拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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ゲームがどうとか言う前に、自分の健康(主に脳的な)を疑う主人公。

その割には割と自制の無いまま歩む模様。


3 目は醒めたけど醒めてない感じの新生活

 意識不明で見ている夢なのか異世界に迷い込んだのか。

 判断が付かないのでこの際、青空の下、昼間っから屋台の串焼きと蜂蜜酒(ミード)を頂いております。

 ミードって初めて飲んだけど、なんか薄くね? 思った程甘くないんだけど?

 俺、騙されてるとか無いよね?

 

 

 

 宿を出てすぐ、真っ直ぐに屋台で酒を煽ってから、俺は冒険者ギルドに踏み込んだ。

 居合わせた数人の冒険者に青い顔で道を譲られつつカウンターへ向かう。

 

 何々どした?

 俺、今日はなんもしてないよ?

 

「あの、あまり問題を起こされては困ります」

 カウンターに着くなり恐る恐ると言った感じで苦言を頂く。

 だから俺は今日は、って()っといたらこの(くだり)何回やることになるんだ。

 何となく(いら)つく気分で、俺は礼儀を放り投げることに決める。

「駆け出しの冒険者や子供に凄んで見せるのが模範的な冒険者の姿って意味か? なら、俺も今後はそう振る舞うが?」

 昨日の話だったらアレは、降り掛かる火の粉を払っただけなんだけど?

 そう言いながら、これ見よがしに左腰の剣の柄に手を掛ける。

「い、いえ、そういう事ではなく」

 カウンターのお姉さんは可愛そうなくらい萎縮して、慌てて否定する。

 だが俺はちょっぴりムカついたので許してあげない。

 接客の基本がなってないのはダメだ。

 

 俺も接客は苦手だったけどな!

 

「んじゃ、どういう事かな? 俺は売られた喧嘩を買っただけなんだが、喧嘩を売ったほうはお咎めなしなのか? 俺だけ、頭ごなしに言われたら気分悪いんだが?」

 意地悪く剣の柄を指先でコツコツと叩きながら、厭味ったらしく言う。

 うわーい、もう、完全な八つ当たりだ。

 自分でも判るが、妙な難癖を先に塗りつけてきたのは向こうだ。

 八つ当たりだと理解(わか)ってるが、この際だ、言っちゃえ。

「あ、あの、ええと」

 受付お姉さんは、厄介者を完全に怒らせた、と、真っ青である。

 ……流石に可愛そうだな。

 泣きそうになっちゃってるし。

「……もう良いよ、これじゃ俺が弱いものイジメしてる様にしか見えねェ。昨日のクズのマネしたって、面白くもねェからな」

 俺は仮面を外しながら言う。

 いや、日が高いのも有って、日中は暑いのよ、この仮面さん。

 受付のお姉さんは俺の顔を見て更に顔色を青くしているが、なんだ?

 そんなにマズいツラだったかな……自分で言うのも何だが、かなり可愛いと思うんだが……。

 

 中身が俺じゃなければだけどな!

 

「ちょっと真面目な話があるんだ。それなりに偉い人、手が空いてないかな?」

 そんな事は置いといて、俺は用件を済ましたい。

 だけど、このお姉さんには話したくねェ。

 端的に言えば気に入らないという、大人が使っちゃいけない理由。

 いけないのだが、夢だかなんだか理解(わか)らない世界で常識を云々するのも、時と場合に依るのだ。

 面と向かって「お前じゃ話にならない」と言われた(ほう)(たま)ったもんじゃないよな。

 そうは思いながら反省の「ハ」の字も無い俺は、ちょっと真面目な顔でお姉さんを真っ直ぐ見る。

 はよ呼んでこい、と。

 お姉さんは「お待ち下さい」と言って、椅子とか棚とか色々ぶつかりながら、奥へと消えていった。

 

 

 

「ハンスさん!」

 午前中の冒険者ギルドは意外と忙しい。

 朝イチで依頼を受けて、準備を整えて出かけ、或いは日を跨いだ仕事を終えた連中が、なるべく早く戻って酒にありつきたい。

 そういった冒険者達で、朝から冒険者ギルドは活気に溢れる。

 ギルドの受付も、冒険者の実力が依頼に合っているか確認したり、任せられる仕事を吟味したり、仕事終わりの確認と討伐部位や場合によっては採取や剥ぎ取りの物品の査定の間口の手配をしたりと、嵐のような忙しさに見舞われる。

