拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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たまには現実から目を背けてひたすらゴロゴロしたい、そんな話。



所で、1週間トばし、2週間ぶりの投稿ごめんなさい;
完全に忘れてました(サブタイトル通り


厄介な仕事ほど、集中力が続かない

 交易街アルバレインに戻ってから、のんびり風呂に浸かったり食事を味わったり子供達と戯れたり、そんな現実逃避をすればするほど気が重くなってきた。

 なにせ、領都で――なんでか家族になっちゃった――領主様(おじいちゃん)から直々に命令を戴いたからだ。

 

 ファルマン家の名の下に、フォスター家を討て。

 

 やっとちょっとは開き直れるかと思えてきた所に、なんつーヘヴィなご命令を下さるんだ、領主様(おじいちゃん)め。

 今度会ったら、豪勢なお屋敷を使用人付きでお強請(ねだ)りしちゃうぞ?

 

 領主様の()孫娘達に対する本気度と金銭感覚が測れないので、冗談でもうっかりしたことは言えないな、そんな塩梅で冷や汗を堪能する俺です。

 

 

 

「今回は、私がやるから。アンタは何もしなくて良いわよ?」

 ぼへらっと風呂に浸かりこんでから部屋に戻った俺に、リリスは事も無げに言う。

 色々言いたいことは有るけど、何でお前は俺の部屋で普通に寛いでるんだよ。

「あのな……? まあ、お前さんなりに気を使ってくれてるんだろうけど」

 取り敢えず俺の部屋への無断侵入は不問に付す。

 だが俺はわざとらしく腕組みし、ベッドに腰掛け、足を組む。

「……アンタ、寝間着くらいカワイイのにしなさいよ。何その飾りも何もない格好は」

 風呂上がりに無地のTシャツそっくりのシャツとジーンズにそっくりの、ご丁寧に紺色のパンツを身に着けた俺の格好がリリスのお気に召さなかったらしい。

 あと、寝間着じゃなくて部屋着な。

 ちなみに、ジーンズはスキニーパンツだ。

 今まではレギュラーシルエットしか穿いたこと無かった。

 ()()()に来て初めて穿いて、それこそ初めは恥ずかしかったりしたが、慣れるのは早かった覚えが有る。

 のは良いんだけど、スキニージーンズ始め良く見慣れた衣類を見つけた時は当然色んな事が脳内を巡ったが、まあ、夢だった所で目が覚めるまでは何も出来ない。

 

 もう好い加減、夢であって欲しい、なんて思いもだいぶ淡くなって来たけど。

 代わりに、先にこっちに来ているであろう同類達の動向が気になりつつ有る。

 

「バッカお前、Tシャツにジーンズは基本だろ。仮面には合わないから、お部屋で寛ぎスタイルだけど。ンな事はどうでも良いよ、話を逸らすんじゃない」

「あの仮面に合う服なんか有る訳ないでしょ。馬鹿なの?」

 ギスギス言い合う仲良し双子姉妹。

 ちなみにお互い仮面は無しで、リリスはフリルなんかがあしらってある可愛らしいパジャマを身に着けている。

 似合うんだけど、ちょっと可愛すぎやしないか?

 いや、パジャマのほうが。

「兎に角、俺は問題()ぇから妙な気の使い方をしなくて良いぞ? 積極的にやりたい仕事じゃねぇけど、どうせこれから増えるだろうし」

 まあ、多分俺は碌な死に方しないだろうな、なんて思いながら天井を見る。

 別に嫌味を言う心算(つもり)も無いし、当然リリスの所為だなんて思っても居ない。

 思っちゃ居ないんだけど、少しばかり俺の言い方が悪かったのか、リリスの表情がちょっと曇る。

「まあ、放っといたらまた馬鹿野郎共を集めて馬鹿なことをやらかすだろうからな、例の馬鹿貴族が。ウチとこの領主様を怒らせるのもアレだけど、俺らに喧嘩売ったらどうなるかもきっちり周知しなきゃならんし」

