ゼロの使い魔 〜使い魔は冒険者〜   作:まほうつかい

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幕間:1

 宴も終わり、熱狂さめやらぬ生徒達も徐々に引き上げ始めた大ホールのバルコニー。

 二つの月明かりが照らし出すそこで結成されたばかりの冒険者ギルド、『アブソリュート・ゼロ』のメンバー達がギルド結成記念と称してささやかな祝杯をあげていた。

 祝杯とは言っても舞踏会の余り物のワインをくすねた程度であるし、楽曲も酒肴も無しでは杯を重ねるには程遠い。けれど和やかな時間を楽しむにはグラス一杯の酒が有れば事足りる。

 程よい酩酊もあって打ち解けた雰囲気の漂う中、ダンスの申し込み合戦を避けてバルコニーに逃げ込んだシエスタがふと呟いた。

 

「そう言えば、冒険者の詳しいお話しをまだ訊いてませんでしたねぇ」

「あ、そうだったわね。丁度良いから詳しく説明してちょうだい。今ここで」

 

 シエスタの漏らした疑問にルイズが乗る。水を向けられたトモはふむ、と頷いて杯を伏せた。

 

「まあ良い機会でもありますし、いいでしょう。何が知りたいですか?」

 

 そうして月夜のバルコニーにて、冒険者達の講習会が開始される事になった。

 

 

 

***

 

 

 

 はい、まずはご主人から伺いましょうか?

 

 ……冒険者の目的、ですか? 以前言った通り『神を倒すこと』、それだけです。

 あ、神様と言っても始祖(ブリミル)様ではありません。大迷宮におわす我等が神、運命の神(デウス・エクス・マキナ)の事です。

 

 ……どうしてそんな事をするのかって顔ですね、シエスタさん。 そう言えば『冒険者の神話』はまだシエスタさんには教えてませんでしたか。

 

 冒険者に伝わる神話によれば、この世界は暇を持て余した神様に創られたんだそうです。

 ですがその際、人間は鳥や獣より弱く創られました。それに甘んじる事を良しとしなかった人間は知恵を振り絞って獣や鳥を追い払い、世界を覆い尽くすほどの繁栄を手にしたんですね。

 

 ところが、それを見た神様は激怒して人間を滅ぼそうと天罰を下しました。

 けど何回滅ぼしてもしぶとく甦って来る人間を見て、神様も考え方を改めたんです。

 

 そもそも神様が世界を創ったのは暇つぶしだったんですね。どうして暇かって言うと神様は死ぬ事が無いから、だそうです。ですが人間はそんな神様でも予想がつかない成長をするらしくて、事と次第によっては神様より強くなれる可能性があるんです。

 そこで神様が人間に持ち掛けたのが『冒険者の力を与える代わりに自分を殺せ』って契約でした。

 

 ……酷い話でしょう? 要するに神様の自殺を兼ねた暇つぶしの為の玩具なんですよ、冒険者っていうのは。しかもこの目的を諦めると冒険者じゃなくなります。力も道具も何もかも失って、ただの人間に逆戻り。実際そうして力を失った冒険者は結構居ますし、お互い気を付けましょうね。

 

 じゃあ、次の質問にいきましょうか?

 

 

 

***

 

 

 

 次はシエスタさんの番ですね。

 ……冒険者の能力の詳細について、ですか? ああ、それぞれのステータスの意味が知りたいってことですね。

 

 すでにご存知の通り、冒険者は自分の力を数値化して把握しています。

 何が出来て、何が得意なのかを数字にしたものを冒険者は『レベル』と呼びます。

 経験を積めばLvは上がりますし、何らかの原因で逆にLvが下がる場合もありますから注意が必要です。それにLvにも種類があって、それぞれ得られる恩恵が違います。

 

 まずステータス。これは基本的な能力を表すLvですね。

 体力、知力、感覚、敏捷、器用、魅力、精神、幸運の八つ。それにHP、MP、SPの三つがあります。

 

