拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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元の世界、同じ日本人との邂逅。
でも、とても友好的にはなれない関係。



 また2週ぶりです。
 実は悩みながら書いた挙げ句15000文字を超えてしまい、ざっくり削ってちょいちょい直して、ってやってたらこんな事になりました。
 以上、言い訳でした。


似て非なる

 生まれたのは首都圏の、比較的落ち着いた地域だった。

 それほど目立つ少年時代では無かったが、(ちょう)じるに連れて周囲の同級生が馬鹿に見えていた。

 実際の所、成績が特別優れていた訳では無かったが、周囲を見下す事に理由など必要無かった。

 友人と言える存在は無かった。

 

 中学を卒業した頃には、部屋に籠りがちになった。

 

 家族を含め、上手く行かない人間関係は、全て周囲の所為で有って、彼自身に落ち度はないと思い込んだ。

 ゲームにのめり込んだが、ネット上でも友人と呼べる存在とは出会えなかった。

 

「コイツ……なんだよ! 何なんだよ! レベル1450と1250って! 聞いたことねぇよ!」

 

 少し古いゲームを買った。

 中古屋で見掛けたそれは、聞いたことの有るタイトル。

 手を伸ばしたのは、気まぐれだった。

 

 オンラインでのランキング要素が有る、その事は知っていた。

 だからこそ、興味を持ったのかも知れない。

 

 このゲームでなら、このゲームでランキング上位に(はい)れたら。

 

「なんで……! なんでこんな所に上位ランカーが居るんだよ!」

 

 現状、年に4度のシーズン毎のランキングに、載ったことはない。

 だが、取り敢えずメインシナリオのクリアは出来たし、レベル上限も開放させた。

 エンドコンテンツと言われている深層領域だって、苦心して30層までクリアしたのだ。

 

 俺は、ランカーと戦える。

 

 根拠も無く、思い込んでいた。

 猛威を振るう筈の魔力光弾(こうだん)も、武器のオプション効果で威力を底上げしている筈の収束魔力束(しゅうそくまりょくたば)――束と言う字が2つも入っていて馬鹿っぽいので、勝手に収束魔力砲と呼んでいる――を直撃させても、小揺るぎもしない強固な障壁を持つ、そんな相手との戦闘なんて、考えた事も無かった。

 フレンドも居ない彼には、対人戦用のステージ「闘技場」は、無縁の場所だった。

 

「なんで! 攻撃が! ひとつも通じないんだよ! おかしいだろ!?」

 

 自慢の、エピック等級の武器のスキル、それも両手それぞれの効果を重ねた渾身のミーティアすら障壁に負けた時、あっさりと恐慌を起こした。

 気づいた時、彼には追撃の為のMPは残って居なかった。

 

 

 

 あの手この手で攻撃を続け、障壁の回復時間を稼がせてはならない。

 俺が対ウィザード戦を考えた時、基本だと思った事だ。

 俺も使っている障壁スキルの効果プラスアルファで、耐久力を超えない限り障壁は消えない。

 ただし、ダメージは蓄積するので、絶え間なく攻撃して行けばいつかは障壁が割れる。

 

 だがそれも案外シビアだ。

 

 例えば俺が攻撃に晒されたら、可能な限り避けるし逃げる。

 最悪でも5秒稼げば障壁は復活するのだから、反撃の手を止めてでも5秒を捻出しようとするだろう。

 もっと上手い奴なら、反撃しながら5秒稼ぐ事も可能だろう。

 

 攻撃を仕掛ける(ほう)は、逃げ回るウィザードに対していかに攻撃を「当て続けるか」、それが重要になる。

 テレポートでの回避も何処に逃げたかをすぐに察知しなければならない。

 逃げる(ほう)の5秒は長いが、追う(ほう)の5秒は一瞬で過ぎ去るのだから。

 

 だと言うのに、コイツは攻撃に隙が有り過ぎる。

 いや……隙が有る、と言うより、「息切れ」し過ぎている、と言った(ほう)が良いのか。

 色々攻撃スキルを乱発してくるのは、多分装備スキルの関係だろうけど。

 どうも、色々やるとすぐにMPが切れてしまい、それを回復させている間に、俺の障壁も完全に回復してしまう。

 ……コイツ、レベルは兎も角……装備、っ()ーかスキル構成がお粗末じゃないか?

