鬼と天狗はやっぱり仲良し   作:ぐおーん

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 ここから、とんでも平安時代に突入します。史実とは時間、場所、人物など、またその名称が異なります。解釈によっては奈良時代も含まれています。


竹姫

 

 

 竹が生い茂る森を進むと、一軒の屋敷が見えてきた。ここが例の美女がいる家なのだろうか。思っていたよりもずっと質素な造りだ。

 それにしても、この辺りはとても静かだ。求婚だのなんだの聞いていたので、もっと人が多い華やかなところにあるのだと考えていた。……いや、華やかな竹林と言うのもなんか変だな?あれ?

 遠くからだが屋敷の正面まで来た。意外にも人が周りにいない。最低でも護衛がいるものだと思っていたが。

 

「人がいないな」

 

「場所を間違ったかな?」

 

 半信半疑で萃香と遠巻きに屋敷をぐるっと回って見てみる。縁側に人がいた。さらりとして腰まで伸びた黒髪に、赤を基調にした十二単を着ている。なにかを憂うような黒い瞳がまさに深窓の令嬢と呼ぶに相応しい美しさだった。

 だが、美女というよりは美少女と言ったほうがしっくりくるような見た目だった。

 

「あれが噂の美女なのか?思っていたより幼いんだが」

 

 萃香に聞いてみる。

 

「うーん、噂ってのは意外とあてにならないからね」

 

 あれは本当に竹の姫なのかと話しながら美少女を観察していると、しきりにため息をついていた。そういえば望まぬ婚約をさせられそうだと紫が言っていたな。

 

「なんだか物語みたいだな」

 

 それだけしか言わなかったが萃香にはちゃんと伝わったらしい。

 

「こういうときは王子様が来て掻っ攫っていくのが様式美なんだがね、はてさてこれは現実だ」

 

 難しいもんだね、とこちらもため息をつく。掻っ攫うのは何か違う気がする。

 確かに同じ女としてなんとかしてやりたいが、これは人間同士のやりとりだ。妖怪が顔を突っ込む話ではないだろう。それに帝が狙っている女だ、下手にさらったりしたらそれこそ後が怖すぎる。

 

「まぁ、せっかくここまで来たんだ、もっと近くで見てみないかい?」

 

 萃香に提案され、それもそうだと思い、どう近づこうかと考える。真っ直ぐに近づいたらすぐに見つかってしまうからなぁ。

 やはり上からが一番見つかりにくいだろうか。

 萃香を前の時のように抱えて飛び、見つからないように縁側の上の屋根に降り立つ。

 ……見えない。縁側のところの屋根は低めになっているため、顔を出すともろに見つかってしまう。別に見つかってもいいじゃないかとも思うが、騒がれたりしたら厄介だ。ここはもう少し慎重に行こう。

 萃香と屋根の上でどうするべきか、うんうんと考えていると、

 

「うーん、困ったわねぇ。早く何か手を打たないとかしら」

 

 そんな声が下から聞こえてきた。おっ、と思い萃香と二人で屋根の縁に近づき耳を澄ませる。

 

「あんなもの見つかるはず無いのに……。難題と言えばあの天狗も変な八つ手持ってたわね。あれにすれば良かったかしら」

 

 まさか、ここでその情報が得られるとは思わなかった。それにしても、天狗と会ったことに対する恐れのような感情が読み取れない。これはいけるんじゃないか?

 

「その話、詳しく話してもらおうか」

 

 言いながら、縁側の前に降りる。そのときに翼をいつもより大げさにはためかせるのを忘れない。何事も初めが肝心である。たっぷり5秒ほど滞空してから着地する。その間に萃香はぽろっと降りていた。

 

「あら、天狗に鬼が私に何の用かしら?」

 

「先ほどの天狗の話をしてもらいたい」

 

「天狗が天狗の話を聞きたいだなんて可笑しな話ね」

 

 話が進まない。

 

「じゃあ、私の難題に答えられたら教えてあげてもいいわよ」

 

「難題?」

 

「ええ、今こちらに向かっている貴族がいるのだけど、その貴族が持っているものを奪って欲しいのよ」

 

 奪うとはまた物騒な。目の前のお淑やかそうな少女の発想とは思えない。

 

「それにいたる経緯ぐらい教えてくれてもいいじゃないのかい」

 

「それもそうね、どこから話そうかしら?」

 

 そう言って、彼女は話し始めた……

 

 

 

 

 

「要するに、結婚したくないから男どもにありえない物を取って来るように無理難題を押し付けたら、本当に持ち帰ってきちゃったかもしれないってことだろ」

 

 萃香がまとめてくれた。

 ああ、そういうことなのか。てっきり、屁理屈をこねて相手の持ってきた物にけちをつけて、突っぱねているのかと思ったが、それよりも悪どい。いや、偽物を持ってくる方も悪いのか?

