ドールズフロントライン ~マリッジ・ロワイアル~ 作:弱音御前
ここから模擬戦開始となりますので、戦術人形達の活躍をどうかお楽しみください。
前回のマリッジ・ロワイアルは・・・
「皆を幾つかのチームに分け、特設フィールド内で戦闘を行ってもらう。対鉄血とは違った戦闘の中で各々の友好関係を築いて欲しい、というのが目的の演習だ」
「アイツを指導するのに、これほどおあつらえ向きの舞台は無いわ」
「もう、指揮官ったら朝っぱらからどこ行ってるのよ。もう! もう!」
『指揮官は我々Bチームが預からせてもらったわ』
『そして本日、これより行われるのは単なる訓練ではない。この戦いに勝利した者が指揮官とお揃いの指輪を受け取る権利を得るのだと、ここに宣言するわ!』
「アナタの話しに乗ってあげる。勝ったチームにこの指輪を譲渡するわ」
「もちろん、渡すつもりなんて無いわよ。誰が相手だろうと、この指輪を狙うのなら叩き潰してやればいいだけだから、受けて立たない理由なんて無い。そうでしょう?」
演習開始から5分 Aチーム〝Zephyr小隊〟
「ある~ひ~ もりの~にゃか~ グリズリ~に~ であ~にゃ~」
ガサガサ パリパリ。
演習に使われる特設フィールドは、人間の居住区そのものを2キロ四方、丸々切り取って持ってきたのではないかというほど精巧に再現されたものだった。
対面型の片側二車線道路は上空から見ると碁盤の目状にブロックを仕切り、それに沿って大小の様々な建物が綺麗に立ち並んでいる。
「はなさ~く~も~り~の~み~ち~ グリズリ~に~で~あ~にゃ~」
ゴソゴソ ポリポリ
店先の花壇には色とりどりの花が飾られ、車道の脇には路肩駐車をしている車もある。
さすがに屋内の生活感を再現するには予算が足りなかったのか、建物の内部は伽藍洞のようで、ついさっきまで人々がここで生活を営んでいたかのような香りすら感じる事ができる。
そんな中に戦術人形4人しかいないというのは、とても不気味なものだ。
いっそのこと、戦闘の痕跡でもあればまだ現実味を得ることも出来るのかもしれない。
「わたしの~ おはかのま~えで~ にゃ~か~にゃいで~くにゃさい~」
ビリビリ ガサゴソ ボリボリ
「んもう! あなた達、いい加減にしなさい!」
そんな静寂を切り裂き、突如としてFALの怒号が響き渡る。
FALが青筋を立て始めてから、5分くらいは我慢できるだろうという予想だったのだが、目標時間まで残すところあと1分。
ちょっと惜しかった。
「IDW! その訳の分からない歌は止めなさい! すごく耳障り!」
「ヒドイこと言うにゃ~。できるだけ相手の注意を引くように、目立ちながら進行しろっていうから歌ってただけなのにゃ」
「にしたって、もうちょっとマシな歌あるでしょう? あと新人の・・・アナタ。いつまでお菓子食べてるのよ。戦う気あるの?」
FALが指差す先には、ビッグサイズのポテチ袋を抱きかかえた女性の姿。
ポテチ袋に負けないくらいビッグサイズなお胸とスタイリング。そして、見るからに堅牢そうな盾と長身の銃火器を携えているところから、彼女の銃種は容易に判断できる。
「私の名前は〝SPAS-12〟です。スパスって呼んで下さいね。ポテチ、食べます?」
「いらない。なんか、アナタが食べてるの見てるだけで胸焼けしてくる」
うんざり顔で断られると、スパスはちょっと残念そうにしながらもちゃんとFALの言う事に従って袋を片付けはじめる。
彼女、スパスは同行している3人の中で唯一、45が任務を共にした事がない戦術人形だ。
着任して間もない戦術人形ということもあって戦績が少なく、実力を判断する材料に乏しい。
普段なら、45がさほど気にすることもないヒヨっ子戦術人形である。
・・・ただ、45は今でも鮮明に覚えている。
スパスがIOPのラインナップに登場した当日、基地の資材を溶かしに溶かしまくった末、彼女の製造に成功した時の指揮官の歓喜に満ちた表情を。
だから、この目で彼女の価値を見定めてやろうと思い、45はスパスに自分と組むように指示をしたのだ。
今のところ、配給をやたらに消費するだけの置物、というのがスパスへの評価である。
「それを言ったらFAL、あなたの服装だって戦う気あるの? って感じなんだけどね。
これからデートにでも行くのかしら」
「これがデフォルトなんだから仕方ないでしょ!? そういうのはウェディングドレスなんか着て戦ってる奴らに言ってやりなさいよ!」
