人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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少女は少女と共に戦い、神への拳を守り抜き、砕けた。


ep1 オレと孤児と

火星・郊外

 

赤い土が広がる荒野に、一行はそこに居た。その内の多数が少年で、あまり見栄えが良いとは言えない服を来て土木作業のような事をしていた。そしてその内の少数は大人で、少年達よりは見栄えの良い服を着ており、誰も彼もが自由気ままに過ごしていた。それは昼寝をしたり、少年達をなじったりと様々だった。

だがその中でとても目立った者が、二人居た。

「ねぇマスタァ?」

少女の声が荒野に響く。それはとてもおっとりとしており、周りの風景とは似ても似つかなかった。その少女は薄汚れた黒や青を基調としたドレスを着ている。

「……何だ」

また別の少女の声が荒野に響く。その声は先程の少女の声よりも幼く、またかなり苛立っている事が感じ取れた。その少女は他の子供たちと同じような服を着ていた。

「私達、どうしてこんな生活してるんですかね?しかも1ヵ月も」

そう言って少女はその右手に持った深緑の光沢のある円盤を空中に放り投げ、その流れで手から水を打ち出しそれを爆発させる。

「おいガリィ。思い出の無駄遣いはやめろと散々言った筈だが?」

「だってぇ、ずっとこんなとこで野郎に囲まれてちゃ溜まるモン溜まりまくっちゃうんですよぉ。他でもない、マスターの命令で何とか堪えてますけど、結構ギリギリなんですよ?」

ガリィと呼ばれた少女は手をはたいたかと思うと、思い出したかのように地面に倒れつつも少女に御託を並べる。

「そんな事を繰り返しているから怒鳴られもするし、ストレスも溜まるんだ。負の連鎖を止める努力をするべきだな」

「そんな殺生なぁ。ガリィちゃん泣いちゃいます、シクシク」

そのままの体勢でガリィは泣き真似をする。当然、その目から涙は流れていない。

「おいお前!貴重な地雷を何だと思ってんだ!」

先程の爆発を聞きつけ、大人がガリィ達の下へ走ってくる。口では怒っているが、心の中ではストレス発散の獲物が見つかった喜びが躍っていた。

「テメェの仕業かこの色白!そのガラクタみてぇな体で弁償してみろや!」

大人が足をガリィに振り下ろし、その機体に傷を付けようとする。その瞬間、ガリィは跳び上がりそれを回避した。そして着地ついでに大人を転ばせもした。大人は情けない声と共に地面に倒れ、ガリィのカカトにグリグリと踏まれていた。

「大丈夫ですかぁ?チ・ン・ピ・ラ、さん?」

「テメェ、俺に盾突いていいと思って」

「大丈夫かっつってんだよこのクズが!質問無視してんじゃねぇよこのボケ!」

そう叫んでガリィはさっきまで男に押し付けていた足を彼の腰に打ちつけ始める。丹念に、腰だけを蹴り続けていた。その様子をもう片方の少女はやれやれと言わんばかりの目で見ていた。

「ガリィ、それくらいにしてやれ」

少女の言葉にガリィは残念そうに返事をしつつ、男を元居た場所に放り投げた。その方からざわめきが上がる。

「……あーあ、何でこんな事になってんですかね」

もう一度地面に倒れたガリィは心底面白くなさそうに呟いた。

 

 

 

時は遡り、一ヵ月前……

 

二人の男が無機質な廊下を歩く。二人共制服を着ており、背中には「CGS」と大きく印刷されていた。

「ああメンドくせぇなぁ、こんなのガキにやらせりゃいいだろ」

「そう言うな。これで媚び売れるって考えたらまだ頑張れる」

愚痴をこぼした男を落ち着いた男がなだめながら、扉の傍に取り付けられた機械を操作し、扉を開ける。その先に広がったのは薄暗く、掃除もロクにされていない倉庫だった。

「んで、俺は何したらいいんだっけ?」

男が懐中電灯のスイッチを入れながらもう一人の男に問う。

「そりゃアイツに言われたモンを…って、何だこりゃ?」

懐中電灯が照らし出したのは、部屋の奥で眠る五人の少女達だった。

「ガキ、か?しかも女」

「おいコイツら人形だぜ?胸もある、カテェけど」

懐中電灯を持った男が下品な笑みを浮かべながらその人形の体を触る。

「コイツぁ日頃頑張ってる俺達へのご褒美ってヤツじゃねぇの?」

男はそんな事をぬかしながら懐中電灯を床に置き、人形に口づけをする。何度も何度もした。そしてその一回一回が無駄に長かった。それに痺れを切らしたもう片方の男が懐中電灯を拾い上げ、それで男を殴る。

