召喚って、どういう事なんだろう?
2合、3合と合わせた剣をことごとく打ち払われ、自称勇者は態勢を大きく崩して蹈鞴を踏む。
だいぶ手加減した筈なんだけど、なんだこの虚弱戦士は。
俺、
っ
「どうした勇者サマ? そんなザマで、魔王の相手が出来るのか?」
とは言え、レベル差を考えれば
俺の筋力ステータスが戦士で言えばどの程度なのか、なんて把握してないけど、40そこそこの戦士に負けるほどヤワでは無い。
それを理解した上での、俺の発言である。
我ながら、溜息が出る程ヤな性格だ。
「っこの、人を見下しやがって……!」
態勢を整えながら、勇者サマは剣を構え直す。
やや前屈みで、剣の切っ先を俺の顔に向ける、いわゆる正眼に近い構えを取る。
正眼の構えと言えば、背筋をまっすぐに伸ばしたモノを想像してしまうが、この男の流派独特のモノだろうか?
そもそも武道に明るくない俺は、油断するべきではないと思いつつ、口元にはニヤケ笑いを貼り付けたままだ。
「お前が弱すぎて見下す余裕も
俺が口を開けば、勇者サマは忌々しげに顔を歪ませる。
LV42ともなれば、冒険者で言えば中堅と言えるレベルだと思う。
単なる俺の感想だけど。
この世界の基準で言えば、寧ろ俺やリリスやお嬢様がおかしいのだ。
……あんまり考えたくないけど、俺達より更におかしい連中が居そうな予感はしてるけども。
俺達の事は置いても、こいつは世界の広さを理解しているとは思えない。
中堅のそこそこのレベルって事は、まだベテランの域には達していないって事だ。
グスタフさんやハンスさんがLV60台で、ブランドンさんが70台。
そのへんがベテランの域か。
そう考えると、
要するにお互いまだまだ「上には上がいる」有様だって言うのに、目の前の自称勇者は何を根拠に、こんな偉そうなんだろうか?
見た感じ、相手のレベルを確認できてる
「ゴブリンの味方をする魔女め! 勇者に勝てると思うなッ!」
自称勇者の突撃。
正眼モドキの構えから、剣を右後方へ大きく両手で振りかぶって。
突きじゃないのかよ。
あいも変わらず真正面から。
後ろでは、
えっ?
なにそれ、なんかの詠唱?
なんでそんなコトしてるの?
即時発動とか詠唱破棄とか、そういうモンは無いの?
ちょっと意外な光景に気を取られたりしたけど、それでも俺は余裕を崩しては居なかった。
だって、そういった行動全部が見えてるんだもん。
少し「その気」になっただけで、勇者サマが大地を蹴って迫る様子とか、
俺はもう溜息を漏らすのも億劫に、クライング・オーガを右手にだらりと下げ、宝飾の宝珠を懐に戻す。
本気を出すどころか、これはなんと言うか。
もはや言葉にもなっていない雄叫びを上げる自称勇者の目の前に俺は無造作に踏み込み。
「えっ?」
「えっ?」
左手を一振りして、突進してくる
「えっ?」
お仲間が短く声を揃える中、当の勇者サマは勢いよく
「……んで? 次にブッ飛ばされたいのはどいつだって?」
もう、いっそ無手でも良いかも知れない。
クライング・オーガを腰に戻しつつ、悪ガキ共へと顔を向ける。
やる気の有りそうなのは武闘家くんと、
他の連中はやる気どころか顔面蒼白で突っ立っている。
結果、武闘家くんは自称勇者と同じ目に合わされ、
涙目で俺を睨む
その後ろでは、何故か揃って腕組みした呑兵衛冒険者共が、どういうわけか小難しい顔で。
揃ってうんうんと頷いていた。
何がだよ、
どっちを見ても溜息を漏らすしか無い状況に、エールが恋しくなった俺です。
「お前らを喚び出した召喚術とやらだが――」
縛り上げた6人に説教を喰わす、って理由で、俺とリリス以外には一旦、離れて貰った。
これから聞かせる内容は、霊脈から汲み上げた記憶の話だ。
霊脈を「PCでメールを飛ばすのに使える、便利なネットワーク」くらいにしか説明していない人間や、そもそも召喚や転生なんてものを知らない人間にはあんまり聞かせたくない話だから。
まあ、聞かせた所で俺の頭の具合を心配されて終わりだろうけど。
それでも、コイツらには。
当事者には聞かせておいても良いだろうと、そう思ったし、リリスもそれを止めなかった。
召喚術、というかコイツらを召喚した魔法。
俺に言わせれば、リリスを始めとする「キャラクター」達が使用する外法とどっこいの鬼畜魔法だ。
いや、どっこい、なんて優しい言い方は良くないな。
基本、同じものだった。
「お前らをひとり呼び出す為には、最低限、2人の生贄が必要になる」
基本というのは、つまりは世界を超える方法に生贄と言うか、生命エネルギーを使用すると言う事が、だ。
ただし、印象はその召喚魔法の
俺の端折った言い方の悪さのせいで、まるで、この世界で魔法をつかい、地球の人間の生命を使って壁に穴を開けて意識を持ってくる、という
それだったら、「生命を奪うモノ」がこっちの世界側にいるのか、地球側に居るかの違いでしか無い、そう思えるかも知れない。
だけど、そんな事はない。
そもそも、だ。
こっちで魔法を唱えても、地球側で作用させるには壁がある。
そう、文字通り世界を隔てる壁だ。
こちらで唱えた魔法を
そして、
リリスが
俺が実体験
じゃあ。
こちらから
そして、飛んできた意識を収める「容れ物」はどうやって用意するのか?
