「五月蠅いぞ!少し黙れ」
キャロルはマルバと同等の声量で叫ぶ。なれど相手は黙る事を知らず、更に声量を上げてがなり立てた。
「……鬱憤は十分に溜まっているだろう。誰でもいい、ソイツの相手をしてやれ」
それにいち早く応えたのはユージンで、素早くモニターを操作すると、そこに映ったマルバに罵詈雑言を投げつけた。――が、それでも相手は留まる事を知らず、更に船内は喧しくなっていく。
「すまねぇ、少し遅れた」
詫びの言葉と一緒にオルガが入ってくる。そしてそれに続いて三日月も。
「相手何処だ?」
「方位180度、距離六千二百。相対速度、ほぼ一致しています」
作業を済ませていたらしいフミタンが素早く述べる。モニターの地図にも二つの船の居場所を告げる駒が表示されており、それはイサリビの後ろにキッチリとついて来ていた。
「嘘だろ、エイハブ・ウェーブの反応は無かったぞ」
「そういうのが上手いって事は、きっと面倒な船なんだろうね」
火星ヤシをつまみながら三日月の言葉の少し後、突如として正面のモニターに一人の男が映される。男の装いは白いジャケットに黒いシャツ、そして白い中折れ帽。それらはよく男の黒い瞳と髪によく合っていた。彼がマルバに呼び掛けると、彼は小さく謝り声を止める。
「さっきからさっぱり話が進んで無ぇ、アクビが出るぜ。なぁ」
「アンタは?」
オルガが名を問う。
「俺?俺は、名瀬・タービン。テイワズの傘下にある‟タービンズ″って所の代表を務めさせて貰っている」
「鉄華団の代表、オルガ・イツカだ」
鉄華団という言葉にひどく反発するマルバの声を遮って名瀬が話を進める。
「このマルバ・アーケイとは仕事上の付き合いがあってな。たまたま立ち寄った立ち寄った火星で久々に再会したんだが、えっらいボロボロでよ。話を聞いてみると、ギャラルホルンと揉めて困ってるってんだ。んで、俺らのトコじゃ奴らが手出し出来ねぇようにしてやれるって話になってたんだ」
そこで名瀬はそこで溜め息をつく。
「何事にも正当な報酬ってヤツは必要だ。無いと共々弱くなっちまうからな。俺達はコイツの護衛の報酬の為にコイツの資産であるCGSを頂こうと思ったんだよ。しかしだ!調べていきゃあCGSは無くなり、鉄華団とかいう新参者に変わってると来たもんだ」
「つまりお前らはオレらから全部奪おうって話がしたくてわざわざ通信してきたのか?」
痺れを切らしたキャロルが愚痴る。
「おぉ怖いねぇ。大丈夫だ。こっちはカネさえ貰えれば満足なんだ、それ以上何かする事は無ぇよ」
「ハン、どうだかな。そう言って、利子ものしも付けて面倒かけてきた奴をオレ達は知ってるんだ」
「そう警戒すんなってチビ。俺達の話に乗ってくれたら、テイワズの下で安全な仕事に就かせてやる」
「仕事の放棄は信用に関わる。ここで変な方向に進む訳にはいかねぇんだ」
「……クーデリア・藍那・バーンスタインの件か。……面倒なの連れてやがったなぁ」
「あの、一ついいですか?」
ビスケットが声を出す。
「何だ?丸いの」
「今この場で、タービンズと取引させて貰う事は出来ますか?」
周囲から困惑の目が向けられるが、彼は商談を続ける。
「俺達はクーデリアさんを地球に連れて行きたいんです。その為には安全で、確実なルートを知っている案内役が要ります。その案内役をタービンズにお願い出来ませんか?当然、相応の報酬はお支払いします」
言葉が終わると同時に名瀬は「駄目だ、話にならん」と、一蹴する。
「どうしてですか!?」
「火事場泥棒で組織を乗っ取ったガキがいっちょ前の口を利くな!俺はさっきから道理の話をしてんだよ」
