拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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サブタイトルのセンスのある人、本当に羨ましい。


ハブられ時々イジられ、ところにより面倒事

 ファルマン侯爵が納めるモンテリア領。

 その領都モンテリアの目と鼻の先――でも平均速度20キロそこそこの馬車で片道6日程度――のこの街、アルバレインは、寂れつつ有る貿易の街だった。

 歴史上は領都直前の防衛拠点として建設された巨大な街であり、かつては戦に備えて整えられた設備は「王国」の成立とともに役割を徐々に失っていき、時代の流れとともに解体され、今では要壁と四方に点在する各監視塔が、往時の面影を残すのみだ。

 

 なにせ、戦乱の時代から200年は経っているらしい。

 

 で、領境に有る要衝は、いつしか貿易の拠点となり、そこそこ栄え、貴族様が本宅を構えたり別宅を設えたり、庶民が住む権利も早い段階で与えられたり、まあ、色々有ったんだろう。

 いつもの商店街――本当は商業区画と言うらしい――を散策しながら、商業ギルドのアランさんに教えて貰った事をぼんやりと思い出していた。

 今、この商店街は活気に溢れ、旅人らしい様子の人間もちらほら見かける。

 何やら異国情緒が増してきて、更にはファンタジーお約束の異種族の方々も見かけるようになった。

 

 今まではホントに寂れてたんだな、アルバレイン。

 前からそこそこ賑わってたと思ってたけど、正直此処まで活況ではなかった。

 

 商業ギルドが手掛けた銭湯2号店はもともと有った大きめの建物を改装したもので、冒険者ギルドの方の新築とは違って完成までがやや早く、先日営業を開始した。

 1号店とは違って大規模な売店や食事処、酒処なんかは内装されていないが、近隣に食事処が軒を連ね、商店街へのアクセスも悪くない。

 ゴージャスな内装を完備し、貴族様もよく訪れる1号店に行くのは気後れしてしまう層はやはり一定数居たらしく、今では2号店はそういった庶民で溢れかえっているという。

 旅人も、一度は1号店に行くらしいが、宿屋街までもそれほど遠くない2号店の方が、リピート率が高いらしい。

 

 うん、俺も旅人の立場だったら、そういう行動になるだろうなぁ。

 

 これは、アランさんが出し抜いたと言うよりも、ブランドンさんが客足の早さを見誤ったな。

 3号店、冒険者ギルド主導の方は、まだ建築途中だし、今では4号店も計画が動き出している。

 

 ウチにちょっかいを掛けてきた、馬鹿貴族ことフォスター男爵邸跡地の扱いに困っていたんだけど、あの無駄に――1号店程じゃないけど――広い敷地に、完全に貴族様向けの高級志向の銭湯を作ろうと言う話になったのだ。

 あの土地を領主様(おじーちゃん)から貰い受けたのは良いんだけど、ウチの本邸からは離れすぎているし、貴族様のお屋敷が立ち並ぶ中に新築立てて引っ越すのも気後れしちゃうし、どうしたもんかと悩んでたんだよ。

 そんな訳で、今日は領主様(おじーちゃん)の紹介で、とある貴族様のお屋敷に、その辺のお話で向かっている。

 

 ……リリスが。

 

 俺は無礼過ぎるから、初対面の貴族様が面食らうだけならまだしも、怒り出したりしたらマズい、って事らしい。

 この判断の切ないところは、リリスやウチのメンバーが言ってるだけならまだしも、当の領主様(おじーちゃん)からもその旨一筆(したた)められていた点だ。

 

 ――当日の会談に於いては、妹のイリスは生来の奔放さが妨げとなる恐れが有る為、姉であるリリスに任せる。

 

 この一文を目にした俺のなんとも言えない侘しさと、リリスの「なんで! めんどう!」なんて文句を言い散らす有様と、ウチのメンツが揃いも揃って笑いを堪えてやがったのは、当分忘れられる気がしない。

 絶対、この一文足した時に、領主様(おじーちゃん)とクラウスさんは、顔を見合わせて爆笑してただろう。

 

 いやまあ、堅苦しい席なんて、俺も御免だけどさぁ。

 そうなんだけどさぁ!

