領都に来た目的は……?
思えば、こっちに来た? 時は、初夏とも言える季節で。
気が付けばすっかり秋。
夢だったとしたらもう、ホントに目覚めるのが怖い時間経過なんだけど。
そんな内心とは無関係に、俺は今、領都の活気溢れる商店街を散策中である。
本日の
但し、同じデザインでは有るものの、色は黒。
薄手だけど袖の長い、春秋用とでも言うべきか。
普段はこれの暗いエメラルドグリーンなのだが、旅先だし、ちょっと気分を変えたかったのだ。
軍服が好きなのは勿論有るが、これが一番仮面との親和性が高い……気がするから、仕方がない。
のっぺりした仮面を付けたリクルートスーツの女とか想像してみ?
怖いだろ、色んな意味で。
それに比べたら、まだ
仮面を外せ?
ヤだよ、つーか魔獣も居るし荒くれ冒険者も居る世界で、装備外して歩くとかそんな度胸ねぇよ。
それに、なんか顔だして歩くの恥ずかしいし。
「なにが恥ずかしいのよ、この仮面のほうが恥ずかしいでしょうが」
同じデザインの白軍服――但しスラックスではなく、タイトスカート――に身を包み、同じ仮面のリリスがどうでも良さげに吐き捨てる。
「他にも頭部コス有るんだから、色々試してみようっていう根性は無い訳?」
そりゃあ、鏡に写る顔は可愛いけど、お前忘れてないだろうな?
元は27のオッサンだぞ? 中身。
どうしたって27年付き合った顔は忘れようがないし、咄嗟に思い浮かべるのは未だにソレだ。
不意に鏡状の物を目にして自分の顔が違っているというのは、慣れないモンなのだ。
「変な男に言い寄られたら面倒臭いから、これで良いんだよ」
本心を隠し、俺は冗談に紛れさせる。
自分の顔を不意に見るのが怖いなんて、言える訳がないんだ。
同じ顔のリリスには。
「男が寄ってくるには、身体的魅力に欠けすぎてるでしょうが。腰回りは兎も角、胸が無さ過ぎよ。精進なさい」
そんなリリスは俺の内心なんか知らないので、無責任に言葉を連ねる。
のは良いんだけど、お前、双子でかつボディサイズが完全同スケールの存在がソレ言ったら、ブーメランにしかならんだろ。
「お前はなんか精進してんのかよ?」
自傷行為は不毛だと気付け、そんな俺の優しさはどうやら届かないらしい。
「私はアンタと違って魅力のカタマリだから、無理に背伸びしなくて良いのよ」
わざとらしくポニーテールをなびかせて見せる我が姉だが、残念な事に胸部の起伏が大変慎ましい。
「……お前、せめてパッドでも使ったらどうだ?」
言い終わる前に俺の仮面に渾身のグーパンチが叩き込まれる。
魅力のカタマリは、一部取りこぼしが有る模様です。
俺達が出歩いてるのは領主様に勧められて、ご厚意に甘えての気晴らし、って意味も有るけど、単にお土産を探しに来たのだ。
せっかく領都にまで来たのに、みんなにお土産が無いのも寂しいだろう。
そう思ったものの、案外無いもんだ。
最初に思いついたのはお菓子だった訳だが、見かけるのはクッキーなんかの焼き菓子ばかり。
見様見真似のパウンドケーキも有ったが、実際に食べてみるとなんと言うか、何か違う。
普通にクッキーなんかの方が美味いレベルだ。
アルバレインで流行らせたフィナンシェやマドレーヌなんかも無い。
ちょいと前のアルバレインと同じレベルのお菓子を買って帰ってもインパクトに欠ける。
んじゃあ他になんか有るかと思ったが、モンテリア領第3位の街アルバレインには、モンテリアに有るものは大抵揃っていたりする。
酒も、エールやミードなんかが主流で、火酒なんて呼べるモンは出回っている様子は無い。
酒造所の稼働次第ではモンテリアにも出回るようになるんだろうけど、先の話な上に、そもそも出どころがアルバレインだ。
……いずれモンテリアにも酒造所が出来るのを待とう。
何年掛かるか知らんけど。
なんでも良いじゃない、なんていうリリスを引き連れ、何か納得行かない俺は領都らしいお土産を求め、あちこち歩き回る。
乳酒なんてモンを見かけて一応買ってみたけど、これじゃ足りないし子供達に酒はまだ早い。
アルコール度数は驚くほど低いらしいが、それでも、だ。
「なぁんで、こんなにもお土産に困ってるんだ俺ぁ。モンテリアクッキーとか、なんかそんな観光土産は無いのか?」
ブツクサと文句を言いながら、結局焼き菓子の詰め合わせを10セット程買い込む。
ウチと、ヘンリーさんとこと、パルマーさんに配る分だ。
結局いつもの差し入れと変わらないじゃねぇか。
いっそ肉でも買って帰るか、ウォルターくんが喜ぶかもしれん、なんて考えていたりした俺だったが、商店街の一角で熟成済みのカカオ豆と、それを加工したチョコレートなんて物を見つけて驚愕しつつ、大量に買い付ける。
初めてチョコレートを味わえると知ったリリスの目の輝きが尋常じゃないが、久々の味覚に俺も割と似たようなモンだったりする。
しかしチョコレートか。
勿論、
これも、何処ぞの先達の技なんだろうか?
