拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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色々有って落ち込んだりもしたけれど、結局なるようにしかならない。
イリスの日常は案外変わらず。



遅れたのは文章が全然湧かなかったからですごめんなさい。


そうだ、お酒を呑もう

 結構乗り気で凶行に走った俺だけど、今回は命令書とか有ったし、割と気にしていない、というか自分でも驚く程落ち込んでいない。

 流石に気分爽快とか言える度胸は無いけど、何て言うかな?

 責任を人に預けられるってのは、気楽なモンだ。

 

 まあ、報告まで人任せにしようとしたら領主様(おじーちゃん)に呼ばれて、結局顔出しに行く事になったんだけどね?

 

 ウチに喧嘩を売った馬鹿貴族ことフォスター家は全員この世から消えて、関係していた連中も大体は消せた。

 雇われてたメイドの家族とかまでは流石に手を出してない、っ()ーか雇われてた人間は基本家族と折り合いが悪いか貧乏な実家を捨ててるか、まあ(じつ)の家族には居ないものとして扱われていたので、純粋にあの屋敷に居た分だけ消せばそれで良かった。

 調査はウチの斥候(スカウト)軍団、更にそれを「霊脈」を使って裏取りまで(リリスが)したから、間違いないだろう。

 

 ただまあ、やり方がちょっぴり強引だったみたいで、フォスター男爵とつるんでた不良貴族仲間がだいぶ大人(おとな)しくなってくれたのは良いけど、他の善良な? 貴族様方にも何やら恐れられている様子。

「狂犬」なんて不名誉な呼ばれ方の俺は一部では「番犬」と呼ばれるようになった――どう転んでも結局犬かい――とか、リリスが「魔王」なんて呼ばれ方をしてるのも俺の所為だって事が判明したりとか、色々愉快な事が有ったりしたけど、これでまあ、少なくとも暫くはのんびり冒険者ライフに戻れるだろう。

 あ、リリスが物騒な呼ばれ方してるのは、怒らせたら手を付けられない「狂犬」を飼いならしているから、だとか。

 そこでブリーダーとか愛犬家とかじゃなくて「魔王」に落ち着いたのは、多分リリスの為人(ひととなり)の所為だろう。

 なんだ、俺の所為って訳じゃないじゃん。

 気になったから「狂犬」呼びはいつ頃からか調べたら、北門で魔獣の群れ相手に大暴れした直後から、だそうな。

 

 人があれこれ悩んだり落ち込んだりしてたってのに、随分呑気じゃないの。

 っ()ーか、随分前の話じゃねぇか。

 そんな前から暴れん坊認定だったの?

 

 ショックなので、慰めて下さる方を本気で募集してる俺です。

 

 

 

 色んな事が片付いて、レベッカちゃんは今日も元気に商業ギルドやら酒造所やらに書類やら伝票やらを持って走り回っている。

 ウチのクランで、真面目に働いてるのって、レベッカちゃんとレイニーちゃん、ウォルターくんとヘレネちゃんの4人くらいか?

 子供組はノーカンだけど、実は彼らもちょくちょく薬草取りを始めとした街中の依頼を請けて働いていたりする。

 いやぁ、なんだかそんな真面目な人間を見ると、後ろめたくて昼間っから酒を呷るとか、出来やしないね。

 

「ウイスキーは、いつになったら呑めるようになるんだよ、イリスよぉ」

 白々しい事を考えながらレモン果汁を加えた蜂蜜酒(ミード)を味わう俺に、酒樽の妖精がウオッカを並々注いだジョッキを片手に絡んでくる。

 どうでも良いけど、エール用のジョッキに並々ウオッカ注いで呑むんじゃないよ。

 そんな呑み方してたらそのうち死ぬぞ?

