ゼロの使い魔 〜使い魔は冒険者〜   作:まほうつかい

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第十七話 挑戦(てぶくろ)

「痛ぇ、痛ぇよ……、畜生、あの白仮面野郎! 話が違うってんだ、くそったれ!」

「……ふん、足止めにもならんとはな」

 

 ルイズ達が立ち去っても傭兵達の拘束は解けなかった。

 身動き出来ずに転がされ、ただただ呻くしかできない彼らに酷く見下し切った声が掛かる。

 いつの間にか白い仮面を付けた雇い主が男達の傍に現れていた。

 

「手前ぇ、何が『相手は素人』だ! 無茶苦茶手強いじゃねぇか!!」

 

 その姿を見るや、男は唾を飛ばして噛み付く。だが怪人はそれに構う事無く、懐から短刀を引き抜き一閃。風の刃が青銅の鎖を切り裂き、彼らは自由を取り戻した。

 

「契約はまだ有効の筈だ。街で待機している連中と合流し、手筈通り襲撃をかけろ」

 

 それだけ言うと白仮面は踵を返す。その背中に傭兵達は絶縁状を叩き付けた。

 

「冗談じゃねえ! 俺はこの仕事を降り……」

 

 いや、叩き付けようとした男がそれを言い切る前に一陣の風が吹く。そして男は永遠にその台詞の続きを口にする事が出来なくなった。

 

 何か重たいものが落ちる音が響く。そして次の瞬間、盛大な水音を立てながら男の身体はゆっくりと地面に倒れ伏した。

 ……その頭部にあるべきものを無くした姿で。

 

「ああっ!? ジョーンズ!!」

「て、手前ぇ! 一体全体、何のつもりだ!!」

 

 突然の事に呆気にとられた傭兵達が仲間が倒れた音で我に返る。とは言え得物であった弓はルイズ達に取り上げられていたので、今の彼らは徒手空拳。

 対する怪人が握るのはレイピアのような杖剣。その切っ先を男達に突付け、白仮面は低く唸る様に吐き捨てた。

 

「逃げたら殺すと言った筈だ。それとも俺に勝つつもりか? 丸腰の貴様らが」

『ぐっ……』

 

 言葉に詰まる傭兵達。

 彼らとて戦場を駆け抜けた傭兵、メイジを相手取ったとしても充分に渡り合う自信はある。けれどそれは装備や作戦が十二分に整っていた場合の話であり、人数に優るとは言え素手で、しかも凄腕のメイジを相手取るのは無謀としか言い様が無い。

 両手を挙げて降参の姿勢をとる傭兵に、彼らの雇用主は満足そうに頷くと言葉を続けた。

 

「……奴らの実力を見誤っていたのはこちらも同じだ。今回の失敗は見逃してやる。だが二度目は無いぞ? 怖じ気づいてこの場で俺に殺されるか、それとも仕事を続けるか……好きな方を選べ」

 

 

 

***

 

 

 

 貴族向けだけあってルイズ達の部屋は一際豪奢な造りをしている。

 天蓋付きの大きなベッドが並び、手の込んだレースのクロスが掛けられていた机には、平民なら銘柄を見ただけで震えが止まらないであろう高級銘柄のワインがあった。

 ワルドはそれを惜しげも無く開封し、陶製の酒杯に注ぐ。

 

「折角だから一杯やろう。ルイズもそこに座ると良い」

「そうね。このままじゃ眠れそうにないし、寝酒と言うには時間がおかしいけれど」

 

 ワルドは自分の杯を掲げた。ルイズも自分の杯を取る。

 

「何に乾杯するべきなのかしら?」

「そうだね……僕達の再会と、任務の成功を祈念してと言うのはどうだろう?」

 

 悪くないわね、と言って杯を合わせる。

 豊かな香りが口腔を経て肺を満たす。高級銘柄の名が示す通りの上等な味わい。

 けれどどこか物足りない。そんな感想が浮かび、ルイズは首を傾げる。

 

(いつもなら女子寮に忍び込んだギーシュが逃げ込んで来て、追いかけて来たモンモランシーにボロボロにされて、タバサが話を聞きに来て、そんなあの子にキュルケがお酒を片手に着いて来て、シエスタがお酒に手を出す前にトモと私が急いで飲み干して─────)

 

 キュルケが持ち込む酒の銘柄は高級な物ではなく、むしろ庶民向けの安物であることが多い。

 だと言うのに今の彼女にとっては、その安酒の方が美味かったように思えたのだ。

 