 

 ゲームに於いて、ウィザードはHP総量に比べてMP総量は著しく低い。

 それは多分、他職とのバランスを取るためなんだろうけど、その為に強力なスキルはMPを消費しすぎるから使い難いと言う問題が発生してしまう。

 以前自慢気に「ウィザードのMP回復速度は早い」なんて事を言ったが、それは他のゲームに比べたら、って話だったりする。

 実際の所、ゲーム内では他職、特に近接系の(ほう)が手数の関係で回復が早い、なんて話も有るのだ。

 

 そんなウィザードを、数多のモンスターが這い回るゲームフィールドでどう運用するのか。

 調子に乗ってスキル乱射なんぞをしていたら、すぐにMPが無くなる。

 加減をしすぎると、モンスターに十重二十重(とえはたえ)に取り囲まれて逃げ場もなくなり、タコ殴りにされて死ぬ。

 ()()()()で俺が多用し、有る種猛威を振るっている魔踊武刀(まようぶとう)はノービススキルでMP消費が無いのだが、正直ゲーム内では火力が足り無さ過ぎてMP回復の為の緊急手段以上のものにはならない。

 さて、ではどうするのか?

 

 各プレイヤーを悩ませてきたその問題に、個々人が頭を捻り、装備やオプションスキル等、色々眺めて並べて吟味して、その末に各々のプレイスタイルに合わせた解決策を見つけて行く。

 多分、最初に思いつくのは火力偏重だろう、と勝手に思う。

 MP枯渇上等、近寄られる前に叩き潰す。

 装備スキルも、多少の運用が難しかろうと――例えば、各5秒間隔で3種類の属性の攻撃を順番にヒットさせる等――火力が出せる構成にしてオプションもそれに合わせて吟味する、とか。

 深層階でまでこれだけでやってる人は居ないと思うが、ひと手間加えつつ、似たような思想でガンガン突き進む人が居る事は知っている。

 火力を高くするのは比較的簡単だが、セット装備が前提となる事が多い為、装備の等級――最上位(さいじょうい)から「オールドワンズ」、「エンシェントレジェンダリー(エンシェント)」、「レジェンダリー」、「エピック」、「エリート」、「アンコモン」、「コモン」の7つ――をある程度高めたい場合には多少の苦労が必要となる。

 正直、メインシナリオをクリアするだけならこの構成ですら過剰なのだが、深層領域に挑むとなれば話が変わってくる。

 なにせ、シナリオでの戦闘フィールドよりも広く入り組んだ半自動生成マップに、より一層犇めくモンスターの数が、何度でも言うが尋常では無い。

 俺も調子に乗って深層領域に挑んで、割と早々に返り討ちにあったもんだ。

 そこをスキル回しや立ち回りを含めたテクでカバー出来たとして、延々続く深層領域は潜るほどに敵は硬く、強力になる。

 

 集中力に限界を感じた者は、別の方法を模索した。

 勿論、最初から火力偏重には手を出さなかった者もそれなりに居ただろうけど。

 

 俺も手探りで探した。

 まず、俺の運が良かったのは、結構早い段階で先に述べた「障壁を発生させるスキル」を持つ防具を手に入れたこと。

 これだけで、攻略がだいぶ楽になった。

 そして、挑戦を続ける内にその障壁の効果を更に強化させる装備も手に入れ、更に主力スキル使用中には更に防御補正が加わる装備も拾い、エンシェント装備一箇所につき火力が750%アップ、防御力もついでに4%上がると言う「万魔殿(パンデモニウム)の指輪」のセットを手に入れて。

 そして更に新しく実装された「希望」という宝石(ジェム)で、セット効果に縛られずに火力と防御力を維持出来るようになり、意気揚々と97層の攻略を行っていたのだ。

 

 アレ?

