人形は屑と踊る   作:D・ヒナ

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「……おいノエル、お前は寝ていなければならないだろう。何故ここに居る」
ガエリオが、部屋に入ってきたばかりのノエルに向かって注意を飛ばす。そのノエルはというと、体には包帯が絶えず、今も杖をついていた。部屋には、ガエリオとノエルの他にマクギリス、そして、その他大勢のギャラルホルン職員達が居る。
ノエルはガエリオの言葉に冷静すぎる程に「大丈夫です」
それにガエリオは呆れた顔をするが、マクギリスは小さく笑っている。
「まぁ、そんな状態でもそんなものを持っていられるんだ。きっと大丈夫なんだろうな」
ガエリオの視線の先には、ダインスレイヴ――彼らにとってはただの変哲な剣――があった。ノエルの腰に鞘と一緒に吊るされている。
「そういうボードウィン特務三佐こそ、そのような体でも資料を睨んでいられるのですから、きっとベッドで寝ていなくても大丈夫なのでしょうね」
彼の言う通り、ガエリオは先程までマクギリスと共に、その端末を覗き込んでいた。その中には、「gundam frame」の文字が煌々と記されている。
「まぁ、熱心なのは良い事だ」と、マクギリスがガエリオに端末を手渡す。
「私はもう読み終えた。二人で好きに読むといい」
「感謝するよ。ほら、礼を言え」
ノエルはガエリオに促され、「ありがとうございます」と、小さく上半身を前に傾ける。そして、ガエリオの持っている端末に視線を向ける。
「ガンダム・フレーム。厄祭戦末期に活躍した、ガンダムの名を冠した72機のモビルスーツ…!?」
資料を呼んだガエリオが「厄祭戦だと!?」と、声を荒げる。
「厄祭戦が、どうかしたのですか?」
「……ああそうだったな、この田舎者!厄災戦というのは、三百年前地球で起こった大戦争の事だ!三百年前だ!そんな大昔に造られた骨董品に俺達は蹂躙されたんだ!」
それにノエルは呆けた顔をしたが、すぐに何かに納得したような顔をして、笑い声を上げ始めた。
「何が可笑しい!?」
「いや失礼。ふと、昔の事を思い出してしまったので。」
「コイツ。…して、あのチョビ髭はどうした?」
ガエリオに話を振られたマクギリスが「彼なら客室に居るだろう」と、用意しておいた答えを言う。また、「第一、出られはしないが」とも付け加える。
「アイツが言うには、クーデリアはあの船の中に居るんだってな」
「そう。故に彼らは地球航路に乗るだろうな」
「良かったなノエル、大好きな仕事が出来るぞ」


ep6 自らにおいて

「どうですか?チャド様」

船首にて、ファラが備え付けられた端末を睨んでいるチャドに声を掛ける。

「そのサマってのはやめてくれ、体がむず痒くなる。…順調さ。哨戒の奴らからもそれといった報告は無いし、周囲にもE(エイハブ)R(リアクター)の反応どころか、岩の集まりも見えない。しばらくは休めると思う。実際、みんなは休んでるし、俺もそろそろ交代だ。アンタも休んだらどうだ?」

チャドの提案にファラは少し悩んだ後、頷き「私も休ませて頂きましょうか」と、部屋から出ていく。

「……つっても、油断は出来ねぇけどな」

チャドは深く、息を吐いた。

 

 

 

