少年は悲しくなった。その少女に嫌いだと言われたから。
少年は成長した。その友達の数は、千人になった。
少年は仮面ライダーになった。
久・方・部・活
宇宙京都大学。東京キャンパスにはプレハブの研究室が幾つも設けられている。その研究室の一室を任された一人の少年がいた。
「先生。本当にいいんですか?」
「んー。いいよ。君の書いた論文は興味深いし、コズミック・エナジーをマテリアライズ化する技術。それを完璧なものにするのは私も見てみたいしね」
そういうのは少年のゼミの担当教授であり、宇宙物理学を教える風鳥幸乃だ。彼女は少年ー歌星賢吾を見てニンマリ笑った。人懐こい笑みだ。
「ありがとうございます!」
そう言うと賢吾は与えられた研究室に入って行った。
「さてと……主亡くした蛇使いはどう出ますかね……オフューカス……」
そう言った幸乃の手には青いスイッチが握られていた。
宇宙。無限のコズミックエナジーを秘めた、神秘の世界。若者たちは、アストロスイッチでその扉を再び開き、未来を創る。Space on your hand。もう一度、その手で、宇宙を掴め!
一ヶ月後
歌星賢吾は与えられた研究室でパソコンに入力していた。その彼の脇では半透明のボディを持ったドライバーがケーブルに繋がられた状態で置かれていた。ドライバーの中央のディスプレイには『During the adjustment』と表示されていた。
「再調整というのもいいもんだ。一気に問題になっていた部分が治せる」
そう言いながら彼はケーブルをパソコンに繋ぐ。そして、それまで入力していたデーターをドライバーへ転送する。その様子を見ていると、研究室のドアが開いた。そこにはリーゼントにサマージャケット。ジーパンを穿いた、不良と呼ばれる部類の人間。歌星賢吾の親友にして、研究の助力者、如月弦太朗だ。
「賢吾、フォーゼドライバーの調整はどうだ?」
「大方な。ただ、君の生体データーを入力してない……からな。現状としては今までと変わらない……と思う」
「そっか。しっかし、仮面ライダー部の部室より狭いけど、よくこんな立派な研究室借りれたよな」
そう言って弦太朗は研究室をグルリと見渡す。かつて、月にあったラビットハッチを思い出していたのだろう。弦太朗の目は遠くを写していた。
「賢吾、ここ部室に出来ねぇかな」
そう訊ねてくる弦太朗に賢吾は少し咎める口調で答えた。
「無理に決まってる。研究室は部外者の立ち入りを禁じられてるんだ」
「そっか。悪いな」
弦太朗は頭の後ろをかきながら謝った。
「それより、新しいバイト先見つかったのか?」
賢吾がからかうように問いかけると、弦太朗は深々とため息を付くと椅子の背に置いた腕に、顎を乗せた。
「それがよぉ、どこも雇ってくれねぇんだよな。やっぱ、この頭だからか?」
そう言ってトレードマークのリーゼントを指を指す弦太朗。賢吾は笑いながらも、目と腕はモニターとテンキーを見、動かしながら言った。
「君のトレードマークは確かに、この世の中じゃあ雇ってくれないかもな。髪型普通に戻せ弦太朗。大体、お前は顔は整ってるのに、その髪型のせいで第一印象最悪に見えるぞ」
弦太朗は、だよなー、と呟きながら手元のスイッチをいじっていた。
「わかってるんだけどよ。その……この髪型じゃないとなんか……気合が入らないんだよな」
賢吾はふふっ、と笑いを零した。
「だが、バイトする必要ないんじゃないか?吾郎さんと君の両親が君が食っていけるだけのお金を残しておいてくれているんだから」
弦太朗の両親は弦太朗が幼い頃に亡くなってしまった。それ以来、弦太朗は祖父である吾郎によって育てられた。サーキットメカニックとして有名な祖父は老いてなお、お呼びがかかれば世界のどこにでもマシンのチューニングに出る。そのため、祖父の貯蓄学はとてつもない。また、両親も税理士や弁護士だったらしく、その遺産は弦太朗曰く「……すげぇ。テレビでしか見たことねぇ」と言うほどだったとか。
まぁ、ともかくとして、大学の授業も特別奨学金で授業を受けているため、授業料を払う必要がない。実質、毎日の昼食分のお金と年度ごとの教科書代やらを払うだけなので、バイトをしなくてもいいのだが、弦太朗はそれを良しとしなかったのだ。何故なら……