「……どうかしたのかい? 先刻から何か悩んでいるようだけど」

「あ、いえ、何でもないわ」

 

 しかし首を捻ったのもつかの間のこと。

 ワルドの問いかけに、ルイズは脳裏に浮かんだ疑問を心の片隅に追いやって微笑む。

 

「ならいいんだが……。色々と君には驚かされてばかり居たからね、少し気になったんだ」

「あら、そんなに心配されるほど頼り無かったかしら?」

 

 ワルドの言葉におどけてみせるルイズ。誤摩化すのではなく、それ以上触れてほしくないと相手に伝えて話題を切り上げさせるための、一種の駆け引きであった。

 彼もそれに気付いたのだろう、酒杯に口を付けて一拍置いてから別の話題に切り替える。

 

「……殿下から預かったものは、きちんと持っているかい?」

「大丈夫。ここにあるわ」

 

 そう言ってルイズは自らの薄い胸を押さえる。そこに納められたアンリエッタからの預かりものの重さを、彼女は今更ながらに感じずにはいられなかった。

 そんなルイズの姿に、ワルドは目を細めながら頷く。

 

「そうか……。ところで僕が承った命令は『ルイズの護衛』でね。殿下が君に何を預けたのかさえ知らないんだ。差し支えなければ教えてくれないか?」

 

 その台詞に逡巡したのはごく僅か、ルイズは首を横に振る。

 

「それはお教え出来ません。私に預けて下さった姫様の信頼を裏切れないもの」

 

 そんなルイズに「それもそうだね」と返し、ワルドは酒杯を呷った。

 しばしの無言。沈黙を破ったのはワルドの方だった。

 

「しかし驚いたよ。ツェルプストー嬢の件もそうだが、任務に出る前の用意周到さや姫様を説得した話術、まさに一流の手腕だ。一体どこでそんな事を覚えたんだい?」

 

 ルイズは言葉に詰まる。まさか『冒険者になったからです』などとは言えない。

 だから彼女は自分の使い魔に丸投げした。

 

「彼に、トモに教わったの。彼の故郷はトリステインには無い変わった風習が多いし、いろいろ考えさせられる事も多くて勉強になるわ」

「そういえば彼はロバ・アル・カリイエで何でも屋をやっていたそうだね。成程、ならば色々知っていてもおかしくないか」

 

 素直に信じてくれた事に安堵しつつも、彼を騙していることにルイズは罪悪感を抱く。

 だからと言って『実は異端ですのよオホホ』とでも告げた日には一族郎党がまとめて没落するのは確実。その中には当然ワルドも含まれる。

 

(そうよ、これは彼の為でもあるんだから……)

 

 必死にルイズが自己弁護を行っていると、ワルドが遠い目をして語り始めた。

 

「本当に驚いたよ。あの小さなルイズがいつの間にか成長していたんだからね。覚えているかい?  昔、君のお屋敷の中庭で交わした約束の事を」

 

 そう言われたルイズが思い出すのは、やはりあの夢である。相変わらず最後の方が思い出せないが、子爵らしき少年との語らいは間違えようが無い。

 

「……あの、池に浮かんだ小舟の事かしら?」

「そうだ。君はご両親に怒られたあと、いつもあそこでいじけていたからね。まるで捨てられた子猫のように……」

 

 ワルドが語る昔話に、ルイズは思わず吹き出した。成程、捨て猫とは上手い例え話だ。少なくともあの当時、彼女が味わっていた絶望は正しくその通りだったのだから。

 

「ふふっ、変な事ばかり覚えていらっしゃるのね。でもあの頃はお母様に叱られる度、自分は要らない子なんだって思っていたもの。お姉さまが優秀だったから比べられてばっかりだったし」

 

 自虐気味のその言葉を、ワルドは首を振りながら否定する。

 

「それは違うさルイズ。確かに君は失敗ばかりしていたけれど、僕は君が凄いメイジになるってことを確信していたよ。君は誰にも無い魅力を放っていた。そう、始祖ブリミルのような偉大なメイジになる、そんな予感を感じさせてくれるんだ」

「……いくらなんでも褒め過ぎでしょう、ワルド様 」

 

 ルイズは呆れながら嗜める。その台詞で冷静に戻ったらしく、ワルドは赤くなった頬を掻きながら残ったワインを一息で煽った。

 

「……済まないルイズ、どうも熱くなっていたようだ。でもこの気持ちは本物さ、きっと君は偉大なメイジになれるだろう。僕も並のメイジじゃないからそれが判る。……信じられないかい?」