アルバレインではチョコレートどころかカカオ豆すら見掛けなかったのが不思議でも有る。
あの街は、あれで一応、交易都市なのだが。
どこか釈然としない物を感じるのだが先を急ぐリリスに手を引かれ、俺たちは足早に領主邸の大キッチンへ直行。
板チョコを齧る程度の嗜みしか無い俺が、初めてチョコレートの湯煎なんてものにチャレンジしたりしたのだった。
御婦人方を中心としたお屋敷の方々に、チョコクリームのショートケーキを振る舞い、まんまと甘味を味わった俺たちは、そのケーキのレシピも料理長らしきあんちゃんに預け、執事さんに促されてリビングと言うには俺の想像を超えた豪華さの部屋に通される。
ゴテゴテとした感じなんか欠片も無い。
ただ、必要なものを配しているだけに見えるのに、そのひとつひとつが重厚で、無作法な言い方をするなら、どれもちょっとやそっとなお値段とは思えない。
「すまないね、やっと
ちょっとやそっとじゃ動かなそうなテーブルを囲むのは、領主様、クラウスさん、執事さん、ブランドンさん、リリス、そして俺。
ちょっと危ない話になったらヤなので、レイニーちゃんには外してもらっている。
領主様のお言葉を皮切りに、リリスがアイテムボックスから水晶玉の様な
どっちも特に機能らしきは無いのだが、気分的に盛り上がるだろうとリリスが適当に用意したものだ。
リリスが用意したって時点で、なんの機能も無いなんて、信じる気もしねぇけど。
「いえ、お時間を頂きまして有難うございます。予めお話させて頂いていた件ですが、先日、我がクランのクランマスターであるイリスと、他2名が関わった事件についてです」
挨拶から始まり、仮面を外したリリスが蝙蝠洞窟からの一連の事件や出来事を、簡潔に、しかし端折らずに説明する。
俺は当事者なのだが、だからこそと言うか、どうしても俺の主観で語ってしまって良くないと、リリスに説明を任せたのだ。
面倒だったってのは有るし、その点について反省などしない。
蝙蝠洞窟でレベッカちゃんとノービス2名の死体を回収した事とその経緯。
レベッカちゃんの証言とブランドンさんの記憶から、それは不良冒険者の仕業であり、レベッカちゃんが生きていると知られれば報復の恐れが有った事。
ブランドンさんの発案――と言うことにして貰っている――で、レベッカちゃんを
その後、俺が原因不明の病で倒れたものの、どうにか容態を持ち直した事。
該当不良冒険者は、その後
一部報告に歪曲が有るけど、俺はポーカーフェイスで流す。
「ふむふむ。つまりは、私の可愛いリリスとイリスに、まだちょっかいを掛けそうな輩があの街に居るという訳だな?」
リリスの説明が一通り終わり、ついでのように行方不明の不良冒険者の証言――遺言――を聞き流した領主様は人の良い笑顔を崩しもしない。
「現在消息不明とは言え、冒険者につきましては私の不徳の致す処。申し開きも御座いません」
慇懃に腰を折るギルドマスターだが、証言の様子やら説明の不自然な点など、当然知っている立場だってことを隠しもしないで誤魔化している。
「構わないよ。なにせあの街は人の行き来が多い地。冒険者になるにも特に制限らしきが有る訳でもなし、問題を起こした際に対処するより他にない。
からからと笑って見せる領主様だが、不穏な空気は隠せてません。
どうせ俺らが手を下したんだろうけど、見逃してやるよ、って言う意味ですよね、それ。
「しかし、フォスター家ですか。ベルネで美味しい席を摂り損ねて、アルバレインに居座っているとは聞きましたが、まだ富に執着が有るようですな」
クラウスさんが顎髭に手を添える。
ベルネというのはアルバレインの東、例の新興の交易都市だ。
距離がちょい離れているとは言え、そこが賑わっているのは元々
詳しいことは判らんけど、まあ、俺の理解ではそういう事になる。
間違ってたらゴメン。
そして、フォスター家と言うのが不良冒険者共を扱き使っていた馬鹿貴族て事だね。
何でも男爵らしいが、俺は貴族様の爵位なんぞ良く判らん。
ただ、男爵と言っても領地は無いらしく、アルバレインに居座っているのではなく、其処にしか居場所が無いのだろう。
詳しく聞いてないから知らないけども。
「うん。何やらベルネに屋敷を構えようとしたらしいが、出自を隠して屋敷を建てようとしてフォドリック卿に睨まれたらしい。あの小物め、すっかり拗ねておるらしいな」
何やら小難しい事が絡んでるみたいだけど、要は勝手に家建てようとして失敗したって訳だ。
俺の感覚だとなんで身元を隠すのかイマイチ
領が違えば国が違う、みたいなもんだろうか?