「なんか、それじゃ他人の力を借りて生きてるような気がしてよぉ。なんつーか……自分で何かしてるって、感じがしないんだよなぁ。だからよ、少しでもいいから、自分で働きたいんだ」
そう言った弦太朗は人懐こい笑顔を浮かべた。それを聞いた賢吾は、そうか、と静かに呟く。そして、ゆっくりと尋ねた。
「バイトの面接は?」
そう訊ねると、弦太朗は、後一つだけ連絡待ちだ、と言った後に、がっかりとした口調で答えた。
「他は全部落ちた」
賢吾は、笑いとため息をつきながら、一枚の紙を取り、弦太朗に渡した。
「なんだこれ?けん……きゅう……きょうりょく…」
「研究協力者募集中だ。一応、コズミック・エナジーの分野に関しては研究があまりなされてない未知の分野に近い。だから概ねを理解してるものが少ない。だから、研究者とその協力者には給付金が与えられるんだ。もし、いま連絡待ちのバイトが落ちたら、俺か風鳥先生に連絡しろ。フォーゼドライバーの運用とアストロスイッチのテスターという形で雇ってやる。やるか、やらないかは君が決めろ」
弦太朗は受け取ったポケットへしまうと、賢吾に頭を下げた。
「悪いな。賢吾。考えとく!」
「ああ。まぁ、君以外にフォーゼシステムを扱える物もいないだろうから、返事は早めに出してくれよ!」
「おう!」
賢吾は弦太朗の返事を聞くと、安心したような笑みを浮かべて、作業に戻った。その直後、弦太朗は驚いたような大声を上げた。
「うおっ!やっべ!祐理姉ちゃんからだ!賢吾、バイトのこと後で詳しく教えてくれ!じゃあな!」
そう言うと弦太朗は嵐のように去って行った。賢吾は苦笑を浮かべながらも、弦太朗が去って行くのを見送った。その横では、今だに眠る彼の
白いボディと流線型になったフロントボディと後方についた垂直尾翼、右翼、左翼、ブースターのようなパーツが装着されたそれはまるでロケットを思わせるようなデザイン。マシンマッシグラーと呼ばれたそれに乗るは弦太朗だ。彼は確かな運転技術で、信号を無視しながら、制限速度を余裕で超えるスピードで走っていた。
「やべえ!祐理姉ちゃんとの約束忘れてた!」
そう叫びながら弦太朗はマッシグラーを走らせる。すると、その途中でチャラい容姿をした少年と黒いリボンを頭につけた少女を見かける。その二人は彼が所属していた部活の後輩だった。懐かしさに駆られた弦太朗は急いでいることを忘れ、二人に声をかけた。
「お!ジェイクに友子じゃねーか!」
「弦太朗さん!久しぶりっすねー!」
「弦太朗さん、久しぶり」
チャラい方、ジェイクは自分のイニシャルであるJとKを指で表現し、腕を交叉させた独特のポーズを取る。
リボンをつけた少女、野座間友子は笑みを浮かべた。
「なんだ見回りか?」
「うん。宇宙・仮面ライダー部になっても、いつゾディアーツが現れるかわからないですから」
弦太朗が宇宙・仮面ライダー部を引退して、その宇宙・仮面ライダー部の部長になったのが友子だ。最初は少し心配になったこともあったが、今ではすっかり立派な部長を勤めている。
「まぁ、実際それくらいしかやることないッスからね~。友子ちゃん、最近平和過ぎてちょっとだけ物足りな見たいですし。それに、流星さんともうまくいってないみたいなんでたいへー
「ジェイク!」
友子がジェイクの名前を叫んだ。その体からは、漆黒のオーラがあふれ出ていた。スピリチュアルを信じない人にも思わず震え上がってしまうほどに。
友子は怒った口調で呟いた。
「確かに……部長になって街が平和なのは……ちょっとやりがいがないけど……それ以上に流星さんがあんなに女の人に好かれるとは思わなかった……あのすけこまし!!!」
友子のオーラがさらに濃くなる。
ジェイクは空気を変えるべく、弦太朗に別の話題を話す。
「げ、弦太朗さん、そういえば蘭が最近戦ってないから、手合わせしたいって言ってたっすけど、どうします?」
「そういえば、フォーゼドライバー2完成したんだったな」
弦太朗が卒業する、三ヶ月前。仮面ライダー部では急遽、フォーゼドライバーの2号機を作ろうという話が持ち上がっていた。
