鬼と天狗はやっぱり仲良し   作:ぐおーん

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登山

 

 

 私と萃香が足を踏みれた山は、木が生い茂っていたが、なぜか木に傷がついていた。何かがぶつかったかしたようなものばかりだ。

 それは奥に進むほど多く見かけるようになった。何がこの森で暴れているのだろうか。ただの動物だとは思えないが。

 

「これは鬼がいるねぇ」

 

 前を歩いていた萃香が言う。

 

「鬼が?萃香じゃなくてか?」

 

「ああ、さすがに同族の妖気は分かるからね」

 

 さらに、自分の妖気を勘違いなんてしないよと加えた。

 そういうものなのだろうか。私には天狗の妖気が分かる気がしないが。

 そんなことを話しながら山を進んでいくと、

 

「おい、お前らここがどこだか分かってんのか?」

 

 と、前からガラの悪い声が聞こえてきた。その声に合わせて足を止める。

 男の鬼がいた。萃香に比べると随分短い角だが、額から2本生えている。体は筋肉質で、非常にがたいが良い。これでもかと鬼の風貌をしている。さすがに雷模様の腰巻はしていないが。もしそんなものを履いていたら、笑いを堪えるのに苦労していただろう。

 

 ほらなという目で萃香がこちらを見てくる。そんな目で見られても反応に困る。それより鬼の相手をしてやれ。心なしか鬼の額に青筋が浮かんだような気がするぞ。

 ……しかたないから私が鬼の相手をしてやろう。

 

「知らんな、ここはお前の山なのか?」

 

「馬鹿言っちゃいけねぇよ、そんな失礼なこと言えるかよ。ここは星熊の姐さんの山だぜ」

 

 どうやらここは"星熊の姐さん"の山らしい。鬼が従っているところをみると、その"姐さん"も鬼なのだろうか。

 

「しかしまぁ、たった二人で姐さんの山を攻めてくるとはいい度胸だ」

 

「でも、その姐さんもたいしたことなさそうだね、お前みたいな弱そうなのが配下なんだから」

 

 鬼が続けると、萃香が煽る。すぐに鬼がなんだと!と、怒りをあらわにしてきた。随分と沸点が低い鬼だ。私のように寛大な心を持ったほうがいい。

 鬼は顔を赤くしながら、矛先をこちらに向けてきた。

 

「お前なんて軟弱な烏天狗なんぞ連れてるじゃねぇか!」

 

 なんだと。早速この刀の切れ味を試すときが来たようだな。この鬼に烏天狗を馬鹿にしたことを後悔させてやる。

 萃香はおぉ、言うねーなどと笑っている。

 

「萃香、お前は大将戦まで控えておけ。前哨戦は任せろ」

 

 腰に付けた刀を抜きながら萃香の前に出る。かっこいいねぇと応援(?)の声を背に受けて、鬼と相対する。鬼も相当やる気のようだ。

 

 ……この勝負、一瞬でかたをつけてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は、鬼がこちらに向けて殴りかかって来ることから始まった。真っ直ぐに走ってくる。が、そんな愚直な狙いで何を捕らえると言うのだろう。そしてなにより遅すぎる。鬼というのもピンきりのようだ。萃香のようなのがごろごろいられてもそれはそれで困るが。

 

 刀を上段に構え、翼を使い一気に鬼に肉薄する。速いなどと驚いている鬼の脇をすり抜けるようにして斬りつける。ふん、お前が遅すぎるのだ。

 すり抜けた後ろで何かが落ちる音と鬼の絶叫が聞こえる。なんて柔い。いや、私の腕が良過ぎるのだな、うん。

 天狗を侮辱した代償を、腕の一本だけで済ますとは私はとても優しい。それに、鬼が腕の一本や二本で死ぬとは思えん。

 刀を一振りして血振りする。が、一回では綺麗にならず、何回も振る。

 どうにもかっこよくいかないものだ。

 