 

 そんな訳で微小に傷心を抱えて、特に意味も無く商店街をそぞろ歩いているのだった。

 ウチのクランメンバーのうち、屋敷に籠りがちであんまり息抜き出来ていなさそうなメンバー、主に錬金魔法技師のレイニーちゃん向けのお土産でも買って行こう、なんて事も考えてたりしてるけど。

 PCの発注が相次いでてやりたいことに手を伸ばせて居ないレイニーちゃんが、好い加減に冷蔵庫を完成させたい! って朝っぱらから荒ぶってたし、何か甘いもんでも買ってってあげようかなあ、なんてね?

 

 PC(アレ)、たしか王都に報告するまでは量産は保留、って話になってた筈なんだけど、冒険者ギルドと商業ギルド、それに領主様が()()()に追加で発注してきたので、こっそり対応している、という事になっている。

 この街の衛兵の各拠点にも、一応2台づつ設置してあるから、そっちからの追加注文は無い、筈だ。

 

 ……大丈夫なのかな? 王様に怒られたりしない?

 

 心配するフリしつつ、ちょっぴり普段の扱いに対する不満を抱えている俺は、「まとめて怒られちゃえば良い、洒落で収まる範囲で」なんて考えるのだった。

 

 

 

 小麦粉とか、砂糖とか、その辺のアイテムはウォルターくんが持ってる気がするけど、お菓子作りの際に毎回「ちょーだい!」とか言うのも気が引ける。

 その辺のアイテムと、お菓子作りに使えそうな器具の買い足しと、小腹が空いた時に食べる分のお菓子を買い込みを終え、他に何か無いかとキョロキョロ見回しながら歩く。

「イリスってさ……言動のギャップが大きいよね?」

 隣を歩きながら、カナエちゃんが、俺の顔を覗き込む。

 俺より背が高いので、こうなる機会が結構多い。

 

 っていうか、ウチの女性陣、大体俺より背が高い。

 ヘレネちゃんも、俺より背が高いんだぞ?

 トモカちゃんが、俺やリリスより身長が低い程度だ。

 

 162センチって、女子的にはそんなに小さくないと思ってたのに。

 

「ギャップって……そりゃ、裏表が無いとか言う心算(つもり)は無いけどさ……。基本的にガサツだぜ? 口も悪いし。そんなに大きなギャップなんて、生まれないと思うんだけどなぁ」

 ぼやき気味の言葉をクチバシに乗せると、俺を挟んで隣を歩くトモカちゃんが俺半分を覆う狐面の隙間から覗く頬を突付く。

 俺、なんだかんだで挟まれがちだな。

 酒場はもちろん、タイラーくんとジェシカさんと行動するときにも、気がつけば2人に挟まれてたりする。

「それ。その言葉遣いと、お菓子好きで自分でも作っちゃうトコとか。みんなに振る舞っちゃうトコとか。乙女機能発揮してる」

 うりうりと俺の頬を突きながら、トモカちゃんは割と無感動に言う。

 乙女機能ってなんだ、そんなモン実装した覚えはないぞ。

 あと、人様のほっぺた突付くのはヤメたげなさい。

「意外と美味しいよね、パウンドケーキ。クッキーも」

 腕組みして、何故か難しそうな顔をして頷くカナエちゃん。

 何がその渋面を作らせているのか本気で判らんけど、俺は確かに、最近お菓子作りの機会が増えた。

 クッキーも焼いてるんだぜ、ウォルターくん監視の元でだけど。

「趣味がお菓子作りとか……さては、キミは乙女か?」

 俺の顔を眺めながら、ハッとしたように言うカナエちゃん。

 直前に、君の相方が似たような事言ってるからね?

「言動はまるで男の子、だけど趣味はお菓子作り。しかも意外と優しいとか、ガサツ系ツンデレかな? ギャップを幾つ作って誰を罠に嵌めるの?」

 今度は鼻先にその指を突き付けながら、トモカちゃんが詰問してくる。

 ごめんけど、何を言ってるのか本気で理解(わか)らん。

 っ()ーか、この子は距離の詰め方が急すぎやしないか?