もともと、フォーゼドライバーは誰がつけても問題なく変身できたのだが、長期にわたる弦太朗の個人運用の影響か、スイッチなどを扱う際、ドライバー側が完全に弦太朗個人が扱うことを認識してしまった為、ほかの人が扱うことが出来なくなってしまった。そこで、賢吾の独自のコネとルートを使い、フォーゼドライバーに必要な素材を取り寄せ、フォーゼドライバーの無駄だったシステムを幾つか取り除いて完成させたものが、フォーゼドライバー2号機となった。その所有者は、2年生の黒木蘭となっているという。
閑話休題
「おう!いいぜ!賢吾には俺が話しとくぜ。まぁ今すぐには出来ねぇけどさ」
ばつの悪そうな表情を浮かべる弦太朗。
その発言に元に戻った友子が疑問を投げかけると同時に首を傾げた。
「あれ?フォーゼドライバーのオリジンは弦太朗さんにパーソナライズされてるんじゃ……」
「いや、なんかよ、賢吾が言うには研究のついでにアップデートもしようって言う話なんだ。それに、賢吾が頑張ったから、研究するところも借りれたしな」
弦太朗の発言に二人がふきだした。余程驚いたようだ。
「研究するところって……ラビット・ハッチ並に凄いところなんすかね?」
「んー、どうだろうな。まぁ、細かいことはわかんねぇや」
そう言って弦太朗は人懐こい笑みを浮かべた。その弦太朗の変わらない様子に二人は顔を見合わせて笑った。すると、再び後ろから声が聞こえてきた。
「弦太朗さーん!」
「まっ……まって、ハル!……ッゴホッゴォッ!にきろいじょう、はなれてるのに……ゴホッ!早い……早すぎるよ……」
物凄いスピードでやってきたのは二年生の黒木蘭。トレードマークのポニーテールが揺れている。その後ろを満身創痍の身体でヨロヨロと歩いてくるのは、草尾ハルである。弦太朗は彼を心配し、駆け寄ろうとするが、その肩をジェイクが掴んだ。
「弦太朗さん、大丈夫っすよ」
「ハルは自分から、蘭に鍛えて貰っていたんです。ゾディアーツや怪人にいつ襲われてもいいように。それで、ああやって蘭のペースに合わせて走ってるんですよ」
それを聞いて弦太朗は関心した。かつてはゾディアーツスイッチに魅入られ、そのスイッチを押してしまった彼が、自分自身を強くしようとしていると思うと、弦太朗は嬉しくなって叫んだ。
「うおおおおおっ!すげぇじゃねぇか!ハル!」
「あ……ありがとうございます……げ、げんたろうさん……と、ところで、のみ……げほっ…ものありません?……」
弦太朗は大学で使っているバックの中に飲んでないポカリがあったことを思い出し、それをハルに渡した。
「ほれ。にしても大丈夫か?」
弦太朗がハルの元にポカリを渡しに行こうとするの、蘭がその前にいきなり現れた。
「弦太朗さん。お久しぶりです」
「おお、おう!久しぶりだな。蘭。元気だったか?」
「はい!元気ですよ。仮面ライダーとしても頑張ってます!」
そう言って彼女はポーチの中から、朱色のドライバーを取り出した。それを見て弦太朗は蘭の頭を撫でた。
「フォーゼとして頑張ってんだな。ありがとな」
蘭は嬉しそうに笑った。その顔は幾分か赤いようだ。それを見てジェイクは、いいもんみた、と言わんばかりに不敵に笑い、友子は口角を微妙に上げた。そしてハルは……
「あの……のみも……の……」
蘭のハイペース・ランについて行くことが必死だった彼は、ここでついに力尽きてしまったようだった。……蘭のハイペース・ラン。これ如何に……
一行は話しながら歩き出した。気づけば弦太朗の家にも近い場所だ。
弦太朗が提案するように口を開いた。
「ここで話すのも難だからよ。俺の家来ないか?」
弦太朗が宇宙仮面ライダー部の面々を家に誘う。すると、猪一番に返事をしたのは蘭だった。
「はい。ちょっと興味あります。でも、いいんですか?」
「何がだ?」
「家にこんなに上げて」
そう言われるとそうだ。四人いる。恐らく誘えば弦太朗の先輩二人も来るだろう。弦太朗は考えたが、言ってしまった手前、無理と言うわけにもいかない。
「うち今、吾郎爺もいないからな。まぁ、大丈夫だろ」
そう言うと弦太朗は携帯を取り出して、賢吾に連絡を取ろうとする。だが、怒声が響き渡る。
「コラァ弦太朗!あんたって子はぁっ!女の人をこの炎天下の中に放っておいて!」
「げえっ!祐理姉ちゃん!やっべ、忘れてた!」
祐理と読んだ女性は般若の形相で弦太朗に近寄ると、弦太朗の頭を拳骨で殴る。
ゴツィンッ!