 体力は腕っ節ですね。耐久力も兼ねてますので、これが上がると身体も頑丈になります。

 知力は知能の高さです。記憶力だけじゃなくて知恵や機転と言ったものも入ります。

 感覚は目や耳の良さを表してます。勘や直感、いわゆる第六感もこれの範疇ですね。

 敏捷はすばしっこさです。これが高いと馬と競争だって出来ますよ。

 器用はそのまんまです。手先だけじゃなくて体全体の使い方に及びますが。

 魅力も文字通りです。顔の美醜だじゃなくて、カリスマとか雰囲気とかも含んでます。

 精神、要は根性のことです。魔法系には割と重要な数値ですね。

 幸運はスバリ運の良さを表してます。他にも色々在りますが一旦置いておきましょう。

 

 で、残り三つ。

 HPはヒットポイントの略で、生命力を表します。これが無くなると死んでしまいます。

 MPはマインドポイント、これが尽きると気絶してしまうので注意してください。

 SPはスタミナポイントと言って疲労を示してます。これも尽きれば命に関わりますよ。

 

 ステータスは種属ごとに特徴があります。それを表したのが『種属特性』ですね。

 私たち人間は『ヒューマン』と言う種属ですね。特に秀でたものはありませんが、逆に苦手なものもありません。それに同じ種属でも、生まれによって特性は変わって来ます。例えば私とシエスタさんの種属特性である『弱者の意地』は平民の粘り強さを表したものですし、ご主人の『高貴なるものの義務』は貴族の在り方を表したものです。他にも色々有るようですが……。

 

 で、それを使って『何が出来るのか』を表したのが『クラス』です。

 クラスは四系統に別れています。剣や槍を使って直接戦うのがウォーリア系、メイジみたいに魔法を使うのがスペルマスター系、道具や薬を作るのがマイスター系、それに猟師とか農夫とかの普通の仕事を表す一般技能系。

 

 そしてそれぞれのクラスで『何が得意なのか』を表すのが『スキル』になります。

 このスキルを使うのに必要なのがMPって訳ですね。

 

 ちなみに冒険者には成長の限界がありません。鍛えれば鍛えた分だけ強くなれるんです。

 ですが、そうすると普通の道具では冒険者に付いていけなくなります。

 それを補完するのが『神器』です。神器はお金や宝石みたいな価値のある物を捧げて運命神から賜ります。ですが持っているだけでは使えません。神器やアイテムを使えるようにすることを『装備』と言って、現在使えるアイテムを表したものがステータスの『装備品』の欄なんですね。『所持品』の欄に表示されているのは、持っているけれどすぐには使えない状態のものを指します。

 

 それと、神器は冒険者以外には使えません。実際に一般人へ冒険者の薬を使って、何の効果も得られなかった事が確認されています。おまけに神器は壊れたり腐ったりしません。ものによっては使用者に凄い力をくれるのもあります。

 

 ……まあ、話だけ聞いてると凄く便利に聞こえるかも知れませんが、それが使えるようになるにはやっぱり努力が必要なんですよ。それもLvが上がれば上がるほど要求される努力も大きくなります。それが原因になって心が折れ、冒険者の資格を失う人も居るそうです。

 結局冒険者になっても最後にものを言うのは自分自身ってことでしょうね。

 

 

 

***

 

 

 

 おやご主人、まだ何か?

 ……え? 冒険者になる方法ですか?

 

 ……ええ、そうですね。『冒険者の洗礼』の仕組みは凄く単純です。

 

 『神様に祈る』、それだけです。

 

 ……嘘や冗談じゃありません。本当にこれだけなんです。だから怒らないでください。

 ええ、運命神に向かって「冒険者になりたい」と祈り、それに応えて神様が「冒険者に相応しい」と認めることで冒険者になれる、ただそれだけ。

 

 ……認められる為の条件? 判りません。『絶対諦めないこと』が絶対条件なのは間違いないんですが、努力してても認められなかった事例もごまんとありますし、高レベルの冒険者の手引きがあると認められ易いとは聞きますが、それも確実じゃ無いらしいです。

 

 ご主人やシエスタさんも聞いたと思いますが、認められると教会の鐘みたいな音が冒険者だけに届きます。そして『運命神の聖印』が運命神から与えられ、晴れて冒険者の仲間入りとなる訳です。聖印は『ステータスの確認』、『神器の購入』、『ギルドを組む』他にも色々使われますね。

 

 ……ん? 『ギルド』とは何か、ですか?