 下手するとリリスよりも踏み込んで来やがる、そんな気がする。

「揃いも揃って何言い出してんだ。お菓子作った程度でオトメとか、認定ラインが低すぎだろ。そんなの言いだしたら、俺の行きつけのお店のオヤジとかもオトメ認定になるんだが? つか、誰がツンデレだ」

 まともに取り合うのも面倒なので、そんな適当な事を言いながらトモカちゃんの手をやんわりと払い、目ぼしい何かが有りはしないかと、軒先に並ぶ様々な商品を眺めながら歩く。

 区画としては、日用品を扱う店が固まっているエリアだ。

 ……似たような商品並べてたら、お客さんの取り合いになるんじゃないの?

 良いの?

 いやまあ、他にメリット有るのかも判らんし、そんな事に口出し出来やしないけどさ。

「……石鹸も作ってるんだよね?」

 そんな俺の後頭部に、トモカちゃんの平板な声が刺さる。

身体(からだ)洗うのに、有ると便利だろ? 洗浄(クリーン)の魔法を、使えない人だって居るんですよ」

 エルフらしい長い耳の女性とぶつかりそうになり、会釈してやり過ごしてから言い返す。

 エルフっぽい人はそう言えば何人か見かけてたけど、此処最近でやっぱり増えたな。

 

 ……そう言えば、エルフってホントは耳が長い訳じゃないらしいね?

 んじゃホントのエルフはどうなの? って聞かれても、俺には判らんとしか言いようがない。

 指○物語(ゆうめいなあれ)とか、ちゃんと読んどけばよかったぜ。

 ロード○島戦記(あのめいさく)も、ちゃんと読んでないんだよなぁ。

 アニメをちょろっと見た程度か。

 とは言え、現実? に目の前を歩き去る耳の長いきれいな女性をなんと呼べば良いのか、ちらっと鑑定――と言うなのターゲッティング――すれば、お名前と共に表示される「エルフ」の文字。

 ……うん、深く考えるのは辞めよう。

 

洗浄(クリーン)? なにそれ?」

 すごく不思議そうに、トモカちゃんが俺の顔を覗き込む。

 ホントに距離感近いなこの子。

 変な男に勘違いされたりしなかったか?

 自称勇者とか。

 勇者って名乗る馬鹿とか。

「魔法だよ、魔法。自分に使えば、身体(からだ)の汚れを落とせる。便利だけど、石鹸の匂いはしない」

 考えてる事をそのまま口にするなんて、そんなヘマするはずない。

 聞かれた疑問に適切に回答した俺の顔を覗き込む顔が、もうひとつ増える。

 

 君たち、もっと適切な距離感を保とうぜ。

 

「その魔法、是非覚えたい。っていうか教えて!」

「私にも使えるかな!? 覚えられるかな!?」

 覗き込んでくると言うか、寧ろ掴みかかってくる2人の勢いに押されつつ、俺は蹈鞴を踏む。

 ステータス的にはこの2人を大きく上回ってる筈なのに、なんだこの勢い。

「待て待て待て待て、落ち着け! 危ないから、人をグイグイ押すんじゃありません!」

 慌てて押し止めるが、2人の勢いは衰えやしない。

 ホントにどうなってんだ、このパワー?

「そういう便利な魔法が有ると知ってたら! もっと旅も快適だったのに!」

 食いつかんばかりの勢いで、カナエちゃんが押してくる。

 って言うか、これほぼキレてんじゃねぇか。

 俺は知らん!

「カラダ、キレイ、大事!」

 もはや単語でしか無いそれを、ほぼ無表情で言い募りながら、やはりグイグイ来るトモカちゃん。

 この2人は、そんなに洗浄(クリーン)の魔法が欲しいのか?

 まあ、女の子だし、気になるのは間違いないだろう。

 それに、此処まで一緒に旅してきたのが、あの俺様系馬鹿勇者だ。

 アイツ、そんな細かい事を気にし無さそうだもんなぁ。

「判った、判ったから、ホント落ち着け! 魔法道具屋に寄るから! スクロール探すから!」

 勢いに負けて、予定に無かった行き先が追加される。

 色々と考えが浅かった俺の、完全な失敗だ。

 ……まあ、パルマーさんトコ行くならついでにアイテムボックス売ってるか確認しても良いか。

 考えて見たら、レベッカちゃんに渡して無いし、メアリーちゃんにも……あの子、アイテムボックス必要かなあ?

