ゼロの使い魔 〜使い魔は冒険者〜   作:まほうつかい

2 / 21
第二話 技能(できること)

 女性の部屋と聞いて何を思い浮かべるだろう。

 ファンシーなぬいぐるみに埋もれた部屋だろうか?

 淡いパステルに染まったメルヘンな部屋だろうか?

 人によってはたくさんの衣服に囲まれたファッショナブルな部屋を思い浮かべるだろうし、あるいは花に包まれたリラクゼーションな空間を思い浮かべるかも知れない。

 そう、決して必要最小限のものしかない殺風景な部屋なぞ、想像もしないはずだ。

 

「……これは、また……」

「何してんのよ?早く入って来なさい」

 

 ベッドと鏡台、勉強机らしきものと本棚、そして衣装棚。ルイズの部屋は驚く程質素であった。

 無論それらの調度品は全て最高級品であるし、絶妙な配置は卓越したセンスを感じさせるのだが……

 

「年頃の女の子、というのは皆こうなんですかね?」

「そんなわけないでしょ。私は無駄が嫌いなの」

「……おお運命の神よ、今私の幻想が守られた事に感謝いたします」

「……これから殺そうとしてる神に祈ってどうすんのよ?あんたの言う事は今イチ解らないわ」

 

 学院長室での宣誓のあと、彼らは様々な取り決めを交わした。

 今トモが女子寮にいるのもその一つである。

 着の身着のまま連れてこられた彼に、ここでの生活拠点などあろうはずも無い。

 それゆえ彼がルイズの部屋に居候する事は当然の成り行きと言える。

 ……本人が望んでいるかどうかはともかく、だが。

 

「はぁ……困りましたね」

「何でそんなに嫌がるのよ?別に鞭で打つとかは……しない、わよ」

「その間について問い詰めたい所ですが、別に嫌な訳じゃないんですよ。ただ……」

「ただ?」

「男女七歳にして同衾せず、ってのが故郷の風習でして。

 兄弟姉妹でもない限り、年頃の男女が同居することは有り得ないんです」

 

 最近はそうでもないようですけどね、と語るトモ。随分慎み深い国なのね、と納得するルイズ。

 一見すると穏やかな談笑。しかし会話が進むにつれ、段々雲行きが怪しくなって来る。

 

「じゃあ、もう一度確認するわよ。貴方は私が魔法学院を卒業するまで使い魔の振りをする。

 その間の滞在費その他の諸費用は全額私が負担する」

「そうですね、その通りです」

「使い魔の役割のうち、視界の共有は契約してないから問題外。

 秘薬の原料は種類が解らないから不可能」

「まあ、生まれが違いますし」

「最後の主人を守る、これも現状では弱っちくて駄目。……結局、何にも出来ないのね貴方」

「新米の駆け出し冒険者に何をお求めで?

 そもそも修行の為に旅立とうとした所を捕まえておいて、その言い草は無いと思いますよ?」

「そのくせ口だけは妙に達者なのよね。

 先生方もあっさり丸め込んじゃうし、冒険者より詐欺師の方が性に合ってるんじゃないの?」

「……あの方々が単純なんじゃないですかね? あと詐欺師云々は余計なお世話です」

 

 最早お互いに機嫌の悪さを隠そうともしていない。

 真綿で首を絞めるが如きの遠回しな嫌みの応酬、第三者が居れば胃を痛めそうな空気を打破したのは、やはり第三者であった。

 いがみ合う二人の耳に飛び込むノックの音。家主であるルイズが不機嫌に「開いてるわよ」と扉の向こうに声をかける。恐る恐ると言った体で入って来たのは黒髪黒瞳のメイドであった。

 その手にはパンが詰め込まれているバスケット、夕食を食べ損ねていたトモがオスマンに頼んでおいたものだ。

 

「失礼します。お夜食をお持ち致しました。

 もう竈の火も落ちていたので、余り物のパンで申し訳ないのですが……」

「え?……そう言えば頼んでいたわね。誰かさんの所為で夕食に行けなかったからお腹ペコペコよ」

「それは私じゃなくてあの方々に言うべきだと思いますよ? 私も喰いっぱぐれたんですから」

 

