人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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ep3 花弁

日が沈んだ頃、男達は明日の業務への意欲と体力を蓄える為に食堂へ集まっていた。そして、今日はその中にクッキーやクラッカー、アトラといった女性も居た。また、クーデリアも。

「よし。次は…これをみんなに運んで」

そう言ってビスケットは、コンソメスープのようなものが入った大鍋を、テーブルの上に置く。それにクッキーとクラッカは「はーい」と元気に返事をして、鍋をワゴンの上に乗せた。

「気を付けるんだよ」

「うん!」

「もう、お兄心配しすぎ!」

そんな二人を見送って、ビスケットは一通りの業務を終えたアトラに顔を向けた。

「ありがとうアトラ、みんな喜んでるよ。冷たいレーションより、温かいご飯の方がずっと良いから」

そのお礼の言葉にアトラは小さく微笑む。

「それにしても、クーデリアも一緒だったなんて」

話題を変えたビスケットに、アトラは配給の仕事をなんとかこなしているクーデリアを見ながら話す。

「クーデリアさん、私達がご飯作るって言ったら、是非手伝わせてくれって」

 

~回想~

 

キッチンで、クーデリアはそのズッキーニのような野菜にサバイバルナイフを当てていた。ただ、それは震えるばかりで斬れておらず、また手でがっしりとその野菜を掴んでいたのも相まって、かなり危険に見えた。

それを案じたクラッカが「ああ、違う違う」と言い、それに続いてクッキーが「お野菜切る時は、ネコの手だよ」と言った。クーデリアは切るのを止め、「こうですか?」と、それっぽく手を握ってみせた。

「違うよ、それじゃ犬の手じゃん」

「こう!」

そう言って、二人も手を握って見せる。

「こう?」

クーデリアも、二人の手の見よう見まねで手を握った。

 

~現在~

 

「そっか。まぁ、有難いね」

そう言った直後、壁をノックする音がして、ビスケットを呼ぶユージンの声が聞こえた。振り向いてみると、そこにはシノとユージンが居た。ユージンは険しい顔をしており、シノも表情こそ普段通りだったものの、何処か黒いオーラが漂っていた。

ユージンがアゴを軽く動かして、何かを促すと、ビスケットは「うん、今行く」と言って、コンロの上に並んでいる二つの大鍋を見た。

「急げよー」

「分かってるって」

 

 

 

三人は一軍の部屋まで行き、食事を配っていた。といっても、今配っているのはスープだけだが。彼らはシノとユージン、ビスケットの二組に分かれて配給をこなしている。

「どうぞ」

そう言ってビスケットは、スープの入った器を目の前の男に手渡す。これが最後の渡す相手だ。男はその器を睨んだ後に、「おい」とビスケットに声を掛けた。

「具が少ねぇぞ!テメェのダボついたケツの肉でも入れろや!」

そう言って彼はビスケットを蹴飛ばして、部屋から追い出す。勢いのままにワゴンは進み、壁にぶつかって止まった。ビスケットは、息苦しい部屋からの解放に息を漏らす。その少し後に、ユージンとシノも部屋から出て来る。彼らはお互いに顔を見合わせて、何かを確かめ合った。

 

 

 

キャロルは整備の片づけを終え、食堂に向かう途中に出会った三日月と、話をしながら一緒に歩いていた。食堂からはいつも通り、楽しそうな声が聞こえてくるが、今日は一味違った。

「ど、どうぞ」

「わっ、お嬢様からの手渡し!」

「お嬢様、俺も俺も!」

その原因はクーデリアだった。彼女は少年達にスープの配給に精を出している。男だらけの環境に、色々と魅力的な女性が現れれば、はしゃぐのもよく分かる。そんな様子を見ながら、三日月と話をしていると、横から声を掛けられた。

