常務室に着く前に雪ノ下から電話があった。検察が動く日時もおおよそわかった。こっちの思惑通りにいけば…。
「八幡さん、ここです」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「行くぞ」
「はい」
重そうな扉をノックし、返事を確認して中に入る。
「失礼します」
「失礼します」
そこに居たのは、切れ長の目の女性。女優と言われても信じるくらいの美しさ。
「はじめまして、比企谷八幡と申します」
「はじめまして。私は346プロダクション・アイドル部門統括重役を任されている美城だ。高垣君も久しぶりだな」
「お久しぶりです、常務」
「立ち話もなんだ、掛けてくれたまえ」
ソファーに座るようにうなされ座る。
さて、どういう人物だ?名前からすると創業家の娘。だが、アイドル部門がここまで成長しているのは、ただの二世ではないはず。
「さて、つまらない世間話をするつもりはない。単刀直入に言う、別れたたまえ」
来た、直球勝負か。
「嫌です」
反応早ぇよ楓。
「アイドルが一般男性と付き合うなど」
正論だな。
「別れろと言うなら、私は引退を選びます」
楓も言っていた通りの答えだ。
「では、引退するがいい。その場合は違約金などは、そちらに払ってもらう」
「そ、そんな…」
なるほどね。では、探りをいれますか。
「美城さん、何故別れさせたいのですか?」
「男に現を抜かしてパフォーマンスが落ちたらどうするのかね」
ほう…。
「先週の楓のパフォーマンスはどうでしたか?」
「…悪くない」
「いえ、明らかに良かったはずです」
「ほう…、それで?」
「楓はパフォーマンスが上がった理由をテレビでは嬉しいことがあったとだけ言ってましたが、俺には恋人が出来たからと言いました」
楓さん、赤くなりながらクネクネしないでね。可愛いから、集中出来なくなっちゃうでしょ。
「さて、例えばここで『はいそうですか』と別れて楓のパフォーマンスを落とすのがいいか。それとも、違約金を払うのがいいか。俺たちは払うつもりは毛頭ありませんけどね」
ん?美城さんの口角が上がった…。
「君は面白い男だな」
「そりゃどうも」
「いつ、気がついた?」
「取って着けたような『嫌な重役』の仮面なんてすぐにわかりますよ。学生の頃から仮面着けた人を見てたってのもありますけどね」
ちょっとだけ雪ノ下さんに感謝だな。
「八幡さん、何の話をしているんですか?」
「ん?美城さんは別れさせるつもりも、引退させるつもりもないってことだよ」
「ほ、本当ですか!?」
おうおう、そりゃ驚くよな。
「さっきのやり取りでつまらない返しが来たら、本当に別れさせるつもりだったがな。それに、比企谷君と居る時は良い笑顔をしていると、あのプロデューサーや川島君も言っていたからな」
川島さん、ありがとう。ついでにあのプロデューサーもありがとう。
「元々、ウチの事務所は恋愛禁止なんて一言も言ってないからな」
「だってよ楓」
「八幡さんは、いつ気がついたんですか?」
「いつもなにも、美城さんの口角が上がるまで、ヒヤヒヤだったけどな」
「もう!!」
ポカポカ叩かないで、可愛いから。
「それに常務の顔をそんなに見つめていたんですね」
あっ、ムクれていらっしゃる。
…え?美城さんも赤い顔して怒らないでください。
「…天然ジゴロ」
なにそれ、俺のこと?
美城さんが、咳払いをして話し始めた。
「それで、この事態も早く終息させたいので、記者会見をしようと思っている。その時は高垣君にも同席してもらうが、いいかね?」
「はい。自分の言葉でファンに伝えたいです」
そっか、楓も同席か…。
「美城さん、俺に妙案があります」