んー、無理矢理理解しようとしても間違いそうだし、
「まあ、こうして証拠も有る訳で、流石にお目溢しも難しいかと思いますが。如何致しましょうか?」
クラウスさんが、セリフとは裏腹に楽しそうに領主様に目を向ける。
「そうだね。まあ、叩けば幾らでも埃が出るだろう、少し調べるだけで取り潰すだけの理由には足りそうだが……」
受ける領主様は笑顔を崩さず、だけど少し考えるように言葉を濁らせる。
ウチに喧嘩を売っただけで、俺にとっては完全敵対対象なのだが、貴族家を取り潰すというのは簡単では無い、って事なんだろう。
まだるっこしいモンだ。
「まだるっこしいねえ。調べるまでもなく、既に怪しい連中だと言うのにね」
領主様が、俺の心の声をなぞるように言葉を並べる。
一応言っておくけど、流石に領主様の前で心の声をだだ漏れにさせるような真似はしていない。
その辺はちゃんと意識しているよ、うん。
「まったく、
領主様の笑顔が、笑っていない目が、俺とリリスを映す。
「はっはっはっ、まさかそんな都合の良い事が」
クラウスさんがわざとらしく言葉を受け、やっぱり似たような視線を俺たちに向ける。
「しかし、万が一そのような事になっては誰にも罪を問うことは出来ませんし、困った事になりますな」
明らかに決まっていたであろうセリフを白々しく諳んじると、ブランドンさんも俺たちを眺める。
こいつら……。
何が「気晴らしに散歩でもしてこい」だ。
俺とリリスが出掛けてる間に、この辺のやり取りは決まってたんだろ?
んで……こんなモン、リリスが関わって居ない訳が無い。
仮面も無いので不機嫌さを隠しもせずにリリスに目を向ければ、案の定とても良い笑顔だ。
「そうですね。天変地異であれば、かの貴族様を追求する事も出来ませんし、その責任を誰に問うことも出来ませんね」
しゃあしゃあと、リリスが笑顔で答える。
こいつ、最初から
だけどそれじゃあ、その馬鹿貴族には思う存分折檻出来るとして、他にも居るかも知れないお仲間への牽制にはなるのか?
いやまあ、局地的な天変地異なんてモンが都合良く起きる訳もないから、ちょっと考えれば裏があると判るだろうとは思うけどさあ。
納得行かない気分とか疑問とかでなんとなく頭の中がぐるぐるするが、まさか領主様の前で声を荒げる訳にも行かず、俺はハラハラしながら椅子の上でもぞもぞと姿勢を変える。
落ち着かないことこの上ない。
だが、俺はまだ、リリスの恐ろしさと言うか、
「ですが、それでは見せしめとはならないのでは有りませんか?」
心底楽しそうに、リリスが言葉を転がす。
俺は呆気に取られてその顔をただ見詰めてしまう。
え、だってお前、領主様が秘密裏に皆殺しにしてお終いって言ってるのに、何言い出してるの?
なんで今、混ぜっ返すの? 馬鹿なの?
「ふむ? 見せしめ?」
リリスに、言いたい事が判っている顔で侯爵様が口を開く。
「はい。この領地で、侯爵様の目を欺いて悪事を働くとどうなるか。他にも思い知らせるべき者達は複数居られると思いますが?」
澄まし顔で頭まで垂れてリリスが答える。
って、バカバカバカ!
それと、領主様の質問に質問で返すんじゃないよこの馬鹿!
お前も言ってるけど、凄く人の良いお爺さんだけど、相手は侯爵様だぞ⁉
悪いけど、お前が領主様とドンパチ始めるなら、俺は領主様の方に付くからな?
