拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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呑気な魔石収集行から一転、なんだか面倒臭い事に。


悪い大人たちの輪舞曲

 後出しで新魔法取得をドヤ顔で申告したらすげえ怒られた。

 どう考えても納得行かないので、誰か俺を慰めつつ甘やかして下さい。

 

 

 

 非常に戴けない雰囲気でギャースカ言い合う俺とタイラーくん、それをにこにこ眺めるジェシカさん。

 そんな俺達に慄いたのか、うっすら涙目で見上げながら言葉もない冒険少女。

 

 ……なんだこのカオスな空間。

 

「……もう良い、説教は帰ってからだ。すぐに戻れるのなら、戻るぞ」

 もう良いとか言いながら、帰ってからまだ説教する心算(つもり)のタイラーくん。

 だいぶお冠なご様子ですが、お前、続きは、じゃなくて説教は、って言い切ったな?

 此処までのアレコレは説教の範疇ではないと申すかこの野郎。

 やだよ(こえ)ぇよこれ以上の勢いで説教されるのかよ。

 超帰りたくねぇよ。

 

 そんなこと言った所で帰るしか無い訳で、俺は渋々ポータルの起動準備に入る。

「行き先は、アルバレインのどの辺りなんだ?」

 そんな俺の様子を見ていたタイラーくんが、思い付いたように質問してくる。

 どこったって、そんなもん、(えん)所縁(ゆかり)も無いトコに作ってもしょうがないだろうに。

「ウチの庭の隅っこだよ」

 場合によっては、帰ってすぐ風呂に入りたいとか有るからな。

 慣れないトレーニングで汗まみれになったりとか、色々ね。

 自分の部屋と迷ったけど、無難に庭先にしたわけだ。

「……お前という奴は……。他に、新規で取得した魔法は無いんだろうな?」

 腕組みまでして、お前は俺の父ちゃんか兄ちゃんの心算(つもり)か。

 どっちかってーと、兄ちゃんだな。

 よく喧嘩するタイプの。

「幾つか生活魔法を仕込んだけど、大掛かりなのはこんなモンだよ。ってか、覚えた所でなんでお前に報告せにゃならんのだ」

 口を尖らせて言うと、即座に伸びてきた手が俺の右頬を抓り上げる。

「旅程のプランが変わるからだ、この大たわけ。今回もどれだけの果物が無駄になったと思ってるんだ」

痛えよ離せこの野郎(いへえよはなへこのやおお)! 全部お前の都合じゃ無ぇか(へんふおはえのつほうじゃねえは)!」

 全力で持ち上げやがって、ほっぺたがキャストオフするだろうがこの野郎。

 誰得だよそんなグロ画像。

「……ああ、そういや元々探査魔法を持ってるから使ってなかったけど、上級探知とか言うのも覚えたな。使い所なんて有るのかね?」

 開放された所で思い出し、口元に指を添えつつ言ってみた所で脳天に拳骨が降ってくる。

 コイツ、なんか急に体罰解禁しやがったなこの野郎。

「そういう便利魔法はもっと活用しろ。なんでそんなのが有るくせに、初級の探査しか使わないんだお前は」

 しかもなんか、言ってることは妙だし。

 誰の探知能力が初級なんだこの野郎。

 いやまて、その前に。

 今コイツなんて言った。

「探査範囲が駆け出し冒険者のソレとは比較にならないが、お前の能力から言うと狭すぎる。しかも、敵の種別も判断出来ていない。他にも、お前の口振りだと、罠や鉱物、アイテム類の有無も判らないのだろう?」

 俺がブツブツ文句を言うと、俺の額を指先で(つつ)きながら、タイラーくんが捲し立てる。

 そして此処でも、コイツは。

「なんだよ、()()なんてそんなもんだろうが。敵の種別が判るくらいならまだしも、そんな広範囲に高性能なモンなんぞ有るのかよ」

 あのゲームですらそんな便利なもんないのに、そう言いかけてぐっと飲み込む。

 言った所で伝わらないだけならまだしも、この妙な所で勘の良いコイツの事だ。

 踏み込んで問い詰められたら非常に面倒臭い。

 ソレに、気になることも有る。

 だから俺は、敢えて言い間違えてみせる。

 探査と、探知。

 俺は同じモノだと思い込んでいたし、ゲーム由来の能力のほうが上だと――攻撃魔法の威力的にも――思い込んでいたので、若干の納得のいかなさも合わせて確認しようと思ったのだ。