「その喧しいだけのデブは相手にしといて、オレ達には口を利くなとはな。タービンズとやらは、随分と落ちぶれた組織らしいなぁ!?」
キャロルのその言葉に名瀬の目つきがグッと鋭くなる。
「このチビ、言わせておけばしゃあしゃあと。ソイツぁ、俺達に対する宣戦布告と受け取っていいのか?」
「おうともさ」
「……俺達を敵に回す意味、分かって言ってんだよな?」
「狐を敵にしても何か起きる訳じゃあるまい」
「せいぜい化かされないよう気ぃ付けるんだな」
その言葉を最後に通信は切れ、場は険吞な空気で満たされる。
「どうするんだキャロル!タービンズと、いやテイワズとやりあう事になっちゃったじゃないか!オルガもオルガだよ!」
「あー落ち着け。あの野郎に舐められてていい結果が残せたと思うか?…それにだ。団長ドノも奴らに力は一回見せとくつもりだったんだろ?」
「ああ。俺達は道理も筋も通せるヤツだって教えてやるんだ。行くぞ皆!」
少年達の雄叫びが船内に響き渡った。
「さぁミカ。汚名返上のチャンスを掴んでみせろ」
B・Gのコックピットに座ったミカに応援の言葉を飛ばすキャロルにミカはにっかりと笑って返す。
「これだけいい土俵に立たせて貰ったんだから、爪は食い込ませてやるゾ!」
「ミカちゃんだからきっとデッカい爪痕が出来るんでしょうねぇ」
ガリィの軽口も、今のミカには関係無い。彼女は陽気に腕を壁に開けられた穴に突っ込み、B・Gと一体化した。
「B・G降ろすぞ!巻き込まれるなよ!」
フックに吊るされたB・Gがゆっくりと射出口へと降ろされる。床に着いたB・Gはがっちりと金具に掴まれ、射出への準備を終える。そして、その間に同時進行で行っていたハッチの解放が終わり、B・Gの出撃準備は完了した。
「よぅしミカ、敵に見せつけてやれ!お前の力を!」
「了解!B・G、ミカ・ジャウカーン。出るゾ!」
射出口から撃ち出されたB・Gはスラスターで更に加速し、先に出ていた白いグレイズとバルバトスに追いつく。グレイズの搭乗者は昭弘だ。
「待たせたゾ。今回はイイ感じに暴れてみせるから期待して欲しいゾ!」
「今回はよろしく頼むぜ」
「ほどほどに期待してる」
三人が二言三言交わした直後、モビルスーツのレーダーが二機の敵モビルスーツを発見し、その位置をモニターに映し出す。映像を拡大してみると、そこに居たのは黄と灰の同じ形状のモビルスーツだった。それの頭部は亀の頭部と似た形をしており、脚部パーツが若干太かった。肩のパーツからはスラスターか、もしくは砲があるのか円筒が突き出ている。
――敵はデカい程狩り甲斐がある。
ミカは他二機が速度を上げるのを確認してからB・Gのスラスターを点火させる。そして敵の為に腰のフックに引っかかっていた手斧を手に取り、構える。気付けば二機も同じ様に得物を構えていた。バルバトスは機銃、白のグレイズは短機関銃だった。
バルバトスが機銃を撃ち、それに続いてグレイズも短機関銃をぶっ放す。しかし、闇に火花が散る事は無く、敵はどんどんを間合いを詰めてくる。そして、向こうが光を放った。見慣れた、銃を撃った時に出る発火炎だ。その瞬間の内にスラスターを全開にし、黄色い敵との間合いを詰める。
「アタシが食らいつけば!」
敵機はスラスターを上手く動かす事で一転、B・Gの突撃を躱す。当然、B・Gはスラスターの勢いで少しの距離を敵機との間に置く。そして――
「撃つのを止めざるを得なくなるっ!」
「ミカ、ソイツを繰り返せ!全速で突っ走るのが今は丁度良い!」
