鬼と天狗はやっぱり仲良し   作:ぐおーん

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GL表現があります。ご注意ください。


酒呑

 

 

 結局、鬼同士の勝負は引き分けに終わったようだ。なんでも勇儀の奥義がどうとか、萃香が打ち破ったとか、正直気分が高揚していた二人の説明ではよく分からなかった。

 さすがに一昼夜見続けられるほど、私は睡眠欲に対して強くはない。木の上で寝ていたら、何故か仲良くなっていた二人に起こされた。正確には木から落とされた、だが。

 周りを見ると、もう日が落ちかかっていた。随分と長い勝負だったようだ。私は少し寝すぎた気がする。

 

 鬼同士の友情がなんとか言って、どうも勇儀がご馳走してくれるらしい。私は天狗だが。

 勇儀がいつも寝床に使っているらしい洞穴に付いて行き、三人で起こした火を囲むように座り、そこで勇儀がどこからか徳利を取り出した。

 私は初めて酒というものを見た。いや、知識としては人間が飲んでいたものだということは知っていた。萃香も物珍しげにしているところを見るに、どうやら萃香も初めてらしい。

 勇儀が驚いたように言う。

 

「おや?酒は始めてかい?鬼と天狗にしては珍しいねぇ」

 

 鬼と天狗は酒を飲んでいるのが普通なのか?どうもピンとこない。そんなに酒というのは美味いのだろうか。美味いものは好きだ。

 萃香と顔を見合わせてみると、萃香も似たようなことを思っているらしい。

 

「ま、何事も経験だ。とりあえず飲んでみな」

 

 腰を下ろした勇儀にほらと盃を勧められる。もう一度萃香と顔を見合わせて恐々と口に酒を運んだ。

 ……苦い……のか?のどを通る酒の感覚は悪くないが、その後胃の辺りががっと熱くなる。体の中から酒が空気になって出てきているような感じがする。くさい。

 正直、あまり好みではない。少し飲んだら咽てしまう。

 これを天狗が好きなはずがないぞと、勇儀に抗議の声を上げようとすると、すぐ隣から先に声が出た。

 

「これは美味しいね、鬼っていうのはいつもこういうの飲んでるのかい?」

 

 どうやら萃香は気に入ったらしい。えっ?と言う顔を萃香に向けると、えっ?という顔を返された。

 

「節は気に入らなかったかい?こんなに美味いのに」

 

「うーん、苦味というか何と言うか……」

 

「この味が分からないなんて、節は子供だねぇ」

 

 ……なんか納得がいかない。もう一度口に含んでみるが、やっぱり好きにはなれない味だ。これが大人の味なのか?

 

「まぁ、合う合わないがあるからな。無理して飲むことはないさ」

 

 勇儀がそう言ってくれるが、そういうものなのだろうか。萃香はずっと酒を幸せそうに飲んでいる。ああもいい飲みっぷりを見るとやはり美味しいのではないかと思うが、酒のにおいが漂ってくると、あぁそういう味だったと、すぐに思い直してしまう。

 しばらく盃の酒に映った自分と睨めっこしていると、そばで変化が起きた。

 萃香がいきなり意味不明なことを言い出したのだ。

 

「あれ?節はいつまに分身なんて覚えたんだ?」

 

 は?何を言っているんだ?

 

「おい萃香、大丈夫か?私は一人だぞ」

 

「あっ!勇儀も増えだした!よーし私も増えちゃうぞー」

 

 本当に何を言っているんだ。見ると萃香の顔が赤い。それと、目が虚ろになっている。

 いつもふざけているようには見えるが、ここまでのは見たことはなかった。

 声が聞こえ勇儀の方を見ると、大口を開けて笑っていた。

 

「勇儀!お前萃香に何を飲ませた!」

 

 酒は毒だったとでもいうのか。この鬼は意外と汚い。

 すぐにでも抜刀できるようにと片膝で構える。

 萃香と互角の鬼だ、私に倒せるだろうか。いや、ここは萃香を抱いて脱出するのが得策か。

 

「あぁ、そうか、酒を知らないんじゃあ酔うって事もしらないのか」

 

 身構えているこちらを尻目に、なにやら勇儀は一人で納得しているようだ。

 

