タイトルも思いつかないし。
そのうちタイトル変えよう、うん。
「ほら! イリス、出力にムラが有るわよ! もっと安定させて!」
リリスの檄が飛ぶが、飛ばされた
「ちょ、ちょぉっと待ってよ? 俺も俺なりに頑張ってるんだけどね?」
霊脈というやつは
言うだけ有って、かなりのジャジャ馬だ。
こんなモン、どうやって流れを変えるどころか整備するのかと思ったら。
「全力出しなさい! 変に加減したら、
力尽くで軌道を変えるという、俺が考えたのではないかと誤解されそうな程の荒技だった。
もう、能力のリミッターが解除されて力を使うのが怖いとか、そんな事言ってる場合ではない現場に突き落とされた俺とお嬢様だけど。
「あはははは! これ楽しいですねー!」
ノリノリで魔力を振るい、霊脈を押さえつけて高笑いするお嬢様とは対象的に、色んな意味で振り回される俺はと言えば。
「あのね? こいつ、全然言う事聞いてくれる気がしないんだけどね?」
自分の魔力と霊脈の両方に振り回され、
「そんなおっかなびっくりで、霊脈を動かすなんて出来るわけ無いでしょうが! ほら、背筋伸ばして!」
これでリリスが偉そうに言ってるだけだったら素直に反発も出来るのだけど、コイツはコイツできっちり作業しながらだから、文句の言いようもない。
仕事が出来すぎる上司ってホントに面倒臭いな、うん。
「あはははは! ほーら、言うこと聞きなさーい!」
ちょっと離れた所でメアリお嬢様がノリノリで霊脈を押さえ付けてるのを見て、この子も素質有るな、ちょっと付き合い方考えなきゃな、なんて事をのんびり思いつつ。
ようやく
優しい言葉がすごく恋しい、そんな俺です。
リリスの引いた図面を文字通り頭に叩き込んだ俺達は、見た目はのんびり街中を散歩しているように見えて、実は上記通りの作業を行っていると言う状況で。
半日で大まかな霊脈の整備は終わらせていたりした。
主戦力は勿論リリスとメアリーちゃんで、俺は補助できたかどうか程度の戦力でしか無いんだけど。
大きめな霊脈を各ギルドだったり衛兵本部を含む経路に乗せて、商店街を含む主要な大通りにそこそこの規模の霊脈を通し、そして各通りにそれ程太くない霊脈を通していく。
「後は、各建物に霊脈を通しつつ、
北門から南門まで、多少蛇行しながら縦断する大きめの霊脈に街の重要拠点――銭湯1号店含む――が乗っかっている事を感覚的に確認しつつ、徒歩で俺達は冒険者ギルド前の広場を歩く。
今日もよく晴れた空の下、パン屋のオリバーの禿頭が眩しい。
気になっていた肉巻きパンは肉巻き揚げパンに進化し、油っぽさが増した様だ。
あんな油でギットギトで肉は固いのにパンは油でデュルデュルで食べにくくて、無闇に塩気も強い食い物、誰が買ってるんだろうね?
「あとは、冒険者ギルドでアレの操作法を教えるんだっけか?」
俺達3人が歩く先には、当然のように冒険者ギルドが聳え立つ。
ギルドの隣、先日まで広場の一角だった部分は銭湯になる予定の建物の建築が始まっている。
……まだ、基礎を作る段階だけど。
「そうね、予定だと、レイニーちゃんが先に来てる筈だけど」
冷蔵庫を造る予定が、リリスに急に仕事と図面を突きつけられてあたふたしていたレイニーちゃんを思い出し、後で買い物にでも誘ってストレス発散させようと改めて思う。
「良くもまあ、レイニーちゃんも
この世界では当然存在しなかった物。
そもそも想像の範囲を大きく超えている物を、図面と首っ引きで説明されて、それだけで理解できるとも思えない。
思えないけど、錬金術師でかつ魔道具制作技師である彼女は、取り敢えず言われるがままとは言え、なんとか試作は作り上げていた。
あの子の技術力は、俺が思っていたよりずっと高いらしい。
俺は、注釈と細かい指定がびっしりと書き込まれた図面を思い出しただけで、頭痛と目眩を覚えるというのに。
「あの子の実力から言えば、もっと性能の高いモノも造れるわ。イリス、あなたが目を付けた子は、大したものよ」
珍しく上機嫌で、リリスが俺を持ち上げる。
いや、持ち上げてるのは俺じゃなくてレイニーちゃんの方だけども。
「しっかし……思い付いてもするかねぇ」
ギルドの扉を押し開けながら、俺は思い起こす。
異世界モノ名物、異世界知識やら物品の持ち込み。
いつ頃から、リリスは考えていたんだろうか。
「私は設計は出来るけど、造るとなると色々ハードルが有るから。錬金術を使える人間っていうのは、ホントに貴重よね」
その錬金術も、俺が思ってたのと凄く違うんだけど……っていうか、どっちかって言うと
あの子の作業風景を思い出すにつけ、ホント、リリスに同じ事が出来ない事の方が不思議に思えるレベルだ。