格納庫にて、一行は帰還したモビルスーツ達の整備を行っていた。例に漏れずキャロルらも整備に駆り出されている。

「おいミカ、大丈夫か?」

キャロルがB・Gのコックピットで不貞腐れているミカに声を掛ける。しかし悲しいかな、ミカは座ったまま動く様子は無い。

それを見かねたガリィが持ったレンチを遊ばせながら「ミカちゃん、コックピットの整備が出来ないんですけど?」と、ミカを空中に放り投げる。

ミカはもがきもせず、そのまま空中で漂う事を選んだ。それを横目に、三人はB・Gの整備に入る。しかし、寸分経った時レイアがキャロルを呼んだ。

「何だ?」

「やはり、ミカの様子は地味に不安。打開策を求めます」

レイアの言葉にキャロルは考える素振りを見せた後、ミカの方を向いてこう言う。

「おいミカ。それ以上ボケッとしているようなら、本当に役立たずになるぞ。いいのか?」

「それはヤ、だゾ!」

ミカが壁を蹴ってキャロルらの方へ行く。宇宙での自身の機動に慣れていないのか、B・Gのパーツを慌てて掴んで、勢いをなんとか殺す。

「なら、こんな硬い所で寝てないで、もっといいトコロで休むんだな」

それにミカが「それもヤだゾ!」と、駄々をこねる。

「だったら、寝不足で戦場に出るとでも言うのか?……まだ先の戦いでの疲れが残っているだろう、今日は休め」

ミカは長考、そして苦慮の末に「何処で寝ればいいんだゾ?」と、キャロルに問う。

「何処でもいい。ココはあの時の家よりは狭いが、その分色んな要素が圧縮されている。きっとすぐにお気に入りの場所が見つかるさ。それに、ここにはイイ奴も多い。困った事があったら……そうだな、クーデリアという女の所へ行くといい。きっと良い相談相手になってくれるだろう」

「……分かったゾ。んじゃ、オヤスミだゾ」

そう言い残して、ミカは部屋から出ていく。その背中には、まだ何処か悩みが残っていた。

「さぁ、修理の続きを始めるぞ。アイツの為にもな」

「マスターったら、丸い通り越してデブになったんじゃないんですか?」

「黙れ。それともお前は無理やり重量のある駆体に変えられるのが好みなのか?」

「イヤーン、マスターの変態」

「ぅるっせぇぞガリィ!」

バルバトスの整備を監修していた雪之丞から、ガリィへの怒号が飛んだ。

「それともそこまで暇なのか!?」

「そんな訳ないだろ!……しかし、暇が出来たら手伝ってやる」

「そりゃドーモ!」

 

 

 

「ありゃ?迷っちゃったかゾ?」

ミカは、その長い廊下でキョロキョロと首を回して周囲を確認する。そこには人っ子一人おらず、ただミカの独り言だけが悲しく漂っていた。

「狭いのはイイけど、人も少ないのは寂しいゾ」

そう言って、ミカは廊下にある窓から外の景色を見る。そこからは幾つかの星が見えるだけであり、また窓もそこまで大きく無いので、そこまで暇を潰す為の場所としては利用出来無かった。しかし、今はそれで良いのだ。ミカは静かに、外を眺めながら思考を巡らせる。もっと主の役に立つにはどうすればいいか、いきなりやってきた宇宙でどうやって馴染んでいけばいいのか。様々な不安がミカの思考を埋めていく。

しかし、それはそう長くは続かなかった。理由は二つ。一つは、ミカが少々せっかちな性格であった事。彼女の頭は良いものの、感情という不規則なパラメーターを指揮するまでには及ばず、結果思考は打ち切られてしまった。そしてもう一つは――

「あら?あなたは…?」

クーデリアがそこにやってきたからだった。

 

 

「そう…ですか。目が覚めたらいきなり宇宙に」

クーデリアはミカから話された突拍子も無い話にドギマギしつつも、なんとか声を出す。けれど、打開策は見つからない。事の発端はミカからクーデリアは何処かと訊かれ、自身がそのクーデリアであると話した事だった。そこからはあまりに奇想天外な言葉ばかりを投げかけられ、四苦八苦の連続だった。そして何より、彼女にとって奇妙だったのが――

「う?……ああ、この手かゾ」

ミカのような機械人形が、今ここでほつき歩いている事だった。クーデリアにとってドギマギの要因は、初めての相手と話す事よりもミカの手への驚きの方が割合が大きかった。

「アタシは、産まれてからずっとこの手だったんだゾ。何せ戦闘用に造られたオートスコアラーだったからな、この手を離した事は一度も無いゾ。……この手は不器用で、力ばっかしで、他の仲間の手が羨ましかったゾ。勿論、この手でもいい事はあったゾ、褒められた事もあったし。けど、やっぱり仲間の手は器用で、滑らかで、そして何より怖がられない。憧れの気持ちは無くならないゾ」

