鬼と天狗はやっぱり仲良し   作:ぐおーん

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前回、お気に入りが50とか言っていましたが、なんともう5倍になってしまいました。ランキングとは恐ろしいものです。お気に入りに登録してくださった方々、どうもありがとうございます。


天狗

 

 

 

 朝になるのを待ち、萃香と共に変なものを持っている烏天狗を探すために、屋敷から北を目指す。しかし、天狗の特徴などは知らない上に、唯一の情報が、天狗の組織に属しているということだけだ。正直、見つかる気がしない。

 そもそも、組織といっても、天狗が集まって何をするというのだろう。普通、群れる生き物は人間などの弱い生き物であり、集団で狩りをするためだったりする。だが天狗は違う。天狗は強い妖怪だ。特に空においては負けを知らない。

 まぁ、その辺は向こうの天狗に聞いてみればいいだろう。なにか特別な事情があるのかもしれないし。

 

「そんな簡単には見つけられないと思ってはいたけどねぇ」

 

 いつものように、私に持たれている萃香が言う。たしかに、辺りに目をやっても、木、森、山である。とても目に優しい色をしているが、別に嬉しくない。この中に烏のような羽があっても気づけないだろう。

 どうして烏天狗は黒い羽なのだろうか。七色とかなら見つけやすいのに。そのことを萃香に言うと、とても嫌そうな顔をした。なぜだ、発想は悪くないと思うのだが。

 

 

 

 

 二人で山に目を凝らしていると、前方からすごい勢いで黒い何かが飛んでくるのが見えた。なんだろう、と警戒している間に黒いそれは、私達のすぐそばで風を巻き起こしながら急停止した。はた迷惑な奴だ。

 

「おやぁ、これはめずらしいですね。烏天狗が鬼を運んでいますよ?」

 

 丁寧だが、どこか馬鹿にした話し方だ。気に入らない話し方だった。

 私達の前に止まったのは、私と同じ山伏の格好をした烏天狗の少女だった。顔には声と同じく、人を小馬鹿にしたような笑顔を貼り付け、黒色の短い髪の上に頭巾(ときん)を被っている。頭巾からは左右に、私の服についているようなぼんぼんが、二つずつ紐で繋がっている。なるほど、ぼんぼんをこういう風に使ってもありかもしれない。だが、少し邪魔そうに見える。

 

「この辺では見ない顔ですねぇ。どこから来たんですか?」

 

 少女が懐から巻物と筆を取り出しながら尋ねてくる。空中でどう書くつもりなのだろうか。疑問に思いながら答える。

 

「ここから西のところだ。しゃめいなんたら、っていう烏天狗を探しに来た」

 

 話し方や顔が気に入らないので、自然と私も固い口調になる。仕方がないことだ。誰だって、気に入らないことがあれば不機嫌になる。

 こいつは風を操って巻物を固定しながら、筆を走らせていた腕の動きを唐突に止めた。いつのまに墨をつけたんだ。

 紙を固定できるほど器用に風を操れるのを、顔色一つ変えずに行うなんて、こいつは感に障るが、なかなかできる。

 萃香にあれはどうやってるのか聞かれるたので、それを教えてあげると、萃香は驚いたようだった。

 

「分かるのかい?」

 

 これでも烏天狗だ、風に関することなら、そんじゃそこらの妖怪には負けない自信がある。が、さすがにこんな風の使い方はできない。私にできるのは、せいぜい風を強く吹かす程度だろうか。

 そもそも風を操るとはどういうことなのだろう。私の場合は羽を使って風を起こすが、彼女はそれらしい動作をしないで風を動かしているように見える。もしかして、これも能力とやらなのだろうか。

 

「あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくし、清く正しい烏天狗の文(あや)と申します。以後お見知りおきを」

 

