リリスには思いの外ハッキリとした目的が有る事をボンヤリと察したモノの、どうにも不穏な物にしか思えないので出来れば触れたくなかったり。
男爵の狂った娘さんことメアリお嬢様がパワーアップしたけども、そっちもさり気なく怖いので出来れば触れたくなかったり。
そう言えばメアリーちゃんがあんまりにも頻繁にウチに来るので、最近屋敷の一部屋がメアリーちゃんの部屋になりました。
時々家具を買いに付き合わされる俺です。
俺の
自室のベッドの上に転がっている
肝心の俺はその
そんないつにも増してどうでも良い存在に成り果てている俺だけど、暇にあかせてのんびりする、という訳にも行かない。
例の小物組が突っ掛かって来ないかワクワク顔で街を歩きながら、霊脈の整備計画を練るリリスの手伝い(ドローン役)をしたり、メアリお嬢様にペット扱いをされたりと中々に忙しい日々を過ごしている。
俺の
メアリお嬢様のパワーアップの方法は、聞くだけなら単純なモンでした。
霊脈にアクセスすることでメアリーちゃんの魔力を
それは失敗したら、基本霊体のメアリーちゃんが霊脈に取り込まれたりはしないのかとか、共鳴って止めないと何処までも大きくなるんじゃないのかとか、色々思う所は有ったけども自信満々のリリスは俺の疑問を黙殺。
後から考えてみれば、あの自信満々具合は、予めこの
そうでもなければ、凄く強引に人体(?)実験を行ったと言うことになる。
……凄く強引な人体実験、友人相手だろうと普通にやりそうな怖さが有るんだよな、リリスってば。
まあ、結果で言えば成功で、メアリーちゃんはリリスには及ばないものの、俺には並ぶ程度の魔力量どころかレベルを得たんだそうで。
「種族名が変わったかもね? っていうか、アレはホントに種族名なのかしら。なんか、
なんてリリスが言うもんだから、リッチがパワーアップしたんならエルダーリッチとか、そんな感じ? と思いつつ簡易ステータス確認……単なるロックオンによる表示確認をしてみると。
狂気の
光る球体の俺だが、鼻水が噴き出すかと思った。
あんなににっこにこなのに、「狂気の」って何事?
フルネームも初めて見たよ?
えっと、ヴォルド男爵だったのかな? 実はルカルスティア男爵?
気になるので、俺の気持ちとか身体とか、色々落ち着いたら本人に聞いてみよう。
そんで、レベルよ。
前見た時は、70そこそこだったよね?
パワーアップにも程があるのでは?
俺のレベルが1450とは言え、ホントにこの数値に迫るほど強くなるなんて思わなかった。
そんな風に急激な味方のパワーアップ――味方だよね? 狂気の、とか二つ名に付いてるけど――に慄く俺に、リリスが事も無げに言ってのける。
「今のアンタの4倍は強いわよ、メアリーちゃん」
なんですと?
レベルの数値は、俺のが上ですよね?
「そこに関しては私も同じなんだけど。……ちょっとリミッター掛けてあるのよ」
混乱する俺に、リリスが小難しい顔で教えてくれた。
以前話した通り、俺の意識と同化するのを防ぐ為に、本来は表に出る筈だったリリスが意識の底に潜り、色々と影からサポートしてくれていたのだが。
色々
悪ければの方はリリスは言わなかったけど、多分周囲どれ位か、結構な範囲を巻き込んだ壮絶な自殺になったんだろうと思う。
実際、俺、まず魔法を試したしな!
ミーティア込みで!
それも、割と目の前位の距離で!
とまあ、そんな訳で、俺の戦闘力は表示レベルよりも大幅に落ちていたらしいのだ。
そう言われると色々腑に落ちる気もする。
まあ、そんな訳でリミッターが掛かっていた訳だけど、その身体は事情が有って今はリリスの
その後、俺の
ホントにありがとう!
