復讐者と六花とポケモントレーナー   作:白野蒼

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復讐者でポケモントレーナーなとある少女の話です。
何かと独自設定が強いところもありますが少しでも楽しんで頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。

※プロローグだけ三人称一視点小説となっています※



プロローグ

――凄まじい爆発と咆哮がバトルフィールドに響き渡る。

 

三ターンが限定とされるポケモンの巨大化――ダイマックスが解かれた先に戦闘不能状態で倒れていたのは磨き上げられた鋼そのもののように鈍く輝く体を持つごうきんポケモン・ジュラルドンだった。

その結果にフッと体の力を抜き口元を緩めた褐色の肌に鮮やかなオレンジ色のバンダナと目尻が下がったやや緑がかった明るい青の瞳が特徴的なすっきりとした甘いマスクでイケメンと名高い彼が、あーあと言わんばかりに頭の後ろで腕を組んだ。

 

「『オレさま 負けてもサマになるよな。記念に撮影しておくか。』……といきたいところだけどな! 流石にイーブイ一匹に好きなようにされたとあっちゃあそうもいかないだろ。……今回のジムチャレンジで各スタジアムをイーブイのみで突破してるチャレンジャーがいると聞いた時は耳を疑ったが、まさか本当にイーブイ一匹でナックルスタジアムに乗り込んで、このキバナ様にまで勝つとはな。――お前、名前は。」

 

最後の問いかけの瞬間彼の目尻がバトル中のように上がったのを見て、徐にこのバトルの勝者である色違いのイーブイを胸に抱いた首がすっぽりと隠れる程の長さの白髪に夜空を切り取りそのまま嵌め込んだようなミッドナイトブルーの瞳の少女は微かに微笑んだ。

 

「――リツカ。シュートシティのリツカです。ジム戦ありがとうございました、キバナさん。」

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

パチパチと燃え盛る炎にかけられた鍋の中で刻んだきのみを始めとした材料達をことことと煮込ながらお玉でかき混ぜる。

手早くスムーズに、けれども決して溢さないように。

時折り耳朶を打つパチッと爆ぜる火の粉の音をBGMに味付けを施し、ふわりと鍋から嗅ぎ慣れた香りが漂いだせばすぐ側で地面に横たわり寝息を立てていた【彼女】の長い耳が揺れ小さな鼻がひくひくと動きだす。

 

「……――ブ……。イブァ~~イ。」

 

匂いにつられるように瞳を開けぐいーーっと伸びをしながら欠伸をかます【彼女】に、視線は鍋に向けたまま微かに口元を緩めたリツカが話しかける。

 

「おはよう、イブキ。と言ってももう夕ごはんの時間だけど。今日のジム戦も頑張ってくれたし、バッジも八個集まった。そのお祝いで今夜はダイマックスカレーよ。」

 

「イブッ!!!」

 

その言葉に大きくて丸い瞳を輝かせた【イブキ】と呼ばれたイーブイががばりと体を起こし自らのトレーナーに駆け寄った勢いのままに自分の定位置である彼女の左肩へとよじ登った。

 

「イブ、イブ!!」

 

「はいはい。あと少しで完成だからちょっと待ってて。」

 

待ちきれないと言わんばかりにぶんぶんとそのふさふさの尻尾を振るイブキに答えたところでザッと地面を踏む微かな音が耳朶を打ちリツカが小さく息を付く。

 

――何も慌てる事はない。

 

ガラル地方・エンジンシティ及びナックルシティという二つの都市の周囲を取り囲むようにして存在するここ、ワイルドエリアはガラル地方最大の野生ポケモン生息地だ。

さらにその中でも今自分がテントを張っているミロカロ湖・北と呼ばれるこのエリアに生息していて、その身に波導と呼ばれるエネルギーを宿した凛とした佇まいのポケモンと言えば――。

 

「久しぶりね。最近姿を見なかったからてっきり誰かにゲットされたんだと思ってたわ。」

 

「……ワウ。」

 

