛び、アレよという間に蝙蝠の群れを打ち払ってしまう。

 ノービススキルで威力はお察し、ゲーム内ではMP切れの時の繋ぎのスキルでしかないんだけど、魔踊舞刀(まようぶとう)と同じく、この世界ではちょいと威力が有りすぎるらしい。

 群がる雑魚(ザコ)の相手には非常に重宝するのでは有るが、こうまで圧倒的だと、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

「……お前は、本当に普通の狩りには向かないな。こういう殲滅戦では必要以上に頼りになるが」

 黒焦げの蝙蝠の死骸、或いはその残骸が魔石を残しつつ消滅していく様を見ながら、そこはかとなく失礼な事を言いやがるタイラーくん。

 おう、なんでい、文句があるなら心の中に仕舞っときな。

 俺は口じゃあ勝てないから、言葉にするんじゃないよ。

「こら、言い方。あの数じゃあ、普通に戦ったらちょっと面倒だし、助かったんだから文句言わないの」

 珍しく、ジェシカさんがフォローしてくれた。

 いつもは苦笑しつつも、あんまり言わないのに。

「ああ、すまん。褒めた心算(つもり)だったんだがな」

 言われたタイラーくんは、少しも悪びれずにしゃあしゃあと言ってのける。

 褒め下手か。

 っ()ーかそもそも、ホントは褒めた心算(つもり)すら無いだろ?

 言い合っても不毛だし、まあ、割とどうでも良いけどね。

「まったく……。まあ、もう少し言い方には気を付けてあげてね、イリスちゃんだって傷ついちゃうからね? さ、魔石拾っちゃいましょうか」

 そんな俺の頭を撫でて、ジェシカさんがそんな事を言ってくれる。

 え?

 な、何?

 今までに無い事に、感動するとか嬉しいとか思うより先に、警戒してしまう。

 ……あれかな、ジェシカさん、新しい商品でも作らせようとしてるのかな?

 なんだか面倒事に巻き込まれそうで、俺はちょっぴり嫌な予感を覚えると共に、素直に受け止められない自分にちょっぴり哀れみを浮かべてしまうのだった。

 

 

 

 数が多すぎる時は俺が、そうでもないって時は2人に頑張ってもらい、都合5波ほど敵の群れを撃退し、なかなか良い感じに魔石をかき集めた俺達。

 掻き集めたとは言え、魔石がこれで足りるか不明だし、食料の用意も有るし、下層への階段も見つけたし、先に進む事に決定。

 探索には2泊程度掛ける予定で行こう、という事で、割とホイホイ先に進む俺たち。

 ダンジョン内には冒険者の油断を誘うつもりなのか、安全域が各階層にあるんだとか。

安全域(それ)が無ければ、冒険者が踏み込んで来ないと知っているのさ」

 なんてタイラーくんは言うが、そういうモンなのだろうか。

 攻略されれば消滅してしまうが、おびき寄せなければ成長すら出来ない。

 そう考えると、なんだか不憫な生き物じゃないか、ダンジョン。

 そんな2階層の探索、というか魔石狩りをしつつ安全域を探し、罠に警戒しつつもうろちょろする冒険者3人。

 うち2人が斥候(スカウト)クラスで、罠感知なんかのスキル満載だから、すこぶる快適に探索出来ている。

 ……斥候(スカウト)2人に魔導師(ウィザード)1人、あんまバランス良くねえなこのパーティ。

 奇襲と罠には強そうだけども。

 せめて治癒師(ヒーラー)入れようぜ、ってウチのクランに1人も居ないわ。

 ……そう考えると、ウチのメンツがそもそも、偏り過ぎでは。

 斥候(スカウト)4人、魔導師(ウィザード)2人、錬金術師(アルケミスト)1人、ノービス6人。

 斥候(スカウト)多すぎ!