あんなモン、魔法だよ魔法。
「あ、リリスさん、イリスさん、メアリーさん。お待ちしてましたよ、ご案内しますね」
受付カウンターに顔を出せば、アマンダさんが超笑顔でお出迎えしてくれる。
メアリお嬢様にも物怖じしない笑顔は、素直に凄いと思う。
文字通りちょっと浮いてるし、魔力を抑えてるとは言え、完全ではないからそこそこ威圧感を放っちゃってるのに。
寧ろメアリーちゃんは、もう少し普通の人間のフリをした方が良いと思う。
笑顔が怖いんだよ、お嬢様。
「ありがとー。レイニーちゃんはもう来てるのかな?」
俺は怖いのでお嬢様の有り様には触れず、アマンダさんへ意識を向け直す。
「はい、先に来て、事務所に居ますよ」
アマンダさんが受付でも人気なのは、この、別け隔ての無さなんだろうなあ。
そんな事を思う俺は、何故か不機嫌になったリリスにふくらはぎ辺りを蹴られつつ、アマンダさんに先導されて事務所へと足を向けるのだった。
事務所に顔を出した俺達だけど、どうやらお目当ての人物達は別室に移動したらしい。
まあ、そりゃそうだよな、なんて呑気に考えながら、目的地である会議室とやらに向かう。
その小綺麗な、ちょっとした規模の部屋の中では、ブランドンさんとハンスさん、レイニーちゃんに加え、アルバレイン衛兵隊の総隊長さんと北門で見かけた記憶がある衛兵長さん、更には商業ギルドのアランさんとレイニーちゃんの担当のフィリアちゃん……だっけか? が、珍妙な――少なくともこの世界の人間の目には――物体を前に、なんとも言えない顔を並べていた。
縦30センチに横60センチ、厚さは3センチちょっと、くらいの大きさの割に薄い板状のパネルが立てられ、縦横30センチくらい、厚さは20センチくらいの箱状の何かが接続されていて、更にその箱からはこの世界の文字を綺麗に並べた横50センチ、奥行き20センチ、厚さ1センチ程度の板も接続され、テーブル上に置かれている。
コレが何をするものか、眺めてみてもまるで想像もつかない、そんな顔の群れだ。
……もう、わざとらしく面倒臭い言葉を並べるのがダルくなるな。
ブツを目にしたリリスは満足げに頷く。
屋敷で施策したモノよりも、更にリリスの理想に近づいていたからだろう。
ホントに、こんなモンを持ち込んで大丈夫なのか?
科学レベルとか色々無視したら、後々面倒臭いことになるぞ、絶対。
俺にとっては見慣れたソレを呆れ顔で眺めながら、知らないフリをする事の面倒くささと疲労感に溜息を漏らす。
「おう、来たか。先にレイニーから説明は受けたが」
俺達にチラリと視線を向けると、口を開きながら視線をソレに戻しつつ、ブランドンさんが頭を掻く。
「何が何やらさっぱり判らん。コイツで、何が出来るんだって?」
そりゃそうだよなあ。
レイニーちゃんにしろ、当初は言われたままに造っていただけで、コレが何なのか
まあ、造ってる最中にリリスが「学習」を施したので、今ではコイツの意義どころか操作法まで完全らしいけど。
……
「有り体に言えば、色々よ。差し当たっては防犯の目的も兼ねて、取り敢えず連絡を簡単に取り合う方法から教えるわ」
防犯の為の機器がまだ出来て居ないが、コイツと冒険者ギルドに登録されている冒険者の情報が有れば、霊脈上でも冒険者の動きだけは把握出来る、って事で、デモンストレーションの場に此処、冒険者ギルドが選ばれた。
ハードウェアが有れば、ソフトウェアはリリスが即興で作れる。
って言うか、もう作ってある。
なにせ、リリスは
「リリス、一応聞くけど。サーバーは……どうすんだ?」
俺は恐る恐る質問をぶつける。
ハコが有っても、中継地点が無ければどうしようもないと思ったのだ。
「んん? 取り敢えずは霊脈そのものが回線兼サーバーね。ただ、そのままじゃ普通には使い
この
俺はリリスの解答の規模の大きさに溜息すら忘れる。
この世界に産み落とされたPC……そうとしか言えない代物を前に、俺は頭痛を覚えるべきなのか、呆れるべきなのか、困るべきなのか迷う。
こういう物は、ちゃんと段階を踏んで基礎になる知識とか技術とか、その辺を、積み重ねて行く上に作り上げられるモノだと思うんだけど。
作らせた本人はそんな葛藤とかは全く感じていないご様子で、身内としていっそ誇らしく思えてくる……だめだ
「用意すんのはサーバーとかの前に、此処に至る基礎知識なんだよなぁ。俺はハードもソフトも良く判らんから、トラブった時はお前さんが居ないとどうしようもないぞ?」
ウキウキ顔に冷水フォールは気が引けるが、変な作業をこっちに投げられても困る。
出来ない事は出来ないと先に言うべきなのだ、うん。
例え、リリス式学習法で色々と詰め込まれていて、思い出すと頭痛が酷いとしても、だ。
