拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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冒険者は酒飲むのが仕事。
熊さんとか髭とかが言うんだから、きっと間違いない。


8 大森林調査・上

 名物宿屋「銀の馬の骨」特製の晩飯が旨すぎる。

 満足して部屋に引っ込もうとした所で、タイラー組に捕まった俺はそのまま冒険者ギルドへ連行される。

 

 やーめーろーよー。

 

 どうせ明日(あした)来るんじゃんよ、もう今日は良いって、酒だったら銀の馬の骨(ここ)でも呑めるじゃんよ。

 そんな俺の懇願は丁寧に無視されて、気が付くとハンスさんとグスタフさんに挟まれ呑まされるという地獄を味わう事に。

 俺、そんな悪い事したか? あ、もう挨拶なんだか愚痴なんだか、俺です。

 

 

 

 翌朝、俺はだるそうな顔を仮面で隠して冒険者ギルドへ向かっている。

 タイラーくんを呼びに行こうかと思ったが、子供じゃあるまいしまあ、大丈夫だろう。

 

 昨夜のギルドへの拉致事件の恨みは(ワス)レナイ。

 

 今日は酒を見るのも嫌だったので、ウェイトレスさんにお茶を頼んでぐったりとテーブルに突っ伏す。

 だっるう。

 出掛けにポーション飲んで来ればよかった。

 (かる)めの頭痛は頭蓋骨を内側から叩くし、もう、最悪な気分だ。

 

 

 

 今日の依頼は基本的にはDランク以上の冒険者向けのものらしい。

 一昨日(おととい)の北門の騒ぎのドサクサでランクがFからEに上がっていたとは言え、その時点で俺は対象外。

 なんだけど、そこで熊さんが特例発動。

 タイラーくんのパーティに俺が加わる形で、特別に参加OKとの事。

 

 そんな訳で俺は茶を啜りつつ、タイラーくんとジェシカさんを待って居た。

 あ、ハンスさんに聞いたんだけど、タイラーくんもジェシカさんも、Bランクなんですって。

 俺、あの2人にすっげえ生意気な口聞いてるけど、まさかの高ランク冒険者だった。

 あの見た目で強いとか、実はあの2人が主人公なんじゃないかな?

 まあ、仲間が強いと気が楽で良いな、うん。

 

「なんでお前は先に出てるんだ。部屋に踏み込んでしまっただろうが」

 そんな俺の後頭部に、高ランク冒険者が言葉の棘玉をぶつけてくる。

 登場から騒がしいとか、珍しい事もあるものだ。

 俺はだる重い上半身をテーブルから起こすと、お茶を飲む為に外していた仮面を付け直す。

 しかし、この行動が失敗だった事を、直後に思い知らされる。

「てっきり迎えに来てくれると思ったから、待ってたのよ?」

 ふわっと、ジェシカさんが後ろから俺の首に両腕を回してくる。

「うお⁉」

 美人さんの柔らかな双丘の感覚が……俺のヘルメットに!

 畜生なんで俺こんなけったいな仮面メット(かぶ)ってるんだコンチクショウ!

「ちょっとまって、仮面を外すから、改めてもう1回!」

「……お前は何を言ってるんだ?」

 遅まきながら仮面を外した俺に、心底呆れ顔を向けるタイラーくんが俺の居るテーブルを囲む右手側の席に着き、ジェシカさんが左手側の椅子を引く。

 そして、ふたりとも当たり前の様にエールを頼んでいる。

 

 え、なに?

 冒険者って、飲み物はアルコール以外は呑んじゃいけないの?

 そういう契約なの?

 生態なの?

「あー、うん。取り乱した。っていうか子供じゃ無ェんだから、ンなこと言われてもなぁ」

 茶を啜りながら、2人の苦情に漸く答える。

 一応言わないけど、俺なりに気を使った面も有るんだぞ?