 言葉遣いだけは丁寧だが、敬意の欠片もない挨拶をされる。

 ……ご丁寧にどうもと、こちらも名乗る。自分で自分を清く正しいと言うのは恥ずかしくないのだろうか。

 指摘しようと思ったが止めた。恥ずかしく思っているなら言わないだろうと、当然の答えに行き着いたからだ。

 そんな質問よりも、もっと大事なことがある。

 

「お前はこの辺の天狗の集落を知っているか?」

 

 正直言って、あまり係わり合いになりたくない種類だ。だが、このままでも探し物が見つかるとは思えない。背は腹に変えられないというやつだ。

 文は貼り付けた笑みを変えずに答えた。

 

「えぇ、存じていますよ。私もそこの一員ですからね」

 

「それは良かった。そこまで案内を頼めるか?」

 

 思ったより話が進みそうだと、私が聞くと、文は筆の柄を顎に当てながら少し考えた後、頷いた。

 

「鬼を里に連れて行くのも面白いかもしれませんねぇ。いいでしょう、案内しますよ」

 

 なぜ、こうも一言余計に言うことができるのか。眉間に皺が寄るのを感じる。

 萃香の方を窺って見るが、とくに反応した様子はない。それどころか、どうした?とでも言いたげな顔で見上げてくる。

 どうしたではないだろう。鬼を見世物にしようと言っている様なものじゃないか。

 萃香が黙っているなら話も抉れるだろうし、一応は口を出さないが、胸の辺りが嫌な熱さを持ったようだった。

 

「それじゃあ、ちゃんと付いて来て下さいね」

 

 そう文は言うと、ゆっくりと北に飛び始めた。ちゃんと、と言うわりに遅い。馬鹿にしているのだろうか。こいつの行動一つ一つが鼻についてしかたがない。私はこんなにも沸点が低かっただろうか。いや、私が悪いのではない、こいつがむかつくのがいけないのだ。そう思うことにした。

 

 

 

 

 萃香を抱えて、のろのろとまた北に向かう。本当にこちらで合っているのだろうか。まさか、騙そうとしているんじゃないかと、こいつの顔を見ると思わずにはいられない。

 人の顔というものは、たしかに笑顔のほうが安心、信頼し易いのだろうと思っていた。だが、それは間違いだったらしい。

 

「節さんは何をしているんですか?その刀を見るところに、哨戒あたりだと思うのですが」

 

 私がそんなことを思っているのを知ってか知らずか、話の種にでもと思ったのだろう、そんなことを聞かれる。これは組織での、という話だろう。

 

「組織になんて属していないから、そんなものはない。むしろこちらが聞きたい、なぜ組織なんかに?」

 

 聞き返すと、文はぽかんといった表情を浮かべた。相変わらず私の顔の眉間には皺が寄ったままだ。

 

「なぜって、え?……あぁ、一匹狼ならぬ一匹天狗ですか。なかなかどうして、あなたたちは面白いですねぇ」

 

 またも懐から巻物を取り出しながらの発言だ。その巻物に何を書くのかは知らないが、酷く私の気分を害す、というのは確かだ。

 

「えぇと、なぜ組織作るのか、でしたっけ?そうですね、強いて言えば弱いからですかね。独りにこだわるなんて、それは一昔前の考え方ですよ?」

 

 なんの冗談だと思った。天狗が弱い?ふざけるのもいい加減にしてもらいたい。

 

「お前には天狗としての矜持はないのか?自分で弱いと言って、恥ずかしくないのか」

 

 文は今までの笑みを消し、代わりに目を細めて嘲笑に近いそれを顔に付けた。

 

「あなたは自分が強いとでも?天狗は慢心する妖怪だと相場は決まっていますが、あなたは少し驕りが過ぎませんかね」

 

 手のひらを天に向け、やれやれと言わんばかりだ。

 こうもあからさまだと、挑発だと分かっていてもくるものがある。

 

「……私はお前みたいな奴は嫌いだ」

 

「奇遇ですね、私もあなたのような人は嫌いですよ」

 