「アンタにやる気が無いことは、私が誰より
なんて事思ってたら、リリスに冷水入りのバケツを投げ返された。
そりゃそうですよね。
なんとも言えない顔で実際何も言えない俺を放置して、リリスは居合わせるメンバーを見回す。
「取り敢えず、今日は忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。本日は霊脈接続型の防犯用監視網の説明と使い方、それとさっき言った通り、連絡の取り方を教えます」
並ぶ
珍しい、と思ったが、よく考えると居並ぶ顔は冒険者ギルドのトップとナンバー2、商業ギルドの商業施設部門統括、そして衛兵隊の北門兵長と、初めて見るアルバレイン衛兵総長。
中々に豪勢な顔触れだ。
約2名、いや3名、だいぶ気安い関係になった顔も有るんだけども。
考えてみたら、ブランドンさんもハンスさんもアランさんも、それぞれそれなりの地位の方々だった。
今更接し方を変えるつもりもあんまりないけど、まあ、時と場合を弁える必要は有るらしい。
そんな事を意識し直しながら、俺はリリスから目を離す。
テーブルに置いてあるPCは、取り敢えず2台。
それぞれの施設に2台ずつ支給し、必要に応じて増設を――有料で――行う、と言う事になっている。
ちなみに、設置施設は取り敢えずは冒険者ギルド、商業ギルド、アルバレイン衛兵隊本部、そして酒造事務所だ。
酒造事務所に関しては、別の日に操作法を伝えに行く予定になっている。
行く行くは、きっと領主様のトコにも持っていくんだろうな、なんてボンヤリ考えている。
「連絡を取れる、と言うが……この箱でどうやって連絡を取り合うんだ?」
ブランドンさんが、日頃の付き合い? の気安さで、本体をポンポンと叩きながら問う。
PC本体を気軽に、軽くとは言え衝撃を加えられ、軽く頬を引き攣らせながら、リリスは呼吸を整える。
あーあ、ブランドンさんよ、後々説教コースだぞ、それ。
「それは精密機器ですっ! 気軽にポンポンポンポン、衝撃を与えないで下さいっ!」
せっかく息を整えたのに、それ全部吐き出したらあんま意味ないだろ。
気持ちは判るけど、うーん。
見た目や口調で測れる以上に短気なのよなあ、この子。
ホントに俺の姉妹だ、って気がしてきた。
「おっ、おう、すまんすまん」
リリスの勢いに押され、ブランドンさんがタジタジになりながら謝罪の言葉を述べる。
俺が同じ事言っても「ハイハイ」で済ますだろうに、この野郎。
まあ、その扱いも元を正せば、俺がやらかした事が原因だったりする訳で、何も言えないんだけども。
「と・に・か・く! 良いですか⁉ 使い方を説明しますね!」
ブランドンさん以外は完全にとばっちりだが、プリプリ怒りながら言うリリスに誰も文句を言えず、それぞれが短く顔を見合わせてから思い思いの足取りで、リリスを囲むように集い、PC一式を覗き込む。
そこから暫く、電源……じゃないな、まあ、起動の仕方からの簡単な操作法を説明して行く。
……まあ、普通に口頭で説明しても簡単に覚えられるかは微妙なんだけど、リリスには隠し技がある。
それを予め知ってる俺は、視界に収まる一同にちょっとだけ同情の眼差しを送る。
あまり無理はして欲しく無いんだけどなあ……
光の入ったモニターを興味深げに覗き込む一同の後ろで、リリスは胸の前まで持ち上げた両腕にパリパリと電撃を纏わせ、凄く悪い笑顔を浮かべていた。
リリス式の「学習方法」は文字通り脳に刻まれ、素晴らしい成果を上げるのだが、副作用も有る。
「なるほど便利なものだ。だが、覚える事柄が多いな、頭が痛くなった気がする」
衛兵総長さんが大きく息を吐きながら言うと、ブランドンさんを含めた全員が大きく頷く。
「確かに、覚えることが多い……。しかしこの魔道具は、色々使いたい場面が有りますね」
アランさんが若干青い顔で努めて明るく言うが、受ける面々は若干虚ろな目で乾いた笑いで答えるので、シュールを超えて最早怖い。
みんな頭が痛い「気がする」で済ませてくれてるけど、それ、気の所為じゃないから。
実際、痛い筈なんだ、それ。
大体、お前ら軽く首振っちゃってるじゃん、知覚してるんだから、
「そうなると、量産する必要が出来るけど……リリス、コイツを量産なんて出来るのか?」
場の雰囲気に居た堪れなくなった俺は、アランさんの言葉を受けてリリスに話を振る。
今回のリリスの学習……電気式直接記憶法は、改良を加えられている。
実物を前にし、操作法を説明しながら、関係する知識を少しづつ流して行くんだそうで。
一度に全部の情報を送り込むよりはダメージ――
少ないとは言え脳に無理が掛かるんだな? 多用すんなよ?
