ドールズフロントライン ~マリッジ・ロワイアル~   作:弱音御前

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どうも、先日、スピード違反をくらってしまって悲しみブルーな弱音御前です。

年末に差し掛かり、忙しくて大変ですが落ち着いて日々を過ごしていきましょうね(切実)。

今回のお話もアプリ消化の片手間にでもお楽しみいただければ幸いです。


マリッジ・ロワイアル 6話

 前回までのマリッジ・ロワイアルは・・・

 

 

 

『これより行われるのは単なる訓練ではない。この戦いに勝利した者が指揮官とお揃いの指輪を受け取る権利を得るのだと、ここに宣言するわ!』

 

 

 

「はい、お互いに同意って事で話しはお終い! 投降の意思を承諾するわ」

 

 

 

「97式に指揮の全権を預けていましたので。頭を押さえられてしまっては、私にはもうどうしようもありません」

 

 

 

『こっちは平気だから、M16だけ先に行って』

 

 

 

「私はグリフィンの戦術人形の中で一番指揮官の事を想ってる自信がある」

 

 

 

「アナタが私に情報をくれる代わりに、私はアナタが欲しいものをあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演習開始45分 Aチーム X-ray小隊

 

「安全確認です。スプリングフィールドさん、はやくはやく~」

 

「もう少し落ち着いて、テンちゃん。急いては事を仕損じるって言うのよ」

 

 薄暗いビルの中に2人の声が小さく反響し渡る。

 後続を急かす元気一杯のちびっ子はハンドガン〝ブレン・テン〟。見た目にはちょっと危なっかしいが戦闘の際には頼りになる戦術人形である。

 そんな、拳銃界の希望の星に続くのは〝スプリングフィールド〟。やんちゃっ娘を上手く扱えるのは彼女だけという事で引率役に任命されたわけである。

 Bチームの主導者ネゲヴはスタート開始点であるフィールド最北のオフィスビルに籠城する、というのがAチームの読みだ。

 そこで考えた作戦として、Zephyr小隊、Yankee小隊で出来る限り敵を引きつけつつ進行し、その間に、2分割したX-ray小隊をオフィスビルを狙える2箇所に配置、狙撃準備が整い次第、

Zephyr小隊とyankee小隊に合図を送って突入を援護するというものだ。

 スプリングフィールド、ブレン・テンの2人は接敵することも無く、目標の5階建てアパートまで辿りつき、ひとまず、作戦は順調に進んでいるといったところだ。

 オフィスビルの一面が確認できる窓に陣取ると、ビルの様子を確認しつつ狙撃環境の設営に取りかかる。

 

「テンちゃん、念の為、周囲の警戒をお願いね」

 

「分かりました! スプリングフィールドさんは私がお守りしますので、どうぞご安心を!」

 

 そう言って、ブレン・テンは隣の部屋へ消えていく。

 接近戦に難のあるライフルの護衛役として付けたので、もっと近くに居て欲しいのが本心だが、ブレン・テンの自主性も尊重してあげたい、というお姉さん気質のスプリングフィールドは口を挟むような事はしなかった。

 

(Bチームの姿は見えないわね。でも、これは確かに陣取るには絶好の建物だわ)

 

 9階建てのオフィスビルは他の建物と比べて高さも面積も段違いの規模を誇る。中はからっぽなのか、それとも様々なオブジェクトが配置されているのか、スコープ越しには確認できないが、どちらにせよ護りを固められたら攻めあぐねる羽目になるのは確実である。

 

「こちらX-ray1。ポイントに到着しました」

 

 通信機で他チームに連絡を送る。通信は迅速に、というのがグリフィンの習わしであるが・・・しばらく待っても誰からの返事もない。

 

「こちらX-ray1。Zephyr小隊、Yankee小隊、X-ray2、どうぞ」

 

 ・・・やはり、通信機の向こう側からは誰の声も返ってこない。

 ただ、耳障りなノイズだけがスプリングフィールドの耳をくすぐる。

 

(みんな脱落した? でも、それならどこからか救難通信が来たはず。なんの音沙汰も無しにやられるような娘たちじゃない)