 再び始まりかけた嫌み合戦。しかしそれはあるものを目にした瞬間、雲散霧消した。

 

「あ……あの……」

「……止めましょう。メイドさんが困っています」

「……そうね。いい加減お腹も空いたし」

 

 そこに居たのは涙目でおろおろするメイドの姿。

 何となく置いていかれた子犬のような雰囲気があった。

 

「ふむ、犬耳とか似合いそうですね」

「え?」

「首輪も捨て難いと思うわ」

「え、えぇ?」

 

 さっきまで険悪だった二人が突然意気投合する様を見せられ、メイドは混乱する。

 どうやら自分を評価しているらしいが、その内容が意味不明。

 さっきとは別の意味でおろおろしているメイドに歩み寄り、トモはバスケットを受け取る。

 

「ありがとうございます。私はヤナギダ・トモと申しますが、貴女のお名前は?」

「えっ、あ、はい、私はシエスタと申します」

「ではミス・シエスタ。わざわざ届けて下さってありがとうございました」

「あっ、そんな、ミスだなんて付けて下さらなくて結構です! 気軽にシエスタとお呼びください!」

「解りましたシエスタさん」

「で、では、失礼致します!」

 

 ぱたぱたと遠ざかっていく後ろ姿を見送り、扉を閉めるトモ。

 そんな彼にルイズは胡乱な目を向ける。

 

「……なんか警戒されていましたね」

「……目を付けられたとでも思ったんじゃないの?」

「目を付ける?何の事ですか?」

「さっきのメイドに名前聞いていたじゃない」

「人に何かをしてもらったらまずお礼をしなさい、と言うのが故郷の風習でしてね」

「またそれ? 貴方の故郷ってどんな所なのかしら……」

「極東の島国で日本って言う所です。四季が美しい事と変わった風習が多い事で知られた国ですよ」

「ニホン……ロバ・アル・カリイエにはそんな国があるのね」

「その事なんですが……」

 

 突然改まるトモの態度。目を白黒させるルイズに、彼は信じ難いことを告げる。

 

「私はそのロバ・アル・カリイエとやらの出身じゃありません。

 ……いえ、このハルケギニアを含む世界の出身じゃ無いんです」

「は? どういう事?」

 

 切っ掛けはコルベールとの会話に出てきた国名だった。

 アルビオンとガリアは彼の世界において最も有名な大国の古い呼び名である。しかし両国ともその名を失い、今となっては知ってる方が少ないはずだった。当初は時間を遡りでもしたのかと考えたらしいが、夜になった瞬間にそれは否定された。

 窓から見える満天の星空、そこに輝く二つの月によって。

 

「私の世界では月は一つしかありません。その上、あなた方は冒険者を知らなかった」

 

 煌煌と光を放つ二つの月を見上げながら、トモは語る。

 冒険者とその神話は老若男女国家民族種属の関係無く広く知られていた。だからこそ『冒険者』という肩書きがもつ影響力は大きいのだ。

 少なくとも冒険者を知らない人間はトモの世界には居ない筈だった。

 

「荒唐無稽な話ですが、ここ……ハルケギニアは地球ではないどこかの星、若しくは平行世界ではないかと思うのです」

「信じられないわね。違う世界? 何なのよそれ。法螺話にも程があるわよ?」

「普通はそうなりますよね。ですが異世界云々は置いておくにしても、私がハルケギニアの常識に疎いことに変わりはありません」

「……最初っからそう言えば良いのよ。まあ、常識うんぬんは東方の出身と言う事で誤摩化せるでしょうけれど……」

 

 ご迷惑をお掛けします、と頭を下げてくるトモを見ながら、ルイズが今後の事を考える。

 とは言っても、何も知らないのは彼女とて同様なのだ。

 まずは彼が何が出来るのかを知らなければ対策だって取れない。

 