 こっちから迎えに言って、もし朝から(さか)ってたらどうすんだ、俺が居た堪れないだろうが。

 

 そんな事をぼんやり考える俺の脳天に、タイラーくんの一撃。

 茶を吹き出し、俺はテーブルに沈む。

「テメェ何しやがる!」

 涙目で食って掛かるが、タイラーの野郎は少しも感情を感じさせない声でしれっと答える。

「今、殴っておかないといけない気がした」

 何だそりゃあ、オカルトか⁉

 しかも理由は下劣過ぎて言えねぇが、その勘は当たってやがるし!

 これが主人公補正って奴か……野郎……!

 

 

 

「よく集まってくれた。今回は事情が事情だ、参加者は準指名となる。指名基準は最低限、自分の身を守れるとこちらが判断した者。参加基準は、その指名者の責任に於いて推薦された者だ」

 熊のハンスさんの声が受付前の広間に響く。

「――目的は、本格的な調査の前の予備調査。なにせ広い森だ、あの魔獣共がドコから出て来たか、まずは其処からだ」

 大森林の、この街に面する広範囲をまずは調査し、出てきた経路を探す。

 それらしい形跡を見つけるか、魔獣そのものが出たら対処しつつ地図にマーク。

 何箇所かになるだろうそれを見つけ、その規模によって、今後行われる本格的な調査隊の規模や編成が変わるのだろう。

 

 頭張ってると、色々考えるもんだなあ。

 飛び出して暴れりゃ良いと思ってる俺にはピンと来ないが、まあ、要するに。

 

 黒幕が居るのか、って言う調査と、居た時はボッコボコにする為の準備、って事だろう。

 

 まだるっこしいと思わなくも無いが、「(だい)」なんて付くような森の中を、何の当てもなくフラつくとか、いつまで経っても見つけられる気がしないのは理解(わか)る。

 焦らない。

 焦って大暴れしてる間に、黒幕に逃げられたら目も当てられない。

 

 名前しか知らない12人の仇を取る、その為にはハンスさんを信じ、他の冒険者の手を借りなければならない。

 

「――と言うことだ。不意の魔獣の襲撃も考えられるため、余程の事情がなければ、今回は出来る限り複数人(パーティ)で行動して欲しい」

 パーティという単語に、俺はタイラーくんに目を向ける。

 

 考えてみたら、俺、ゲームですらソロだったわ。

 期間限定トライアルとか新クラス実装キャンペーンとか興味無かったし、ずーっと「リリス」の育成しかしていない。

 装備整えなきゃ恥ずかしくてオンライン行けない、とか思って、結局こっちに来るまでソロ。

 こっちに来てからまだ4日目なんだが、パーティ経験は子供達との薬草採り。

 集団戦の経験は無い。

 

 ホントに大丈夫なのか、俺……?

 

 とりあえず、スキル構成からミーティアを外しとこう。

「なんだ? 置いて行くようなことはしない、安心しろ」

「ンなこた心配してねェよ」

 目の合ったタイラーくんが溜息混じりに言う。

 なんで溜息()いたんだこの野郎?

依頼(クエスト)で出掛ける準備は、旅の準備とはまた少し違うんだろう? 色々教えてくれ」

 ハンスさんの話が終わったことで駆け寄ってくる子供達にじゃれつかれながら俺が言うと、タイラーくんが目を見開く。

「お前が……素直に俺に教えを()う、だと……?」

 お前なぁ……。

 その認識は、俺だけじゃなくてお前自身にも失礼だろうが。

「言っても俺は駆け出しだぞ? 経験者の話が有り難い立場なのは、間違いねぇよ」

 言いながら、カレンちゃんとティアちゃんに纏わり付かれながら、俺は立ち上がる。

 少女2人の体重を物ともしない、そんな俺にしがみつきながら、実に楽しそうにはしゃぐ少女達。

 

 ……少女たちよ、喜ぶでない。俺はアトラクションじゃないぞ。

 そんな事を考えつつ、2人を纏わり付かせたままその場でくるくると回って見せる俺と、きゃあきゃあとはしゃぐ子供達。

 