 

 依然として流れ続けるノイズ音が、スプリングフィールドの不安を否が応にも煽ってくる。

 作戦変更。仲間の安全を確認するのが優先というのが彼女の出した答えだった。

 

「テンちゃん、緊急事態よ。みんなと合流するから、急いでここから移動しましょう」

 

 素直な性格であるブレン・テンは元気良い返事とレスポンスの良い動きが長所で、そんなところがみんなからも愛される一番の理由だ。

 ところが、そんな忠犬じみた彼女からの反応は皆無。

 スプリングフィールドの声は、剥き出しのコンクリートに染み込んでいくだけだ。

 

「テンちゃん、遊んでいる場合じゃないのよ? 早く出てきなさい」

 

 そう言いつつ、身体は自然とライフルを構える。

 彼女が呼びかけに応じる事はないと、冷たいようだが、スプリングフィールドの本能はそう悟っていた。

 ブレン・テンが出ていった扉に歩み寄る。足音を、気配を、呼吸を殺し、ゆっくりゆっくりと扉に近づき押し開く。

 ギィ、と気味の悪い鳴き声を上げて開いた扉の向こうは、フロアの部屋同士をつなぐ廊下が真っ直ぐに伸びている。

 銃口を向けながら左右を探るが、人影は無い。その代わり、スプリングフィールドのいる位置の向かい側、左に4つ分離れた1室の扉が開けられている。

 その扉の隙間からは足が覗いていた。見覚えのある、ブレン・テンの足である。

 思わず声をあげてしまいそうになったのを寸でのところで飲みこむ。

 敵が近くに潜んでいるのは確実で、これ以上こちらの動向を知らせるような真似をするわけにはいかない。

 

(音も無く、これだけ素早くテンちゃんを倒すとは。かなりの手練ね)

 

 相手が誰か、人数も、どこに潜んでいるのかも分からない。

 それでも、臆することなくスプリングフィールドはブレン・テンの元に近付いていく。

 銃口から先に覗かせるように室内の様子を確認すると、部屋の中はこのフロア中の別室と同様にからっぽで、敵影も確認できない。

 

「テンちゃん、大丈夫?」

 

 呼びかけに全く反応を示さないブレン・テンを抱き起こす。

 すぅすぅ、とよだれを垂らしている寝顔を見て、大きく息をついた。

 スプリングフィールドはここまで交戦を行わずに来たので、当然、シールドがブレイクするとどうなるのかも知らなかったのである。

 

「なるほど。運動能力を奪う、とはこういう事なのね」

 

 ブレン・テンの身体にケガがない事を確認すると、スプリングフィールドは脱いだ上着を床に敷いて、身体が冷えないようにその上に彼女を寝かせてあげた。

 Aチームは全員作戦行動中なので増援は見込めないだろうが、せめて状況だけは伝えておかなければならない。

 再び通信を試みようとした・・・その矢先だった。

 

「っ!?」

 

 背後に微かな殺気を感じ、振り向き際に銃口を向ける。

 その先には何者の姿も無いが、すでに身を隠した後だろう、誰かしらが居たのは間違いない。

 

 (隠密行動が得意な娘は私とは相性は最悪。けれど、やるしかないわね)

 

 部屋の壁に背を預け、ゆっくりと廊下を覗きこむ。

 真っ直ぐに伸びた廊下の先は薄暗く視認しづらいが、人影は視認できない。

 フロア内のどこかの部屋に潜んでいる、という可能性の方が高いだろう。

 閉じているドアを開けてしらみつぶしに調べていくのはリスクが大きいが、無理に撤退しようとして背後から襲われるよりは幾分かマシである。

 どちらにせよ、この建物から生還できる可能性が低い事くらいスプリングフィールドは理解しているつもりだ。

 まずは手近な部屋から、と一歩廊下に踏み出す。

 ・・・そこで、ふと、違和感に気が付いてしまう。

 

(天井の通気口、開いていたかしら?)