 そんな受付ラッシュが漸く収まりを見せ始めた時間。

 副ギルドマスターのハンスは整えた髭を擦りながら昼食について熟考していた。

 

 こないだの肉巻きパン、ありゃあダメだったな。

 味がどうの以前に、手がベタついて食い(にく)いったら無かった。

 オリバー自体は気の良い奴だし、あー言う突発的な思いつきメニューを出さなければ、腕も悪くは無いのに……。

 1番の問題は、その思いつきメニューが多すぎて、マトモなメニューを探すのが手間だという事か。

 止せば良いのに珍妙な名前を付けている料理も少なくない為、より一層作業が面倒くさい。

 

 いつの間にか思考が昼食から屋台の主への心配、そこから進んで愚痴に変わっている。

「あ? どーした血相変えて。オリバーの屋台が吹っ飛びでもしたか?」

 そうだったら昼飯食えなくなるな。

 そう面白くもなさそうに考えるハンスに、駆け込んできた受付役のラウラは青い顔のままで告げる。

「あの、昨日の、例の冒険者が……」

「うん?」

 すぐには思い出せないが、受付役が顔色を悪くする相手。

 何が有ったのか、詳しく聞いてみる事にして、ハンスはその熊のような大きな身体(からだ)をデスクに据え直した。

 

 

 

「……あー、なんだ。お前、そんな事言ったのか?」

 ハンスは溜息混じりに言うと、(ひたい)を抑える。

 このトラブルメーカーは、何度目だ?

 気が付くと冒険者を怒らせ、こうして事務所に駆け込んでくる。

 とうとうつい先日には、怒らせちゃいけない相手を怒らせた。

 その上に不正まで発覚した。

 その件も話をしなきゃいけないのだが、先週からギルドマスターがまさにその件で出かけているので保留中である。

「ですが、問題を起こした新人の冒険者ですよ⁉ 今だって、仮面外して睨みながら……!」

 自分こそがトラブルを引き起こしているとは微塵も思っていないラウラは、熱く力説する。

 そう思うのならこっちに逃げてこないで、受付で追い返せばいいのに、毎回ビビって逃げてくる。

 いや、出来ないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ハンスはもう一度溜息を()くと、ラウラに真っ直ぐ目を向ける。

「昨日のだったら、ありゃあ調子に乗ったノーラッドが悪いって言っただろうが」

 Aランクにギリギリでぶら下がっていた、悪たれノーラッド。

 でかい図体と馬鹿力で近所の鼻つまみ(もの)ナンバーワンだったが、昨日登録したばかりの駆け出しに、いつものようにちょっかい掛けて返り討ちにあい、利き腕を失くして引退となった。

 元より不正でAランクになったと噂のバカで、ハンスが何度注意しても態度を改めない。

 しかも噂が事実であったため、ギルドマスターとも協議の上、近々冒険者登録を抹消し、領主様の前に突き出して沙汰を下して頂く予定だったのだ。

 ()()()も共に。

「ノーラッドさんはこの街の数少ないAランク冒険者だったんですよ⁉」

 妙にノーラッドに肩入れするラウラ。

 ハンスは溜息しか出ない。

「Aランクねぇ……」

 

 彼女は知らない。

 彼女が不正でノーラッドの冒険者昇格書類を偽造したことが、既にバレていることを。

 そして、そのノーラッドの冒険者登録の末梢と同時に、彼女もまた、不正を理由に解雇される予定である事を。

 寧ろ、解雇後の処分まで話が進んでいる――ノーラッド共々、労働奴隷となる予定である――事を。

 

 Aランク冒険者は、往々にして街の誉れとして扱われる。

 ちょっとした英雄という奴だ。

 実力も問われるし、そうそう簡単に成れるものでも無いので、絶対人数が少ない。

 そのAランク冒険者に認定されているとなれば、1目も2目も置かれようというものである。

 

 さらに、そのAランク冒険者に気に入られ、専属に指名された受付は箔がつく。

 Aランクの冒険者を指名で雇いたい者はそれなりに居るし、指名依頼を受けるのは冒険者が信頼を受けている証。

 