「中級以上の探査なら敵の種別も凡そ判断がつく、ソレすら出来ない上に、範囲もそれ程広くない。そもそも、お前が覚えたのは『上級探査』ではなく『上級探知』なのだろう? 範囲的には探査の方が一般的には広いが、識ることの出来る情報は探知の方が深い。それに、範囲は使用者の魔力に比例する」

 そんな俺に呆れたように首を振ると、滔々と説明してくれるタイラーくんだが、すまない。

 ちょっと意外な情報は知れたものの、俺の疑問の根本の答えになっていない。

「待て待て待って、ちょっと待って。あのな、探査と探知って、同じ魔法じゃないのかよ」

 タイラーくんの口振りだと、どうやら違うものらしいのだが、俺には違いが判らない。

 一瞬呆けたような顔を見せたタイラーくんが咳払いして口を開こうとしたその時に。

「あのね、良いかしら?」

 相変わらずのんびりしているのに、どこか不穏な空気を纏った声が俺達の動きを止める。

「イリスちゃんの探究心も判るし、タイラーが教えたがりなのも知ってるんだけどね?」

 恐る恐る、俺は視線を声の方に向ける。

「やる事も有るんだし、帰れるのなら、まず先に帰りたいんだけど?」

 口元はにこやかなのに、目元が全然笑っていないジェシカさんが、俺達を見ていた。

 

 

 

 探査は範囲内の情報を探る、探知は範囲内の情報を知るもの。

 大まかだけど何か有る事を知ることが出来るのが探査、其処に有るものが何かまでを知ることが出来るのが探知、らしい。

 なにそれ、探知のほうが良いじゃん。

 ゲーム由来の能力の限界を超える魔法が有る事に驚いたり、それじゃあ俺、初級探査(ディテクト)を覚えた意味は? とか考え込んでしまったり。

 いや、アレはパルマーさんセレクトのお得セットのひとつだったから、まあ良いけど。

 そんな事を教えて貰ったり考え込んだり出来たのは、ある程度コトが落ち着いた後の話だ。

 お怒り数秒前のジェシカさんにトラウマを刺激された俺は急いでポータルを起動し、タイラーくんも其処からは特に文句を言うこともなく、俺達は無事にアルバレインの自宅の庭に帰還を果たす。

 約1名は、ウチの関係者じゃないけどな。

 そんな部外者を冒険者ギルドまで連行し、居合わせたブランドンさんとハンスさんを捕まえて事情を説明。

「……そんなコトでホイホイついて行ったのか、お前の危機感はどうなってるんだ!」

 なんて説教食らって縮こまっている冒険少女を多少不憫に思いつつ、俺達は俺達で得られた情報を整理していた。

 ブランドンさんの説教が、若干こっちに向いてる気がするのは気のせいだよな?

「こっち、じゃなくてお前にも言ってるんだ。お前はもう少し危機感を持て、このたわけ」

 だからなんでタワケ呼ばわりなんだこの野郎。

 危機感なんてモン、いつでも抱えてるってんだよコンチクショウ。

「まあ、ソレについては今更だがな」

 そんな結びの憎まれ口を叩いて、タイラーくんは冒険少女こと、レベッカの方へ目を向ける。

 この街では珍しくもない、孤児院出の冒険者。

 クラスは軽戦士。

 なんとなく想像つくものの、軽戦士とはなんぞやと訪ねてみれば、珍しく素直にタイラーくんが教えてくれる。

「ああ、軽戦士は割と珍しいからな。戦士や重戦士は割と居るが」

 ということで、戦士系職業の一種では有るものの、軽量装備で機動力を重視した戦闘スタイルで、防具も駆け出しだとレザー系の防具や、上級になると魔銀鉱(ミスリル)なんかのお高くて軽い金属を使用した装備が人気なのだとか。

