「とりあえず、お買い物に行きましょう♪着替えとか食器とか♪」
えっと、一週間ここに住むこと決定なの?
「た、高垣さん?」
「…」
「高垣さ~ん」
「…」
「コホン。…楓」
「はい、なんですか?八幡さん」
確信犯かい!
「一週間だけとはいえ、一緒に暮らすのはマズイですよ」
「…嫌…ですよね、こんな、呑んだくれの女と暮らすのなんて…」
論点が違~う!!
「違いますよ。楓みたいな美人と暮らせたら最高ですよ。最高過ぎて昇天してしまうまである」
「うふふっ。じゃあ、決まりですね」
「いやいや。アナタはアイド…」
言いかけたところで、口をふさがれてしまった。…楓の艶やかな唇で…。
「アナタの前では、只の『楓』です。アナタの『楓』でいられる時間をください」
俺のどこを気にいったのか…。あっ、目ですね。
…俺だって、この声を聞いていられるなら…。
今はそんな欺瞞でも…。
「はぁ、わかりましたよ」
「じゃあ、服から買いに行きましょうか」
「いいえ、まずは眼鏡です」
「眼鏡?」
「顔バレしたら大変です」
「そうなんですか?」
「楓が大丈夫でも、俺が『高垣楓』のファンに殺されます」
「それは困りました。では眼鏡屋さんから行きましょう」
楓には持っている帽子を深めにかぶってもらい眼鏡屋へ。何故か俺にも伊達眼鏡をするように言われた。
「なんで俺まで眼鏡なんだ?」
「う~ん、そうですね…。比企谷八幡ではなく、只の『八幡』になってもらうんです」
「いや、意味がわからん」
「じゃあ、私だけの『八幡』で」
何この笑顔!女神だ!女神がいる!
「じゃあ、俺もかけますよ」
眼鏡をかけて楓を方を向いた。
「似合いますよ」
「元モデルの楓に言われると、そんな気がしてきます」
「じゃあ、この調子で服も買いましょうか」
ファストファッションの店に入り、楓セレクションの服を購入して着替えた。
「どうですか?」
「バッチリです。八幡さんは素材がいいので、なんでも似合いますよ」
「そんなことないって言いたいですが、楓が言うなら信じますよ」
「あら、そんなに信用してもらえるんですか?」
「今は、俺だけの『楓』で、楓だけの『俺』ですから」
俺らしくない。こんな欺瞞しかない、傷を舐めあってるだけの関係なのに、なんだかそう思えてしまう。今はそれでいい。楓が笑顔でいてくれるなら。ホント、俺らしくない。
「何か可笑しかったですか?」
俺、笑っていたのか?
「いや、なんでもない」
「でも、八幡さんが笑顔だとなんだか嬉しいですね。一週間だけの恋人なのに」
「同じこと考えてました」
「ふふ、そうですか。それと…」
「それと?」
「言葉使いがメチャクチャですよ。くだけた話し方をしたと思えば敬語になったり」
ん?気がつかなかった。
「普通に話してくださいね。アナタだけの『楓』なんですから」
「わかったよ。楓もそうしてくれ」
「は~い」
「そろそろお昼にしようか?」
「何がいいかしら?」
少し考えると携帯を取り出した。こちらに謝りを入れると。
「あ、美優さん、お疲れ様です。今、○○の辺りに居るんだけど、美味しいランチのお店あるかしら?」
ん?え?電話の相手って…。
「ありがとう。参考にさせてもらうわ」
「今の相手って、もしかして…」
「三船美優さんですよ」
oh…、アイドルネットワーク。
「あ、地図が送られてきました。行きましょう」
三船美優さんから教えてもらったお店でランチとなったんだが…。
「…な、なんか、男性客俺だけなんですけど…」
「ふふふっ、みんなアナタに注目してますよ」
「はぁ、キモイとか思われてるのかな…」
きょとんとした顔でこちらを見る楓。うん、可愛い。
「何を言っているんですか?アナタが格好いいからですよ」
え?
「本当に好意に鈍感なんですね」
「昨日も話しましたけど、悪意は感じとれるんですがね」
「アナタには、間違いなく好意も向けられていますよ」
「そうなんかね」
「特に今は私から」
テーブルに肘をつき、ウインクをしてくる。俺、もう死んでもいい。
「ほら、料理が来ましたよ」
見るからに女子受けしそうなパスタやサラダがテーブルの上に並べられた。
「いただきます」
「いただきます」
うん、旨い。お腹にはたまらないけど、旨い。
「うん、美味しいわ。これは赤ワインかしら」
「楓?」
「一杯だけいいかしら?」
「ダメ」
「え~」
この人は…。
「今夜も付き合うから、我慢してくれ」
「は~い」
本当に呑んだくれなのね、このひとは…。