「そのノーラッドの指名依頼が、最近()()()()()()()()()()()()()()()んだが、何か知らんか? なあラウラ」

 勢い込んでノーラッドの肩を持っていたラウラが押し黙る。

「表立って依頼を請けたような記録は半年は無いのに、お前からは定期的にそこそこの依頼の達成が報告されてるよな?」

 右手を軽く上げ、その動作で職員が数名動く。

 2人が出口脇に構え、逃走を防ぐ。

 更に2人が、ラウラの両側に立つ。

 

 タイミングを測っていたが、思ったよりも早い。

 だが、泳がせるにも限界がある。これ以上はこの馬鹿を受付に立たせる訳にはいかない。

 冒険者ギルドの沽券に関わる。

 それに、早すぎる、と言う事は無い。

 元より、ギルドマスターからの命令も出ているのだ。

 

 ラウラが次に問題を起こしたら、直ちに拘束せよ、と。

 

()()()()()調()()()()、そもそもあいつが請けたような仕事の依頼は入ってないんだ。不思議なモンだな」

 ラウラの両側に立った職員の1人が、わざとらしく書類の束をハンスに手渡す。

 書類の一番上は表題らしく、「ノーラッド及び共謀のギルド職員の不正の証拠資料」の文字。

 それがラウラにも見えるように、ゆっくりとハンスは受け取る。

「そ、そんなの言いがかりです! 彼は、彼はこの街の英雄で、依頼もちゃんと達成して……!」

「その実績に疑問符が付いてるんだよ、ノーラッド専属受付さんよ」

 ラウラが真っ青な顔で釈明というか、勢いで言えば逆弾劾を試みようと口を開く。

 しかしその鼻先を、ハンスの静かな声が押さえつける。

「アルミールの山麓では、大型のフォレストボアの討伐だったか? 一月(ひとつき)前の依頼だな」

 紙束を捲り、比較的最近の「仕事」の記録を見る。

「おかしいな? 確認に人を走らせたんだが、あの村じゃあここ半年程、そんな魔物が出たことなんて無いそうだ」

 手元の資料から顔を上げ、まっすぐにラウラの目を見据える。

「そんな筈はないです! ちゃんと依頼があって、報告も正しいものです!」

 そう答えるものの、ハンスの視線から逃れようと視線が左右に泳ぐ。

「その依頼主(いらいぬし)に話を聞きに行ったんだが、そんな名前の住人が居なかったんだ。仕方ないから村長に話を聞いたんだが、そんな依頼なんて誰も出してないってハッキリ言ってたぞ。そもそも指名でAランクを呼べるような(かね)なんか無いってよ」

 ラウラの左隣の職員が頷く。

 全く下らないことで、あちこち走らされたのだ。

 ギルドの面汚しを糾弾する瞬間を、(いま)(いま)かと待っていたのだろう。

「念の為に、村の人間、噂好きそうな子供にまで聞きましたがね。そもそもフォレストボアなんて出てないし、Aランクの冒険者なんかが村に来た事も無いそうですよ」

 だから、ハンスに報告する(てい)でラウラの言葉の逃げ道を塞ぐ職員の声には、内容に反して()っすらと棘が滲んでいる。

「指名の依頼となれば結構な額だ。Aランクとなれば尚更だが、その資金は何処から出たんだろうな?」

 アルミールの山麓の村だけではなく、定期的に、ご丁寧に移動に馬車で半日以上掛かる村からの依頼を請けた記録が並んでいる。

 その全ての村で、該当時期に依頼を出した所は無かった。

 だが、ノーラッドの手には報酬が渡り、ラウラにも仲介料が流れている。

「それに、とある筋からな? 最近は受付で指名依頼を請け負うかどうかを決めるのか、と、問い合わせまであってはな。調べない訳にいはイカンのだ」

 ハンスの目が鋭くなる。

 本当なら2~3日後に、ギルドマスターと一緒にノーラッドとラウラに処分を伝え、衛兵に突き出し、そのまま領都まで護送される予定だったのだ。

 証拠も固まっている以上、些か予定が早まったが、変更ではない。

「そんな、そんなの言いがかりです! 誰ですか、そんな事を言っているのは! ギルド職員である、私に対する侮辱です!」

 強がっているようだが、顔色は悪い。

 元々気が弱く、気の荒い冒険者に手を焼く性格。

 そのクセ思ったことをそのまま言ってしまう性分も災し、冒険者からの人気はゼロに等しく、依頼受付達成率がこのギルドでダントツに低い。

 

