人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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「急な話とは?」
コーラルからの呼び出しを喰らったマクギリスが、紳士な態度で訊く。彼の脇にはガエリオとノエルも居る。
「是非とも、監査官殿にもご同行願いたい作戦があってね」
それにノエルが「それは罠じゃないだろうな?」と、強請る。
「そ、そんな訳はないだろう」と、言って咳をして「これは、真っ当な作戦で、君達には何の害も無い」
「クーデリアが、地球に赴く事は君達も知っているだろう?それは君達にとっても、望む所では無かろう」
と、ここでノエルが「失礼、一つよろしいでしょうか」と、話を止める。
「何だね」
「クーデリアとは一体誰の事だ」
「……火星産まれならば、知っている筈なんだがな。これだ」
コーラルが差し出した端末の中には、演説を行うクーデリアの姿が映っている。そして、ノエルはこう確信した。
「キャロル・マールス・ディーンハイムゥ!遂に見つけたぞ!」
彼女は、キャロルの変装である、と。麗しい金髪に、宝石のような紫の瞳。それらは、彼の記憶の中のキャロルと合致していた。
「おいコーラル!今すぐ、ボクに、機体を、用意しろ!」
その鬼気迫る様子に、コーラルは圧倒されたが、じきに元に戻り、「ああ、すぐに用意させる」と、口約束を結んだ。
「おいノエル、これで何度目だ」
「すみませんでした」
コーラルがまたもや咳をして、話を続ける。
「ともかく、彼女が地球に辿り着く事は君達にとってもよろしく無いだろう。そこで、君達にその手柄をあげようと思ってね。そこに、やる気が溢れている者もおるようだし」
「了承しました。その作戦、同行させて頂きましょう」
少々慌ただしかった作戦会議は、マクギリスの言葉で幕が切られた。


ep5 赤い地の中

キャロル達が農園へ行った数日――1週間以内――後、鉄華団はオルクス商会との契約を結び、モビルスーツ達の整備も終えた。そしてその出発日である翌日……

 

 

「私を!炊事係として、鉄華団で雇ってください!」

食堂にアトラの可愛らしくも大きな声が響き渡る。その声の主はというと、背中にバックパックを背負っており、足元には複数個の鞄達が置かれている、いかにも住み込みらしい出で立ちをしていた。

「女将さんには事情を話して、お店は辞めてきました!」

その叫びに一行は呆気に取られていたが、じきに順応し、アトラを迎え入れた。そんな少年達を、見守る四人が居た。

「ハイタツガール、いきなり距離詰めてきましたねぇ。マスター何か言いましたか?」

「さぁ?オレは知らないな」

「面白くなりそうですわね」

「あとはミカが居ればもっと派手に……」

「案ずるなレイア。もう準備は済ませたからな」

「……地味に不安」

 

 

 

「宇宙へ行くって聞いてたから、もっと派手なのを期待してましたけど……」

アスファルトの上で仁王立ちしているガリィが、見下すような口調でそれを見る。

「何だよアレ!?まるでジェットコースターじゃないの!レールに乗せてシャトルを飛ばすなんて冗談じゃない!」

そう言うガリィは地団駄を踏んで、そのシャトルが乗っているレールに向かって叫ぶ。レールは途中で湾曲しており、その先は無かった。

「落ち着けガリィ、見送りのガキ共が笑ってるぞ」

「そうは言いますけどねマスター!?安全性のカケラも無い!あんなモノにマスターを乗せるなんて、何を考えてるんだっつの!」

「落ちた時には、まぁそれも運命だと諦めるさ」

「はぁ!?」

「落ち着けガリィ。怒鳴ったって、もう避けられ無ぇんだ。腹ぁククれ」

そうガリィをたしなめたのは、少し遅れてやってきた雪之丞だった。

「雪之丞、オルガ達はもう乗ったのか?」

「ああ。お前の大事な人形も一緒だぜ」

「そうか。いや、ありがとう。ではオレ達も行くとするか」

「あっ待ってくださいよマスター!」

「あーあ、騒がしい旅になりそうだなぁ……」

 

 

 

「おうキャロル、やっと来たか」

キャロルが扉を開けた直後、ユージンが彼女をやじる。

「済まないな、ウチの五月蠅いのが」

「何がウルサイノですか。こんなのに乗ってよく平気でいられますね」

「もうすぐ出発だ、急いで席に就け」

オルガが一行に向かって、正論を飛ばす。キャロルはそれに従って席に就くが、ガリィの方は渋々といった様子だった。

「……随分と遅かったですわね」

キャロルの席の後ろの席に座っていたファラが問う。

「何か文句でもあるか?」

「いいえ?ただ、随分のんびりとした性格になられたと思いまして」

「……そうか」

――「お客様へ連絡します」

スピーカーから、男性の声が響く。おそらく、このシャトルの操縦士のものだろう。その声は、あと数分でシャトルが発進する旨を伝えた。

そして、その数分後に、機体が大きく揺れたかと思うと、それは青い炎を吹きだし、機体をレールから空まで打ち飛ばした。

 