 しばし癒やされた俺は、仮面越しの、照れ隠しの真面目くさった顔を、タイラーくんの方に向ける。

「あー、まぁ、あれだ。宜しく頼むぜ、先輩」

 こういう台詞は、なんというか照れくさい。

「面倒だし気も乗らないが、仕方がないので面倒見てやる。酒くらい奢れ、後輩」

 だと言うのにこの野郎。

 こんな奴に照れたのかと思うと、感情を無駄に()り減らした気がして、ものすごく勿体ない気分になる。

 

 

 

 今日(きょう)まで、何だかんだ自分のことに手一杯で、世界のことを殆ど考えた事がない。

 例えば、俺自身が使っているが、一方で魔法使いが居るのかも、俺は知らない。

 多分で良ければ、ここは魔法はある世界、そう思っている。

 根拠は、夜の街のあちこちに有る街灯。

 曇ガラスに覆われている光源は揺らめく事がないので、松明(たいまつ)蝋燭(ろうそく)(たぐい)ではない。

 科学技術の線もあるが、何となく……魔法なんじゃないかと思っている。

 

 あれが科学技術、電気による物だったら、ちょっと色々バランスが悪い気がするのだ。

 何が? と問われると、それこそ「何となく」としか言えないんだけど。

 

 まあ、そんなあれこれの疑問を解消するのも、この世界で生活する事に繋がっていくだろう。

 目が醒めるまでの間でも。

 

「という訳で、準備も含めて、出発前の買い物に行きまーす」

 ジェシカさんの号令で、俺達は商業エリア……活気あふれる商店街へと足を踏み入れる。

 昨日も来たね、そう言えば。

「なあ、タイラーくんよ」

 色々と必要な物を買い込む前に、俺はタイラーくんを呼び止める。

「どうした? トイレか?」

「お前はデリカシーってやつを覚えろ」

 幾らまだ出発前だっつっても、緊張感無さ過ぎだろうがメガネ。

 なんでお前とのやり取りがいつもこんな調子なんだよ、ジェシカさんも笑ってないでコイツなんとかして下さい。

「魔法道具屋ってドコだ?」

 さも知ってる(ふう)に言ってみる。

 もしそんなもん無くても「ああ、この国には無いのか」くらい言っときゃ誤魔化せるだろ。

 多分。

「ああ、何か必要なのか。ついてこい」

 タイラーくんは事も無げに答えると、当たり前のように歩いていく。

 ……成程、普通に有るのね。

 やっぱこの世界(コレ)、俺の夢なんじゃないのか。

「おい、行くんじゃないのか。早く来い」

 足を止めずに軽く振り返りながら言うタイラーくん。

 そういう台詞は、足を止めてから言うんだよ。

「お前が進み過ぎなんだよ」

 寧ろジェシカさんの方に着いて行く感じで、俺は足を動かす。

 

 

 

 少年少女も物珍しそうに店内を見回し、小さく走り回っている。

「危ないから、転んだりするなよー」

 声を掛けると、各々返事をくれる。

 元気なのは良い事だ。

「悪いね店主。で、マジックバッグは今、良いもの有るかい?」

 パルマー魔法道具店。

 タイラーくんに案内されて訪れた店は俺のイメージに反して広い店内に、俺では見ただけでは使用方法もわからないようなアイテムが並んでいる。

 判らん眼から見れば、雑多に並べたてている様に見えるが、ごちゃごちゃした印象は無いので、それなりキチンと管理はされているらしい。

「元気な子供は良いもんさ。こっちも元気になれる。んで、マジックバッグってのは、アイテムボックスの事かい?」

 店主の老婦人が子供達を眺めてから、柔らかい口調で対応してくれる。

 やっべ、フツーに名前間違えたらしい。

「あ、ああ、そうそう、アイテムボックス。珍しい物だから、言い慣れなくてさ」

 不思議そうな顔で俺を見るタイラーくんの視線を無視しながら、俺は取り繕う。

「で、アイテムボックスだけど、どんなのが有るかな?」

 冷や汗を笑顔で誤魔化しながら、まず欲しい物の確認をしようと決める。

 

