第一話 来訪(いほうじん)
「諸君、決闘だ!」
青銅で出来た薔薇を高く掲げた金髪の少年が高らかに謳い上げた宣言に、その表情に何らかの期待を込めて鈴生りに並んだ群衆がどっと沸く。
トリステイン魔法学院の中庭、ヴェストリの広場。
昼食後の有閑なひと時を彩るイベントに群がる野次馬達をものともせず、『彼女』は一歩一歩力を込めてゆっくりと歩む。だがその華奢な後ろ姿に緊張と若干の恐怖が滲むのは隠し切れない。
それもその筈、『彼女』はつい先刻まで只の一般人だったのだ。ましてや相手は貴族、その怒りを買う事が何を意味するかは身体の隅々にまで染み着いている。
だけど、と彼女は思う。
『だけど、それがどうした』
あの少年はやってはならない事を、最悪の不義を働いたのだ。あまつさえ自らの過ちを認めず、他人になすり付けようとした。許せる筈が無い。ならば『彼女』に出来る事はひとつ。
この決闘に勝利して、自身の正義を証明するのだ!
なけなしの勇気を振り絞り、『彼女』は少年の手前五メイルで足を止めた。
観衆にアピールしていた少年は『彼女』の気配を感じて向き直り、
────その手に握った得物を見て頬を引きつらせる。
「……君は礼儀だけじゃなく、常識も知らないのかね?」
少年が指したのは『彼女』がその手に携えた得物であった。
成程、『彼女』の本職を考えればそれは確かに『彼女』の武器であろう。
しかしこの場に持ち出すにはいささか場違いであり、そして余りにも馬鹿げていた。
「いいえ、間違ってません。貴族の、いえ男の風上にも置けない汚物をお掃除するんですもの。
これ以上似合いの得物はありませんわ」
しかし『彼女』は臆する事無く得物を突き出し、少年を罵倒する。
それを聞いた野次馬は「生意気だ」、「平民の分際で」などと騒ぎ立てるが、極少数からは「良く言った」、「その通り」と言う賞賛が投げ掛けられた、とは言え、普段の『彼女』を知るものが見れば驚愕で顎を落とすに違いない。それは決して彼らが知るいつもの『彼女』から出て来る台詞ではなかったのだから。
そして当の少年は湧き出る怒りを噛み潰し、殊更気障な素振りで名乗りを上げる。
「成程、やはり君には教育が必要な様だ。
ならば僭越ながらその役目、この『青銅』のギーシュ・ド・グラモンが仰せつかるとしよう」
少年──ギーシュの名乗りを受け、『彼女』は踝まで届く草臥れたメイド服のスカートを摘み、腰を落として優雅に礼を返す。
そして『彼女』はそばかすの残る可憐な顔に微笑を浮かべ、その手に握った『モップ』を掲げて威風堂々と名乗り上げた。
「ではその捻くれた性根を私こと『タルブ村のシエスタ』が叩き直させていただきますわ」
いつしか二人の放つ重苦しい空気に呑まれて静まり返った広場に一陣の風が吹く。
『彼』と『彼の主人』が共に固唾を呑んで見守る中、
「骨の一本二本は覚悟してもらおう! 『ワルキューレ』っ!!」
「そんなものはとっくに覚悟の上です! 行きます!!」
二人の決闘は開始された。
***
さて、読者諸兄には何故貴族とメイドが決闘などしているのか、メイドの自信は何処から来ているのか等々、気になる事も多かろう。
それを明かす為にはやはり先日の『使い魔召喚の儀式』から始めねばなるまい。
『使い魔召喚の儀式』とはこの学院の進級試験に相当する儀式である。春先に行われるこのイベントは魔法使い、所謂メイジが僕たる『使い魔』を呼び寄せると言うものだ。このとき使われる『サモン・サーヴァント』と言う魔法で召喚されるのは、そのメイジが最も得意とする系統に近しい生き物になる。『火』ならばサラマンダー、『風』なら風竜。そのような幻獣でなくとも『水』ならカエル、『土』ならモグラ、と言う風に。
己に近しい獣を呼び寄せ、使い魔の契約たる『コントラクト・サーヴァント』で従属のルーンを刻み、生涯の友とするのがこの儀式の目的である。
繰り返すが、この儀式で呼び出されるのは主の系統に近しいものである。
ならば自分の系統が不明のメイジが『サモン・サーヴァント』を行えばどうなるのか?
