人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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ep2 伸ばすその手

メイスを振り下ろした白いモビルスーツが、そのままの体勢で佇んでいる。それを見た者が抱いたのは、大きな高揚感だった。ただ、その二人を除いて。

――「そ、そんな…、オーリス隊長が……。ここにモビルスーツがあるなんて情報は無かったのに!」

――「っく、オーリス……」

モビルスーツのスピーカーから響くのは、パイロットのものであろう焦りの声。それを聞いたファラは「敵前で弱みを見せるなんて滑稽だな」と思った。

――「クランク二尉!」

――「アイン、貴様は援護だ!」

スピーカーからの音が空気中から消えるよりも先に、モビルスーツはスラスターで加速しバルバトスとの距離を詰める。その前の会話を聞いたファラは小さく笑いつつ

「どうして宮仕えの者は皆、考えている事をそのまま喋るのかしら?」

古き剣の事を思い出していた。

「また来た!」

――「オルガ!みんなを下げてくれ!」

「分かった!全員、下がれ!」

ミカの声とオルガの命令に従って仲間のモビルワーカーは全てCGSの基地の方へ集まっていく。安全が確保できたのを確認したミカはバルバトスのスラスターを使用し、移動する。そして――スラスターは使っていないものの――それと同じ様に、外へ続く階段を上がる人影が一つあった。

――「逃がすものかぁ!」

クランクと呼ばれた者が乗っているであろうモビルワーカーがバルバトスとの距離を詰める。しかし、その途中に何かに気付き「そっちは」と呟く。

――「こちらで足を止めます!」

アインと呼ばれた者が乗っているであろうモビルワーカーが右手に持ったライフルを、アインがバルバトスの着地点と推察した地点に向ける。

――「待て!そっちは!」

――「なっ…、撤退中の我が軍のモビルワーカー隊!」

直後、バルバトスがモビルワーカーを蹴り飛ばしながら着地し、「これなら撃ちにくいだろ」と言い放った。それにアインは激昂し、モビルスーツの左手に握られた斧をバルバトスに向けながら突進する。その頃、基地の扉が勢いよく開かれた。

「戦況はどうなっている!?」

階段を登り切ったキャロルが肩を上下させながら、周囲の全員に向けて言った。それにファラは答える為に口を開く。

「現在優勢、このままの調子で行けば勝てるかと」

彼女がそれを言い終える瞬間、バルバトスが跳び上がり、空中で回っているメイスを勢いのままにモビルスーツに叩きつけた。その衝撃で土煙が上がる。それに紛れて、クランクのモビルスーツがバルバトスに近づく。三日月はそれに瞬時に反応し、メイスを振るった。土煙が晴れた時に見えたのは、モビルスーツ達のそれぞれの得物がツバ迫り合っている所だった。

――「何処から持って来たのか知らんが、そんな旧世代のモビルスーツで、このギャラルホルンの()()()()の相手が出来るとでも…!」

その台詞の途中に、グレイズの頭部パーツが開き、その中の目玉のようなパーツがギョロギョロと動き、程なくしてバルバトスの方を真っ直ぐと見据えた。

――「もう一人死んだみたいだけど?」

そう言って三日月は鼻血を拭う。彼はそのままグレイズを目で捉える。しかし、反対にクランクの目は動揺していた。

――「その声、貴様、まさか…、子供か?」

――「そうだよ。アンタらが殺しまくったのも…、これから…」

彼の思いの高ぶりを表すかのように、バルバトスは地面を踏みしめ、前へ力を掛け、その重みで地面が盛り上がった。

――「ぐぁっ、押し負けるっ!」

――「アンタらを殺すのも…!」

――「クランク二尉!」

アインの声が聞こえた直後、バルバトスのモニターに危険が迫っている事を伝えるマークが映された。三日月はそれを一瞥した後、クランクのグレイズをメイスで突き飛ばし、その反動でそこから飛び退く。その直後、そこを弾丸が吹き飛ばす。

――「クソッ!」

――「何という反応速度…、!」

バルバトスは飛び退いた後も姿勢を維持する為にスラスターから青い炎を出させ続けている。が、それが何故か止まり、バルバトスは着地せざるを得なくなる。バルバトスはスラスターの勢いを地面に足を擦りつける事で殺し、その時前傾姿勢になったのを利用して、メイスで土煙を作る。