 今まで色々と不満だったであろう年頃女子たちに押されながら、魔法道具屋へ赴く理由を探していたが、そんなモノを見つける前に俺はワタワタと歩かされた。

 

 

 

 いつもの様にお菓子屋さんに立ち寄ってから、パルマーさんのお店に顔を出す。

 あれこれ置いてあるのに、いつ来ても雑多な感じはしない。

 

 棚ごとのジャンル分けが、イマイチ謎なのを無視すれば。

 

「やっほー、パルマーさん。遊びに来たよー」

 カウンター内の椅子に腰掛けて、のんびり本を読んでいる店主にひらひらと手を振ってみせると、俺の声に反応して上げたその顔が綻ぶ。

「おやおや、また賑やかなのが来たね。今回もアイテムボックスをご所望かい?」

 手にした本を畳んで立ち上がる老婦人、パルマーさんはいつものように柔らかな笑顔を浮かべている。

「そうそう、それも欲しいね。それと、今日は生活魔法系のスクロールが幾つか欲しいんだけど」

 その笑顔に気楽な調子で答え、カウンターの前に立つ。

 ついてきた2人は店内を物珍しそうに、あちこちに視線と顔を向けている。

 このお店、壁は白くて店内が明るいし、内装も意外とファンシーなんだよな。

 見てて楽しいんだろう、きっと。

「生活魔法? なんだい、アンタにしちゃあ、珍しいものを欲しがるじゃないか」

 俺の言葉に目を丸くしたパルマーさんが、聞き返してくる。

 まあ、だいぶ前に必要そうな魔法のスクロールを見繕って貰ってたから、今更何が必要なのかって不思議なんだろう。

「ああ、俺のじゃないんだ。こっちの……」

 言いながら振り向いた先には、2人は居ない。

 2人とも、思い思いに商品を眺めながら、店内を歩いている。

 

 ……てっきり真後ろに居るもんだと思ったから、気配の確認すらしてなかったけどさ。

 ちょいとばかり、自由過ぎやしないかい、お2人さんよ?

 

「……あの2人の分をね。片方は魔法士(メイジ)だってのに、此処まで生活魔法も無しに旅してたらしいんだ」

 魔導師(ウィザード)だってのに生活魔法を知らなかった俺が言うのはどうかと思うが、状況的には俺よりも過酷だった筈の少女を簡単に紹介する。

 繰り返すけど、やっぱ年頃の女の子が風呂無しで旅を続けるのは、色々と過酷だっただろう。

 道行きは街道沿いだったらしいが、水場がなければ水浴びだって出来ない。

 いくら俺が鈍感でも、その旅路が快適だったなんて想像は出来ない。

 そう言や、ウチの風呂にやたら感動してたしな。

 ボディソープとかの風呂道具一式あげたら、冗談抜きで泣いてたからなぁ。

「おやまあ、何処かの誰かさんみたいだねえ。そういう事なら、適当に見繕っておくよ」

 そんな簡単な説明に笑顔で答えながら、パルマーさんはカウンターを出る。

 さり気なく俺がイジられてる気がするが、その辺は聞かなかったフリして流す。

「ああ、お願いします。あ、あとこれ、いつもの差し入れね」

 簡単な言葉と手土産を渡し、後はパルマーさんに任せて、俺はフラフラと店内を巡る2人へと。

 

 ……君たち仲よさげだったのに、結構好き勝手に見てるのね?

 店内が言う程広くないから?

 それとも、案外こんなモンなの?

 

 気を取り直して、比較的近いトモカちゃんの方へと歩み寄る。

 

「なんか気になるモンでも有ったかい?」

 言いながら、その手元を覗き込む。

 そこに有るのは、インテリアに置いても良さそうな天秤。

 それほど大きくはないが、片手には余るサイズだ。

 小綺麗なソレに、何やら嫌な予感が脳裏にチラつく。

「うん。これ、可愛い」

 それを手にしたトモカちゃんは、本当にそう思っているのか疑わしい無表情で答える。

 普段だったら気にならない所だけど、その天秤から目を離さない姿は、俺の不安を軽く炙る。

 表情(かお)に出さない様に注意しながら、トモカちゃんの手元のアイテムに注意を向ける。

 ちょっと離れた程度のアイテムも、これで簡単な鑑定、もといフレーバーテキストの確認が出来るようになったんだ。

 いつの間にか。

 あんまりにも物欲しそうに、人様の手元を眺めすぎたんだろうか?

