記者会見は346を訪問した翌日になった。
俺は記者会見場の裏の一室で記者会見場をモニタリングしている。仕事?親戚のおじさんに死んでもらった。ごめんね、存在しない遠くの親戚のおじさん。
さて、記者会見が始まった。会見場には美城さんのみ。
『弊社所属のアイドル・高垣楓の交際報道について記者会見を始めさせていただきます』
始まった。
『まず弊社では、アイドルの交際について、原則として禁止をしたり別れさせるようなことはいたしていません。無論、それは未成年のアイドルであれば学校の校則等に照らし合わせて指導したりはいたしますし、成人しているアイドルでも、反社会的な組織とつながりがあったり、その他犯罪や倫理的に不適切な場合は厳しい対応をします。しかし、今回は一般のごく普通の男性との交際ですので、なんら問題はありません』
格好いいな、美城さん。
「楓、そろそろ準備を」
「はい、では行ってきます」
「行ってこい」
「あっ、その前に」
楓は俺に近づきキスをしてきた。
「ど、どどどどうした。急に」
「ん?おまじないみたいなものです」
ビックリするからね。
「じゃあ、今度こそ行ってきますね。これが終わったら、たくさんしてくださいね」
手を振り部屋を出て行った。たくさんてキスをだよね?それ以上も?
いかんいかん、モニターを見なければ。
スタッフが美城さんに耳打ちをする。慌てた様子の美城さん。さすが芸能プロダクションの常務だ、演技も上手い。
『失礼。急遽、高垣本人が会見したいとのことで、ここに来ています。準備をしますので、しばらくお待ち下さい』
ざわつく記事達。驚け驚け、美城さんだけで会見すると思っていたら大間違いだ。
俺が考えた作戦だ。こういう演出は、見ている方の心象は良くなるはず。
準備が整い、楓が颯爽と会見場に。よし、いつもの【アイドル・高垣楓】だ。
『高垣楓です。突然、申し訳ありません。どうしても、自分の口から今回のことをお話しさせていただきたくて、急遽こちらに参りました』
急に会見場に来たことをアピール出来ている。
『今回の件で、ファンのみなさまを裏切る形になってしまって大変心苦しく思っています。言い訳に聞こえてしまいますが、写真を撮られたのが交際5日目ぐらいで、オフの為にプロデューサーや事務所にも報告出来ていませんでした。どのようにファンのみなさまへ報告しようかと、相談している最中にこのような報道が出てしまったのです。お相手の方も、こんなことになるとは思いもよらずにいたようで、大変驚いていました』
マジでビビりました。
『しかも、お相手の方の家の付近にマスコミの方が居たようで、これ以上迷惑にならないように、私はここに来ました』
よし順調だ。
『私達は交際を始めたばかりですが、彼は素の私をさらけ出せる、とても信頼出来る方です。これ以上彼に迷惑がかかることがあれば私は引退も考えています。それぐらい大切な方です』
なんか恥ずかしいな。
『ステージの上やテレビでは、これまで以上の【アイドル・高垣楓】を披露していくつもりです。ですので、プライベートの高垣楓は温かく見守ってください。よろしくお願いします』
深々と頭を下げる楓にフラッシュだ焚かれる。そのタイミングで美城さんがマイクを持つ。
『346プロとしても、高垣楓に引退されては困る。ですので、交際相手に関しては取材等はしないで頂きたい。どこのマスコミが相手の家の付近に居たかも把握している』
これは小町と一色の手柄だ。それに可惜夜月とセクシーギルティにも感謝だな。
『某週刊誌とだけ言っておこう。まったく、昔は政治・経済に切れ込む素晴らしい記事を書いていたのに…、嘆かわしい』
美城さん、それ言ったら特定出来ちゃいますよ。
楓への質疑のタイミングとなったのだが、記事達がザワザワし始めた。始まったか?手元の携帯でテレビを見ると、東京地検特捜部の方々が国会議員事務所に入っていく。雪ノ下の情報通り、タイミングばっちりだ。
『どうやら、アイドルの記者会見どころではないようなので、ここで打ち切らせてもらいます。以後はこちらからも情報は出来るかぎり提供させていただきます』
こんなに思惑通りに行くとは思わなかった。
会見が終わり、楓が部屋に戻ってきた。
「八幡さん!」
抱きついてくる。
「おう、お疲れさん」
「ちゃんと出来てましたか?」
「おう、出来たぞ」
頭を撫でると、ご機嫌なご様子。
続いて、美城さんも入ってきた。
「お疲れ様でした」
「君の計算通りと言ったところかね?」
「ここまではそうですね。あとはファンやマスコミの反応ですね」
「そうだな。だが、大丈夫であろう。アイドル・高垣楓は我々が、素の高垣楓は君が。それぞれ守ってあげればいい」
「そうですね」
ポンと、美城さんが手を叩いた。
「高垣君、この後はオフのだが明日・明後日の打ち合わせを担当プロデューサーとしてきたまえ」
「は~い」
返事をして楓は部屋を出ていった。
「まったく、君の前だと高垣君は子供だな」
「そうですね、それでいいと思います」
「ほう」
「楓は若くしてモデルになり、今はアイドルです。色々と置き去りにしてきたモノがあるでしょう。それでも、あれだけ輝いていた。俺と付き合うようになってからは、さらに輝くようになった。きっと置き去りにしてきたモノを手にしたからかもしれません」
「それが恋愛だと言うのかね?」
「まぁ、それだけではないでしょうけどね。ただ、俺は楓が置き去りにしてきた以上のモノを彼女にしてあげたいと思っています」
「なるほど。君のような恋人がいれば、ますます彼女は輝けるかもしれないな」
「そうなりたいと思っています」
「うん、いいだろう。ここへ二人で行ってきなさい」
美城さんから渡されたのは店名と住所が書いてあるメモ。
「ウチで使っている貴金属店だ。彼女に虫除けでも買ってあげたまえ」
「ありがとうございます。そう考えていたところです」
「それと、落ち着いたら私のオフィスへ来てくれないか?」
「それは何故ですか?」
何?やっぱり別れろとか言わないよね?
「そう警戒しないでも大丈夫だ。高垣君の今後の活動について意見を聞きたい」
「なるほど。それでしたらお伺いします」
扉が開き、楓が戻ってきた。
「では美城さん。早速行ってきます」
「話は通してあるから店内は大丈夫だが、他ではちゃんと変装してバレないようにな」
「わかりました。では、失礼します」
美城さんに一礼して部屋を出る。
「八幡さん、どこへ行くんですか?」
「ん?楓に虫除けを買うんだよ」
「虫除け?」
「行けばわかる」
「教えてくださいよ!」
そう言いながら腕を絡めてくる。
やっと、楓が帰ってきた気がした。