ゼロの使い魔 〜使い魔は冒険者〜   作:まほうつかい

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第十話 覚醒(けつい)

「……了解!」

 

 言うが早いか踵を返すトモを見送りながら、ルイズは己の無力を噛み締める。

 どんなに偉そうな啖呵を切った所で、結局最後はこうして彼に任せるしかない。

 歯痒い思いを抱えながら、森に逃げ込もうとしたその時。

 

「ルイズ、こっちよ! 早く!」

 

 自分を呼ぶキュルケの声が聞こえて来た方向へ目を向け、彼女は驚愕に立ちすくんだ。

 そこには確かにキュルケが居た。ただし、急降下するシルフィードの足に逆さまにぶら下がり、両腕を大きく広げた姿で。

 

「え、あ、なに!?」

「……よっし、確保! タバサ、お願い!!」

 

 予想外の光景に呆然と立ち尽くすルイズを、上下逆さのまま抱きとめるキュルケ。

 即座にタバサへ合図を送り、シルフィードをゴーレムの射程距離外へ上昇させると共に『レビテーション』で風竜の背に戻る。途端にキュルケの全身から汗が滝のように吹き出た。

 

「こ……怖かった……!!」

「怖かったじゃないわよ! あんな無茶して……!!」

 

 今更になってガタガタ震え出すキュルケを揺さぶり、ルイズが詰め寄った。事実、双方に怪我が無いのが不思議な程の無謀な行動だったのだ。ルイズが取り乱すのも当たり前である。

 

「……あら、心配してくれるのルイズ?」

「べ、別にアンタのことなんか心配してないわよ!!」

 

 青ざめた顔色のまま余裕ぶるキュルケ。反射的にルイズがツンデレを炸裂させようとする。

 それを止めたのは切羽詰まったシエスタの絶叫だった。

 

「それどころじゃありません! あのままじゃトモさんが……!!」

 

 その言葉に現状を思い出したルイズは慌てて地上に目を向ける。それは丁度トモが一の太刀を入れた瞬間であった。

 ケーキにナイフを入れたかの如くさっくりと斬り付けた一撃は、けれどもゴーレムの大質量の前ではかすり傷も同然らしく、大した痛手にはなっていない。すかさず振るわれた二の太刀に至っては、なんとゴーレムを鋼鉄に『練金』する荒技で防がれたようだ。

 彼を挽肉にせんと迫るゴーレムを避けて距離を取るトモ。だがゴーレムはその場を動かない。

 

「……もしかして、動けないんじゃないの? あのゴーレム」

 

 トモもキュルケと同じ結論に至ったらしい。

 再びゴーレムの元へ走り寄ると、体を捻って剣を腰に添える。それがいつかの武器屋で見せたものだと理解するよりも早く、高速で飛来した足払いがトモを弾き飛ばした。

 まるで人形のように地面を弾み、森の大木に叩き付けられる様をルイズは見た。見てしまった。

 

「い………いやぁああああああああああっ!!!」

 

 くずおれるトモの姿に、ルイズは絶叫した。

 恐怖、悔恨、悲哀、激怒、ルイズの脳裏を様々な感情が駆け巡る。

 

 彼をあんな目に遭わせたのは誰だ? ……決まっている。『自分のせい』だ!

 自分があんな命令を出さなければ、彼もあんな絶望的な戦いに臨んだりはしなかった。

 自分が学院を襲った盗賊を逃さなければ、彼もこんな意味のない捜索に出ることはなかった。

 

 ……自分が彼を召喚しなければ、彼はこんな目に遭わずに済んだのに!

 

 全ての責任がルイズにある訳ではない。彼女はただ責任を果たしたかっただけだったのだから。

 だがルイズの矜持はそれを許さない。ぐるぐると渦巻く後悔が彼女を押し潰す寸前、キュルケの叫びがルイズの耳を打った。

 

「ちょっと、何してるの貴女!? 止めなさい!!」

 

 悲鳴染みたキュルケの台詞にばっと振り返れば、あろう事かシエスタが飛び降りようとしているではないか!