「だぁから、酒については俺じゃなくてリリスに聞けって。俺は警備しか関係してねーよ」

 酒造にまで首突っ込んだら、絶対にグスタフさんとかブランドンさんとか、ハンスさんに絡まれる。

 酒場(バー)で顔突き合わせるだけで面倒臭(めんどうくさ)いってのに、これ以上面倒事を増やして堪るか。

「落ち着きなさいよ、オジサン。ウチは昨日までバッタバタだったんだから、酒造所の方にほとんど顔なんか出してないわよ」

 俺の隣、つまり俺を盾にしてグスタフさんの被害から身を守りつつ、リリスがつまらなそうに口を開く。

「何ィ!? 大問題じゃねぇか、すぐ顔出しに行くぞ!」

 その瞬間、俺を押し退けてリリスの肩を掴む酒樽の妖精さん。

 押し退けられた俺はと言えば、ジョッキの中味を零すこと無くテーブルに押し付けられる形になる。

 なんだかこういう扱いも懐かしく思えるなぁ、おい。

「何の大問題よ!? 顔出す用事なんか無いわよ!」

 まさか(おれ)が機能せず肉薄されるなんて考えても居なかったらしく、リリスが珍しく慌てている。

 あはは、おもしれぇ。

 面白いけどおっさん、好い加減重いから退いてくれ。

「いや、今までロクに顔を出していないなら、何がしかの連絡は有るだろう。すぐに行くぞ」

 真面目くさった挙げ句、ご丁寧に眼鏡を直しながら、タイラーくんが口を挟んでくる。

 お前も単に呑みたいだけだろうに、態々理由付けなんてまあ、ご苦労な事だ。

「連絡は色々受けてるし、必要な指示はちゃんと出してるわよ! 何のためにPC作ったと思ってるの!」

 余程おっさんに掴みかかられている状況が鬱陶しいのか、タイラーくんへの受け答えも今までに見ないほど雑になっている。

 いつもは翻弄されるばかりの俺だから、こういう状況は素直に新鮮だし楽しい。

 あと、リリス(おまえ)がPCを作りたかったのは、関係者との連絡を取るためとか、そういう可愛らしい理由なんかじゃ無かっただろ。

 今そんな事言ったら俺に矛先が向くので、絶対に言わないけど。

「ほらほら、タイラーはただ呑みたいだけでしょ? 無茶言わないの。グスタフさんも、そろそろ退()いてあげないとイリスちゃんの中身が出ちゃうから、ね?」

 にこやか朗らかに、ジェシカさんが仲裁に入ってくれる。

 微妙に俺へのフォローがグロいのは勘弁して頂ければ嬉しかったんですが。

 そんなジェシカさんの言葉にタイラーくんは特に変わりはないが、グスタフさんは素直に俺の背中から退()いてくれる。

「そうそう、リリスちゃん? そう言えばだけど」

 グスタフさんから解放された俺達がやれやれとそれぞれジョッキを傾け始めると、当のジェシカさんがポンと手を叩いていつも以上の笑顔を此方(こちら)に向けてくる。

 あっ。

 この顔、なんか企んでる顔だ。

「連絡は重要だと思うけど、やっぱり、きちんと顔を合わせないと(わか)らない事、いっぱい有ると思うの。イリスちゃんも、差し入れ持って行きたいと思ってるだろうし?」

 朗らかな笑顔で、正論風のなにかを纏って、本音が透けて見える事を言っている。

 何なの、俺が差し入れ持って行きたいって何事?

 いや、良いんだけどさ?

 差し入れ持ってくのは良いよ?

 俺もストックのお菓子が無くなったから、そろそろ買い込まなきゃと思ってたのよ?

 でも、ジェシカさんが気にしてるのは、俺が差し入れ持っていく事とか、リリスが仕事することとかじゃ無いよね?

「……結局、3人とも行きたいって事ね? 全く、素直に言えば良いってもんじゃないわよ……」

 リリスが(ひたい)を抑えて溜息を()くとか、割と珍しい()が見れた。

 今日は俺の「リリスフォルダ」が潤う、良い日だなあ。

「リリス、諦めろ。酒飲み3人は目的がはっきりしてるから、ブレないぞ。それに」

 俺は視線を巡らせる。

 今日は酒場(バー)の大テーブルを囲むメンツが、いつもとちょっと違う。

 グスタフ組の若いのが依頼(クエスト)で動いてるらしく、見知った顔が数人居ない。

 其処を埋めるように、ウォルターくん、ヘレネちゃん、レイニーちゃんが、思い思いに酒や料理を楽しんでいる。

 ウォルターくんは久々に厨房から解放されたとかで、実に晴れやかだ。

 屋敷(ウチ)に帰れば、ずっとキッチンに籠もってるクセに。

「……ウチの連中も、たまには連れて行っても良いだろ? ゴブリン村はともかく、酒造所の(ほう)は俺達と、あとはタイラーくんとジェシカさん、レベッカちゃんくらいしか()って無いんだし」

 リリスと、思いがけず名前を呼ばれた2人が視線を俺に向ける。

 ふむ、と呟いて、リリスは俺から視線を外して天井を見やるように視線を上げ、何か考え込む様子を見せる。

「そうね。まあ、特に用も無いけど……たまにはお強請(ねだ)りに行っても良いかも?」

 もう、顔を出す理由を考えるのが面倒になったらしい。

 だけどお前、たまにって。

 割と頻繁に酒を貰いに行ってる気がするけど?