答えは簡単だ。
「ひとりは、こちらの世界の生贄。これは、召喚の為の魔法を地球に飛ばす為に必要だ。理解しなくても構わんが、世界を超える為には生命力を使って隔てる壁に穴を開けなきゃならんからな」
まずはこちらで適当な生贄の
「で、地球側からこっちに意識……
そして、
「後は、飛んできた意識を生贄の死体へ定着させれば良い。とっても簡単だな? つまり、2人の生贄ってのは、こっちでひとりと、召喚される本人……お前ら自身の事だな」
魔法を発動させて「召喚」が完了するまで、おおよそ1分程度。
この程度の時間なら、用意した「
予め若くて健康な生贄を用意しておき、なんなら能力的な成長がしやすいように
「そしてそれこそが、お前たちの容姿が日本に居た頃と違っている理由だ。そもそもの肉体が、全然別物に変わってるんだから当然だな。基本的には邪法、外法の
それなりにエグい召喚方法に、勇者サマとそのお仲間は顔色を失くして、ただ俺を見上げている。
まあ、生贄によって喚び出されたってのもそれなりにエグいのに、自分自身も生贄だったと聞かされるのは、まあ、あんまり良い気分では無いだろう。
挙げ句には、今まで自分の
……そう言えば、俺、その辺の拒否感ってあんまり無かったな。
そこそこエグい方法で作られた
「そ、そんな話、信じられるか! 大体、そんな手間を掛けなくても、その、能力の成長をコントロール出来るなら、こっちの人間を育てれば良いだろ!?」
それでも勇者サマは声を絞り出す。
まあ、認めてしまえば日本に帰ることは出来ないって事になるからなぁ。
そんな必死さに同情を覚えなくも無い、事も無い俺は、口元に指を添えて少し考えてから答える。
「そこら辺は、異世界から来訪した勇者と言う響きのプレミア感と、勇者を召喚した特別な国と言う箔と、『元の世界に帰るために』と言う理由付けでこき使える便利さと。そんで、一度死んだ肉体に魂を放り込むことによって、元々その「生物」に備わっている成長限界を突破……いや、これはお前らには関係ない話か。まあ、そんな種々様々などうでも良い理由で、好んでこの手を使ってるって事だな」
言い控えたのは、別々の肉体と意識を強引に結びつけることで生まれるイレギュラー。
元々その「生物」に備わっている成長限界を突破する
召喚魔法や生贄に色々と手を加える事が出来ても、それだけは、コントロールすることは出来なかったらしい。
その事実は、そのまま伝えるには、ちょっとキツイ。
何しろ、それはつまり。
俺は一呼吸置いて、説明を続ける。
「素直に『国』の考えに共鳴しちゃう様な奴は、それはそれで『勇者』として働いちゃうから、その『国』で大事に育てられる。素直で良く働く、素晴らしい戦力ってワケだ」
今まで目立った発言も無かった気弱そうな戦士くんが、何かに思い当たった様な顔をする。
だけど、やっぱり今回も発言は無かった。
せっかくの発言チャンスだったのに。
「一方で。勇者なんて呼ばれただけで調子に乗っちゃう馬鹿とか、粗忽な考え無しとか、逆に猜疑心強めで『国』を信用しない様な奴は、適当に戦える程度の訓練を施したら『世界を視察』とかなんとか、適当な理由を付けて国外に放り出す」
俺が言うと、真っ青になる5人。
まあ、説明はしてるけど納得させる
構ったら面倒くさいし。
「どこぞでホントに人助けをしたら『国』の手柄に出来るし、どっかで人様に迷惑掛けるなら『偽勇者』として『国』の兵力を差し向ける口実に利用する。仮に悪さをした上でどっかの国で死んだなら、状況次第で『うちとは関係ない』と突っぱねるか、或いは攻め入る口実に利用すりゃ良い。なんせ『好きなように動いて、世界を救ってくれ』とか言われて放逐されるので、ホントに好き勝手する奴ばっかりなんだし」
まあ、
それは教えてやる必要は無いな、うん。
「っつー訳だ。お前らは徹頭徹尾、騙されてたんだよ。信じる信じないは、勝手にすりゃ良いけどな」
自称勇者がある「国」の差し金だと知ってる国は在っても、その勇者の