ぷいっ、とFALが顔を背けるとIDWとスパスから笑みが零れる。
4人の空気が少し緩んだところで・・・それは、まるで計ったかのようなタイミングだった。
先頭に立つ45の〝全員構え〟のハンドサインを確認し、3人は即座に銃を構える。
およそ100メートル先、交差点に面した店の角に滑り込む人影を45の眼が捉えたのだ。
これだけ生気の無いフィールドである。動くモノがあればいくら遠くても目についてしまう。
IDWとスパスに合図を送ると、2人は警戒しつつ前進し45の左右についた。
45、IDW、スパスがフォワードで壁をつくりながら前進し、後ろにつくFALが自慢の火力で敵をハチの巣にするという、限られた戦力で立てた陣形だ。
「相手が誰なのか見えたのかにゃ?」
「ヒラヒラとした服の裾くらいしか視認してないわ。かなりすばしっこいから、ハンドか
サブの子かしら。あの桃色マシンガンじゃあないのは確かね」
陣形を乱さず、4人でジリジリと間合いを詰める。
相手が何人で攻めてきているのかは分からないが、しっかりと固めている手勢を前にそう易々と仕掛けてくる事など出来ようはずも・・・
「横っ腹がガラ空きだ~!」
それはまさに青天の霹靂。
ガシャーン! と、45達のすぐ真横、ブティックのショーウィンドウをぶち破って何者かが飛びだしてくる。
「なっ!?」
演習とはいえ、あまりにも無茶な強襲に度肝を抜かれる45。
こんな事をしでかすお転婆娘はグリフィン内でもそう多くない。
黒髪のツインテールで、ヒラヒラした服を着ているとなれば、もはや該当者は只一人。
ご存じ、元気いっぱい97式である。
「アタッカー1人いただき!」
「っ!?」
97式が飛びだしてきたのはフォワード3人とFALとの間。数メートルの至近距離だ。
虚をつかれた事もあり、全員、すぐには反撃に移れない。
FALに向けられたライフルのトリガーが今まさに引かれようとするが・・・
「ふぎゃあ!?」
その前に、97式は飛び込んできた勢いのままに顔面から地面にズテ~ン。
着地の際、歩道と車道との段差に足を取られちゃったのである。
足元に滑ってきた97式のライフルをFALはそのまま相手のゴールに向けてシュ~ト。
超エキサイティン!
「こら~! 私の銃を蹴飛ばすなぁ!」
「黙りなさい。舐めた真似してくれた代償、高くつくわよ」
4つの銃口が97式を取り囲む。
空手となっては成す総べ無しと観念したのか、赤くなった顔を押さえながら97式は身体を起こし、大人しく地面に座りこんでいる。
「えっと、ホールドアップは有効なのかな?」
「いいわよそんなの。グレネードで吹き飛ばした後にハチの巣にしてやるわ」
驚かされた事が相当悔しかったのか、いつも以上に攻撃的になっているFAL。
見ている分にはちょっと面白そうな制裁だが、演習とはいえ本当にそんな暴挙をやられたら洒落にならない。
「落ち着きなさい、FAL。弾薬補給も限られてるんだから、こんなのに無駄弾使う事も無いわ。降参させれば十分よ。まぁ、その前にそっちのチームのメンバーを教えてもらわないとだけどね」
戦闘に置いて、情報は欠かす事の出来ない武器である。
この演習の場合はBチームのメンバーを知るというのが最重要だ。
それが分かれば相手が考えそうな作戦にアタリをつける事ができ、侵攻時のリスクを減らすことも可能になる。
「そんなの教えるわけないじゃん。そもそも、私、降参したなんて言ってないもん」
「ほら、こういう聞きわけの無いヤツは1度思い知らせてやった方がいいのよ」
明らかに劣勢であるにも関わらず、97式は強気な姿勢を崩さない。
単に負けず嫌いなだけか。
或いは・・・この状況を打開できると確信しているからか。
「全員、警戒!」
45が本能的に叫んだ直後、銃声が周囲の静寂を切り裂いた。
皆、一斉に銃声の聞こえる方向に銃口を向ける。
もう、97式は無効化したと誰もが思いこんだが故に、銃声へと完全に意識を向けてしまう。
結果、それが仇となった。
97式は勢い良く立ち上がると、真正面のFALに向かって踏み込む。
「往生際が悪い!」
それに気付いたFALが銃口を振るが、97式はそれを掻い潜ってクロスレンジに持ちこむ。
踏み込んだままの勢いで97式がFALに身体をぶつけた。
「FAL!?」
FALの身体が後方に勢い良く吹き飛ばされ、陣形が完全に崩れる。
細身の97式の、たかが体当たりで、なぜ?