「これは酔うっていってな、酒を飲むとこう……気分がよくなってきてな、まぁ毒とかそういうんじゃないから安心しなよ。明日には元に戻ってるさ」

 

 本当だろうか?注意深く観察して見る。悪意を持っていないというのは分かるが……。

 と、突然腹に何かが突っ込んで来た。

 萃香だった。片膝で座っている私の腹に抱きつくような形になっている。

 

「せーつー、どうしたー?そんなにピリピリしてぇー」

 

 妙に間延びした声になんだか気が削がれてしまう。

 勇儀は相変わらず酒を飲みながら笑っている。

 

「な?そんなに心配するこたぁないさ」

 

 ……そうかもしれない。

 足を崩して、萃香の頭をなでながらこんなにも心配していた自分に驚いてもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく酔って抱きついてきている萃香とじゃれていたら、勇儀が語りだした。

 

「それにしても萃香はそんなに小さいのにやたら強かったなぁ」

 

「……妖怪の強さに大きさなんてそんなに関係ないんじゃないか?」

 

 実際に萃香みたいのがいるわけだしな。それに、大きさで強さが決まるなんてたまったもんじゃない。最初から上限があるみたいじゃないか。夢がなさ過ぎる。

 

「たしかに妖怪という括りでみたらそうかもしれないが、こと鬼っていう種族でみると、大きいほうが強いんだ。いや、強い傾向があるって言ったほうが正しいな」

 

 萃香という例外がいるしな、と勇儀は付け加えた。

 その例外の萃香を見ると寝息を立てているようだ。人の膝の上でいいご身分だ。

 

「もっと言うと、鬼は大きくないといけないんだ。それが鬼らしいからな」

 

 大きくないといけない?なんだかおかしな発言だ。

 

「確かに大きいほうが鬼らしいとは思うけど、いけないってことはないんじゃないか?さすがに個人差があるだろう」

 

「鬼は、そのらしさを一番に考える種族なんだよ。本能ってやつかね。大きいほうが鬼らしい、強いほうが鬼らしいってね」

 

 本能……。そういうのはよく分からない。何かを食べたいとか、寝たいとかいう気持ちと一緒だろうか。

 

「そのらしさってやつは、誰が考えたものなんだ?それを変えればいい話じゃないか」

 

「さてね……鬼ってのは頭の悪い種族でね、一度根付いた考え方ってやつは中々変えられるもんじゃないだ。それも代々引き継いでいるようなものだしね」

 

 もしかしたら萃香が山を追い出されたのは、体が小さいからか?あんなに強いのに。

 ……逆に、あんなに強いのに小さいから、何か嫉妬のようなものを受けたのかもしれない。鬼の全部が全部、勇儀みたいに拳の友情だの言うようには思えんからな。

 強いもの探しも、自分は強いんだと証明するためにしているのかもしれない。

 ……ふん、鬼というものは中々にめんどくさい種族だ。角さえあれば鬼みたいなものなのに。

 

「なら、その変ならしさにこだわって、萃香を認めない鬼は私が叩き斬ってやる。」

 

「……鬼が萃香だけになったらどうするんだ?認めるも何もなくなるぞ」

 

「それなら鬼が萃香だ、萃香が鬼だ。らしさも萃香が考えればいい。後のことは後になってから考えればいい。何の問題もない」

 

「ふっ、あっはっは。そうか、そういう考え方もあるな。いやぁ、萃香もお前みたいなのが部下ならなんの心配もいらんだろう」

 

 当たり前だ。私を誰だと思っている。なぁ萃香?

 心の中で語りかけただけのつもりだったが、まるで聞こえたかのように、がばっと萃香が起き上がった。

 酒のせいなのか顔が先ほどより赤い。心なしか涙目になっている。本当に大丈夫なのだろうか。

 萃香は何かを探すようにキョロキョロして、酒の入った大き目の徳利を掴むと、

 

「節もいっぱい飲んだほうがいいぞー」

 

 と言いながら口に酒を飲んだと思ったら、いきなり萃香の顔が目の前にあった。

 口に柔らかいものを感じたと同時に口の中に酒が入り込んでくる。喉を酒が通っていくのがやたらと遅く感じる。十秒、二十秒、もっと長かったか、いや実際は短かったのか?頭がうまく働かない。