「ねえ、冒険者って何が出来るの?」

 

 ルイズの疑問に少し考えるトモ。何処まで話していいのかを吟味しているのだろう。

 

「ええと、全部は教えられませんよ?冒険者だけの秘密もありますから」

「いいわ。話せる事だけ話してちょうだい」

「解りました。……そうですね、まずは冒険者最大の特徴である『レベル』から説明しましょう」

 

 

 

***

 

 

 

 神が冒険者に与えた力は大きく分けて三つ。

 このうち、冒険者を冒険者足らしめているのが『レベル』である。

 冒険者は能力や技能を数値化して把握する。この数値を『レベル(以下Lv)』と呼ぶ。

 経験を積む事でLvは上がり、様々な恩恵を得る。

 Lvにもさまざまな種類があり、それぞれ得られる恩恵が違う。

 

 まず基本的な能力を表すステータスと呼ばれる各種能力。

 

 肉体的な力の強さや耐久力を表す『体力』。

 頭の回転や記憶力を表す『知力』。

 五感や勘の鋭さを表す『感覚』。

 素早さを表す『敏捷』。

 手先や身体の器用さを表す『器用』。

 他人を引きつける魅力を表す『魅力』。

 精神的な強さを表す『精神』。

 そして運の良さを表す『幸運』。

 

 その他に生命力を表すヒットポイント(HP)、精神力を表すマインドポイント(MP)、持久力を表すスタミナポイント(SP)がある。

 そして冒険者には成長の限界がない。鍛えれば鍛えるほど際限なく成長していくのだ。

 

 それは能力だけでなく技能に置いても同様である。それが『クラス』と『スキル』だ。

 クラスは冒険者が『何が出来るのか』を示す数値だ。そしてスキルとは『何が得意なのか』を表す数値であり、スキルLvの合計がクラスLvになる。

 クラスは四つの系統に分かれており、それぞれに得意とする分野が違う。

 

 肉弾戦を得意とするウォーリア系。

 主なクラスはファイター(戦士)、アーチャー(弓兵)、シーフ(盗賊)など。

 

 魔法を得意とするスペルマスター系。

 主なクラスはキャスター(魔術師)、シャーマン(巫術師)、ヒーラー(治癒術師)など。

 

 武具や道具の作成を得意とするマイスター系。

 主なクラスはアルケミスト(錬金術師)、ブラックスミス(鍛治師)、エンジニア(機工士)など。

 

 あまり冒険に関係はないが、あると便利な一般技能系。

 主なクラスはハンター(猟師)、ファーマー(農夫)、シェフ(調理師)など。

 

 ちなみに常人なら2Lvでプロ、3Lvで達人と呼ばれる。

 噂によればLv100に至った冒険者さえ居たと言うから驚きだ。

 

 そうしてLvを伸ばして成長するに従い、冒険者の能力は常人と掛け離れていく。当然、常人の使う武器や道具では間に合わなくなる。

 それをカバーするのがもう一つの力、いやシステムである『神器』であった。

 お金や貴金属、宝石など『価値があると認められるもの』を運命神に捧げ、それに見合う価値の道具を得るシステム。そうして得られた『神器』は決して壊れたり朽ちたりせず、中には所有者に絶大な力を与えるものも存在する。

 半面『神器』は冒険者以外には効果が無く、更には特定のLvやクラスでないと使えないものもあるので注意が必要だ。

 

 こう言った能力を駆使して、冒険者はいつか神に挑む為に研鑽を続けるのだ。

 

 

 

***

 

 

 

「……何よそれ、反則じゃないの」

 

 トモの話を聞いたルイズの反応は今ひとつであった。

 話のスケールは大きいものの、それらは冒険者でなければ実感出来ないものばかり。

 それは胡散臭く感じるのも当たり前だろう。

 

「レベルアップも相当だけど、神器は完全にインチキじゃない。

 そもそも自分を殺そうとしてくる人間にそんなものくれるなんて、何考えてるのその神様」

「運命神が何考えてるかなんて、卑俗な人間には理解出来ませんよ。

 私たちはいつか神を殺す、それだけですから」

 