 俺が割と乗り気である、と言う事を伝えつつ、リリスが感じているであろう負担を軽減できないか試みる。

 こう見えて俺なんぞとは比べ物にならん程度に繊細な感性を持ち合わせているらしいリリスだが、それでも、気を使って重ねた気休めが通用するとは思えない。

 だけど、俺はこう思っているんだって事は、言葉にして伝えなきゃいけない。

 信じて貰えるかは別だ。

「アンタがどう考えてるかは理解(わか)ったわ。その上で、私も同じ事を考えてるから、私がやりたいのよ」

 リリスはどうにか俺の言いたい事だけは汲んでくれた様子だが、シゴトを譲ってくれる気は無いらしい。

 俺は溜息()きながら肩を竦め、話を先に進める事にして、リリスに続きを促す。

「馬鹿貴族のお屋敷は、生意気にも私達の屋敷よりも大きいわね。ご近所の貴族様にも、苦々しく思われてるみたい」

 うん、ウチの屋敷が貴族様の屋敷より大きかったら問題でしょうが。

 俺達は貴族なんかじゃないんだし。

 今だって、俺とリリスは侯爵家の末席に居るってだけで、爵位なんか無いんだし。

 ……つーか、人の良さげなおじーちゃんは、放っといたら厄介で危ない火器を戦力として抱え込んだってだけだろ。

 お陰様でウチも、ちょっとやそっとの厄介ごとの際には気軽に相談できる様になったので、助かるっちゃあ助かるのだ。

「ついでに、馬鹿貴族と同じ穴の狢達が足を引っ張り合って、銭湯と酒造所への圧力掛け、って言うか乗っ取り工作が進んでないみたいね」

 ソファにちょこんと腰掛ける姿と、会話の内容が噛み合わなすぎて笑えてくるが、一旦置こう。

「なんでぇ。難癖つけて金巻き上げよう、位の事は考えてるだろうとは思ったけどよ。乗っ取りたぁ恐れ入るな。上手く回せる自信でも有ったのかね?」

 金の流れの間に取り憑いて上手いトコ吸い上げようとか、そんなヌルい事は考えてない、って事になるのか?

 馬鹿なのかな? 

 どっちも領主様に許可を取ってるし、もっと言えば領主様がどっちにも絡んでる。

 元々そんな感じなのに、その上、この街の領主館からも、俺達姉妹が侯爵家の養女となった事は公表されている。

 

 ……あっ。

 まさかおじーちゃん、その為に俺達を養子に……?

 

 ……考えないようにしよう。

「だって、馬鹿の考える事よ? 未来予想は馬鹿なりに完璧だと思ってたんでしょ? そもそもなんでこの街に衛兵が大幅に増員されたのか、考えたら理解(わか)りそうなことが見えてない時点で、もうね」

 リリスも肩を竦める。

 この辺の情報もおじーちゃんの耳に入ってたんだろう。

 これも含めて、俺の知らない話がいっぱいあるだろうし。

 っ()ーか、同類がそこそこ居そうだし。

 だからこそ、ちょうど良くノスタルジア(ウチ)にちょっかい出したフォスター家(ばかきぞく)を見せしめとしてお取り潰しにするんだろうな。

 

 俺が聞いた話じゃ、温厚な領主様って事だったのに。

 冒険者ギルドの横領系受付の、えーっと、ラウラだっけ? とか。

 国喰らいとかいうおばちゃんとか。

 今回に至っては御家断絶だし。

 

 結構苛烈な気がするのは、偶々なのかな?