――「無駄だ、この距離なら照準は…」

――「下だ!」

クランクの言葉を聞き、アインのグレイズは下方を見る。すると、そこにはバルバトスが地面を這うようにして跳んで来ていた。バルバトスのメイスがグレイズを完璧に捉える。

しかし、メイスは逸れ、グレイズの頭部パーツを砕いた。三日月が左に目をやると、そこにはクランクのグレイズが斧でメイスを逸らさせているのが見えた。直後、そのグレイズのスラスターがこれまでで一番大きく火を吹き、土煙を起こしながらバルバトスより遠ざかっていく。煙が晴れ始めた頃に見えたのは、メイスを振り下ろしたまま固まっているバルバトスの姿だった。

――「まだだ…」

三日月は唸り声を上げる。愛すべき仲間を奪った敵を殺す為に。されど、バルバトスは動かない。

――「まだ、まだっ!」

三日月が吠えると同時に、血が彼の鼻から吹き出し、次に彼の顔は下を向く。それに呼応するようにバルバトスは機能を停止させる。

そんな仲間を守った戦士の姿を、一行は何も言わずに、ただ見ていた。

 

 

 

日が昇った頃、荒野に居るのはある程度の少年達と、大量の鉄塊だった。それらを少年達はトラックのような乗り物に乗せるなり、担いでいくなり、いろんな方法で自らの基地に連れていった。しかし、一部の少年達は小さな鉄塊や肉塊を持って泣き、叫んでいた。

「戦いは、ここまで悲しかったんだな」

キャロルも泣くまでは行かずとも、彼らの心象を想像し、心を痛めていた。しかし、彼女の手は正確に鉄塊のパーツを捉え、正確に取り外していた。

そんな少年達を、オルガは何も言わずに見ている。監視や指揮の為とはいえ、ただ見ているだけというのは、彼にとって辛いものだった。

「おい、壱軍の生き残りが戻ってきたみたいだぜ」

そんな彼に、ガタイも良く、また身長もそこそこに高い男が声を掛ける。それを聞いたオルガは、心底面倒そうに溜め息をついた。

 

 

 

「あの、だから私は本当に配達で…」

少女は目の前の門番らしき男二人に説明をする。が、それも強情な二人には分かって貰えなかったようだ。しかし、それも気にせずに彼女より一回り小さい少女二人は声を出し続ける。

「いつもの人達はどうしたんですか?」

「クッキー!クラッカー!」

彼女らの左方より声が響く。その方を見て見ると、そこにはこちらに駆け寄ってくるビスケットが居た。彼がこちらに着くなり、少女二人は彼に抱き着く。

「まったく、どうしてこんな時に…」

ビスケットはそんな事を言うが、言葉とは裏腹に、その目はとても優しかった。その言葉に「ごめんなさい」と、クッキーが、「お兄が心配だったんだよ」と、クラッカーが言う。クラッカーはそのついでにビスケットから離れ、彼に指をさしていた。

「頑張った子は、褒めないと駄目だよ」

そう言って彼女は撫でて、と言わんばかりにビスケットに近づいた。彼は「そ、そうだな」と言って彼女の頭を撫でる。それに触発されたクッキーが「私も」と叫ぶ。ビスケットは「はいはい」と言いつつ、二人一緒に頭を撫でる。

「アトラも悪かったね、今バタバタしてて」

彼の言葉に、納品を終えたばかりのアトラと呼ばれた少女が振り向く。

「いえ。…あの、三日月は?」

彼女の左腕に付けられた、可愛らしいブレスレットが揺れた。

 

 

 

「っく、……あぁ」

三日月の体が跳ね、それと同時に彼は目を開ける。その周りには、雪之丞とキャロルが居た。

「目が覚めたか」

三日月は雪之丞に何か言おうとしたが、背中の阿頼耶識に何かを感じたらしく、それを睨みつける。

「三日月、外すぞ。雪之丞、手伝え」

「分かってるっての、ってか指図すんな」

キャロルは雪之丞と共に三日月の背中から機械一式を取り外す。機械が取れた頃、ようやく彼は口を開く。

「何人死んだ?」

雪之丞は少しの沈黙の後、「参番組は四十二人、壱軍は六十八人だ」と言って彼の質問に答える。

それを聞いた三日月は歯を噛みしめ、悔しそうな目をしたが、じきに目を閉じ、歯も普段通りにした。

「……お前は、よくやった。敗北しなかった所は、褒めてやる」

キャロルはそう言って、あの手を伸ばし続けた少女を想った。

「(なぁ、立花響。この世界で、オレは手を取り合えるだろうか?)」

 

 

 