 (あいだ)が無いのかよ。随分金の掛かりそうな(クラス)だな、おい。

「勿論、レザー系に金属プレートを貼り込んだもの等も人気だ。まあ、そういった特性上防御力は高くはないが、その機動力は侮れない。鍛えているものならば、斥候(スカウト)に引けを取らん」

 素早い戦士とか、相手にするのは厄介そうだな。

 ウチの連中もそうだけど、例の悪食戦のお陰ですばしっこい奴に物凄く苦手意識が出来ちまった。

 そんな厄介な軽戦士は、オーソドックスに片手剣と軽めのバックラーなどが人気の装備らしいが、片手剣を2本、それぞれ両手に持ったり、かと思うと重戦士並みの両手剣を持って走り回る変わり者も居るとか。

 しかし、ダガーを使う者は殆ど無いらしい。

「ダガーを使うと、斥候(スカウト)と間違えられるから嫌なんだそうだ」

 嫌とか、また随分と可愛らしい理由だなおい。

「ついでに言えば、魔導師(ウィザード)は普通は貴族に雇われるか、王宮やらに連れて行かれる。冒険者なんてやっているのは余程の訳有りか、変わり者だな」

 思わぬ所から、ご同業を見かけない理由も語られる。

 うへえ、貴族様とか王族とか、そんなもん相手してられるか。

 ……一応、俺も元貴族って事になってるんだけどね。

 勿論知っての通り嘘なんだけど、領主様が後ろ盾になってくれるに当たって考えてくださったカバーストーリーだ。

 こんな育ちの悪い貴族なんて居るわけ無いんじゃ? って言ったけど、領主様は笑ってはぐらかした。

 ……居るのか。会いたくねぇな。

 いやまあ、正統がリリスで、俺は家を継ぐ資格がないって事だったら……いや、それでも無理しかないだろう。

「……まあ、そんなもんかね。俺も訳有りの範疇だしな」

 胸中の複雑な蟠りを飲み込みつつ言えば、黙り込む身内2人。

 黙り込むだけならまだしも、顔まで見合わせる。

「お前は変わり者の方だろう?」

「イリスちゃん、あんまり見栄をはるのは良くないと思うわよ?」

 こいつら……。

 噛み付いてやりたいのは山々だが、此処は堪えて咳払いで流す。

「まあ、それはともかく。レベッカの身柄は暫くはギルドで面倒見て貰えるらしいが、その、なんだっけ?」

 続く単語を脳内で探すが、ついさっき聞いたばかりな気がするのに出てこない。

 なんだっけか、でもまあ良いか。

「えーっと、小悪党を捕縛するまでは油断するな、だっけ?」

 レベッカ一行を騙した小悪党の名前が出てこないのはご愛嬌として、そいつが単独で動いてるのか、それとも集団のうちの1人なのか、ソレすらも判明していない。

 元々悪い噂の有った冒険者グループの1人らしいが、此処最近の冒険者規約の改正で勢いを無くすどころか構成員の大部分が労働奴隷落ちし、残ったケチな小悪党がまともなシゴトも出来ずに安易に新人を騙した、ってトコらしい。

 ただダンジョン内で見殺しにしただけだったらまだ「自分の身の安全を確保した」で通ったらしいが、刺した上に魔物やらを呼び寄せ、ソレに紛れて姿を消したとなれば言い訳は効きにくいらしい。

