な、なんで雪ノ下がここに!
「あら、私の声を他の人と間違えるなんて、目だけでなく耳まで腐ってしまったのかしら?それに、今は雪ノ下ではないのだけど。ごめんなさい、脳も腐っているのね」
…なんだ、この違和感。
「お、おう、すまん」
「まぁそれはいいわ。それで、比企谷君はこんなところで何をしているのかしら?」
楓のことを言う訳にはいかないな。
「し、知り合いが、買い物をしててな、待っているところだ」
「知り合い?アナタに知り合いなんているのかしら?」
なんだ、何故だ、無性に腹が立つ。
「ま、まぁ、居るんだよ」
「本当かしら?もしかして、私のことストーキングしてたのかしら?気持ち悪い」
あぁ、そうか。俺は雪ノ下に憧れや恋心を持っていたんだ。だから、こんなやり取りも楽しめた…。でも、楓に出会えて、高校生の恋から脱け出すことができた今は苦痛でしかない。
「そ、そんな、訳、ねぇだろ…。俺は待ち合わせしてるんだ。じゃあな」
頼む、行ってくれ…。
「せっかくの元・部活仲間との再会を邪険にするのね。アナタはそんなんだから、いつまでたってもボッチなのよ」
やめろ…その声で罵倒するな…。
「やめて…くれ…」
「なんですって?聞こえないわ。まともにしゃべれなくなってしまったのかしら。あぁ、普段から話す相手がいないから退化してしまったのね」
やめろ…。俺をその声は俺を優しく包んでくれる声なんだ。罵ったり拒絶する声じゃないんだ。
…ダメだ。
「やめろって言ってるんだよ!」
思わず声を荒げてしまった。
「!!ご、ごめんなさい、そういうつもりじゃ…」
「じゃあ、どういうつもりなんだよ…」
ダメだ、自分で自分を止められる気がしない…。
「そ、それは…」
もう爆発しそうだ…。
「お待たせしました。…八幡さん?」
声のする方には楓が居た。
「楓…」
「どうしたんですか?怖い顔して…。それと、そちらの方は?」
楓が雪ノ下の方を向くと、雪ノ下は少しあわてたようだった。
「あ、あの…」
「高校で部活が一緒だった雪ノ下だ」
「あぁ、あの雪ノ下さんですか。でも、ご結婚なされてたので名字が変わったのでは?」
「クセが抜けなくてな。それについてはさっき了承してもらった…たぶん」
あれ?どこまで話たっけ?雪ノ下のこと。
「初めまして。私は高垣楓と申します」
「た、た、た、高垣…か、楓…さん」
楓の名前を聞いて、さらに雪ノ下は動揺しているようだ。そりゃそうだ。
「ひ、比企谷君とはどういうご関係なんですか?」
あ、それ聞くのね?って、だいぶ冷静になってきたな。雪ノ下がテンパってるのを見ていたからだな。
「はい、八幡さんとはお付き合いしてます」
あぁ、言っちゃった。
「そ、それは買い物に付き合うとかの…」
「いいえ、男女交際です」
涼しい顔して言うなぁ。なんか笑顔だし。
「う、嘘よね、比企谷君…」
「…嘘じゃねぇよ」
雪ノ下はノックアウト寸前だな。
「た、高垣さんは、この男に弱味を握られて脅迫されてるんですね。それなら…」
今まで笑顔だった楓の雰囲気が一変した。
「そんなことする人ではないのは、雪ノ下さんの方がご存知なのではないですか?」
「そ、それは、そうですけど…。いつも比企谷君とはそういうやり取りを…」
「今まではそうだったのでしょう。でも、さっきの八幡さんの顔は苦しそうでしたよ」
いかん、ここは公衆の面前だ。楓はアイドルとして、雪ノ下は議員の妻としての顔がある。
「楓、ストップだ」
「でも…」
「楓の気持ちは嬉しい。だが、ここはデパートの入り口だ。これ以上は迷惑になる」
「…わかりました」
「ありがとな、楓」
雪ノ下の方に向きなおる。一言だけ言わせてもらうか。
「俺はもう雪ノ下の罵倒には耐えられない。そういう関係でもない。今の俺には楓が居てくれるんだ。じゃあな」
「待って比企谷君!違うのよ!」
何が違うだよ…。もう振り返らない。
「さよならだ、雪ノ下」
俺が歩き出すと、楓は雪ノ下のところへ行き、一言二言声をかけて戻ってきた。
「何を雪ノ下に言ったんだ?」
「乙女の秘密です」
そう言って、手を繋いできた。所謂、恋人繋ぎで。
部屋に戻りドアを閉めると、激しいキスをされた。
「ど、どうしたんだ、楓」
「恐かったんです…」
え?
「一瞬、思ってしまったんです。八幡さんが雪ノ下さんに盗られてしまうんじゃないかって…」
俺は楓を不安にさせてしまったんだな。今度は俺からキスをした。
「大丈夫だ、そんなことはない」
「ごめんなさい、疑ったりして…」
「気にするな。俺の方こそ、不安にさせて悪かったな。俺は楓だけの俺だ」
「じゃあ、証明してください…」
「証明って、どうやって…」
「…あ、あの…ベッドで…」
楓って、意外と積極的だよなぁ。
「覚悟しとけよ」
「はい」