 

「まあ、それは置いても、放っとく訳には行かないからな。なんせ、懲りもしねぇでクズ共を寄せ集めてんだろ?」

「人望が無さ過ぎて、普通に私兵を募集しても集まらないみたいよ? 強引に取り立てようとしても、周りの貴族様に非難されて解放せざるを得ないみたい。真っ当な貴族様からは相当嫌われてるって事ね」

 手勢として、相変わらず流れの冒険者崩れなんかを雇い入れている、って情報は、タイラーくんを中心に、ウチの連中が調べてくれたモンだ。

 俺達がモンテリアまで行ってお土産に悩んでる間に、色々と調べてくれたらしい。

 さすが斥候(スカウト)、ってトコかな。

 そんな俺の呟きに、リリスが冷笑を重ねる。

 小娘の冷笑って、向けられた奴は本気で腹立つだろうなあ。

「成程ね、そうなると、いざって時に周りが助けに来る、なんて展開は無い訳だ。お仲間はお仲間で、とばっちりはゴメンってなモンだろうから、まあ遠くから傍観だろうな」

 もう、笑ってやるのも面倒になって、出てくるのは溜息ばかりだ。

「こっちには命令書の他に、馬鹿の罪状一覧も有るからね。こっちは終わったら屋敷跡の門前にでも貼り出しておこうかしら」

 リリスが腕組みして言ったセリフに、俺は同意を込めて頷く。

 死体を晒されないだけマシだとお考え戴こう。

「問題は……」

 リリスに頷いてから、俺は口を開く。

 問題、という単語に、何か有ったか思い当たらないらしいリリスがきょとんとした顔を俺に向ける。

「お嬢様も、割と乗り気だからさ。説得は、リリスがしてくれよ?」

 きょとん顔が、びっくりする程面倒くさそうな顔に変わった。

 

 

 

 意外と緊張している自分に気が付き、気晴らしに朝っぱらから見た目装備(コスチューム)の手持ちを眺める。

 そんなに課金してた心算(つもり)は無かったのに、こうして一覧で見ると案外多い。

 大半はゲーム内で手に入れたモノだけど、4割は課金したもの、らしい。

 コス一着につき400円そこそこだったから、総額で……。

 ……計算は止めとこう。

 軍服コスも、ちゃっかり将校タイプなんてのも有る。

 これはこれでなんかゴージャスに見えなくもないので、今度おじーちゃんに会うときとか、そういう場面ではこいつを選ぶとしよう。

 そんな感じでコスを眺める俺だったが、ふと気が付く。

 

 リリスに言われたからって訳じゃないけど、そう言えば俺、頭部コスってあんまり見てなかったな。

 

 のっぺり仮面が自分で思っているよりもお気に入りだったのでこれ以外を付けたことが無かったんだけど、考えてみればそこそこ種類も有る筈で。

 だって、服とセットになってるのが大半だし、それとは別に単発でドロップしたり、買ったりしたのが有るのだ。

 そう軽く考えて、俺はタブを基本(ベーシック)から個別の、頭部タブへと切り替える。

 そうして目の前に並ぶ帽子やらリボンやらカチューシャやらシュシュやら、なんとなく圧倒されてしばし呆然としてしまう。

 

 いつの間に、こんなに持ってたの、俺。

 

 良く判らないロゴの入ったスポーツキャップは、なんかのコラボなんだろうか?

 悪くないけど軍服とは合わない。

 勿論軍服とセットの帽子もあるし、お気に入りでは有るんだが、顔が隠せないのはちょっと抵抗がある。

 いや、好い加減自分の顔に慣れろとは自分でも思うんだけどさ。

 

 まだ暫くは無理じゃないかなあ。

 

 そういう視点……顔を隠せるモノで探せば、意外なことに結構有るモンだ。

 目元を隠すという意味で言えばグラサンなんかもそうなんだが、その時点で結構あってちょっと笑ってしまった。

 スタンダードなヤツからなんか妙にとんがったヤツ、ゴーグルみたいなヤツ。

 サイバーな見た目のヤツなんかは、これは前が見えてるようには見えない。

 ……そういう意味なら、現在愛用している仮面も前が見えそうなモノではないから、問題無いのか。

 