 

 ルイズは首を縦に振る。きっとこれは彼流の冗談だと思っていたからだ。

 続けて放たれたワルドの言葉を耳にするまでは。

 

「ならば証明しよう。ルイズ、この任務が終わったら僕と結婚して欲しい」

「………………え?」

 

 唐突なプロポーズに、ルイズの思考が停止した。それに構わず、ワルドは台詞を続ける。

 

「僕は魔法衛士隊の隊長では終わらない。いずれは国を……、このハルケギニアを動かすような貴族に成りたいと思っている。そんな僕が認めたんだ。君はきっと、歴史に名を残す素晴らしいメイジになれるって。僕の一生を賭けても良いくらいにね」

 

 一旦言葉を切り、ワルドはルイズに熱の篭った視線を向ける。

 

「君ももう十六だ。自分の事は自分で決められる年齢だし、お父上も許して下さる。ずっとほったらかしだった事は謝るよ。けれど、全ては君に相応しい貴族になる為だったんだ。君の隣に立つ為に、僕の青春を国に預けてまでしてね」

「ワルド、様……」

「君の婚約者だなんて、言えた義理じゃないのも判っている。……それでも、僕には君が必要なんだ、ルイズ」

 

 ルイズの頬が急速に赤く染まって行く。

 当たり前だ、なにしろずっと憧れていた初恋の人からの求婚である。嬉しくない筈が無い。

 喜び勇んで了承を伝えようとして────

 

 ルイズはそれ以上何も言うことが出来なかった。

 

「……どうしたんだい、ルイズ?」

 

 黙り込んでしまった彼女を気遣ってか、ワルドが心配そうに尋ねてくる。

 

「いえ、大丈夫ですわ。ただ、ちょっと唐突だったもので……」

 

 それに対し、ルイズは慌てて首を振って誤摩化す。

 確かに不意を突かれたこともある。だが彼女が口を噤んだのはそれだけが理由ではない。

 何かは分からない、けれど確かに存在する不安が、求婚への返答を躊躇わせているのだ。

 それは求婚された喜びや驚愕を押しのけるほどの存在感を持って、ルイズの中に痼りを残す。

 

「……どうやらいきなり過ぎたようだね。返事は今でなくてもいいよ。でも、この度が終わるまでには君の気持ちも僕に傾く筈さ」

 

 俯いたまま黙り込むルイズを見て、ワルドも流石に性急過ぎたと感じたらしい。

 苦笑いしながら返答期限を先延ばしにしてくれた彼を見て、ルイズは申し訳なく思う。

 

「それじゃあ、もう寝ようか。午後からも忙しくなりそうだしね」

 

 そう言うと、ワルドはルイズのおとがいに手をかける。

 それが唇を合わせる仕草だと思い出したルイズはそっと身を離す。

 

「……それは、まだ早過ぎましてよ?」

「そうみたいだね。まあ、急がないよ僕は」

 

 キスを拒絶されたにも拘らず優しく微笑むワルドに若干の罪悪感を覚えながらも、何故かルイズはほっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

***

 

 

 

「……ねえキュルケ、それ……」

「聞かないで」

「でも……」

「いいから、聞かないで」

 

 中天より西寄りに傾いた日の光に照らされた『女神の杵』亭の一階、夜は酒場となるホールにて遅めの昼食を摂るルイズ達一行。しかしよく見ればシエスタの姿が無く、やたら疲れた表情のキュルケとタバサの顔色が青い。もしかしたら先程『女神の杵』亭の店主から渡された請求書を見て、ワルドが盛大に顔を引き攣らせた出来事と関係があるのかもしれないが、ルイズは敢えてそこに触れようとはしなかった。

 

「やあ、みんなおはよう。……ところで僕の頭がやたら痛むんだけれど、何か知らないかい?」

 

 寝過ごしたのか、ギーシュが後頭部をさすりながら現れて席に着く。そしてトモが空気を入れ替える様に手を叩き、今後の進退を決める会議が始まった。

 

「さて、まずは情報収集から始めましょう。子爵、船の手配はお済みですか?」

「ああ。明日の朝一番に出航する船にねじ込んだよ。貨物船だから乗り心地までは保障出来ないが、緊急時だ。贅沢は言えんよ」

 

 トモの問いにワルドが答える。

 

「それは重畳。では、出航までに半日と一晩の余裕がある訳ですが……」

「余裕は無いと思うわよ。むしろ今すぐ出立したいくらいだわ」

「……それは、どう言う意味だい?」

 