……多分。
「成程。しかしそうなると、私の手持ちを動かすにしても多少時間が掛かる。手勢を動かして屋敷を包囲するにしても、逃げられてしまうかも知れないねえ」
つい、と俺達から視線を逸し、少し上を見上げるようにして口元を手で隠す領主様。
その表情を見た俺は、なんとなく、うっすらとシナリオが見えてきた。
これ、最初から同じ事言ってるよな?
そもそも、局所的な天変地異が偶然バカ貴族邸を襲うなんて有る訳も無い。
そんなモン、どうやっても人為的なものでしか起こりようがない。
「そうですね……。ああ、例えば私か妹に、
白々しいリリスのセリフが耳を滑っていく。
何が「権限が有れば」だ。
人為的に天変地異紛いの被害を起こす許可を暗に与えられたのに、それでもまだ食い下がるリリス。
それを受けて、心底楽しそうに笑う領主……侯爵様。
有り得ない程にスムーズに話が流れていくのは、これはもう。
「ふむふむ、確かに。そう言えば居たね、迅速に動けて壊滅的な打撃を与えられる存在が。報告は聞いているよ?」
全員が。
俺以外の全員が、予め決まっていたセリフをなぞっているだけだ。
領主様の目が、ブランドンさんに向いている。
「はい。私も報告を受け、結果を知っているだけですが。数多の魔獣を殲滅し、国喰らいを捕縛した件も、獣追いを討伐し、悪食と影法師を撃退した件も事実であるようです」
殊更真面目に、ブランドンさんが答える。
今この場で、俺のセリフは用意されていないのだから。
「ああ、そうだったね。その件で、王都から褒美が出ていたんだよ」
ポンと手を打って、領主様が俺とリリスの方へ再び
此処まで来ると芝居がかっているというか、なんか学芸会を見物してる気分なんだけどそれはさておき。
褒美って何? 聞いてないんだけど?
領主様の笑みと闇が深くなった気がする。
姿勢を崩さず、俺は内心で身構える。
俺の直感が訴えてくる。
これは絶対、碌でも無い話だ。
「冒険者リリス、そしてその妹イリス。二人を我がファルマン家の末席に加える。それぞれ、リリス・イハラ・ファルマン、イリス・ケイス・ファルマンと名乗る事を赦す」
身構えていた筈なのに、俺は咄嗟に何を言われたか
「そして、その
おじいちゃんみたいだな、って思ってた人がホントにおじいちゃんになりました。
そんな和やかな感想で終わらせるには、おじいちゃんの命令は、口調の割には厳しい物で。
「身に余る光栄です。末席としてファルマン家の誇りを汚す事の無いよう、努めて参ります。また、アルバレインの件、謹んで拝命致します」
淀みない動作で椅子から立ち上がると、優雅に礼をするリリス。
此処までが「シナリオ」だったのかよ。
仕方無しにリリスのマネをして頭を下げ、俺は何とも言えない気持ちになる。
俺は礼儀作法なんぞ知らんぞ、大丈夫なのか?
「イリスや。お前さんは自分で、礼が成っていないと反省できる優しい子だけど、気にする事は無いぞ? お前さんもリリスも
孫娘を見守る、そんな慈愛の爺さんスマイルで領主様が言葉を掛けてくれるけど。
「あ、は、はい、有難うございます」
違うんですよ。
俺はこっちに来て何度目かの聞いてない展開に、そろそろ目眩を感じているだけなんです。
ご命令の内容も内容だしさぁ。
ま、今更どうでも良いけど。
わざとらしい「おめでとうございます」なんて言葉を並べるオッサン2人を他所に、俺はそれこそどうでも良いことを考えて逃げようかと試みる。
澄まし顔のまま、口を開かず。
リリスへの念話のスイッチをオンにする。
『オイコラ馬鹿姉。テメエ謀ったなこの野郎』
同じく澄まし顔のまま、リリスからの返信。
『馬鹿とは何よ馬鹿とは! それに、野郎じゃないわよ!』
表面上はとっても和やかな、澄まし顔の2人。
『やかましいわ。巻き込むんだったら最初っから説明しとけ。なんだって俺の回りは迷惑サプライズ野郎しか居ねぇんだよチクショウ』
『アンタの人徳でしょうが。泣いて喜びなさいよ、ほらほら』
此処ぞとばかりに煽り散らす姉に素直に腹が立つが、暴れる訳にも行かない。
心底ムカつく姉である。
『……もう拝命しちゃってるし、養子入りか? これも王都っつーか、王様から許可が出ちゃってるんだろ? もう今さらどうしようもねぇ事はもう良いよ。2、3日拗ねるけど。そんな事より気になってるんだけどな?』
『何よ?』
領主様とクラウスさんは、新しい孫だ末の双子だと大はしゃぎでブランドンさんが反応に困っているが、今の俺にはそれを指差して笑ってやる元気も無い。
リリスのつっけんどんな返事に、俺は一拍置いて念話を送る。
『俺、27歳のつもりで行動してたんだけど、孫で末って。お前や領主様……おじいちゃんは、俺たちを何歳だと思ってるんだ?』
割と切実な問題である。
っていうか、ハンスさんには大分前に
信じて貰えなかったけど。
『……16歳よ』
『はぁ?』
リリスの解答に、俺は間抜けな返事をしたまま、念話を終える。
16歳?