「ミス・ヴァリエール、残念ですがそろそろ時間が……」
「あと一回、あと一回だけお願いします! ミスタ・コルベール!!」
その答えは『失敗する』。
ひねりも何も無い回答だが少なくともこの少女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールにとっては最悪な答えであろう。
「いい加減にしろ『ゼロのルイズ』! 僕たちが帰れないじゃないか!!」
「どうせ成功しないんだから諦めろよ! 『ゼロ』なんだから!!」
二人を取り巻いていた生徒達から上がる野次に、俯きながら唇を噛み締めて耐えるルイズ。
その姿を見た指導教師のコルベールは運命と始祖を罵倒せずにはいられなかった。
彼女は魔法が使えない。原因は不明ながらも、全ての魔法が爆発してしまう特異体質なのだ。
このトリステイン王国屈指の大貴族、ヴァリエール公爵家に生まれながら魔法が使えないと言う事実、それは彼女に『侮蔑』と『憐れみ』、そして『嘲笑』となって襲い掛かる。
メイジの性質を表す二つ名の『ゼロ』。意味は『成功確率ゼロのルイズ』。
何度失敗しても諦めずに努力を続ける彼女に付けられたそれは、正しく彼女を言い表すと同時に最大の侮辱でもあった。
コルベールも出来れば成功するまでやらせてあげたい。
しかしそれは時間的にも忍耐的にも不可能である。
だから彼はルイズにこう言うしか無かった。
「解りました。ですがこれが最後です。次で成功しなかったら大人しく諦めて下さい」
「そんな! ……いえ、解りました」
正真正銘のラストチャンスに、ルイズはこれまで以上に気合いを入れる。
「ミス・ヴァリエール。使い魔は一生を共にするパートナーだ。
『従える』のではなく、『共に協力し合う』ことを念頭に置きたまえ」
「あ……は、はい、そうですね。すみませんミスタ・コルベール」
緊張でガチガチになった彼女を不安に思ったのか、コルベールは簡単なアドバイスを贈る。そう言われて初めてルイズは自分が『従えてやる』とか『捕まえてやる』と考えていた事に気が付いた。
これでは使い魔だって来るはずも無い。何せ自分の都合で呼び寄せるのだ。
それも一生拘束されるとなれば、どんな生物とて嫌がるに決まっている。
深呼吸して心を鎮める。必要なのは使い魔への執着ではなく、生涯の友への呼びかけなのだから。
(お願い、誰でも良いの! 誰か、私と一緒に歩んでくれる『仲間』になって欲しいの!)
心中で懇願を繰り返し、ルイズはルーンを唱えて杖を振る。
瞬間、彼女はこれまでとは違う手応えを確かに感じ、
ドカァアアアアアアアアアン!!
今までに無い規模の爆発に瞬時に絶望に落とされた。
また失敗。
これでルイズは進級資格を失った。
留年など実家の姉や母が知れば、即座に実家に呼び戻されることだろう。
そして王国きっての名門を穢した彼女を、一族郎党が許すはずも無い。
黒く塗り潰された未来にルイズが膝を屈しかけたその時。
「ん? ……おお! ミス・ヴァリエール、成功しておりますぞ!
ほら、あそこをご覧なさい!」
コルベールの言葉に目をやれば、確かに爆煙の向こうに何やら大きな影が見える。
ルイズの目が見開かれる。
成功だ! 彼女は初めて、魔法に成功したのだ!