 騒ぎを聞きつけたのか、ほかの鬼がそこらじゅうから沸いて出てきた。さすがに萃香とは違い、伊達に山を一つ仕切っている鬼ではなく、部下が一人という事はないようだ。

 集まってきた鬼の一人に狙いをつけて飛ぶ。そして、そのまま鬼の顔に蹴りを叩き込む。

 鬼は木に激突してぺしゃりと地に落ちた。なるほどこうやって木に傷がついていくのか。なんだか少し木に申し訳ない。

 こちらを認識した鬼達がこちらを取り囲むように戦闘態勢をとってきた。

 

「これ以上よそ者に好き勝手させてたまるか!」

 

「相手はただの天狗だ!さっさとやっちまおう!」

 

「そこだー!やっちまえー!」

 

 鬼達がうるさい。ちなみに最後のは萃香だ。

 

「雑魚は集まっても雑魚だということを教えてやろう!」

 

 そんな敵役のような台詞を吐きながら鬼の群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、手間を掛けさせてくれる」

 

「完全に私達が悪役みたいだったねぇ」

 

 物語の中では鬼が悪役と決まっている。こちらにも鬼はいるが、私は天狗だ。それにどう考えても弱いほうが悪いのだ。弱肉強食の世の中である。

 集まってきた鬼は、最初に出会った鬼と同様にあまり強くなかった。このまま行けば大将もあまり強くはないと思うのだが。萃香はそうは思ってないらしく、軽口は叩くが顔は真剣そのものだ。

 やはり、鬼の第六感のようなものが反応しているのだろう。なんだかずるい。天狗にもそういったものはないのだろうか。

 ……集中してみても何も分からなかった。ただ、山頂に一つ大きめの妖気があることくらいか。さすがに離れすぎていてどのくらいの大きさなのか分からない。

 

「そんなに山頂のは強そうなのか?」

 

「あぁ、結構な大物の匂いがするねぇ、これは期待大だね」

 

 萃香が言うのなら、たぶんそうなのだろう。

 山頂までまだ幾らかあるので、鬼の言っていた"星熊の姐さん"とやらを想像してみる。最初は鬼の頭なのだから鬼だと思っていたが、天狗の上が鬼という例がすぐ身近にあることに気づいた。

 星熊というのは名前ではなく種族の名前かもしれない。……星の形をした熊か。なんだか落書きみたいなやつだな。

 いや、星のように小さく光っている熊かもしれない。……それは熊と言えるのだろうか?

 萃香に聞いてみる。

 

「星の形をした熊か、小さく輝いてる熊、どっちだと思う?」

 

「……それは何の話だい?」

 

 萃香は何言ってんだとでも言いたげな顔をしている。

 

「山頂のやつ。どんなのなんだろうなって気になって」

 

「何言ってるんだい、山頂にいるのは鬼だよ。それに、そんな変な熊なんていないよ」

 

 口に出して言われてしまった。

 やはり、山頂のは鬼だったか。はじめに予想した通りだったな。

 誰だ、星の形をした熊だとか言った奴は。そんな変なのがいるわけないだろう。

 一人で憤慨していると、ふと萃香に聞きたいことがあったんだと思い出した。山だとか鬼だとか言っていたせいだ。

 

「そういえば、萃香ほどの力があれば、山ももう持てるんじゃないのか?なんで旅なんてしてるんだ?山にどっしり構えていれば強い奴なんて集まってくるだろ。私達みたいに」

 

「んー、あー、それはだな……」

 

 なんだか歯切れが悪い。何か言えない様な事情でもあるのだろうか。

 

「その、なんだ、追い出されたんだよ。山を」

 

 恥ずかしいことを言うような、つらいことを思い出すような、いろいろと複雑な感情を乗せて言った。

 

「追い出された?誰に?」

 

 当然の質問をする。

 

「……鬼にだよ」

 

「鬼?」

 

「あぁ、いや、この話はおしまいだよ。でっかいのを前にこんな辛気臭い話なんてするもんじゃない」

 

 この話は辛気臭かったらしい。

 

「それに、女には一つや二つ謎があったほうが魅力的なのさ」

 