 アイテムボックスは、大まかに言って2種類有るそうで、その説明でもう、何となく理解(わか)った。

「時間停止のと、そうじゃないのかな」

「そうそう。良く知ってるね」

 話を聞く俺の両側には、何故かタイラーくんとジェシカさんがついている。

「それは何が違うの?」

 時間停止するかしないか、わかりやすい説明と言えば。

 不思議そうな顔のジェシカさんの質問に、ちょっと頭を捻った俺だが、洒落た言い方が思いつかない。

「食べ物が腐るか腐らないか」

 なので、すごく簡単にイメージ出来そうな事を挙げてみる。

「そんなの有るの⁉」

 そんな適当で投げやりな説明に、思った以上の食いつかれ、圧されつつもタイラーくんを見れば、何やらコチラは考え込んでいるご様子。

 

 俺がアイテムボックスを欲しいと思ったのは、ひとつには俺の持ってるアイテムボックスと、この世界で流通してる物との違いがあったとき、誤魔化す為に。

 予め仕様の違いを知っていれば、誤魔化しようも思いつくというものだ。

 なんか誤魔化す事ばっか考えてんな、俺。

 

 それに、容量次第ではホントに予備として使える。

 俺の手持ちは時間停止が有るとは思えないし、そもそも容量的な不安もある。

 なにせ、深層領域とかで拾ったウィザード向けのレジェンダリーアイテムがそこそこ入っているのだ。

 金貨の総量の事を考えても、余裕が有るとは思えない。

 そんな馬鹿な理由で依頼(クエスト)お出かけセットが収納できなくなったら困るので、補助用に、なんならメイン収納として欲しいと思っていたのだ。

 

 アイテムボックスが存在しなかった場合、荷物を増やすしか無いので、切に願っていた部分でも有る。

 

「今、ウチに有るのは時間停止系だと、100万リットルのが一番大きいかしら」

 ……単位リットルなのか、俺が翻訳されて理解しているだけか。

 

 いや、夢だからなんだろうな……。こういう「自分に都合のいい話」とか「自分にわかる単位・言葉」が出てくると、コレが夢なんだといちいち意識させられる。

 確かに便利だけどさー? もう、目が醒めるまでどうしようもないし、苦笑いで受け入れるしか無いね。

 

「それってどれくらいの大きさなの?」

 ジェシカさんが質問しているが、ちゃんと容量についての質問なのか心配になるな……。

「あー、ジェシカさん、1000立方メートル……10メートル四方で、高さ10メートルの部屋くらいだよ」

 なんで俺に即答できたかと言えば、最近、リアルの仕事絡みで調べたんだよ。

 リットルと立方メートルの関係を。

 正直なんでこんなもん調べてるんだと思ったもんだが、こんなすぐに、生活に関わる形で()きてくるとは思わなかった。

 ふーん、と呟いて店内を見渡すジェシカさん。

 イメージ湧かないんだろうな……。

 そう思った俺は、店内をざっと見回してから声を掛ける。

「この部屋よりもでっかいよ、空間的には。奥行き足りないから、幅も当然足りてないし、天井もね」

 あくまで目測だが、奥行きで8メートルくらいじゃないかな? 10には届いていそうにない。

 幅はもっと狭いから当然10どころじゃないし、天井は高いけど()いとこ3メートルってトコだろう。

 

 多分、漠然とこの部屋くらいをイメージしていたのか、俺の言葉にジェシカさんは即座に振り返る。

「嘘⁉」

 目測が甘くても、10届いて居そうなのは奥行きしか無いので、どちらにせよこの空間では1000立方メートルに届くことはない。

「お嬢ちゃんの言う通りだよ」

 老婦人もニコニコと、俺の説明を補強してくれる。

「じゃ、じゃあ、それってこのお部屋よりどれくらい大きいの?」

 当然の疑問。

 ジェシカさんが驚いている様子が珍しいのが、子供達も集まってきた。

 3メートルの空間を3つ積んで高さ9メートル。

 横が概ね7メートルかな。

 となると、もうひと部屋乗っけたら、良い感じかな?