と言う音が辺りに響き渡ると、弦太朗は仰向けにひっくり返る。拳骨の威力に誰もが息を呑んだ。
「全く。まーた、不良みたいな格好して。お爺ちゃんは許しても、私は許さないんだからね!」
祐理は弦太朗の髪型をまともなストレートヘアに整える。すると、弦太朗は一瞬でイケメンへと姿を変えた。
「よし。これでいいわね。ってあら?あなたたちは弦太朗のお友達かしら?」
祐理に尋ねられ、友子達は無言でブンブンと頷いた。それを見て祐理は一瞬で怖がっていると感じ取ったのか、柔和な笑みを浮かべた。
「やぁねえ。そんなすぐに男の人に拳を上げる女じゃないわよ。弦太朗が何回言っても聞かないのと、約束をすっぽかしたのを怒って、拳骨したのよ」
そう言うと祐理は弦太朗を背負った。
「さて……弦太朗もすみに置けないわね。こんな可愛い子が二人もいるんですもの」
可愛いと言われて、顔を紅くする蘭。そして、謎のオーラを出す友子。ジェイクは一瞬で友子が恥ずかしがっているんだな、と理解した。
「祐理さんは弦太朗さんのお姉さんなんですか?」
蘭が尋ねた。蘭は弦太朗の両親が亡くなっていることを知らない。ジェイクはしまったと思ったが、祐理はコロコロと笑った。
「そうねぇ。私はこの子の従姉妹。でも、本当の弟のように思ってるわよ。だって、家族だもの」
そう言った祐理の目は悲しげな表情をしていた。蘭はそれを見て頭を下げた。
「すいません!不躾な質問をしてしまって」
「いいのよ。事実だもの」
祐理は蘭の頭を撫でた。そして、元気そうな表情でにっこり笑うと、さてと、と元気良く言葉を発した。
「弦太朗とご飯の約束してたわよね。私もご一緒していいかしら?」
そう訪ねると、友子はゆっくり頷いた。祐理は、ありがとと言うと、弦太朗をジェイクに託した。
「私は家に言って準備してるわ。弦太朗に友達沢山連れてくるように伝えておいて」
そう言うと祐理は去っていった。暫く祐理を見送っていると、横たえられた弦太朗がむくりと起き上がった。
「弦太朗さん、大丈夫っすか?」
「ああ。ジェイク。何とかな。っくそー、祐理姉ちゃんにはかなわねぇぜ」
弦太朗は立ち上がった。同時にリーゼントが崩れていることも気づく。
「姉ちゃんまだ認めてくれねぇのか。ぜってぇ認めさせてやるからな!」
そう言って弦太朗は決意を固めた表情をする。
「あの〜……弦太朗さんですよね?」
「何だハル。人を化け物見るような目で見て」
「いや、そこは幽霊を見るような目で見て……ですけどって、そうじゃなくてですね。弦太朗さんって、リーゼントが無ければ普通にイケメンなんですね」
弦太朗は鏡を取り出して、自分の顔を見た。だが、リーゼントの無い自分はどうもなよなよしているように見えて、締まらないだけだった。
「どーいう意味だ……って、遥先生にも言われたな。リーゼントねぇとなんか締まらなねぇんだよなぁ。なんつーか……ものたりねぇ」
「わ、私は弦太朗さんはその髪型の方が似合ってると思いますよ……はい」
そう言って顔を紅くする蘭。
弦太朗は嬉しいような、嬉しくないような微妙な表情を浮かべると、歩き出した。それに続いてみんなも歩き出した。
如月モーターズは世界でも有名だ。それは単に弦太朗の祖父である、如月吾郎の腕前と言えるだろう。彼の腕前はかつて、レーサー界で名を馳せた、立花レーシングクラブにも認められる程だったと言われている。
さて、木造二階建ての古い木製家屋が弦太朗の実家だ。現在、祖父はアメリカで本郷猛と一文字隼人という人の元にバイクをメンテナンスするために行っているためいない。
「……そのはずなんだけど……」
仮面ライダー部名誉会長である風城美羽は険しい表情をその整った顔に浮かべていた。事前にフードロイドで盗聴していた内容とは異なり、弦太朗の家のキッチンからは料理のいい香りがしていた。考えられることは二つ。
①弦太朗に彼女が出来たか。
②弦太朗が料理を作っているか。
――のどちらか。思考の末に美羽は①を捨てた。何故なら、如月弦太朗という男は多少強引なところもあるが、友情や絆、人の心の機微には鋭いが、こと恋愛感情などを感じ取ることは苦手なのだ。さらに言えば弦太朗の心の中には思い人がいるため、恋をすることは無いとわかっているのだ。