 幼女が何を言うか。それと、私に魅力的に見せてどうする。私にその気はないぞ。

 それっきり萃香は黙って山を登り始めてしまった。待ってくれ、早い。

 

 謎があったほうが魅力的か……。何か謎でも作ろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている内に、山頂に着いてしまった。

 山頂には額から一本赤い角を生やした鬼が大きな岩に座っていた。角には黄色く塗りつぶされた五芒星が付いている。あれが星熊の由来だろうか?熊はどこに行った。

 この鬼もでかい図体をしている。私より二周りほど大きい。萃香と並んだらすごそうだ。

 袖が半分以下で、袖口に赤く刺繍がしてある上着に、足首まで来るくらいの赤地に黄色い線が入っていてひらひらしている着物?のようなものを履いている。

 その鬼は大きな盃でなにかを飲んでいた。酒だろうか。

 だが、なによりもその鬼の中で目を引いたのは二つのたわわに実った果実である。胸だ、おっぱいだ。

 萃香と二人でそこに釘付けになってしまった。星熊の姐さんが不快そうな顔をしてもお構いなしだ。

 二人で自分の胸に手を当ててみる。……私も鬼に生まれたかったな。いや、鬼にも萃香みたいのもいるのか。私達の胸は非常に控えめであった。

 

「いきなり人のことをじろじろと不愉快なやつらだね」

 

「む、不愉快なのはそちらの胸だろう。こっちはこんなにも謙虚だと言うのに」

 

「そりゃ悪かったね、これは生まれつきさ」

 

 まったく悪びれる様子がない。

 これは代理戦争といっても過言でないだろう。私達の内なる闘志はめらめらと燃えている。

 

「そんなことより、下の奴らを蹴散らしたのはあんた等かい?」

 

「あぁ、そうだ。ぜんぜん大したことなかったけどな」

 

 少し挑発気味に言ったが、そうかい、と反応が薄い。

 

「あれはお前の部下じゃないのか?」

 

「勝手についてきてただけだからね。でも、姐さん姐さんと慕ってきてくれたんだ、少しはあいつらのために戦ってやろうかね」

 

 鬼が岩から降りながらながら続ける。

 

「まずは自己紹介でもしようかね。私は、あー、一応この山の頭ってところかね、星熊勇儀ってんだ」

 

「私は見ての通り鬼の萃香だ!あとこいつは部下の節だ」

 

 いつのまにか私は部下になっていたらしい。いや、部下で合ってるのか?……後で萃香と相談だな。

 

「よーし、節は下がってな。ここは鬼同士のぶつかり合いだ!」

 

「ほぅ、二人でかかって来てもいいんだぞ」

 

「負けたときの言い訳に使われたくないからね」

 

「あっはっは、そんなことはしないがね。一対一の真剣勝負だ、楽しんでいこうか!」

 

 よっしゃあぶっ飛ばしてやる、とか叫びながら萃香と勇儀が殴り合いを始めてしまった。

 鬼同士で盛り上がってきてしまって、正直つまらない。

 その辺に落ちているどんぐりを食べながら観戦することにした。うまい。これはあたりだな。椎の実かもしれんが、そのへんはよく分からん。

 それにしても、あんなに殴り殴られしているのに、なぜ平気そうなんだろうか。私だったらすぐにバラバラになってしまいそうだ。

 途中、勇儀が萃香に引き寄せられる様に変にふらついていたが、あれは萃香の能力だろうか。確か集める能力だとか言っていたが、あんな風にも使えるのか。

 萃香はどうやって能力を手に入れたのだろうか。私も何かしら欲しい。せめて、修行かなんかで手に入れるものなのか、それとも先天的なものなのかくらいは知りたい。できれば修行はしたくない。私には才能があると信じて待ってみよう。果報は寝て待てと言うし、人間もたまにはいいことを言う。

 そんなことを妄想しながら、たまにこちらに吹っ飛んでくる萃香を避けたり、受け止めたりしながら勝負の行方を見守った。

 

 ……早く終わらないかな。

 

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