 

 意識していなかったので、もしかしたら初めから開けっぱなしだったのかもしれない。しかし、戦場においては常に最悪の状況を想定しておくというのが定石である。

 空調からの風は通気口を通って同じフロア内の各部屋へと分配されるため、通気口はフロア内の全ての部屋と繋がっている。

 もし、スプリングフィールドの違和感が正しくて、さっきまで閉じていた通気口が開いていたというのなら・・・

 

(背後に回りこまれる!)

 

 背筋が一気に凍り付いたのと同時、パパパッ、という風切り音の様な銃声と共に背中に5発分の被弾衝撃を受ける。

 

「くっ!?」

 

 視界がオレンジ色のシールドに覆われながらも、スプリングフィールドは被弾の勢いに押されるようにそのままはす向かいの部屋へ転がり込んだ。

 倒れ込みながら押し開けた扉を蹴り閉めて追撃を防ぐ。

 すかさず銃口を天井の通気口に向ける。少しでもフタが動く素振りを見せれば、躊躇う事なく指を引けるよう神経を研ぎ澄ませる。

 

「私とした事が、油断しすぎね」

 

 シールドがオレンジ色から回復してくれる様子が全くない。

 ハンドに次いで耐久が低いライフルとはいえ、たった5発でこれだけ耐久を削る高火力。加え、銃声を抑えるサプレッサーを標準装備している隠密仕様。

 Bチームからの映像メッセージを思い返せば、該当する戦術人形がおのずと見えてくる。

 

「9A91か。覚悟しないと」

 

 アサルトライフルの中でも特に隠密作戦能力に優れる彼女と1対1の状況は、頭の中でどうやってシミュレートしても自分が勝てる展開は思い浮かばない。

 しかし、勝てないながらも、負けない戦いという事はできる。ここに籠城して、仲間が助けに来るまで耐えれば9A91を退けることも可能だ。

 扉と通気口、この2つを護ってさえおけば9A91は室内に踏み込めない。ワンルームタイプのアパートの為、守備範囲が狭いというのも幸いである。

 希望が見えて、心に安堵の光が灯る。

 まるで、光を求めるかのように自然と窓の外に眼を向けて・・・そこで、スプリングフィールドを射抜く青い瞳とガラス越しに視線が交錯する。

 

「っ!?」

 

 窓の外に9A91がいる。上階からリペリング降下してきたのだろうその執念に恐ろしいものを感じてしまう。

 銃口を向ける暇すらも与えて貰えない。

 窓ガラスが砕け落ちるのと同じく、自分のシールドが割れる様を見て、スプリングフィールドの意識は真っ暗な海に落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 Bチーム 9A91

 

 標的2つが沈黙した事を確認すると、9A91は階下まで一気に降下する。

 着地寸前でカラビナをロープから外し、着地すると同時に弾き飛ばされたかのような勢いで駆けだす。

 一切の無駄が無いその動きは、他の戦術人形が見ても惚れ惚れする程である。

 まるで、氷の上を滑っているかのような華麗さで走りながら、腰元にぶらさげた通信ジャミング装置の電源をオフにする。

 演習では、戦術人形各々の本来の装備品以外(趣向品やおやつは除く)の持ち込みは禁止されている為。9A91が持つこの装置も演習に持ち込む事はできない筈の装備である。

 だが、これはフィールドに置かれている様々な自動車の部品を集めて組みあげた9A91自作のジャミング装置だ。有効範囲は狭いが、効果は実証済み。Aチームの別働隊に知られる事も無く、9A91は2人を仕留めてみせたのだった。

 

「ブレン・テン、スプリングフィールドの両名をダウン。次のポイントに移ります」

 

 やるべき事はすでに心得ているので、通信機からの返答は待たない。

 向かうは、X-ray1の2人が潜んでいたアパートビルから東に3ブロック進んだ先、10階建てのマンション。ターゲットはX-ray2、100式とダネルNTW-20だ。

