楓は色んなことを話してくれた。モデル時代のこと、アイドルに転身してからのこと…。
俺は過去の黒歴史を披露して、笑われたり慰められたりした。
店を出て、ふと時計を見ると終電が終わってる時間だった。さてどうしたものかと悩んでいると、予想外の提案が。
「八幡さん、ウチで飲みませんか?」
「い、いやマズイですよ」
「マズイ?何がですか?美味しいお酒があるんです。あと梅酒も」
「梅酒?」
「ええ、和歌山から送ってもらった梅で私が漬けたんです。美味しいですよ」
「それは是非とも飲んでみたいんですが、ほら、あれがこれで…」
しどろもどろになっていると。
「ほら、タクシー捕まえましたよ」
タクシーに放り込まれた。意外と強引…。
半ば引きずられるように楓が住むマンションに。
「座っていてくださいね。今、お酒出しますから」
本当にマズイと思い部屋を出ようとした。
「いや、本当によくないので、帰りま…」
上着の裾を強く握られた。
「楓?」
「…帰らないでください」
「で、でも…」
「今は一人になりたくないんです…」
楓はフラれたばかり…。俺はその人の代わりにはなれない。でも、楓の声は…。
「俺は楓の想い人の代わりにはなれない。それに、俺自身が楓を雪ノ下の代わりに見てしまう。そんなのは…欺瞞だ」
「それでもいいんです。私は八幡さんに居て欲しいんです」
そんなこと言われたら、今の俺は断れない。
「…それが許されるなら、俺だって楓と居たい」
「私は…居て欲しいんです」
「わかりました」
楓が俯いてしまった。
「ごめんなさい、我が儘を言って…」
はぁ、美人には勝てないな。思わず頭を撫でてしまう。
「楓みたいな美人の我が儘を聞けるのは本望だよ」
「あ、ありがとうございます」
「ほら、飲みなおそうぜ」
「はい」
もう一度座り、楓が酒を持って来てくれるのを待つ。
「ほら、『久○田』ですよ」
「え?いいの?」
「一緒に飲みましょう」
そう言うと、ピッタリ横に座ってきた。
「ち、近い近い…」
「ここには私たちしか居ないんだから、いいじゃないですか」
「いや、ヤバいですよ」
「ヤバい?何がですか?」
わかってるだろ?
「ほら、色々と。ね?」
「色々って?」
「俺の理性とか…ね?」
それを聞くと日本酒を口に含み俺の口に流しこんできた。
「な、なななな、何を…」
「何って、口移しですよ」
た、た、た、高垣楓とキスをしてしまった!!
「では、もう一度」
酒を流しこんだあと、舌を絡めてきた。
「うん…うふ…ん…」
い、色っぽい。白い肌がほんのり赤くなっているのがわかる。
「そ、そんな、ことされたら俺は…」
「我慢なんてしないでください…」
「明日の朝、後悔しても知りませんよ」
「後悔なんてしません。私は八幡さんのことをもっと知りたい…」
「…わかりました」
ひとつ、間を開けて楓を見つめる。
「俺も楓のことが知りたい…」
「八幡さん…」
………
……
…
カーテンから射す朝日で目を覚ます。そっか、昨日は楓と…。
ふと横を見ると楓が居ない。キッチンの方を見ると楓が居た。
「おはようございます、コーヒー飲みますか?」
「おはようさん。いただくよ」
て、なんて格好してるんですか!今着てるの俺のYシャツだよね?
「ふふっ、どうしたんですか?」
「なんつう格好を…」
「『彼シャツ』やってみたかったんです」
昨日は見れなかった眩しいくらいの笑顔…。スレンダーな身体。Yシャツから透ける肌。
「綺麗だ…」
「そ、そんな真顔で言われると…」
「す、すまん」
「八幡さんに言われると、なんだか嬉しい…」
「そ、そうか…」
コーヒー飲み、少し落ち着く。
「かえ…、高垣さん仕事は?」
「楓のままでいいですよ。しばらくオフなんです。最近忙しかったんで、まとめて休みをもらいました。八幡さんは?」
「俺は一週間有給を取りました」
ふむ、と考える素振りを見せる楓。
「八幡さん、休みの間は私の恋人になってください」
「はい?」
「だから、休みの間だけ私の恋人になってください」
「い、いや、天下のスーパーアイドルと期間限定とはいえ…」
楓は首を横に振った。
「今、アナタの隣に居るのは、只の『楓』です」
『お酒が好きな』とつけたし、笑みを浮かべる。
こんなの勝てる訳がない。勝てるヤツが居たら、ソイツはホモだ。
「じゃあ、休みの間だけ…」
「…はい」
何はともあれ一旦帰らないとな。
「着替えとかしたいので、一旦帰りますね」
顎に手をあてて、また考える楓。何をやっても絵になる。
「休みの間は、ここで暮らしませんか?」
「はい?」
思考がぶっ飛んでる。