 それでもなお端切れの悪い言い方にもやもやするが、この際置いておこう。

「各地の冒険者ギルドに指名で捕縛命令が出たからな。レベッカの証言は魔道具まで使って裏を取っているんだ、向こうが何か言い訳をする暇もない」

 嘘を()いてるかどうか確認する魔道具と聞いて、俺は例の「心臓が飛び出して破裂しちゃうアレ」を思い出してドキドキしたが、そんな物騒な物は使用せず。

 なんか模様付きのマウスパッドみたいなものにレベッカが手を置き、それと接続された水晶の置物みたいな奴が質問の答えに反応して赤かったり青かったりと喧しく光っていた。

 あれで嘘かどうか判るんだとか。

 嘘でえ、そんなもんで判るもんかよ。

 なんて茶化したら、レベッカの後に試してみることになった。

「嘘を付けば水晶は赤く、正直に答えれば青く光る。質問には『いいえ』で答えろ、良いな?」

 なんとなく楽しそうなブランドンさんが俺の目を真っ直ぐに見る。

「いいえ」

「まだ質問してないから『はい』で良いんだよ、この……!」

「良いな? って聞いたじゃねぇかこの野郎」

「文脈を読め、少しは察しろこの馬鹿!」

 なんかちょっとイラっとしたので、わかりやすい嫌がらせをしたら怒られた。

 咳払いをして、ブランドンさんが質問を開始する。

「自分の胸のサイズは姉より大きい」

 ……。

 第1問からセクハラたぁ、良い度胸じゃねぇかこの野郎。

 大体、俺とリリスは完全同スケールだ。

 大きいも小さいも、揃って小さいんだよ言わせんなよチクショウ!

「いいえ」

 答え切る前に真っ赤に染まる水晶。

 ちょっと待てや。

「赤く光るってことは、多少なりとも大きいと思っていると言うことだな? タイラー、これはリリスに報告する案件だと思うが?」

 いやいや待て待て、おかしいだろうが。

 俺は大きくも小さくもない、とは思ったし、そういう意味でなら赤く光るのは判らなくもない。

 だけど、俺は決して自分のほうが大きいなんて思ってない。

 水晶が回答者の思考に素直に反応する事はよく判ったけど、見極める方が勘違いしたり邪推したり、そういう危険は間違いなく有る。

 これ、思った以上に冤罪を生むぞ⁉

「そうだな。これは報告しなければいかんな」

 何が腹が立つって、こいつら。

 多分、この反応の理由を正確に理解してる。

 その上で、遊んでやがる。

 その小憎らしいニヤケヅラは間違いないよな⁉

 

 割と真面目な、というか冒険者の犯罪の話の筈が、何故か遊び始めた馬鹿3人。

 結論から言えば、ジェシカさんとハンスさんに怒られて説教されました。

 

 

 

 どうにも話に身が入らず、おちゃらけ気味で怒られた俺だけど。

 レベッカの現状が心配じゃない訳ではない。

 何しろレベッカの話に嘘がない事は確認されたし、実際に名前も思い出せない小悪党が1週間ちょっと前から姿が見えない事も他の冒険者の話から判明した。

 そうとなればもう俺がレベッカに冷たく当たる理由は無いんだけど、良かったね、とは行かないのが現実ってやつで。

 

 レベッカが無事に帰ってきて、レベッカの仲間の死体はギルドに保管されて葬儀待ち。

 そしてレベッカの証言で小悪党が奴隷落ち確定の手配済み、そんな話が小悪党本人や小悪党の仲間の耳に入ったら。

 レベッカが下らない報復の対象になりかねない。

 じゃあどうするか、という話になる訳だけど。

「お前んトコが後ろ盾になるとか、いっそお前のクランに入れたらどうだ?」

 ものすごく適当に、ブランドンさんが言う。

「あのな。ウチとしても即答出来ないし、本人が入りたいと思わなきゃ意味ないだろうが。それに、新興のクランが後ろ盾になった所で、どの程度役に立つか判らんだろ」

 溜息混じりに言ってやると、俺の隣でタイラーくんが腕組みしながら頷いている。

「俺としても、ウチのメンバーになるのは構わんし、後ろ盾になるのも問題ない。だが、イリスの意見に同意で、ウチが後ろ盾になったからと言ってそれが抑止力になるとは思えん」

