時代背景にそぐわない言葉、描写が多々ありますがご容赦ください。
火がぱちぱちと燃える音に目が覚める。
体が痛い。
寝違えたのだろうか。
見ると見慣れた光景である自分のねぐらの洞穴であることがわかった。
普段と変わらない光景にほっとしかけたが、ふと火の後始末をし忘れたかと起き上がると、そこに見慣れぬ小さな影が目に留まり、
「おや、目が覚めたかい。そのまま死んじまったのかと思ったよ」
その影が話しかけてきて思い出す。
……あぁそうだ、私はこいつに負けたのだった。
~鬼と天狗はやっぱり仲良し~
私の名前は節(セツ)、黒い髪を肩口で切りそろえ山伏のような格好をしている。服の前についている白いボンボンがお気に入りだ。
背中にカラスのような黒い羽が生えているのでおそらく烏天狗という妖怪だろう。
いや、もしかすると別の何かなのかもしれないが、同じような黒い翼を持つ妖怪とは烏天狗としか出会っておらず判断材料が乏しいので、とりあえず烏天狗ということにしている。もし悪魔などだったらそれはそれで。
自分のことなのにえらく曖昧なのは、私の出自がはっきりしていないためである。気がついたらこの山にいたような気がしなくもない。もしかすると天魔か何かの血を引いているのではないかと思っていたりする。想像するのはタダなのである。
あと私について特筆すべきことといったらこの刀だろうか。これは人里から拝借してきたなまくらだ。
盗んでなどいない。たまたまそこに人がいなかったのだ。
弱いがために武器を持つ人間の武器をこうして強い私が持つことで、強くそしてかっこよくなるというわけだ。私はたいへん頭がよい。
誰に向かってかは分からないが、自己紹介はこのくらいにして最近困った事が起きている。
この小動物や弱小妖怪が巣くっている山に、角を頭から二本生やしたまるで鬼のようなやつがここ4、5日の間うろつくようになってしまったのだ。
最初はすぐに出て行くだろうと高をくくっていたが、その鬼のようなやつは何をするでもなくこの山に滞在し始めてしまったのである。
とりあえず相手を知ろうとよく観察してみるとそれは小さな女の姿をしていた。幼女である。
だが幼女と侮るなかれ、そこらの妖怪とは違い妖力がとても強いのだ。妖怪どもがビビッて息を潜めているおかげで今日も山が静かだ。
私?私はビビッているのではなく相手の出方を伺っているのだ。もう一度言う、ビビッてなどいない。
しかし、このままで良いはずがない。一応ここは私の縄張りのようなものだ。勝手に入られて我が物顔で歩かれたのでは烏天狗の名折れ。ここはひとつ私の実力を見せてやろう。
幼女を観察していた背の高い木から飛び立ち幼女の前に派手な砂煙を上げながら着地する。やはり何事も第一印象が大事であり、勝負の行く末を左右するといっても過言ではない。
「我こそはこの山の……かっ……ゴホッ」
「……大丈夫かい?」
なんということだ。自分で巻き上げた砂煙でむせてしまった。しかも敵に心配までされる始末。しかし、勝負はまだ始まってもいない。これはセーフだろう。
とりあえず咳が止まるまで幼女に手のひらを向け待ってもらう。
……なんとも微妙な空気になってしまった。
しかしめげてはいけない。
「この山に住む烏天狗、節だ。何の用でここに来たのだ」
「私は鬼の萃香ってんだ。特に用ってものはないけど、しいて言えば強い奴に会いに来たってところかな」
ほう、その強い奴とは私のことか。なかなかこの鬼は見る目がある。
この萃香と名乗ったこの鬼は袖のない服を着、亜麻色の髪を腰で一まとめにしている。そして、手首に玩具の積み木のようなものをぶら下げている。……何かが足りないと感じるのは気のせいだろうか?
「ここは私の縄張りだ、早々に出て行ってもらおうか」
「縄張りなんて小さいこと言ってないでもっと世界を大きく見たらどうだい」
「ふん、引く気がないのならここで叩き斬ってやる!」
今の台詞は敵っぽくてかっこよかった。満足。
……満足するだけではいかんと腰の刀を鞘から抜き上段に構える。そして、せいやと鬼に向かって斬りかかってゆく。
もちろん走るのではなく背の翼を使った跳躍である。この速さのおかげで今まで生きてこられたといってもいいだろう。
その辺の妖怪なら反応できない速さで跳んだはずだが見事に鬼の腕に受け止められた。……腕に受け止められた?