あまりに出来の悪い「勇者」は「国」に見捨てられ、結局各国の法に則って裁かれる者や、冒険ごっこで森やらダンジョンに入り込み、実力不足で死んでしまう者も居る。
その「国」にとって、本当に役に立つ、良い宣伝になってくれる者を「勇者」として認定し、そうでないものは切り捨てる。
動いて働く広告みたいな扱いなのだ、「召喚」された一般の「勇者」とその一行は。
「そんな事ないもん! 私達は正しいから、この世界に呼ばれたんだもん!」
「そうだ! 俺は、この世界を救う勇者なんだ!」
此処まで調べた事に推測も織り交ぜて説明して、それでも、当事者だからこそ、コイツらには言えない事はある。
そもそも、そんな手間を掛けなくても、生贄を用意できるなら洗脳でもして放り出す、或いは大事に育てれば良い気がする。
なのに、そうしない理由は?
態々生贄まで用意して「召喚」なんてする理由は、一体何か?
それは有るだろう。
だが、それだけでは無い。
聖教国が召喚なんてモノに拘る理由、それは低確率で生まれる「成長限界を突破した化け物」の数を揃え、戦力として人格を問わず保護する為だ。
本当の意味で望まれ、確率の壁をも越えて「召喚」されたそいつらは、ある意味手塩にかけて、大事に大事に育てられる。
「勇者」としてではなく、その「国」……聖教国絡みの荒事を収める為の、切り札として。
つまり、「勇者」とその仲間という扱いのこいつらは、言わばガチャのハズレなのだ。
流石にそんな事、本人に言えるワケ無い。
聖教国……。
なんか拗らせちゃってる連中の考えることは極端だ。
日本で俺が見たり聞いたりした宗教だって、此処まで極端な事を――出来るかは兎も角――やりそうなトコ、無いと思う。
……無いよな?
寧ろ比べたら失礼な気がする。
どっちかってぇと、地球の宗教なんかより、テロリストの方がよっぽど近いような気がする。
あ、有象無象の新興宗教というか、宗教モドキはまた別で。
それにしても、なぁ。
消滅の運命から逃れる為に世界を渡るエネルギー源にされて、そのついでに連れてこられる事と、化け物を生み出すためにガチャ感覚で呼び出される事。
選べるのなら、俺だったら前者を選ぶ。
前提として、どっちも碌なもんじゃないってのは当然として。
「おい! 聞いてるのか、嘘つき性悪狐女! お前、番犬とか名乗ってるけど、犬と狐は違うモンだぞ、バーカ!」
人が考え事してる時に、ギャンギャン騒ぐな。
俺は自称勇者の脳天に拳骨を食らわせ黙らせる。
結構な勢いで壁に激突して気絶してたクセに、元気な野郎だ。
「番犬ってのは、俺は望んじゃ居ないが、勝手についた二つ
俺は優しいからきちんと説明してやる。
そして優しいから、悪ガキ程度に「殺す」なんて物騒な事は言わない。
「それが」
キャンキャン響く
「それが、さっき言っていた……私達は元の世界に帰れない、って言う意味?」
軽戦士ちゃんが、やや疲れたような表情の中で強めの光を放つその目を、俺に向けている。
黒髪で、幼さを残してはいるが美貌と言って差し支えない、そんな顔。
この子だけでなく、全員「日本人」と言われれば納得の風貌だが、その実態はさっき言った通り、そう見える容姿の生贄を集めて中味を入れ替えただけに過ぎないのだ。
用途に応じて欧米人を召喚することも有るらしいが、今回此処に来た連中は容姿も魂も日本人と日本人風で統一されている。
それはつまり、対象を選び、ある程度――地域レベル程度では――狙って召喚出来る、と言う事でも有る。
「そうだ。仮に帰った所で、お前らの元の体は荼毘に付されて墓の中だ。代わりに活きの良い死体でも見つけなきゃ、そのまま消滅する」
ちなみに、どれくらいの鮮度が必要かと言えば、最低でも死後15分以内の死体を見つける必要がある。
15分以上過ぎると、脳の受けるダメージが深刻なのだ。
「そう……なのね……」
俺が態々日本人らしい言い回しを選んで答えた意味を察してくれたのか、軽戦士ちゃんは顔を伏せる。
聖教国の「召喚」に関係しない、別の国で出会った転生者。
そんな俺の言葉に、何を思ったものだろうか?