 そのサイバーなヤツから先に、なんか俺好みの妙で怪しいアイテムが並び始める。

 なんかメカアニメで敵が着けてた様な気がする仮面とか、こんなん着けたらなんかキメ台詞を言いたくなっちゃうだろ。

 そんな事を適当に考えながら眺めていると、それは唐突にめに飛び込んでくる。

 

 狐面。

 

 ……狐面は良いな、そう思って見れば、なんか色んなタイプが有る。

 顔全体を覆うタイプは、なんか見慣れた感じの狐面だ。

 口元が出るような、顔半分を覆うタイプ。

 これもなかなか良い。

 良いんだけど、なんかどっかの動画配信者さんがこんなの着けてた気がしなくもない。

 そんな俺の目が、変わり種の狐面の上で止まる。

 

 こんなの、いつ手に入れたの?

 

 銀に輝くそれは、カラーバリエーションが他に金、赤、青、緑、黒。

 色付きは黒以外は濃いのと淡いのの2タイプあり、いずれもメタリックな光沢を放ちつつ。その意匠はシンプル。

 狐面の形を取りながら、なんの飾りも模様もない。

 単色に輝き、目線を通す為の孔も無い。

 形状としては顔を半分隠すような、口元が見えているタイプ。

 普通に考えたらこんなモン前が見えない訳なのだが、その辺りに問題が無い事は現在進行形で確認済みである。

 只々狐面のカタチをした、それ以外の余計な物の無いシンプルさが俺のハートに絡みついて離さない。

 怪しさで言えば今と変わらないんだけど、なんかこっちの方が断然俺好みな訳で。

 

 なんで今まで、俺はこいつに気が付かなかったんだろう?

 ……ああ、斜め見下ろし(クオータービュー)だとキャラが小さいから、気にならなかったとか、そんな理由かな。

 

 俺はもう新しい玩具を手にしたお子様そのもので、シルバーの無貌の狐面を選択(チョイス)し、ついでに軍服も将校用の礼服タイプに変える。

 今更なビジュアル変更だけど、こういうのもたまには良いモンだ。

 明日からは、っていうか用事が済んだら普通の軍礼服に変えるけど、狐面はこのまま愛用して行きたい所だ。

 今までの仮面も、たまには使うようにしたいけど。

 

 俺は大はしゃぎでリリスの部屋に駆け込み、盛大な溜息で迎えられる。

「……またそんなヘンなモノ見つけて……。何がイヤかって、そんなに悪く無いと思っちゃった私自身が一番イヤなのよね……」

 俺の格好を見たリリスは半眼で俺を睨みつつ、そんな事を仰る。

 

 そしてリリスの命令で、俺は淡い緑の狐面を着けることになった。

 リリスは赤。

 これで、今までは同じ仮面で見分けが付けにくかったけど、これからは仮面の色で区別出来るようになったのだ。

 やったね!

 

 割と散々だった仲間達の反応は割愛する。

 ほぼ唯一、メアリーちゃんが「カワイイ、欲しい!」なんて言ってたけど、俺とリリス以外がこれを身に着けて、ちゃんと前が見えるか不安なので今は我慢してもらった。

 そのうち、覚えてたら試してみよう。

 お嬢様だったら黒か銀かなあ。

 服の方は似合いそうなデザインが有っても、残念ながらサイズが……。

 

 そんなほのぼのモードも、朝食が終わるまで。

 俺とリリス以外のメンバーは屋敷に残らせ、レベッカちゃんも今日は出勤時間を遅らせてもらっている。

 下らない事に付き合わせる心算(つもり)は無いし、今更妙な連中に絡まれるリスクを減らしたい。

 お嬢様が非常につまらなそうだったので、ウチの周りでなんか様子を伺う連中のお相手をお願いしたら、2名ほどを残して一瞬で片付けてくれた。

 

 何をどうしたのかは、笑顔とか色々怖いので聞かない。

 取りこぼしがある理由だけは聞いて置いたけど、それはそれで気になる話だった。

 様子が他の、冒険者崩れと違ったから、って事らしいけど。

 はて、どういう事なのか。

 気に留めておくことにしよう。

 

 俺はリリスと連れ立って庭先に出ると、アルバレインの空へと跳んだ。

 

 

 

 テレポートを駆使してアルバレイン南地区、前もって調べていた、というか教えて貰っていた、フォスター家の近所に降りる。

 いきなり庭先に降り立っても良かったんだけど、どーせ門番役の不良冒険者とか居るんだろうし、挨拶はキチンとしないとね?