 

「正直、そのくらもちの皇子ってのはどうなんだ?そんなに嫌なのかい?」

 

「特別他の貴族と比べて嫌な訳じゃないんだけど、ただ、今回の縁談はおじい様の顔を立てる意味で受けて、体よく断るために難題を出しているから……」

 

 おじい様とは、竹から生まれた少女をここまで育ててくれた方らしい。竹から生まれた人を育てるなんて随分と奇特な人だ。私だったらそこまではしないだろう。しかし、育ての親というものにそこまで義理立てするものなのだろうか?親のいない私には分からないことだった。

 

「それなら、今までみたいに難癖つけて追い返せばいいんじゃないのかい?」

 

「失礼ね、それが偽者だと証明してあげただけのことでしょ。……今回は正直、物を持ってこられても、それが偽者だって言う決定的な証拠が無いのよ」

 

 選択を違えたかしら、と苦虫を噛むような表情で少女は言う。

 なんでもその物とは、東の海の蓬莱という島にある、根は銀、茎は金で、白い実をつける木の一枝らしい。確かにそんなものはなさそうだ。そもそも木ではなくて鉱物だろうそれは。

 

「正直時間がないわ。もう難波に優曇華(ウドンゲ)を持って帰ってきたって言う噂なのよ」

 

 ……難波がどこだか分からない。それに分かったとしてもこことの位置関係も、紫に送ってもらったため分からない。

 それに優曇華ってなんだ?金銀の枝じゃないのか?変な名前だということしか分からない。

 

「ここからどんなもんだか分からないけど、難波は京から南に少し行ったところにある場所だよ。あと優曇華は何千年に一度咲くか咲かないかの綺麗な花のことだね。まぁ、それだけ綺麗なものを持ってきたってことだろう」

 

 私を一瞥した後、萃香が教えてくれた。心を読んだのだろうか、意外と萃香は物知りだ。二重の意味で驚いていると、

 

「節は顔にすぐ出るからね、すぐに分かるよ」

 

 と笑いながら言ってきた。竹姫もあらあらと笑っている。手を口にそえた上品な笑い方だ。

 少し恥ずかしくなって話題を逸らす。

 

「そ、そろそろ名前を教えてくれないか?呼ぶのに困る」

 

「あら?教えてなかったかしら?……いいわよ、私の名前はなよ竹のかぐや姫よ」

 

 よろしくね、と姫のわりには随分軽い口調で言う。こちらも自己紹介をする。

 

「聞くところによると、月から来たんだって?そっちのお姫様はみんなそんな感じなのかい?」

 

「っ……、それは誰から聞いたの?」

 

 萃香がなんともなしに聞くと、かぐや姫は驚いた顔になり、すぐに目を細め、こちらを疑うような眼差しをよこした。なにかまずいのだろうか。萃香と顔を見合わせる。萃香も困惑気味だ。

 

「とあるスキマの妖怪だが……」

 

 私はスキマの妖怪を一人しか知らない。……案外多いのかもしれないが。

 

「スキマの妖怪?」

 

「あぁ、覗きが趣味みたいな奴だ」

 

 今、なんとなく寒気がしたが気のせいだろう。気のせいだと思いたい。別に間違ってはいないはずだ。自分に言い聞かせながら、キョロキョロと周りにスキマがないか探して見るが、そんなものはなかった。萃香が変な顔で見てくる。

 

「そう……、ここにはいろんな妖怪がいるのね。……私が月人だってことは黙っておいてもらえる?」

 

 萃香と一緒にとりあえず頷いておく。別に言いふらしても特なんてないしな。

 

「ありがとう。まぁ、いずれはばれてしまう事なんだけどね」

 

 そう儚げに笑みを浮かべた。この顔に男達は惚れたのだろうか。私も後で練習しよう。

 

「そういえば、あなたちってどういう関係なのかしら?お友達?」

 

 先ほどの湿っぽさを吹き飛ばすように、好奇心に満ちた表情で聞いてくる。

 

「節は私の一番の部下だ。といっても一人しかいないけどな」

 

 なんだか萃香が嬉しそうに言う。

 

「あら?上司と部下なの?へぇ、そうは見えないけどね」

 

 上司と部下に見えないのならなんだというのか。友達か?……友達に見えるだろうか。いままでで、そういう関係になったことがなかったから嬉しい。

 

「私も月にいたころは部下……というよりは教育係みたいな人がいたんだけどね、良く言えば天才的という人だったわね」

 

 会えないとなると意外とさびしいものね、とかぐや姫は締めた。

 たしかに、仲のいい人に会えないのはさびしいと思う。私にはそんな人はいないが。しいて言えば萃香だろうか。

 

「さて、そろそろあなたたちには優曇華を奪ってきてもらおうかしら」

 

 かぐや姫がぽんと手を叩き、そう私達を促す。あぁ、そういえばそんな話だった。

 

「今までの話を聞くに、別に奪う必要はないんじゃないか?その金銀の枝が偽者だって分かればいいんだから」

 

 萃香がもっともなことを言う。もっともだが、それをどうするかが問題なのだ。目でどうするのかを問う。萃香はいいか、と前置いて説明してくれる。

 

「金と銀の木なんて存在しないんだ。だから作るしかないだろ?その辺の貴族にそんなものを造る技術はない筈だ。つまり造った職人かなにかがどこかにいるはず。そいつを連れてきて証言させりゃいいんだよ」

 

 あぁ、なるほどと思う。しかし、そう簡単に見つけられるだろうか。かぐや姫も同じ事を思ったらしい。

 

「でも、その者達をどうやって見つけるの?さすがに聞きまわっている時間はないわよ」

 

「言っただろ?覗きが趣味な妖怪がいるって。そいつに頼んでみりゃあいいんだ。……まぁ、だめだったら奪えばいいんだしさ」

 

 確かに手段は多いほうがいい。成功率は高いに越したことはないが、紫は協力を受けてくれるだろうか。なんというか、紫は自分に特がないと動かないような気がする。

 

「とにかく頼んだわよ」

 

「よし、任せときな!行くよ、節」

 

 そう言って、萃香は竹林の中を引き返して行ってしまった。飛ばなくていいのだろうか。

 私は、手を振っているかぐや姫に手を振り返して、どうやって紫を呼び出そうかと考えながら、萃香の後を慌てて追いかけていった。

 

 

 




いまさらながらプロットにもこたんがinしていないことに気づきました。かぐや姫関係なのにどうしよう……
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