 

「駄目よシエスタ、貴女まで死んじゃうわ!!」

「トモさんはまだ死んでません! 諦めないでください!!」

 

 慌てて引き止めようとするルイズを振り払いながら指差す先には、よろよろとデルフリンガーを杖にして立ち上がるトモの姿があった。

 

「トモさんはまだ諦めていません! ならば私も諦めません!」

「馬鹿言わないで! 冒険者だか何だか知らないけれど、あんなのに勝てる訳が────」

 

 シエスタの啖呵に、キュルケが諌めようと口を挟む。

 しかし、シエスタはそんなキュルケに向かってきっぱりと言い放った。

 

「勝てる勝てないじゃありません! 仲間を見捨てるような真似、たとえブリミル様が許してもこの私が許せません! だったらやるしかないでしょう!?」

「!!」

 

 その言葉は、ルイズの魂を揺さぶった。

 シエスタはルイズとトモが交わした台詞を知らない。

 けれどシエスタの言葉は、先刻ルイズが語った言葉そのものであった。

 

『勝てる勝てないじゃないの! 仲間を見捨てるなんて、私には出来ない!!』

『私に出来ることなら何でもやるわ! だから────彼女を救いなさい!』

 

 そうだ、彼はまだ諦めていない────諦めずに、自分の無茶な命令を遂行しようとしている。

 いや、違う。彼は自らが立てた誓いを遂行しようとしているのだ。

 

 『ルイズを守り、共に運命を切り開く』と言う誓いを。

 

(そうよ、まだあいつは諦めていない……なら、私にも出来ることはある!!)

 

 思い返すのはあの決闘の日、ルイズの目前で行われた誓いの儀式。シエスタは一回で認められたが、トモは認められるまで何回も繰り返したと言っていた。自分がシエスタのように一回で認められるとは限らない。いや、そもそも認められない確率の方が高い。

 

 それは異端の力。異世界の神への誓いであり、祈りでもある。大貴族たるヴァリエールの息女が踏み込むべきものではない。

 

(────それが、どうしたってのよ!!)

 

 貴族の責務も、始祖の教えも、今のルイズには関係ない。

 彼女の胸中に宿る『誓い』はただ一つ。

 

(私は諦めたくない! あいつと一緒に、運命を切り開いてやるのよ!!)

 

 彼は、トモは見ず知らずの自分の為に誓ってくれた。

 そして今、彼は命を賭けてその誓いを守ろうとしている。

 ならば自分は、ルイズはその誓いに相応しい人間で居よう。

 命を賭けて、人生を賭けて、その誓いに応えよう。だって────

 

『だって人生は、貴女自身の取り分なんですから』

 

 自分には一か八かの大博打こそ相応しいのだから!

 

「大迷宮におわす運命の神よ! 我に運命を切り開く資格あらば、我を認め給え!!」

「え!?」

「何?」

「ミス・ヴァリエール!?」

 

 突然叫び出したルイズに、キュルケやタバサのみならず、シエスタまでもが驚く。

 キュルケとタバサは突然叫び出したルイズに、そしてシエスタはその内容に。

 だがそんな彼女達に構わず、ルイズは滔々とその言葉を紡いだ。

 

(私の人生、全部くれてあげる! だから、アンタをぶちのめす力を寄越しなさい!!)

 

「されば我、神に挑む冒険者なり!!!」

 

 世界に広がる宣誓。そしてシエスタとルイズが幾重にも重なった荘厳な鐘の音に包まれた。

 いつの間にか祈るように組まれたルイズの掌中に、銀色に輝く何かが現れる。

 ゆっくりと指を開いて行くと、そこには三本の剣を重ねた聖印があった。

 

「や、やった! 認められたんだわ!」

「ミス・ヴァリエール、貴女まで……!!」

「えっ? なに、何が起きたの!?」

「……まさか!?」

 

 何が起きたのかを知り、シエスタは狼狽える。

 大貴族たるルイズは精々食前のお祈り程度の平民の彼女とは違い、ブリミル教との関わりは段違いに深い。それは即ち、異端に堕ちた罪も段違いに深いことを意味する。

 そして冒険者は明らかな異端だ。本来ならこのハルケギニアに存在しない彼らの一員になると言うことは、ルイズもまた異端の道に足を踏み入れたことに他ならない。

 

「言いたいことは解るわ! でも今はそれよりも優先しなきゃいけないことがある筈よ!!」

「……はい!!」

 