「バカな事してんじゃねぇぞ!チンタラしてたらガキの代わりに俺達が怒鳴られちまう。とっとと……っておい?」

殴られた男は起き上がる事無く、人形に寄り掛かっていた。その顔はさっきまでとは打って変わって魂が抜けており、髪は白く染まっている。

「おい、どうした!?何が起こった!?」

男はムクロと化した仲間を揺すりながら叫ぶが、彼は声はおろか息もしなかった。そんな中、男は誰かに肩を掴まれた。それはやけに鋭利で、やけに大きかった。

「んがぁー……」

振り向くと、そこには腑抜けた声で口を近づけてくる先程の人形が居た。避ける間も無く口をつけられ、何かを吸い出される。そして彼もまた、ムクロと化した。

 

それから一週間が経ち――

 

掃除とも呼べない掃除がされた部屋で、ガタイの良い男と少女が睨み合っていた。取り巻きが敬遠や憤怒の目を少女に向けている。

「こんなもの、参番組の奴らにでもやっておけ!」

「おい、何だその態度は」

少女の前に立った男は少女の言葉に歯ぎしりをする。拳を固めはしたが、それは腿の横でぶら下がっていた。

「……お前のような者、何処かに行ってまえばいいんだ」

「それが出来たらとっくにやっている。…世話になったな。これまでロクな思い出は無かったが、飯と寝床の礼は言っておく」

それだけ言うと、少女は部屋から出ていく。その先には人形が四人立っていた。少女は扉を閉めた後、溜め息をつく。

「いいんですか、マスター?」

緑のドレスを着た人形が不思議そうにマスターと呼んだ少女に問う。それに少女は「何がだ」と短く言う。

「あれだけやられたんですから、少しくらいおいたが許されるのでも?」

「そんな事をすれば正当防衛が認められなくなる。それとも遂に思い出不足でそこまで頭が回らなくなったか?ファラ」

「いえ?ただ、面白くないと思いまして」

ファラと呼ばれた人形は髪を弄りながら答える。それを見て、会話の終わりを知った少女は廊下を歩く。すぐ傍にあった案内板には「参番組」とだけ小さく書かれていた。

 

 

狭く、設備も古くなったものばかりのホコリが無い所だけが利点の部屋で、一行は二人の男と対峙していた。

「えーっと……、君達が、今日から参番組(ウチ)に入る人達?」

ふくよかな男がタブレットと現物を比較しながら動揺した声で確認を取る。

「ああ。これからよろしく頼む」

そう言って少女は右手を前に突き出す。

「よ、よろしく…」

手を握ったふくよかな男は動揺を隠しきれず、手からは手汗が溢れるのではないかと思う程流れていた。

「ところで、奥のみんなは?」

奥に並んだ四体の人形を見ながらふくよかな男は少女に問う。

「ああ、機械人形。一応、オレが造った」

「機械人形?って事は、これがみんな…?」

「そうだ。おもい…オレが独自に開発した燃料で動いている」

その言葉にふくよかな男は引きつった顔で感心していた。

「一ついいか?」

ふくよかな男の隣で一行を睨みつけていた長身の男が口を開いた。彼の肌は茶色いが、髪は白かった。

「何だ?」

「アンタらみてぇなヤツ、マルバの野郎が放っとく訳無いんだ。何があった?」

「……ああ、あのデブか。…何となく憶えている」

長身の男の言葉に少女は面倒そうに答える。

「何となくって…」

長身の男はそれに呆れるが、睨む目は緩まなかった。

「いやなに。確かに何度か何かされそうになったが…」

そこまで言って少女は人形達を見る。そして親指をそれらに向けながら

「その前にコイツらが色々問題を起こしたせいでコッチに行かされたんだ。悪い奴らじゃないんだが、まぁ、喧嘩は売るなよ」

面倒そうに言う。少女は問題と言ったが、その実態は不可解なものばかりであった。何故ならその内容が「少女と共に夜を過ごそうとしたらアゴが砕けるパンチを喰らった」、「何故か部屋に連れ込まれ、猿同然の知能になって戻ってきた」など理解不能なものだったからだ。まぁ事実はガリィの悪ふざけが大半なのだが。

「そうか。にしてもよく女や機械のお前らが雇ってもらえたな」

長身の男に少女は眉をピクリと動かした。

「は?俺は男だ」

「……え?」

「誰が何と言おうとオレは男だ。いいな」

嘘である。…が、場の雰囲気から「女」である事は破滅を招くと感じ取った少女は、自身を男と称しているのだ。そして、その威勢の良い物言いや貧相な体から怪しまれる事はあっても見破られる事は無かった。