 『ギルド』とは冒険者が寄り集まって一つの集団になったもので、大体四〜五人で構成されることが多いですね。

 ……ああ、そう言えば『リーダー』と『拠点』を決めていませんでした。

 『拠点』とはそのまま本拠地になる場所で、『リーダー』とはギルドの方針を決定する代表です。ですが色々と常識はずれの冒険者のことですから、いずれも文字通りの意味ではありません。

 ギルドを組むと色々恩恵がありますが、その使い方を決めるのがリーダーです。

 他にも『拠点』があって初めて効果のあるギルドの恩恵もあったりしますね。それに常時発動タイプならともかく、基本的にギルドの恩恵は『リーダー』が承認しないと発動しません。

 冒険者にとってこの二つは絶対必要な条件でもあるんですよ。

 

 ……とりあえず、『拠点』はご主人の部屋でいいですかね?

 ……拠点は後で変更が利きます。拠点になる場所を運命神に報告するだけですので。

 

 あと、『リーダー』はご主人にお願い出来ますか?

 ……いえ、確かに冒険者に付いては私の方が詳しいですが、ご主人を『リーダー』に押すのは冒険者側から見ても妥当なんですよ。

 

 ご主人のスキル構成は後衛型です。それに対して私とシエスタさんは前衛型。

 最前線で戦う私達では戦況把握は難しいんですよ。だから『リーダー』は後衛型、それも戦況を理解し自分達に有利になるように運べるクラスが相応しいとされています。

 ご主人のクラスはセージ(賢者)です。戦況を把握し管理するにこれ以上相応しいクラスはありません。それにご主人は貴族ですから、社会制度上その方が好ましいと思います。

 

 ……そうですね、よろしくお願いします。

 

 

 

***

 

 

 

 ……ああ! 一番重要な事を忘れていました!

 

 ええと、以前ご主人にはお話ししたと思いますが、基本的に冒険者は何者にも従いません。

 そりゃ神様を倒そうって大それた連中が、今更王様や神官に従う筈が有りませんから。

 でも冒険者にも衣食住は必要です。でも仕事に就くのは誰かに従うってことでもあります。

 だから冒険者は『依頼を果たすことを運命神に誓う』ってこじつけて稼ぐんです。

 それが『誓約(クエスト)』です。そしてクエストを果たすと依頼人からの報酬だけじゃなくて、神様からも報酬を賜ります。ですが報酬と言っても物品とは限りません。中には形にならない加護や特別なスキルも含まれます。それらを授かる場所が拠点です。クエストの報酬は普通にしてたら絶対貰えないような凄いものも含みますが、その代わりクエストに失敗すると天罰が下ります。

 何が起きるかはまちまちですが、酷いのになると命に関わるものも有るそうです。

 

 ギルドの恩恵は他にもあります。一番有名なのが『耳打ち』ですね。

 ……ええ、そうです。同じギルド同士ならどんなに離れていても聖印を通じて会話が出来るってアレですよ。慣れて来ると口に出さなくても会話出来るようになります。冒険者が手強いとされる理由の一つですね。

 

 ……おや? なんか腑に落ちないって顔ですね?

 

 ……ああ、冒険者が群れる理由ですか。簡単な事ですよ。

 冒険者は誰にも仕えないから誰にも頼れません。だから仲間同士で助け合うんです。自分が得意な分野で仲間を助けて、その代わり仲間が得意な分野で助けてもらう、それがギルドを組む最大の理由なんですよ。

 

 一人で冒険を続ける『ソロ』と言うのも居ますけど、危険度は格段に跳ね上がります。

 冒険者にとって、信頼出来る仲間を見つけるのも大事な要素なんですよ。

 

 

 

***

 

 

 

 気が付けば大分夜も更けていた。どうやら話に興じ過ぎていたらしい。

 生徒達も皆引き払っており、ホールに残って後片付けをするメイド達の「邪魔だなぁ」と言う視線がルイズ達に突き刺さって、痛い。

 

「今日はここまでにしましょうか。もう皆さん帰ってしまわれたようですし、このままでは後片付けの邪魔になってしまいます」

 

 その台詞で、ルイズもようやく周囲の視線に気が付いたようだ。ばつの悪そうな顔でトモの言葉に頷き、少し残っていたグラスのワインを飲み干す。

 しかし空になったグラスを伏せるよりも早く、新たなワインが注がれる。

 