爆煙が晴れるのももどかしく、ルイズは影に向かって走り出す。
だが、影に近付くにつれその足は徐々に勢いを失い、遂には呆然と立ち尽くすこととなる。
そこに居たのは人間だった。
春だと言うのに外套を羽織り、黒いチュニックのような物を着て青く染められた厚手のズボンを穿いている。この辺りでは珍しい黒髪と黒瞳をした顔立ちは目の覚めるような美形でも吐き気を催す醜悪でもない、極々平凡な造りをしていた。
背だけは高い。百八十サントを越えるだろうか? だが背丈に身体が追い付いていない。
肉付きの薄い身体はどう見ても荒事に向いているようには見えなかった。
その手には杖は無く、代わりに新品であろう背嚢を手にしている。
その姿は少々珍しいものの、それは平民以外の何者でも無かった。
平民はきょろきょろと周囲を見渡し、硬直するルイズと視線を合わせる。
その時になって、彼女はようやく相手が歳若い男性である事に気が付いた。
「あ、あ、あんた、誰よ? 私の使い魔は何処に行ったのよ?」
「人に名を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀ではありませんか?」
なまじ期待感が大きかっただけに、それを外された絶望感が大きい。
震えながら名を尋ねるルイズに、男は肩をすくめながらそう返す。
言葉遣いは慇懃ながら、そこには貴族に対する敬意が一片も含まれていなかった。
「な、何ですってぇ!? 貴族に対してなんて口を!!」
「貴族だと言うのなら尚更、人々の模範たる貴族が真っ先に礼儀を忘れてどうするんですか?」
「い、言わせておけば、あなた何様の……」
「ミス・ヴァリエール! 彼の言う通りですぞ!」
「え、ミスタ・コルベール!?」
激昂するルイズとは裏腹に、男はあくまでも冷静に指摘する。
なおも言い募ろうとするルイズを押さえ、コルベールは男に歩み寄った。
「失礼、私はトリステイン魔法学院の教師で『炎蛇』のコルベールと申すものです」
「わざわざありがとうございます。私はヤナギダ・トモと申します」
「見た所平民の方とお見受けいたしますが、家名があると言う事は貴族の方ですかな?」
「いえ、平民が何かは存じませんが、少なくとも私は貴族ではありませんね」
コルベールの質疑に応える男。表情の変化が乏しいのでよく解らないが、若干震えている言葉から察するに、どうやら自分の陥った状況に戸惑っているようだ。その様子からある仮説を思い付いたコルベールはそれを確認するべく質問を重ねる。
「では、貴方はトリステインという国に聞き覚えはありますかな?」
「……いえ、初めて聞く国名ですね。ええと、ここは日本ではないのですか?」
「ニホン? ……ではアルビオン、ガリア、ロマリア、ゲルマニア、これらの国はご存知ですか?」
「………アルビオンはイギリスの古名では? 確か、ガリアはフランスの古名だったような?」
「古名? いえ、今もそう名乗っておりますが……」
「……………失礼ながらお聞きします。ここはヨーロッパですか?
それとも南北アメリカのどちらか、あるいは中東、アジア、若しくはオーストラリアでは?」
コルベールの言葉を聞いた男が不安を滲ませつつ挙げた国名。
それはコルベールは元より、傍で聞いていたルイズでさえも聞き覚えの無い名前であった。
二人揃って首を横に振るのを見た男はほんの少しだけ眉根を寄せ、最後の質問を繰り出す。
「………………今年は西暦何年になりますか?」
「「西暦?」」
「…………………いえ、結構です。信じ難い話ですが、今ので解りました」
男は諦めたように天を仰いで溜め息を吐く。
それを見たコルベールは、ルイズに『コントラクト・サーヴァント』を一旦待つように命じた。
「そんな! それでは私の進級が!」
「待ちなさいミス・ヴァリエール。どうやら彼は何も知らずに呼び出されたようだ。それに見覚えの無い服装に聞き覚えの無い国名、おそらく彼はロバ・アル・カリイエから来たのかも知れない」
コルベールの推察を聞き、ルイズは最悪の想像を浮かべる。
ハルケギニアの東、そこを占拠する人類最大の敵の名を。
「ま、まさか、エルフ……?」
「違うとは思うが、とりあえず学園長に相談してみよう。一応『サモン・サーヴァント』は成功しているのだし、君の進級も掛け合ってみるから」
「!、お願いします!」
切実なルイズに頷きを返し、コルベールは事態を見守っていた生徒たちに儀式の終了を告げた。
「これで『春の使い魔召喚』を終わりにします! 皆さんは先に学園に帰っていて下さい!」
「やっと終わったよ……、『ゼロ』の所為で腹ぺこだ」
「ルイズ、お前は歩いてこいよ! なんたって『ゼロ』なんだからな!」
口々に悪態をつきつつ、生徒たちは『フライ』の魔法で宙に浮く。
それを見ていた男が驚嘆の声を上げた。
「……驚きましたね、全員『冒険者』とは。空を飛ぶってことは『キャスター』ですかね?