 俺、自信満々に「100層までクリアした」的な事言ったけど、嘘じゃん?

 リリスは100以上()ってるかもだけど、俺自身はクリアしたのは96層までじゃん?

 

 なんかゴメン、うん。

 説明で横道に逸れて、なんか自分の()いた嘘まで発覚してしまったが、それはさて置き。

 

 装備の自由度がある程度以上に上がった事で、特定の装備を揃えることで発生するセット効果から開放された。

 火力はある程度犠牲になったものの、代わりと言うにはそれなりに満足できる結果を手にしたのだ。

 階層を攻略して行くに連れ、更に装備は整って行った。

 主要攻撃スキル、具体的には収束魔力束(しゅうそくまりょくたば)と魔力光弾(こうだん)、そしてゲーム内でもこっちに来てからも使っていないブリザードやツイスターと言うスキルの使用MPが大幅に減る装備。

 そして主要攻撃スキルを1秒以上使用していると、全ての攻撃スキルの攻撃力が上昇する剣と、同じ条件で攻撃力が上昇し、上級スキル――ミーティアや黒虚空(くろうつろ)など――がついでの様に自動発動する宝珠。

 ついでと言えば、ミーティアの威力が爆発的に上がるブーツも。

 そうして、気が付けば火力は思っていた以上のモノになり、MP管理の煩わしさからも解放されて居たのだ。

 

 並べて見れば、ただの「ぼくのかんがえた さいきょうそうび」なのだけど、ホントにゲーム内に存在するのだから仕方がない。

 他にも追加ダメージを与える宝石(ジェム)とか、装備のオプション効果で攻撃する毎にHPとMPが回復するとか、これ以上並べたら自分でも嘘臭く思えてくるので、自慢っぽい回想はこの辺にするとして。

 此処まで揃えて、漸くHPをある程度確保しつつ、障壁で防御を固め、火力を()()()()確保出来る。

 スキル回しに自信が有るなら別の、もっと攻撃型のセット装備をベースに防御力まで確保してのけるんだろう。

 

 だけど……相対するコイツは、深層領域に挑むウィザードとしてはまだまだ装備が整っているとは言い難い。

 浅層(せんそう)では装備の各種数値が落ちるものの、エンシェントが出ない訳ではない。

 凄まじく出難いが、出ることは出るのだ。

 浅層(せんそう)で出る装備は、補正の数値がどうしても低いのだけど。

 それを考慮しても、やはり悪くてもレジェンダリーくらいは欲しい所なのだが、コイツはそこまでアイテム掘りなんかはしていないって事だろう。

 シーズンプレイヤーかとも思ったが、それにしてもちょっと装備が弱い気がする。

 上位ランカーともなれば、シーズン期間内に150層まで到達する猛者も居るのだ。

 そんな世界で挑戦を続ける奴が、装備を蔑ろにするなんて有るか?

 こうしてやり合ってみても、取り立てて「上手い」と言う訳でも無いし。

 

 そうなると、もしかして。

 こっちの油断を誘ってるのか、とも少しだけ思ったんだけど。

 

「お前、そんなに深くプレイしてねーだろ?」

 

 侮蔑の心算(つもり)はさらさら無い。

 ゲームだったら、好きに遊べば良い。

 誰にもそれを咎める事は出来ない。

 だけど、こっちの世界でリアルに力を振るう事になったなら、その慢心は頂けない。

 ゲームと違って、死んだら終わりの世界なのだ。

 

 自分がこの世界に存在出来ている以上、他にも自分と似たような存在が居ると、想定して対策しておくべきだろう。

 敵対するのか、そうならば装備は充分なのか。

 装備が不十分ならどうするか?

