復讐者と六花とポケモントレーナー   作:白野蒼

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一気に二話連続投稿です。
ここから一人称一視点の小説となっております。

それでは少しでも楽しんで頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。


プロローグ②

ざあああああ、と風が周囲の草むらを音を立てて揺らす。

パチン、と風に煽られ一瞬大きくなった薪から木が爆ぜる音がやけに耳に残り、無意識のうちに半歩だけ後ずさる私――リツカ――を目の前にいるキバナさんもチャンピオンも特に何を言うことなく見つめている。

 

「……あの、キバナさん。わたしに何か御用ですか? あと、チャンピオンは何故ここに……。」

 

その金と明るい青の瞳がどうにも居心地悪く、警戒は怠らずに愛想笑いを顔に張り付けて改めて口を開くとすぅっと瞳を細めたキバナさんがその八重歯が目立つ口元を三日月状に歪め口を開いた。

 

「用って言う程のものはないな。ただ、さっき運営からジムチャレンジにおいて何かと注目されている色違いのイーブイをパートナーにしている白髪のトレーナーが急遽チャンピオンカップを辞退したって連絡が入ってな。初めは何かの間違いかと思ったが確認してみたら本当に辞退してやがる上にSNSでお前がワイルドエリアで呑気にキャンプしてるって情報が入ってな。それでこれはどういう事だとオレさま直々に問いただしにきたという訳だ。言ったよな? 『チャンピオン・ダンデに挑むため、トーナメントに勝ち上がるんだ。いや勝たねばならない。オレたちのリベンジのためにもな』と。忘れたとは言わせないぜ、リツカ。」

 

「ヒェ。」

 

リベンジの四文字を強調しにこーっと音が聞こえそうな人好きのする笑顔を浮かべているにも関わらず、とんでもない威圧感を放っているキバナさんに思わず漏れかけた声を飲み込み、少し逡巡した後いや、その……と視線を泳がせる。

 

「運営にはすでに理由を話して了承を得ていますし、問い合わせて頂いたなら聞いてると思いますが、チャンピオンカップを辞退した理由は私の手持ちがこのイーブイしかいないからです。チャンピオンカップはここまで共に凌ぎを削り、八個のバッジを手に入れたトレーナー達との真剣勝負の場。皆自分のパートナー達の中で最高の五体を選出して挑んでくるでしょう。そんな場にいくらバッジはあったとしてもたった一匹しか手持ちがない私が入っていくのはここまで頑張ってきたトレーナー達を侮辱する行為ではないかと今さらながら考えまして。」

 

二人から少し視線を逸らしすみません、と申し訳なさ全開で眉を下げ謝ればキバナさんの表情がどこか納得がいっていないような憮然としたものに変わっていく。

 

「いや、それが理由なら本当に今更だろ。ここまでずっとイーブイ一匹でオレさま達ジムリーダーを圧倒してきて、何言ってんだ。」

 

「……その、ジムリーダーの方々にはこちらがイーブイ一匹では駄目だと言われて来なかったので……。本当はどなたかに拒否された時点でジムチャレンジをリタイアする予定だったんです。特にナックルスタジアムはダブルバトルだと言われて、それなら絶対無理だろうと思ってたらあっさりOKを出して頂けたので……。」

 

「……キバナ。」

 

「え、オレ様が悪いの?! だってネズまでのジムリーダーイーブイ一匹で圧勝してんだぞ!? バトルしたくなるに決まってんだろ! リツカがナックルに来るまでマジでイーブイ一匹しか手持ちにいないなんて考えもしてなかったからな!」

 

さらに言葉を濁しながらも答えた内容にチャンピオンがキバナさんを半眼で見遣れば、そのまま言い訳を始めた彼にあはは、と苦笑しながらも自分の前にいるルカリオと視線が合うと小さく頷いた。

 

……何だろう、何か変だ。

 

キバナさんもチャンピオンもにこやかにしているし、自分の辞退がキバナさんが直々に訳を聞きにくる必要がある程重大な事だとは思えないけど、彼の話はまだ何となく筋が通っている気がする。

 

つまり彼は私へのリベンジの道が絶たれた事を知り、それに納得がいってないのだろう。

しかもそのリベンジ相手が数時間前に「頑張ります。」等とほざいていたなら尚の事。

 

ただそれで何でチャンピオンといるのか分からないし、何よりも。

 

ポケモン達が一切の警戒を解いてない。

 

自らのパートナーがむやみやたらに他人を警戒しないのは勿論の事、ルカリオがどういうポケモンなのか身を持って知っているだけにその事実だけで目の前にいる二人の言葉を素直に受け取れないのは十分すぎてじりっとまた半歩後ずされば、待ってくれ!とチャンピオンが声をあげた。

 

「…………え。」

 

「すまない、どうやらオレがいる事で君に必要以上の警戒心を抱かせてしまっているようだ。こうして話すのは初めてだから今更ながら自己紹介させてもらうぜ。オレはこのガラル地方のチャンピオン・ダンデだ。改めて、よろしくなリツカ君。オレも君の事は聞いている。面白いジムチャレンジャーがいるとね。君がオレにそのイーブイで挑むという未来を自ら放棄してしまった事は残念だが、安心して欲しい、オレとキバナがここで出会ったのは単なる偶然だ。何せオレはワイルドエリアに来るつもりは毛頭なかったんだからな!」

 

「……え?」

 