「……お前さん、ちょいと物分りが良すぎやしないか? 俺の言葉を信用できる理由も無いだろ」
俺は霊脈を使って
そもそも俺は嘘を言っては居ないが、それを信じさせる様な努力はして居ない。
単に、事実を言葉に変えて並べて見せただけなのだ。
俺が逆の立場だったら、信じられるような内容じゃ無いと思うんだけど。
そう訝しむ俺に、軽戦士ちゃんはもう一度顔を上げる。
「元々、あの国の連中を信用してなかったもの」
決然と言い切る。
「だからって、俺の言うことを信じる理由にゃならんだろって話さ。まあ、その気と覚悟が有るなら証拠は見せられるけどな。どうする?」
その目を見返し、次に他の悪ガキ共を見回しながら、俺は問う。
「信じないもん! アンタは嘘つきの悪魔だもん!」
童顔で睨まれても怖くもないし、痛い性格が滲むどころか漏れ出してるから、カワイイとも思えん。
寧ろキンキン声が響いて耳が痛いから、どっか遠くで黙っててくんないかな。
「証拠……は良いけど、それ以前に」
軽戦士ちゃん、の隣の
タレ目でおとなしそうな顔だが、目線をしっかりと合わせてくる。
あんまり似てる気はしないのに、なんだかちょっとだけ気の強いヘレネちゃん、とか連想してしまう。
髪型の所為かな?
「私達はどうなるの?」
現状、勇者一行は全員衛兵さんによって縛られて、その上で正座させられている。
説教されるときは正座が基本スタイルだ。
んで、説教が済んだら当然、沙汰も下さなきゃならん訳だが。
「お前達はこの後開放する。但し、街に入ることは許さん」
話は終わったと告げ、呼び寄せた北門の衛兵長さんがちらりと俺に視線を向けてから、勇者一行に厳かに告げる。
「なっ! なんでだ! 俺は勇者だって言ってるだろ!」
途端にいきり立つ勇者サマ。
コイツ、まだ拳骨が足りんか?
そう思う俺の行動より早く、衛兵長さんが口を開く。
「勇者か何か知らんが、お前は街の住人であるゴブリン達を傷つけようとした。そんな危険人物とその仲間を、この街に入れる訳にはいかん」
「だから、ゴブリンは人間の敵だって言ってるだろ!? なんでお前らは
しかし、自称勇者も引かない。
教国に言われたことやゲーム体験での印象が抜けないのか、ゴブリンが人類扱いだという事を認めようとしない。
そんな様子に、好い加減斬り捨ててやろうかこの野郎、なんて思った俺の隣から、リリスが前に出る。
「馬鹿にも
行動に出ないだけの殺人鬼の気配。
そうとしか言いようのない冷え冷えとした殺意を、リリスは隠しもしない。
「種族毎に相性は有るし、好き嫌いはどうしようもないけどね。唯一、人間種の、特定の国だけが、多種族を従える、或いは殲滅させるなんて事を考え、口にするのよ」
静かに、仮面……無貌の狐面を外す。
言葉だけでなく、その視線からも殺意を見せつけるかのように。
俺もそれに習い、同じく狐面を外す。
「そんな馬鹿な理由で大事な仲間であるゴブリン達に危害を加えようなんて馬鹿を、街として受け入れる訳が無いでしょうが。大人しく引き返すなら、こちらも大人しく見送ってあげるわ」
俺の位置からはリリスの顔は見えないが、口ぶりから相当怒っていることは理解出来る。
そりゃまあ、折角保護してどうにか元気になった所に、酒造の話を持ちかけて、今ではウォッカの産地としてこの街の重要拠点のひとつになっている。
此処まで平和に暮らしていて、かつ、リリスにとって重要な施設を守り、運営するゴブリン達に危害を加えようとする連中を、友好的に受け入れる理由なんかひとつもないのだろう。
無論、俺にだって無い。
勇者サマは震え上がり、
ちなみに
つまり、うん、俺も良い感じに殺気が漏れているらしい。
元々殺気は漏れつつ有った筈なんだけど、こいつら、俺の狐面に気を取られすぎてたんじゃないか?