「あー。この部屋を縦にもう3個重ねたくらい、かな」

 ジェシカさんは大げさに驚くこともなく、しかしそれなりに圧倒はされてくれたようで、呆然と天井を見上げている。

 そんなジェシカさんを申し訳ないが放り出して、俺は改めて店主に顔を向け直す。

「それ、どれくらい有るの? あ、数ね?」

 子供達はもう想像することを放棄しているようで、俺と老婦人の話を黙って聞いている。

「そうねえ、数でいうと12個だけど……高いわよ?」

 そりゃそうだよね。

 家買うより高いようなら諦めるかな。

「まあ、物が物だしね。ちなみにおいくら?」

 購入断念も視野に入り、却って聞きやすくなった俺は気軽に尋ねる。

 気分は冷やかしだ。

「金貨54枚ね。あ、1個に付きだよ?」

 4枚の端数感(はすうかん)よ。

 しかし、そうなると、掛けること12で、648枚か。

「じゃあ、それ全部。650枚出すから、なんかサービスしてくれる?」

 事も無げに言う俺に、店内の大人組((ふくむ)老婦人)が驚愕の相で言葉を失ってしまう。

 子供達は何のことか判っていない(ふう)で、大人たちを不思議そうに眺めていた。

 こうしてかなりの容量のアイテムボックスが手に入り、本当は時間停止系有りと無しの両方を買う予定だったが、必要無さそうなので「入れ物」購入はコレで完了としよう。

 必要に迫られたら、また相談に来れば良かろう。

 

 用意してもらってる間に、俺、自分の特技的なモンに気付いたわ。

 簡単な鑑定出来るぞ、俺。

 

 鑑定というか、手に取るとアイテムの説明文……所謂フレーバーテキストとか、モノによってはそのアイテムが引き起こす効果なんかも理解(わか)る。

 ゲームで、アイテムを確認してるあの感じだ。

 老婦人が色々サービス品を見繕ってくれてる中から俺がそれを手に簡易解説、それを元にタイラーくんが要不要を判断、という流れで頂くサービス品を選定。

 ちゃんと老婦人に「そちらが損をしない範囲内で」と追加で伝えたので、多分、売値で金貨2枚分のを選んでくれているのだろう。

 

 アイテムボックスは、見た目はウエストポーチ。

 なんでボックスなのかと言えば、容量の説明が立方メートルだからだろう。

 計算するのに、立方体をイメージした方がやり易いのだから。

 まあ、適当にそう思った、程度のモンだけど。

 で、今回購入するコイツの容量が1000立方メートル。

 さらっと言っているが、中々に狂気的な容量だ。

 10メートル四方、高さも同じ空間に、どれ程の物を収納出来るのかを考えてみれば良い。

 俺の(リアルの)私物は、纏めて放り込んでもまだ余るだろう。

 そんな便利なアイテムの使い方と注意点(特に大きな物の収納方法と、生き物入れない、当然自分が入ろうとしない等)をレクチャーされて受け取り、教えられた通りに、サービス品諸共仕舞い込む。

 おお、そこそこの大荷物が一瞬でスッキリ。

 お支払いの金貨を数えている子供達やジェシカさんも、こちらの様子を見て歓声を上げている。

 