 シエスタが持って来た夜食のパンを貪りながらルイズは愚痴をこぼし、トモはのらりくらりとそれを躱す。先に根を上げたのはルイズの方であった。

 

「もういいわ。とりあえず、明日から貴方は私の使い魔ね」

「正確には使い魔の真似事ですがね」

「嘘でも何でも良いのよ。魔法に成功したって事実さえあれば」

「何やら事情がありそうですが、もうそろそろ寝ないと明日がきついのでは?」

 

 言われてルイズも気付いた。もう既に夜半を過ぎている。

 ただでさえ朝が弱い彼女にとって、夜更かしは危険な行為だ。ネグリジェに着替えようとブラウスを脱ぎ、スリップに手をやった所でルイズはトモがこちらに背を向けていることに気が付いた。

 

「……何やってんのよ」

「いえ、いきなり着替え出したんで驚いただけです。最近の娘さんは慎みに欠ける、とは聞いていましたが、まさか男の目の前で着替えようとする程とは思いませんでしたから」

 

 ぐっ、と詰まるルイズ。

 別に使用人如きに気を遣う事もないが、慎みを持ち出されては言い返せない。後で下着の洗濯を命じるつもりであったが、こう言われては頼みにくかった。

 何とかして切り口を見つけようとする彼女に、トモは追い討ちをかける。

 

「あ、朝ご飯は何処で食べれば良いんですか?」

「え、それはアルウィーズの食堂で……」

「いやいや、推測するにそこは貴族専用ではないですか? 私は貴族じゃありませんし、下手に周囲の注目を浴びれば私の正体もバレかねませんよ?」

「そう言えばそうね、じゃあ厨房に行って何か分けてもらいなさい。私の名前を出せば分けてもらえると思うわ……っ!?」

 

 言ってしまってから、ルイズはまた一つ手札を失った事に気付いた。

 何と言う事だ。由緒あるヴァリエール公爵家のこの私が、さっきからこの男の口車に乗せられっぱなしではないか! 必死になって打開策を捻るルイズに、トモはまたしても爆弾を投げ付ける。

 

「ああ、それと洗濯物は普段誰に頼んでるんですか? メイドさんに言えば良いんですかね?

 何と言ってもプロですし、私がやるより確実でしょう」

「ぐっ……、その籠に放り込んでおけば掃除の時に持っていくわ。わざわざ頼まなくても大丈夫よ」

「成程。まあ汚れ物を面と向かって渡すのは恥ずかしいものですし、そう考えると良く出来たシステムですねコレ」

 

 互いのメリットを指し示しつつ矛先を躱し、躱した先に被害が及ばないように釘を指すと言う高度な交渉術に、ルイズは翻弄されっ放しだ。

 

(まあ、確かにコイツにやらせるよりメイドにやらせた方が確実だし……)

 

 渋々自身を納得させるルイズ。せめてもの反撃に毛布を投げ付けて「アンタは床で寝なさい」と言い放つと、そのまま夢の世界に旅立つのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 学院の雑用を一手に引き受けるメイド達の朝は早い。

 夜も明けたばかりの早朝、シエスタは山のような洗濯物を抱えて洗い場に急ぐ。

 

「……あら?」

 

 洗い場には先客が居た。

 正確には洗い場の傍で、誰かが何かを振り回していた。

 長身の男である。黒いチュニックのような服に藍染めのズボンを合わせた姿に、シエスタは見覚えがある。確か昨晩女子寮に夜食を届けに行ったとき、名前を尋ねて来た男だ。

 

 女子寮は基本男子禁制ではあるが、青い春に情熱を燃やす若人には関係ない。

 夜這いに逢い引きは当たり前、ある時などは部屋から漏れ聞こえる嬌声に顔を火照らせながら職務を果たした事さえある。

 だからあの男もそう言った間男の一人だと思ったのだが……どうやら違うらしい。

 