 そういう心算(つもり)は無かったんだけど、本気で気をつけよう。

 そんな割とどうでも良い反省をする俺の目に浮かび上がるテキストは、ゲンナリするには充分な代物だった。

 

 真実の天秤・()

 

 ……これってアレだよね?

 タイラーくんが言ってた、心臓が飛び出してパーンってなるヤツだよね?

 なんでそんな残虐殺戮アイテムが、普通に置いてあるの?

 

 クラクラしつつ説明文に目を走らせると、どうやら効果が多少違うらしい。

 良く見れば名前に「偽」とか付いてるし、きっと効果もマイルドになっているんだろう。

 

 

 ――制約に基づいて使用する魔道具。

 本来のものとは違い、偽証の対価を引きずり出す力は無い。

 この制約の下に行われた偽証は対価を締め付け、その鼓動を停止させるのみである――

 

 

 ……対価って、アレかい? 心臓ってヤツかい?

 ……鼓動を停止って、結果死ぬよね、それ。

 こんなモン、「正」とか「偽」とか関係ないよ!

 なんだこの危ないアイテム!

「それは駄目だ! トモカちゃん、それだけは駄目だ!」

 俺は慌ててその手から天秤を取り上げる。

 こんな危険なアイテム、インテリアにしちゃいけません!

 なんだ可愛いって!

「理不尽。説明を要求する」

 ぷう、と頬を膨らませるトモカちゃん。

 珍しく表情が変わった、なんて感想が出るほど、俺の方には余裕は無く。

「このアイテムの効果が理不尽過ぎるんだよ! 後で詳しく説明するから!」

 必死の懇願に、納得は出来なかった様だが諦めてはくれたらしい。

 

 諦めた様子では有るが、その後の彼女の興味を引いたアイテムもまた、危険なものばかりだった。

 何だよ、ひと刺しで精神を崩壊させるほどの激痛を齎す針って。

 間違って指先刺しちゃったら、それだけで廃人かよ、超(こえ)ぇよ。

 一度付けたら死ぬまで外れない、ただただ殺戮衝動に突き動かされるだけの人形になる仮面とか。

 さすがの俺でも、こんな仮面は付けたくないよ。

 

 色々見た結果、一番ライトなアイテムは、血を見るまでは鞘に戻らない短剣でした。

 

 危険物はうっかり触らないように、ショーケースに仕舞って下さいとパルマーさんにお願いした。

 ぱっと見はファンシーな店内なのに、この店はどうなってんだ。

 トモカちゃんは、カナエちゃんのように「活けた花が枯れにくい花瓶」とか、「幸運(極小)を呼び寄せる髪飾り」とか、そういうのにもっと興味を持ちなさい。

 

 結局、カナエちゃんは髪飾りを、トモカちゃんは呪殺人形と黒魔法大全を欲しがった。

 呪殺人形は俺には使うなよ、と念を押したけど、あの無表情は聞いてくれて居るか今ひとつ判らない。

 ……信用するしか無いけど、信用して良いんだろうか?

 

 2人が選んだ小物と2人分の生活魔法習得スクロール一式と、いつものアイテムボックス6個を購入し、俺達はパルマーさんの店を後にする。

 子供達のスクロール?

 本人が欲しがるなら兎も角、折角魔導書みて勉強してるんだし、野暮な事はしないよ。

 

 全員、洗浄(クリーン)は覚えたみたいだしな。

 

 

 

 パルマーさんの店を出て、他に見たいものも思いつかず、どうせ暇だし酒場(バー)へ冷やかしに行こうか、と言う事になり、俺達は冒険者ギルドへと足を向ける。

 道すがら聞けば、2人は冒険者登録をしていないらしい。

 どういう事かと聞けば、勇者の共は一般的な冒険者とは違うと、聖教国のお偉いさんに言われたんだそうな。

 職業適性なんかを簡単に調べられ、冒険者に準じた(クラス)を告げられたらしいが、そこに本人の意志は無かったと言う。

 ……その割には、自称勇者の(クラス)は「戦士」だったけど。

 あれか? 勇者の適性って、どの程度能天気で人の話にホイホイ乗せられて神輿に乗せやすいかとか、そういったアレか?