「あっ三日月!横の人誰?」

声の主はクッキーだった。その隣に居るクラッカも二人を見ている。二人もクーデリアと同じく、配給に勤しんでいたようで、その両手にはスープの入った容器が収まっていた。

「このちまっこいのはキャロル。最近ウチに入った。挨拶して」

そう言って三日月はキャロルの背を押す。

「……キャロルだ。よろしくな」

そう言って、キャロルは一歩下がる。

「キャロル、女の子みたーい」

「オレは男だ」

「へぇー」

「こっちの髪をおさげにしてるのがクッキー、後ろでくくってるのがクラッカ。覚えといて」

それだけ言って、三日月はそこから歩いていく。それに釣られるようにしてキャロルも歩く。が、クラッカがこちらに駆け寄ってきて、何かを差し出す。

「はい!ご飯、まられしょ?」

そう言って、差し出された容器には、スープが入っていた。が、その中の具材が異様に大きかった。

「でっかいね」と、三日月が。「これ、クーデリアが切ったんだよ」と、クラッカが言った。その言葉に、奥に居たクーデリアが反応する。

「んじゃぁまぁ」と、言って三日月はそれを受け取る。それにクーデリアが「それは、駄目!」と言いながらかなりの速度でこちらに走ってくる。

「何で?」

「これは、後で私は責任をもって頂くと言ったではないですか!」

それにクラッカは「そうだっけ?」と、とぼける。

「そうですよ!とても人様にお出し出来る物では無いので、私が自分で」とクーデリアが言いかけた所で、三日月はその具材を口に運ぶ。それを見たクーデリアが叫び声をあげるが、三日月は気にせず口を動かしていた。

「うん。これくらいデカい方が……、食ってる感じがして美味い」

三日月の言葉にクーデリアは息を呑み、モジモジしながら「それは大変、よろしかったですね」と照れた。

それを見たキャロルは感心し、小さく笑った後に

「上手く手を伸ばせたじゃないか。これからも、頑張れ」

そう言った。

そんな一行を見ている影が、四つあった。

「どうしたんです?ハイタツガール」

「わぁビックリした!……あれ?あなた達誰ですか?」

「名前を聞く時はなんとやら。でもまぁ面倒だから教えてあげる。ガリィよ、よろしく」

そう言ってガリィはその右手をアトラに差し出す。それにアトラは「どうも」と、手を握る。

「私、アトラっていいます。そっちの二人は?」

「ファラ・スユーフ、よろしくお願いしますわ」

「レイアだ、よろしく」

アトラはガリィの時と同じく、彼女達と握手をする。

「それで、何見てたんです?まさかあのリトルボーイ?」

「えっ、何で分かったんですか!?」

「そりゃ分かるっての、あんだけジロジロ見てたらね。行かないの?」

「今日はもう帰ります。女将さんにも無理言って来てるし」

そしてアトラは「それに」と付け加え、「三日月、なんかピリピリしてるから」

「私達は一ヵ月、あの少年と過ごしてきましたが、そこまで変わってないように見えますわ」

それにアトラは小さく笑った後「でも、何か違うって、分かっちゃうんです」

「あ、そうだ。一つ、お願いがあるんですけど、いいですか?」

「イっヤでーす!ガリィちゃん面倒なのきらーい!」

アトラの頼みをガリィは誰が見ても失礼を感じる態度で断った。

「ガリィ、それは派手に失礼…」

「それに!…お前と私は今会ったばっかじゃないの。ドロボウされちゃったら大変よ?信頼出来る人に頼みな」

「……それもそうですね。じゃ、おやすみなさい」

そう言ってアトラは去っていった。

「地味に嫌われたやもしれないな」

「当ったり前よ。それに、アタシはあんな純朴少女より、マスターの方が良いのよ」

「変わらないわね、ガリィ」

「面白い事を求めるのは生き物として普通じゃない」

「そうね。今夜も面白い事が起こりそうだからわざわざ夜更かししてるのよね」

 

 

 