 

 

「いやぁー、飛ぶものなんですねぇー」

椅子の背もたれを最大まで傾かせたガリィが、のんびりとした声で感嘆の言葉を出す。その椅子が余程気に入ったのか、足をフラフラさせていた。ちなみに、後ろの男は椅子に潰されそうになっている。

「さっきとは態度が真逆だな。…おいクーデリア、この後はどうなるんだ?」

キャロルがその近くに座っているクーデリアに呼び掛ける。その仕方にフミタンは少しムッとしたが、あえて何も言わなかった。

「確か、定軌道ステーションに入港して、迎えの船を待つ手筈だったかと。ですよね?ビスケットさん」

「そうです、オルクスの定軌道輸送船に拾って貰って…」

その説明を始めたビスケットの声を遮るようにして、タカキが「あれがオルクスの船じゃないですか?」と、興奮気味に言う。

彼が指を指す先には、確かに船があった。しかし、それを見るオルガの目はあまり芳しいと言えるものでは無かった。

「予定より少し早いな…」

オルガが呟いた、丁度のタイミングに船から何かが飛び出してくる。それは――

「ギャラルホルンのモビルスーツ!」

「おい、その奥にもなんか居るぞ」

「何!?」

シノとユージンの視線の先にも船があった。しかし、それの形は先の船とは違っていた。

「はぁー!?ギャラルホルンとか、どうなってやがる!」

そう叫ぶのは、さっきまでずっと何も言わずにじっとしていたトドだった。彼は操縦室の扉を勢いよく開け、その中に飛び込む。

「おい、退け!俺がオルクスと話をつける!」

そう叫んで、通信機のボタンを押していく。彼がようやく通信を繋げたかと思うと、たった一つの単純な言葉が届いた。

――「我々への協力に感謝する」

それを聞いたシノは怒り、「協力ってのはどういう了見だ」と、彼の襟首を掴み、脅す。

「入港はいい、加速して振り切れ!」

オルガが、トドをぶん殴っているシノを横目に指揮を執る。操縦士はそれに従い、スラスターの火を強めるが、モビルスーツとの間は開く所か、ぐんぐんと縮められていた。

次の瞬間、シャトルが大きく揺れたかと思うと、通信機に一人の男の声が伝わった。

「モビルスーツより有線通信!クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡せとか言ってますけどぉ!?」

その言葉に、顔に大きな青アザを作ったトドが叫ぶ。

「さささ、差し出せ!そしたら命までは取ら無ぇだろ!」

それにユージンが「テメェは黙ってろ」と一蹴するも、「他に助かる手立てがあるってのかよ!」としつこく叫ぶ。

「どうすんだ?オルガ!」

「私を差し出してください!」と、叫ぶクーデリアに「それはナシだ」と、オルガが否定する。

「ですが…」

「ナシだと言ったのが聞こえなかったのか。…折角繋がった手を、引き裂かれてたまるか。ここは、オレ達に任せろ。…やれ、ビスケット!」

「分かった。行くよ、三日月!」

 

 

 

シャトル上面、そこには一機のモビルスーツが仁王立ちしている。そして、それを取り巻くようにして二機が両隣に。シャトルの上に居るモビルスーツの左人差し指と手の甲の間からは、シャトルへ一直線に続くワイヤーが伸びていた。

次の瞬間、シャトルのフタが扉のようにして開かれ、白の煙幕が放出される。パイロットはそれを「たかが煙幕、ただの小細工だ」と、思っていたが、それはすぐに一変する。モビルスーツの操縦室に円筒が突き付けられたのだ。そして、パイロットは直感と、戦士の勘で察知した。もう、すぐそこに死があるのだと。

刹那、円筒から弾丸が撃ち出され、モビルスーツの操縦室を砕き、モビルスーツと煙幕を吹き飛ばす。そして、そこに居たのは白いモビルスーツ――バルバトスだった。バルバトスはグレイズの置き土産である手斧を何処かに放り投げ、他の二機に向かって飛んで行く。

 

