人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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ep3.5 散華

執務室にて、オルガ達はデクスターと資金について話をしていた。何故かチョビ髭の男も一緒に話を聞いている。

「残された資産の内、現金のほとんどはマルバが持ち出したようですね」

デクスターがタブレットで何かをしながら、そう言う。

「先日の戦闘での取得物と、これから入金予定の分を、予算として計上すると」と、そのタブレットをオルガ達に差し出す。

「ぬわぁ!こんな大金見た事無ぇ!」と叫ぶシノに、「アホ。会社っつったら、普通こんくらいは…」と、ユージンがツッコミを入れる。

しかし、デクスターは「いえ」と、ユージンの言葉を否定する。

「そこから、退職金、モビルワーカーの修理費に、施設維持費。それらを全て計上すると、こうなります」

そう言って、デクスターは再度、タブレットを差し出す。

「こんなんでどうすんだよ」

ビスケットが「これじゃ何とかやりくりしても」と、言ったのに繋げるようにして、「三か月維持するのが限度でしょうね」と、デクスターが言う。

「取り敢えず、目先の仕事が決まらない事には話にならねぇか」

「仕事って言ったって、今の俺達の状態じゃ、足元を見られるだけだよ」

そんな一行に「よぉおめぇら、忘れちゃいねぇか?」と、さっきまでだんまりだったチョビ髭が、口を出す。

「お前らはギャラルホルンをメタクソにしちまった。もうここは、ヤツらに狙われちまってる」

「た、確かに。派手にやっちまったからな」

「仕事以前の問題じゃねぇか!」

「ま、そこで。俺に一つ考えがある」

「はぁ?」と、シノが声を出すが、チョビ髭は話を続ける。

「アイツらが、ここを襲ってきたのは、積み荷であるクーデリアが居るから。そうだろ?

「だったら何だ」

「こちらからギャラルホルンに呼び掛けて、金を引き換えに、お嬢さんを引き渡す。ぜーんぶマルバの罪にしちまえば何とでもなるだろうよ!」

それにユージンは「確かにそもそも…」と、納得した素振りを見せたが、シノの方は「何、どういう事?」と、よく分かっていなかったようだ。

「なぁ、大将も分かってる筈だよなぁ?クーデリアを抱えたままじゃ、仕事が立ち行かないって事ぐらいさ」

そう言われたオルガが、椅子に腰かけたその姿勢を、少したりとも崩す事なく、黙っていた。

「オルガ、何迷ってんだよ」と、痺れを切らしたユージンが話す。

しかし、その声は敵襲を告げるアラームに掻き消された。

 

 

 

「監視班から報告!ギャラルホルンのモビルスーツが一機、…えー、赤い布を持ってコッチに向かってる!」

「嘘だろ!?まだコイツの整備は半分しか終わっていないというのに!」

単眼鏡で前方を睨みながら、通信機に叫ぶタカキにキャロルは驚愕する。

「グレイズが一機…。だが、直接襲ってはこない。地味に不気味」

「……それで、何なんすか?あれ…」

「ありゃあ、決闘の合図だなぁ」

タカキの問いに答える雪之丞。それに近くに居た少年が「決闘?」と聞き返す。そして聞こえたのは返答では無く、モビルスーツのスピーカーを通して響くクランクの声だった。

――「私は、ギャラルホルン実働部隊所属、クランク・ゼント。そちらの代表との一対一の勝負を望む」

「マスター、命令を」と、レイアが求める。

「地味に行け。気に入らんだろうが、とことん地味に行け」

「……承知」

――「私が勝利したなら、そちらに鹵獲されたグレイズと、そして、クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡して頂こう」

その声で後方からざわめきが上がる。その半分程はクランクへの反対意見、もう半分は賛成意見だった。

――「勝負がつき、グレイズとクーデリアの受け渡しが無事済めば、そこから先は全て私が預かる。ギャラルホルンとCGSの因縁は、この場で断ち切ると約束しよう」

その言葉でさらにざわめきが大きくなる。それを壊したのは、他でもないクーデリアだった。

「行きます。勝負などする事はありません。私は行けば、全てが済むのでしょう?無意味な戦いは避けるべきです」

それに対して、いつの間にかここに来ていたチョビ髭が声を上げる。

「そうそうそう。聞いてみよう!交渉のほうもして、金のほうガッツリと…」

が、それを、チョビ髭と同じく、上がってきていたオルガが掻き消す。

「どうなるか分かんねぇんだぞ」

「クーデリア!はやるなと言ったのを忘れたか?」

「いいえ、私は冷静そのものです。…それに、私はただ死ぬつもりはありません。何とか話を聞いて貰えるよう、頑張ってみます」

「オレは言った筈だ、手を伸ばせと。お前から手を下げてどうする?」

「あなた達が死んでは元も子もありません。…それは、分かっているでしょう?」

「どっちにしろ、俺達は死ぬつもりは無ぇ。それに、あのオッサンも嘘ついてて、俺達をぶっ殺すつもりかもしんねぇからな。何にせよ、俺達は戦うしか無ぇんだよ」

オルガはそれだけ言って、三日月を呼ぶ。三日月はそれに応え、オルガの方を見る。

「やってくれるか?」という、オルガの問いに、三日月は「いいよー」と、気楽そうに答えた。

「おい!やるって何をだよ!?」

「文字通り、あのオッサンをやっちまうのさ。ほらタカキ、通信機くれ」

「はいっす」

ーー「……あー、あー。待たせたな、謹んでこの勝負受けさせて貰う」

 