「ちょいと痛いがそんななまくらじゃあ私は斬れないねぇ」
おかえしだよ!という声とともに拳が飛んでくる。すんでのところで頭をそらし難を逃れるが、凄まじい風きり音が耳を襲ってきた。
なんだあのでたらめな膂力は!?あんなのをもらったら頭が体からおさらばしてしまう。
それにしても、いくらなまくらとはいえ腕で受け止めれるとは思わなかった。これ以上至近距離にいるのは危険と判断し急いで距離を置こうとするががすぐに鬼がついてくる。
「おっと待ちな!もっと楽しませてくれよ!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!」
私が寸前にいた場所に鬼の怪力が振るわれる。私の速さを持ってすれば鬼の拳など当たりはしない。
まぁこちらの攻撃も向こうには効かんのだがな。
さて、どう攻略しようか。
先ほどから何合も切り結んだが拮抗した状態が続いている。私の刀は鬼には通らないし、鬼の拳は私には届かない。お互いにどうしようかという空気が漂っている。
打開策がなければいけないのはお互い様らしく、鬼を見るとここいら一発で終わりにしようかという顔をしている。おそらく私も同じような表情をしているのだろう。
最初に斬りかかった時のように上段に構える。鬼もこれは受け止める気らしく身構えている。
「その澄ました顔を吹っ飛ばしてやるよ」
「言っていろ、すぐに刀の錆にしてくれる」
ちょっとした掛け合いの後、全力で鬼に向かって飛び出す。今まで生きてきた中で一番の速さが出たと自負できる。
刀と鬼の腕がぶつかり合った瞬間鬼が驚いたような顔になり、よろけた。ざまぁみろ、これが私の本気だ。
鬼がよろけている間にもう一度斬りこむ。これはさすがに受け止められないとふんだのか、避けて自身の身長より少し上にある私の顎を狙ってきた。しかし、無理な体勢から放った拳は思いのほか速さが出ていない。
……これはもらった。
すぐさま拳を避け、身を低くし手を振り上げた状態の鬼を見上げる体制になる。こちらも狙うは顎である。鬼のしまった!とでも言いたげな顔が気持ちいい。
そして一気に刀を振り上げる!
確かな手ごたえ、そしてガツンッという音と鮮血が舞う。目に映るは振り下ろした拳から血を流す鬼と折れた刀。そのことに驚く暇もなく体にめぐる激痛。
気がつくと地面に伏していた。背と腹の痛みが特にひどい。どうやら吹っ飛ばされて木か何かにぶつかったらしい。
目がかすむ。
鬼が近づいてくるのが分かる。このまま死んでなるものかと力を込めようとするが、口から血が出るだけで一向に体が言うことを聞かない。
そのまま闇が降りてきて私は意識を失った。
火がぱちぱちと燃える音に目が覚める。
体が痛い。
寝違えたのだろうか。
見ると見慣れた光景である自分のねぐらの洞穴であることがわかった。
普段と変わらない光景にほっとしかけたが、ふと火の後始末をし忘れたかと起き上がると、そこに見慣れぬ小さな影が目に留まり、
「おや、目が覚めたかい。そのまま死んじまったのかと思ったよ」
その影が話しかけてきて思い出す。
……あぁそうだ、私はこいつに負けたのだった。
「おい、なんで私はここにいるんだ?」
「そんなもん私が運んだからだろ?頭でも打ったのか?」
質問の意味が違うし、打ったのは背中だバカ。ちなみに打たれたのは腹だ。
「違う、どうして生かしたのかと聞いている」
「それはあんたがこんなちんけな山で終わるような玉に見えなかったからな。それに相棒も欲しかったんだ。一人旅は寂しいからな」
「ちょっとまて、なんだそれは。まるで私がお前についていくことが決定しているようではないか」
「負けた奴は勝った奴の言うことを聞くものさ」
鬼は当然といった顔だ。
……悔しいが反論できない。
「だいたい、旅ってなんのためにしてるんだ?探し物っていう風には見えないが」
「今のところは私より強い奴に会いに行くってところかな。ゆくゆくは山かどこかにに腰をすえて萃香様王国の誕生!ってのもいいかもしれないねぇ」
なんだそれは。こんな適当な奴に私は負けたのかと気が落ち込む。
「萃香様王国が完成したあかつきにはお前は第一の側近だな」
……ん?側近?
鬼の王に天狗の側近か……なかなかカッコいいかもしれない。いつの時代でも側近が一番強くて人気があり二枚目なのである。大陸かなんかの物語であった気がする。
……付いていってもいいかも知れない。いや、決して側近という響きに釣られたのではない。
萃香には何か惹かれるようなものがあったのだ。
きっとそうだ。
旅に出るといってもこの山にも別に思い入れとかはないからな。しいて言えばやたら弱っちぃのが集まっていたのが気になるくらいか。
しかし、このままほいほいついていくのも癪である。
「……ふん、その旅に付き合ってやらんこともない。だが勘違いするなよ、この山では私の強さについてこれなくなっただけだ」
とりあえず釘は刺しておくが、萃香はなんだそれと笑っていた、むかつくがまぁいいだろう。
しかし、旅に出るとなるとさすがにこのなまくらでは……あ゛。
「おい、まずは私の刀の調達からだぞ」
「にゃはは、そういえば折っちゃったねぇ」
「笑い事ではない、刀を手に入れるのは意外と大変なんだぞ」
あの時は運が良かったが、今度もうまくいくとは限らない。人里には妖怪を退治する専門家のようなものが基本的に常駐している。
一度追われたことがあるがあの鬼ごっこはもう二度とやりたくない。
「どうせ盗んだものだろう?また盗めばいいさ。私も手伝ってやるからさ」
「簡単に言ってくれるなよ、この羽では人里に入るのも難しいんだからな」
「まぁ最悪その辺から漁ればいいんじゃないかい?」
……その手があったか。気が付かなかったのはこの辺に帯刀した人間が少ないのがいけない。私は悪くない。
「とにかく明日は刀をどうにか手に入れるぞ。」
はいはいというやる気のない萃香の声を聞きながら、これから少し楽しくなるかもしれないと考えつつ今日に終わりを告げた。
……体が痛い。これは明日大丈夫か?
少しずつ書いていきます。