「八幡さん、今朝言った寄りたい場所へ行きたいのですがいいですか?」
楓が秋葉原で寄りたい場所…。さっぱりわからん。
「かまわないぞ」
とある家電量販店に入り、店員に一言二言…。
「店員さんのOKが出たので行きましょう」
楓の案内で移動。そこは狭いステージ、100人も入れないであろう客席。
「ここは、新人アイドルのデビューや人数限定のシークレットイベントなんかをやるんですよ。私も何回かここで歌ったこともあります」
「へぇ~、知らなかったよ」
すると楓はステージに立った。
「私のデビューもこんな感じの場所でした」
今でこそ、大きなステージで歌ったりしているが、いきなりそんな場所からスタートした訳ではない。想像もつかない努力があったであろう…。
「八幡さんのことを知ることが出来たので、八幡さんにも私のことを知っていただきたくて」
ステージの上で楓は客席の中心に居る俺を見て微笑んでくれている。
「ありがとう、またひとつ楓のことが知れたよ」
「ステージ、上がってみますか?」
楓が手を差し伸べた。俺もステージのすぐ近くまで行く。
「いや、遠慮するよ。そこは『高垣楓』が望み、努力して辿り着いた場所だ。俺が気安く立っていい場所じゃない」
「じゃあ…。えいっ!」
そんなに高いステージではないが、楓が飛び降りてきた。それを俺は慌てて抱きとめた。
「おい、危ないぞ」
「ごめんなさい。でも、これで私はアナタにの楓に戻りました」
こちらを向いて満面の笑みを浮かべる。テレビやステージとは違う笑顔だ。
「さぁ、行きましょうか」
従業員にお礼を言って店を出る。
「次はゲーセンでも見るか?」
「そうですね」
そんな話をしていると。
「あれ?楓さんですか?」
「あら、卯月ちゃん」
The王道アイドル、島村卯月が駆け寄ってきた。
「おはようございます」
「おはようございますっ♪」
「今日はどうしたんですか?」
「ニュージェネの抽選ミニライブの下見です」
ほう、あそこでやるのか。
「凛ちゃんと未央ちゃんも居ますよ」
後ろから、二人の美少女が来た。
「待ってよ卯月」
「しまむー、速いよ」
「ごめんなさい、楽しみで」
「凛ちゃん、未央ちゃん、おはようございます」
「楓さん!おはようございます」
「おぉ、変装してる楓さんだ。おはようございます」
すげぇ、ニュージェネだ!本物だ!って、楓と一緒に居てアイドルに会い過ぎだな。
「今日は三人なんですか?」
「いえ、プロデューサーさんも居ますよ」
大柄のスーツを着た男性がこちらに近づいてきた。
「…プロデューサー…」
あきらかに、楓の顔が曇った。
「高垣さん…。先日は…」
「すいません、今はプライベートなんで…。失礼します」
楓が歩きはじめると。
「待ってください!」
プロデューサーが楓に手を伸ばした。
「やめろ」
そう言って、俺はプロデューサーの手首を掴んでいた。そして自分でも思いがけない言葉を言ってしまった。
「俺の楓に気安く触ろうとするな」
自分でも聞いたことのない低い声だった。みんな唖然としている中、楓の手をとり歩きはじめる。
「行くぞ、楓」
「は、はい」
そのまま駅へ行き、電車に乗り込み楓の部屋へ。終始無言のままだった。
あぁぁぁぁぁぁぁ!やっちまったよ!何やってんだよ俺!なんだよ『俺の楓』って。確かにそう言ってたけどさ、あそこで言ってよかったのかよ。しかも、相手はプロデューサーだろ?楓が仕事がやりにくくなるだろ!バカじゃねぇのバカじゃねぇのバーカバーカ…。
死にたい。
落胆して楓の方を見ると、何故かモジモジしていた。
「あ、あの…楓さん?」
「は、はい!」
「すまなかったな…」
「い、いえ、大丈夫です。むしろ、ありがとうございました」
「休み明け、仕事やりにくいとかないか?」
「あのプロデューサーとは、今は直接一緒に仕事はしてないので」
こ、これは確認した方がいいのだろうか。
「あのプロデューサーって例の…」
「はい…」
やっぱりかぁ、そうかぁ…。
「あそこで八幡さんが『俺の楓』って言ってくれて、すごく嬉しかったです」
「そ、そうか?」
「なんていうんでしょうか、最後に少し引っ掛かっていた物がとれたというか、もやが晴れたというか…」
「お、おう…」
「完全に吹っ切れたと思います。今までフタをしていただけだったんだと思います。でも、もうフタを外してもそこにはプロデューサーへの想いはありません。あるのは、八幡さんへの想いだけです」
俺が楓に雪ノ下のことを吹っ切れさせてもらって、俺もそれが楓に対して出来たってことなのかな。
「そ、それに…」
「?」
「とても格好よかったです」
「お、おう」
そ、そうなのか…。照れくさいな。
「そ、それと…」
「まだあるのか?」
「八幡さん、格好よすぎて…。抱いてほしくなってしまいました…」
まったく、この娘は!あざといんだから!
楓をお姫様抱っこする。
「せ、せめてシャワーを…」
「俺が我慢出来なくなった」