「このチャンピオンな、どうやらアラベスクタウンのジムリーダーに呼び出されて向かっていて気が付いたらワイルドエリアにいたんだと。」

 

「……え、アラベスクタウンとワイルドエリアってだいぶ方向違いますけど……。」

 

あっけらかんと言い放ったチャンピオン……ダンデさんとそれに呆れたような表情を浮かべながら補足説明するキバナさんに思わず突っ込みながら、そう言えば一見何でも滞りなく出来るように見えるチャンピオンだが、ただ一つだけ。

極度の方向音痴であるのが欠点だと聞いた事があると思い出し、ああ成る程と少し納得する。

 

「と言うかそれなら早くアラベスクタウンに向かった方がいいんじゃないですか? キバナさんさんが付いていれば大丈夫でしょうし。」

 

「何でオレさまがダンデを送っていくのが前提なんだよ。それにオレの話はまだ終わってないぞ、リツカ。」

 

ならばこれ幸いにと言外にもう話す事はないと伝えるも簡単にそれを却下したキバナさんに一つ息を付いた。

 

「まだ何か? 先程も言いましたけど今回の辞退は申し訳ないと思ってますが――。」

 

「……お前の手持ち、本当にイーブイだけなのか。」

 

「……どういう事ですか?」

 

少しうんざりした気分になりつつもここで変に拒絶等してこのトップジムリーダーとチャンピオンを敵に回すような事は得策じゃないと結論付けて渋々応えれば、口元には笑みを浮かべながらもバトル時同様に目尻が少しつり上がった彼の瞳に眉を寄せ、動揺を悟らせないように自然な動作で軽く拳を握る。

 

「キバナ?」

 

「……いや特に確証がある訳じゃないが、リツカにはイーブイの他にもそのルカリオのように頼もしい仲間がいるように思えてな。――自分を囮にして誰かに『復讐』しようとしてる奴が、何の準備も対策してない訳ないだろ。」

 

「ッ!!!!」

 

「ブイ!!」

 

【逃げろ!!!】

 

すぅっと細められた明るい青の瞳に告げられたそれに自分の喉がひゅっと息を飲みこんだ。

思わず目を見開き、心臓がどくんと嫌な音を立てて大きく鳴り響くのと飛び上がったイブキが自らのわざ≪スピードスター≫を発動させ星形の光線をチャンピオンとキバナさんの足元に発射したのはほぼ同時。

地面に着弾しもうもうと上がる土煙の中、頭の中に直接響いたルカリオの鋭い声にハッと我に返る。

 

「――イブキ!!!!」

 

「イブ!」

 

ぎりっと唇を噛みしめ自らのパートナーの名を呼び、ルカリオの鋼に覆われた手を掴むと地を蹴りダッとこのエリアの終着点である崖の先端に向かって地を蹴り全力で走りだす。

 

【ッ、リツカ!? まて、あいつらの足止めをしなければ!】

 

「それはそうだけど! 本気のあの二人を相手取るのは分が悪すぎるわ! それに私の事がバレた以上、貴方を一人ここに置いていけるわけないでしょ!? 私達と一緒に来て、ルカリオ!」

 

「イブ!」

 

前方を見据えたまま叫んだ私とイブキに一瞬大きく目を見開いたルカリオがすぐに気持ちを切り替えるように頷くのを肩越しに見て小さく微笑むと自らが履いているスカートのポケットから一つのモンスターボールを取り出し、祈るように瞳を閉じる。

 

――お願い。

 

「力を貸して! ラティオス!!」

 

そのまま彼の名を叫びモンスターボールを宙に向かって放り投げるとぱかりと開いたモンスターボールから飛び出してきたのは、イブキ同様私の大切なパートナーの一人である青と白を基調とした戦闘機のようなシルエットのポケモン――むげんポケモン・ラティオスだった。

 

「フォン!!」

 

気合い十分な鳴き声をあげたラティオスに一つ微笑みながら走る耳に「ラティオスだって!?」と驚くダンデさんの声が届き視線だけ背後に向ければイブキのスピードスターが多少の足止めにはなったもののそれでも思ったよりも近い距離に二人の姿があり小さく舌を打つ。

 

「……っ、そりゃそうか。あの二人と私じゃタッパが違いすぎる。なら……――! ラティオス!! イブキとルカリオを乗せて先に行って! 私もすぐに追い付くから!」

 

「フォン!」

 

「イブ!?」

 

「ワウ!!?」

 

そこで一端思考を区切り鋭く叫ぶと一つ頷いたラティオスが≪サイコキネシス≫を発動させた。

突然の事に抵抗する間も何もなく体が浮き上がりラティオスの背に乗せられたイブキとルカリオが焦ったような声を上げたが今は聞いている余裕なんてない。

 

後で怒られるだろうなあと頭のどこかで呑気に考えながらもう一度「行って!」と叫ぶと同時にそのまま上空へ飛び立ったラティオスにほっと息を付いた。

 

あっちはあれでいい。

 

後は……!

 

そのまま踏み出した足に力を入れ体に急ブレーキをかけた。

殺しきれない勢いそのままに体を半回転させ崖に背を向ける形で立ち止まる。

あと半歩でも後ろに下がれば間違いなく落下するだろう足元の崖の土がぱらぱらと崩れたのを感じ瞳を細め、顔をあげると二メートル程離れたところで立っているダンデさんとキバナさんに向き合った。

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