そして、少し間を開けた後「でも、そんなアタシにも綺麗な手を使える時があったんだゾ」と、話を切り替える。

「それは…?」

「あの…モビルスーツ?に乗った時、ミカは嬉しかったんだゾ。何せアレの手は硬いけど、ミカの手みたいにガチガチじゃないからな。そして、それを今は自分の体のように動かせる。その時は嬉しかったゾ。でも、戦いを始めると動きにくくて、結局役立たずになっちゃったゾ」

その言葉にクーデリアはそれはそうだろうと、心の中でこぼす。目覚めた瞬間から宇宙空間で戦う事を命じられたのだ。シュミレーションはおろか、説明すらも受けていなかった事をシャトルで指揮を執っているキャロルを見たクーデリアは悟った。

「……なぁクーデリア、役立たずのアタシにここで馴染めると思うか?」

「分かりませんよ、そんな事」

それにミカは少し悲しそうな顔をした。しかしクーデリアは「でも」と付け加える。

「でも、それはみんなの事を知らないからです。だったらその世界に飛び込んでみたらいいじゃないですか。飛び込めば、何かを知れる。もしかしたら、みんなとも馴染めるかもしれない。もしかしたら、嫌われるかもしれない。…でも、それは飛び込んでみなければ分からないんです。動かなければ分からないんです」

それにミカは驚いた顔をするが、すぐに緩やかな笑みに変わり、小さく頷いてこう続ける。

「なんかスッキリしたゾ。それで、一つお願いがあるゾ」

「何でしょうか」

「誰かそれっぽい人を教えて欲しいゾ」

「……まぁ、いきなり飛び込んでいくのは勇気が要りますからね。一緒に行きましょうか」

クーデリアの言葉にミカが飛び跳ねてはしゃぐ。そんな二人に近づく人影が、二つあった。

「あれ?クーデリアさん、何してるんですか?」

「あとそこの誰?」

二人に声を掛けたのはアトラと三日月だった。彼らは大きながま口バッグを肩に掛けており、何かを届けに行くようだった。

「団長さんとの会議の休憩がてら、ミカさんの相談に乗っていました」

それにアトラが「ミカ?」と、三日月の方をうかがう。

「ああいえ。ミカさんというのは…」

「アタシの事だゾッ!」

後ろでブレイクダンスを踊っていたミカが、飛び上がり見事な着地を決める。

「ミカ…。ああ、あの時の奴か」

三日月の声を聞いて、あの時の言葉を思い出したミカは少ししぼむ。

「ありがとう」

「えっ?」

「あの時は邪魔だって思ったけど、あの後やってきた新手が結構多くて。だから、ミカが暴れてくれて助かったよ」

その言葉にミカの表情は一変し、「どういたしましてだゾ!」と、興奮した犬のようにはしゃぐ。そんなミカを横目にクーデリアがアトラに声を掛ける。

「ところで、皆さんはこれからどちらに?」

「作業中の人達に弁当を届けるんです。まずは搬入口の所へ」

「だったらミカも連れてって欲しいゾ!」

「わ、私もよろしいでしょうか!」

「は?」

ミカのそれは威圧のものでは無く、ただの疑問である。

 

 

 

搬入口にて、少年達は多くの荷物と共に踊っている。彼らの体は華奢に見えるが、兵と言われるだけあって、その肉体はある程度頑丈らしく仕事をテキパキとこなしていた。

しかし、まだ少年らしいところはあり、アトラの呼び声が響くと彼らは一斉にその方へ行く。その時見せた表情は少年らしいと呼ぶにふさわしいものだった。

そんな彼らに、三人はパックに入れられた昼食を配っていく。それを見習ってミカも昼食を配る。大事に扱うため、ショベルですくったような形になってしまっているが、それでも少年達は物怖じせずにそれを取り、礼を言う。

「ほら、大丈夫でしょう?」

「うん!」

 

 

 

一通り配り終えた一行は、次なるフロアへ行く為にエレベーターに乗る。三日月がボタンを押すとシャッターが閉じ、一行を下へ運び始めた。余談だが、ミカが居るせいで微妙にエレベーターが狭かった。