 建物と自動車の影から影へと渡るように市街地を駆け抜け、3分足らずで目標のマンションに辿りつく。

 HK416が聞き出した情報によると、X-ray2はマンションの上層階を狙撃ポイントとしているらしい。

 ネゲヴの作戦においてはダネルが一番危険な存在になる為、優先目標を彼女と定め、9A91は高層マンションへと潜入を開始する。

 真っ先に向かうのはエレベーターフロア。隠密行動にエレベーターを使用するなど言語道断と思われるかもしれないが、9A91の場合はそもそも使い方がズレている。

 ナイフをドアの隙間に差しこんでこじ開けると、目前に広がるのは巨大なシャフト。遥か頭上真っ暗闇から伸びるメンテナンス用のハシゴに飛び移ると、脇目も振らずに昇りはじめる。

 一見して、機械のように淡々と任務をこなしている9A91であるが、その頭の中は常に指揮官の事で一杯だ。

 陽の当たらない存在だった自分に手を差し伸べてくれた優しい人。そんな彼と出会った日から、9A91はすっかり彼の虜になってしまっていた。

 いつも、自分の事を気にかけてくれていた彼は、しかし、最近は指輪を送った相手である45の事ばかり見て、自分の事を見てくれなくなってしまう。

 指輪があれば、指揮官はまた自分を見ていてくれる。あの温かな視線を独り占めできる。そんな想いから、9A91は必勝の策があるというネゲヴの話しに乗って同じチームで演習に参加する事を決めたのである。

 最終的にBチームに指輪が渡った場合、最も撃破数の多い者が指輪を獲得するという決まりがチーム内で取り決められている。さきほど2人を倒し、ここにいる2人も倒せば撃破数は4。それでもトップ確実というわけではないので、その後、迅速に次の標的の元に向かわなければならない。

 9A91にとって、無駄は1秒たりとも許されない過酷な演習なのである。

 

「指揮官、待っていて下さいね。指揮官、指揮官」

 

 想いがついつい口から溢れつつもハシゴを昇り続け、9階にさしかかったところでハシゴから扉へ飛び移る。

 耳を当てて向こう側に敵の気配が無い事を確認すると、扉をこじ開けてフロア内に侵入。

 さっきのアパートとフロア構造こそ似ているものの、圧倒的に広いせいで見通しが良く、身を隠しづらい。今まで以上に慎重な行動が必要となってくる場所だ。

 罠を警戒しつつ階段を昇って10階へ。

 再びジャミング装置の電源を入れ、フロアへと足を踏み入れる。

 10階は住人の共有スペースとして設計されているのだろう、階下のように部屋毎に区切られているのではなく、1フロアが丸々吹き抜けになっている。遮蔽物は天井を支える太いコンクリートの柱が等間隔に設置されているだけなので、隠密難易度が更にアップである。

 

「良い場所だ。これだけ見晴らしが良ければ、狙撃に支障は無いな」

 

「私ももっと射程が長ければ狙撃のお手伝いが出来たのですが。お役に立てずごめんなさい」

 

「適材適所というやつだ。接近戦になった場合には100式に頼らなくてはならなくなる。その時は頼むぞ」

 

 9A91の右手、柱を何本も挟んだ先の窓際に会話している2人を視認する。

 銃を構え、存在を殺したまま近づいてゆく。

 

「ん~・・・到着の連絡を入れようと思ったんですが、通信機の調子が悪いみたいですね。誰からも応答がないです」

 

「ここは電波が届きづらい場所なのかもな。このフロア内で場所を変えてみたらどうだ?」

 

「そうですね。ちょっと移動して試してみます」

 

 会話の通り、100式が通信機を片手にダネルのもとを離れるのが確認できる。

 まずは、9A91が潜む方に向かってくる100式から手をつける事にする。

 通信機と睨めっこしながら歩いてくる100式の死角に隠れつつ、上手く背後に回り込む。

 そうして、ダネルからも十分に距離をとった位置まで離れたところで攻撃のチャンス。

 サブマシンガンはシールド耐久も高いので、秒殺するには至近弾を撃ち込む必要がある。

 3メートル・・・2メートル・・・目当ての射程まであと1歩。

 トリガーにかけた指に力を込めようとした・・・その時だった。

 ぱぁん! と、銃声とは違う小さな破裂音が9A91の足下から木霊した。

 