「ミカが敵に喰らいついた!」

オルガが軽く拳を作って、喜びを噛みしめる。

「けど、まだオルクスの船が…!」

「その仕事、オレに引き受けさせてくれ」

ビスケットの不安に応えようとするのは、キャロル。その目には、不敵な光が宿っていた。

「何をするんだ?」

「昭弘らと通信は出来るか?」

「一応、出来る。だが、アイツはまだイサリビの操縦で…」

「大丈夫だ。戦うのは、彼じゃない。オルガ、イサリビに通信を繋いでくれ」

「……やってやる」

「オルガやっべえ!オルクスの奴撃ってきやがった!」

 

オルクスの船の砲弾が、シャトルを襲う。最初こそ、ギリギリの所で躱せてはいたものの、だんだんと弾は狙いを正確にさせ、ついには右翼、左翼、スラスターとパーツを破壊していった。

しかも、そこでシャトルは火を吹かないようになり、速度が急激に落ちる。「終わりだ」、誰もがそう思ったのだろう。実際、皆が、そう思っていた。

――「ブチ抜け、ミカァッ!」

シャトルからキャロルの声が響く。それに応えるのは――

「りょーかいだゾッ!」

赤き戦士の拳だった。

 

「あれって、確かキャロルさんが直してたグレイズ…」

タカキが目を丸くしながら、キャロルに答えを求める。

「そうだ。そして、オレなりに改修、改造もした、新型グレイズ、いや――()()()()()()()()()だ!」

そう、高らかに宣言するキャロルの先には、もう跡形も無くなった船を、まだ攻撃しているバーニング・グレイズの姿があった。

「もういいぞミカ。それに、彼らの邪魔にもなるだろうしな」

――「お?ああ、済まないゾ!今退かすから待って欲しいゾー!」

そう言って、(バーニング)(グレイズ)は鉄塊を遠くに蹴り飛ばして、そこから退いた。そして、その後ろに赤い船が見えるようになった。

「時間通りだ、昭弘」

オルガの、嬉しいような、呆れるような、はっきりとしない声が通信機から発信された。

 

 

「ミカ。敵戦艦の撃破に、シャトルの輸送、よくやってくれた」

イサリビ船内、キャロルは通信機を通して彼女に礼を言う。

――「どういたしましてだゾ!」

「もう、ミカちゃんにそんな活躍されたら妬いちゃうじゃないですかぁ」

「暇が出来たらお前にも作ってやる」

その言葉で、ガリィは分かりやすくはしゃいだ。

「さて、仕事はまだ残っている。手伝ってやれ!」

人形達はそれぞれの了承の意の言葉を発し、指揮所の持ち場へ就いていく。が、そこから出ていく者が一人居た。

「昭弘、どこへ行く?」

格納庫(ハンガー)だよ。俺も出るんだ」

「そうか。頑張れ」

キャロルはそう言って、指揮所に入り、呆然とした。座れる所が無かったのだ。

「あんまり遅いんで、お先に入らさせて頂きましたぁ」

ガリィの間延びした声が響く。

「……やはり、性根が腐っている…!」

 

 

バルバトスは弾丸を躱しつつもライフルを撃ち、少しずつ敵MS(モビルスーツ)にダメージを与えていく。それに痺れを切らしたらしい敵MSの一体が、ライフルを仲間に押し付け、手斧一本で突っ込んできた。

――「邪魔はさせないゾッ!」

そこに飛び込むはミカのB・G(バーニング グレイズ)。MSの腕を根本から抑え込んだ。

――「この体動かしにくい、ゾッ!」

ミカは敵MSを放り投げ、そのついでに手斧を奪う。そこからは、煉獄だった。ミカが笑う度に、斧が振り下ろされ、仲間のパーツが一つ一つ壊れていく。逃げど、迷えど、脱出口は見つからない。どんな事をしても、あの赤い悪魔からは逃れられなかった。…その時までは。