 勇儀が何か言っているようだったが聴きとれない。すべてが雑音になってしまった。

 萃香の顔がゆっくりと離れる。萃香の顔は真っ赤になっている。顔が熱い。

 萃香はえへへと笑いながら、また私に抱きついてきた。

 飲んだ酒は非常に甘かった。

 勇儀がしゃべったのか、

 

「この愛情表現の過激さも鬼らしいってことで」

 

 という言葉を最後に私の記憶は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……頭が痛い。酒が頭に溜まっているような感覚だ。

 洞穴に朝日が入り込んでいて眩しい。どうも朝まで寝ていたようだ。

 たしか勇儀に酒を奢ってもらって、萃香が酔い始めて寝ちゃったんだっけ?で、その後勇儀と話して、それから……!

 昨日のことが鮮明に思い出されて、跳ね起きる。

 

「どうだい?よく眠れたか?」

 

 萃香が話しかけてくるが、こちらとは目を合わせてくれない。顔を見ると真っ赤だ。おそらく私も同じように真っ赤なのだろう。

 

「なんだい、二人とも初夜みたいな反応して」

 

「しょ、初夜!?」

 

 思わず声が出た。しかも萃香と一緒に。

 勇儀はニヤニヤとしていた。

 

「そ、そんなことより、あれだ。私達は強い奴の情報を探してたんだ。何か知らないかい?」

 

 萃香がわたわたしながら早口で言い立てた。がんばれ。

 勇儀はこちらをからかう様な笑みを浮かべながら答えてくれた。むかつく。

 

「自慢じゃないが、ここら辺で私より強い奴はいないね。」

 

 なんだ、役に立たないやつめ。

 

「だが、おもしろい噂なら聞いたことがあるぞ。なんでも絶対にありえない八つ手を持っている烏天狗がいるらしい。で、そいつがとんでもなく速いって話だ」

 

 八つ手?何で植物なんて天狗が持ってるんだ?

 

「確かに天狗は八つ手持ってるのが多いかもね。でも、絶対ありえないってなんだ?」

 

 萃香の中では天狗は八つ手を持っているものらしい。何に使うのだろうか。扇ぐとか?

 

「そこまでは知らないね。……あとはそうだな、すごい美女が求婚をずっと断っているって話も聞いたな。帝もその美貌に動いたらしい。しかも竹から生まれたとかなんとか」

 

 酒のつまみにでもどうだ?と勇儀は勧めてきた。そんなものが酒に合うのだろうか。

 

「へぇ、じゃぁ近いところから周って見るかな。なぁ、節?」

 

 美女と酒をどう組み合わせれば美味しくなるのかを考えていたところに急に話を振られ、おざなりな肯定の返事をしてしまう。

 そういえば、最後に飲んだ酒は美味かったな、と思いまた顔が赤くなりそうになる。

 

「場所については、天狗の方はさっぱりだ。美女については、ここから西に行ったところの竹林だ。詳しい場所は分からんが、それだけ有名なら自ずと分かるだろ」

 

「よしっ!向かう場所も決まったし、行くぞ、節!」

 

 またなーと言っている勇儀に手を振りながら、元気に言う萃香に引っ張られるように洞穴を出る。

 なんというか、鬼にやたらと詳しくなったような気がする時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこにその竹林があるかが分からないとのことなので、また私が萃香を持って飛ぶことになった。

 空から見たほうが見つかりやすいかもしれないからな。

 朝日に目を細めながら飛んでいると、下に抱いていた萃香が口を開いた。

 

「昨日はありがとな、あんなこと言ってくれたのは節が初めてだったよ」

 

 あの時起きていたのかという驚きと、やっぱり起きていたのかと言う納得の感情が半々だった。

 

「私は鬼みたいに頭が悪いからな、角が生えていればみんな鬼に見える」

 

 ここからだと萃香の表情は見えないが、そっかと笑ったような気がした。

 萃香を抱く力を少し強くしてから、翼をはためかし西へと続く空の道を飛んでいった。

 

 

 

 

 




正直、主人公は男でもよかったかもと思い始める今日この頃。
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