腐り目とオッドアイ   作:おたふみ

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出会いは偶然に

ここは都内の某赤提灯。

なんでこんな所で飲んでるかって?今日は雪ノ下の結婚式があった。相手は俺じゃないことは一人で飲んでる時点でわかるよな。わかれよ。

相手は大物国会議員の二世。軽く話をしたが、その辺の有象無象の百倍マシだ。特に葉山。

 

花嫁の控え室に挨拶に行ったら、雪ノ下に『私、本当は…』なんて言おうとしたから、『おめでとう』とだけ言って部屋を出た。俺だって…俺だってな!雪ノ下のことが!!

 

…今さら言ってもどうにもならん。仕事?有給休暇使って一週間は休みだ。

 

時間もたっぷりあるからやけ酒って訳だ。由比ヶ浜?とっくに戸塚と結婚したよ。おのれ由比ヶ浜!

 

なんて、現実逃避をしながら飲んでる訳だ。

 

しみるなぁ、日本酒…。

 

「あの、お隣よろしいですか?」

 

この声!まさか!

 

「雪ノ…下じゃねぇよな…」

 

「はい?」

 

「いえ、声が知人に似ていたもので…。すいません」

 

「お気になさらずに。よろしいですか?」

 

「ど、どうじょ」

 

か、噛んだ!!

 

し、仕方ねぇだろ。見てみろよ。吸い込まれそうになるほど綺麗なオッドアイ、白い肌、触れると壊れてしまいそうな細い腕…。普段はアニソンしか聞かない俺でも知っている。…スーパーアイドルの高垣楓が目の前に!

 

ここは戦略的撤退しかない。

 

「じゃ、じゃあ、俺はこれで…」

 

「…少し、お付き合いいただけませんか?」

 

少し陰りが見た。

 

「だけど、アナタはアイドルでは…」

 

「今、ここに居るのは只の酒好きの女…」

 

少し悲しそうな目だ。

 

「はぁ…少しなら」

 

「ありがとうございます」

 

こうして高垣楓と酒を飲むことになった。

 

「では、私たちの出会いに…あら?」

 

「どうしました?」

 

「ごめんなさい、お名前を聞いても?」

 

「比企谷です。比企谷八幡」

 

「比企谷…八幡…。素敵なお名前ですね」

 

「そうですかね?名前でよくイジメられました。ヒキガエルだとかヒキコモリだとか」

 

「まぁ、こんなに素敵な人なのに」

 

「おだててもなにも出ませんよ」

 

「本心ですよ」

 

「ありがとうございます。では、乾杯しましょうか」

 

「「乾杯」」

 

やっぱり、今日の日本酒はキクなぁ…。

 

「はぁ、酒(しゅ)あわせ」

 

「へ?」

 

「うふふっ」

 

まさかのダジャレ…。

 

「もっとお洒落なバーとかで飲んでるイメージなんスけどね」

 

「いいえ、日本酒大好きです」

 

「さいですか」

 

「ビールも好きですよ。早苗さんや友紀ちゃんと飲みますよ」

 

あの二人とも飲むのか。すげぇな。姫川友紀は許さん、在京オレンジ球団のファンとは!

 

「あとは瑞樹さんも」

 

「へ~」

 

「この前は志乃さんとワインバーに行きました」

 

「なんか、凄いメンツですね」

 

「はい、みんな素敵な仲間です」

 

「仲間…か」

 

奉仕部での光景が目に浮かぶ。

 

「八幡さん?」

 

「はい?へ?名前呼び?」

 

「ダメ…でしたか?」

 

「いえ、驚いただけです」

 

「それと、なんだか悲しそうなお顔をしてましたよ」

 

「き、気のせいですよ。そ、そういう高垣さんだって…」

 

「『楓』と呼んでください」

 

「い、いや、それは…」

 

「今だけでもいいんです」

 

「か、楓さん」

 

「呼び捨てでいいですよ」

 

「か、か、楓」

 

「はい、八幡さん」

 

な、何この破壊力!

 

「それで、八幡さんは何がそんなに悲しいんですか?」

 

「つまらない話ですよ」

 

「話すことでアナタの心が軽くなるなら」

 

「実は…今日は好きな人の結婚式だったんです…。高校時代の部活仲間で、友達は…二回断られたか。たぶん、両思いだった…と思います」

 

「どうして…」

 

「俺もアイツも今までの関係が好きで、ぬるま湯につかってる状態でズルズルと…。彼女はそれなりの家柄で、気がついたら彼女は政略結婚することになっていて…、取り返しのつかないところまで…。結婚相手がクソ野郎だったらブン殴って拐おうかと思ったんですが、出来た人で…。彼女の幸せを壊す訳にもいかず…、一人でやけ酒…」

 

俺は初対面の人に何を言ってるんだ…。

 

「そんなことが…」

 

「情けない男ですよね」

 

「そんなことない…と言ってもアナタは自分を責めるんでしょうね」

 

「まぁ、そうですね」

 

「雪ノ下さん…ですか?」

 

「っ!すいません、声が似ていたので…」

 

「私も似たような理由で八幡さんに声をかけました…」

 

「え?」

 

「私、今日フラれてしまったんです」

 

高垣楓をフるとは…。

 

「逞しくて、ぶっきらぼうで、少し顔が怖くて誤解されることが多いんですけど、とっても優しいひと…」

 

高垣さんの顔が曇る。

 

「あの人は、私のことは『アイドル』としか見れないみたいで…」

 

と、いうことはプロデューサーか。

 

「それに、エナドリを受けとる時のあの笑顔は私には見せてくれない。きっとあの人は彼女のことを…」

 

綺麗な瞳から涙がこぼれた。

 

「高が…、楓…」

 

「八幡さんの目、あの人にソックリで…」

 

こんな腐った目のプロデューサーとか大丈夫なのか?

 

それよりも、目の前で女性が泣いている。しかも、飛びっきりの美女が…。

 

自分で似合わないことはわかっている。でも、今日だけは…今だけはこんな俺でも許してくれ。

 

楓の手をそっと握る。

 

「今夜は飲もう」

 

「…はい」

 

 

 

 

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