アトラは自分が乗ってきた三輪のトラックに身を寄せ、待ち人を待つ。そしてそれは、少し後に来た。

「あれ?アトラ……ああ、配達か」

三日月はそう言って一人で納得していた。その声は、とても元気と言える状態では無かった。

「あ、うん。……あの、三日月?」

「何?」

アトラの言葉に三日月はすぐさま応える。まるで、何かに焦っているかのように。

「あのね…平気?」

その言葉に三日月は長い間を置いた後、「うん、ありがとうアトラ」と言い、すれ違いざまに「今ちょっと急いでるから、後でね」とも言った。

その返事としてアトラは「うん」と元気そうに言ったが、すぐに表情は暗くなった。

「馬鹿だな私。平気じゃないの、分かってたのに」

彼女の両手に包まれた、彼女の左手に付けられたものと同じ形状のブレスレットが、小さく揺れた。

 

 

 

キャロルは三日月をバルバトスから送り出した後、モビルワーカーの整備に勤しんでいた。今、ここに居るのはキャロルだけだ。故に、他の物音がすれば、すぐに分かる。

「おい女。一応ここは兵器の置き場所だ。気を付けろ」

キャロルはモビルワーカーから顔を出して、目の前を歩いていたクーデリアに声を掛ける。彼女の顔つきは、とても沈んでいた。それでも一応の礼儀は欠かさず、足を止め、ゆっくりとキャロルを見る。

「……あなたは…、ああ。あの時の……」

それだけ言うと、クーデリアはまた足を運び始めた。それを見たキャロルの目は見開かれていた。

「だから気を付けろと言っているだろう!女ぁ!」

キャロルはモビルワーカーから飛び出し、クーデリアを突き飛ばしつつ彼女自身もそこから逃げる。直後、キャロルが視ていたのとは別のモビルワーカーの装甲が外れ、クーデリアが居た所に落ちた。

「こうなるから」

「……すみません、ありがとうございます」

キャロルはすぐに起き上がり、クーデリアに手を差し出す。彼女はそれを取って、立ち上がった後、再度礼を言った。

「女、浮かない表情をしているな。良ければ相談に乗ろう」

「……でしたら、名前で呼んでください」

「……分かった。クーデリア、これでいいか?」

「はい、それで」

キャロルはクーデリアが了承したのを確認し、懐から綺麗な布を取り出す。そしてそれを床に敷き、そこに座るよう言った。クーデリアはそれに従い、布の上に座る。キャロルも地面に座る。

「さて、何から話したもんかな。……よし、何があった?」

「……実は、三日月さんに、怒られてしまいまして」

「……そうか。それで?何をした」

クーデリアは少しの間を置いた後に、語り始めた。

「私は、ここに居る子供達を守る為に、ここへやってきました。当然、私には武力がありません。ですが、話す事なら出来る。話し、講和を結ぶ事で子供達を守る事が出来る。…しかし、今回はその子供達に、三日月に守られてしまいました。私は、依頼主として護衛を頼みました。だから、その時私は謝罪をする必要があると考え、彼に私のせいですみませんでした、と言おうとしました。そしたら彼は、「たかがアンタ一人のせいで死んでなんかいない」、「俺の仲間を馬鹿にしないで」って。それで、気付いたんです。私は何も分かっていなかったって。ただの世間知らずのお嬢様だって。でも、私にはそれが怖かった。そして、そんな私を見る、彼の目も。何だか、見透かされて、笑われてるみたいで。…だから、私は」

「もうそこまででいい」

キャロルはクーデリアの話を遮り、声を出す。

「お前は、ここに居る奴らを守る為に来た。そうだな?」

「は、はい」

「そうか。なら、ただ手を伸ばし続けろ。三日月にも、ガキ共の敵にも、どんな形であれ、手を伸ばし続けろ。そうすれば、きっと手は取れる」

「……は、はい!ありがとうございました!」

クーデリアは布を畳んで、キャロルに返そうとする。が、キャロルは受け取らずに、話を続けた。

「だがな、一つ言っておく。はやるな、そして、伸ばす手の形を決して間違えるな」

そう言って、キャロルは布を受け取り、整備に戻った。

「……伸ばし続ければ、か」

クーデリアの足取りは先程よりも、大分軽かった。




ねぇアダム、どうしてアダムはアダムなの?
「さぁね?でも僕は君と出会うべくして出会ったんだろうね。まるでロミオとジュリエットのように」
キャー!アダムったらカッコいい!それに比べてあの子供は、ねぇーアダム?
「はっはっは、そうだね」
アダムと私はもはや一心同体、もう止められない!
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