 しかし、ルイズの表情は晴れやかであった。そこには異端に踏み切った事に対する後悔は無い。

 彼女はただ、自分に出来ることをしただけなのだから。

 

「確かステータス確認って、これ持って念じるのよね?」

「はい、そうです! 『ステータスが見たい』って思えば見えます!」

 

 シエスタのアドバイスに従い、ルイズは聖印を握り締めて念じる。

 するとじわっと滲み出るように、脳裏に何かが現れた。

 

 

 

***

 

 

 

※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

 

種属/ヒューマン

 

種属特性

・高貴なるものの義務:1(※1)

 

体力:3/知力:8(+2)/感覚:4/敏捷:3/

器用:3(+1)/魅力:6/精神:6/幸運:12 ※()内は今回加算された補正値

 

HP:10/10 MP:13/13(+3) SP:10/10 ※数値は現在値/最大値

 

EXP:15 所持金:150エキュー

 

総合レベル:3

・セージ(※2):2

 ・魔法知識:系統魔法(※3):1/戦術(※4):1

・ライダー(※5):1

 ・乗馬術(※6):1

 

装備品

・魔法学院女子制服(※7)/魔法の杖(※8)

 

所持品

・運命神の聖印

 

進行中クエスト

・『破壊の杖』の奪還(期限:翌日まで)

 

 

 

***

 

 

 

「……これは、酷い」

 

 ルイズは軽く絶望しかけていた。

 賢者(セージ)? それに騎手(ライダー)

 よりによって戦闘系のスキルが何一つ無いとは!

 

(何で魔法系のスキルが無いのよ! 知識だけあったってなんの意味も無いじゃない!)

 

 所詮自分は何処まで行っても『ゼロ』なのか。

 ────余りにも非常な現実に膝を屈しかけたその時、ルイズの脳裏に何かが引っ掛かる。

 

(ん? 『魔法の知識』?)

 

 慌ててステータスを見返すルイズ。そこにあったのは『魔法知識:系統魔法:1』の一文。

 魔法の知識はメイジには必須。それが何故かセージの技能として独立している。

 

(魔法が使えないからセージの技能になったのかしら? ……ううん、違うわ)

 

 シエスタの初期スキルはメイドとしての彼女を踏襲していた。それを考えると、このスキル構成は何だかおかしくはないだろうか?

 魔法が使えないとは言え、ルイズはメイジだ。スキルもそれに沿って設定されると思われる。

 ならばこのスキル構成が意味するのは一体何だ?

 

(……もしかしたら、メイジの魔法はスキルに入らない?)

 

 あの草原で『フライ』を使った生徒達を見て、彼は何と言っていただろうか?

 

『空を飛ぶってことは『キャスター』ですかね?』

 

 そうだ、あの時トモはメイジ達を魔術師(キャスター)と呼んだ。

 それを踏まえて考えるのなら、ルイズのクラスはキャスターになる筈だ。

 だが実際にはキャスターではなくセージである。

 それはひょっとすると、『魔法を使える』と『魔法を知っている』とは別物と言うことか?

 

(だとしたら────何とか出来るかも知れない!)

 

 今のルイズは異常なまでに冴えていた。

 刹那の間に考えをまとめ、唖然としていたキュルケに指示を出す。

 

「キュルケ、貴女が出せる最大火力であのゴーレムの足の付け根……そうね、右足を狙って!」

「何言ってるの!? ミス・ロングビルが捕まったままなのよ!?」

 

 人質の存在を指摘するキュルケに「いいから言う通りにして!」と言い放つと、今度はタバサに向かって命じる。

 

「タバサ、シルフィードをゴーレムの背後に回して!」

「……解った」

 

 ルイズの指示に従い、シルフィードがゴーレムの背後を取る。

 着かず離れずの絶妙な距離を保つ風竜の背で、生まれたばかりの賢者が初の実戦指揮に挑む。

 

「右足を狙ってあのゴーレムを右後ろに転がすわ! それならミス・ロングビルに及ぶ被害は最小限に抑えられるはず!」

「そうか、ミスが捕まってるのは左手だから……! そう言うことなら任せなさい!!」

 

