キャロルはモビルワーカーを弄りながら、思案を巡らせていた。
「……あれは、マズかったのではないか?」
キャロルは自身の発言を思い出し、苦慮していた。
あの言葉は
「…にしても、あの時のスラスターの不調。原因がガス欠とはな。雪之丞の奴、一回シメておいた方がいいか?」
ロクに利用も、清掃もされていない部屋で、オルガ達参番組と、壱番組は対峙していた。といっても参番組は、五人の代表だけだが。
「テメェ!」
壱番組のリーダーがオルガの顔を殴りつける。オルガはそれに何も言わず、ただ流し目で殴った男を睨んだ。後ろの四人の怒りが大分大きくなっているのをオルガは背中で感じた。
「よくもコケにしてくれたな!俺達を使って」
「壱軍の皆さんが挟撃作戦に向かう途中、不幸な事故で敵の攻撃を受けた事は聞きましたが」
オルガはリーダーの話に構わず、被せるようにして話を始める。それに壱軍の連中は青筋を立て、歯を剥き出す程に怒っていたが、オルガは気にせず話を続ける。
「それが俺らと何の」
言い訳に怒り心頭に発したリーダーが、オルガの言葉を殴って止める。オルガはそれで倒れてしまうが、リーダーは平気で話を続ける。
「しゃあしゃあと
そして、リーダーは四人の方を見て「貴様らも殴られてぇか!」と、また怒鳴る。
それを聞いたオルガが途切れ途切れに「俺だけでいいでしょう」と、言いながら、フラつきつつも立ち上がる。
「ああ、そうかよ。じゃあ…!」
そこからは酷いモノだった。彼らは複数人でオルガ一人を囲み、悲鳴を上げる暇さえ与えずに暴力を振るう。四人は何度もコイツらを蹴飛ばしたいと思ったが、オルガの思いを無下にしてはいけないと何度も自分を踏みとどまらせた。そうした地獄の様な時間は、壱軍の飽きが来た事でようやく終わった。
「けっ、面白くも無ぇ」、「後で今回の損害調べて持って来いよ」、「急げよ」などと壱軍の者が口々に叫びながら部屋から去っていく。壱軍がここから完全に去った事を確認し、四人はオルガに駆け寄る。
「オルガ!」
「クッソ、アイツら許せねぇ!」
仲間の声を聞きながらオルガは口の中の血を唾と一緒に吐き出す。
「そうだな、許せねぇ」
そう言ったオルガに一行は驚きの声を上げる。オルガは不敵な笑みを浮かべながら、
「丁度、良いのかもな」
「……これぐらいで、終わらせるか」
キャロルは道具を工具箱に仕舞い、そこから立ち去ろうとする。が、その瞬間に複数人の足音が聞こえたので、壱番組かと思い身を潜める。彼女の低い身長も相まって、その姿は完璧に風景に紛れた。
「ここならいいか」
聞こえたのはオルガの声だった。
「それで、丁度良いってのはどういう事だよ?」
ユージンの声も聞こえた。
「俺達でCGSを乗っ取る」
その依然とした態度に、キャロルは少したじろぐ。が、少し面白いとも思った。
「俺達がCGSを!?」
「前にお前も言ってたろうが、ユージン。ここを乗っ取るって」
「そりゃそうだが…、この状況でか?参番組の仲間も何人も死んでる」
「マルバも相当なクズだったが、壱軍の奴らはそれ以下だ。アイツらは俺達の命を撒き餌ぐらいにしか思ってねぇ。それにアイツらの頭じゃすぐに商売に行き詰まるそうなりゃ益々危険なヤマに手を出す。俺達は確実に殺されるぞ」
その言葉にキャロルの心は揺れた。今の状態が続けば、参番組だけでなく、ミカも売り飛ばされかねない。今、キャロルの心では手を取り合う心と、仲間を想う心が争っていた。
「かと言って、ここを出ても他に仕事なんて無いし……」
「選択肢は無ぇって事か……」
ビスケット、ユージンと、次々にオルガの言葉に賛成していく。
「お前はどうする?昭弘」
そう言ってオルガはモビルワーカーの上に座っているガタイの良い男に声を掛ける。
「俺らは