 タイラーくんはレベッカのクラン入りは問題ないらしい。

 まあ、さっきの受け答え見たら問題無さそうだったけどさぁ。

 ちょっとは勿体ぶろうぜ。

「とは言うがなぁ。仇成(あだな)す者を2人も()ったクランだぞ? 正面切って対立する度胸のある野郎が、どれほど居ると思ってんだ」

 ちょっとまてギルマス。

 言い方が良くない、直接()ったのは1人だし、()ったのはリリスだ。

 残りは一応捕縛してるんだよ。

 結果死罪だし、あんま変わらんと言えばそうなのかもだけど。

「……それだって、噂だと流して終わりな馬鹿も居るだろうよ。はっきりと、手を出したら終わり、そう思わせる何かが欲しいよな」

 言いながら、窓の外に目を向ける。

 そんなモン、そうそう有る訳ないし、あっても一介の冒険者に縁がある筈もない。

 ウチのクランなんかより余程大きな。

 この街そのものか、いっそ領主様が出張ってきそうな何か。

 そんな都合の良いもの……。

 

 窓の外から吹き込む風に吹かれて、俺は思い当たって思考を止める。

「ブランドンさんよ」

 思いつきにしても無理があるから、提案したものか迷う。

 だけどまあ、ひとつの案として言ってみるのは有りだろう。

「あ? なんだ、何か碌でもない事でも思いついたか?」

 ……なんだってこう、俺の周りには一言も二言も多い奴が集まってくるんだ。

 露骨に舌打ちしてから、口を開く。

「いやあ、ゴブリン村の酒造所だけどな? あれに冒険者ギルドからも人回したら、領主様に良いアピールになんないかな」

 俺の言葉に、顔を見合わせるブランドンさんとハンスさん、そしてタイラーくん。

 さりげに混ざるな、陰険メガネ。

「いや、判ってんだよ、衛兵を態々増員してくれて、防犯方面に人を回してくれてるのは。だけどさ」

 何か言いたいところを遮る風に言っているが、実際には誰も口を開こうとしていない。

 ちょい寂しいけど、まあ良い。

「例えばそうね、ウチとゴブリン村、それと冒険者ギルドと商業ギルドの間で連絡役やってくれる、そんな人材がいれば便利じゃない?」

 この辺で、何かに勘付いたらしい3人が、短く視線を交差させる。

 そして俺の視線を受けて、悪い顔で笑うブランドンさん。

「そうだな。ウチやら商業の方からの発注や生産の確認も、専属がいれば早いな。衛兵の方とも連絡取って、防犯の方に人を回すのも出来なくはないしな」

 話が見えていないらしいレベッカが、忙しなく視線を周囲の悪い笑顔の群れに走らせる。

「そうなると1人に任せる訳には行かないな。複数を使うとして、どうしても纏め役は必要になるか」

 わざとらしく腕組みして、ハンスさんが言う。

「纏め役ともなれば、一介の冒険者を使うわけにも行かないだろ。いっそギルドの職員を当てたらどうだ? 新人でも採用してよ」

 なんだか楽しくなってきた俺がニヤニヤ笑いながら、ジェシカさんに目を向ける。

「そうねえ。その新人さんが住む家が無いとかだったら、私、紹介できるかも知れないわねえ」

 悪ノリのジェシカさんが言うと、タイラーくんも悪そうな顔で乗ってくる。

「そうだな。そうすると」

 態々言葉を切り、レベッカに顔を向ける。

「領主様に縁のあるクランの世話になっている新入りのギルド職員が、ゴブリン村の酒造に絡んで忙しくなる、という訳だ」

 まあ、ウチの部屋を貸すのは問題ないし、今回は特例だ、クラン(ウチ)に入らなくたって別に良いよな?

 まだ、俺達が何を言っているのか判っていない顔のレベッカ。

 そのレベッカの目を見ながら、ブランドンさんが念を押す様に口を開く。

「領主様とも繋がりが有ってウチの職員で、ゴブリン村の酒造りに関係してる人間を襲うって事はつまり、関係者全部敵に回すって事だよな」

 大雑把だし大袈裟な言い分だけど、傍からから見たらそうなるように話を持っていった。

 そんな俺だけど、考えてみたらなにそれ超怖い。

 流石に理解できたらしいレベッカが、降って湧いた大きすぎる話に硬直する。

 うん、まあ、そうなるよね。

「まあ、小物共の相手なら、イリスの名前を出すだけでも効きそうだけどな」

「ンな訳あるか、俺を何だと思ってんだ」

 楽しそうに混ぜっ返すブランドンさんに、面白くもない調子で返してやる。

 俺にそんな影響力が有る訳ないだろ、Cランク冒険者随一の目立たなさを舐めるんじゃないよ。

 そんな憮然とした俺に、レベッカが驚いたような顔を向けてくる。

 え? なに? その過剰な反応。

 ヤな予感しかしないんだけど?