「つくづく、教国の連中とはお近づきになりたくないわぁ」

 思った事が口から滑り出て、それを耳にしたカナエちゃんが少しポカンとした後、くすくすと笑い出した。

「ホントにそうね。綺麗事しか言わないし胡散臭いし、どこ見ても信用出来そうな人は居なかったわね。街にいる人とか、教会で働いている人には、悪い人は居なさそうに見えたけど」

 そう言って、大きく伸びをする。

 さり気なく毒の後にフォローを入れている(ふう)だけど、「悪い人は居ない」と断言しなかった辺りに薄っすらと色々見える。

 

 まあ、良い人であっても、敵の味方だったら敵でしか無いわな。

 

 時刻はいつの間にか昼を回っていたようで、太陽は頭上を越えて僅かに傾いている。

 取り敢えず何を食べるか話しながら歩く俺達の前を、3つの人影が遮る。

 

 何だよ邪魔くさいな。

 

 さっさと進路を変えようとした俺に、そいつは声を掛けてきた。

「ちょっとまって、君たち冒険者でしょ?」

 胡散臭気な、軽薄な声。

 いや、思い過ごしなんだろうけど、なんと言うか。

 ちらりと視線を走らせるが、並んだその顔のどれにも見覚えはない。

 少なくとも、グスタフ組の若いのではない。

 

 そのヘラヘラした上っ面も相まって、どいつもなんとも軽い奴にしか見えない。

 思い過ごしだと良いんだけど。

「……ああ。俺はCランクの魔導師(ウィザード)だ」

 変に無愛想に対応する理由も無いが、丁寧に愛想よく答える義理もない。

 さり気なく俺はカナエちゃんとトモカちゃんを庇うように立ち位置を変え、狐面を外してみる。

「そっかそっか! 俺達もついさっきこの街に来たばかりでね」

 俺のランクに特に反応が無かったのは、俺と同じかそれより上って事だろうか。

 レベルは、3人共並んで32だ。

 ……Bランクにしちゃあ、ちょいとレベルが低い気はするが、あんまりアテにはならないか。

「妙な仮面つけてるから、変わりモンの冒険者かなって思ったんだけど」

 ヘラヘラと、そんな事を言う。

 見てくれはまあ、悪くないんだろう。

 だが、こいつは爽やかに喧嘩を売っているんだろうか?

「やあ、でも、素顔は可愛いね! どうだろう、折角だし、一緒に食事でも」

 にこやかに、俺に右手を差し出してくる。

 はあ?

 なんだコレ。

 もしかして、俺、ナンパされてるか?

 

 気がつけば、野郎のツレ2人も、それぞれトモカちゃんとカナエちゃんに、馴れ馴れしく話し掛けている。

 

 俺はげんなりする気分で、振り返って2人を見る。

 俺ひとりだったらこんな野郎の手は()(ぱた)いて終わりなんだが、万が一、この2人が乗り気だったら。

 そんな俺の目に映るのは、やはりゲンナリ顔のカナエちゃんと、いつもよりも不機嫌に見える無表情のトモカちゃんだ。

「……一応訊くけど、ついていく選択肢は?」

「無いわね」

「イヤ」

 取り敢えず尋ねてみたけど、返答は2人とも、俺の質問に食い気味で重なった。

 ……相手は3人とも、タイプは違えどまあ、それなりにイケメンって部類だと思うんだが、この2人はそんなモノには靡かないご様子である。

 

 俺?

 男に声掛けられて喜ぶ様な趣味は、俺には無いよ。

 何度でも言うけど、見てくれは兎も角、中味は27のオッサンなんだから。

 

「って訳だ。悪いが人肌恋しいなら、他所を当たるか娼館にでも行きな」

 溜息を()きながら狐面を付け直し、俺はひらひら手を振りながら行き過ぎようとする。

 その俺の手首を、男の無遠慮な手が捕まえる。

「待って待って、話を聞いてよ、ね?」

 声は軽く口調は軽薄だが、その手に籠もった力は不必要に強い。

 

 逃さない、どころか、逃げるならへし折る、とでも言いたげに。

 