その昭弘の言葉の後に弾丸がさっきの敵機に当たった。弾丸が機体のバランスを崩させたが、灰色の機体が間に入り、隙を隠す。
「俺、こっちの灰色の奴やるよ。そっちは勝手にやっといて」
そう言って、バルバトスから撃ち込まれた砲弾が灰色の機体に食い込む。その隙を見逃さず、バルバトスは灰色の機体を蹴り飛ばした。
「囲んで殴るが矢の如し!三日月に任せてこっちはこっちでヤる、ゾッ!」
B・Gは再びスラスターに火を付け、灰色の機体に手斧を振るう。その刃は装甲に食い込み、大きな跡を付ける。が、それは抜ける事無くそこに留まった。腕部パーツがガッチリと刃を捕らえていたのだ。
捕まえたと、声が聞こえた気がした。
「避けろ!上だ!」
昭弘の声で上を見ると、そこには大剣がB・Gを睨んでいた。瞬間の内にそこから離れる事で刃を躱す事は出来たが、手斧の片方が敵の手に渡ってしまった。
「助かったゾ!」
「礼よりも敵に意識を向けろ!」
その刹那、昭弘のグレイズは弾丸に小突かれた。その方を見ると、灰色の機体が短機関銃を持ってこちらに向かって来ている。
「テンメェ…あん?」
「敵機来襲、数イチ!」
二機のグレイズを分断するかのように新しい機体がそこを猛スピードで通過した。
「ごめん二人、そこ任せていい?俺あっちやるから」
「……任された!」
「やってやるゾ!」
二人の返事でバルバトスは高速でイサリビに向かって行く機体に飛んでいく。それを確認した二機は、敵機をしっかりと見据え、得物を向ける。
「アタシが前に出るゾ。援護ヨロシクだゾ」
「言われなくても」
終わったか、と言いたげに二機を見た後、黄色い機体は大剣を向け、ミカの方へ突っ込んでいく。大剣は手斧とぶつかり空中で止まり、動かない。今度は腕では無く、手斧の刃が大剣を咥え込んでいた。
「ああもう!この武器柔らかすぎるんだゾ!」
ミカが愚痴をこぼしながら手斧を引き抜かせると、それを左後ろに向かって放れさせた。するとそれは灰色の機体の背中に突き刺さり、それの動きを止めさせた。
「食らいなぁ!」
グレイズの弾丸がモロに灰色の機体に当たり、機体から小さく爆発が起こる。それを見逃す筈も無く、黄色い機体は自身に突き刺さっていた手斧を昭弘のグレイズに放り投げ、短機関銃を使い物にならなくさせた。
「がぁ!もう怒ったゾ!」
B・Gは大きく炎を上げ、全速力で黄色い機体に手斧をぶつける。それは刃が向いていようがいまいが手斧をぶつけ続ける、一見自殺行為ともとれる行為だった。刃は欠け、遂には斧は砕けた。
大剣がB・Gを真っ直ぐに捉え離さない。勝った、と声が聞こえてきそうな程に、自身に満ち溢れた大振りだった。
「アタシがどうして怒ってるか知りたいかゾ?」
元は手斧だった柄を真横に向けながら空中に放る。
「丹精込めて作った必殺技をこんなトコで使う事になったからだゾ!」
そしてB・Gは柄の底面をぶん殴り、黄色い機体に飛ばす。杭と化した柄は機体のフレームを捻じ曲げながら左肩パーツに突き刺さる。されど大剣は止まらない。
「そしてェ!」
「やめろミカ!ソイツを使うんじゃあない!」
コックピットのスピーカーから響くのは彼女の主の声。‟必殺技″を共に調整し、その恐ろしさを知っている者の一人だった。
「おおマスター!コイツ今半殺しだけど、どうするんだゾ?」
「話がついたんだ、すぐにイサリビに戻ってこい。その杭も一緒にな」
「了解だゾー」
そう言ってミカはB・Gに柄を引き抜かせ、何事も無かったように船に戻ろうとした。
「……昭弘、今いいかゾ?」
「あ?何だよ」
「スラスター使いすぎて船まで戻れそうに無いゾ。連れてって欲しいゾ」
「……あぁ」