リリス自身も、特に焦る事情も慌てる理由も無いから、リミッターはそのままだったのだそうだ。
「大体5分の1にしたから、レベルで言えば290前後? そのくらいだったのよ」
それでもだいぶ高い。
参考までに、一般的……だと思われる冒険者のレベルは、Bランクで40以上、Aランクで60以上、って所、だと思う。
正直確認したサンプル数が非常に少なくてアレなんだけど、根拠はウチのBランク(レベル44メガネと、レベル38お姉さん)と、馴染みのAランク(レベル63酒樽の友)だ。
……Cランクで41レベルの料理人くんとか、Eランクなのに57レベルの暗殺者系メイドちゃんとか見ると、ランクとレベルって必ずしも一致しないんだなあ、とか思うけど。
一応個人情報なので、配慮して名前は伏せる。
メアリーちゃん? やべえ、言われてみれば確かに、思いっきり色々フルオープンにしてしまったけど、良く考えたら誰に聞かせた話でもない。
じゃあ、この先口を閉ざしとけば問題ないと言うことで、俺は俺を許す。
但し、以後気をつけるように。
自分でも判るレベルで反省なんかちっともしていない俺だけど、そんな俺より遥かに反省と縁の無さそうなリリスは、続けてこう仰った。
「まあ、今後はリミッター外すから、アンタ、
リミッターが本当になくなると聞かされると、色々と不安しか無い。
今まで結構やりすぎてたと思ってたのに、これからは最大で今までの5倍規模のやらかしになると聞かされると、もう歩くことすら怖いよ。
レベルが1450から1250に下がると聞かされても、少しも安心できない。
「心配しなくても大丈夫よ」
不安に駆られ、いっそ屋敷から出ないニート冒険者にでもなろうかと割と本気で考え込む俺に、リリスが呆れた声を向ける。
きっと不安になりすぎて、考えが全部ダダ漏れだったんだろう。
「今までよりも大きな力を出せるようになったけど、力を使う感覚は変わらないわよ」
そんな事を言うリリスに、俺は隠しもしない猜疑の眼差しを向ける。
力が今までの5倍になるけど、感覚は変わらないなんて事、有るか?
「信用しないのもいい加減にしなさいよ。大体、今までを考えてみなさいよ」
半眼ジト目で俺を睨みながら、リリスが言葉を続ける。
「抑えてあるとは言え、レベル290……300近いレベルって、アンタ、元の世界の何倍くらいの
何言ってんだコイツ、そう思いかけて流石に気付く。
そうだ、俺は何も意識していなかったんだ。
「いくら
まあ、普通の人間がレベル100に到達する事は不可能だけど、そう続けて、何故か得意げに胸を張る。
ちっさい自慢か? なんて考えた所で、俺はリリスに
いつもの癖で気軽に脳内ツッコミの
いつもなら口にさえ出さなきゃ問題無かったのだが、厄介なことに今の俺はリリスと思念をリンクさせているに等しい状態で、かつ、片手に収まる程度の光の球でしか無いのだ。
「ちょっとした浮遊霊程度なら、このまま魔力を込めて握りつぶせば消滅させられるんだけど、試していーい?」
声色から察するに、割と本気でお怒りのご様子なので、俺は必死で宥めに掛かる。
『悪かった、悪かったって! 俺は大きさに関わらずおっ……ンンッ、大好きだから、気にすんな!』
うっかりただの変態発言が飛び出しかけたが、リリスは判りやすく動きを止めると、心持ち顔を赤らめて咳払いをする。
うん、セクハラ発言も度が過ぎるとアレだよな。
反省しよう、本気で控えよう、うん。
「お前が大好きとか、そんな事言ったら誤魔化せるとか、思わないでよね⁉」
キツめのアイアンクローに耐える俺は、リリスの言葉がよく聞こえない。
出来ることは、動きが止まった流れで力が緩んでくれる事を祈るのみだ。
しかし、何故かもじもじした態度と言うか動きで、しかしきっちりと俺をホールドしたリリス。
当然身動きが取れずされるがままの俺は、文字通り振り回される事になる。
心の底から自身のセクハラ発言を反省し、俺はそういう方面でリリスをからかうことは辞めようと、心許なく心に誓うのだった。
俺の所為で話が中断どころか、俺の存在が文字通りの意味で消滅しかけた訳だが、その事は怖いので忘れよう。