 受付達成率は、受付役が冒険者の技量に応じて振り分けた仕事が、どの程度達成されたかを示す数字である。

 冒険者は勿論自分の意志で依頼を選べるが、受付役がその冒険者のギルドカードの情報から依頼の適性を確認し、場合によっては冒険者に別の依頼を勧める。

 実力不足等の原因で無駄に命を散らす事を失くすべく施行されているシステムだ。

 ただでさえ冒険者に対する態度が悪く、更には嫌われ者のノーラッドとつるんでいる、上から目線の受付役、と(もく)されていたラウラが居る受付には、普段から人が寄り付く事は殆どなく、知らずに訪れた冒険者は手柄を焦ったラウラに無理な依頼を押し付けられ、当然のように依頼失敗する冒険者も続出し、彼女自身の受付達成率も低迷する。

 普通に考えて大問題だが、冒険者間の噂は目立つところではノーラッドに睨まれ、ギルド本部への報告はラウラ自身によって誤魔化され、今まで露見が遅れていた。

 その受付達成率を誤魔化すために有りもしない「ノーラッドへの指名依頼」をでっち上げ、点数を水増しする。

 当然冒険者としても職員としても規約違反なのだが、素直に報告してしまえば彼女の成績は「0」だ。

 少し考えればマズイことを繰り返していると解りそうなものだが、焦っていた彼女にとって悪いのは常に周囲であり、依頼を失敗する冒険者だった。

 

「言いがかりか。ならば申し開きは、侯爵閣下に直接言ってくれ。冒険者ギルド(うち)では、不正を行った職員を(かば)う事は出来ん」

 ハンスはズバリと現状を突きつける。

 この地方を治める領主の名がチラついた事で、ラウラの顔色が一層悪くなる。

 突然の事――ラウラにしてみれば――に、咄嗟に返事ができず、過呼吸のように短いセンテンスを繰り返してしまう。

「侯爵閣下の使いに、随分横柄だったらしいな? 俺もマスターもそんな話聞いてないから、釈明も数日掛かりだ」

 実際には釈明ではなく、ただ只管頭を下げた。

 単なる冒険者の依頼(クエスト)失敗なら事情の説明のしようも有るが、受付が領主の持ってきた依頼を門前払い。

 挙げ句、「Aランクの冒険者の請ける依頼は私が決めます」と啖呵を切ってみせたと聞けば、平身低頭謝罪し倒すより他に、身の振り(よう)が無い。

 大方、ギルドにその依頼を流す前に、その内容を勝手に確認したのだろう。

 

 ギルドマスターと、(サブ)ギルドマスターであるハンスが精査し、前もって領主様に依頼していた、これ見よがしに危険な依頼。

 その内容を見たラウラは、それをギルド側に届けること無く断り、突き返したのだ。

 愚かにも、誰の依頼かを確認もせずに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()では、その依頼(クエスト)の達成は絶対に不可能だったのだ。

 