 ルイズの言いたいことを理解したキュルケは、ありったけの精神力を込めた『ファイヤーボール』をゴーレムに叩き込む。それは狙い過たずにゴーレムの右脚、股関節に当たる部分に直撃して燃え上がった。しかしゴーレムはびくともしない。

 

「なんて頑丈な!」

「ううん、いいのよアレで! タバサ、同じ所に氷の魔法を、貴女が出せる最大の威力でお願い!」

「……承知!」

 

 ルイズの狙いに気付いたのか、タバサが全力の『ウィンディ・アイシクル』を放つ。

 燃え上がるゴーレムに叩き込まれた氷の矢は、即座にゴーレムを凍り付かせた。

 

「キュルケ、もう一度お願い。そうしたらタバサももう一度あいつを凍らせて」

「貴女はどうするの?」

 

 次々と指示を出すルイズにキュルケが疑問をぶつける。それにルイズは満面の笑みで応えた。

 

「決まってるでしょう!? 私の特大の爆発でとどめを刺すのよ!!」

「…………あっ! 成程、そう言うことか!」

「えっ? どういうことなんですか?」

 

 何かに気付いたキュルケと、事態に着いていけずにおろおろするシエスタ。

 そんな彼女にルイズは極上の笑みを浮かべてネタをばらす。

 

「ねえ、例えば熱々に熱した陶器の壷を、いきなり氷水に突っ込んだらどうなると思う?」

「……あっ!」

 

 ようやくルイズの言いたいことを理解したらしいシエスタ。

 そしてルイズは止めを刺すべくありったけの精神力を込めてルーンを詠唱する。

 本来攻撃用ではない魔法。だが彼女が使う限りにおいて、『それ』は最強の破壊力を産む攻撃魔法に変わるのだ。

 再び燃え上がり、再度凍り付いたゴーレム目掛け、ルイズは杖を勢い良く振り下ろした。

 

「『練金』!!!」

 

 夜闇に包まれた静寂な森の中に、耳を劈く爆音が轟く。

 ゴーレムの右脚の付け根がバラバラに吹き飛び、バランスを崩したゴーレムはゆっくりと右斜め後ろに向かって倒れ込む。

 

「熱疲労って奴よ」

 

 制御を失ったのか全身に罅が入り、ただの土くれに戻ったゴーレムが崩れ落ちるのを見ながら、ルイズは誰に聞かせるでも無く呟いた。

 

「どんなに頑丈だろうと所詮は土の塊。『固定化』でも掛けていない限り、その強度は土に準じる筈よ。だから熱した陶器を高速で冷やすように、炎と氷を交互にぶつけてやれば脆くなる」

 

罅はとうとう左腕にまで及び、捕われていたロングビルが空中に投げ出された。

 

「タバサ!」

「解ってる!」

 

 ルイズの指示を受け、タバサは未だ気絶したままのロングビルを空中でキャッチ。

 そのままシルフィードをトモの目前に着地させる。

 

「そこに私の爆発をぶつけてやれば、砕くのは決して難しいことじゃない」

 

 そう、それはこの場においてルイズ達が取りうる最良の選択。

 

「背後から狙ったのはミス・ロングビルを救うため。右後方に転がせば、左手の彼女まで被害が及ぶ前に救出できるから」

 

 彼女達が何をしたのか、どうやら彼の冒険者も理解したらしい。

 普段は表情の乏しいその顔に薄い微笑みを浮かべ、剣を杖によろよろと近付いて来る彼を視界に収めながら、ルイズは短い勝利宣言を呟いた。

 

「……賢者、か。まあ悪くないかもね」

 

 

 

***

 

 

 

 夜更けの森を照らす灯り。

 空き地のあちこちに焚かれた篝火が、廃屋から廃墟へグレードアップしたフーケのアジトを暗闇から浮かび上がらせていた。

 

「キュルケ〜、見つかったぁ?」

「まだよ〜、タバサは〜?」

「……こっちも同じ」

 

 粉砕された瓦礫を手分けして漁るルイズ一行。

 瓦礫の下に埋もれているであろう『破壊の杖』を探して右往左往する少女達を眺めながら、トモはフラスコに入った青白い液体を呷る。青汁を酢と炭酸水で割ったような、何とも言い難い味と喉越しに顔を顰めて嚥下する彼に、シエスタは黙って水筒を差し出した。