 トモの台詞を遮り、ルイズは懸念を示す。その言葉にギーシュが首を捻った。

 だが他の面々はその意味に気が付いたらしい。トモが顔を覆って天を仰ぐ。

 

「あのね、私達を襲った奴らは時間稼ぎを狙っていたのよ? じゃあ、何の為に時間が欲しかったと思ってるの?」

「それはもちろん僕たちを迎撃するため─────っ!?」

 

 ルイズの説明に、一拍遅れてギーシュもその意味を理解した。

 

「そうよ、連中は『ラ・ロシェールで』『私達を』迎撃したいのよ? だったら『今』、『ここにいる』私達を見逃す筈ないでしょう?」

 

 そう、言わばこの地は敵陣そのものと言えるのだ。だのに彼らは見張りも立てずに惰眠を貪ると言う、隙だらけの行動をとってしまった。

 襲撃を受けなかったのは幸運としか言い様がない。……いや。

 

「襲撃がなかったのは、向こうも戦力を整える時間が必要だったから。そう考えると半日と一晩は長過ぎる」

 

 メイジ殺しは事前の準備が重要だ。魔法を使う隙を与えない圧倒的な物量に綿密な作戦、人海戦術に必要な頭数揃え、半日もあれば相当な準備が整えられる。さらに半日与えられれば尚更だ。

 そして気の緩みがちな深夜は奇襲には最適な時間帯である。

 悪条件も此処まで揃えばいっそ清々しい。

 

「本当ならもっと早く気付くべきだったわ。不覚をとったわね」

 

 自身の不覚を悔いるルイズだが、彼女とていっぱいいっぱいだったのだ。

 ただでさえ困難な任務に加えて、途中の襲撃や初恋の人からのプロポーズなどで混乱の極みにあった彼女に、『敵の行動の予測』をさせるのはオーバーワークと言っても過言ではない。むしろ半日の休養だけでそこに気が付ける洞察力と精神力こそ賞賛に値するだろう。

 とは言え危機的状況には変わりない。

 ルイズの話に聞き入っていた一同も渋面を作って考え込む。

 

「出航を急がせるのは?」

「無理だな。風石の積み込みが終わるのは明日の朝になるらしい。どんなに急がせても今日の夜までは動かせないだろう」

「それにアルビオンの情報は必須です。下手をしたら敵陣のど真ん中を突っ切る羽目にもなりかねませんし、少なくとも王子様の居場所位は把握しておかないと」

 

 ギーシュの提案をワルドが否定し、更にトモが情報収集の必要性を訴える。

 

「手分けしてって訳にはいかないわ。戦力の分断なんて、どうぞ襲って下さいって言ってるようなものよ」

「ふむ、ならば君たちは街中で情報収集に回ってくれたまえ。無論、全員でだ」

 

 ルイズの懸念にしばし考え、一行全員での行動を促すワルド。

 

「判りました。子爵はどうなされますか?」

「僕なら単独でも何とかなる。出航を急かすついでに『桟橋』で情報集めをしよう」

「なっ!? 単独行動は危険だと、先刻ルイズが言ったばかりではありませんか!!」

 

 トモの疑問に応えたワルドに、驚愕したギーシュが泡を食って詰め寄る。

 しかしワルドは飄々とした態度を崩さずに、逆にギーシュを説得にかかった。

 

「僕はこれでも『風』のスクウェアだからね。逆に単独の方が都合がいいんだ」

「……ああ、確かに! でもワルド様、騒動など起こさないようにお気をつけてくださいね?」

 

 ワルドが言いたい事を察したルイズが釘を刺す。

 『風』の本領はその早さにある。殲滅力では『火』に劣るものの、対人戦闘では他の追随を許さない。言い換えれば『風』の早さに着いて行けない味方など足手纏いでしかないのだ。

 だからと言ってわざわざ敵に喧嘩を売る必要は無い。ルイズの忠告の意味を理解してか、ワルドは苦笑いしながら首肯する。

 

「判っているさ。さて、他に意見はあるかね?」

「いえ、それで行きましょう。ご主人も宜しいですか?」

「そうね……そうしましょう。じゃあ夕刻に此処へ集合ってことで」

 

 そう言ってルイズは席を立つ。

 それにつられて皆が立ち上がりかけた所で、ワルドが思い出した様に呼び止めた。

 

「ああ、ルイズと……使い魔君はちょっと待ってくれるかな?」

「え?」

「構いませんが、何か?」

 