いやまあ、肉体年齢的には納得だけども。
聞かされても、今更色んな態度やら言動を変える気になんかならないけども。
27歳オッサンが、16歳女子にクラスチェンジか……。
今更そんな、若い感性の持ち合わせなんぞ無いんだけどな……。
色々と疲れる事が多すぎて、俺は本気で、考えることを辞めようかと思った。
不当に権力を振り翳し、我儘放題の馬鹿貴族ことフォスター家を物理的に取り潰す許可と、ちゃっかり空いた土地に建物を建てる権利を貰って、俺達は帰りの準備を始める。
領主様……おじいちゃんには「もっとゆっくりして行けば良いのに」なんてしょんぼりされてなんか可愛かったのだが、許可さえ貰えればポータル作って簡単に行き来出来るようになりますよ、なんて説明したら秒で許可が降りた。
許可条件はちょくちょく遊びに来ること。
やっぱりただのおじいちゃんだな?
そんな訳で、流石に敷地内には不味いので、門を出て人目につかない、裏手にちょいと回った所にポータルを設置する。
地面に置いた魔石が溶けるように消え、設置完了を確認。
うっすらと魔法陣状に魔力光が地面から立ち上り、一定の高さで薄くなり消える。
これがこの世界での、ポータルの目印だ。
俺かリリスが居れば、このポータルに移動する事が可能って訳だ。
「おい。もしかして、これ……アルバレインにも有るのか?」
なんの説明も受けていないブランドンさんが、恐る恐る俺に目を向ける。
「うん。ウチの屋敷の庭に有るよ? だから、帰りの馬車の手配は要らないって言ったじゃん」
「あ、ああ。てっきりお前が手配しているのかと思ったんだが」
言葉を失くし、呆然と俺を眺める冒険者ギルドのマスター。
「……お前、
「
何を言い出すかと思えば、こいつは俺をなんだと思ってやがったんだ?
失礼極まる野郎だ。
「じゃれ合ってないで、そろそろ帰るわよ? 忘れ物とか無いでしょうね、
リリスが言うと、ブランドンさんが少し考えるように動きを止め、それから頭をガシガシと掻く。
「あー、そう言や、そういう役目だったなあ。お前らの目付けなんぞ、胃に穴が開く未来しか見えん」
ご丁寧に溜息まで添えて、心底嫌そうに言いやがった。
「アンタが窮屈そうで可哀想だったから、そういう事にして、口調も砕けたままで良いって事にしたんだろうが。それとも畏まってみるか? んん?」
「ホンットに可愛げのねぇガキだなお前はよ! まあ、目付け役ならそれなりに意見も言いやすいだろ、PCとやらも有るし。領主様には今までよりも報告が簡単で迅速だからな」
ちらっと煽ったら即反応してくれたが、すぐに何かあったらおじいちゃんに
ホントにヤな野郎である。
そんな俺達の変わらないやり取りを、レイニーちゃんが一歩引いて、ハラハラと見守っている。
急に俺とリリスが侯爵家の一員となったと言う事で、どう接していいか判らなくなったらしい。
侯爵なのはおじいちゃんで、俺は爵位もなんも無いのは変わらんのだから、出来れば今まで通りに接して欲しいもんだけどなぁ。
例の件の命令書? も頂いたし、戻ったら早速リリスと段取り組むわけだけど、こんなモンさっさと終わらせて、のんびり自堕落な自称冒険者生活に戻りたいな、無理かなぁ。
その前に、帰ったらウチのメンバーに色々説明しなきゃいけないし、色々考えると気が重い。
自宅のベッドにとっととごろ寝したい気分を隠しもせず、勿論誰もそんなモン気付ける筈もなく、俺はポータルを起動。
片道6日、領都に3日程滞在した俺達は、久々のホームへと帰還を果たすのだった。
誰かの利益は誰かの損。