 ノービスの子供たちに期待するか……いっそ、募集でも掛けてみるか。

 いつぞや募集掲示板で見た、戦いたい系の治癒師(ヒーラー)さんとかが来たら笑うけどな。

 そんな笑いも乾くような事を考えている俺の耳に、何やら違和感のある音声が。

 動きを止めて耳をそばだてると、残る2人も同じように耳を傾けている様だ。

 そうなると、気の所為じゃない、って事になるのかな。

 

 進行方向から、悲鳴にも似た声が聞こえたのは。

 

 

 

 警戒しつつ走り出した俺達だけど、正直そんなに慎重になる必要は無かったらしい。

 雑魚(ザコ)の大半は悲鳴のする方へと向かったようだ。

 ……そりゃまあ、金切り声なんぞ上げたらそうなるわな。

 んで、走ってはいるけどあんま俺達が慌ててないのは、半分見捨ててるっていうか、まあ間に合わないだろうっていう諦めだ。

「お前ならもうちょと、慌てるとか血相変えるとかしそうなモノだと思ったんだがな?」

 タイラーくんがいつもと変わらぬ口調を俺に向ける。

「んー? だって此処、ダンジョンだぞ? アルバレインからどんだけ離れてると思ってんだ。ピクニック気分で来れる場所じゃねぇんだぞ」

 一旦、俺は言葉を切る。

 足元の凹凸をちょっと気にしながら、それでも速度を緩めることは無い。

「そんな場所に態々自分の意志で来てるんだ、危険なんぞ承知の上で来てるんだろ? そういう意志は尊重しなきゃね」

 そんな事を言っている間に、簡易マップ上に固まっている光点が見え始める。

「まあ、助けられるなら助けるけどさ。妙な危険を犯してまで助けてやろうとは、こんな場所では思わんよ」

 言いたいことを言い終えて、俺はマップに注意を向ける。

 そう。

 ここは街を出てすぐの、子供たちが薬草取りをするような草原なんかじゃない。

 危険と隣合わせのダンジョンなのだ。

 そんな場所に足を踏み入れて、不注意にもあんな、ダンジョンの壁に反響して響くような大声出してたら、気づいた魔物やらが寄って行くに決まっているだろう。

 そんな程度で、よくもまあ1階層を抜けて来れたもんだ。

「ふん。甘いのかドライなのか、良く判らんな、お前は」

 俺の前を走るタイラーくんのつまらなそうな声が、俺の耳に流れてくる。

「……子供が危険な目に有ってる訳じゃなきゃ、俺は基本全部スルーだよ」

 きっちりと冒険者として危険な依頼を請け負ってる奴がポカして死んだ所で、それは本人の責任だ。

 採取とか掃除とかがメインのノービスクラス……子供達が思わぬ危険に遭遇するのとは、訳が違う。

「でもきっと、身内の仇は取るのよね、イリスちゃんは」

 同じく前を走るジェシカさんが、こちらはチラリと振り返ってにっこり微笑む。

 うーん。

「そりゃあ、身内やら仲間が危ない目にあったら助けるけどさ。あんま危ない事はしないで欲しいよ」