その後も暫くは顔を赤らめつつもなんとなくツンケンしたリリスの話によると。
「出せる力の最大値が増えたからって、常に最大値で生活してる訳じゃないでしょうに」
とのこと。
そう言われるとなんとなく納得しそうになるが、ふと思い至って疑問を投げる。
『いやまあ、そりゃろうだろうけどさ。でも、だからって普段の力が全く変わらずって事もないだろ? 最大値が増えるなら、普段の生活で使用する分にも影響くらい出るだろ』
俺が反論すると、リリスは腕組みして大袈裟に頷いてみせる。
「うんうん、そう思うわよね? 私もその辺少し勘違いしてたんだけど」
言ってから、俺に向けて人差し指を突き出す。
人を指差すんじゃありません、まったくもう。
「イリス、他ならぬアンタがその辺問題ないと、証明してくれたのよ」
嫌に自信満々なリリスだが、俺の何処に有るかわからない脳内は疑問符で満たされる。
俺が? 証明? 何を、いやいつ?
「まず、レベル290そこそこの身体能力で特に問題なく生活出来ていた事がひとつ」
自信満々なリリスのドヤフェイスを眺めるも、俺はと言えばなんだか馬鹿馬鹿しい気持ちで、表情が有るなら今は俺こそがジト目を向けている場面だろう。
『お前なあ……。そんなもん、普段の生活で全力出す場面なんて無いだろ。固い瓶の蓋を開けるとか、漬物石を上げ下ろしするとか、そういう機会すらそうそう無いんだぞ?』
我ながら極端な例だが、そんな機会すらも縁遠い生活なのだ。
ポーションはゲーム由来の自分の持ち物で、開かない時は何しても開かないけど、使用可能な状態なら苦労すること無く開けられる、使えるモノなのだ。
漬物の趣味もないし、日常で極端に重いものを持ち上げたり運んだり、なんて機会はそうそうない。
「ほら、アンタも自分で判ってるじゃない。日常で、フルパワー出す必要なんて無いんだから。今までの生活で馴染んだ感覚ってのは、そんなに大きく狂ったりしないわよ」
自分の発言を逆手に取られると、なんか正論かも知れない事でも素直に受け取り難かったりしてしまう。
ぐぬぬと一度は引っ込むものの、やはりそう簡単に納得は出来ない。
『その普段の感覚の基点が狂うんじゃないかって言ってるんだよ。今までがレベル300未満だから問題なかったかもだけど、それが1200になって尚、今まで通りに生活出来るなんて、信じ難いわけよ』
食い下がる俺になんとも言えない表情を向けて、リリスは口を開く。
「ホントに面倒臭いわねえ、アンタは。何か……あ」
言い掛けて、何か思い付いたらしい。
ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて、再び口を開く。
「アンタの好きな自転車。例えば
どんな事を言い出すかと思えば。
『比べるのが可哀想な事をするんじゃないよ、そもそもの用途が違うでしょうが。スピード出すだけだったら、クロスバイクの方に決まってるでしょ』
MTB寄りのコンポーネントのクロスバイクであっても、
それがロードバイク寄りのコンポーネントのクロスバイクだと、俺ですら平地で40キロ以上出せてしまう。
ホントは出しちゃダメだけど、踏めば踏むほどスピードが出るのが楽しくて、つい踏んでしまうのだよ、あのペダルは。
そして、そんな俺の本気ですら余裕で置いて行く上位存在として、
もう、あの連中のレベルまで行くと、ストイックすぎて遠くから応援するより他に無いのだが、乗ってる本人は平然と「いやいや、私はエンジョイ勢だから」とか言ってたりする。
40キロで走る奴を余裕でチギるような奴を、俺はエンジョイ勢とは認めない。
そんな確執は置くとして。
人力を前に進むスピードに変換する事に特化しているスポーツサイクル軍団に比べて、
「そうよね? じゃあ、クロスバイクっていうのは、常に
なんとなくロード乗りの
あれホントに可愛いよね、考えたデザイナーは天才だと思う。
『何突拍子も無い事言いだしてんだ、そんな訳無いだろ。結局は自転車だぞ? なんなら時速5キロ走行だって余裕ですよ』
そんな楽しかった思い出を一旦脳内から追い出して、リリスの挑発に乗ってやる。
言い訳すると、試しにやって見た以外で、俺は普段そんな事しないぞ?