「ふっ! はっ! せいっ!」

 

 貴族は杖を振れども剣を振るったりはしない。

 衛士が好んで使うレイピアタイプの杖も、魔法との併用を念頭に置いた使い方をするのだ。

 しかし男が振るう棒切れはそう言った剣技とは明らかに一線を画していた。

 手にした棒切れは名匠に鍛えられた業物、振るわれるは必殺の斬撃。

 袈裟に払われたかと思えば刺突に、かと思いきや横薙ぎに変わったと見るや逆袈裟に。

 剣技に詳しくないシエスタでさえも魅了する、ふつくしい業であった。

 

 そして男は素振りを止め、左の腰だめに剣を構える。

 柄を握らず添えられた右手、体幹を捻り右半身を前に迫り出した異様な体勢。

 見慣れぬ構えのまま細く吐き出される吐息。それが途切れた次の瞬間、呼吸が爆発する。

 

 引き絞られた弓から放たれる矢の如き一閃。

 

 横薙ぎに振るわれたそれがそこに居ない筈の敵を一刀両断にするのを、シエスタは確かに見た。

 油断無く残心を払い、振り抜いた剣を正眼に戻して───男はそこで呼吸を戻す。

 張りつめられた何かが雲散霧消したのを感じ、シエスタは思わずへたり込んでしまった。

 その音に気付いたのだろう。男……トモはこちらに振り返り、へたり込んだシエスタを見るとほんの少しだけ苦笑いのようなものを浮かべた。

 

「おや、貴女は……確か、シエスタさん、でしたね。いつから見ていたんですか?」

「え? あ、いえ、ついさっきからです。すいません、お邪魔でしたか?」

「いえいえ、こちらこそつまらないものをお見せしました」

 

 その答えにシエスタは驚く。

 アレがつまらないものならば、一体何がつまるものだと言うのだろう?

 

「そんなことは……、それよりも剣士の方だったんですね! 私てっきり……」

「……何と勘違いしていたのかは敢えて聞きませんが、私は剣士ではないですよ?」

 

 剣士ではない? あれだけの剣技を持ちながら、剣士ではないと言うのか!?

 シエスタの顔に浮かんだ疑問を読んだトモは少しだけ考え込んだ後、名乗りを上げた。

 

「私はサムライ(侍)。サムライのヤナギダ・トモです」

 

 聞き慣れぬ異国の言葉だと言うのに、何故かシエスタの郷愁をくすぐるその名乗りに、彼女は小首を傾げる。

 

「さむらい、ですか?」

「ええ、カタナと言う特殊な剣に精通した、義に厚く忠を尊ぶ戦士の事です。こちらで言う騎士のようなものですね」

「え、騎士様だったんですか!?」

「いや、例えれば、ですよ。私はシエスタさんと同じ平民です」

「え……でも、昨日………」

 

 ミス・ヴァリエールのお部屋に居たじゃないですか、と聞きかけたシエスタだが、ある事を思い出して口を噤む。

 あの『ゼロ』が平民を召喚したらしい、と言う噂は使用人の間でも迅速に広まっていた。

 彼女も多分に漏れず、ゴシップ好きな同僚から聞かされている。

 『ゼロ』と言うのは確か昨晩、夜食を届けた先であるルイズの二つ名だった筈だ。

 

「あ、じゃあミス・ヴァリエールに召喚された平民の使い魔って、貴方だったんですか!?」

「ええ、そうなりますね」

 

 噂の人物を目の前にして、シエスタがまず思ったのは『思ったよりショボい』であった。

 

 噂話に尾ひれが付くのは何処の世界も変わらない。

 最初は正確だった情報も、人の口を介する内に段々歪んでいくものだ。

 『平民を呼び出した』が『平民の傭兵を呼び出した』に変わるのは序の口。

 色々付けられた尾ひれは、シエスタの元に辿り着く頃にはこうなっていた。

 

