シスコン魔王こと、雪ノ下さんにドーナツをひとつ強奪された。被害はそれだけならば良しとしよう。雪ノ下のトップなら、俺をかまうほど暇じゃないだろ。
甘いモノを摂取しても、考えはまとまらなかった。部屋に戻り、楓に連絡をしてみる。
楓の方は、担当プロデューサーが出張で一週間いないので電話で報告したらしい。担当プロデューサーも焦ってはいたが、反対はしなかったとのこと。ただし、戻るまでは派手な行動とメディアでの対応でボロを出さないようにと釘を刺されたみたいだ。
あと、今夜は川島さんや片桐さん達と飲むらしい。川島さんに報告したら、酒の肴にされるようだ。飲み過ぎないように注意しておいた。
次の日もおはようのLINEから始まり、夜の電話。飲みに行こうとしたら、柳清良さんという元ナースに止められたらしい。GJです、清良さんとやら。
水曜日。今日は生放送の歌番組に出演するから電話は出来ないとのこと。念のため録画予約はしたが、オンタイムで見たいので定時で仕事を終わらせて帰宅。
テレビの前で楓の出番を待ち構えている。すると、玄関が開く音がした。
「お兄ちゃん、居るの?」
ん?小町か。
「おう、居るぞ」
小町がテレビを見て驚いている。
「お兄ちゃんが歌番組観てる。普段はアニメか特撮しか観ないのに…」
ほっといて。
「たまにはな」
「ご飯は食べた?」
「いや、まだだ」
「簡単なもので良ければ作るよ」
「んじゃ、頼む」
そんなことを言っていると、楓の出番になった。
「ふぁ~、高垣楓って綺麗だよね」
知ってるよ。
「そだな」
「適当だなぁ」
それどころではない。なんというか、圧巻だった。楓が歌っているところは前にもテレビで見たことはあるが、今回はまったくの別物だった…。
歌の後に、司会者とのトークになった。
『高垣さん、今回は非常に素晴らしい歌でしたね』
『ありがとうございます』
『何か秘訣があるんですか?』
『秘訣ではないんですけど、嬉しいことがありました』
『それは、どんな?』
『秘密です。うふふ』
イタズラっぽい笑いをしている。俺のこと…なのかな。
「お兄ちゃん、どうしたの?ニヤニヤして」
おっと、顔に出てしまった。
「いや、綺麗だなぁと思っただけだ」
「そういえば、お兄ちゃんの彼女…お義姉ちゃん候補も楓さんだよね?」
なんで言い直したの?しかも鋭いツッコミ。
「まぁな」
「この人みたいに美人さんかな」
「そうかもな」
この人なんですけどね。
しばらくすると、楓から電話がかかってきた。
「お疲れさん。テレビ観たよ」
『観てくれたんですね、ありがとうございます』
「一応聞くが、嬉しいことってなんだ?」
『それは…、恋人が出来たことです』
「そ、そうか…」
『横で美優さんが慌ててましたけどね。言ってしまうんではないかと心配してたみたいです』
三船さん、心配かけてごめんね。あの店のランチ美味しかったです。
「みんなが心配しないようにしないとな」
『プロデューサーが戻れば大丈夫だと思います』
「そうだな。色々と仕事とかのタイミングもあるだろうからな。俺に出来ることがあったら言ってくれ」
『はい』
後ろから、三船さんが帰ると言っているのが聞こえた。
「飲みに行くのか?」
『えぇ』
「あまり飲み過ぎるなよ」
『はい。お猪口にちょこっとだけにしま~す』
出たよダジャレ。
「じゃあ、またな」
『おやすみなさい』
本当に難しいよな、この関係…。でも、乗り越えられないことはない。根拠はないがそう思える。楓がそう思わせてくれるのかな…。