基本的には巡航速度は25キロで、流れが良ければ30キロ前後になるかなー、って感じです。
極端に遅く走ることもしないけど、常に全力で走る訳でもないのだ。
「ほら、出来るじゃない、力加減」
自転車に関する回想が楽しすぎて切なくなってきた俺に、リリスのドヤ顔が炸裂して素直にウザい。
『ほらってお前……言いたいことは
つまり、大きな力を持っていても、日常での力加減は大きく変わらない、って話に持っていきたいのだな、リリスは。
『例えが極端だし、回りくどすぎて却ってピンと来ないんだよなあ』
「なんでよ!」
俺の反応にご不満な様子で、頬を膨らませるリリス。
不穏な目的が見え隠れしたり、自分がお菓子を食べたいってだけの理由で酒造り始めたりするクセに、そういう反応は可愛すぎるでしょうが。
なんなの、ギャップ萌えで俺を殺す気なの?
「ふん、でも、理屈でどうこう言うよりももっと確実な答えも有るのよ」
表情なんてモンが無い事を確信してる俺はニヤニヤ笑いを隠しもせず、リリスはそんな俺の気配にちょっぴり苛つきを見せる。
『ほうほう? その確実な答えって何だい?』
結構舐め腐って、俺はリリスを誂う。
「ちょくちょく、実験的にリミッター外してたから」
そんな俺は、ニヤ気配のままで思考を停止させ、変わらないはずの顔色を青褪めさせる。
え? なに?
この子は何を言い出してるの?
『リミッター外したって……誰の?』
リリスがリミッター外してたとしても結構怖いんだけど、話の流れから言って、俺の事な気がする。
主語が無いから判断つかないし、自分自身で実験していたっていう常識的? な回答を期待する俺だったが。
「アンタよアンタ。イリスちゃんよ」
人差し指を突きつけられた上にキチンと名前まで呼ばれてしまったら、もう受け入れるしか無い。
『人様でなんて実験してるんだお前は!』
全然気づかなかった、俺、いつそんな状態になってたの?
そう思って色々思い返してみるが、そもそもレベルが290くらいまで抑えられてた事すら気付いてなかったのだ。
色んな場面を、なんならこっちに来る前の生活まで思い出すも、違和感なんて項目はひとつも無い。
ドアを開ける時はドアの様子というか見た目で押し引きの重さをなんとなく想像して行動してたし、他の日常行動も……。
そこまで考えて、やっと腑に落ちてきた。
なるほど、経験の方に力加減を合わせるから、出力できる力の上限が増えても、日常では大きな不具合が発生しなかったのか。
そうだよね、ドアの開閉に毎回全力出すバカなんて、どんな筋肉自慢でも居やしないだろうし。
『……リリスさんよ。言いたいことがやっと
なんだか色々がっかりしすぎて一人称が混乱して居るが、俺は悪い事をしてはいないと思う。
「だからなんで素直に受け入れないのよ、アンタってばぁ!」
そんな俺の反応とか様子とか、諸々納得行かないらしいリリスはやっぱり不満げだった。
寧ろ、なんで素直に受け入れて貰えると思えたんだよ。
色々リリスに聞けて、その上で、俺の結論としては「自転車乗りたい」にしかならなかった訳だけども。
あーでもないこーでもない、グダグダグダと文句を並べた所で、俺の
そんな感じで、もはや焦れもしないけどやる事も無い俺は、なんとなくメアリお嬢様の観察をしてみたり。
この街で、というか俺の知る限り、2番手の強さを手にしたお嬢様。
ちなみに俺がまだ3番手に居るってのが信じられない。
そんなお嬢様は、俺にもリリスにも今までと変わりなく接し、凄い緩さの笑顔を振り撒いてくれている。
最近はヘレネちゃんと並んで、俺の中の癒やし枠に収まっている。
ヘレネちゃんは未だにお嬢様に慣れないようで、まだ対応中の顔色が悪いけど。
ホントに、何処らへんに狂気成分が配合されているのか良く判らん。
リリスがメアリお嬢様のレベルアップを強行したってことは、多分この街の防衛兵器にする
小悪党とか貴族様を警戒するにしては、ちょっとやり過ぎな気がしなくもない。
じゃあ何に対する警戒なのかと考えると、嫌な予感は膨らむ。