45の思考が軽くパニックを起こしている隙をついて、97式は姿勢を低くして駆けだす。
向かうその先には、FALが蹴飛ばした97式のライフルが。
「させにゃいにゃ!」
させまいといち早く反応したIDWが97式の行く手を塞ぐように立ちはだかる。
「ふふん」
不敵な笑みを浮かべつつ、97式は足を止めない。
「そこで止まるにゃ!」
自分に向かってくる相手に銃口を合わせつつ再度警告。
聞く耳をもたない相手なのは分かっているのだから、さっさとトリガーを引いてしまえばいい。
「とと、止まれって言ってるにゃ~!」
しかし、優勢に立っている筈のIDWの方が明らかに動揺を見せている。
その気分は45も理解できる。
事前のルール説明において参加者の安全は確保されているようだが、これは実弾を用いての模擬戦であり、それを向けているのは鉄血ではなく共に戦ってきた仲間なのだ。
特に仲間想いであるIDWの事だ、仲間に向けて引き金を引きたくないという考えが過ぎってしまうのだろう。
結局、躊躇しているうちにIDWは97式に間合いを取られてしまう。
銃身を掴まれて無効化されると、97式はIDWの背後にスルリと回り込む。
そして、そのまま走り抜けていってしまうのかと思いきや、なんとIDWの身体を抱き上げてしまった。
「にゃにい!?」
小柄なIDWなので、まるで抱きかかえられたぬいぐるみ状態。
そして、その真正面には銃口を向けたスパスの姿。
「戸惑う事は無い。私の身体ごと、97式を撃ち抜くのだ~」
「そんな事言ってないにゃ~! やめにゃ~!」
腹話術風にIDWを盾にしながらジリジリと後退する97式を前に、スパスもやはりトリガーを引く事を躊躇っている。
45だったらめんどくささに負けて撃っているところだが、これは性格上仕方ない事だろう。
「はい、返すよ~」
そうして愛銃の元に辿りつくと、97式はIDWをスパス目掛けて放り投げる。
柔らかなお胸にぽよんと着地してIDW無事解放。
「させない!」
銃を拾わせまいと、ようやく射撃線を確保できた45がフルオート射撃を見舞う。
片膝をついた精密射撃体勢ではあるが、しかし、すばしっこさとヒラヒラ舞う服の裾に翻弄されて無念の全弾ハズレ。
「へっへ~、鬼さんこちら~」
銃を拾い上げると、97式はそのまま正面の店舗のショーウィンドウをぶち破って再び店内へと姿を眩ませてしまった。
「あのガキ・・・絶対に思い知らせてやるんだから!」
砂埃まみれの服を払いもせず、怒りの声をあげながら97式の後を追うのはFAL。
襲撃された事といい、吹っ飛ばされたことといい、もう怒り心頭で周囲が全く見えていない様子で、45達の方には眼もくれず店内に1人で突撃してしまう。
「もう、あんな安い挑発に乗って。ガキなのはどっちよ」
鉄血との戦闘ではあれほど感情的になるような性格ではないのだが、思わぬFALの一面を垣間見て45は頭を抱える。
「2人は平気かしら?」
「スパスがキャッチしてくれたから大丈夫にゃ。ありがとうだにゃ」
「気にしないで。みんなを護る事が私の役割だから」
道路の先、もう1人の襲撃者からの銃撃を防げるように路駐してあるトラックの影に身を隠し、ひとまず3人で互いの無事を確認する。
『こちらYankee。Zephyrどうぞ』
そんな矢先、45の持つ通信機から声が流れる。
別働隊、Yankee小隊のM16からである。
「こちらZephyr。忙しいので手短にどうぞ」
『つれない事言うなよ。こっちまで銃声が聞こえてきたから、心配して連絡してやったんだ。増援が必要か?』
「接敵したのは97式だけ。あと、たぶん近くに95式も潜んでる。こっちでなんとかするから、増援は不要よ。で、そっちの状況は?」
『誰が待ち構えてるのかは想像に容易いけど、今は静かなもんさ。まぁ、これはレクリエーションの一環なんだ、気楽にやっていこう。ってところで、通信終わりぃ』
互いに言いたい事、聞きたい事だけのやりとりだけ交わして通信を終える。
過度な心遣いは無用。今はこの状況を自分たちでどう切り抜けるかが重要である。
「2手に別れましょう。1人はFALを追いかける。2人はこの道路の先にいるヤツを押さえる」
「うん、それなら45ちゃんとIDWちゃんで組んで行ってきて。一直線の道路を進むなら、足の速い二人の方が良いし。屋内の戦闘だったら私の得意分野だもの」
スパスの考えに45は同意だ。
これくらいの考えに至って普通の事。FALと合流して、97式を叩きのめして2人で無事に戻ってくる。ここまで出来てようやく45はスパスに対しての評価を改めるつもりである。
「FALを頼むわ。ほら、行くわよIDW」
「相手にとって不足にゃし! レアリティ下剋上にゃ~!」
スパスの背中を見送ると45はIDWを引き連れ、銃撃が止み、耳が痛いほどの静けさを取り戻した市街地を進むのだった。
~NEXT マリッジ・ロワイアル~
「ここからショーの始まりだよ!」
開幕の銃声
「は? 謝るだけで済むと思ってんの?」
恫喝するベテラン
「はい、FALさん脱落~」
死の宣告
「以上、解散! ですって」
そして・・・別れ
マリッジ・ロワイアル 第3話 Coming Soon
戦闘の表現が難しく、書き方がどうも安定しなくて悩んでいる今日この頃・・・
次回もどうぞお楽しみに