そう言って昭弘と呼ばれた男はそこから立ち去っていく。それにオルガは「彼らしい」と、小さく笑った。
「んじゃ、そうと決まれば早速作戦会議だ」
ユージンが司会の代わりになって話を仕切ろうとする。
「三日月は呼ばなくていいの?」
「おお、忘れてた」
そう言ってオルガは頭を掻く。それにビスケットは「忘れてたって」と呆れた。
「ミカがもし反対するなら、お前らには悪いが今回は中止だ」
その言葉に「はぁ?」、「オルガ?」と納得しない声が上がる。それにオルガは「まぁ、それは無いがな」と返す。
「俺が本気なら、ミカは必ずそれに応えてくれる。確実にな」
その言葉にキャロルはハッとした。あの自由奔放なミカが、今の不安定なキャロルを見て、その言葉に従ってくれるだろうか。キャロルは己に「身を引き締めろ」と言い聞かせた。
オルガはわざわざ歩き、バルバトスに何かしらの作業をしている三日月の所まで赴く。オルガが彼の名を呼ぶと、三日月は少し笑って、
「色男になってんね」
と言った。実際、オルガは殴られた跡が腫れて、多少不細工になっていた。それにオルガは「まぁな」と自嘲する。
「死んじまった仲間に、最後の別れをしなくていいのか」
「あー」と、三日月は少し考えて、「いいよ。昔さ、オルガが言ってた。死んだ奴には、死んだ後でいつでも会えるんだから、今生きてる奴が死なないように精一杯出来る事をやれって」
「そんな事も、あったかな」
と言うオルガの脳裏には、昔の、少年だった二人の姿が映っていた。
「なぁ、ミカ」
「ん?」
「やって貰いてぇ事がある」
そう言ってオルガは、三日月にその拳銃を、グリップを三日月に向ける形にして差し出す。
「お前にしか出来ねぇしご」まで、オルガが言った所で三日月はその拳銃をオルガの手から取る。そしてその流れでスライドを引いた。
「話聞く前に受け取るか?」
「これから聞く。でもどっちにしろ、オルガが決めた事ならやるよ、俺」
「そうやってお前は」
「え?」
「いや、サンキューな」
火星付近にある宇宙基地に、その三人はやってきていた。それをコーラルは表面上では快く迎える。
「やぁーあ、遠路はるばる、よく来てくれた。ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐」
その言葉に、ボードウィンと呼ばれた男は「お久しぶりです、コーラル本部長」と返した。
「ここは、手狭ではあるが、軽い宴も用意してある。ゆっくりと休んで、旅の疲れを癒してくれたまえ」
そう言い終えた後、二人の後ろに付いている青年をチラと見る。
「ところで、この青年は…?」
「初めましてコーラル本部長、ノエルと申します。以後、お見知り置きを」
そう言って、ノエルと名乗った青年は深くお辞儀をする。その時、彼の背負った無骨な色合いの鞘が小さく光った。
「そ、そうか。君もゆっくりするといい」
「お心遣い、感謝します」
「私で力になる事なら何でも言ってくれたまえ。必要なデータもこちらで」
コーラルがそう言った時、ファリドと呼ばれた男は右手の平を相手に見せる事でそれを拒否した。
「こちらでの監査は、我々の裁量で行わせて頂きたい。お心だけ、頂戴します」
それにコーラルは顔を引きつらせながら、「そ、そうだな」と言い、「君の好きなようにするといい」
そして体を翻し、「では、案内しよう」と、三人を誘う。その後、部下に何かを指図した。
「ふっ、慌ただしい事だな。マズいモン隠してますって顔に書いてある。ノエル、こういう任務は初めてだろうが、気になった事があったら何でも言っていけ」
「はい、ボードウィン特務三佐」
そんな会話を聞きながら、コーラルは冷や汗を浮かばせていた。
「(くっそぅ若造が。クランク、しっかりガキ共を駆除してこいよ。資金援助と俺の立場の為に)」