まず、あの
正直に言って、俺は生け捕りにする前提で動いていたから後手に回って結局逃したわけだけど、リリスが最初から手加減無しで動けば、今頃あの野郎は居なかった筈だ。
ホントに、我ながら余計な事をしたもんだと悔やむ思いも有るんだが、やっちまったもんは仕方がない。
俺の反省は兎も角、アレの相手の為に、態々戦力を増やす必要性を感じない。
まあ、向こうも次会う時は、多少なりともパワーアップしてくるんだろうけど……こうなってしまうと、同情すら覚える。
んじゃあ何を警戒してるのかと言えば、俺の手持ちに情報なんか有りはしないが、思い当たる最悪の相手と言えば。
そんなもん、俺達と同種の。
こいつ等しか居ないだろう。
俺がこっちに居着いて今まで、存在を予感させる事は有っても気配を感じる事は無かった。
だからこそ、リリスは今までリミッターを掛けたままだったんだろうし、その事実を俺に伝えることもしなかったと思う。
だがここに来て、どういう理由でなんの危機を感じたものか、俺達のリミッター解除だけでは収まらず、同レベルの戦力を1体追加しつつ、監視網を構築しようとしている。
その辺の事情はいずれキチンと聞かなきゃマズいと思うが、今の俺が聞いた所で
俺の身体が治ったら、リリスには何処を目指すのかを色々と語って貰うとしよう。
それと。
リリスはこの街の防犯用の監視システムを作りたい、としか言っていないけど、どうもこう、別の何かをしたい様子がチラホラ見える。
街をあちこち歩いて、かなり正確な地図を作り、今もその地図を眺めながら、恐らく霊脈を走らせる為の線を書き込んでいる。
その頑張り様もなにか違和感が有ると言うか、どうもこう、今回のレベッカちゃんの件も含めて、
それは良いんだけど、霊脈を使って出来る事って、何だ?
それが見えて来ないので、リリスの目的が判らず、色々と余計なことを考えて勝手に不安に陥ったりしてしまう。
この
いや、スケールが大きすぎて、リリスですらまともに触れる事が出来るとも思えない。
んじゃあ、アクセスに制限を掛けるならどうだろう、と思うが、そもそもどうやって制限するというのか、そこが思いつかないからどうしようも無い。
それに、色々乗り越え制限まで掛けてアクセス出来た所で、そのまま「力」として使用出来るのかが疑問だ。
俺やリリスの「同族」に対抗する切り札にでも出来るなら心強いが、現状ではリリスがかろうじて触れられるレベルの「知」の遺産だ。
今のままでは俺には扱えないし、メアリお嬢様でも同じだと思う。
区画整理をするように地図上に筆を走らせるリリスを見下ろしながら、リリスが描く図面のその先を透かし見ようとするが、俺如きでは何が見える事も無い。
作業中のリリスを手伝うことも出来ないし、お嬢様の観察をしようにも「かわいい」以外の感想が湧かない以上、続けても仕方ない。
俺は一言リリスに言いおいて、何か情報のひとつも拾えないもんかと冒険者ギルドの
こんなナリだから誰に見つかる事も無いが、だからこそ後ろ暗い連中の話を拾うのには向いているだろう。
念話を繋げばいつでも音声の録音は出来るとリリスが凄く悪い顔で言っていたので、そんな会話に出くわしたら直ぐにリリスに連絡を取ることにしよう。
タイラーくんとジェシカさんが付き添う形で、あちこち走り回る新人冒険者改め、新人ギルド職員のレベッカちゃん。
そんな彼女が無事に生きている事を不審に思う者もまだ街には居ない。
そんな奴が出てくるとしたら、早くても2日後って所か。
ウチの子供組もあんまり出歩かないようにしているし、買い物なんかはヘレネちゃんかウォルターくんと一緒に動くようにしているようだ。
そう言えば、レベッカちゃんはギルド職員だけど、ウチのクランに加入することになった。
走ったりする事が増えるから、そういうスキルを取得できる
……だからなんで
それに、よく考えなくても冒険者のクランに所属する人間がギルド職員になるとか、汚職の香りが漂うんだけど問題ないのか?