『神器』の助けも無しに飛べるとは、相当『レベル』も高いのでしょう」
「ボウケンシャ? キャスター? シンキ?
……何の事か解らないけれど、メイジなら『フライ』で飛ぶのは当たり前よ?」
思わず漏らした呟きにルイズが答える。それを聞いた男は軽く考え込む。
「……どうも私の常識とこちらの常識は違うようです。それで、貴女は飛ばないのですか?」
「……うるさいわね! 私の勝手でしょ、そんなの!!」
「おや、何か変な事を言いましたか? どうしたんです突然?」
「うるさい、黙って!」
みるみる険悪になる空気──もっとも、ルイズが一方的に男に突っかかっているだけなのだが、それを止めたのはコルベールであった。
「お待たせしました。ではここの最高責任者である学院長の所へご案内しますので、着いて来ていただけますか?」
「すみません、私は生憎飛べないんですが」
「いえ、大丈夫です。少々歩きますが、それ程遠くありませんので。それでは参りましょう」
そして日の落ちかけた草原を、奇妙な一行は歩いていった。
***
トリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンの名声は国内外問わず高く鳴り響いている。
齢三百歳とも噂され、一説によると全ての系統を極めた際に虚無に目覚め、不老の魔法を獲得したとも言われているが、事実無根の噂話にしか過ぎない。裏を返せばそんな噂が立つ程の実力者であると言う事であるが、実力者が人格者であるとは限らないのは世の常であった。
そう、秘書にセクハラを働いて折檻を受けるエロ爺を見て、それらの名声と結びつけるのは難しいだろう。学院長室の扉を開くなり見せつけられた光景に、コルベールは黙って扉を閉めつつそんな事を思っていた。
「……今のは?」
「……良いから忘れなさい。それがこの学園で生活するコツよ」
呆気にとられた男の呟きに疲れたように返すルイズの言葉を背に、コルベールは今度はノックをしてから扉を開ける。
先程の醜態が無かったかのように泰然とするオスマンと、その脇に控える秘書。
彼の衣装にはっきりと残る靴跡が無ければ完璧と言えただろう。
「ふむ、ミスタ・アリエール、だったかな? こんな夜更けに何用かね?」
「私はコルベールですオールド・オスマン。語尾以外原型留めてませんぞ。
……実は『使い魔召喚の儀式』で問題が起こりまして、学院長のご判断を仰ぎたく参上しました」
「む、何事かね?」
「はい。……お二人とも、どうぞ中にお入りなさい」
コルベールの招きに応じ、学院長室に入って来た二人を見たオスマンの目が細められる。
「おぬしは確かヴァリエール公爵の三女だったかな?