 

「……ありがとうございます」

「……どういたしまして」

 

 彼女もこの薬のお世話になっている。だからあの人類の味覚に挑戦してくる味も知っていた。

 口を濯ぐトモ。それでも炭酸特有のゲップが青臭過ぎる味を反芻させるので、眉間の皺は中々取れなかった。

 

「……何であんな酷い味なんでしょうか」

「一説では運命神様の嫌がらせだって言われてます。……説得力が有り過ぎですね」

 

 用を終えたフラスコが消える。何度見ても慣れないなぁ、とシエスタは顔に出さずに思う。

 見慣れないと言えば彼が背負う背嚢も変わっている。どう見ても入らない筈のデルフリンガーが丸々収まってしまった時には、一体どういう顔をすれば良いのか解らなかった。

 曰く、二十個までならどんな大きさのものでも入ると言う。大きさよりも個数制限が優先される背嚢、こんなマジックアイテムをシエスタは初めて見た。

 かと思えば子供染みた悪戯を仕掛けて来たりと、運命神の思惑がいまいち見えてこない。

 シエスタが首を捻っていると、捜索を切り上げたルイズがこちらに走り寄って来た。

 

「……もう大丈夫なの? 怪我の具合は?」

「全快ではありませんがね。もう一戦ぐらいならいけます」

 

 その答えを聞き、ルイズは眉根を寄せる。

 

「……貴方も、そう思うのね?」

「フーケの罠がこれ一つとは限りません。他にも何か企んでいる筈です」

 

 そう、ゴーレムを打倒して以降、フーケの足取りがぱったりと途絶えたのだ。

 盛大に篝火を焚いているのもフーケの来襲を警戒してだ。しかし待てど暮らせど、一向にフーケは姿を見せない。そこで一行はトモとロングビルの休息を兼ね、『破壊の杖』の捜索に乗り出したのだ。

 

「現状であの巨大ゴーレムとやり合うのは危険過ぎます。さっさと逃げ帰るのが得策でしょう」

「……ええ、そうね」

 

 一行が危惧しているのは、またあの巨大ゴーレムを持ち出されることだ。

 ルイズの機転で上手く切り抜けたものの、同じ手が何度も通じるとは思えない。

 そのうえ未だ目を覚まさないロングビルを抱えての立ち回りは危険に過ぎる。

 だが、ルイズの意識を占めていたのはその事では無かった。

 

(……おかしいわ。何かを私達は見逃しているのよ。でも、それがなんなのか解らない)

 

 ルイズはフーケの行動に何か引っ掛かるものを感じていた。

 腕を組んで違和感の正体に思考を巡らせるルイズに、おずおずとシエスタが話し掛ける。

 

「……ミス・ヴァリエール。良いんですか? 私達と違って、貴女は……」

「トリステイン有数の大貴族の息女が異端認定されたら大問題になる。そう言いたいのかしら?」

 

 あっけらかんと言ってのけるルイズに、シエスタは開いた口が塞がらなくなった。

 唖然とするシエスタを余所に、ルイズは予測される問題点を次々と挙げて行く。

 

「どんな大貴族だろうと異端認定を受ければ、ロマリアで審問と言う名の処刑が待っているわ。身内に異端者が出ればヴァリエールはお取り潰し確定、最悪ならアルビオンのモード大公のように討伐されることだって有り得るわね」

 

 流れるようにルイズが挙げて行く問題点。それを聞いたシエスタの顔色は真っ青。

 何よりそれを語るルイズがまるで他人事のように語るのが信じられなかった。

 

「そ、それが解っていて、何故!?」

 

 がくがくと震える膝を叱咤しながら、シエスタは崩れ落ちたくなるのを必死に堪えてルイズを問い詰める。だが彼女は会心の微笑みを浮かべて言い切った。

 

「馬鹿ねシエスタ。そんなの、バレなきゃいいのよ」

「……ほへ?」

 

 国家を揺るがすであろう大事件を、まるで子供の悪戯のように扱うルイズ。

 どうしていいのか解らず唖然とするシエスタを余所に、彼女の口は止まらない。

 