オルガ達は自らの怨敵(いちぐん)を閉じ込めた部屋の前に辿り着いた。部屋の中からはざわめきが外まで響いている。一行の中にはキャロルとオートスコアラー達も居た。

「三日月、一応バルバトスでの疲れは残っているんだからな。もし何かあればオレに言え」

「大丈夫だよ。そこまでヤワじゃない」

キャロルの心配をよそに、三日月は懐にしまった拳銃を気にしていた。

「じゃ、楽しんできてくださいな。想い出は耳でしっかりとキャッチしてますよ」

そう言ってオートスコアラー達は壁の寄りかかって、固まった。

「行くぞ」

そのオルガの合図に、一行の感情は様々な感情で固められる。そしてそのほとんどが怒りだった。

オルガが扉を開け、「おはようございます」と呑気に言った。

「薬入りのメシの味はいかかでしたか?」

「薬だぁ!?」

「ガキが、何の真似だ!」

大人たちは口々に叫ぶが、そこで終わりだった。それも当然だ。何故なら、彼らの手足は固定バンドで留められており、まともに動ける状態では無いのだから。

「まぁハッキリさせたいんですよ。誰がここの一番だって事を」

「はぁ!?」

「ガキ共。貴様ら、一体誰を相手にしてると」

「ロクに指揮もせず、これだけの被害を出した、無能ですよ」

と、オルガは大人の声に被せるようにして言い放った。

それに大人は「ふざけんな!」と、怒鳴り、唾を吐く。オルガはその大人を思いっきり蹴り上げた。

「分かった、分かったから。取り敢えずコイツを取れ。そしたら命だけは助けてやる」

「ああ?お前状況分かってんのか?そのセリフを言えるのは、お前か、俺か、どっちだ?」

その発言に大人達は睨む目を鋭くさせるが、オルガはそれを無視して話を続ける。

「無能な指揮のせいで、死ななくてもいい筈の仲間が死んだ。その落とし前はキッチリつけてもらう」

その言葉で、三日月は男の前まで行き、拳銃を抜いた。

「は?待て、なにっ」

大人は何かを言おうとしたが、三日月はそれを聞く間も無く、引き金を引いた。大人の頭に丸い穴が開けられ、そこから赤い液体が漏れ出す。銃撃に場が凍り付いたが、オルガは気にも留めずに話を続ける。

「さて。これからCGSは俺達のモンだ。さぁ選べ。俺達宇宙ネズミの下で働き続けるか、それともここから出ていくか」

「コイツ!」

いつの間にか足の拘束を解いていたらしく、また大人が一人、三日月に向かって走っていく。が、三日月は怯むどころか、無言でそれを処理した。

「どっちも嫌なら、コイツみたいにここで終わらせてやってもいいぞ」

「あのぉ…、俺は、出ていく方で……」

眼鏡をかけた、気弱そうな男がそう言う。

「あ、確か、会計を担当しているデクスター・キュラスターさんですよね?」

彼に応えたのはビスケットで、その物言いは他の人に比べて優しかった。

「あなたには、ちょっと残ってもらいます」

デクスターの叫びが、部屋いっぱいに広がった。

 

 

 

「ねぇマスター?」

「何だ」

部屋から出ていくキャロルに、ガリィが声を掛ける。

「手を伸ばすとやらはどうしたんです?」

「……アイツは、手を取り合えない奴だ。クズで、馬鹿で、力任せのどうしようも無い奴だ。そんなアダム以下の奴の手を取ってみろ。こっちまで馬鹿になる」

その返答に、ガリィは少しの間を置いて、こう言う。

「まぁ、それがマスターの意志なら、私達も従いますよ。こっちも良い思い出が発電出来ましたし」

「……そうか。なら、一つ頼みがある」

「何です?」

 

翌日

 

「おいオルガ!お前辞めてく壱軍に退職金くれてやったんだって!?」

執務室に入ってきたユージンが、扉を開けるなりこう叫んだ。

「何でって……」

ユージンの視線の先には、先程までビスケットとデクスター、そして少年二人が居た。四人共、口をポカンとさせてユージンを見ている。

「おいおいおいおい!まさか、お前らも辞めてく気か!?」

そう言って少年の首に巻かれたスカーフを持ち上げるユージンを、オルガが「やめろ」となだめる。

「仕事には正当な報酬ってヤツが必要だ。こいつらはよくやってくれた」

「なっ…じゃあ壱軍は!?」

「アイツらがここを辞めてどんな動きをするか分かんねぇ。信用に傷を付けられねぇようにな。俺達がやるのは、真っ当な仕事だからよ」

「信用?真っ当?ざけんな。今更どの口がそんな」

そんなユージンの声を遮って、チョビ髭の男が「いやいやいや、喧嘩は良くないぜぇ?」と、彼に肩を組む。

「色んな考えはあるんだろうけどよ。みんなでこれから、盛り上げていこうや、なぁ?