 多分そうなるだろうとは、思っていたが。

 だから、後日ノーラッドとラウラを呼び出し、ハンスかギルマスが直々にこの依頼を押しつけ、現地に向かわせる算段まで付けていた。

 監視付きで、である。

「実はノーラッドとお前の不正の調査はとっくに終わっていて、近日中に捕縛、拘禁の予定だった」

 言いながら、ハンスはデスクの抽斗から、この地方の領主のものに加え、ギルドマスターと自分の署名も入った命令書をラウラに見せる。

 それは、ノーラッドが反抗し暴れた場合に取り出すか、依頼現場へ向かう途中で逃走しようとしたら――十中八九そうなったと読んでいるが――取り出す予定だったもの。

 今はギルマスが不在の為、自分が代理で持っているもの。

「これが、お前たち2人の捕縛命令書だ」

 ヘナヘナと崩れ落ちるラウラから視線を外し、ハンスは事務所内を見回す。

 ハンスの視線を請けた職員2人がラウラの腕を両側から引いて立たせると、そのまま奥へと消える。

 それを見送りながら、ハンスは目のあった、今手の空いていそうな受付役に声を向けた。

「アマンダ、受付へ行って貰えるか? 気の強いお嬢さんがお待ちらしいから、それなりに丁寧にな。用件を聞いて、なんならすぐ俺に繋いで構わん」

 直ぐに自分に繋げと言うのなら、最初から出れば良さそうなものだが、そこは冒険者ギルドとしての威厳が有る。

 軽々しく頭か、それに近い位置に居る人間がホイホイと受付に立つ訳にはいかない。

 建前では有るが。

 急に話を振られた女性、受付役のアマンダはたまたま顔を出しただけだったが、仕事を抱えていた訳でもなく、急な仕事を厭うことも無かったので、直ぐに受付へと戻る。

 先程のラウラと冒険者のやり取りを見ていたので、少なくとも誰を待たせているかは判っている。

 ハンスは、本来はギルドマスターが居る時にやらせたかった衛兵への連絡の為に部下を走らせ、ラウラを押し込んだ商談用の小部屋に見張りを立たせ、一段と深い溜息を()いた。

 

 冒険者ギルド(うち)の問題児2名が昨日今日と連続で怒らせた新人冒険者。

 ……まあ、アマンダなら大丈夫だろ。

 

 そこそこ人気のアマンダなら、上手いこと機嫌をとってくれるだろう。

 それはそれとして、自分が出る事にはなるかも知れない。

 

 いくら機嫌をとるとは言え、一度は怒らせているらしいからな。

 

 ハンスは手早く今抱えている仕事を確認する。

 幸いと言うべきか、急ぎの仕事は無く、今なら身軽に動けるタイミングだった。

 それでも自分が率先して窓口に向かわなかったのは、厄介事が片付いたとは言え気分が悪く、冒険者相手に話を聞くのが億劫だったからだ。

 

 

 

「はーいお待たせしました。ごめんなさい、今責任者がちょっと手を離せないものでして」

 ありゃ。

 お偉いさんは忙しいらしいが、さっきの受付のお姉さんまで別のお姉さんに変わってしまった。

 イジメすぎたかも知れんが、まあ、良いか。

 アイツ、なんか嫌いだったし。

「あ、こちらこそ急に来てしまって。なんかすみませんね」

 このお姉さんはなんか丁寧だから、ついこちらも丁寧に返してしまう。

 やっぱり、のっけから挨拶ナシの頭ごなしは良くないよ、うん。

 お姉さんはきょとんとした後、愛想笑いで答えてくれる。

 うーん、可愛い系の大人なお姉さんだ。良いなあ。

「実は依頼(クエスト)請けようと思ったんだけど、その前に相談したいことが有って」

 俺がちょっと情けない顔をすると、お姉さんは不思議そうに首を傾げる。

 あーもう、可愛いなあ。

「ご相談、ですか? 一度、私が伺ってもよろしいです?」

 小首を傾げながら、お姉さんは相談に乗ってくれるらしい。

 受付のお姉さんに話して、ここで解決する問題なら良いんだけど。

 

 いやね、俺の持ってる金貨、使えないかなーってね?

 

 だって無駄に50億枚もあるんだよ?

 そのまま使えなくても、(きん)として売れたりしないか聞きたかったんだ。

 流石に50億枚出すような真似はしないけど、でも売るとなったらそれなりの数を出すことになるし、そうなるとそれなりに信用出来る所じゃなきゃ無理だろ。

 とは言え、そもそも冒険者ギルドで買取して貰える訳でも無いだろうし、素直に相談して、上の人に繋いでもらうなりした方が良いか。

 何処か、換金出来る店を紹介してもらえるかも知れないしな。

 そんな魂胆で、俺は懐から金貨を3枚取り出す。

「これなんだけど、この辺でこの金貨、使えますか?」

 俺が机に置いた金貨を見て、そして手にとってしげしげと眺めるお姉さん。

 あんまり驚いたりしてないのは、それどっちですか?

 

 見慣れた金貨だから?

 見慣れないからピンと来てない?