後ろの御仁には見覚えが無いが、どちら様かの?」
「ここでは名乗りも上げずに人に名前を尋ねるのが礼儀なのですか?」
先程と同じ敬意の無い言葉にルイズが爆発しかけるが、オスマンの謝罪がそれを制する。
「確かに、名も明かさずに名を尋ねるのは失礼じゃったの。儂はオールド・オスマン、このトリステイン魔法学院を預かっておるものじゃ。隣にいるのは儂の秘書でミス・ロングビルと言う」
オスマンの紹介に合わせてお辞儀をする秘書。長い緑の髪が印象的な妙齢の美女である。
それを見た男は慇懃な態度で礼を返す。どうやら全くの礼儀知らずと言うわけではないらしい。
「こちらこそ失礼しました。私はヤナギダ・トモと申します」
「ふむ、ではミスタ・トゥオモ、事情をお聞かせ願いたい」
「トモは名前です。ヤナギダが家名になりますが、敬称は要りません」
「おりょ、そうじゃったか。では改めてミスタ・ヤナギーダ。
何が起こったのか、何故お主がここにいるのか、聞かせては貰えんじゃろうか」
「……まあいいでしょう。ですが、私にも何がなんだか解らないのですよ。
こちらのミスタ・コルベールに着いて来ただけで……」
二人の視線がコルベールに向けられる。それに応え、彼はそれぞれに対して事情を説明した。
ルイズが『サモン・サーヴァント』でトモを呼び寄せた事。
『サモン・サーヴァント』は一方通行で彼を帰す手段が無い事。
トモの話を聞き、どうやらロバ・アル・カリイエの出身ではないかと当りをつけた事。
ハルケギニアの東方に位置するサハラの向こう側をそう呼んでいる事。
人間を召喚すると言う前例のない事態に『コントラクト・サーヴァント』を一時棚上げにした事。
『使い魔召喚』は神聖な儀式で取り消しが効かない事。
『コントラクト・サーヴァント』こそしていないが、『サモン・サーヴァント』は成功しているのでルイズの進級を認めてほしい事。
ルイズが進級する為には使い魔を召喚せねばならず、やり直しも出来ないので出来れば彼女の使い魔になってほしい事。
コルベールが一通り説明を終えると、場に一瞬の静寂が訪れた。
耳に痛い無音。それを破るべくトモが口を開く。
「失礼ながら、そちらの……ミス・ヴァリエール、でしたか? 私は貴女の使い魔にはなれません」
無情にもきっぱりと切り捨てた言葉に唖然とする一同。
最初に我を取り戻したのは、やはり当事者のルイズだった。
「な、な、な、何ですってぇ!!! 貴方平民の癖に貴族に楯突こうって言うの!?」
「そちらに事情があるように、私にも事情があります。何より『冒険者』たる者が何者かに従うなど有り得ません」
「……ミスタ・ヤナギーダ。その『ボウケンシャ』とは何かね? 話を聞く限りでは何かの身分のようだが……?」
オスマンの疑問に、トモは「長い話になりますが……」と前置きしてから語り始めた。
***
昔々、神様は暇つぶしに世界を創り、沢山の生き物を造り出した。
空を飛ぶもの、海を泳ぐもの、地を這うもの。
様々な生き物が世界を覆う中で、人間は最弱の生き物であった。
空も飛べず、海で溺れ、獣たちに追われ、人間は身を寄せ合って生きていた。
しかし人間は諦めなかった。
足りぬ力を道具で補い、知恵を絞って敵を出し抜き、いつしか人間は大地の覇者と化していた。
それに怒った神様は人間を滅ぼそうとした。
だが人間は何度滅ぼされても諦めず、ついには神様に牙を剥きさえしたのだ。
ここに至り神様は思った。
この弱い生き物は、もしかしたら自分より強くなるのではないか?
もしかしたら自分の孤独を終わらせてくれるのではないか?、と。
神様は唯一無二、永劫不変の存在である。故に永遠に孤独なまま在り続けるしかない。
だけど人間は短い生涯を精一杯生き抜いて、ほんの少しの間に成長を果たす。
成長と変化、それこそが人間の強みなのだ。
それを知った神様は自分に歯向かった人間に、ある力を与えてこう告げた。
「いつか、私より強くなって出直してこい。私はいつでもお前たちの挑戦を受けよう」
それを聞いた人間達は神に挑む為に己を鍛え、様々な
***
「……それが冒険者のはじまりです。神に挑むが故に、私たちは如何なるものにも仕えません。
冒険者は自由を旨とする存在ですから」
「…………なんとも、壮大な話じゃの………」
トモが語った神話は余りにも荒唐無稽でスケールの大きな話であった。
終わりを望む神に挑む人間。故に誰にも頼らず従わず、自分の手で運命を切り開く、
壮大で愚かしく、無謀で何より自由な存在。彼はその一員なのだと言う。
「とは言っても最近覚醒したばかりですがね。
これから冒険に出よう、って所でミス・ヴァリエールに召喚されたようです」
その手の背嚢を示してそう言うトモに、一同は苦い表情を受かべる。
一瞬で重苦しくなった雰囲気に首を傾げる彼に、オスマンは事情を説明した。
「ハルケギニアでは系統魔法を創造した始祖ブリミルを崇めるブリミル教が一般的でな。それ以外の神は異端として扱われとるんじゃよ」
「別にブリミル教と敵対するつもりはありませんよ?」
「それだけじゃないぞい。ブリミル教は長い間サハラのエルフ達と対立しておる。故にエルフの使う先住魔法を、引いては異端の存在をブリミル教徒は決して許さんのじゃ。まあ儂らはそこまで熱心な信者と言う訳でもないが、教師達の中には快く思わぬ輩も多いでな」
「四面楚歌、って訳ですか。冒険者としては上等ですが、駆け出しの初心者には少々厳しいですね」
溜め息を吐いて天を仰ぐ。どうやら天を仰ぐのが癖らしい。
その姿を見詰めるルイズからは、先程までの気丈さが消えていた。
彼には公爵家の公女の肩書きが通じない。異邦人たる彼にはハルケギニアの常識が通じないのだから。何より誰にも従わないと宣言している以上、ルイズに従うことも有り得ない。
それはつまり、ルイズが使い魔を得られないことを意味していた。
一日千秋で待ち望み、不退転の覚悟で挑んだ使い魔召喚。それが失敗に終わったのである。
こんなに悔しいことが他にあるだろうか?