「……え?」

「……シエスタさん? どうされました?」

 

 ルイズのグラスになみなみとワインを注いだ犯人、それはシエスタであった。

 目を丸くする二人を余所に、彼女はトモのグラスにも溢れるほどにワインを注ぐと壜に直接口を付け、グビッと呷る。ぷはっ、と瓶から口を放すと同時に酒臭い息を吐くさまは、ドレスで飾り付けられた清楚で純朴な彼女の見た目にそぐわない、何とも言い難い雰囲気を纏っていた。

 

「ちょ、ちょっと! シエスタがおかしいわよ!?」

「ふむ、いつもと感じが違いますね。酔っているんでしょうか?」

 

 漢らしい飲みっぷりを披露する彼女に引くルイズと、冷や汗をたらしつつ冷静に分析するトモ。

 そんな二人に据わった目を向けるシエスタ。その顔はとろんとしつつも、どこか逆らい難い気迫を感じさせる。

 

「おい、トモ」

「はい?」

「飲め」

「……戴きます」

 

 呼び捨てに命令口調、明らかに酔っている。普段の姿からは想像もつかない酒癖の悪さに、トモは早々に逆らう事を止めてグラスに口をつけた。しかし次の瞬間、彼は口に含んだ酒を思いっきり吹き出して咽せる。グラスに注がれていたのはワインでは無く、かなり強い蒸留酒だったのだ。

 

「きゃっ!? ちょっとシエスタ、何を飲ませたの!?」

「ただのお酒れす。大丈夫(らいりょうぶ)大丈夫(らいりょうぶ)、安心れす!」

「呂律回ってないし!? 絶対大丈夫じゃないわよ!?」

「そりぇよりも、ルイズしゃまの飲みがじぇんじぇん足りましぇん!」

 

 驚いた拍子にひっくり返したグラスをルイズに持たせ、壜を傾けるシエスタ。しかし中身はすでに空だったらしく、琥珀色の滴が数適落ちて来るばかり。

 するとシエスタは自身の纏う淡いパステルのパーティードレス、その大きく開いた胸元に手を差し込む。そこから未開封の酒壜が出て来る様を見て、ルイズは目を丸くした。

 

「ど、どこからそれを!?」

「もらったのれふ!」

 

 ルイズの驚きに満ちた言葉にピントのずれた答えを返し、シエスタはコルクを素手で引き抜き、ルイズのグラスになみなみと注ぐ。表面張力で今にも溢れそうなほどたっぷりと注ぐと、再び壜からラッパ飲みで呷り始める。注がれたルイズと言えば、ワインとは明らかに違う強烈なアルコール臭を放つ液体に顔を引き攣らせていた、

 

「え〜と、シエスタ?」

「飲め」

「いや、こんな強いお酒、私飲めない……」

「いいから飲め」

「…………戴きます」

 

 シエスタの放つ圧倒的な迫力に、ルイズの抵抗は無意味であった。

 覚悟を決めて一気に呷る。強いアルコールが喉を灼き、ルイズのお腹がカッと熱くなる。

 

「きゅうぅぅぅっ……」

 

 そしてルイズはそのまま昏倒した。

 それを見届けたシエスタもころんと転がり、寝息を立て始める。

 

「……やれやれ、酷い目に遭いました」

 

 大惨事となったバルコニー。トモがようやく咳き込みから開放されたのは二人が寝入った、丁度その時であった。ドレス姿で寝転がる二人に苦笑すると、通りがかったメイド達に助力を頼む。

 

「無闇に嫁入り前のご婦人に触れるのも良く有りませんからね」

 

 そんな言い訳でメイド達を説得し、運ばれて行く二人を見送ったトモ。

 夜空には彼の生まれ故郷には有り得ない二つの大きな月が浮かんでいる。

 そしてそれを見上げながら彼が漏らした呟きは、赤と青の月光に染め上げられた夜の闇に溶け、誰の耳にも届かなかった。

 

「……さて、お互い小手調べは終わりました。ここからが本当の勝負です。ねえ、『神様』?」

 

 

 

 

 

 

 

To be continued.

 

NEXT:『冒険者のアルビオン』

 

 

 

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