「じゃあ、そのテイワズって人の所に行くの?」

アトラが先程までの話の続きを促す。今、クーデリアは移動の暇つぶしとして会議での決定事項を話していたのだが、意外にも長引いてしまっている。

「テイワズって人じゃ無くて、会社じゃなかったっけ?」

「ええ。ただ、仲介を頼める人物が居ないので、簡単には行かないようですね」

それに三日月は「ふーん」と、素っ気なく返す。

「ふーんって、興味無いのですか?大事な事ですよ?」

「別に。オルガがちゃんとしてくれるだろ。だいたい俺、アンタが何で地球へ行くのかもよく分かってないし」

「ええっ!私達、地球へ行くの!?」

そう驚愕の言葉を出したのはアトラだった。

「地球へ行けるのか!じゃあちょっと安心だゾ!」

そんなアトラとは相対的に、ミカは安堵の声を出す。

「ミカは地球行った事あるの?」と、三日月が。「何で行けたの!?」と、アトラが訊く。

ミカは自身の事を話そうとして、過去を思い出し「ああ、ちょっと…」と、口をつぐむ。

「…そ。地球、イイトコだった?」

「それは勿論だゾ!地球に着いたら案内してあげるゾ!」

そんな三人にクーデリアが「そのような事が出来る状態であれば良いのですが」と、割り込む。

「…そんなにヤバい状態なのかゾ?」

「私が地球へ行くのは、仕事でです。それが終わるまでは、あまり良い目で見られないかと」

「それは何でですか?」

アトラの問いに、クーデリアは答え始める。…が、あまりに小難しく、長い話だったので、三人には火星と地球があまり良い関係で無い事と、それを解決するのがクーデリアである事ぐらいしか分からなかった。

話が終わった頃、アトラは感心の目でクーデリアを見つつ、拍手をする。

「クーデリアさんすごい!」

「じゃあ、アンタが俺達を幸せにしてくれるんだ」

その言葉に意表を突かれた表情を見せたクーデリアだったが、すぐに「ええ、そのつもりです」と、決意を露わにした。

 

 

 

格納庫にて、一行は相も変わらずモビルスーツ達の整備をしている。キャロルらも同じくである。

「ああもうミカちゃんたら!どうやったら配線を焼き切る程の指示を出せるんだよ!」

「お前もモビルスーツに乗るようになれば分かるさ」

「絶対に乗りませんからね!どうせ阿頼耶識付けるんでしょ!?」

「るっせぇつったのが聞こえなかったのか!」

が、ガリィが喧しく、またそれに雪之丞が一々反応するのであまり効率は良いとは言えなかった。

「お疲れ様でーす、お弁当でーす!」

アトラが雪之丞に声を掛ける。それに雪之丞は「おお、有難ぇ」と、返した。

「おーい!区切りの良い所でメシにしようや!」

雪之丞の一声で、少年達はわらわらと集まっていく。そしてまた、キャロルも。

「ミカ」

「あ、マスター!」

「弁当、くれないか?」

ミカが「どうぞ」と、それを差し出すと、キャロルはそれを受け取り「ありがとう」と、礼を言う。

それから少し経った時、ミカが機会を伺っていたらしく、今度はミカがキャロルに声を掛ける。

「……やっぱり、マスターの役に立ちたいゾ。それに、今思えば全然眠く無かったし」

その言葉にキャロルは考える仕草をした後、後ろのガリィとレイアと顔を見合わせ何かを確認する。

「そこまで言うなら仕方ないな。いやなに、力のある奴が居ないと面倒な仕事があってな。よろしく頼む」

そうして、キャロルは右手をミカの方に出す。それにミカは間髪入れずに応え、手を握る。

「さ、仕事の続きだ」

「りょーかいだゾッ!」

 

 

 