――「……あれ?」

突然、B・Gが動きを止める。斧を振り上げたまま動かないその姿勢は、大きな隙を生み出していた。

――「おいミカ!聞こえるか!?おい!」

そして、突然聞こえ始めるキャロルの声。いや、正確にはずっとしていたのに、彼女の狂暴性がそれを防いでしまったのだ。

――「マスター。ミカ、動けなくなっちゃったゾ」

――「馬鹿!取り敢えず何とかして助けを呼んでやる!おい昭弘!」

――「俺かよ!?行くからじっとしてろ!」

――「動けないから呼んでるんだゾー!」

そんな事をしている間に、ミカの目の前には一機のグレイズが飛び込んで来た。その手斧が、まっすぐコックピットに――来なかった。

――「邪魔」

そう言ったのは、三日月。彼の搭乗したバルバトスが、メイスでそのグレイズをふっ飛ばして、すぐに何処かへ行ってしまった。

――「悪ぃ、遅れた。大丈夫か?」

――「大丈夫だゾ…」

白く塗装されたグレイズが、ミカのB・Gを押していく。しかし、それも長くは続かなかった。

――「小汚いゴロツキが!ボクに逆らった事を後悔させてやる!」

――「ぐおっ!何だ!?何に引っ張られて…」

昭弘のグレイズは、漆黒のグレイズから撃ち出されたフックに引っ掛けられていた。それのワイヤーは何重にも左脚部パーツに巻き付いており、解けそうに無い。

――「あの白い機体に散々やられた恨み、晴らさせて貰うぞ!」

そう叫ぶ黒のグレイズは、両手に刀を持ち、グレイズに向かってくる。ただ、その刀は反りの無い、直刀だった。

――「ただのストレス発散に俺を使うんじゃねぇ!」

昭弘のグレイズは、足を引く事でワイヤーを引っ張る。

――「わざわざ引き寄せてくれるとは、実に好都合!」

――「ああそうだな!」

グレイズの拳と刀がぶつかるが、数と射程の差で昭弘は押し負け、その右腕を砕いてしまう。

――「邪魔するなって言ってるんだゾ!」

突然、B・Gが動き出し、刀を振り終えたばかりの黒グレイズに拳をぶつける。

――「数が多いし滅茶苦茶に硬い!恨みつらみはこっちの方が上なんだゾ!」

――「その声……。そうか!やっぱりキャロルがそこに居るんだな!?殺すっ!」

――「マスターより先にアタシを殺すんだゾ!でもその前にお前をバラバラにしてやるゾ!」

ミカの連撃は止まる事を知らず、その勢いに耐え切れずに黒グレイズの装甲は吹き飛んでいった。刀も既に折れ、成す術も無い黒グレイズには死が待っている。

――「トドメだゾ!」

B・Gが高く拳を振り上げる。その時に、一瞬に聞こえたのは――

「退け!もう三日月は回収出来た!ボォッとしてたらお前らが狙われるぞ!」

主からの、撤退命令だった。

――「聞こえたか!?退くぞ!」

B・Gは、白グレイズに引っ張られるがまま、イサリビの方へ飛んでいく。再び機体を動かそうと試行錯誤するが、今度は思う用に行かず、結局二人はイサリビに回収された。

 

 

 

キャロルら四人は、B・Gのコックピットの蓋を開ける。そして、そこに居るミカに声を掛けた。しかし、ミカは喋る所か、首さえも動かそうとしていない。

「おい、ミカ。大丈夫か?」

「……マスター」

ようやく喋ったミカの声色は、とても弱々しかった。

「何だ?」

「アタシは、この手でも役に立てないのかゾ?」

「そんな事は無い。お前はしっかりと仕事をしてくれたじゃないか」

それにしばらく間を置いた後、こう呟いた。

「嘘だゾ」

「え?」

「どうせマスターもこの手じゃ役に立たないって思ってるんだゾ」

「そんな事は無い!どうしたんだミカ?」

「……今日はほっといて欲しいゾ」

「マスター、こういうのは一晩寝たら何とかなってるモンですよ。今回は言う通りにしてみましょう?」

「……分かった。でも、腕の固定は外してやるからな」




「……にしても、あのB・Gってどういう仕組みなんですか?」
「ミカの両手を疑似的な阿頼耶識として改造、それをグレイズのコンピュータに直接連結させた」
「連結…って、まさか穴ぁ開けたんですか?」
「そうだ。ミカでも操縦出来る安心設計にしておいた」
「たぁーっ、そのせいで他の人が動かせないじゃないですか」
「どうせあの機体は損傷が酷くて、余程の能力が無いと乗れん。ミカ以外に乗せるつもりも無い」
「そーですか。…ところで、何でバーニングなんですか?爆弾も火炎放射器も無いですよ?」
「ミカが戦闘特化の機械人形である事は知っているだろう?」
「そりゃ当然」
「ミカの非常に詳細で、過多な情報のせいで、信号を伝える配線が焼き切れるからだ」
「……はぁ!?そんな捨て身も同然の機体を使ったんですか!」
「どうせ三日月一人じゃやり過ごせ無かった。こうするのは当然だ」
「……マスター、キッツいですわ」


【バーニング・グレイズ】
ミカ専用に改造されたグレイズ。赤い塗装が施されている。装備は無く、基本的に機体のみで戦闘を行う。ミカの都合もあり、戦闘が出来るのはせいぜい十五分程度が限界。
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