「ふふふ。まぁ、何はともあれ弦太朗が作る料理を一度は食べて見たいものね……」
そう言って美羽はいやらしく笑った。すると、突然声をかけられた。
「あー……そこでもの思いに耽っているお嬢さん」
声をかけられ、振り向くとそこにはソフト帽とジャケットを羽織った、気取った口調とキザな仕草が特徴の男と赤いジャケットを来た目つきのキリッとした男が立っていた。二人ともそれなりに整った面立ちをしているが、美羽は彼らが弦太朗が闘うときに見せる戦士の目をしていることに気づき、その緩んだ表情を一瞬で臨戦態勢に切り替える。
「ほう。この歳で切り替えるのが上手いな。流石はゾディアーツ事件を解決した、仮面ライダー部の初代部長だ」
赤いジャケットの男から仮面ライダー部の名前、そしてゾディアーツの名前が出たことに驚き、身構える。だが、隣にいた男がそれを制す。
「まぁ、落ち着いてくれ。レディ?俺たちはそういうのを相手にしてる、その道のプロだ。名前を聞けばわかると思うぜ」
男は少しだけ間を開けてからその名を呟いた。
「財団Xとかな」
それは弦太朗の大切な人を奪っただけでなく、無数のホロスコープスのレプリカスイッチでライダー部に襲いかかって来た組織だ。当然美羽も名前くらいは知っていた。声を出し、何かを言おうとしたその時、叫び声と共にドタドタと足音が響いた。何事かと思い後ろを振り向くと、そこには猛ダッシュする弦太朗と蘭がいた。
「蘭!勝ったほうが焼肉奢りな!」
「負けませんよ!この日のために、努力したんですからぁああっ!」
一瞬、美羽は目を疑った。蘭はこういうキャラだったか?と。凛々しく、真面目で正義感の強い彼女イメージが一点、今では普通に恋する乙女だ。
「弦太朗さんこそ、私が勝ったら今度の日曜日は買い物に付き合ってもらいますよ!」
「おう!焼肉のためだ!負けねーぞ!」
その光景を美羽はポカーンと眺める。一方彼女の目の前にいる二人。帽子の男は呆れたようなだが、懐かしそうな笑みを浮かべ、片方はやれやれと言ったふうに、ため息をついていた。
「あー……話が途切れたみたいだな。んで、仮面ライダー部の面々と直接話がしたいー」
「会長、まさかとは思いますが、現役の宇宙・仮面ライダー部部長を差し置いて、命令をするわけないですよね?」
「おわっ!どっから出てきた!?」
ぬうっと、帽子の男と美羽の間を割って現れたのは、宇宙仮面ライダー部、部長である、野座間友子その人である。彼女は少し怒っているのか不機嫌そうで、何時もよりオーラが溢れ出ている。その後ろから、ひょっこり友子の子分というか解説者を務めているジェイクが現れる。
「なんか、弦太朗さんと蘭のやりとり見てたら、流星さんを思い出して、自分もああしたいみたいっすよ?」
小声で美羽に耳打ちするジェイク。美羽は、なるほどね、と呟いた。目の前にいる友子は赤いジャケットの男に話の内容を聞いているのか、先程とは違い、真面目な表情へと変わっていた。美羽はこれ幸いとジェイクに蘭の変わりようについて尋ねて見た。
「蘭ってあんな性格だったかしら?」
「いやぁ、会長。よく言うじゃないすか。恋する乙女は人を変えるって」
「なるほどね。なんか女の子らしくなったと思ったけど……」
そう言って、いやらしく笑う美羽。
ジェイクは肩を透かして呟いた。
「周り春は春なのに、なんでおれだけ冬のように枯れてるんすかねぇ」
ジェイクの独り言を聞き、美羽は思わず笑う。確かにそうだ。蘭は弦太朗に、ハルは蘭に、おそらく片思いをしており、友子にも流星がおり、ここにはいない二人もそれぞれ付き合っている。確言う、美羽本人にも恋人はいる。言われてみれば、何にも浮いた話がないのは、一番恰好が浮いている感の出ている、ジェイクだけだった。
「あなたにも、いずれいい人は見つかるわよ」
「会長、その慰めは余計に心が痛くなるッス」
二人はそう言って笑いあった。
はじめまして。作者です。一話は作品に深みをつけるためにあえて、あの2人を登場させました。 仮面ライダー部が動くきっかけが欲しいですし。
では、また二話で!
3月22日再編集しました。
5月26日千葉キャンパスを東京キャンパスにしましたー
5月28日、セリフ一部修正しましたー
8月18日 誤字修正しました
9月9日、ストーリー改変しました。