 

 なんだかハラハラする俺に、お姉さんは事も無げに言う。

「はい、大金ですが、この辺りで出回っている金貨で間違いないです。でもこれがどうしたんです?」

 おっと、確率が低いと思ってた方に当たったねぇ。

 ゲーム内の金貨だから、こっちで使えるか不明だったんだが、(きん)で有るなら売れるかも知れない。

 そう思ってカマ掛けつつ相談しようと思ったんだが、普通に流通しているのと同じ金貨らしい。

 

 それはそれで、一体どうなっているのか……。

 都合が良すぎるのは、俺の見ている夢の続き、っていう可能性が跳ね上がってすごくイヤな感じなのだが……。

 

「いや、先日故郷(くに)の金貨を商人に両替して貰ったんですが、金貨は中々使う機会がないですから……。なんだか日が経つに連れて不安になってきて。騙されてたらどうしようって」

 取り敢えず、こういう場合のために考えていた台詞を口にする。

 とは言え、ホントにこの台詞を使うことになるなんて思ってなかった。

「あー、そう言う……旅人さんなんでしたっけ?」

 お姉さんは困ったように笑う。

「ええ、冒険者というのも知らなかったんですよ。田舎の、小麦を作るばかりの村の出でして」

「あらあら、それはまた随分遠くから」

 2人で笑う。

 なんか良いなあ。

 

 絶対、単なる接客スマイルなんだけどな!

 

「じゃあ、お金の心配は当面ないんですが……折角ですし、依頼(クエスト)を受けてみようかな」

 当面と言うか、物価次第じゃあ俺、働かなくても生活できる予感がする。

 しかし、冒険者になったのに依頼(クエスト)受けないとか無いだろう。

 良く理解(わか)らんけど。

「なるほど、良いですね。今まで依頼を受けて頂いたことは無いんですよね? でしたら……」

 俺が軽い気持ちで言った事に、お姉さんはすんなり頷くと、低ランク用の依頼(クエスト)依頼書を幾つか提示してくれた。

 それぞれの難易度、危険度と報酬など、色々教えてくれる。

 愛想よく話を聞いて貰えるだけで、こんなにもスムーズに進む。

 

 笑顔って、大事だね。

 

 

 

 ハンスは報告を聞きながら、バカバカしさにまたしても溜息を()く。

「じゃ、何か? 商人に騙されてるかも知れないからって、金貨が使えるか確認しに来たと?」

 今まで聞いた事が無い、などと言う事はない。

 珍しくは有るが、前例がある事だ。

 他国からの旅人が騙されてゴミを掴まされる、(など)も。

 疑わしく思うのも当然(とうぜん)とは言える。

 行動が多少遅い気がしなくも無いが。

「はい。話し方もどちらかと言えば丁寧でした。アレですね、礼には礼を、無礼には無礼を返すっていう、そんな感じです」

 アマンダは見事にやってくれた。

 問題児が絡んだとは言え、いきなりノーラッドの腕を切り飛ばす様な奴だ。

 宥めて適当に話を聞き、自分に繋いでくれれば良い、そう思っていたが、和やかに話を聞き、最終的には薬草採りの仕事を斡旋したと言う。

 

 いや、アマンダが見事と言うよりは、ラウラやノーラッドが相手を見下し、舐め過ぎたのだろう。

 

「と言う訳で、実は私も昨日の騒ぎは見てたんですが、話した感じはそんなに悪い人じゃないと思いますよ?」

 アマンダの言葉に、ハンスは意外そうな目を向ける。

 だが、考えてみればアマンダは受付としてそれなりに長いし、見て判断出来ても不思議は無い、そう思い直す。

「昨日も、ノーラッドさんには一応警告して、その上で、でしたから」

 警告の仕方が、雑でしたけどねー。

 そう付け足して笑うアマンダ。

「ただ……」

 不意に、アマンダの笑みが消える。

「どうやってあんな細切れにしたのか、判りませんけどね。私の目には、1回剣を振っただけにしか見えませんでした」

 ハンスは頷く。

 ハンス自身は見ては居ないが、居合わせた職員や冒険者の話を総合した報告は受けている。

 剣の軌道と合わない、一瞬で咲くように広がった剣閃。

 細切れにされ、凍りついた腕の残骸。

 

 それは、まるで魔法。

 

「まあ、問題さえ起こさなきゃ、な?」

 ハンスは自分に言い聞かせるように言うと、何となく天井を見上げる。

 もうじき衛兵が来る。

 せめて今日は、これ以上の揉め事は勘弁して欲しい心境だった。

 

 

 

 時間が経てば色々と落ち着くというか、諦めもつくわけで。

 俺の現実が何処に有るかはさて置き、折角こういう状況だし? のんびりしてやろうじゃないの、と意気込んでの草むしりである。

 

 ……のんびり出来て無くない?