「良く考えたら、それって横領だよな?」

 考えがまた口から漏れそうだったので、いっそのことハッキリと自分の意志で言葉にしてみる。

「人聞きの悪い……ちゃんとお金は払ってるわよ。それに、商品に出来るかどうか、ちゃんと確認しなきゃ駄目でしょ?」

 俺に半眼を向けて応えるリリスの言葉に、タイラーくんとジェシカさん、ハンスさんとグスタフさんまで力強く頷いていた。

 

 なにこれ、俺が悪いの?

 

 降って湧いた移動提案にオロオロするヘレネちゃんを見てちょっとカワイイと思いつつ、思いがけず酒造所に行けることになって、何やら盛り上がるウォルターくんとレイニーちゃんの様子を視界に収め、酒飲みって厄介だな、そんな事を無責任に考えつつ蜂蜜酒(ミード)を呷る俺の耳に、荒々しく扉が開かれる音が飛び込んでくる。

 ……なんだろう、この音を聞くと、なんか厄介事の記憶が刺激されるんだけど。

 いやいや、流れ者の力自慢系冒険者(ぼうけんしゃ)かも知れない、何でもトラブルと結びつけちゃイカン。

 そう思い直して蜂蜜酒(ミード)に集中し直す俺の耳は、やっぱり厄介事の種を拾い上げたのだった。

 

「親父ッ! ハンスさん! イリス(ねえ)さん! 大変だッ!」

 蜂蜜酒(ミード)を吹き出さなかった俺は頑張ったと思う。

 何だよ何事だよ、それ以前に、(ねえ)さんって何だよこの野郎。

 俺の顔が心持ち赤くなるのと、そんな俺に生暖かい視線が集まるのは、しかし怒号の続きが響くまでの僅かな間だった。

 

「ゴブリン村に! 厄介な奴らが!」

 

 

 

 冒険者有志一同が北門に向かって走る。

 グスタフ組の若いのが持ってきた報告は、冒険者ギルドの酒飲み連中を一瞬で怒らせた。

 グスタフさんは兎も角、ハンスさんまで得物を持って走ってる有様だ。

 ウチのメンツ――ヘレネちゃんとレイニーちゃんまで混ざってる――も、普段見ないようなお顔で走ってる。

 これ、俺要らないね?

 なんて、そんな軽口を叩く事はしない。

 

 俺達が力を尽くして、やっと平穏……って言うにはちょっと忙しいかもだけど、そんな生活を取り戻したゴブリン達。

 基本、質素に生きる彼らを街の人間も受け入れ、それどころか酒造所で働く人間も何人か居るってのに、何処の馬鹿が喧嘩を売ってきたのか。

 一緒に走っている連中は考えているのか怪しいが、俺の脳裏には馬鹿貴族のお仲間の影がチラつく。

 

 幾ら何でも、こんな短期間でちょっかい出してくる馬鹿は居ないと思ってたけど、甘かったんだろうか?

 俺はなんとも言えない気分で、走りながら溜息を吐き散らす。

「イリス。私達で先行するわよ? 報告じゃ相手は少人数らしいけど、だからこそ短絡的に暴れだしてるかも知れないし」

 リリスに声を掛けられて、俺は漸く律儀に走ってる自分の間抜けさに気が付いた。

 そうだよ、俺達は「跳べる」んじゃんよ。

「そうだな、忘れてた。……ハンスさん! (わり)ぃ、先に行くぜ!」

 一応の礼儀として、俺は振り返って怒鳴る。

「行け! 俺達もすぐに追いつく!」

 状況に依ってはすごく格好良い台詞なんだけど。

 お得意のグレイブなんか持って、中々に鬼気迫る雰囲気なんだけど。

 

 守りたいモノの大半を、酒が占めてそうなのがなぁ。

 