大声で泣き出したくなるのを堪え、ただただ己の暗い未来に思いを馳せるルイズ。
潤んだ瞳は、だが次の瞬間トモが放った一言に目一杯見開かれた。
「……仕方ありません。使い魔は無理でも、使い魔の振りをするくらいはいいでしょう。冒険者である事も可能な限り隠します。ですが、私は冒険者です。いつまでもここに居られないことだけは理解して下さい。そうですね、卒業まででどうでしょう?」
「ほ、いいのかの?」
「構いません。人々の依頼を請け負うのも冒険者の仕事ですから」
そう言って、トモはルイズに向き直る。
「私はヤナギダ・トモと申します。貴女は?」
「る……ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールよ」
初めての名乗り。その時になって初めて、ルイズは彼の首に下がる印に気が付いた。
三本の剣を組み合わせたそれは白銀に輝き、不思議な存在感を放っている。
それに手を触れ、祈るように目を閉じたトモは重々しく宣言する。
「冒険者ヤナギダ・トモはルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールを守り、共に運命を切り開く事をここに誓う。
──────
最後の言葉を力強く言い放つと同時に、印が一瞬だけ力強く輝く。
そして目を開けたトモはルイズに向かって改めて頭を下げた。
「初めましてルイズ。そして初めての
────────────────────────────────────────────
※ヤナギダ・トモ(柳田智)
種属/ヒューマン
種属特性
・弱者の意地:1(※1)
体力:5(+1)/知力:8(+2)/感覚:5/敏捷:7(+1,−1)/
器用:3/魅力:3/精神:5/幸運:10 ※()内は今回加算された補正値
HP:11/11(+1) MP:10/10 SP:10/10 ※数値は現在値/最大値
EXP:2 所持金:20,200円
総合レベル:3
・ネゴシエイター:2(※2)
・詐術:1(※3)/説得:1(※4)
・サムライ:1(※5)
・居合い斬り:1(※6)
装備品
・厚手のコート(※7)
所持品
・背嚢(※8)/サバイバルナイフ(※9)/運命神の聖印
進行中クエスト
・ルイズを守る(期限:ルイズの卒業まで)
(※1)ヒューマンの種族特性。
1シナリオ中に(Lv)回、ファンブルをクリティカルに変える。
(※2)交渉や説得に優れる一般技能系のクラス。/能力値補正:知力
(※3)他人を欺く話術。判定の達成値に+Lvの補正を加える。
(※4)他人を説得する話術。判定の達成値に+Lvの補正を加える。
(※5)刀を使うことに特化したウォーリア系のクラス。/能力値補正:敏捷
(※6)鞘に納めた刀を神速で振るって攻撃する刀技。
クリティカル値にーLvの補正を加える。
(※7)物理ダメージを1d6+2軽減するが、敏捷に−1される。
水属性ダメージを10%防ぐ。重量:1
(※8)アイテムを入れる袋。所持品の重量を無視出来る(制限:20個まで)。重量:1
(※9)大振りのナイフ。物理ダメージに+1、クリティカル値にー1。重量:0.5
装備していないので所持品扱いである。