 この世界で、ゲームの装備が手に入る保証なんか無い。

 だったら恭順するか。

 それか、上手い事立ち回って対等の協力関係に持って行くか。

 

 それとも……圧倒的に不利であろうとも、戦おうとするのか。

 

 俺ですら、そんな事を考えていたりするのだ。

 

「ふざけるな! 俺は、エピック装備で揃えてるし、ベルトはレジェンダリーだ! 誰にも負けた事なんか無かったんだ!」

 肩で息をしながら、相対する男……えーっと、カナリーが答える。

 お前が誰にも負けた事が無いとか、一応レジェンダリー装備を1箇所持っているとか、そんなどうでも良い事は興味無いんだけど。

 

「弱いのしか相手にしてないからだろ。ゲームでもこっちでも、対人戦はどれくらい経験してるんだ? 負けた経験は? 俺はこっちで、1回負けてるぞ?」

 負けが恥だと思っているのだろうか?

 正直、理解(わか)るんだけど、その気持は。

 だけど、今いるこの世界はゲームではないのだ。

 斬れば血が出るし、斬られても同じだ。

 命を失って、蘇ったような奴、俺は出会った事が……。

 

 お嬢様は、あれ、蘇った範疇なんだろうか?

 

 そ、そういう例外は有るみたいだけれども、基本は、死んだら終わりだ。

 きっとそうだ。

 だけど、戦闘したとして、負けたからと言って必ず死ぬ訳ではない。

 負けたとしても、死ななければ……生きてさえ居れば、挽回だって出来る。

 どうやって勝つかじゃなくて、どうやって生き延びるのか。

 そこを考えるべきなんじゃないかと、個人的に思う。

「まけ……!? お前に勝つなんてどんな化け物だよ!?」

 心底驚いたように目を見開いて、信じられないと言うように叫ぶ。

 様子を見る限り煽る心算(つもり)は無いと判るが、それでもその発言は小さく、俺の暗い記憶を(つつ)く。

 

 負けたのはレベル差なんかじゃない。

 覚悟の差だ。

 

「バァカ。俺より強いのなんざ幾らでも居るよ。この街で()や、知ってるだけでも其処のリリスと、もうひとり居るぞ」

 俺は頭の中から悪食(ケモノ)を追い出すと、殊更どうでも良いような口ぶりで嘯く。

 単純に頭が上がらない、ってだけの話なら、もっと増えるけど。

 多分、ざっと数えるだけでも15人くらいか、リリスとメアリーちゃんを除いても。

 だが、カナリーは更に衝撃を受けたように立ち尽くす。

 どうでも良いけど、戦闘中に随分と余裕のあることで。

「も、もうひとり居るのか……?」

 勝手に衝撃を受けるカナリーの様子に溜息を漏らしながら、俺は(かぶり)を振る。

「装備自慢も無敗自慢も良いけどよ。お前にはまず想像力が足りないぜ。自分はこのレベルだ、装備もこれくらいだ。だったら、これ以上のレベル、装備で、かつテクも(うえ)、って奴が居るかも知れない、そういう(ふう)には考えなかったのか?」

 別にコイツを諭してやろうなんて思わないが、僅かとはいえ同情してしまう。

 俺も、若い時は随分と自分本位だったと思う。

 今となっては恥ずかしい話だが、それも様々な経験の中で自分の程度ってモンを知る事が出来たのだ。

 それでもまだ俺は失敗するし、その度に落ち込みもするだろう。

 だけど、俺はもう知っている。

 失敗してもまだ挑戦できるし、生きていくって事はそれを繰り返す事だって。

 知っているが、俺はコイツを諭してやろうとは思わない。

「お前の死因は、その想像力の無さだ。悪いけど、フォスター家とつるんでオイタしたような奴を、1匹たりとも見逃してやる心算(つもり)はねぇからな」

 カナリーの実力の程は見た。

 これ以上付き合ってやる理由も無い。

 今更俺が、殺人を忌避する理由も無い。

 