「りょーかい! 取り敢えずまあ、いってくらぁ!」

 返事をすると同時に、俺とリリスは跳ぶ。

 

 グスタフ組の若いのの報告だと、少人数で居丈高な「冒険者」。

 見掛けない顔らしいので、他所者(よそもの)って事だろう。

 

 ()()()()()()、ゴブリンは敵性種族って扱いでも無く、一応人類って考えらしい。

 国によっては排除と言うか、人間と限られた種族以外は人類と認めないなんて教国(くに)とか聖都(まち)も有るらしいけど、基本的にはそういうのはまだ少数派って話だ。

 

 って事は、その冒険者は()()()の関係者か?

 

 ごく最近、聖都出身者にすごくイヤな感情を持ったばかりだな、そんな事を考えている間に、俺達は北門の前に降りる。

 非常時だし上を跳び越えても良い気がするけど、衛兵さん達にはゴブリン村を守って貰ってる恩もある。

 ちゃんと手順を踏んで――とは言え昼間だし、騒ぎに呼ばれてるのも有ってほぼ顔パスで――門の外へと駆け出す。

 

 その少し先、ゴブリン村の前では、言われた通りに少数の、具体的には6人の冒険者パーティと、ゴブリン村を護る衛兵と冒険者の混成部隊とが何やら怒鳴り合っていた。

 

 

 

 喧々囂々の現場にくちばしを突っ込めば、衛兵の皆さんはこっちに顔を向け、厄介事そのものが来た、みたいな顔をする。

 なんでそんなにゲンナリするの。

「おう、番犬! やっぱお前が来たか!」

 その後ろの方の、顔も知らないはずの冒険者が俺に声を掛けてくる。

 誰だお前、っ()ーか番犬だの狂犬だの、好き勝手呼びやがって。

 何よりも、慣れてきちゃってるのが一番悲しいわ。

 ほくそ笑むリリスの前で溜息をひとつ落として、俺は顔を上げる。

「……おぅ。んで、ゴブリン村に……俺に喧嘩を売ってる馬鹿はどれだ?」

 まあ、正直なトコ、見りゃ(わか)るんだけど。

 俺が言うと、冒険者や衛兵の皆さんは6人組を、特に先頭に立つ男を指差す。

 

 ぎゃいぎゃい騒いでるのも、主にこの男だったなぁ、そういや。

「誰が馬鹿だ! お前ら……!」

 早速何か叫んでやがるが、丁寧に無視しつつ、俺は一度リリスへ顔を向ける。

「俺が片付けて良いか?」

 リリスは仮面越しに伺えないけど、たぶん表情を変えずに、声色から(わか)るくらいにどうでも良さそうに口を開く。

面倒臭(めんどうくさ)いのは(わか)るけど、一応話は聞きなさい。ハンスさんもこっちに来てるんだし」

 サブギルドマスター(ハンスさん)がこっちに向かっている、と聞いた()()()()の冒険者は何やら勝利を確信した顔になっている。

 対する流れ者冒険者軍団は、仏頂面と困惑顔が半々って所か。

「まったく、俺は冒険者だけど、ギルドの職員じゃ無いんだがなぁ。で? 馬鹿ども、なんだってお前らはゴブリン村に喧嘩売ってんだ?」

 嫌々ながら、俺は困惑顔の方に気を遣って声を掛ける。

 改めて見れば、どいつもこいつも若い。

 15~6ってトコか。

 そんな、駆け出しにしか見えない連中が、揃いも揃ってそこそこ良い装備を身に纏っているのが気になる。

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! 俺達はなあ!」

 中でも、不相応なほど立派な鎧に身を包んだ男は、あろうことか剣まで引き抜いて騒いでいた。

 ()()()()()()()()()、吠える。

 レベルは、この男が42で一番高い。

 他は、30台後半。

 (クラス)は戦士が2人、魔法士(メイジ)が1人、治癒士(ヒーラー)が1人、武闘家1人、軽戦士1人。

 ……弓職はどうした?

 斥候(スカウト)無しでダンジョン潜るのか? 罠解除はどうすんだ?