「「っ!!?」」

 

 9A91、100式ともに驚いたのは同時、トリガーを引いたのもほぼ同時であった。

 2つの銃声がコンクリートに反響し渡る中で真正面からの撃ち合いが展開される。

 視界に緑色のシールドエフェクトが現れ続けるが、今はそんなもの意に介さない。

 見つかってしまった以上、自身の高い火力を活かして多少のダメージは覚悟で強引に撃ち取るのが最善だ。

 

「敵襲! 9A91です!」

 

 距離を取ろうと、柱を盾に後退する100式だが、それを9A91は許さない。

 トリガーを引きっぱなしのまま、距離を一定に保つように追いこんでいく。

 

「離れろ、100式! 援護する!」

 

 銃声に紛れ、背後からダネルの声を捉えるがそれは無視。柱が遮蔽物になってまともな狙撃などできるはずはない、というのが9A91の考えだった。

 しかし、そんな風にダネルを軽んじたのが仇となってしまう。

 ズドン! と、まるで爆撃のような銃声を伴い、背後から強烈な衝撃を受けて身体が吹き飛ばされる。

 

「くっ!?」

 

 視界が赤色に染まり、景色が流転する。

 まるで猫のような身のこなしで空中で体勢を直すと、着地と同時に近くの柱に転がり込んだ。

 

「ダネル・・・予想以上に優秀ですね」

 

 相手への賛辞とともに一呼吸つき、空になったマガジンを交換する。

 互いに距離が離れたところで銃撃が止み、一時のこう着状態に陥る。

 最中、ぱん、とまたも小さな破裂音が今度は床につけた手から響いた。

 良く眼を凝らして見ると、このフロアの床にビーズのような小さい玉がばら撒かれている事に気が付く。

 恐らく、火薬を小さく丸めてコンクリート色に偽装したものだろう。一定の圧力が加わると炸裂して音で知らせてくれる、簡素な索敵トラップだ。

 

「こんな単純な罠にかかってしまうなんて・・・ああ・・・ごめんなさい、指揮官。指揮官・・・指揮官、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 膝を抱え、呪いでも呟くかのように謝罪を何度も繰り返す。特段、このような失敗を厳しく責めるような指揮官ではないのだが、超一途というか、思い込んだらかなり激しいのが9A91のメンタルなのである。

 

「100式、損傷は?」

 

「軽微です。炸薬トラップを仕掛けておいて助かりました」

 

「他にも敵が潜んでるかもしれないから、十分に気をつけろよ」

 

 いるはずもない敵を勝手に警戒してくれているのは良いが、状況は2対1でおまけに100式とダネルに挟みこまれる位置になってしまった。

 

「指揮官指揮官指揮官指揮官・・・・・・私が必ずお傍に参ります、指揮官」

 

 このようにいきなり戻ってくるのも9A91のメンタルの特徴。

 〝ちょっとアレな性格だけど、悪い子じゃないよ〟とは指揮官の談である。

 赤色ギリギリで踏みとどまってくれたシールドもオレンジ色まで回復してくれたので、100式相手ならば数発は耐えてくれるだろう。

 しかし、ダネルの直撃弾は2度目はもうシールドがもたないと分かりきっている。絶対に当たってはならない。

 ダネルの狙撃に細心の注意を払いつつ100式を倒し、単独になったダネルを仕留める。

 決心したら即行動である。

 

「指揮官のお傍で、指揮官の視線を独り占めです!」

 

 自分を鼓舞して柱から飛び出す。

 100式が隠れていると予想される柱に威嚇射撃を行いつつ、柱の反対側に回り込む。

 ダネルの銃撃で9A91が通り過ぎたばかりの柱の一角が消し飛んだ。

 火力こそグリフィンの戦術人形中最高クラスだが、そのかわりに射速は遅い。落ち着いて確実なポジション取りを意識すれば恐れずに戦える相手だ。

 9A91、100式共に互いの姿を射程に捉え、再び、真っ向からの銃撃戦が展開される。

 優勢距離をとれたこともあって、9A91の被弾はゼロ。100式は目測で7発。100式のシールド色は緑とオレンジの境目というところまで確認し、リロードの為に一旦身を隠す。