【……逃げるのは得意なんでな】

 

視線だけ背後に向けて話しかければ鳴き声と共に頭の中に直接響いた冷静さを多分に含んだ落ち着いた【声】にそう、と呟き返す。

はどうポケモンと呼ばれる彼はその名の通り波導を操る事に長けており、人の気持ちを感じ取れるばかりではなく人の言葉を理解できるポケモンだ。

 

(さらに、この個体に限るなら、波導を使ってこんなテレパシー紛いな事も出来るようだけど……。)

 

【いや、私だけでなく他のルカリオもやろうと思えば出来ると思うぞ。】

 

「ッ!!」

 

ふと考えた事にさらりと直接答えられびくっと肩を揺らし咄嗟に体ごと振り返れば目元を鋼に覆われたつり上がった赤い瞳としっかり絡みひくりと彼女の口の端がひきつった。

 

「…………人の心勝手に読まないで下さる? とは言っても、貴方の場合勝手に分かるんだっけ? なら尚の事私みたいな存在は貴方にとってストレスでしょうに、何でわざわざ近付いてくるのかしら。」

 

【……さてな。だが今宵は少し機嫌が良さそうだ。――勝ったのか】

 

「イブ!!」

 

その問いかけに答えたのはイブキの方だった。

力一杯頷くだけでなく、するするとリツカの体から降りると彼へと駆け寄りぴょんぴょんその場で跳ねたり駆け回り全身で勝利の喜びをアピールする彼女に瞳を細めた彼が【流石だな】と労うのを見ながらリツカもまた肩の力を抜くと最後の仕上げとばかりに鍋を一度だけくるりとかき回す。

 

「ええ。ガラル地方のトップジムリーダーであり他地方ならばチャンピオンになれると言われる程の腕前であるキバナさんに勝ち、最後のバッジであるドラゴンバッジも手に入れた。だから今夜はその祝賀会って訳。さ、出来たわよ。貴方も食べていくでしょ、ルカリオ。」

 

「……ワウ。」

 

こてんと首を傾けた普段は愛想笑い以外の表情をあまり浮かべない彼女の顔には珍しく十代半ばの少女の笑顔が浮かんでいるのが見えてルカリオは軽く肩を竦めると、小さく頷いた。

 

 

 

 

リツカとルカリオの出会いは数日前。

 

なんて事はない、今年もまた行われたガラル地方最大のポケモンの祭典であるジムチャレンジに参加しているリツカがルカリオの縄張りとなっているここでキャンプを始めたのがきっかけだった。

 

「ゲット? しないわよ、貴方だけでなく誰も。ただ私はここでキャンプがしたかっただけ。だから貴方が私やイブキに手を出さない限り、こちらから貴方に危害を加えることはないと誓うわ。」

 

すわ自分をゲットしにきた輩かと警戒心丸出しなルカリオに対してリツカは肩に乗せたイーブイに視線を向けあっさりとそれだけ言い放ったのだ。

その言葉に虚を付かれたルカリオだったがふと視線があった事で波導を通して伝わってきた感情に思わず目を見開いた。

 

――彼女の心を埋め尽くす感情、それはどこまでも果てがない程の深い『絶望』だった。

 

【……お前は一体何だ! 何故そんなものを抱えて平然としていられる!!】

 

全てを闇に覆い尽くされ、一切の音も一筋の光も届かない深海のようなそれに全身が怖気だち、ともすれば自らさえ吸い込まれてしまいそうな感覚を咄嗟に後ろに跳躍する事で振り払いがなる彼にパチパチと瞳を瞬かせた少女がああ、と何か納得したように頷いた。

 

「成る程。ルカリオは波導と呼ばれる力を使うポケモン。やり方次第ではそういう事も可能なのね。……その答えは簡単よ。私にはこのイーブイ――イブキがいてくれる。パートナーがいるってのはそれだけで力になるものなの。それに、私には『やるべき事』がある。それが終わるまでは絶望に身を任せる事なんてできない。」

 

【『やるべき事』? 】

 