 (クラス)やらレベルやらをちらりと盗み見ただけで、いくつかのツッコミが生まれる。

 そんな(ふう)に遊んでいる俺に、男の放つ言葉の続きがぶつかる。

 

「俺は、勇者だぞ!」

 

 ……。

 

 鼻息荒く自信満々に言い切る(クラス)「戦士」の男に、俺は反射的に鼻で笑ってしまう。

 きっと、仮面から覗く口元にも馬鹿にしきった笑いが浮かんでいただろう。

「おっ、お前ッ! 何が可笑しいッ!」

 さっと顔色が変わる。

 若いにも程があんだろ。

「何がって、馬鹿が馬鹿なこと言ってりゃ可笑しいに決まってんだろが。言うに事欠いて勇者だぁ? お前の何処が?」

 もう、とっとと張り倒して衛兵さんに突き出してやりたい所を我慢して、丁寧に問いかける。

 てか、勇者って。

 どっかで頭でも打ったか、それとも何かの病気の子か。

「また馬鹿って! 良いか、俺達はな、異世界から召喚されたんだ! だから勇者なんだよ!」

 すごく頭の悪そうな反応が返ってくる。

 とても残念な奴だけど、1点気になることを()いやがったな?

 まあ、其処を突くのは取り敢えず後に回そう。

 見れば、自称勇者の後ろで頭を抱えて溜息を()く女子2人と、勇者の台詞に頷く男子2人と女子1人。

 軽戦士と魔法士(メイジ)の子は、どうもノリについていけていない様だ。

 男仲間の(ほう)も、武闘家の(ほう)はノリノリっぽいが、戦士の(ほう)は何か諦め顔ではある。

「勇者の定義がおかしいだろうが。何を成して、誰に認められた勇者なんだ? 自称の勇者ごっこなら、他所で人の迷惑にならん(よう)に遊んでろ、この馬鹿ども」

 辛抱強く、俺は丁寧に対応を続ける。

「お前……! 口の悪い奴だな、この狐女! 勇者に対する礼儀とか、そういうのを知らないのか!?」

 そろそろ、自称勇者だけでなく、取り巻き連中(3人)の(ほう)もヒートアップして来たようだ。

 だが、まだ口撃(こうげき)は勇者サマにお任せの様子である。

「俺達はわざわざ異世界から召喚されたんだぞ! 望まれてだ! お前達が、この世界が望んだのがこの俺、勇者だ!」

 自信満々の渾身のドヤ顔で相変わらず俺に剣を向けながら、自称勇者は止まらない。

「召喚したのはこの世界の人間、つまりお前らの意志と望みだろうが! それを、なんでお前らは邪魔して、その上馬鹿にするんだ!」

 そろそろ面倒臭(めんどうくさ)いを通り越してきた。

 偉そうに人様に武器を突きつける馬鹿に、俺は静かに。

 

 静かに、抑え込んでいた魔力を僅かに開放して見せる。

 

「馬鹿が馬鹿なこと言ってるからだって、何回言わせる気だこの馬鹿が。俺は、っ()ーかこの街の人間は、召喚だのなんだのに関係しちゃ居ねぇよ。聞けばお前ら、ゴブリン村の連中に攻撃しようとしたらしいじゃねぇか。善良なゴブリンに襲いかかって、何が勇者だこの大馬鹿野郎(おおばかやろう)が」

 出来るだけ静かに、仮面の奥から殺気を放ちつつ優しく諭してやる。

 ついでに1歩踏み出せば、自称勇者は慌てたように2歩退いた。

 随分な勇者っぷりだな、おい。

「ご、ゴブリンなんて敵に決まってるだろう! お前らは騙されてんだよ!」

 気圧されてるのが見て(わか)るってのに、勇者サマはなんとか踏ん張って声を張り上げる。

 

 俺はもう既に若干とは言え殺気を放っていたが、こいつのこの台詞は俺以外の連中を怒らせるには十二分だった。

 後ろにいるリリスすら、ほんのりと殺気を立ち上らせているのが(わか)る。

 

 一方で、勇者サマ御一行の筈の軽戦士ちゃんと魔法士(メイジ)ちゃんはハッキリとその台詞に拒絶の表情を浮かべた。

 

 ふぅん?

 

「大体(わか)ったぜ、馬鹿どもが。お前らアレか、ひょっとして()()()か? こないだのカナリーと言い、なんで折角出会った同郷の人間が馬鹿ばっかりなんだよ……」

 誇張抜きで情けなく、泣けてくる気分で俺は仮面ごと頭を抱える。

「な、お前、今、日本って言ったか!?」

 やっぱり、コイツは同郷の人間、あるいは日本人を知っている存在について考慮していなかったらしい。

 

 マトモな日本人はこっちに居ないのか? 