 

「なんだお前らは? ここはフォスター様のお屋敷だ、失せろ」

 こいつはNPCかな? って思っちゃうくらいの定型文を吐いて、門番役の2人が俺達にそれぞれ剣を向ける。

 領主であるファルマン様の命令で云々しても、こいつらはマトモな対応なんか出来まい。

 そもそも領主様の名前をちゃんと覚えているのか、其処から疑問だし。

 だって馬鹿そうだし。

 

 俺とリリスはほんの一瞬で似た様な事を考え、同時に何かを諦める。

 そして、やはり同時に、俺達も腰の剣を抜いて振り払った。

 魔踊舞刀(まようぶとう)

 打ち合わせてでも居たかのように見事に手加減されたそれは、門番役ごと門扉を支える支柱と門や塀の一部を斬り刻み、支えを失った門扉は勢いに押されて向こう側へと倒れる。

 押し入った庭園には目隠しとばかりに植えられた木々が立ち並び、まあ見事と思えなくも無い。

 その庭園の中には、襲撃の予想なんて物が有ったのかは不明だが、そこそこの人数が見回り役の様にあちこちに散っていた。

 それらは門での騒音を聞きつけて、のんびり集まりつつ有る。

 

 もうちょっと緊張感持てや、馬鹿ども。

 

「全く……一気に集まってくれれば、連鎖雷縛で一掃出来るのに。危機感が足りないのは困りものね」

 危機感が無いのは俺もお前(リリス)も変わらんよ?

 同感では有るけども。

 俺達の姿を確認すると、それぞれ似たような声を上げる馬鹿どもを都度薙ぎ払いながら、俺達は屋敷へと足を向ける。

 

「止まれ! 無礼者共が!」

 その声は、2人して10人ばかり斬り倒した辺りで飛んできた。

 馬鹿のくせに無礼者とか、面白いこと言うじゃん?