 呼び止められた二人を真直ぐ見返しながら、ワルドは何でも無い事の様に告げた。

 

「いやなに、ちょっと僕と決闘して欲しくてね」

 

 

 

***

 

 

 

 ワルドに導かれた一行が辿り着いたのは、空樽や空き箱が山と積まれた中庭の物置き場であった。

 かつての栄華を示す苔むした旗立台を見上げ、ワルドはこの宿の成り立ちを語り始める。

 

「もともと『女神の杵』亭はアルビオンからの侵攻に備える為の砦だったんだよ。この練兵場もその名残さ。古き良き時代、かのフィリップ三世の治下ではここでよく貴族が決闘したそうだよ」

「それはまた、物騒なお話しですね」

 

 どこか懐かしむような、あるいは羨望するかのような語り口。

 それに返されたトモの台詞に、彼は苦笑いしながら首を振る。

 

「まあ実際はくだらない事で杖を抜き合ったそうだよ。例えば女を取り合うとか」

「……何処であっても男というのは変わりませんねぇ」

 

 呆れるトモだったが、その言葉にほんの少しだけ共感が混じる。

 それに気付いたのだろう、ワルドは少年のようにはにかみながら答えた。

 

「何処であろうと男の矜持は変わらんさ。名誉と誇りに人生を賭け、惚れた女に命を賭ける、それが許された時代も確かにあったのだから」

「確かに。男と少年の違いは玩具の値段でしか無い、なんて格言もありますしね」

 

 違いない、と朗らかに笑い合う男二人を呆れた様に眺めるルイズ。

 その視線に気付いたのか、ワルドは少しだけバツが悪そうな顔をした。

 

「済まないね、ルイズ。でも、僕の背中を預ける相手の実力を知らなければ、今後の任務にも差しさわるからね」

「それは判りますけれど……突然決闘なんて言い出すから驚きましたわ」

 

 彼女がここに居るのは介添人を頼まれたからだ。

 いざとなったら身を挺してでも止めると覚悟を決めていたルイズだが、以外に気安い二人の態度に呆れつつも安堵の溜息をこぼさずにはいられなかった。

 

「言葉が足りなかったね。けれどこれは重要なことなんだ」

「作戦を立てるにも何処まで出来るかを知らなければ話になりませんからね」

「その通り! 準備はいいようだね。では……」

「あ、少々お待ちを。どうせならそれらしく行きましょう」

 

 そう言うとトモはデルフリンガーを抜き、斜め上に突き出す様に掲げた。

 

「私の国の作法じゃないんですが、こうやってお互いの武器を交差させてそのまま五歩ずつ離れて五歩目を踏んだ所で振り向き決闘開始、と言う物です」

 

 唐突な申し出にワルドが困惑していると、トモはいつもの無表情に近い薄い微笑みを湛えた顔に、ほんの少しだけ感情の色を浮かべる。

 

「故郷で一時期流行っていた、時代物の演劇で良くやっていたんですよ。子供の頃、近所の悪餓鬼共とつるんで真似る程度には憧れましたね」

 

 そして彼は先程のワルド同様、遠い目をしながら懐かしむように、あるいは羨望に浮かされたように『その言葉』を口にする。

 

「そう、『さあ、ここからは遅い奴が死ぬだけだ』って」

 

 そんなトモに少しだけ目を丸くしたワルドだったが、直ぐに破顔して大きく頷いた。

 

「くくく、確かに『男と少年の違い』は大した差じゃないね。子供のお遊戯と一緒にされるのは癪だが、しかし『早さ比べ』なら話は別だ」

 

 そして杖剣を掲げ、デルフリンガーに交差させる。

 

「その話、乗ろうじゃないか! 精々楽しませてくれ、使い魔君!」

「お誉めに与り恐悦至極。そのご期待に見事応えて見せましょう!」

 

 少年の様に無邪気な笑みを浮かべ、二人は一歩目を踏み出す。

 

「五」

 

 キュルケが苦笑いを浮かべる。良い年をした男達が子供染みた理由で激突する姿に。

 

「四」

 

 ギーシュが歯噛みする。互いの誇りを掛けたあの場所に自分が居ない悔しさで。

 

「三」

 

 タバサが呆れた様に嘆息する。お遊びのような戦いに臨む生温い男達を見て。

 

「二」

 

 ルイズが喉を鳴らす。どちらにも負けてほしく無い自分に気付いて。

 

「一」

 

 そして─────

 

「─────ゼロ!」

 

 決闘は始まった!

 

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