 ……あぁ、そうか。このまま話をしても無駄なのか。ならば、こいつに思い知らせてやればいい。そう考えるのが先だったか、体が動くのが先だったのかは分からない。

 萃香を左腕で抱きかかえ、右手で素早く抜刀する。だが、相手は速く後ろに下がり、避けられてしまった。斬ったのは手に持っていた巻物のみだ。

 

「怖い怖い。こちらは丸腰ですよ?」

 

「うるさい。それはお前の落ち度だ。私には関係ない」

 

 じりじりと目の前の天狗との間合いを詰める。向こうも警戒しているらしく、笑みは変わらないが、少し引きつったものになっていて、お互いにいつ動きだすかを計り合っている。

 辺りに張り詰めた空気が漂っていた。この空気に少しでも刺激があればそれが弾けて、すべてが動き出す。そんな緊張感があった。

 

「……二人とも少し頭を冷やしたらどうだい」

 

 いままで黙っていた萃香が口を挟む。

 求めていた刺激とは違った、静かな口調だったので、空気が弾けることはなかった。

 

「だってこいつが……」

「それはこの人が……」

 

 今度は計らずとも同時に反論してしまい、お互いに口が詰まってしまう。

 くそっ、なんでこんなやつと……、そう思いながら文を睨む。向こうも同じようで、こちらを睨んでいた。

 萃香はそんな二人を見て、一度ため息をついた。

 

「節、頭にきたからって、すぐに刀で訴えかけるのはどうかと思うぞ、それに戦いが得手じゃない奴に勝って嬉しいか?」

 

 そこで一呼吸を置いた。

 

「あんたにしてもそうだ、なんでもかんでも煽るもんじゃない。節とやり合ったって、あんたがまずいことぐらい分かっているだろうに」

 

 萃香がそこまで言い切ると、私も文も黙ってしまった。もちろん睨み合ったままだ。

 萃香から見て、文は戦いが得意ではないとはどういうことだろう。あの身の動きの速さから見るになかなかのものだと思うのだが。

 

「それに、ここは天狗の住処の近くだ。ここで事を起こすのはよくないんじゃないかい」

 

 ……たしかに、ここで騒げばすぐにこいつの仲間が駆けつけてくるのだろう。そうなれば多勢に無勢、少し厄介かもしれない。

 あぁ、たしかに組織と言うのはこういうときに役に立つ。だが、それで勝ったとしても、私は自分の不甲斐なさを許せないだろう。多数で囲むやり方は私は好きではない。やはり、強きものは群れるべきではないのだろう。

 

 

 ここは萃香に免じて許してやろうと、刀を鞘に納める。

 文も萃香の言に納得したのか、戸惑った顔を少し見せた後、あの人を小馬鹿にした笑顔に戻った。

 しかし解せないのは、萃香の最後の言葉は二人に向けられた言葉だった、ということだ。私に対しては敵の応援が駆けつけてくるから、という意味であることは分かるが、文にとって、それがどうまずいのかが分からない。あの一瞬の戸惑った顔も謎である。

 

「白黒つけたいなら、もっと穏便なことにしなよ」

 

 萃香の声にはどこか呆れが含まれているように感じた。

 穏便なこと……何があるだろうか。

 

「では、速さで勝負するのはどうでしょうか」

 

 文の提案だ。

 ……悪くない。飛行の速さなら私も自信がある。これは相手も相当に自信があるのだろう。小馬鹿にした笑みではなく、好戦的な表情に変わっている。

 相手の得意な方法で叩き潰してやるというのも、それはそれで趣がある。

 

「いいだろう、お前のその嫌らしい顔を崩してやる」

 

「言いますねぇ、あなたの天狗の鼻がへし折れるのが先じゃないですか」

 

 私たちは再び睨み合いをすることとなった。

 萃香は、再びため息をついていた。

 

 

 




文ちゃん登場です。性格を可愛らしいものか、嫌らしいもののどちらを前面に出そうかと迷った結果、こうなりました。
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