「此処を何処だと思ってやがる! 好き放題暴れやがって、覚悟は出来てるんだな!?」

 見た目はローブを着込んだ魔導師(ウィザード)っぽい奴が、乱雑な口調で俺達の前に立ちはだかっている。

 妙に整った顔立ちだが、何を考えているのか。

 口調の割に、その顔には余裕が見える。

「馬鹿か? フォスターとか言うバカ貴族の屋敷だろ? 知らずに押し入ったとでも思ってるのか? 間抜けなりに状況くらい考えて?」

 その余裕面が俺のほのぼのした発言に歪むが、沸点低すぎだろ。

 激高して何か喚き出すかと思ったが、その前にリリスが冷たい声を押し出す。

「領主様の命令よ。破落戸を使って悪事の限りを尽くすフォスター男爵及びその一族を討ちに来たわ。加担した者を逃がす心算(つもり)は無いから、アンタ達も覚悟なさい」

 言いながら、リリスは領主様(おじいちゃん)の命令書をアイテムボックスから取り出し、拡げて見せる。

 ちょいと離れてるので確認は困難だと思うが、まあ、普通は「領主様の命令」と言われたらそうそう無碍にも出来まい。

 だが、魔導師(ウィザード)風の男はちらりと視線をリリスの手元に向けただけで、困惑の様子は見せない。

 ふむ、大物なのか、それともただの馬鹿なのか。

「領主? モンテリアの領主様の事か? その命令が本物だったとして、なんでお前らがそんな命令書(もの)を持っているんだ?」

 リリスの口上と命令書を見せる、と言う動作の間に、どうやってか余裕を取り戻したらしい男はヤな笑顔で言ってのける。

「なんで? そんなの、私の名前がリリス・イハラ・ファルマンだからに決まってるでしょうが」

 リリスが心底つまらなそうに言うと、堪えきれなかったのか男は笑い出した。

 あ、これ、もしかして。

「笑わせるのも大概にしろ! リリス? 聞いた事もねぇよ!」

 うん、馬鹿の方だった。

 こいつ、領主館から関係各所を通じて街中に発表された内容を、どうやらご存知無いらしい。

 俺は馬鹿馬鹿しさに溜息を()いて、それでも一応教えてやることにする。

「お前は情報を集めるとか何もしないのか? リリスもそうだが、俺、イリス・ケイス・ファルマンも、つい先日、ファルマン家の養子になったんだよ。そんな残念なザマで、良くも今まで生きてられたな?」

 まあ、これから死ぬんだけど。

 そこは言わない優しさを発揮して、俺は口を噤む。

 これで反応が変わるとも思えない、変わっても馬鹿にされたと激昂するくらいのモンだろう。

 もう一個溜息が漏れそうになるが、なんとなく我慢する。

「イリス? それにリリス……そうか、お前らがなんとか言うクランの狂犬と魔王か」

 ウチのクラン名すらあやふやだった。

 ホントにどうなってるんだ、情報の重要性とか考えないのか、それともウチがまだ少数クランだから驚異とも考えてなかったか。

 ……うん、ウチを驚異と考えないのは別に良いんだけど、なんだその妙な二つ名。

 狂犬は俺か? 魔王はリリスか?

 なんだその妙で、かつ適当な名付けは?

 呼び始めたやつ、ホント出てこい。

「だが、だからどうした? 仮にお前らが領主様の養子だったとして。その命令書が本物だったとして。凡百の冒険者風情が、この俺に敵うハズがねぇんだよ!」

 そんな事を考える俺に、魔導師(ウィザード)が高らかに吠える。

 顔はいやらしくも不敵に歪んだままだ。

 その自信は何処から来るのやら。

 むしろ感心しかけた俺の耳に、言葉の続きが滑り込む。

 

「俺の名はカナリー・モティール! 貴様等では想像も付かん、()()()()()()()()()()()()男! 真に魔王を名乗るべきは、この俺だ!」

 俺の片眉が跳ね上がり、ちらりと盗み見たリリスの表情は動かない。

 仮面越しだから口元しか判らないけど。

 こいつは、今確かに「深層領域」と言った。

 それは、俺にも耳慣れた単語。

 あのゲームのエンドコンテツにして、ある意味本番。

 

 俺は、目を凝らす。

 

「……カナリー・モティール? 下らねぇダジャレだな」

 口の端から、本音が漏れる。

 調子に乗っかっている男の耳にも、それは届いた筈だ。

「お前、プレイヤー……それも日本人だな?」

 キャラクターかプレイヤーかの判断は、勘だ。

 勘だけど、一応根拠らしきも無くもない。

 

 名前の間抜けさ。

 相手の名前はともかく、レベルを確認しなかった間抜けさ。

 ()()()()()()()()()()()()で、自分が強いと思い込める間抜けさ。

 