 ダネルとの間には柱が多数あり、今度こそ狙撃は行えない。

 このまま押し切って100式を確実に仕留める。

 ボルトロックを外し、柱から身を覗かせて・・・直後、9A91の背筋が凍りつく。

 

「てやぁぁぁあぁぁ!」

 

 リロードの最中に突撃してきたのだろう100式との距離は1メートルも無い。

 気合と共に飛びかかり、振りかぶる銃身の先には鈍い輝きを放つバヨネットが。

 反射的に射撃姿勢を解除、背後に飛び退く。切っ先が空を切り裂いたのは、胸の先数センチ。

 もう少しお胸が大きかったら直撃であった。

 

「せい! やあ!」

 

 薙ぎ、突き、と矢継ぎ早に斬りかかってくる100式を前に9A91は防戦一方。

 距離はそれこそ9A91が求めていた距離なのだが、問題は100式のバヨネットだ。シールドは銃による攻撃でなければダメージを与えられない。銃による攻撃とは弾丸、もしくは榴弾による攻撃と解釈できるが、果たして100式のバヨネットはどうなのだろうか? もし攻撃判定がある装備なら、この距離はあまりにも致命的だ。

 

「せやぁ!」

 

 袈裟斬りからの斬り返しが9A91の腕を掠めると、シールドエフェクトが発生してオレンジから赤へ変化する。

 

(ダメージ有りですか。しかし、これではもう距離はとれない)

 

 弾丸1発たりとも許されないこの状況で下手に離れて弾をばら撒かれる、というのはなんとしても避けなくてはいけない。

 綱渡りの様なこの状態で100式の剣戟を避けつつ、チャンスを待つしかない。

 100式を巻きこむ危険を考えて、ダネルは援護できない。

 狙撃の心配は無いので、正面の切っ先にだけ意識を集中できる。

 ・・・そんな状況だからこそ、足元の小さな破裂音に過敏に反応してしまった。

 

「っ!!?」

 

 子供だましのトラップだというのは理解していたが、銃撃に対して神経質になっている今は本能的に音のする方へ視線を移そうとしてしまう。

 

「隙ありです!」

 

 そんな一瞬のチャンスを見逃してくれる100式ではない。

 最速の突きが9A91目掛けて繰り出される。

 避けられない。負ける。指揮官が、自分だけの指揮官がまた離れていってしまう。コンマ数秒にも満たない時間で、様々な想いが脳内を逡巡する。

 

(もうダメ? ・・・・・・いや、いやいやいやいやいやいやいやイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤそんなのイヤだ! あの人への想いを、絶対に勝ち捕るんだ!)

 

 銃から手を離し、それはさながら差し出された手を掴むかのように、突きだされたバヨネットを9A91は両掌で挟み止めた。

 真剣白刃取りである。

 

「なっ!?」

 

 100式が驚愕の表情を浮かべている間に、捕まえたバヨネットを中心にして身体を跳ね上げると、100式の頭を両脚でがっちりとホールドする。

 

「なっ、ななななな!!?」

 

 柔らかな太ももで顔を挟まれたどころか、目の前にはやたらとセクシーな下着までお目見えしているのだ。同じ戦術人形とはいえ、さすがに赤面必死である。

 

「ふっ!」

 

 身体のバネを利用し、挟んだ脚を一息で振り降ろす。それに伴って100式の身体も宙をクルリと回転、地面に叩きつけられる。

 すぐに起き上がろうとする100式の背後を押さえ、銃口を突き付ければそれでチェックメイトである。

 

「投降するのなら承認します。3秒だけ待ちます」

 

 1秒。背後からでは表情は見えないが、100式の身体は小さく震えている。悔しさにうち震えているのだろうか。

 

「100式、もう投降しろ! 後は私がなんとかする!」

 