「――ええ。」

 

そう頷いた彼女の瞳の中にゆらりと揺らめく炎が見えた気がして鼻に皺を寄せるルカリオにいいわ、と彼女が息を付いた。

 

「こんな警戒されっぱなしじゃおちおちキャンプも出来やしないし貴方口固そうだからね。私の事情少しだけ話して上げる。で、それにさしあたって今から最近ガラルで流行りつつあるカレーライスってのを作るんだけど。一緒に食べましょ、ルカリオ。」

 

 

 

 

「あ、そうそうルカリオ。私明日の朝の飛行機でガラルを発つ事にしたわ。バッジが集まった以上、ガラルに滞在し続ける意味もないし。今まで場所を貸してくれてありがとうね。」

 

【……そうか。】

 

祝賀会は滞りなく平穏無事に終わりを告げた。

 

腕によりをかけたという彼女のダイマックスカレーは今までで最高の出来でリツカやルカリオは勿論、この中で一番感情表現が豊かなイブキは大興奮でカレーライスの山を食べ尽くし、後片付けか済んだ今では、薪の近くで満足気に寝息を立てている。

そのすぐ隣に腰を下ろしイブキの背を撫でながら話せば常に冷静な【声】がさらに続けた。

 

【ここいらを通るトレーナーの話を聞いた限りでは、ジムバッジを八個集め、同じ条件のトレーナーと競うチャンピオンカップを制する事で漸くこの地のチャンピオンの地位をかけて行われるファイナルトーナメントに辿り付くそうだな。それならばむしろ、バッジ八個はスタートラインのようにも思えるが?】

 

淡々と話すルカリオに一つ笑いリツカはいいのよ、と軽く肩を竦めた。

 

「確かに貴方の言うようにガラル地方においてバッジ八個はスタートライン。今日のジム戦の後キバナさんにも言われたわ。『バッジを揃えた以上、チャンピオンのダンデに挑むためトーナメントに勝ち上がれ。』って。『オレ達のリベンジのためにもな』ってね。でも、チャンピオンカップのバトル形式は5vs5って決まってるし、流石にイ一ブイ一匹挑戦するって言ったらその時点で失格になりそうだわ。それに。そもそも私の目的はそこじゃない。」

 

薄く笑いながら言い切り夜空を仰いだリツカの瞳の奥に出会った頃から決して消えないほの暗い炎がごうごうと音を立て燃えているのがまた見えたようでルカリオは一つ息を付くと、リツカが食事の後にいつも出してくれるパイルジュースが注がれたマグカップへと視線を落とす。

 

【…………復讐、か。】

 

そのまま微かにゆれるそれを一口飲めば少し辛みがある甘酸っぱい味が口一杯に広がり瞳を細める。

 

あの時、瞳に燃え盛る真っ黒な炎を宿して彼女はそう口にした。

 

『唯一の肉親であった姉の命を奪った犯人を探しだし復讐する事こそが己のやるべき事なのだ』と。

 

そしてそのためにポケモントレーナーをしているのだ、と。

 

「……ええ。私の姉は、かつてシュートシティに居を構えていたガラルでは名の知れたポケモンドクターだった。姉が殺害された現場では、姉の手持ちのポケモン達もまたモンスターボールから出された上で人の手によってその命を絶たれていた。……中には姉を守って犯人の凶刃に倒れたポケモンもいるみたい。……ジュンサーさんが言ってたわ。反撃される可能性の方が高いのに、わざわざモンスターボールからポケモンを出したのは何かのポケモンを探してたんじゃないか、って。――ならそれは、その前日に姉が私の誕生日プレゼントとしてゲットしてきてくれたイブキ――色違いイーブイのメスである可能性が非常に高い。」

 

空を仰いだまま凛とした声で言い切った彼女の手の中のマグカップがミシッと小さな音を立てる。

 

【だからこそ、イーブイ一匹のみでジム戦か。】

 