「ふぃー。やっと終わりましたよー」

そう息をつくガリィの体には油汚れが沢山あった。それを少しでもマシになるようにとキャロルが「お疲れ様」と、それを拭う。

「地味に困憊」

「それだけで疲れたのかゾ?レイアはだらしないゾ!」

ミカの言葉にレイアは何かを言おうとしたが、ギリギリで踏みとどまった。

「バルバトスもB・Gも修理終わりましたし、ガキはクーデリアとなんかするみたいですし。……休めますよね?」」

「オレを何だと思っている。当然、今から休憩時間だ。自由に過ごせ」

ようやく訪れた休息にガリィとミカは飛び跳ねながら喜び、レイアは安楽したように体の力を抜いた。

キャロルが「問題を起こすなよ」と言うと、レイアを除く自動人形達は陽気に返事をして何処かへ行った。

「……戦士の休息だ」

そう言ってキャロルは弁当の蓋を開ける。

 

 

 

「調子はどうだ?」

キャロルは船首の一行に声を掛けた。その言葉にビスケットが「まだ大丈夫」と、答える。

「それで、お前は何をしているんだ?」

キャロルが声を掛けたのはフミタン。他数名と同じように椅子に座り、備え付けられた端末を睨んでいる。その目に疲労の色は無い。

「見て分かりませんか?監視に就いているんですよ、賊にやられないように」

「ほう?賊、ね。何年も世界を支配している組織を賊呼ばわりとは、余程肝が据わっているように見える」

「……まぁ、いいです。邪魔はしないでくださいね」

そう言って監視に戻ったフミタンを一瞥した後、キャロルは何故かそこで端末を睨んでいるファラに近づく。

「お前もこんな立派な仕事が出来るとはな」

「ええ、私としても光え」

「お前もオートスコアラー(きかい)なら少しぐらいは油に汚れろ!」

キャロルはファラに見事なヘッドロック決めた。が、流石は大錬金術師の造り出したモノというべきか、苦しむ所か軋む音すらもしていなかった。

「苦しいですわ」と、ファラが笑う。それに怒りを増幅させたキャロルが首をブンブンと振り回し始めるが、それも意味を成さず、一行は苦笑いをしていた。

ふと、キャロルが首の動きを止める。そうして何かをファラに耳打ちする。

「ええ。大したものですわね、阿頼耶識というものは」

「……そうか。騒ぎ立てて済まなかったな」

そうしてキャロルが部屋を出ようとした瞬間、アラームが部屋いっぱいに鳴り響く。

「どうした!?」

「他船からの停止信号です」

「他船、位置不明!」

「ギャラルホルンか!?」

「落ち着け!…おいファラ、見つけられるか?」

「こんな狭い所で見つけろなんて無茶言いますわね」

一行が言い合っていた頃、突如としてモニターに男の顔が映し出される。その顔は怒りで満たされていた。

「ガキ共よぉ、俺の船を返せ!俺の船を好き勝手に乗り回しやがって!この泥棒ネズミ共が、俺のウィル・O・ザウィスプを今すぐ返せぇ!」

そう叫ぶのは、以前の彼らの上司であった、マルバ・アーケイその人だった。




ノエルは宇宙基地の廊下を歩いていた。体には既に包帯は無く、歩く姿はきっちりとした、快いものだった。目的地はすぐそこ――マクギリスの執務室であった。しかしそこからはマクギリスのものでは無い、凛々しい声が響いていた。
「監査官殿、お願いがあります」
「何だ」
「自分が不甲斐ないばかりに、上官を続けざまに失いました。このまま火星での勤務には戻れません。願わくば、追撃部隊の一員に加えて頂きたく!どうかお願い申し上げます!」
そのアインの言葉にマクギリスは優しく「気持ちは分かった、考慮しよう」と、返事をする。
「ありがとうございます!」
「指示は追って出そう。下がりたまえ」
「はっ!」
アインは回れ右をして部屋を出ていく。そしてそれと同じ頃に自動ドアが開く。そこにはノエルが居た。
「これは失礼した。お先にどうぞ」
「ありがとうございます」
ノエルは一歩引き、アインに道を譲る。それに応じてアインは先に通った。
「ああ、一ついいかい?」
「?…何でしょう」
「力が欲しいか?」
「……はい」
そう言って、アインは廊下に出て歩いていった。
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