それにビスケットが反射的に「え、それって」と声を出す。

「おう、俺は残る事にした。これからよろしく頼むぜ、同志」

チョビ髭の男はそう言って、下品な笑い声を上げた。

 

 

 

CGSから遠く離れた、何処かの荒野。死屍累々のそこで、ガリィは佇んでいた。

「いやぁ、マスターも悪い事考えますねぇ。飢え死にしたように見せかけて、想い出を吸い取ってこいなんて」

そう言ってガリィは舌なめずりをする。

「手を取り合えない相手、ですか」

 

 

 

キャロルはその倒れたグレイズを直していた。歪んだパーツは取り換え、悪くなった配線もそれっぽく修理する。

「マスター、何をしているんですか?」

そこにやってきたのは、一足先に帰還した、レイアだった。

「そっちこそ、どうしたんだ?客人なんて連れて」

そう言ってキャロルは手を止め、振り返る。そして、レイアの後ろに居る眼鏡を掛けた女性を見た。

「この方がマスターに会いたいと」

「そうか。何だ?」

キャロルの言葉に応え、その女性が一歩前に出る。

「私、クーデリア様にお仕えしております、フミタン・アドモスと申します。レイア様の申された通り、あなたに用があります」

「……言え」

「あなたは、何者なのですか?」

「…どういう意味だ」

キャロルの目つきが、鋭くなる。

「クーデリア様はこうおっしゃられました。キャロルという子供は、その歳に合わない物言いをする、と」

「だからどうしたというんだ」

「話はまだ続きます。さらに、周りの子供達に訊いてみれば、彼らは、キャロルは一ヵ月前にここに来たと言っていました。それなのに、周りの人間からはもう信頼されている。先程もあなたは貴重なモビルスーツをたった一人で修理していた。その様なまだ体が小さい状態で、学があって、人からも好まれる。あなたの様な孤児が在る筈がありません。あなたは、何処から来たんですか?」

その言葉に、キャロルは長い沈黙の後、「聴きたいか?」と、微笑する。

それにフミタンは「ええ、とても」と答えた。

「……オレは、ただのハズレ道化師だ。道化師は皆を笑わせ、好まれるものだ。だがオレは違う。オレのは、まったくもって笑えない。笑う所か、殴ってもオツリが来るレベルのジョークだ」

「話を逸らさな」

「オレがココと全く違う世界(トコロ)から来たって言ったら、笑うか?」

冷たい何かが、場を占領した。違和感、嫌悪感、そのどちらとも言えない何かがフミタンの頭を埋めていく。

なれど、「面白い事を言う子供ですね」と、フミタンは何とか声を出す。

「はっ。面白かったのなら、光栄だ」

そう言って、キャロルは整備に戻る。

「では、私はこれで」と、フミタンは何処かへ歩いていった。

そうしてしばらくした頃、ふとキャロルが「行ったか?」と、声を出す。

「ええ。今、ここには私達しか」

「……そうか」

キャロルは、その整備の手を止め、深く溜息をつく。

「オレ達は、錬金術師だ。燃料こそ足りないものの、技術も、レシピも、しっかりとその脳内媒体に刻まれている。そんなオレ達を、アイツらは、どう見るんだろうな」

そう語るキャロルの脳裏には、ほんの僅かに見える、愛しき父親の姿が在った。




ダインスレイヴ。この力さえあれば、キャロルを殺す事はおろか、世界の支配さえも容易い。
「おいノエル、剣に現を抜かしてないで、とっとと仕事に戻れ」
……むぅ。されど、この身は数の暴力に滅ぼされた。今、コイツを使えばボクは殺される。……それにしても、モビルスーツ、か。この力が在れば…!
「ノエル、モビルスーツがどうした?まさか、モビルスーツが勝手に使われたとでも言うのか?まさか、そんな訳があるか。監査があるのに……」
このガエリオとかいう男、退屈しているのか?
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