 どうやら後ろの2人も似たように捕まったようで、「痛い」とか「離して」とか、そんな事を言っている声が聞こえる。

 俺はこの程度の握力ではどうこうされやしないんだけど、ただ掴まれたってだけで不快だし、それよりも身内判定の2人に手を出した事実は見逃せない。

「……離せよ。捻り潰すぞ」

 静かに、警告を放つ。

 仮面に隠された()には殺意を乗せて。

 多少呑まれた様だが、それでも男は手を離さない。

 レベル32、剣士。

 戦士とどう違うのか今ひとつ判らないが、まあ、剣を使うんだろう。

 そこそこ胆力もあるのか、危機感が薄いだけの馬鹿か。

「まあまあ、落ち着いてよ、ご飯くらい良いじゃない。俺達は何も、無理矢理連れて行こうって言ってるんじゃ無いんだし」

 諦めの悪い男に、俺は聞こえるように舌打ちを響かせる。

「女の細い手首を潰そうかって勢いで握っておいて、ンな言い分が通るか馬鹿野郎。3秒待ってやるから、さっさと手を離せ、ツレの方もな」

 変わらずに真正面から見据えて、静かに言う。

 静かに、声を低めて。

 力づくで振り払う事も出来るが、一応、相手のプライドも考えての猶予だ。

「……3」

「落ち着いて、ほら、俺は怖い人じゃないよ、ね?」

 軽薄な口調とは裏腹に、その手に籠もる力は増していく。

「……2」

「いやだからさ、ご飯くらいいいでしょ? お話したいんだよ、それだけ」

 周囲を行き交う人達が、何事かと俺達に視線を向ける。

 その中で、「俺」を知っているらしい顔が、やれやれと首を振る。

「……1」

「ちょっと君、意地張り過ぎじゃない? 僕たちの話を聞けば少しは」

 遠巻きに、衛兵さんが俺達を見ている。

 なんだよおい、助けに来ないのかい。

「時間切れだ」

 俺は言葉と同時に魔力を開放し、ついでに障壁を張る。

 

 いくら俺でも、日常の風景の中で障壁張って歩きゃしない。

 どうしても障壁を張ると、周囲50センチ程度は誰も俺に触れられない空間が出来るので、そんなもん街中じゃあ邪魔でしか無い。

 俺の、じゃなくて、善良な一般の方々の、な。

 本来の障壁は球状に俺を覆うんだけど、無理矢理形状を変化させてもこれが限界なのだ。

 いずれは俺の身体(からだ)をちょうど包む程度にまで、範囲を縮めたいもんだ。

 

 その障壁に弾かれて、男は右手を大きく振り上げてすっ飛び、尻もちをつく。

 すかさず距離を詰めた俺は、抜き放った剣――クライング・オーガをその首筋にひたりと当てる。

 

 流石に、この状況だと剣先は障壁の外だ。

 壊そうと思って壊れるようなレアリティじゃないし、余程の事がなければ、(コイツ)に障壁なんて不要だ。

 

「後ろの2人。仲間の命が惜しいなら、大人しく俺のツレを解放しろ。猶予はナシだ」

 顔も向けず、声を投げる。

 わざわざ見なくても、周囲の状況は掴める。

 

 いやあ、魔法って便利だね。

 

 男のツレは流石に何が起こったのか理解できない様で、だが、仲間の首に剣が当てられている事だけは判ったらしい。

 口々になんか言いながら、カナエちゃんとトモカちゃんをそれぞれ放り出して俺に飛びかかってくる。

 あっちは、拳士と盗賊だったか。

 俺は飛びかかる2人の更に後ろへとテレポートすると、踏みしめた大地を蹴る。

 

 剣の柄で殴ろうと思った俺だったが、結果は障壁で男2人を殴り飛ばしていた。

 

 

 

 よっぽど引き返して、パルマーさんの店であの針を買ってこようかと思ったのだが、かろうじて踏みとどまる。

 俺だけならまだしも、カナエちゃんとトモカちゃんにまで手を出そうとしたのが、本気で腹が立つ。

 

 ナンパするなとは言わねぇが、もっとスマートにやれや!

 

「ちょっと、待って待って、俺達はあの子達と話したかっただけだって!」

 俺が男2人をぶっ飛ばして気絶させたのを確認してから、わらわらと衛兵さんが寄ってきた。

「良いから大人しくしろ!」

 寄ってたかって拘束され、立たされた唯一意識の有る男は抗弁を試みるが、衛兵さんはそんな言葉に耳を貸すことは無い。

 まあ信頼してるけど、まだちょっとご立腹の俺は、衛兵さんに声を掛ける。

 

「衛兵さん、()()()()()()()()()()()()()()()()。すぐに報告するから」

 

 何処に何の報告をするのかは、言わない。

 受け手がどう思うかは、任せる。

 振り返った衛兵さんは頷いて見せると、男に何やら耳打ちした。

 

 とたんにギョッとした顔を俺に向け、そして大人しくなる。

 

 さて、衛兵さんはなんて言ったのかな?