今更「使うな」とは言えないけども。
……決して、俺やレイニーちゃん以外の被害者仲間が欲しい訳じゃあないぞ?
「量産は、そうねえ……専用の工房を用意する必要があるけど、なにせ機密が多いから。それに、試験運用の結果は領主様に届けなきゃいけないから、そういう話は領主様に判断を仰がないといけないかも?」
細い指を顎先に当てて少し顔を上げ、天井あたりを見上げながら少し考えるようにリリスは口を開く。
わざとらしい、もう考えてんだろうに。
「でも、コレの応用の広さは今
簡単に量産出来ないし、そもそも有用性を考えるとウチの領どころか王都預かりのアイテムになる恐れも有るよ、と言うちょっと太めの釘刺し。
予め用意していた文言だって事を、俺は知っている。
商業ギルドのアランさんは勿論、此処に居る面々は多少の差はあれ、部下を抱える立場だ。
例えば表計算ソフトなんてモンだって、使い方を知ってしまえばあれこれ応用も思いつくだろうし、メールソフトだって便利に使える事は感覚的に理解出来るだろう。
そうなれば、ある程度数を確保して有用に使いたいと考えるのは当然な訳で。
「なるほど確かに。この魔道具の応用の広さは驚く程だが、それだけにこれは……王都に届け出た上で、王室の管理下に置くべきかも知れん」
やっぱりまだちょっと青い顔で、衛兵長さんが腕組みすると、総長さんがそのとなりで頷いている。
リリス自身、今説明した以上の仕様を抑えている立場上、広めたい思いと制限を掛けたい願望の間でしばし煩悶していた訳だが、最終的には制限したくても現状では制限しきれない、という所に行き着いたらしい。
例えばリリス、もしくはリリスが監修したPCには、例えばソフトウェアのコピーガードからハードの有る部分を開けると
錬金術師の確保が手間になるとしても、だ。
もっと狭い範囲、例えば個人的な使用に限定してなら、もう既に作っている
ただの人間がバラして
それを見てPCと理解できる様なレベルの、リリスのお仲間が勝手に造ってしまうのは気付く事も止める事も出来ない。
だったら、最悪でも領主様の、持っていけるなら王都での管理に持っていってしまえば、簡単に模造する事は出来なくなる……と良いな、という淡い願望だ。
「ただ、あったら便利な物なので、衛兵隊には各分隊舎に。商業ギルドと冒険者ギルドは、必要な各部門に用意しようかと思います」
リリスがニッコリと微笑むと、少しホッとしたような空気が広がる。
まずは領主様に届けて、それからの話になるかと思っていたらしい。
思いがけないリリスの気遣いに安心感を覚えたんだろうけど、違うんですよ皆さん。
リリスは
各所に設置して色んな人間が情報を蓄積させて行けば、霊脈に直接アクセスするよりも楽なだけなんです。
リリス作のPCの本質は、霊脈への簡易アクセス装置だ。
直接アクセスも出来なくは無いが、リリスであっても注意を払わなければ危険を伴う。
メアリーちゃんの覚醒? のような事柄に係る場合にはある程度そういった危険にも近づかざるを得ないのだが、そうでない時は態々危険を冒す必要は無い。
単に離れた場所にメールを飛ばすとか、霊脈を介した防犯システムを構築して監視するとか、そういった事に使うならPCのような装置が有れば手軽に出来るし、それを使っている場所が複数有れば、その中でリリスがPCを使って居ても目立たない、そんな理由であちこちにバラ撒こうとしているのだ。
決して善意なんかじゃない辺り、非常に好感が持てる。
あ、皮肉だぞ?