そう思ってリリス経由でタイラーくんとかに確認して貰ったら。
「グスタフの所からも何人か職員が出てるぞ。というか、グスタフがギルドの防衛班の班長だしな」
だそうで。
なんというか、色々甘いと言うか緩いと言うか。
まあそう言う事ならと、気にすることを止めた。
ってか、グスタフさんってクランマスターだったのか?
タイラーくん、最初からそっちに所属する……気があったら新クランの立ち上げなんぞしないか。
あの眼鏡の考えもイマイチ判らんけど、まあ、どうでも良いか。
結局目ぼしい情報なんか手に入る事も無く日は過ぎ、リリスの図面は完成し、俺の身体の調整も終わった。
タイミングを合わせたんだろうな、とは思うけど、口には出さない。
ダンジョンから戻って今日で7日。
早ければ、昨日にはレベッカちゃん達を騙し、子供を殺した小悪党が街に帰って来ているかも知れない。
リリスから諸注意を受け、幾つか確認を行ってから、俺は意識を久々の
まず知覚したのが、頭だけでは無い、全身いたる所の激痛。
コレに関しての事前告知が無く、急だったし余りにもあちこちが痛すぎて悲鳴も出ない。
まるで一箇所づつ確認するように痛みは引いていき、頭痛は最後に治まる。
どんな悪態をついてやろうかと考えながら、身体を起こして感覚を確認する。
違和感は無い。
寝ている間に身体を拭いて貰っていた関係上、起き上がった俺は当然の様に素っ裸だった訳だが、そんなもんは手早く下着をつけて、装備を整えてしまえば問題ない。
愛用の装備を、やはり確認しながら身につけ、いかにもファンタジーゲームっぽい、無闇に肌を露出させている装備に
お気に入りの、軍服スタイル。
途端に見た目から肌色が減る。
あんな防御の薄そうな格好、見せびらかして歩く度胸なんぞ無い。
性能で選んでいるんだけど、それでも恥ずかしいもんは恥ずかしい。
冒険者ギルドで女冒険者とか結構居るけど、余程色んな自信も無しに、あんな格好してる女冒険者なんてそうそう見る事は無い。
……居ない事も無いんだけどな。
流石にビキニアーマーは見たこと無いけど。
装備も確認したし、最後に武器を所定の位置に吊るして収めて、それからどうでも良い考えを頭から押し出して俺は大きく伸びをすると、リリスと頷きあって部屋を出る。
メアリーちゃんとも合流し、出掛けるレベッカちゃんと護衛組の3人を見送って、朝食を摂りながら本日の作業内容を確認し、そして俺達も街に出る。
これからするのは、目には見えない大工事。
化け物3人掛かりの、力任せの霊脈整備、まずは其処からだ。
リリス印の防犯システム+α計画、細かい事はリリスに任せっぱなしの俺は。
小悪党共をどう料理してやろうかなんて、少しだけ物騒な事を考えていたりした。
お嬢様パワーアップ。
滲む狂気を頑張って表現したいけど、無理だろうなあ。