 名前のセンスに関してはまあ、俺とどっこいだと思う。

 だけど、俺達は相手のレベルを確認はしている。

 こいつのレベルは127。

 確かに、そこらの冒険者に比べれば圧倒的に強いんだろうが、そこまでだ。

 少なくとも、リリスや俺のレベルを確認していたなら、そんなに勝ち誇るなんて真似は出来なかっただろう。

「日本……? お前、なんでそんな事を知っている?」

 漸く、男……カナリーは警戒心を抱いたようだ。

 何でこうも、調べる、探るって事を軽視してるんだろうか、コイツは。

「久々に会った同郷の人間が、お前みたいな馬鹿だなんて……」

 隠しもせず、俺は身体(からだ)全体でがっかりを表現して見せる。

「お前と同じ、なんて本気で言いたくねぇけど、俺もプレイヤーだよ、同輩くん?」

 俺の言葉を噛みしめるようにたっぷり時間を置いて、そして、カナリーは身構える。

 警戒心を持つのが遅い上に、危機感も足りていないんじゃないか? コイツ。

「馬鹿な……。そんな馬鹿な! 俺以外、俺達以外に転移者が居るなんて聞いていないぞ!?」

 そして、想像力も足りていない。

 唐突にこんな世界に放り込まれて、何の疑問も無かったのか?

 

 言葉が通じる不思議も、突然身の丈に合わない力を手に入れた事も。

 何もかも、不自然な事ばかりだっていうのに。

 

「考えりゃ判る事だろうが。大体、転移ってお前」

 俺は侮蔑を隠しもしないで、言葉を投げつける。

「もとの身体(からだ)そのままじゃ()ぇだろうが。日本での身体(からだ)は死んじまってて、その身体(からだ)はこっちで()()()()()()()()モンだろ。転生っ()った方が、まだ気が利いてるぜ」

 リリスが、意外そうに俺を見ている。

 なにそのお顔?

 気にはなるが、俺はもっと気になる事について質問する。

 

「お前を()()()に巻き込んだ、キャラクターは何処に行った?」

 

 目の前に立つ冒険者崩れは、カナリーを含めて5人。

 少なくとも敷地内、屋敷の外にはもう、こいつらしか居ない。

 そして、その中で際立ってレベルが高いのはカナリーのみ。

 他は27とかそんなモンだ。

 キャラクターの方がレベルが低い、なんて無いとは言わないが、此処まで露骨にレベル差が有るもんだろうか?

 俺がリリスより200レベル低いのは、ある意味俺の望みだから、この際は例外としよう。

 俺の事は兎も角、カナリーの近くに似たようなレベルの存在がないとなれば、それは別の場所に居るという事だろう。

 本名は館の中、ってトコか?

 

「キャラクター? ……あいつは、ここには居ねぇよ。俺の事が嫌いだって、どっかに行っちまった」

 

 何処か悔しそうな呟きは、俺の予測をあっさりと外してきた。

 え?

 嫌いだから、別の所へ?

 おかしくね?

 

 世界を超える(とぶ)のに、必要なのは生命体、()ーか人間の生命力そのものだよな?

 それをどうエネルギーに変換するのか、イマイチ良く理解(わか)らんけども。

 それでも世界を隔てる壁に孔を開けていられるのはほんの一瞬で、その慌ただしい時間の最中に、態々手間を掛けてコイツの意識を持って来て。

 それなりに愛着が有ったから、連れて来たんじゃないのか?

「イリス。キャラクターの皆が皆、私と同じ基準で動いてる訳じゃないわよ?」

 なんとなく混乱する俺に、隣でリリスが声を上げる。

「私は間違いなく愛着から連れて来たけど。他には、命を奪ってしまった贖罪からとか、なんとなく話し相手が欲しかったからとか、色々よ。勿論、人間の意識なんて最初から持ってくる心算(つもり)なんか無い、なんて奴も居るわ」

 リリスの声は平板だが、それでも俺は色々と考えてしまいそうになる。

「コイツを連れて来たのは、多分贖罪に近い感情じゃないかしら? だけど、こっちに来たらもう用は無いし、キライだって言うなら一緒にいる理由なんか無いでしょ」

 涼やかに響く声に、俺だけでなくカナリーも黙る。

 なんとなく。

 なんとなくだけど、キャラクターのみが此方に来ているパターンは想像していた。

 だけど、プレイヤーも連れて来ている場合は、一緒に居るもんだと思いこんでいた。

 

 だって、手間を掛けてまでこっちに連れて来るのは、愛着なり何なりが有るから。

 そう思い込んでいたのだ。

 

「多分、()()()に跳んだ理由は私と同じでしょ。で、命を奪ってしまった申し訳無さから、意識は持ってきて、身体(からだ)も造って。だけど、ソイツ自体はキライだから、そこで捨てた。そんな所じゃない?」

 リリスの声が、俺の心にも冷たく響く。

 

 少し違えば。

 リリスが俺に愛着を持たなければ、コイツと同じ立場に居たのか?