「あ、あと、コレもサービスしちゃう」

 金貨の確認が終わると、老婦人がなにか巻物(スクロール)をそっと差し出す。

「効果不明のスクロールで、ずーっと売れ残ってるの。コレもあげちゃう」

 ご婦人、素直なのは好感持てるが、要はゴミの処分でしょ。

 まあ、面白そうだし貰っときますが。

 そしてスクロールの存在にハッとした俺は、小声で尋ねる。

「あの、身体(からだ)を綺麗にする魔法を覚えられるスクロールとか、有ります?」

 ダメ元で聞いてみる。

 お風呂に(はい)れなくても、身体(からだ)を綺麗に保つ魔法は欲しい所だ。

 そもそもお風呂に(はい)れてないから、湯桶を借りて、濡らした手拭いで身体(カラダ)を拭き清めるくらいしか出来て無いんだし。

「あら、洗浄(クリーン)だったら私達が使えるから、大丈夫よ?」

 ジェシカさんの提案は有り難い。有り難いのだが。

「今後の依頼(クエスト)とかで、単独行(ソロ)とかあり得るでしょ。それに、覚えとけば便利っぽいし」

 ジェシカさんの反応のおかげで、身体(からだ)を綺麗に出来そうだと期待は高まる。

 じんわりとテンションを高める俺を置いて、考えながら売り場に出る老婦人。

 ゴソゴソとスクロール類を掻き集め、一纏めに抱えて持ってくる。

「生活に便利な魔法、色々有るわよ?」

 ニッコリ笑って、各種スクロールを広げてみせる。

 この人は、俺のようなズボラの扱いをよく理解(わか)っている……!

「全部下さい」

「毎度あり♪」

 都合金貨10枚を追加で支払い、此処での用は終了である。

 

 

 

 実は1回キリの使い捨てのスクロールだったらヤだな。

 そう思って、支払いの前に一応こっそり鑑定したら、ちゃんと「魔法を獲得できる」とあった。

 一応俺、ウィザードだし、使えるよね?

 不安はひとつ解消したと思っても次々出てくるので、俺はもう考えることを放棄。

 店を出た所で、全員にポーチを1個づつ手渡す。

「ん?」

 疑問顔ながら受け取るタイラーくん。

「俺1人で12個も使うわけ無いだろ、全員分だよ」

 そう言うと、歓声を上げる子供達。

 ……ジェシカさん、子供に混じって喜ばないで下さい。

 ……可愛いけど。

「残りは?」

「予備だよ。なんであわよくば2個みたいな期待持ってんだよ」

 タイラーくんの質問に食い気味で答える。

 甘いんだよフハハハハ。

「というわけで、入れ物ゲットしたので、必要な物買い集めますか」

 

 気を取り直したタイラーくんの案内で、4日分程度の食料の買い込み。

 食料は各々買うということで、思い思いに選んでいく。

 時間停止系のアイテムボックスなので、ある程度余分に買っても腐ることはない。

 うっかり存在を忘れて1年後に発見しても、新鮮さそのまま!

 問題は気分だけ!

 そういう素敵アイテムだから、どうやら食料を選ぶのも楽しいらしい。

 俺はオーソドックスに干し肉と、柔らかめのパンを選択。

 柔らかいパンは、環境ですぐ固くなるかカビが生えるから旅には適さないと言うが、そこはポーチ様様(さまさま)である。

 タイラーくんに至っては果物とかも買っている。

 森に行くのに? って、森の中に入るわけじゃないし、森だから果物が有るって訳じゃないか。

 結局3人で色々買って、目を離した隙に子供達も何か買い込んで、食材調達も完了。

 

 その他、なんかキャンプ用品らしきをタイラーくんの指示に従い購入、せっかくだし金貨も全部持って歩くと言う事で、一度宿へ向かいたいとジェシカさんから打診が。

 じゃあもう、今日から大部屋押さえちゃおう、って事でついでに子供達に宿から荷物を持ってこさせ、全員で「銀の馬の骨」へ。

 

 10人部屋と言う、普段は使っていないという部屋を7日押さえ、支払いを済ませて子供達に留守を任せる。

 金貨はみんなそれなりに持ってるし、危ない依頼(しごと)は受けなくて良いから、とか言ってる間に離れ難い気持ちに。

 最終的には業を煮やしたタイラーくんが俺を引きずり、大森林の探索ポイントを目指す。

 なんでも、地図とクリスタルを受け取っており、俺達の担当ポイントについたらクリスタルが光って教えてくれるらしい。

 

 え、なにそれ、なんかハイテク?