 ただの憂さ晴らしの延長でしか無いなんて事実も、俺の行動を阻みはしない。

 

 以前の話で言えば、俺は最上位等級の装備を持っていないと言った。

 それも嘘だ。

 正しく言えば、最上位「オールドワンズ」等級の装備を、全身分(ぜんしんぶん)集めては居ない、と言う事だ。

 装備箇所13箇所中、5箇所は「オールドワンズ」を装備して居る。

 何の自慢にもならないけど。

 自慢にはならないけど、それなりに誇りのあるそれを。

 補正数値に一切のブレがなく最高値のみで構成されている、最高等級の、その武器を。

 

 クライング・オーガを、相手に向けてに突きつける。

 

 悲鳴を漏らしながら、カナリーは身を翻すが、俺とじゃれ合ってる間に仲間が居なくなっていたことには気が付いていなかったらしい。

 俺?

 違うよ、俺はカナリーの攻撃を正面から受け止めて「効かん!」って遊んでただけだよ。

 だからつまり、庭に居た見回り役の残りをキレイに片付けたのは。

 

「今、イリスが逃さないって言ったばかりでしょ? 馬鹿なの?」

 リリスの振った刃が、巻き起こる魔力の(やいば)の群れが。

 カナリーの脆弱な障壁ごと、背後からその身体(からだ)を切り刻んで居た。

 

 んー、もうちょっと、色々訊きたいことは有ったんだけどなぁ。

 まぁ、良いか。

 

 

 

 目隠しとばかりに植えられていた樹木は何本か斬り倒してしまったが、その役割は果たし続けている。

 とは言え、何事も物事には限度ってものが有る。

 

 例えば、見栄っ張りの馬鹿貴族が無駄に金を掛けて――勝手に――増改築したお屋敷が、球状の黒いナニカに覆われたと思ったら唐突に消え去ってしまった、とか。

 

 そういう派手で規模の大きな事柄は、流石に隠しきれなかった。

 あ、あと、ドア越しにも聞こえるように、リリスの力を借りて拡声して罪状読み上げてやったから、その声も隠せなかっただろうな。

 その後ドア越しに、なんかやたらと横柄かつ(うえ)から目線で何か言ってやがったけど、取り敢えず逆撫でしてやった。

 

 フォスター家で働く人間は皆(ワケ)ありで、かつご主人様に良く似た傲慢な連中揃いだったらしい。

 下手に()()()庶民とかを強引に取り立てても、家族が周囲のマトモな貴族様に泣きつき、そこから難癖を付けられれば解放せざるを得ない。

 そんな訳で、態々フォスター家なんかと繋がりを持ちたいなんて言う、腹の黒い連中しか寄ってこなかったし、結果屋敷には似たような連中しか住んでいないんだとか。

 そう言う事なら遠慮なんか要らないって事で、リリスが渾身の黒虚空(くろうつろ)で建っていた地面ごと、屋敷を丸々消し去った。

 当然、屋敷の()()も一緒に。

 そんな大技を繰り出してちょっと満足気(まんぞくげ)な姉を労う俺は、中々に健気だと思う。

 

 次男坊と三男坊が、懲りもせず冒険ごっこに出掛けていると言う話は衛兵隊経由で聞いているから、そっちは俺が跳んで()って片付ける予定だ。

 

 その前に一度、冒険者ギルドへと向かう。

 

 ブランドンさんのPCを使って、早速領主様(おじーちゃん)に報告する為だ。

 報告するだけなら別に屋敷に戻ってからで良いんだけど、遠隔視(リモートビューイング)を応用して録画した記録水晶――こういう怪しいアイテムは当然のようにリリスとレイニーちゃんの物だ――をブランドンさんに見せ、それを領都まで届けて貰う必要が有るからだ。

 リリスの遠隔視(リモートビューイング)は、俺が寝てる間に勝手にコピーしたらしい。

 結構怖い思いをして霊脈にアクセスして、魔法を発掘したのは俺なのに。

 せめて(かね)払えよ?