「異端審問ってロマリアの許可が要るのよ? そのロマリアだってそうそう動かないもの、幾らでも誤摩化しようはあるわ。幸い、ミス・ロングビルは気絶していたから私が冒険者になったって事は知らないし、学院長も私達が黙っていれば問題なし、って所ね」

 

 堂々と誤摩化すことを宣言するルイズに、シエスタは驚くべきか呆れるべきか迷う。

 

「…………まあ、その前にキュルケ達をどうにかしなきゃいけないみたいだけど」

 

 先程からこちらを窺いながら何事か話し合っているキュルケとタバサを見ながら、ルイズは心底面倒事になったと溜め息を吐いた。

 

 

 

***

 

 

 

「どうやら気付かれてるみたいね。まあ、あからさまにあの子達を見ながら話し込んでれば当然でしょうけれど。……しっかし面倒臭いことになったわね。タバサもそう思うでしょ?」

「………」

 

 キュルケが漏らした台詞に、タバサは無言のまま頷いて肯定する。

 正直な所、キュルケがルイズ達にちょっかいを出すのは『面白いから』だ。

 未知の国からやって来た使い魔に、メイドでありながら凄腕のメイジ殺し、そして最近角が取れて可愛くなって来たお隣さん。キュルケの認識はその程度だった。

 しかしいざ踏み込んでみれば『神を殺す』だの『運命を切り開く』だのと言った物騒極まりない言葉のオンパレード。あまつさえ学友が異端に堕ちたとくれば、いかに彼女とて付き合いを考えてしまう。普段なら決して見られないであろう渋面を作るキュルケ、だが彼女の親友たるタバサはその内心を見抜いていた。

 

「……でも見捨てられない?」

「まあね。冒険者だろうが異端だろうが、結局ルイズはルイズだし、それに中々刺激的じゃない?」

 

 キュルケとタバサの友情は、とある事件で敵対していたのが始まりだった。

 色々あって和解が成立したとは言え、決闘直前まで敵対していたタバサでさえ懐に迎え入れた彼女がルイズ達を見捨てるなんて有り得ない。

 何よりキュルケは『微熱』の二つ名の通り、情熱を燃やすものが大好きだ。何人もの男と浮き名を流すのも『恋』と言う情熱を求めてのこと、そんな彼女が『冒険者』と言うある意味情熱の塊みたいな存在に心踊るのは必然とさえ言えよう。

 

「何よりタバサがご執心なんだもの。略奪愛のコツなら幾らでも教えてあげるわ!」

「……それは間違い。私の目的は……」

「解ってるわよ。あの薬でしょ?」

 

 キュルケの言葉にこくんと頷くタバサ。

 彼女が相当深い事情を抱えていることぐらいはキュルケも察している。

 

「……彼は私に『資格が無い』と言った。もっと詳しく知る必要がある」

「ねぇ、タバサ。貴女まで異端に堕ちることは無いわ。あの薬が必要なら、彼に協力を頼むのも一つの手よ?」

 

 先刻もルイズ達が離れた隙に『冒険者の洗礼』を試していたのを彼女は知っている。

 だが荘厳な鐘の音も、光り輝く聖印も、タバサの元には訪れなかった。

 ほぼ怨念と言って良いほどの執念を燃やすタバサを、キュルケがやんわりと諭す。けれど首を横に振る親友に、キュルケは内心で溜め息を吐く。

 何故かは知らないが、この小さな親友は他人を頼ろうとはしない。

 何でも一人でこなそうとするのだ。

 

(こんな危なっかしい親友を放っとく訳にはいかないわよ)

 

 それがどんな理由であろうとも、親友を見捨てる選択肢はキュルケには無い。

 頼られないなら頼れるようになればいい。どんな小さなことでも、彼女の力になれるならキュルケはどんな手段でも取ってみせる。

 

(それが例え異端の力であったとしても、私は躊躇わない!)