 

 そんな訳で大森林まで、(あいだ)で野宿1泊を挟んでの移動。

 歩くのは好きではないが、まあ、1人じゃないし。

 買い物で思わぬ時間を使ってしまったが、マイペースな者しか居ない我がパーティは、特に慌てもせず、移動を開始したのだった。

 

 

 

 行軍は散々である。

 歩くのは構わない。

 俺ひとりじゃないから気も紛れるし、気分が疲れなければ、肉体がそれに引きずられる事も無い。

 問題はそれ以外の部分。

 その、旅を、と言うか冒険をするには必須であろう作業が、もう本当に、俺と相性が悪い。

 

 何かって?

 狩りだよ、狩り。

 

 ウサギを見掛けたが、狩ろうと思えば(はい)になる。

 出力を、俺に出来る範囲で、思いつく限り最低出力に絞った心算(つもり)でも、収束魔力束(しゅうそくまりょくたば)ではウサギ相手には過剰だった。

 じゃあ魔力光弾(こうだん)、と思えば、こっちも思ったほど威力を押さえられず、どうやっても爆散。

 地面に当てて気絶を狙うと逃げられる。

 

 俺、そう言えば偏差撃ちどころか、そもそもエイム下手だったわ。

 

 ノービススキルなら、と試しても、ことごとく上手く行かない。

 魔踊舞刀(まようぶとう)の低威力冷凍斬りで何とか? というレベルである。

「この不器用女が。狩りもまともに出来んのか」

「うるっせぇなあ。脆すぎンだよ、ウサギがよぉ」

 険悪になる馬鹿2人に、見かねたジェシカさんがスリングショットで狩り成功。

 ジェシカさんの得物はアレなのか……そういや、クラス聞いてなかったな。

「あれくらいの手際を見せて欲しいもんだ」

「俺はどうも、細かいのは苦手らしいんだよ。粉砕とか焼却が得意なもんでな」

 コンチクショウめ、大物だったらなんとかなる、筈。

 ちょーっと自信が無いけど、多分、きっと、大物だったらなんとかなる。

 

 手加減の練習しとこう……。

 

 以降、見かけるウサギはタイラーくんとジェシカさんが仕留めていく。

 遠距離の攻撃手段をもつジェシカさんは兎も角、タイラーくんは肉体言語全開で、走り寄ってダガーで仕留める。

 

 え? おかしくね?

 なんで走って追いつけるの? なんでダガーなの?

 

「狩りとはこうやるんだ」

 いや、おかしいから。

 ドヤ顔は良いけど、お前の狩りもおかしいよ!?

 明らかにあのゴリラより(つよ)いぞコイツ。

 なんでBランクなん?

 冒険者ギルドのランクシステムに、盛大な疑問を抱える事になってしまった。

 

 

 

 どこまでも平原、そんな場所でキャンプ。

 多分そうなるだろうと言うタイラーくんの指示で、予めキャンプ用の薪を買っていたので、火の用意は簡単だった。

 歩きながらウサギの血抜きと言う荒業? 生活の知恵? の成果を見せつけられ感心したり、おっかなびっくりにウサギの解体を手伝ったり。

「お前、よく旅が出来たな? ここまで」

 と言われ、悔し紛れに移動はテレポートという魔法を使って居たから、野営は殆どしたことがないという、嘘だけど自慢できないトコだけホントという作り話をしたせいで、明日朝に実演する事になったり。

 

 色々とどうでも良い系のイベントを重ねつつ、焼いたウサギの肉とパンを食し、思いの外ご満悦の俺。

 キャンプグルメ?