「このジムチャレンジはガラル地方全土のみならず世界が注目するポケモンの大祭典。現に連日ガラルではその様子がテレビで放映され、SNSで話題に上がらない日はない。そんな祭典の中、無謀にもイーブイ一匹のみで挑戦して、尚且つ勝ち進んでいるトレーナーなんて良い話題の的よね。しかもそもそも数が少ないメスのイーブイの色違いがパートナーだとしたら尚更の事。私がシュートシティ出身だって事はSNSにおいては当たり前のように知られてるし、姉を手にかけた奴がまだガラルにいるなら気が付くでしょうね。私が彼女の妹だと――。」

 

そこで言葉を区切りうっそりと笑う少女の横顔をただ見つめていた口を開こうとした瞬間、ざわっとその場を吹き抜けた一陣の風にルカリオはハッと目を見開いた。

 

――誰かがくる!!

 

「――ワウ!!」

 

はどうポケモンだからこそ分かってからの判断は早かった。

地を蹴りリツカとイーブイを背に庇うよう彼女達の前方に立つと青く輝く波導で出来た骨型の棍棒を自らの手の中に作り出し構え、前方の闇を睨み付ける。

 

「イブ!」

 

そしてすぐ横から聞こえた声に己のわざ【ボーンラッシュ】を発動したルカリオが視線だけそちらに向ければそこには、さっきまで気持ち良さそうに眠っていた筈なのに今や戦闘態勢で同じように前方を睨むイーブイの姿があり僅かに口の端を吊り上げた。

 

「……イブキ。ルカリオ。」

 

そんな二匹の様子に何か感じ取ったのか声を潜めて身を屈めたリツカをポケモン二匹が同時に肩越しに振り返る。

 

「イブッ……!」

 

「ワウ!」

 

【リツカ、イーブイを連れてすぐ逃げれるようにしておけ。――誰か来る。】

 

「……ッ誰かって……。」

 

【分からん。だがポケモンではないだろう。草むらはともかくもここの辺りが私の縄張りだとポケモン達は知っている。こんな時間にむやみやたらと縄張りを侵してくる奴などいないだろう。】

 

前方に注意を払ったまま話しかけてくるルカリオに分かったと頷きリツカが足元に置きっぱなしにしていたリュックサックを手に取った。

残念ながら状況に応じてはテントやキャンプ用品は置いて行くしかないだろう。

折角手に入れたロトム自転車を失うのはつらかったが背に腹は代えられない。

幸か不幸かワイルドエリアではトレーナーによる落とし物が非常に多い。

放置したまま誰も取りに来なければこれもそう判断してもらえるとリツカは踏んでいた。

 

だからこそほぼ毎晩ワイルドエリアで寝泊まりしているのだ。

 

あとは……。

 

「ルカリオ。こんな事を貴方に頼むのは間違ってるのは重々承知の上よ。でもお願い。今から来る人物が私の望んだものじゃない場合、ここから逃げる手助けをしてくれる?」

 

「……ワウ。」

 

静かだが真剣な声音のリツカに真っ直ぐ見つめられたルカリオが、少しの沈黙の後しっかりと頷いた。

多少手荒くなるがいいな、と波導を通じて伝わってきた問いにリツカもまた頷き返した瞬間、ザッと地を踏みしめる音が響き渡る。

 

そして。

 

「よお、リツカ。また会ったな。」

 

「…………え。」

 

不意に耳朶を打った今日聞いたばかりの『彼】の声に呆然と呟いたリツカに答えるように薪の火がギリギリ届く位置へと姿を現したのは、数時間前バトルをしたばかりのナックルジムジムリーダー・キバナと。

キバナに負けず劣らずの高身長に剣と盾をモチーフにしたデザインが描かれた専用ユニフォームの上からでも分かるほど、綺麗に筋肉が付き引き締まった体格の金の瞳と顎髭が特徴的な精悍な顔立ちの青年――ガラル地方で知らぬ者はいない程の知名度を誇るチャンピオン・ダンデがその菫色の髪を風に靡かせて立っていた。

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