「だっ、だけど、ゴブリンなんてモンスターだろ? どんなゲームでだって、敵として出てたじゃないか」
リリスに気圧され、だいぶ勢いの落ちた自称勇者が、しかしまだ自分の中の常識から抜け出せずに食い下がっている。
応えるリリスは溜息を零すと、今までとは比べ物にならない程の殺気と魔力を周囲に撒き散らす。
それだけで、勇者一行は言葉を発することも出来ず、ガタガタと震え始める。
「それはゲームの話でしょ? 日本にゴブリンなんて居た? こっちに来てからも、アナタは自分の目でゴブリンの、その生活を眺めた事は有った?」
うっかり言葉を放つことも出来なくなった勇者サマは、ブンブンと首を横に振る。
まあ、そんなトコだよな。
日本でゴブリンが居たなんて聞いた事も無いし、それに。
「お前ら、旅して来たんだろうけど、どうせ安全な街道沿いを来て、いいとこ獣とか魔獣くらいしか見たこと無かっただろ?」
割と偏見に満ちた当てずぽうだったが、俺の質問に勇者サマはブンブンと首を縦に振る。
「じゃあ、やっぱゴブリンを見たことが無かったんじゃねぇか。此処で学習できて良かったな? 二度と会うことも無いだろうが、遠くで強く生きろよ?」
後は何処となり好きに行けば良いさ。
さっさと切り上げて、放り出して終わりにしようとする俺に、勇者は青褪めた顔を向けてくる。
「ま、待ってくれ! 俺達は、モンテリアって言う街に行きたいんだ! この街に来るまでにもずっと野宿だったし、此処を迂回したらどれくらい野宿が続くか
正座のまま飛びかかってきそうな勢いで、勇者が俺に向き直る。
うん、まあ、怒ってるリリスよりは、まだ俺の
だけど、リリスは容赦してやる
「街には入れないって言ってるでしょうが。それに、モンテリアにも入れないわよ」
斬り捨てるような言葉に勇者が視線をリリスに戻すが、その口が開く前にリリスが言葉の様な爆弾を放り投げる。
「言い忘れてたけど、私の名前はリリス・イハラ・ファルマン。モンテリアの領主を務めるファルマン侯爵家の、末の双子の孫の、片割れよ」
リリスが思わぬ大物の孫娘と知ったショックからか、それとも単に何を言っているのか
「……俺はその、双子の妹だよ。早い話が、領主の孫2人が揃ってお前らの滞在を拒否してるんだ。この街どころか、モンテリアにも入れる訳が無いだろうが」
俺も努めて冷たい調子で、吐き捨てるように言ってのける。
実際は俺やリリスに、モンテリアへ入る事を拒む権限なんか無いんだけど、心情的に、こんな馬鹿どもを
この街や、モンテリアでも流行り始めているウォッカを飲ませてなんかやらん! って気持ちも強いので、リリスの言葉を否定ではなく補強する方向に、自然に動く。
「そ、そんな、お前、日本人だって……」
なんとかすがり付こうと言葉の手を伸ばしてくるが、俺は当然のようにそれを払いのける。
「
お前とは仲間なんかじゃないですよ、と、親切に教えてあげた訳だ。
優しいなあ、俺。
俺の説明に納得できなくても、腕っ節では惨敗し、リリスの殺気にまで気圧され、情に訴えたら張り倒された。
万策尽きた勇者は、酷く落ち込んで黙り込む。
寧ろ俺の対応は優しい方だと思うんだが、此処まで人のいる街とか村とか、通って来なかったんだろうか?
こんな有様だと、下手に街に寄ろうものなら、色んなトラブルを引き起こしてただろうに。
……まさか、腕力でどうこうしてきた訳じゃ無いだろうな?
コイツらの此処までの旅路の記憶も、視た方が良いんだろうか?
なんかヤだなあ、そんなモン視たく無いなあ。
改めて衛兵長さんに立ち入りを拒否され、項垂れて立ち上がる勇者一行。
しょんぼりと覇気を失い、泣いてる
「私は、パーティを抜ける。あなた達とはもう、一緒には行けない」
軽戦士ちゃんが、決意を秘めた顔で告げる。
「私も。もう、あなた達の身勝手には付き合えない。本当に日本に帰れないなら、あの国に従う必要も無いし」
冷めた顔で、
まあ、当初からノリと言うか、反応が他の4人と違ってたからな、俺は驚きはしないけど。
突然突きつけられた決別に、勇者サマはすぐには反応出来ない、と言うか。
とても
勇者PT、分裂の危機。
所で勇者PTって、何人のイメージかな?
僕は4人。