『絶世の美男子で凄腕のメイジ殺しの平民が、呼び出したメイジを半殺しにして学院中の教師を相手取った挙げ句、あと一歩の所で力尽きて取り押さえられた』

 

 最早原形を留めていない。

 

 しかし本人は上背こそあるものの顔立ちは平凡、もやしのような華奢な体つきは荒事に向いていなさそうで、メイジ殺しどころではない。

 そこまで考えが進んだ処で、シエスタは先程の鍛錬を思い出してその考えを否定する。

 あの見事な殺陣を見せた男が只者である筈が無い。実際にサムライという戦士がどのようなものかは知らないが、きっと凄い人々なのだろう。

 やや強引に結論を導いたシエスタを余所に、トモは傍に引っ掛けてあったボロ切れで汗を拭いながら「朝食はいつ始まりますか?」と尋ねた。

 

「あ、はい、もう間もなくだと思いますが」

「そうですか、ではそろそろご主人様を起こさねばなりませんね」

 

 そう言って踵を返すトモだったが、途中で歩みを止めて振り返り、大声でシエスタに呼び掛けた。

 

「あぁ、忘れてました。すいませんが、あとで食事を分けていただけますか?」

「……食事を、ですか?」

「はい、ご主人様から厨房で分けてもらえと言われてまして」

「あ、そうですね、判りました! 賄いで良ければいつでもいらして下さい!」

 

 ありがとうございます、と言い残して今度こそ去って行くトモ。

 その後ろ姿を見送りながら、シエスタは(不思議な人だなぁ)と思わずにはいられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 所変わってルイズの寮室。

 大きな寝台で惰眠を貪るルイズの枕元に、昨日までは無かった奇妙なものが置かれていた。

 円形の胴体に数字を刻み、その中心に長さの違う二本の針が縫い付けられてくるくる回るようになっており、天辺には大きなベルが取り付けられている。今、長い針が『12』と書かれた所を指し示す。途端にベルがけたたましく鳴り始めた。

 

「ふぎゃっ!! 何、何事!?」

 

 その大音声にルイズが飛び起きる。

 それと同時に帰って来たトモが真直ぐベルを鳴らす物体に歩み寄ってその頭を叩く。

 ビタリと止まるベルの音。それを確認すると、トモはルイズに向かって優雅に朝の挨拶を贈った。

 

「お目覚めですがご主人様。もうすぐ朝食の時間ですよ」

「え、アナタ誰……って、昨日召喚したのよね私が。うん、覚えてる」

「それは重畳。では、私は席を外しておりますので、お支度をお願い致します」

 

 慇懃無礼の見本の如きわざとらしさで一礼すると再び部屋を出て行くトモ。

 一人残されたルイズは、着替えの手伝いをさせるチャンスを失った事に気付いて臍を噛んだ。

 

 一方、部屋を退出したトモは扉を背にして仁王立ちする。

 そうしていると不意に隣の部屋の扉が開き、中から燃えるような髪の艶かしい女性が現れた。

 

「あら? 確かそこはヴァリエールの部屋だったと思うけど、貴方は誰?」

「……人に名を尋ねる時は自分から明かすのが礼儀ですよ、お嬢さん」

 

 昨日から繰り返している主張をもう一度繰り返すトモ。

 それを聞いた女性は軽く目を見開いた後、笑いながら自らの名を告げる。

 

「あら失礼。私はキュルケ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つ名は『微熱』よ」

 

そう言うと、女性───キュルケはチェシャ猫の如き微笑を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

取得アイテム

 

・目覚まし時計:バッドステータス『睡眠(※1)』を回復する。

・粗末な木刀:手作りの木刀。レンジ密着〜近距離、物理ダメージに1d6を加算する。

       判定時にファンブルすると破損する(ファンブル値に+3)。重量:1

 

所持金:16,200円

 

 

 




(※1):睡眠状態になったエネミーもしくはPCはイニシアチブフェイズで行動済み状態になる。
この効果を解くためにはメインフェイズで精神抵抗判定に成功するか、専用の回復アイテムかスキルを使用しなければならない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。