 今日のなんて、作ってもらったのと買ってきたのが中心だから、感想言うくらいしか出来ること無いよ?

 あ、うん、美味しかったよ?

 

 そんな訳で、汗もかいたし、例のクリーンの魔法を始め、便利そうな魔法のスクロールを選び、使用していく。

 使用と言うか詠唱と言うか、広げたスクロールに書いてある文字を目で追うだけなのだが。

 何でも、魔法の才能がなければ幾らスクロールを広げても覚えることは無いという。

 じゃあ俺、魔法の才能有るのね、とか得意に成りかけたが、ウィザードのクラスだし、当たり前かと思い至る。

 うん、俺の「才能」じゃなくて、クラスの「恩恵」だった。

 生活魔法と言う(くく)りの魔法は、消費魔力も少ないので、余程の事がなければ誰でも使えるらしいし。

 どうせそんなこったろうと思いましたよ、ええ。

 で、早速覚えた魔法を試し、便利さにニマニマする俺。

 

 洗浄(クリーン)は対象選択で食器から身体(からだ)まで綺麗になる便利魔法だし、光明(ライト)の魔法でスクロールの文字も見やすい。

 

 で、覚えた魔法に全力で魔力注いだらそれなり強力になりそうだ、とかいう話をした流れで種火(スターター)はそのまま火魔法の基本だ、と言う、この世界の魔法の話を聞けたり。

 火起こしのつもりで覚えた魔法は、もしかしたら狩りに使えるかも知れないと、小さな期待を持ったりもした。

 そんな事を話ながら、時にタイラーくんの混ぜっ返しを交え、スクロールを眺め……魔法屋店主、パルマーさんのサービス品、妙なスクロールも一応覚えつつ……えっと? 効果はフレーバーテキストF仕様?

 何のことか判らんので、ヒマな時にでも試してみようと思う。

 今試したら、無駄に悩みが増えそうな予感がするし、取り敢えず後回し。

 そんな食事と雑談と、合間にスクロールでの学習を混じえ、夜は更けていく。

 

 

 

 交代しながら周囲警戒。

 均等に時間を配分すると言いながら、どうもこの2人は、俺の睡眠時間を多目に取ってくれたようだ。

 有り難いけど、無理しないでくれよ?

 

 最初に俺が見張りして、1順した所で、起こす頃には夜明け前だろう。

 見上げる星空が深い。

 

 当然のように、知っている星座はない。

 だからといって、広がる威容は褪せる事なく、俺という存在の矮小さを思い知らせてくれる。

 夜天に広がる星々は、傍らで燃え盛る薪の明かり程度では抗する事も出来ず、今にも降り注ぎそうな迫力を俺に見せつけていた。

 さて。

 俺は今、1人で考え込むという悪手を打っている気がする。

 なぜかと言えば、こういう時の考え事は、あんまりいい方向に転がらないからだ。

 この世界は、多分、俺の空想、夢だと思う。

 こうして時間の流れを感じるが、そう感じるほどに俺が「信じたい」夢なのだろう。

 

 だけど。もしも、万が一。

 

 ここが、リアルなもうひとつの世界だったら?

 

 馬鹿馬鹿しいとは思う。

 俺にとって都合の良い事が起こるこの世界が、現実なんて有り得ない。

 ウサギの解体の生々しい感触を思い出して、しかしそれすらも脳が錯覚を起こしているだけだと、そう思う。

 

 だけどもし、この世界がリアルなもので。

 俺がこの先、元の世界に戻るのか、この世界に居続けるのか。

 選ぶ事になるとしたら。

 

 夜が明けて、陽光が世界の輪郭をハッキリと切り分けていく時間になっても、答えは出てこなかった。




柄にもなく真面目に見上げる夜空。
おちゃらけてても、やっぱり不安。
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