 

「――っ()ーワケで、馬鹿貴族はご自慢の屋敷ごと、この世から消えたぜ」

 つまらなそうに報告する俺に、色々と言いたい事が有りそうに腕組みしながら、記録水晶の内容を確認していたブランドンさんは渋面を作る。

 なんだよ、何がご不満なんだよ?

「雇われた冒険者と思しき破落戸共(ごろつきども)も、皆殺しにしたのか?」

 記録の確認を終えて溜息を()きながら、ギルドマスターさんは言葉も吐き出す。

 その顔は相変わらず浮かない色だ。

「ああ、死体は全部消してきたから、跡地は綺麗なモンだけどな。馬鹿貴族に与しておいて、逃げられると思われても困るぜ。まだ馬鹿の血筋が2人と、それに付き合ってるクズ共が数人居るから、これから殺しに行くけど」

 答える俺は、つい先日まで抱えていた殺人への忌避感をすっかり忘れた様に、軽々しく口の端に言葉を乗せる。

 俺の台詞に一瞬リリスの顔が曇ったように思えたが、多分まだ俺が半端に揺れているから、そういう(ふう)に見えただけだろう。

「冒険者の処分は冒険者ギルドで着けたいんだが、譲る気はないか?」

 いつもはギャアギャアうるさい兄ちゃんが、まるでハンスさんの様に静かに、押し出すように言葉を発する。

 ……ブランドンさんにもギルドマスターとしての立場が有るし、いかに身を持ち崩したとはいえ身内とも言える冒険者を出来る限り守りたい、そう言う思いも有るのだろう。

 だけど、譲る気は無い。

 馬鹿貴族ことフォスター家と、そのお仲間を罰する権限を与えられたのは俺達、俺とリリスだ。

 それに、したくも無い殺しなんてする羽目になったのは、元はと言えば馬鹿貴族のドラ息子の間抜けな失敗で、その尻拭いに駆り出された破落戸冒険者の所為なのだ。

「断る。馬鹿貴族はやりすぎたんだよ、今回の件がなくても領主様は近々動いてたって言うじゃねーか」

 俺は無貌(むぼう)の狐面を外して、静かにブランドンさんと目を合わせる。

「冒険者崩れにしても、散々好き勝手した挙げ句、あれこれ不正をやらかしてる貴族とつるんで甘い汁吸っといて、今更雇われただけだなんて見逃してやる程、俺は優しくねぇよ」

 椅子に腰掛けて見上げるように顔を上げる俺に、腕組みしたブランドンさんは言葉を返してくる事はない。

「冒険者の、自己責任の原則ってやつだ。好き勝手して人様に迷惑を掛けるのも自由。但し、自由には責任が伴う」

 俺が言い掛ける台詞を遮るように、深い溜息と共にブランドンさんが口を開く。

「悪どい事に手を出して、処断されるのも冒険者の自由か。だがせめて、連中も冒険者の端くれとして、俺が罰を与えてやりてえ。お前らのやり方は、死体のひとつも残らねぇじゃねぇか」

「くどいぜ、ギルマスさんよ」

 だが、言いたい事がある程度読めていた俺は、即座に反応する。

「アンタが罰を与えるっ()ったって、領主様からどうやって許可を取る心算(つもり)なんだ? どうせ労働奴隷送りとかでお茶濁そうって(ハラ)だろ? 領主様からは『関係する者に容赦するな』って言われてんだけど、そこまで言ってるあのお人から温情なんて、本気で貰えると思ってるのか?」