そんなリリスの透けて見える押し付けがましい善意は兎も角、少し緩んだ空気の中で各々考えを巡らせる一同。
商業ギルド内でPCが必要な部門を考え、必要台数を指折り数えるアランさん。
各支部と連絡が取りやすくて助かるな、特に南、なんて笑う総長さんに引き攣った笑いで答える北の衛兵長さん。
醸造所に連絡取れるから、個人的に酒が注文できるな、なんて言わなくて良い事を言って笑うブランドンさんと、それを受けてハッとした顔をするハンスさん。
その手があったか、じゃないんだよ。
止めろ
大丈夫か? リリスの学習法の副作用で、なんか脳にダメージ与えてないか?
そこはかとない不安と
俺は隣に立つお嬢様に視線を向けると、案の定というか、ニコニコと笑顔を浮かべて、ちょっと浮いた位置からみんなを少し見下ろすようにしている。
……今更だけど、こんなモンスター感あふれる佇まいで、誰も気に留めていないってのも凄いモンだと思う。
普通に討伐命令とか出やしないもんだろうか?
今のメアリーちゃんを討伐とか、多分国を挙げても無理だと思うけども。
「どうしたのー? イリスちゃん、私に何かついてるかなー?」
変わらずにこやかに俺の方に顔を向けるメアリーちゃんに、俺は「まずは地に足をつけよう」なんて思ったけど口にせず、力なく首を振る。
続けてリリスへと目を向けると、見た目では分からないが、皆の話を聞きながら、実は意識の半分は此処には無い、という状態だ。
多分、さっきブランドンさんから提供された、この街の冒険者ギルドにギルドカードを提出した冒険者のリスト、そのデータと霊脈ネットワークを使って
無論、例の
リリスは素知らぬ顔で早速霊脈ネットワークを使用し、俺とメアリーちゃんに冒険者ベータベースを送って来ている。
だから、実は俺も同じ事をしていて、かつ、既に見つけても居る訳だが。
判りやすいくらい、連中は一箇所に集まっている。
この会合はまだ質疑応答や今後の動き等、色々と続きが有る。
主催というか、説明役のリリスはこの場を離れる訳には行かない。
俺はもう一度、諦め顔でメアリーちゃんと目を合わせる。
リリスは動けないから、
リリスと同じく霊脈に直接アクセスできる、俺とメアリーちゃんが。
「
予め決めていた通りの言い訳を使うと、メアリーちゃんも頷いて俺の隣まで降りてくる。
「ああ、
にこりと、リリスが可憐に、邪悪に笑う。
仲間の身を守るためだから、いい加減俺にも手を汚して見せろと、そういう事だろう。
俺は溜息を友に
足取りは重いが、気が進まない訳では無い、そんな自分の心持ちに何処かひんやりとしたモノを感じながら。
『ねーねーイリスちゃん、真っ直ぐ向かうんだよねー?』
パワーアップしたお嬢様と脳を完全新規で作り直された俺、2人で新技「
酒造所に向かうなら方向が違う訳だが、それを見咎める人間は居ない。
『そーだなぁ。まあ、周囲の目をある程度気にしたい所だけど……どうもただの
我ながら物騒かつ短絡的なお返事だ。
実際の所、あんまり良い案とは思って居ない俺だけど、
身内と言えば、リリスにばかり手を汚させる訳にも行かないし。
……リリスの場合、手を汚す理由が酷いので、責める
『あのねー、私ちょっと試したい事もあってー。出来れば、任せて欲しいなー、なんて』
隣でテンションの上昇と共にちょっと高度も上げちゃってるお嬢様が、楽しそうに何やら物騒な事を言っている。
ちょっと乗り気過ぎて怖いんだけど、だからって任せっぱなしには出来ない。
『あー、せめて目当ての
自分のモチベーションを上げる意味でも、俺はメアリーちゃんに告げる。
今や身内のレベッカちゃんを陥れようとした、それも許せないが。
騙した子供を刺した、その
上手いこと
『うん、じゃあ、残りは全部貰うねー?』
『全部って、ちょっと、お嬢様?』
やけに
空模様は快晴。
気が晴れない所為か、やけにくすんだ青空を見上げつつ、俺達はどうでも良い事の様な会話を繰り広げていた。
次の次くらいの話は思い浮かんでて気は急いてるんですが、次の話は……うーん。