 

「あ、リリスさん! それ違う!」

 昨日の少年の1人、リーダー格のフレッドくんが駆け寄ってくる。

 依頼(クエスト)を請けた俺とたまたま再会し……っていうか、お互い初級冒険者だし、冒険者ギルドで顔を合わせるのは不思議でもなんでも無いか。

 その流れで、一緒に採取に行くことにしたのだ。

 

 あ、リリスってのは俺の名前って事になってる。

 

 井原賢介、なんて名乗っても通じないとは思うが、見た目女で男の名前ってのも、という事で。

 ゲームのキャラ名を名乗ることにしたのだ。

 それにしてもあんまりな名前だけどな。

 ニューゲーム時、名前に若干悩んだのだ。

 「スルメうどん」と「リリス」で。

 まあ、こうなってしまうと、スルメうどんを選ばなくて本当に良かったと心から思う。

 まだしも、リリスの方が名前っぽいからな。

 

 ……だよね?

 

 しかし、フレッドくんもそうだが、みんな薬草を見分ける速度が早い。

 なぁにそれ、スキルか何か?

 本人たちに言わせれば、単なる慣れなのだそうだが。

 慣れ過ぎだと思うんだ、うん。

 聞けばみんな12歳らしいが、何歳からこの仕事してるの。

 ていうか、12歳で働いてるのかよ。

 

 おいちゃん恥ずかしくなってくるから、真っ直ぐな目で見ないで貰えるかな?

 

 ポーション用の野生の薬草、最低10本6束、ポーション6個分からの出来高制。

 初級の仕事って割に、要求数量が多くないです?

 書き方で誤魔化されそうになるけど、60本って事よね?

 俺がそう尋ねると、フレッドくんは苦笑いで答えてくれる。

「今は、ギルドの保管分がだいぶ少ないらしいんです。なんか、帳簿の数と実際の数が合わないとかで、急いで数を確保したいって話で」

 おっとぉ?

 事も無げに教えてくれるフレッドくんだが、その情報、ギルド内部の不正疑惑だよね?

 気軽に話して良いのか以前に、なんでそんな話を知ってるのかな?

 それとも、案外フランクにそういう情報を開示してるんだろうか。

 いや、幾らなんでも内部で不正が有ったかも知れないなんて話は、開示し過ぎだろう。

「なるほど、まあ、今だけ特別みたいな感じなのね」

 キナ臭い話には近寄らないに限る。

 俺は話を聞いていた(てい)で話題を黙殺し、無理やり流す。

「そんな感じです。普段だったら、10本1束が最低数ですから」

 なるほどねぇ……。

 俺は素直にフレッドくんの話に感心しながら、他のみんなの手元を細かく観察して居た。

「フレッドくん、これは薬草で間違い無いのかな?」

 そうして薬草の特徴らしきものを覚えて足元の雑草の中を探り、らしい物を見つけ出す。

 根っこは残して、地面から3センチくらいのところから折り取る。

 こうする事で薬草はまた育ち、そのうち収穫出来るほどに戻るのだそうで。

 こういうのが、生活の知恵なのだなぁ。

「あ、そうです、それです!」

 フレッドくんが太鼓判を押してくれる。

 よし。

 

 アイテムを自力で拾った事で、その特徴を完全に記憶した。

 ……俺ではなく、アイテムボックスが。

 

 理屈は不明だが、俺が慣れ親しんだあのゲームでは、同種の「消費系」アイテムは、1つ拾うと周囲数メートルの範囲の同じアイテムを自動で拾得してくれる。

 きっと魔法なのだろうから考えても仕方ない。

 

 重要なのは原理ではなく現象だ。

 

 俺は意外と手近に有ったもう1本を、俺的に慎重に手折る。

 それだけで、アイテムボックスの中に薬草が68本。

 案外有るもんだな……。

 つか、どのくらいの範囲の薬草を根こそぎにしたんだろ?