 いや、多分リリスの事だ。

 愛着も無い意識をわざわざ持ってくるなんてコト、しなかった筈だ。

 

 ゾッとする俺とは対照的に、カナリーは少し時間を置いたものの、激昂する。

「ふざけるな! 捨てたのは俺だ! 勝手に居なくなったアイツを、俺が!」

 とことんまで、感性がずれてると言うか、残念な奴だ。

 勝手に居なくなった時点で、向こうが先に愛想を尽かしているとは、考えないらしい。

 これをプライドが高いと評するのは、優しさじゃなくて甘やかしだ。

 だけど、こんな奴はどうでも良いので、俺は指摘してやる事もしない。

 溜息を()いたリリスも、似たような心境の様で、特に何も言わなかった。

「お前が捨てられた事情なんざ、どうでも良いんだよ」

 だから俺が、首を振りながら口を開く。

「折角出会えた同じプレイヤーなのに、こんなに残念な奴だったなんてな。この期に及んで相手のレベルを確認する事もしない間抜けは、遅かれ早かれ死ぬだろうな」

 獲物を剣――クライングオーガに持ち替えて、それを相手に突きつける。

「……ハッ! 武器は()()()()らしいし、自信があるのも結構だがな! さっきも言った通り、俺はあの過酷な深層領域の」

「低階層ランカーが吠えるな、鬱陶しい」

 まだ何か言いかけるその言葉を、ばっさりと斬り捨てる。

「上位の連中は150層を超えて先に進んでるって言うのに、何をはしゃいでんだ。俺ですら」

 一度言葉を切って、相手の目を見据える。

 仮面越しで見えやしないだろうが、それでもカナリーはたじろいだ様に1歩引く。

 

「……俺ですら、100層に届いてるってのに」

 

 カナリーの顔色が変わる。

 信じ難い、そんな顔をしてから少し開け、驚愕の相がその顔に浮かぶ。

 

 やっと、俺達のレベルを確認する気になったんだろう。

 そして、()()()()()()()()んだろう。

 

「そ、んな、なんだ、それ……なんだそのレベルは!! なんでそんなレベルで、こっちに来ようなんて思ったんだ!?」

 耐え切れなくなったカナリーが、哀れに吠える。

 哀れだし、言ってる意味も良く理解(わか)らない。

 そんな様子を、笑ってやる気も起きない。

「なんで、って。放っといたら私はいずれ、向こうに居ても消えるだけだし」

 自我を持ったキャラクターは、さも当然の様に言ってのける。

 そこには誇らしさも無く、得意げな様子も無いが、悲しさも見当たらない。

「だったら、この子と一緒に自由に生きよう、そう思って跳んだ。ただ、それだけよ」

 当然の様に、淡々と言葉を並べる。

 

 プレイヤーと、キャラクターの関係性。

 

 それはプレイヤーの数だけ様々有る、そんな当たり前の事に気付かされた俺は、隣り合って立っている現状が気恥ずかしくも誇らしく思えて。

 目の前の男は、どんな理由が有ってキャラクターに嫌われ見捨てられたのか、少しだけ気になって。

 だけど、此処に来た本来の目的を思い、いつの間にか下ろしていた右手に力を込めた。

 

 既に此処までで10数人斬り殺して居たけど、もう俺は大して気にもしていなかった。




思いつきのイメチェン。
慣れていく、殺人の感覚。



元になったゲームの方には、課金コスは有りません。
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