 冒険者ギルドのギルドマスターと(サブ)マスターと懇意にしてる、かな?

 キレたら手がつけられない危ない奴、かな?

 それとも……一応はこの領の領主様の関係者、って事を言ったのかな?

 

 真相を確認する心算(つもり)も興味も無い俺は、ちょっとだけ溜飲を下げて身内2人に向き直る。

「やれやれ、心底面倒な連中だったが、気を取り直してメシ食いに行くか」

 口元をニヤつかせて、おどけたように両腕を広げて見せる。

 多少なりとも怖い思い、そこまで行かなくても不快な思いはさせただろうから、俺なりの気遣いだ。

 だと言うのに。

「それ、さっきのナンパ男と変わらない」

 トモカちゃんが、無感動に答える。

「まあ、見知ってる分だけ、全然マシだけどね。ああもう、手首が痛いったら」

 軽く左手を振って、カナエちゃんがボヤく。

 って、大丈夫?

 痣になったりしてないだろうな?

「あの人達、衛兵さんに連れて行かれたけど。私達は、なにか調書とか、取られたりするの?」

 トモカちゃんが俺の顔を見ながら言う。

 さり気なく、右手を振って。

「いや? 結構最初の方から、衛兵さんは見てたからね、結構な人数で。普通は冒険者の喧嘩程度じゃあ出てこないんだけど、まあ、うん」

 俺はこんな程度で領主様(おじーちゃん)に報告したり、泣きついたりする気は無いんだけど、何処から何の拍子で、その耳に入るか判らない。

 そうなった時の為に、自分達は働きました、とか言えるように、衛兵の皆さんは動いたんだろう。

 

 実際、捕縛してくれたしね。

 

「そんな事より、掴まれた方の腕出して」

 そんな事を細かく説明して何か距離を取られても寂しいし、俺は話題を変える。

 女の子が手首に痣とか付いてたら可哀相だし、折角回復魔法も覚えた事だし。

 覚えてからまだ一度も使ってないし、ちゃんと効果を確認したいところだしね。

「何するの? 念入りに握り潰すとかだったら、凄くイヤなんだけど」

 さっと左手首を隠しながら、トモカちゃんが珍しく不安げな顔で言う。

 なんでそんな警戒が生まれるのか。

 って言うか、俺を何だと思っているのか。

 見れば、カナエちゃんも、右手首を隠してる。

 

 信用されないって寂しい。

 

「あのな。回復魔法使うから手を出してって言ってるの」

 俺の言葉にも、胡散臭気な顔を見合わせる2人。

 何だおい、そこまで信用無いのか俺。

「回復魔法って、聖教国の関係者しか使えない筈」

「イリスって、実は教国の人?」

 ちょっと身構えながら、2人は口々に不信感を抱いている理由を述べる。

 

 あーあー、えー?

 何その面倒臭そうな話。

 

「俺はそんな胡散臭い連中とは(ちげ)ぇよ。っ()ーか、そんな事言いだしたらそこらに居るフリーの治癒師(ヒーラー)はどうなるんだよ。流石に聖教国でも、そこまで手広く出来やしないだろ」

 溜息混じりの俺の言葉に、だが、2人は表情を強張らせたままで。

 そんな2人を見る俺の脳裏には、いつぞやのリリスの言葉が浮かび上がる。

 

 ――アンタも想像付きそうなお約束がこの世界にも有ってね? あんまり大っぴらに回復魔法なんか使うんじゃないわよ?

 

 いやまさか。

 能天気かつ無責任にも、深く考えなかったその言葉。

 何やら嫌な予感が湧き上がる俺に、トモカちゃんが静かに、というか小さな声で囁くように言う。

 

「その治癒師(ヒーラー)の認定をしてるのが、教国の傘下の教会なんだよ?」

 

 ナンパの対処どころではない面倒事の予感に、俺は天を見上げるのだった。




予定と違う方に話が進む病気の、治療法を知りたいです。
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