「あれ? さっきまで沢山有ったのに、急に無くなっちゃった……?」

 少し離れた所で、昨日狼に押し倒されていたカレンちゃんが不思議そうに呟く。

 やっべぇ。

 そりゃそうだ、固まって採取してるんだから、俺が一帯の薬草採り尽くしたらこの子達の獲物はなくなるわけで。

 俺は罪滅ぼしに、ちょっと離れた所で同じ事を数度繰り替えし、大して時間も掛かって居ないというのに全員が納品してもまだ余る程度の薬草を掻き集めていた。

「山分けしよう」

 そういう俺の声と、山と積まれる薬草に、採取姿勢の少年少女は声もなく俺を見上げていた。

 

 

 

 1束銀貨1枚とは。

 緊急事態故か、中々に太っ腹だと思うが……勝手な感想なので、当たっているかは理解(わか)らない。

 1人辺り6束納品、ジャンケンで勝ったフレッドくんとティアちゃんが7束づつ納品で、少年少女組はホクホク顔だ。

 ピーク過ぎとは言え、(一応)午前中に出かけて昼過ぎに戻って来れたのはだいぶ早いと思う。

 

 そういう訳で昼過ぎだ。

 つまりご飯だ。

 話を聞けば、銀貨6枚は1日の稼ぎとしては優秀なのだそうで。

 お昼と夜とを食べて、宿代を払っても余裕があるという。

「って、宿? え? お家は?」

 疑問をそのまま口に出してから、失敗したと思った。

 だって、この年頃の子達が家じゃなくて宿で生活って、それはつまり。

 

「あ……僕たち、孤児院の出で……」

 

 あー。言わせてしまった。

 っていうか、何?

 孤児院出の仲間だけで生きて行くと決めての仕事で、昨日は死にかけて?

 そんな境遇なのにハゲゴリラには絡まれて?

 いや、アレに絡まれたのは俺か。

 じゃあ良いか。

 

 ……良いか?

 

「そか。よし、そう言う事ならアレだ。お昼にしよう!」

 なんか凄く触れにくい事に素手を突っ込んじゃった感じ。

 

 すごーく気まずい。

 

 気分を変える為に、俺は手を叩いて宣言する。

 何がどういう事かは判らずとも、腹は減っているご様子の育ち盛り達。

「仕事のやり方教えて貰ったから、今日は俺の奢りな!」

 俺の宣言に、目を丸くして顔を見合わせる少年少女。

 そんなに驚く事かな……?

 

 

 

 ギルド前の広場に並ぶ屋台の中に、「肉巻きパン」なるメニューを掲げた屋台が有った。

 屋号は……「オリバーのパン屋」?

 パン屋にしちゃあ、なんか随分良いガタイだね?

 戦士と戦闘機乗りは引退するとパン屋になりたがるって言う、あれかな?

 あと、ハゲが眩しいね? 輝いてるね?

 

 それにしても肉巻きパン。

 気になる。

 決して食いたいと言う、いい意味ではなく。

 

 見るからにベタついて食い(にく)そうなアレを、誰が買うんだろうか?

 想像するに、あの油、中に有るであろうパンにも染み込んでそう。

 それを、特に紙なんかに包む事もナシに手渡される様だ。

 それだけでも罰ゲームに近いのに、あの照り輝き、ものによっちゃあ滴る油。

 あんなの食ったら1個でも手に負えない、って気分になりそうだ。

 ……胃もたれで。

 

 もっとキッチリ焼いて、切り分けておけばまだ……。

 そこまで考えて、思考を停止させる。

 深く考えてしまえば、アレを買うことになってしまいそうで。

 興味が無くはないが、俺はなるべく普通のメシが食いたいのだ。

 少なくとも、今日は。

 いたいけな少年少女の視界から過剰な光源と有害物を遮蔽し、他の屋台を冷やかしつつ、俺達はワイワイと通りを歩いた。

 

 なんだ、思ったほど悪くは無いね、異世界生活(いせかいせいかつ)

 

 夢かどうかの不安はあるけどな!




孤児院出の、4人で共同生活しているらしき少年少女

 VS 

自分の現状がイマイチ把握できてない中身オッサン冒険者


こんなに結果の見えたカードも中々無いぜ……!
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