月曜日の朝。普段なら布団の中で働きたくないと抵抗するのだが、起き抜けに携帯を見てやる気が出た。
【おはようございます。今日からお仕事ですね。お互いに頑張りましょう】
これだけでご飯三杯はイケる。
しかし!このあとにもう一言。
【アナタの楓より】
ねぇ、俺死ぬのかな?萌え死?キュン死?それとも、非リア充にエクスプロージョンくらう?
なんてこと考えていたら支度完了。
メッセージも返信した。最後に【アナタの八幡】とか添えて。うん、キモイ。
仕事はやるんだが、考えなければいけないことがある。
『アイドルと交際する』ということだ。まともに男女交際もしたこたない俺がだぞ。ネットにもそんなこと書いてないし…。どうしたモンかなぁ。
あっ、仕事終わってる。ありがとう小人さん。
甘いドーナツでも食べながら考えますかね。考え事する時には甘いモンだな。
ドーナツを三個ほどとカフェオレを購入。適当な一人掛けのカウンタータイプの席に座る。
なんとなくスマホで楓の画像を検索してみる。どれも綺麗で神々しいほどだ。だけど、あの笑顔の画像はない。子供みたいにハシャギながら俺の名前を呼ぶ時の笑顔は…。
「早く会いてぇな…」
「そんなに私に会いたかったの?」
「うぉっ!」
突然、声をかけられて驚いてしまった。…出たよ魔王。ドーナツ屋と言ったらこの人とエンカウントするんだよな。ドーナツ屋なら椎名法子にしてくれよ。
「ども」
「で、比企谷君は誰に会いたいのかな?雪乃ちゃんかな?残念だっ…」
「違いますよ」
「言いきる前に否定したね」
「まぁ、雪ノ下のことはいいんですよ」
「東京でデートしてた娘かな?」
雪ノ下…、口外したのか?
「比企谷君も冷たいよね、雪乃ちゃんが結婚したからって、すぐに彼女作るなんて」
どこまで、話したんだ?
「雪ノ下に聞いたんですか?」
「まあね。雪乃ちゃん、比企谷君に会ったら謝りたいって…。ヒドイこと言ったって」
あの態度は、俺と雪ノ下の間ではデフォルトだった。でも、あの時は嫌悪感しかなかった。冷静に今聞けば対処できると思う。俺が急に態度変えたからアイツに悪いことしちまったな。
「雪乃ちゃんも大変みたいなのよ。それでイライラしてたみたいなんだ。詳しくは私にも話せないみたいだけど」
「そうですか…。結婚したばかりなのに大変ですね、アイツも」
「だから、許してあげて。雪乃ちゃんのこと」
「許すもなにも、俺も思うところがありましてね。悪いことしたと思ってます。だから、オアイコですよ」
「ひ、比企谷君…」
え?俺なにかした?
「比企谷君て、そんな笑い方したっけ?」
え?キモイの?
「キモイですか?」
「ち、違うのよ。凄いいい笑顔したから…」
そうなのか?
「そんな笑顔して、お姉さんを惚れさせるつもり?」
肘でつつかないでください。グリグリしないでください。
「そんなつもりないですよ。彼女いますんで」
「そうなんだよね。凄い美人の彼女と一緒だったって、雪乃ちゃん言ってた」
「そうッスね」
間違いなく美人です。
「今度、会わせてよ」
「善処します」
「それ、やらない返事だ」
「ま、千葉と東京で離れてますからね」
「それで、さっそく浮気なの?」
雪ノ下さんが携帯を指さした。
楓の画像のままだった!!
「比企谷君て、意外とミーハーなんだね」
変に勘ぐられる前に先手を打つか。
「まぁ、彼女の写真なんで」
「ぷっ!あはははははっ!面白いこと言うね、そんな訳ないじゃん!あはははははっ!」
笑い過ぎ。まぁ、嘘は言ってないし、変に策を練るよりいいだろ。雪ノ下もここまでは言ってなかったか。
「現『雪ノ下』のトップが、こんなところでバカ笑いしないでください」
「気にしない気にしない。でも、久しぶりに爆笑したわ。それにトップなのは名前だけだしね」
「それでもですよ」
「じゃあ、雪乃ちゃんには私から『比企谷君は気にしてない』って言っておくから」
「うっす」
「あと、静ちゃんに比企谷君に彼女が出来たって言っておくね」
あの人、まだ独身なんだからやめてあげて!俺はもらってあげられないから!
「鬼ですか」
「違うよ、魔王だよ。じゃあね」
そう言って雪ノ下さんはドーナツをくわえて店を出ていった。
…俺のドーナツ!!
おのれ、シスコン魔王め…。