 我ながら、鼻につく嫌な言い方だ。

 聞かされているブランドンさんの腕組みするその手に力が籠もるが、何かを言いかけて言葉を飲み込む。

「冒険者だけじゃねぇ、衛兵隊にも商業ギルドにも馬鹿は居るし、それぞれに関係者の名簿は渡してる。そっちも明日には処分するってのに、なんだって冒険者だからって理由で見逃さなきゃなんねぇんだ?」

 馬鹿貴族は、馬鹿なりに手広くやろうとしていたらしく、商業ギルドにも衛兵隊にも手を伸ばし、その甘言に引っ掛かった馬鹿が少数とは言え存在していた。

 冒険者程目立ってホイホイ踊らされては居ないらしいが、少数とは言え、何処にでも馬鹿は居るって事だ。

 そういう馬鹿には自分が何をしたのかを理解して貰わないと困るし、馬鹿貴族のお仲間にも見せしめとして、徹底的にやらなきゃいけない。

「それとも、首でも持ってくれば満足するか? 最低限『殺す』、そこは譲れんぜ?」

 俺の目を見つめるブランドンさんは、しかし、もう何も言いはしなかった。

 俺は視線を外して仮面を付け直すと、席を立つ。

「そう言う訳だから、俺は行くぜ。……悪いな、ブランドンさん」

 今、俺が抱えてるモヤモヤの正体は何なんだろう?

 焦り、ではないと思う。

 苛立ちか。

 でも、それは何に対しての苛立ちなんだ?

 苛立ちにしては妙に冷えたそれを測りかねたまま、ドアを閉じた。

 

 自分の心の手綱も上手く取れていない俺だが、脳内では同時に別の事――馬鹿貴族の生き残り2人と取り巻きの8人の冒険者崩れの位置の確認――を()る。

 

 魔踊武刀(まようぶとう)で刻んで黒虚空(くろうつろ)で消す。

 既に何度か実践しているので、要領は判っている。

 未だに気乗りしないなんて、そんな泣き言を言う心に鞭打って。

 俺は冒険者ギルドの正面扉を開け放ち、(おもて)へと踏み出した。

 

 

 

 湯船に浸かりながら、(てのひら)を眺める。

 吹っ切れた筈なのに、どうしてこうもグダグダと悩むんだろうか。

 威勢の良い啖呵を切ってた筈の冒険者崩れ共も馬鹿貴族のドラ息子共も、思い出すのは命乞いの顔だ。

 

 俺もあんな(ふう)に、命乞いしながら死ぬんだろうか?

 

 多分、そうなるんだろうな。

 寧ろ、それ以外の死に様が思い付かない。

 広い湯船の隅に縮こまりながら、何度目かの溜息を湯面(ゆおもて)に流す。

 

 風呂を上がっても気分は晴れず、だからって以前(まえ)程落ち込んでる訳でも無く。

 ベッドに寝転んで(てのひら)を眺めて見ても、うっすらとした嫌悪感意外は何も浮かんでこない。

 

 大森林のゴブリン村跡地のひとつが一発のミーティアで消し飛んだ。

 スキル効果を外しても、本来のレベル通りのステータスで使えば、北門で使った時とは威力の桁が違うもんだ、なんてほのぼのと考える。

 周囲に人間が居ないことは確認したけど、思った以上の惨状に、俺の心は驚くほど動かなかった。

 

 まあ、良いや。

 明日は明日で面倒臭いシゴトは続くし、考えようにも心が反応してくれない。

 こういう時は、早目に寝るに限る。

 

 いつまで経ってもやって来ない眠気を、俺はぼんやりと待ち続けた。




逃避は癖になるから、あんまやんない方がいいよ、イリス。



 モデルにしたゲームについて、勘違いから間違っていることが有りました。
 一応ゲームとは違うものと言う事で放置しよう、と思ったんですが、違うと認識してしまった以上、この先記述で混乱が生じるかも。
 直近で最大の間違いは、元のゲームのエンドコンテンツは「150階」までのようです。
 多分。
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