 2秒。ダネルの言葉に対し、100式は首を横に振る。トリガーに指をかけ、もういつでも撃てる準備を整えておく。

 

「これは演習なんだ。そこまで意地になる必要はないだろう?」

 

 3秒。タイムリミット。

 ここで何のためらいも無く100式を仕留め、すぐさまダネルに襲いかかるのが9A91の本来の思考なのだが、今は、それができなかった。

 背後からでも分かる、100式は身体を震わせて泣いていたからだ。

 

「嫌です! 負けは認めたくありません!」

 

「なぜそこまでする?」

 

 ダネルが理解できないのは、きっと演習に対しての考え方自体が違うから。9A91は100式の言っている事が少しだけ理解できる気がする。

 だから、話しの続きを聞いてみたくて、制限時間を延長してあげたのだ。

 

「そんなカッコ悪いところ、指揮官に見せたくない。頑張って戦ってきて、ようやく指揮官から褒めてもらえるくらい強くなったのに。負けを認めるところなんて、絶対に見られたくないです!」

 

 言葉こそ違えど、その根底に根差すものは同じだ。

 指揮官に認めて貰いたい、その一心で今まで戦ってきた。そんな気持ちでいる戦術人形はきっと9A91が考えられるよりもずっと多いのだろう。もちろん、そんなライバル達にトップを譲る気などさらさら無いが、同じ志を持つと分かった者を蔑にするような9A91ではない。

 

「私もアナタと似た考えです。指揮官の事を強く想って、だから、こうやって逆転できた。今回の戦いは、私の指揮官に対する気持ちの方が強かった。それだけは認めてくれますね?」

 

 他の戦術人形との会話はあまり得意ではない9A91だが、今回は自然と言葉が出てきてくれた。

 そんな言葉を聞いて、100式が振り向く。

 目には涙を溜めて、雫が頬を濡らして、でもそんな彼女は優しく微笑んでくれた。

 

「・・・分かりました。でも、私は負けてないっていう事も認めて下さいね?」

 

 この期に及んでどれだけ負けず嫌いなんだろう、と心の中で苦笑しつつ頷くと、9A91は静かにトリガーを引く。

 シールドが割れ、力が抜けていく100式の身体をゆっくりと寝かせてあげる。

 そして、間髪入れずに近くの柱へ飛びこんだ。轟音と共に近くの柱が抉られたのを視界の端で捉える。

 

「100式の仇、とらせてもらうぞ」

 

「近、中距離での戦闘ではアナタが圧倒的に不利です。投降するのならお早めに」

 

「ふん。お前のシールドが限界なのは知っている。少しでも掠めれば私の勝ちだ」

 

 カマをかけてみたが事実はダネルの言うとおり。慎重に近づき、一気に決めなければならない、まるで薄氷を渡るかのような戦いだ。

 それでも、負けるわけにはいかない。

 指揮官への想いの強さを確信した今、絶対に負けられない。

 

(指揮官、私の活躍を見ていて下さい)

 

 心で呟き、宵闇の狩人が駆けだす。

 まるで、想い人への一途さを表すかのように、真っ直ぐに強く、標的へと襲いかかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NEXT マリッジ・ロワイアル~

 

 

 

「ようこそ、UMP45。ちゃんとここまで来れたのね。偉いわ」

 

 

 ラスボス登場

 

 

 

「勝つつもりしか無いから来ただけだもの」

 

 

 正妻の威厳

 

 

 

「まさか、この私が・・・出オチ・・・だと・・・」

 

 

 え? そのキャラそんな扱い?

 

 

 

「ちょっと、ネゲヴ! 話が違う! これじゃあ指輪が手に入っても意味無いわ!」

 

 

 今更になって判明する事実

 

 

 

 

 マリッジ・ロワイアル 7話 Coming Soon




9A91ちゃん回いかがでしたでしょうか?

ヤンデレ系好きな私としては、もっとヤンデレキャラを増えたらいいなぁ、と期待しながら日々のアプリ消化に励んでいたりします。

いよいよ佳境の次回もどうかお楽しみに。
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