 

 

「戻ってきてみたらこの有様。また襲撃ですか?」

どこか満足げな表情のガリィがキャロルに問う。

「ああ。あのクランクとかいうのが一騎討ちを仕掛けてきた」

「あらま」と、ガリィが少し驚いた仕草をして「じゃあ、今回は手ぇ取るんですか?」

それに対しての答えは、無かった。キャロルは少しの間を置いた後、モビルワーカーの置いてある方へ歩く。

「ガリィ、レイア。急ぎだ、手伝え」

「……はぁーあ」

 

 

 

「阿頼耶識、ですかぁ。痛そうですねぇ」

ガリィがモビルワーカーの椅子の辺りを弄りながら呟く。

「マスターはこんな可愛いガリィちゃんにあんなデキモノくっ付けたりしないですよねぇ?」

「……作業に戻れ」

そう言うキャロルには感情が見えなかった。

「あーあ、マスターはそのままで居てくださいね?不格好なマスターを見るのは嫌ですから」

「当然だ。誰があんな危険なシロモノを使うというんだ」

それから少しした後に、キャロルは語り始めた。

「一週間ぐらい前だったか。オルガから聞いた。彼は幼い頃に、十人の仲間と一緒に阿頼耶識の手術を受けたんだそうだ。…そして、その結果、四人が下半身を麻痺させる結果に終わったらしい。それからはずっと機械情報と一緒に過ごしているんだと」

「それ聴いてもう手術受ける気無くなったんですけど」と、ガリィが矢継ぎ早に言う。

「……お前達にも、そんな事はさせない」

言い切ると同時に、レイアがエンジンルームの蓋を閉めた。

「マスター。修理、地味に完了」

「一応椅子の方もピカピカにしときましたよ」

「そうか。二人共、ご苦労だった」

そう言って、キャロルはモビルワーカーに乗り込む。阿頼耶識は無いので、服装はそのままである。

「ちょっとマスター、今から何をするおつもりで?」

「そろそろ三日月がトドメを刺す頃だろう。だが、あの英断が出来る奴だ。重症はおろか、軽傷で済ますかもしれんからな。説得を試みる」

「へーい。んじゃ、朗報をお待ちしておりますよ」

そう言って、ガリィはモビルワーカーから飛び降り、着地ついでに華麗に回ってみせた。それの当て付けかのように、キャロルは排気ガスをガリィに当てながらモビルワーカーを走らせた。

 

 

 

三日月(バルバトス)クランク(グレイズ)の戦いは熾烈を極めていた。グレイズが持っていた盾は粉々に砕かれ、斧もバルバトスのメイスとの度重なる衝撃によって刃が歪んでいる。

ふと、グレイズが左腕のパーツを犠牲にメイスを捕まえた。そしてその隙に右手に握った斧でバルバトスのメイスの柄を叩き切る。頭部は重さですぐに地面に落ちたが、柄はそのまま吹っ飛んだ。バルバトスは掴み上げる為に飛び退くが、グレイズはもうそこまで迫っている。もう、振り上げる為の柄も、時間も無い。

スピーカーからクランクの雄叫びが響く。バルバトスの真上にはグレイズの斧が鈍く光っていた。

瞬間、バルバトスはメイスをグレイズに押し付ける。そして、パーツのロックを外し、頭部に埋もれていた柄をグレイズにブチ当てた。それは装甲を貫いて、火花を散らした。

バルバトスはその好機を逃さず、間合いを詰め、グレイズの頭部パーツを握り潰し、足で踏みつけて立ち上がれないようにした。そしてそのままトドメを刺そうとして三日月は気付く、下半身をグレイズと一体化させたクランクがこちらを見ている事に。彼はコックピットから抜け出し、その男を見る。

「本当に…、子供なんだな……」

「なぁ。俺が勝った場合はどうなんの?アンタ、それ言って無かっただろ?気に食わなかったんだ」

その言葉を聞いたクランクは自らを嘲るように小さく笑い、「済まない。馬鹿にした、訳じゃないんだ」

そして、こう続ける。

「その選択を、俺が持たなかった。それだけだ。俺は、上官の命令に背いた。何の土産も無く帰れば、俺の行動は、部隊全体の問題になってしまう。だが、ここで俺が終われば、責任は全て俺が抱えたまま…」