 それとも、マトモな奴は来れないのか?

 ……するってぇと、俺は?

 

 悲しみに暮れる俺が、気付いちゃいけない事に気付いた時に、相手は混乱の只中(ただなか)に居るようだった。

 未だに頑張って俺に突きつけている剣先が、ワナワナと震えて居る。

 

「お前、お前も……お前も、召喚された勇者なのか!?」

 くわっ、なんて書き文字が見えそうな勢いで目を見開いて、勇者サマが(おのの)く。

 頼むから、お前みたいな馬鹿と同列に置かないでくれ。

「馬鹿が、一緒にすんじゃねえよクソガキ。俺の場合は転生……ちょいとばかり特殊なタイプの転生だよ」

 俺はもう1歩、実際に踏み出しつつ言葉を放つ。

「俺の事はどうでも良いさ。話の前に、ひとつ教えてやる」

 もう1段、強めの殺気を放ちつつ、仮面越しに自称勇者の目を見据える。

()()()()では、ゴブリンは人類扱いだ。ゴブリンが全部敵とか悪とか、そういう考えは基本していない。……特定の国を除いてはな」

 俺の言葉に、今度は勇者が勢いを取り戻す。

「嘘だ! この世界は人間以外の種族が人間を追い詰めて、危機に瀕してるって! そして、近いうちに現れる魔王を倒さなければ、人間は滅ぶって! だから、俺達が召喚されたって」

「それは誰に言われた? その言葉の裏付けは取ったのか? お前自身の目で、世界を見たのか?」

 激高するクソガキの言葉をぶった斬って、俺は静かに言葉を叩きつける。

「ゴブリン達が本当に人間を襲っている所を、見たことが有るか? 有ったとして、それはほんの少数の()()()じゃないと、どうして言い切れる?」

 重ねる言葉は、(じつ)の所質問なんかじゃない。

 だが、俺の「質問」に、勇者達は一瞬押し黙り、すぐに答えることが出来ない。

 後ろの男2人は、困ったような顔を見合わせている。

 俺はそんな連中の様子に構わず、もう1歩、言葉を踏み込ませる。

「そもそも、召喚ってなんだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を、お前らは召喚って言うのか? んで、召喚出来たって事は、送還も出来るとか、そう言われたのか?」

 

 召喚されて勇者だなんて持て囃されて、調子に乗っている馬鹿が本当のことを聞かされているなんて思っちゃいない。

 だから。

 召喚、って言葉が引っ掛かったその瞬間から、俺はこっそりと、霊脈にアクセスしていた。

 

 霊脈に刻まれているであろう、()()()()()に。

 

 ……お陰様で、俺は知りたくもなかった事を知ることが出来た。

 召喚術とやらのカラクリも、関わっている連中の大まかな正体も。

 

「と、当然だ。召喚できるんだから、送還も出来る。ただ、それには魂の力を強くする必要が有るから、世界を見て、正義のために力を奮えって」

 強がって応える勇者の言葉は、裏腹に内心の不安を映して揺れる。

「それが誰の言葉かは興味も()ぇけどな。だけど、そいつの言うことが正しいって保証は、何処で得た? ()()()()()()()()()()のは、なんでだ?」

 言葉を重ねながら、自信を取り戻そうと懸命な勇者サマに、俺は再び無遠慮に言葉の(やいば)を振るう。

「ワケの(わか)らん世界に『召喚』されて、(ツラ)も見た目も大きく変わって。混乱していた所に耳障りの良いことを吹き込まれて舞い上がったってのが、ホントの所じゃないのか?」

 俺の言葉は、連中の反応を一層大きく切り分けた。

 顔を真赤にして激昂する者と、真っ青になって震える者に。

「う、うるさいッ! これが、俺の、俺達の魂の本当の姿だって! そう言ってたんだ!」

 勇者サマはワナワナと、今にも斬り掛かって来そうな勢いで叫ぶ。

「だから、なんでそんな都合の良い事を信じられるんだ? 魂の本当の姿? 普通に考えて、そんな胡散臭い事も他に無いだろ」

 ……まあ、多分だけど言った通り、混乱してるトコに畳み掛けるように持ち上げて、その気にさせた、させられたってトコなんだろう。

 可愛そうだとは思わなくもないが、目を覚まさせてやるなんて、そんな人の良い事をする気も毛頭無い。

 俺はせいぜい人が悪そうに口元を歪めて見せる。

 