 ウチのメンツがヤバい目に遭ってるとか、考えただけでキツいね。

 もしもまかり間違って……仇討ちなんてしなきゃならない、なんて事態になったら。

 手加減なんて、出来る気がしない。

 仲間がダンジョンで……とかそんな事があったりしたら、俺、ダンジョンそのものを潰しかねん。

 想像するだけで嫌な気分なので、俺は咳払いでそんな不吉な考えを振り払う。

 もうすぐ、ただでさえあんま見たくない死体(モノ)を見なきゃいけないだろうに、そんなモノに仲間の姿を重ねちゃいそうな想像なんか、とっとと捨てるに限るだろう。

 割と自分勝手な事を考えながらマップを確認すると、敵性反応(赤い光点)のど真ん中で、3つ有った筈の青い光点の2つになっている。

 そう思った所でけたたましい悲鳴とともに、もう1つも消えた。

「そこのT字、左曲がってすぐだ」

 面識も無いし憤る道理もないが、だからってヘラヘラ出来る気分でも無い。

 俺は先導する仲間の事と、現状まだ生きている1名の事を考え、連鎖雷縛の使用を控える事に。

 連鎖の仕方まではコントロール出来ないので、大惨事に成なりかねない、というか確実になる。

 もはやワンパターンではあるが魔踊舞刀(まようぶとう)の属性を火に変え、仲間2人の背を追って角を曲がり、ワサワサと群がる蟲系、蝙蝠系の魔物達の群れの中へと躍り込む。

 流石にタイラーくんとジェシカさんは俺のような無謀な真似はしない。

 俺はまあ、言っちゃえばこの程度の数、かつ、この程度の雑魚(ザコ)相手なら障壁が破られる恐れなんて皆無なので出来る荒業だ。

 それでも態々敵の群れの中に飛び込む理由は無い訳で、考えてみれば俺、言うほど冷静では無かったのかも知れない。

 生き残り冒険者を巻き込まないように、出来るだけ範囲を狭めつつ、舞刀を振り払う。

 炎を纏う幾筋もの剣閃が魔物共を巻き込み、斬り払い、焼き払う。

 さらに2閃、3閃とワンドを振るい、魔物の群れを次々焼き斬って行く。

 冒険者の生き残りもそれなり必死に暴れてくれているようで、都合4人がかりの共同戦線は割とあっさりとに魔物共を殲滅してのける。

 うん、俺一人だったらもうちょい時間掛かっただろうし、やっぱ手数が有るのは良いね。

 手に汗握る、なんて気分とは無縁の俺と仲間たちだけど、先行してた冒険者、その生き残りにとってはシャレにならない状況だったようで。

 こんなもんかと周囲を見渡し、魔石を拾おうかと思いかけた俺の真後ろで、どしゃりと人体みたいなものが崩れ落ちる音がする。

 

 あー、ほっとんど興味無いし、どんな様子か確認すらしてなかったわ。

 

 溜息をなんとなく抑えた俺は、気のない――タイラーくんが呆れて溜息を()く程度には冷たい――目を音のした方に向けると、其処には力尽きたのか気を失ったのか、五体満足な人間が1人と、バラバラに食い散らかされた多分1人、それと喉元を食い千切られた1人が転がっていた。