そこで、彼は咳き込み、血を自身の衣服に付ける。

「もういいよ、喋らなくて」

「済まんが、手を……」

クランクの声を喧しいエンジン音が掻き消す。ふと、その方向を見ると、そこには一台のモビルワーカーが走っていた。その方向はグレイズだった。

――「三日月!殺すんじゃあないぞ!」

スピーカーからキャロルの声が響く。そのすぐ後に、モビルワーカーは急ブレーキをかけ、グレイズの真横で停止する。

「話は聞かせて貰った!お前のような誇りある者がここで死ぬのは勿体ない、オレの手を取れ!」

モビルワーカーから出たキャロルが出せる限りの声を出す。

「……子供よ、お前は敵に下ってまで生きたいと思うのか?」

「思わんな。だが、味方となら手は取り合える。そして今、オレはお前に対して」

銃声。残酷にもそれはクランクの命を奪い去った。

「オルガの命令の、邪魔しないで」

 

 

「やらかしてくれたなぁ、三日月!」

チョビ髭が帰還して、悠長にデーツのような木の実を食べている三日月に怒鳴る。それに三日月は「ん?」と、あどけない返事をする。

「そ、そうだよ!どうすんだよギャラルホルンを完璧に敵に回しちまって!」

そんな事を言うユージンにシノが「いいじゃん勝ったんだから」と、諭す。

「……あぁらら。マスター、蚊帳の外ですねぇ」

ガリィはそう言って、一人でモビルワーカーの整備をしているキャロルに目を向ける。

「勝手なモビルワーカーな使用、命令違反。…このモビルワーカーの修理と、謹慎処分なだけマシだ」

「あ、マスター。チビパイロットがこっち来ますよ」

ガリィの言葉通り、三日月はこちらに来て、キャロルを見た。…しかし、見ただけで、すぐに歩いていってしまった。

「……変なガキですねぇ」

「その変な所があるから、モビルスーツにも乗れたんだろ」

「そんなもんですかねぇ。……あ、一応報告でーす。僕達私達CGS改め、()()()は、クーデリアの護衛を続けるそうですよ?なんでも、それでノブリスとかいう奴からお金たっぷり貰えるそうで」

「鉄の火、か?」

「さぁ?」

「……今度、訊いてみるとしよう」




「ノエル、仕事は…」
「終わりました。不安であれば、確認を」
そう言って、ノエルはガエリオにそのタブレットを手渡す。その画面には元のごちゃごちゃなデータの集まりの面影は無く、綺麗に整理されていた。ガエリオも最初こそ訝し気に見ていたものの、じきに顔は晴れた。彼は少し笑った後、ノエルにタブレットを返した。
「これは昇級したのも頷けるな。おいマクギリス、ライバル登場だぞ」
それにマクギリスは微笑んだ後、ノエルのよりもずっと多くのデータが入っているタブレットをガエリオに手渡す。
「……ノエル、お前も苦労する事になりそうだな。優秀すぎる上官の下で働くのは辛いぞ?」
「火星でゴロツキ同然の暮らしをしていた時よりはマシです」
「だといいが。まぁ、今回はお前の代わりに痛い目に遭う奴が居る。目に焼き付けておけ、ああならないようにな」と、入り口で冷や汗と一緒に笑顔を浮かべているコーラルを見る。
「朝からご苦労、ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐、そしてノエル君」
ガエリオが丁寧な作り笑顔を浮かべながら、「おはようございます」と挨拶をする。
「作業の方は如何ほどかね」と、言った後、頭に手をやって「いやぁー済まんねぇ、こちらの不手際でデータの整理がまるで間に合わず…、あれでは目を通すのも一苦労だろう」
「いえ」
そう答えたのはノエルだった。
「こんな文字列を見る事など、肩をこらせるまでもありませんでした。実に容易く、見え透いていた」
そう言って彼はコーラルをじっと見る。それに彼はたじろいだが、すぐに「大したものだ」と立て直した。
「ところで、ノエルの資料、そして私の資料にもあったのですが…」
「な、何だね」
「一個中隊が出撃したまま、帰投していないようなのですが」
それにコーラルは「ああ、それなら暴動の鎮圧に出ていてな」と、芝居がかった言い方で言う。
「暴動?独立運動ですか?」
「所詮は市民のガス抜きに過ぎない。簡単な仕事とはいえ、この所多くてな。万が一を考えて中隊を出しておるのだ」
「地球でも耳にはしておりましたが、鎮圧にそこまで手間取るものとは。心中お察しします」
「あっああ」と後ずさったが、「では、執務があるのでな、失礼させて頂く」と、回れ右をして、ドアの方へ歩く。
しかし、その足は扉の前で止まり、回って体を三人の方へ向けさせた。
「ああ、ところで、何か不便は無いかな?」
それにガエリオが「不便?」と聞き返す。それに乗じて話を続ける。
「旅の途中、何かと入り用だろう。まぁ些少だが、何かの足しにでも」
「要らん。それともそれはお前の立場で払ってくれるのか?それとも…」
そう言ってノエルは腰に下げた剣をチラつかせる。黒い柄がコーラルの瞳に映った。
「……欲に目を眩ませる程、ボク…私達は落ちぶれてはいない。それをよく覚えておいて頂きたい」
「あ、ああ。どうもありがとう」
そう言い残した後、コーラルは部屋から出ていった。その少し後、ガエリオが深く息を吐いて、「流石にあの行動は目に余るものがあるな。今後は自重しろよ。この後は火星での視察だ、勝手な行動は慎むんだぞ」
「はい、申し訳ありませんでした」
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