「そっそうか。……俺はオルガ、オルガ・イツカだ。アンタは?」

オルガと名乗った男は少女に名を問う。

「オレは、キャロル・マールス・ディーンハイムだ」

「キャロルか、よろしくな」

「ああ、よろしく」

二人は手短に握手をして、部屋を出ていく。その他五名もそれに続いて出る。

「そういやぁお前、力仕事は出来るのか?」

「大丈夫だ。でなきゃあんなゲス共の中から出てきてこんな綺麗な体をしてる訳がないだろう」

「それもそうか」

 

 

そして現在に至り――

 

 

「(死んだ筈のオレが何故かこの世界に機械人形(オートスコアラー)共と一緒に放り込まれ、このCGSとかいう所に拾われてから早一ヵ月。一向に“思い出”が集まらん。何なんだここの連中は!ロクな思い出が無い。あったとしてもクソ燃費の悪いクソにすらならない思い出ばかりだ。オレ達もオレ達だ。何故アイツらの機体は元に戻っている!?何故思い出は戻らない!?意味不明だ。全部全部、意味不明の塊だ!これはシェム・ハの呪いか!?呪いが祝福になってないぞ立花響!」

「うるさいっすよキャロルさん!またアイツらにいびられますよ」

キャロルの叫びはいつの間にか外に漏れていたらしく、近くにいた金髪の少年から注意の声が飛んできた。

「すまんタカキ。すぐに再開する」

キャロルはシャベルを持ち上げ、タカキの方へ歩く。

「まったくマスターも丸くなりましたねぇ。ま、体はチンチクリンですが」

「何か言ったか?」

キャロルはガリィに手に持ったシャベルを向けつつ呟く。それが見えているのかいないのか、ガリィは「いいえ何も?」と気の抜けた返事をした。

「……にしてもキャロルさん、時々よく分からない事呟きますけど、どういう意味なんすか?」

「お前も喧嘩を売るのか?」

ガリィに向けたシャベルを持ち上げ、背に乗せつつキャロルは鋭い目でタカキを睨む。タカキはそれに驚き「いえいえ!」と手振りと表情で示した後、こう続けた。

「俺、頭悪いんで……。あとキャロルさん、時々整備場の方にも行ってるから頭いいのかなって。だから俺キャロルさんの言ってる事」

「馬鹿、お前の頭は悪くない。お前自身だって悪くない。悪いのは世間だ」

「……なんか、それもそれでよくわかんねぇっす」

「そうか。まぁ、いつか分かる時が来るかもな。さぁ、訓練を再開しよう」

「はい!」

二人は他の子供達の居る方へ足を運んだ。ガリィはそれを見ながらその瞼を閉じた。

 

 

 

ここは食堂。屋根だけの質素な造りで、空気と砂がよく入る心地良さそうな空間だった。そして作業や訓練を終えた男たちが数少ない娯楽の食事を楽しむ空間でもあった。少しの一般的なキッチンと、沢山の椅子と机だけの質素な食事スペースが並べられている。