「なあ、タイラーくんよ。冒険者の死体は放っといたら不味いのか?」

 正直、放っときたい気分なのだが、回収義務なんてもんがあったら厄介だ。

 しかし、タイラーくんはすぐにノーを告げる。

「死体からギルドカードを回収出来れば、それで構わない。普通は死体を持ち帰る余力なぞ、有る訳ないからな」

 もっとも、俺達にはアイテムボックスがあるんだが。

 タイラーくんはつまらなそうに言う。

 うん、そうだよね、ウチのクランのメンツは、無駄にアイテムボックス持ってるけど。

 普通はこんな高価なもん、そうそう買える訳がない。

 どこの街から来てるか不明だけど、態々探して運ぶのも手間だし、距離によっては普通に腐る。

 だったら、遺品として最低限、ギルドカードを持ち帰れば用は足りると言う訳だ。

 装備品とか持ち物は、生きてる奴が有効活用するのが供養ってもんなのかも知れない。

「……ただ、そういう風に割り切れるのはある程度経験を踏んだ冒険者だ。取り乱して悲鳴を上げるような駆け出しが、そこまで割り切れるかは疑問だな」

 最初に聞こえた悲鳴か。

 結構離れてたのに聞こえるような音量だったからな。

 近くの魔物、ほとんど呼び寄せたんじゃないかな。

 そう考えると、色々と厄介なもんだ。

 酷い言い草かも知れないけど、全滅したトコに遭遇したんだったらまだ気楽だったかも知れない。

「なあ、この子、見捨てていったら怒る?」

 どうにも気分が悪く、俺はこの場を速やかに離れたい思いから、そんな事を口にしてしまう。

「別に怒りはしないさ。見下げ果てるだけでな」

 もう既に呆れを通り越した目で俺を眺めるタイラーくん。

 だよなあ、生き残りが居るんだもん、普通そうなんだよなあ。

「見知らぬ冒険者の為にあれほど怒り、ゴブリン達の受けた仕打ちに激高したお前が、随分と冷たいじゃないか」

 俺に言葉を投げ掛けながら、タイラーくんは、いや、ジェシカさんもその生き残りの冒険者に視線を向ける。

「状況が(ちげ)えよ。……そりゃまあ、話を聞かなきゃ判りゃしねえけどよ?」

 言葉の前に思わず舌打ちを飾り付けて、俺は改めて転がっている死体の方に目を向ける。

 それは、どちらも体躯が小さく。

 もしかしたらそういう種族なのかも知れないんだけど。

 

 俺の目にはどうしてもそれは、子供に見える。

 

 息が有ると思われる方はと言えば、大人に成りきれていない、そんな年頃。

 つまり、見てくれで言えば俺と同じか、悔しいけど「見た目は」俺より年上、その程度に見える。

 ガキ3人で、ダンジョンへ来たってのか?

 どんな理由か知らないし、子供となれば保護対象では有るんだが、今回ばかりは気が進まない。

「とにかく、息がある以上、放っておく訳にはいかない。イリス、ポーションをくれ。それと、死体を回収しておいてくれ」

 そんな訳で、まったく動く気の無い俺に簡単な指示を飛ばし、タイラーくんとジェシカさんは冒険者の方へと近づく。

 俺は気が進まないながら、それこそ溜息混じりに小さく短く悪態を()き、そのタイラーくんへとポーションを投げ渡す。

「俺のポーションを使うのは構わんけど、そいつは完全回復なんかしないからな?」

 そうして向き合う、バラけた死体と首の皮一枚で継っている死体。

 子供の死体はホントにキツい。

 見れば見るほど、言い訳が効かない程に子供だ。

 俺はしゃがみ込むと、2つの顔の3つの目を閉じてやる。

 ……バラけてる方は、顔面までやられてるからな。

「……回収は良いけどよ。どこの街の冒険者かも判らんだろ、どうすんだ?」

 2人だったモノをアイテムボックスに放り込むと、俺は立ち上がりながら問いかける。

 生き残りの上体を軽く起こし、その口にポーションを流し込むジェシカさんを見守りながら、タイラーくんが背中越しに答える。

「……アルバレインだ」

 は?

 そりゃまあ、俺はアルバレインの冒険者が何人居て、お子様冒険者がどれくらい居るかなんて知らないし、ましてや顔なんて知らない奴のほうが多い。

 とはいえ、そうそう容易く信じられる話とも言えない。

 

 このダンジョン、俺は説明を省いてさらっとしか言ってないが、テレポートを駆使し、野営を挟んで片道2日の旅程だった。

 すっかりテレポートに慣れて、それなりにペースを掴んだ俺達だからこその時間短縮なのだが、普通に歩いたらどれくらい掛かるやら。

 少なくとも、あの大森林よりも遠いのは間違いないのだ。

 ぶっちゃけて言うと、もうちょっと西に行けば小さな街も有るし、むしろそっちの出身の方が可能性が高いと思う。

 だが、タイラーくんは自信を持って言い放った。

「見覚えがある。アルバレインの冒険者ギルドで、何度か見かけた」

 その口振りはいつもと違う不機嫌さを纏っていて、俺は思わずタイラーくんへと視線を向ける。

 

 俺に背を向けるその姿勢から、俺はタイラーくんの表情を見る事は出来なかった。




別人みたいに、子供に対して淡白なイリスさん。
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