 

 気合いを入れ直し、キュルケは『破壊の杖』の捜索に戻った。タバサもそれに続く。

 屋根であったろう板切れや壁や柱だったらしい丸太、炭焼き用の窯らしきレンガを除けるキュルケの手がふと止まった。

 全体的に古ぼけた建材の中にあって、真新しく頑丈そうな木箱は目立つ。その形状も。

 

「……宝箱(チェスト)?」

 

 ゴーレムの猛攻を凌いだらしきその箱に、キュルケは『アンロック』を掛ける。かちり、と小さな音を立てて空箱の鍵が外れる。蓋を開けて中を覗き込んだキュルケ達の目に、ずんぐりした筒状の塊が映った。見たことも無い素材で出来た、つるりとした表面にはこれまた見たことの無い文字が並び、持ち上げると意外に軽い。

 以前、宝物庫を見学した時に見た時と同じ形。紛れも無く『破壊の杖』であった。

 あっさり取り返せたことに拍子抜けしつつ、キュルケはそれを持ってルイズ達の元へ向かう。

 

「取り返したわよ。呆気ないけれど」

「……フーケが来ないうちに退却した方がいい」

 

 そう言いながらキュルケが掲げた『破壊の杖』を見て、トモが驚愕に目を見開く。

 

「……それが本当に『破壊の杖』なんですか?」

「そうよ。前に宝物庫の見学をした時に見たことあるもの」

「成程、これが使われる所を見たのなら、そんな名前が付いてもおかしくないのかもしれませんね」

 

 それは思わず漏らしたただの呟きだった。だが、その内容は皆の度肝を抜くには充分だった。

 

「え? これの事、知っているの!?」

「ええ、知っています。実物を見たのは初めてですが」

 

 驚愕する一同を代表するかのようなルイズの質問に、トモはキュルケが持った『破壊の杖』を検分しながらそう答える。

 

「そ、それでは使い方とかは……!?」

「詳しくは知りませんが、大体なら解りますよ」

 

 いつの間にか目を覚ましたロングビルの焦ったような質問に、トモは『破壊の杖』の先端に付いたピンのようなものを指し示す。

 

「この安全ピンを引き抜いて、中に収められている筒を伸ばします。で、狙いを定めてこの部分を押すと対象を破壊するんです。確かベトナム戦争で使われた携行破壊兵器で、M72LAW、ロケットランチャーと言う名前だった筈ですが……」

 

 大雑把な説明ながらも、誰にも解けなかった『破壊の杖』の秘密が解明された事には違いない。

 キュルケは『破壊の杖』をまじまじと見つめ、タバサは意外に簡単な使い方に驚いている。

 シエスタは『破壊の杖』を恐ろしげに見やり、ロングビルは長年の謎があっさり解明されたことに驚いて口を押さえている。

 ただ一人、ルイズだけが鋭い目つきで『その人物』を観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

※ヤナギダ・トモ(柳田智)

 

HP:9/11(※9) MP:9/10 SP:10/10 ※数値は現在値/最大値

 

進行中クエスト

・ルイズを守る(期限:ルイズの卒業まで)

・『破壊の杖』の奪還(期限:翌日まで)

 

 

 

エネミーデータ

 

・巨大ゴーレム(Lv:3) 敏捷値:1/攻撃値:20/防御値:20 HP/MP:30/−

 『土くれ』のフーケによって造り出されたゴーレム。動きは遅いが大質量故の破壊力は脅威。

  ・保有スキル:自動回復Lv1(※10)

 

 

 




(※1)ヒューマン(上流・富豪)の種族特性。1シナリオ中1回だけ、指揮下に居るPCの人数×(Lv)分の補正を与える。これは他PCも対象に出来る。
(※2)世の中の知識全般に精通した一般技能系のクラス。能力値補正/知力
(※3)系統魔法に関する知識。知識判定の達成値に+Lvを加える。
(※4)戦闘を有利にする知識。任意のPLの達成値または攻撃値に+Lvの補正を加える。
(※5)様々な乗り物を操縦する一般技能系のクラス。能力値補正/器用
(※6)馬を乗りこなす技術。馬の敏捷値に+Lvのボーナス補正を与える。
(※7)トリステイン魔法学院の女子が着る制服。判定にファンブルすると破損する。重量:0.2
(※8)メイジが魔法を使うために必要なタクト状の杖(ルイズ専用)。判定にファンブルすると破損する。重量:0.2
(※9)回復薬(小)による回復後の数値である。
(※10)そのターンのエンドフェイズにHPを+Lv回復する。この効果は最大HP以上にはならない。
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