「教えてやるよ。お前たちが考えるような、都合の良い召喚術なんて無い。だから、送還術も無い」

 

 甘言に乗せられていたのは、単に騙されたから、ってだけじゃない。

 そう信じたいから、思い込みたいから、その言葉に身を委ねたんだ。

 信じたいだけだから、心の何処かに、不安も確かに有って。

 だから、激昂しているはずの勇者は、その仲間は。

 

 俺の言葉に、その動きを止めた。

 

「お前たちは、日本には帰れないよ」

 蒼白になる勇者サマ御一行に、俺はダメ押しで言う。

 

 本当は帰れないかも知れない。

 自分達は利用されているだけかも知れない。

 この身体(からだ)も、本当は自分の物では無いのかも知れない。

 抱える僅かな揺らぎ、不安を、ほんの少しだけ押してやる。

 

 そんなモノが、少なくとも勇者サマには逆効果だ、なんて事は承知の上で、だ。

 

「駄目だよっ! ユウくん! そいつの言葉を聴いちゃ駄目っ!」

 

 だが、反抗の声は思いがけな……くもない所から上がる。

 勇者サマの後ろで成り行きを眺めていた治療士(ヒーラー)ちゃんが、かなりご立腹のご様子で、ご丁寧に両腕を振り上げて見せている。

「そいつは悪魔だよっ! 私達の邪魔するんだもん、間違い無いよっ!」

 あまりの暴論に、俺は再び鼻で笑ってしまう。

「お前らの邪魔したから悪魔だ? お前らはナニサマだ、馬鹿が」

 割と最初からかも知れないけど、俺は馬鹿にしている事を隠しもしないでせせら笑う。

「私達は勇者とその仲間だもん! 私達が正義で、その邪魔をするアンタは悪魔でしょっ!?」

 ぷりぷりと怒って見せるその様子に、(こら)えきれずリリスまで吹き出してしまう。

 ふと視線をリリスに向けると、此方(こちら)に向かって2歩3歩、足を進めている所だった。

「こうなると、私が『魔王』なんて呼ばれてるのもある意味天運かしらね? 馬鹿ちゃんたち、ほらほら、アナタ達の大敵よ? 相手してあげましょうか?」

 俺と同じ、ただし赤の狐面を付け、軍礼服に身を包む黒髪の魔王。

 わざと芝居がかって両腕を広げて見せ、魔力と威圧を振り撒いて。

 自信たっぷりに言い切るリリスの言葉に、立て続けの状況の変化に、馬鹿ども、もとい勇者サマ御一行は咄嗟の反応が出来ない。

 勇者様は俺に向けた剣を動かすことも出来ず、ただ視線を俺とリリスとを()ったり来たりさせている。

「ユウくん! 魔王だよっ! そいつが魔王だっ! やっつけなきゃっ!」

 最初に反応出来たのは、治療士(ヒーラー)ちゃんだ。

 そんな治療士(ヒーラー)ちゃんの言葉にハッとした勇者様が動く、その前に。

「待てよ馬鹿野郎。人様に得物突きつけて、何事もなく済むと思ってんのか間抜け」

 言いながら、俺はクライング・オーガで軽くその剣を打ち払う。

 魔力の解放も打ち払いも、細心の注意を払って手加減している。

 ビビって逃げ出されても、面白く無いからな。

「一応言っとくが、『魔王』なんて二つ()をもってるアレが俺の姉だ。そんで、俺の二つ()は」

 二つ()()ーか、通り名っ()ーか。

 いずれにせよ言いたくもないそれを、俺は敢えて口の端に乗せる。

「『番犬』っ()ーんだ。『魔王』の相手したいなら、まず俺をなんとかしてみな」

 俺は、自称「勇者」サマの前に立ちはだかった。

 

 ゴブリン村に狼藉を働く馬鹿の相手をしに来たら、魔王の手先として勇者と戦う事になったらしい。

 

 人生って奴は、ホント、良く(わか)らんなぁ。




満を持しての勇者様の登場。
イリスは果たして、勝てるのか()
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