「イリス? イリスって、あの、ノスタルジアのクランマスターの、狂犬イリス⁉」

 予想以上の反応にげんなり顔の俺を怯えた顔で見るレベッカは、周りで肩を震わせている4人には気づいていない様だった。

 

 ()ーか、ホント誰だよ、俺を狂犬とか呼び始めた奴は!

 

 

 

 安全の確保の為と、仲間の葬儀が決まった時に連絡が取りやすいようにと、一時的にウチに引き取ることになったレベッカを連れて、屋敷に戻る。

 どうも第1印象を引き摺ってしまい、慣例に則って「レベッカちゃん」と素直に呼べない俺だけど、まあ、時間が解決してくれる事を祈ろう。

 昇格目前のFランク冒険者からギルド職員に採用され、イキナリの話に気持ちが付いてこない様子だけど、それもまあ慣れて貰うしか無い。

 小悪党とその一派を一網打尽に出来たら、こんな面倒な事しなくても良いんだけど。

 それは置いても、ウチと各ギルド、それとゴブリン村を繋いでくれる人間、或いはチームが欲しかったのは事実なので、この際はレベッカを中心に、そういう人間を集めて貰おうと思う。

 

 冒険者ギルドの事務所を出ようとした時に、俺だけ呼び止められ、ギルドマスターと(サブ)マスターに呼び止められ、言われたこと。

「冒険者とは言え、殺人は見逃し難い。だが、冒険者には喧嘩が付きものだ」

 あんまりな言い草に、げっそりと肩を落とす俺。

 

 難癖つけて、ドサクサで()れってか。

 とてもギルマスのお言葉とは思えない。

「……喧嘩はしても、俺には殺しの度胸は無ぇよ」

 肩を竦めたまま、俺は冒険者ギルドを後にする。

 

 その度胸が有れば、悪食をみすみす逃がす事は無かったし、その後の惨劇も産まなかっただろう。

 狂犬とか呼ばれてるらしい俺の真実は、その程度の小物という事だ。

 

 殺し(それ)が出来れば、俺は気を病まずに済むんだろうか。

 とてもそうは思えないが、それをしなければ仲間を守れない場面が有る、そう考えると溜息しか出ない。

 

 人の命が思った以上に軽いこの世界で、妙に「過去の常識」に囚われたままの俺は、いつか仲間を見殺しにするのだろうか。

 それが嫌なら、俺はこの世界に染まるしか、無いんだろうか。

 

 考え込んでしまえばドツボにハマるしか無いと判っている事から目を背け、俺は外で待っている仲間達の環に飛び込む。

 まあ、今回は冒険者ギルドが動いてくれてるし、俺は火の粉が飛んで来たら払い除ければ良いだけだ。

 取り敢えずはレベッカを保護する目的も有るし、荷物を持ってこさせて、部屋でも決めるかね。

 ギルド職員予定だけど、ウチのクランに入るのはギルマス的に構わないらしいので、その辺の事も確認したいし。

 あと、3日程身体を清めると言えば洗浄(クリーン)頼みの生活だったので、風呂にゆっくり浸かりたい。

 リリスの学習の方の経過も気になるし、子供たちも元気で居たか心配だし。

 色々考え始めるとソワソワし始めて、とっとと屋敷に帰りたくなってきた。

 

 今日ばかりはグスタフさんの誘いを揃って断り、家路を急ぐ俺達。

 珍しい事も有るもんだけど、まあ、そんな事も有るよね。

 

 明日から激烈に忙しくなる予定のレベッカに微かに同情しつつ、のんべんだらりのダメ冒険者ライフを取り戻したい俺は、なんとなく空を見上げるのだった。




思いがけず増える仲間と、悪い大人たちの悪い会話。
色々考え込んじゃうと、ついつい空を見上げちゃうよね。
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