「あぁ、またこんな仕事か」

「うっせぇキャロル、文句言うな」

二人はトレイに水の入ったコップを乗せながら小さく話した。片方はキャロル、もう片方は黒髪の少年だった。

「んじゃ、俺こっち行くよ」

「分かった。じゃああっちはオレが行こう」

少年は参番組の居る方へ、キャロルは壱番組の居る方へ、別れて歩き始めた。

「おいキャロル」

キャロルはテーブルに座った男に声を掛けられ、足を止める。

「何だ、水か?」

キャロルはトレイの上のコップを一つ掴むと、それを急激にテーブルに叩きつける。水が少しこぼれ水溜まりが生まれた。

「ああ、ありがとう…」

男は他の少年兵とは態度を変えて、礼を言った。

「アイツまた壱番組のヤツに喧嘩売ってるぜ、大丈夫か?」

それを見ていた茶髪で高身長の男が心配そうに呟く。

「大丈夫だろ。キャロルの整備の腕はおやっさんと同等かそれ以上だ。そんな奴を傷つけちゃ勿体ねぇってのは壱番組の奴でも分かるだろうからな」

それにオルガが心配無さそうに返す。その言葉を聞いた男は「そんなもんかねぇ」と言って食事に戻った。

「……んでオルガ、その護衛の話はどうなってんだよ」

少々目つきの悪い、金髪の男がオルガに問う。

「近日中に実行だそうだ。今日そのお嬢様が来るらしいからな」

「誰だっけ?そのお嬢様って」

茶髪の男がオルガ達に訊く。そして、それに答えたのは――

「クーデリア・藍那・バーンスタイン。ここ、クリュセ独立自治区の代表のご令嬢だったかと」

「だぁびっくりした!……なんだレイアか」

レイアと呼ばれた人形だった。上半身こそジャケットを着ているものの、下半身はレッグパーツがモロに出ていた。

「おいおいシノ。仲間にそう驚く事もねぇだろ」

「ユージンだって出会った頃は距離置きまくってだろ!」

ユージンと呼ばれた男はシノの言葉にあからさまに機嫌を悪くさせ、眉間にシワを寄せた。

「昔は昔、今は今だ!」

「嘘つけ今でもちょいちょいビビッてんの知ってんぞ!」

「言うな!」

そんな喧嘩をしている間に食堂からは一人、また一人と席を立つ者が現れ始めた。

「にしてもアンタら、本当にメシいいのか?ガソリンも電気も補充してる所見た事ねぇけど」

シノがレイアに訊く。

「問題無い。そんな地味なモノで私達は動いていない」

「ふーん…」

シノは興味なさげに返して、その陶器に入ったポレンタを掻き込んだ。

 

 

 

キャロル達は青空の下、少年達に紛れて機械を弄っていた。

「おいキャロル!そっち任せていいか?」

ガタイの良い、黒い肌の男が端末に向けていた目をキャロルに向けつつ叫ぶ。

「分かった、任せてくれ!」

そう言ってキャロルは命令に従い、その車輪や砲台の付いた巨大な鉄塊の前に立った。緑のインクがぶちまけられている。

「これはまた派手にやったな。おーい!誰か来てくれないか!?」

キャロルの声に呼ばれて少年が数人彼女の下へ集まる。それを三人は岩場の影から盗み聞きしていた。

「あぁらら、マスターも随分とお人好しになりましたねぇ」

そう言うガリィの目は閉じられており、腕はダラリと垂れさせ、岩に体を任せている。

「不満そうだな、ガリィ」

そう言ったのはレイアだった。レイアもガリィと同じく、目を閉じ、体を岩に体を任せている。

「だってぇ、マスターが構ってくれなくなっちゃったら私達の思い出はどうなっちゃうんですか?」

「さぁ?でも、マスターの事ですから、きっと大丈夫ですよ」

そう語るレイアは自前の剣を何処からか持って来た砥石で研いでいた。

「…だと、いいですけどねぇ……」

そんな事を話している三人に、二人分の足音が近づいてきていた。

「これは…ロボット?」

女性の声が三人の耳に届く。彼女の姿は少年らとは違い美しく、髪や顔などの体もよく手入れされているらしくある程度のツヤがあった。

「そうだよ、機械人形っていうんだって。キャロルが言ってた」

少年の声が三人の耳に届く。少年の姿は他の少年達と同じで作業に向いていそうなズボンや、丈夫そうなコートを着ている。頭の上にある天然の髪のまとまりが歩く度に跳ねていた。

「失礼ですが……どうしてこのような物がここに?」

「知らない。キャロルが来た時に一緒に来た。なんでか燃料も飯も要らないからここに居る。っていうか、売っ払おうとしたら殴られたって噂で聞いた」

少年の言葉に「へぇ」と返す女性の顔は困惑していた。しかし、女性はそれをすぐに取り払い「そういえば」と言った。

「度々話に出てくる、そのキャロルという方は何処に?」

少年は「あそこ」と言ってキャロルが居る所を指さす。その先ではキャロルが少年達と共に鉄塊の中身を弄っていた。

「普段はエンジニアとして働いてもらってるんだって。手先が器用で、おやっさんも驚いてたよ」

「あのような小さな子供まで……」

「マスターは子供じゃないですわ」

女性の言葉に剣を研ぎ終わったファラが反応する。

「喋った!?」

女性は驚き、転びそうになるが何とか片足を後ろにやる事で堪えた。

「喋りますわよ?」

「お嬢様でも驚くんだ」

そう言う少年は少しだけ驚いだ顔をしていた。

「やはりお嬢様という事は……。初めまして、クーデリア・藍那・バーンスタイン様。ファラ・スユーフと申します。貴女の事は噂でよく耳にしておりました」

そう言ってファラは華麗にカーテシーをしてみせた。それにクーデリアと呼ばれた女性は軽いお辞儀で返す。

「して、子供では無いというのは……」

「ただの比喩でございます。歳に合わない知恵と知識を持ち合わせている。ただそれだけです。といっても、知識だけなら他の子供達にも言えますが」

「そう…ですか」

クーデリアは少し考える仕草をした後、ファラに会釈して少年に案内の続きを頼む。少年はそれに応え歩きだした。

「……疲れましたわ、寝ます」

ファラは剣と共に岩か砂かも分からない、硬い地面に倒れ眠った。




ギャラルホルンとはねぇ……。これはまた面白い名前だ。
「アダム、ずっと私に構ってくれない。悲しい」
そう言うな。一仕事終わったら、また抱いてあげるよ。
「やったぁ!じゃあティキも頑張るね!」
……恋愛脳は扱いが楽だ。ちょっと謝っただけですぐに仲直りだ。
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